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憑依奮闘記 第14.5話

 2008-07-05
 理不尽に対する怒りというのは、なんてことない日常の中でさえ往々にして感じうる感情だ。 デスティニーランドで問答無用で襲われたときなんかはその典型。 はっきり言いたい。 声を大にして言いたい。

――勘弁してください、と。

 だが、そんな悲痛な叫びは今日という日には無効である。 そう、俺にも一応プライドというものがあるのである。 普段は結構重要視していないし、割と無視しようと思えば無視できるはずのちっぽけな感情なのだが、それもやはり場合による。 譲れないものと、譲れるものの境界線を土足で踏みにじられたら、やはり俺も人間だ。 さすがにこの暴挙には断固として立ち向わなければならない。 例え数と力の両方で負けていたとしても。
「お、これもう焼けてんじゃねーか。 もーらいっと……はむ」

「ちょ、お前それ俺が確保してた……のぉぉぉ!?」

 目の前で、チビッコの口の中に俺が折角確保していた肉が美味そうに運ばれていった。 嗚呼、ようやく良い感じに焦げ目がつき始めてきたというのに。 なんという暴挙!! 俺は焦げ付くまで焼く派なんだぞ!!

「ふむ、偶にはこういうのも悪くは無いな。 お、主頂くぞ」 

「本当、今日一日お疲れ様って感じですね。 あ、貰いますねクライドさん」

「ああ、秘蔵のカルビが!? タン塩がぁぁ!?」

 目の前で俺が必死に確保していた肉が次々と消えていく。 女三人寄れば姦しいとは言うが、なんだこれ。 喰い放題の焼肉で、何故ひたすらに俺が焼く係りなのだろうか? いや、確かに今日は彼女たちに美味いもんでも驕ってやろうと王様の義務を持ち出しましたよ? だが、これはあんまりじゃあなかろうか。

(あれー? これ怒って良い場面だよな?)

 ひたすらに焼く。 焼いて焼いて、食われていく。 タン塩が、ロースが、カルビが、豚トロが、鳥が、彼女たちに消化されていった。 唯一の救いは、ザフィーラか。 彼だけは自分の領地に鉄壁の守りを敷き、維持しながら黙々と箸を進めていく。  一人我関せずの状態だ。 うむ、多分に自分の領域を守るだけで精一杯なのだろう。 うん、がんばれ。 俺も頑張る。 勝ち目は薄いが。

「ぬぉぉぉぉ、お前ら少しは俺にも食わせろぉぉぉ!!」

 俺は泣いた。 恥も外聞もかなぐり捨てて泣いた。 目の前で美味そうな匂いだけ嗅がされて、ひたすらに焼く係りなど御免である。 ギブミー肉。

 帰りがけだった。 ヴィータに約束どおり山ほどハンバーガーを食わせ、色々な紆余曲折を経て、夕飯に焼肉の食い放題を選んだ。 アーク店長の所でも良かったのだが、あの店は取っておきである。 もっと別のが無いかと探していたところ、発見したのが喰い放題の焼肉屋である。 正直、迷った。 迷ったが、連中の今日の獅子奮迅の活躍を考えれば俺に撤退の文字はなかった。 今日一日は満足してもらおうと、心の底から労おうとしていた。 していたのだが――。

 初めのほうは良かった。 勝手が分からないらしく、俺のやり方を見よう見まねで果敢にアタックしていた。 だが、焼き始めた辺りから焦れてきたのか、自分の取り分を処理し終えた後に次を待ちきれずに俺の領土を侵略し始めたのである。 とりあえず、俺は見ない振りをした。 敢えて労っているのだということでスルーした。 それが、恐らくは俺の敗因。

 それで俺が抵抗しないことに味を占めたのか、ヴィータが問答無用で攻め込んできた。 さらに、そこにシグナムがヴィータに注意しながらも爽やかな笑みを浮かべて便常し、ついにはあのシャマルまでもが参戦した。 彼女の場合は、俺がマジで焼く係に徹してくれているのだと思っている節がある。 ここまで行くと、もう無理だった。 焼けた奴から獲物が次々と無くなっていく。

「いいじゃん。 今日はアタシらを労ってくれるんだろ? 助けてやったんだからこれぐらい我慢しろよな」

「うぐぅ!?」

 お、おのれ的確に俺のウィークポイントを攻めやがって。

「ふむ……そういうことなら私は敵のボスを倒しているし、かなりの労いがあっても不思議ではないな? 無論、シャマルも囚われた貴方の位置を迅速に発見し、ヴィータを突っ込ませているからその功績は計り知れない。 ああ、シャマルも当然その権利はあるでしょう。 ねぇ、主クライド?」

 ニヤリと笑みを浮かべる剣の騎士。 その笑みが『ふふ、今日は私の勝ちですね主』という顔なのがやけにむかつく。

(し、シグナムめ、まだデスティニーランドで魔道書に魔法を書かせてたこと根に持ってやがるな!!)

「う?ん、美味しい。 食後のデザートも楽しみ」

 もはや、言葉は無い。 幸せそうに食事を楽しむ湖の騎士に若干和むものを感じつつ、一行に膨れない腹がぐうぐうと悲鳴を上げてきた。 ヤバイ、飢えてます。 飢えてますよ俺。

「は、ははは。 オーケイ、クールに行こうぜクライド・エイヤル。 こうなったら、奴らが食い尽くすより多く焼くしかあるまい!!」

 ガタッと席を立つと、バイキング方式の肉の群れに突っ込んでいく。

「食われつくす前に焼く!! 焼いて焼いて生き残りを食うしかもはや俺に道はない!!」

 必死だった。 文字道理必死になって肉をかき集めた。 店員が本当にお前それ全部食えるのだろうな? みたいな呆れた顔でこちらを見ていたがそんな視線は無視した。

「お、帰ってきやがった」

「ふふふ、てめぇらの主がどういう奴か腹一杯教えてくれるわ!!」

 網が悲鳴を上げるほどの重量を投下する。 満遍なく網の上に載せられたそれが焼かれていく。 良い感じに焼けたそばからひっくり返し、次々と肉を仕上げていった。

「ふむ、良いペースだ」

「クライドさんやる気満々ですね」

 こうして、ひたすらに焼く俺とひたすらに食べる係の三人という構図が自然と出来上がった。 満足そうな彼女たちとは反対に、焼けば焼く程俺の空腹は満たされない。 だが、今更後には引けなかった。 漢には、やはり引けないときがあるのである。

 その後、時間を半分ほど消化した辺りで連中のペースが落ち、ようやく俺が肉にありつけた頃には皆ダウンしていた。 さすがに喰いすぎだろう。 というより、あんだけ食えば満足だろう。 デザートに手を出し始めた三人を尻目に、黙々と肉を喰らう。

――ようやくありつけた肉の味は涙が出るほど美味かったが、一人ポツンと食べるのは無性に寂しかった。

「主、何か飲み物はいるか?」

「ぐす、お茶頼む」

 マイペースに食事を終えたザフィーラが、自分の分の補給ついでに気を使ってくれた。 やっぱり、お前だけか俺の味方は。

 その後、汗を流そうという女性陣の提案によりスーパー銭湯を強襲する運びとなった。 まあ、今日一杯は彼らに報いる日です。 俺に反対意見はありません。 無いといったら無いのだ。 

「よし、ザフィーラ背中を流してやろう」

「む、かたじけない」

 地味に援護してくれる狼を労う。 今頃は女性陣も背中を流しあっているのだろうか? そのまま身体を洗い終えると俺たちは揃って湯船に向かう。 無論、タオルを湯につけるなどという暴挙はしない。 頭の上に乗せて通を装う。 身体全体に染み入る熱が心地良い。 騒がしかった一日の疲れが全部癒されそうだった。 ついでに俺の荒んだ心を慰めておくれ。

「……それにしても、主は変わっているな」

「んあ?」

「今まで、ここまで守護騎士に扱き使われた主はいないと思うのだ」

「……それは、褒めているのか?」

「どう、なのだろうな。 今日はシグナムもヴィータもシャマルもヤケにはしゃいでいる。 今までこんなことは無かった……」

「つまりは、俺って舐められてる!?」

「いや、というよりはただ単に戸惑いの裏返しではないかな。 普段の様子から考えればシグナムのあの対応は剣の騎士としてはありえん。 だが、主の場合は寧ろそうするのが普通なのではないかと思わせてくる。 そのせいで遠慮とかそういうものが段々無くなってきているように思えるのだ。 これは一重に主の我らに対する扱いが起因しているのだろうな」

「扱い……ねぇ。 なんか不満とかあるか?」

「私は特には無い。 基本的に主の身近にいることを許されているし、待遇も悪いわけではない。  彼女たちがどう思っているかは分からないが、今までに無かったことが多すぎるのもまた確かだ。 そのせいでやはり距離感が狂っているのかもしれんな」

「距離感……ねぇ。 うーん、まあ遠いよりは近い感じがして良いか。 やばいときにはきっちり助けてくれてるし……こっちも特に”不満”は無い」

「そうか……さっきの店では不満がありそうだったが?」

 苦笑しながらザフィーラが言う。 無論、歪んだ口元が少しばかり楽しげである。 存外、彼もあのやり取りを楽しんでいたのだろうか。 ちゃっかりしているなと思わざるを得ない。 まあ、それがザフィーラの立ち位置といえばそれまでなのだが、なんというか羨ましいポジションである。 中心におかれないが故に、のんびりと生暖かい目で楽しめるなんて最高ではないか。 羨ましいぞ、色々と。

「そりゃあなぁ。 やってみたら分かるぜ? 焼いてばっかで食えないのは物凄く腹が減る。 しかも目の前であれだけ美味そうに食われるんだ。 あのまま時間一杯粘られたら、さすがに日頃から温厚に定評があるクライド君でもキレる」

「ふふっ、そしてシグナムとヴィータに返り討ちにあうのだろう?」

「はは、違いない」

 二人してその様を想像して笑った。 そういうお馬鹿な想像がすぐに頭の中で想像できるほど、俺と守護騎士たちの距離は縮まっていたのだろう。 実に楽しい。 このまま何事もなく平和に生きたいと思うほどに。

 だが、正直それがどこまで続けられるのか少しばかり怖くなってもきていた。 デスティニーランドでの一件はそういう平和が簡単に”ぶち壊される”ことを証明してしまっていたのだ。 『古代の叡智』そして杖喰い<デバイスイーター>。 正直な話、もう二度と遭遇したくはない。 だが、どうなんだろうか。 このまま、連中と会わずに一生を終えられるという想像がどうしてもできない。 俺は”生餌”らしいし、また何かの拍子に連中と会うような気がするのだ。 嫌な予感がするとでも言えば良いのか、死亡フラグがなんか一気に現実味を帯びてきた。 最近は俺が闇の書に侵食されないということでもしかして死なずに済むかもなんて思っていたのに、なんなのだこれは。

 それに、極め付きは奴の言葉だ。 奴は俺をあれほど簡単に夜天の王だと見抜いた。 どうにも解せない。 ミーアとキールさんがいたというのに、ピンポイントで俺をそう呼んだことに恐怖さえ感じる。 何か、夜天の書からそういうのが分かるような電波でも放出されているのだろうか?

 やはり、早急に何かしらの方法でパワーアップする必要性を感じる。 だが、それは不可能だ。 どれだけ焦っても、方法が今のところ無い。 確立するために必要な知識と、技術がまだ無いのだから仕方が無い。 できるだけ安全なところでいるようにして当面は凌ぐしかないだろう。 しばらくは頼りない王様を演じるしかないということだな。 それ以前に今は”明確な敵”を倒さなければならないわけだが。

「さて、ちょっとサウナの方へ行ってくるわ。 ザフィーラはどうする?」

「そうだな、私も行こう」

 そうして二人して湯船から出ると、俺たちはあの灼熱空間へと向かっていく。 やはり、この後冷水につかるのが通というものである。 勿論、出た後は全員で各々飲み物を一気飲みした。 俺とザフィーラがコーヒー牛乳。 ヴィータとシャマルがフルーツ牛乳でシグナムは混ざり物は邪道だと言って牛乳を選んだ。 皆一様に満足そうだったのは言うまでも無い。

 ただ、一つだけ問題があったとすればそれはやはりアレのことだろう。 それに気がついたのは寮の部屋に帰り着いて寝る前のことだった。

「し、しまった!! 何か忘れてると思ったらレイハさんをまたしてもスルーしてた!!」

 馬鹿な、俺としたことがなんたる不覚。 色々とごちゃごちゃしていたとはいえ、少なくともスペックを拝むぐらいの暇はあったというのに!!

「つ、次だ。 次こそは冥王様の神器を拝んでやる!!」

 とりあえず、決意を新たに俺はグラムサイトを展開。 ベッドに倒れこみながら自分自身に電撃魔法を叩き込んで不貞寝した。 さすがに、今日はリンディの部屋へ行くのは億劫である。 暖かな布団の抱擁を受けながら、俺は泥のように眠った。


――そしたら何故か、白い魔王に頭を冷やされる夢を見た。










憑依奮闘記
第14.5話
「早起きはお得なのか?」











 寝起きというのは、往々にしてすっきりしない。 寝相が悪いフレスタは毎朝のようにベッドから落下したような不可思議な姿勢で目覚め、最近のクライドは凄まじい眠気と共に起床する。 では、リンディ・ハラオウンの場合はどうだろうか。

「ふわぁぁぁぁぁ」

 口元に手を当てるようにして、上品に欠伸。 見る人が見れば、やはり子供らしい可愛らしさに思わず苦笑することだろう。 そうして、んんっと伸びをしてから彼女は目覚めた。 眠く無いわけではないし、二度寝して惰眠を貪りたいという気持ちが無いわけではない。 だが、それで目醒めた振りをして寝起きのハムスターよろしくノロノロと立ち上がる。 そうして、ゆっくりとキッチンスペースに向かうとポットから湯を注ぎ、お茶を作る。 そうして、寝ぼけながらも大量の砂糖を投下。 さらに今日はなんとなくミルクも注ぎスプーンでかき混ぜた。

 そうして、少しだけ息を吹きかけて熱を冷ますようにする。 やがて、温度を試すようにしながらゆっくりとそれを口に付け、少しずつ飲み始めた。 口に広がるのはやや熱いお茶の芳醇な香りとまろやかな甘味だった。 少し残る苦味と甘さのコラボレーションが実に素晴らしい。 やはり、朝一番のお茶は良いものであった。

「はふぅぅぅ」

 全身に染み渡っていくお茶の熱が、彼女の眠気を吹き飛ばす。 それが、ここ最近の彼女の朝の始まりだった。 それで完全に覚醒した妖精は、さらに駄目押しとばかりにパジャマを脱いで浴室へと向かう。 それで完璧だった。 どのような眠気も初めのお茶で身体の中から叩き出され、シャワーで完全に流されていく。 これがリンディの朝の攻略法である。 

「……今日はちょっと早めに起きましたね。 うーん……折角だから教室に一番乗りしてみましょうか」

 なんということはない、唯の思い付きである。 朝に負ける人間がびっくりするような選択肢を平然と呟きながら、そうしてリンディの一日は始まった。 








 誰もいない教室は、少しばかり怖いと思う。 世界からまるで自分以外の人間がいないような錯覚をすることが、よくあるのだ。 見回りの教師でさえ、まるで異界の生物のように感じてしまうのはそれほど学校という施設が学生にとっての聖域であるからか。

 ガラガラと入り口のドアを開けて中へ入ると目論みどおり誰もいなかった。

「やりました、一番です」

 なんとなくガッツポーズなどとってみる。 いつもなら煩いぐらいクラスメイトがガヤガヤと騒いでいるのに、こうも静かだと微妙に変な気分になってしまう。 ゆっくりと席につき、鞄を横に引っ掛ける。 それで、やることがなくなってしまった。

「……」

 ガランとした教室。 だが、後数十分もすればこの空虚な空間が沢山の学生で満たされる。 自分たちの夢を叶えるために。 自分たちに必要な知識を得るために。 普段はかったるいなどと思っている誰もが、そのときばかりはまるで魔法にかかったかのように同じ空間で同じことを学ぶのだ。 そう考えると、ちょっと可笑しかった。

 普通の日常。 平和な時間。 そんなモノを守るために時空管理局は存在し、そこに勤める魔導師や職員の人たちが毎日毎日次元犯罪者と戦っている。 そうして、その中に自分の両親や祖父がいるのだと考えると、少しばかり理解できるものがあった。 やがて自分もそうなるのだと思うと、尚更である。

 隣の窓を開け放ち、軽く頬杖をついて外の様子をぼんやりと眺める。 すると、ポツポツと人の影が歩いてきていた。 学生や先生たちがやってきているのだ。 見知った顔がいないかと、少しばかり気を張って探す。 と、彼女の隣の席の少年が大欠伸をしながら歩いてきていた。 その足取りは軽い。 ここ最近まるで犯罪者のような眼つきになってきている彼にしては珍しく早い登校だ。 何かあったのだろうか?

「そういえば、昨日はやってきませんでしたね透明人間さん」

 一人と一匹の深夜の巡礼が無かった。 別にそれはそれで構わないのだが、続いていたものがぱったりなくなると妙に気にもなるものだ。 何を企んでいるのか知らないけれど、問題は片付いたということなのだろうか? そういえばこの前校長先生に何やら色々と彼のことを聞かれたことを思い出す。

――クライド・エイヤルという少年、君とはその……なんだね。 親しいのかな?

 割と生徒に関心を向ける校長先生である。 確か、一人一人の生徒の顔と名前を全部覚えているといっていた気がする。 となれば、やはり色々と気になることでもあるのだろう。 親しいほうだと思うと答えると、何故かあの校長先生は少し楽しげにうむうむと頷いていた。 更に、『私は彼の一途さを応援している』とか、よく分からないことを言っていた気がする。 意味は分からなかったので小首を傾げたリンディだったが、何か気にしなくてはならないような気にはなっていた。

(まぁ、あの人はどこか人間としての軸がブレている人ですからね。 また変なことを企んでいるに違いありません)

 女子グループの噂では、彼はこの間何故か校長先生と二人で昼食を共にしていたらしい。 二人して妙にニコやかに会話していたという話だ。 どういう繋がりなのかリンディは首を捻ったが、何か校長先生の興味を引くようなことでもやらかしたのだろうと予想していた。 多分だが、また何かしようとしている可能性は否めない。 何せ、水面下で動いてあまり表に出ようとしないのだクライドは。 そういえば、彼が誰かに頼っているところはあまり見かけない。 頼らずともできるのか、それともできるから何も言わないのか分からないが、そういうところは悪癖であるとリンディは思う。

(ザースさんにしてもフレスタさんにしても、勿論私もですが、手を貸してくれと言われれば貸すでしょうに。 本当、意地っ張りな人だわ)

 今回はさすがに、妙な方々から自分を守るための暗躍ではないだろう。 かなり苦労してそうであるから、きっと自分自身のことなのだろうがそれでも少しも話してくれないのは寂しく思った。

 と、そのときガラガラと教室のドアが開いた。 クライドではない。 さすがに上がってくるとしても速すぎる。 別のクラスメイトの誰かだろう。 軽く挨拶でもしようと思ったリンディが振り向く。 だが、そこにいたのはクラスメイトではなかった。

 金髪の縦ロールを靡かせながら、教室を覗き込むようにして入ってきたのは上級生の少女だった。 制服のネクタイの色が二年の色ではない。 その上級生は見た目かなり秀麗な容姿の少女であり、一つ一つの動きが洗練されていて中々に堂に入っていた。 恐らくはお嬢様か何かだろう。 目当ての人物がいないことを確認すると、少しばかりがっかりしたような顔をして、おもむろにリンディの方へとやってきた。

「ねぇ、少し尋ねたいのだけれど……その……クライド・エイヤルの席はどこかしら?」

「はい? えと、クライドさんの席なら隣のそこですよ」

「そう、どうもありがとう」

 軽く感謝の言葉をリンディに送ると、少女はクライドの席に手紙を入れ去っていく。 その顔が若干紅く染まっているのを発見しながら、リンディは呆然と少女が教室を出て行くまで見送った。

「――あ、え?」

 目を瞬かせ、止まった思考を回復させる。 数秒をかけてようやく再起動を果たしたリンディはそれを理解した瞬間に絶叫した。

「え、えぇぇぇぇ!? ま、まさか、クライドさんにあんな綺麗な人がラブレターですか!?」

 思わず立ち上がってクライドの席に向かい、机に入れられた手紙を見ようとする。 だが、少し迷う。 迷って迷ってやっぱり気になってこっそりと机の中を覗き込む。 やはり手紙だ。 『クライド・エイヤル様へ』と綺麗な文字で書かれている。 間違いない。 これが伝説のラブレターという奴なのだ。 その本物が確かにリンディの目の前に鎮座していた。

「……ゴクリ」

 本当に書く人がいるんだなぁと、若干頬を染めながらそれを観察する。 如何にも女の子が出したであろうことを容易く判断できるようなピンクの花柄がついた便箋。 文字も丸文字で凡そ男が書くような文字でもない。 やはり、どこからどうみても本物だろうことは想像に難くない。

「あ、ありえません 世界が七回崩壊してもあの人にこんなものが届くなんて――」

 そう考えて、しかしリンディは想像をやめない。 いやむしろ上級生だからなのではないかと思った。 同年代ならいざ知らず、上級生であり最終学年である三年生はあまり二年や一年と接点は無い。 そのせいで、クライドの情報は少ないはずである。 そして、そんな中クライドには法外なことをやったという噂が一時期立っていたではないか。 だから、そこから考えればついさっきここにやってきていた少女が何かフィルターのようなものを形成してクライドを見ている可能性は無きにしも非ずだ。

「ま、まさか……私を倒したなんて噂のせいで……ですかこれ?」

 総合Sランクを倒した男。 そういう肩書きが確かに彼にはあるのだ。 だから、クライドをそういう目で見てしまう可能性というのはありえるかもしれない。

「ゆ、夢じゃないようですね」

 若干焦るような気持ちで、リンディは自分の頬っぺたを引っ張ってみた。 白の肌がビヨーンと伸びる。

「やふぁり、いひゃいでしゅ<やっぱり、痛いです>」 

 間違いなくこれは現実だ。 夢でもなんでもない。 純然たる事実なのだ。 何かに打ちのめされたかのように、リンディはその場でまた思考を停止した。

「……リンディ、俺の席で何やってんだ?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 と、いつの間にやらクライドがやってきていた。 自分の机の付近で頬っぺたを可愛らしく引っ張って遊んでいるリンディに何やら呆れるような視線を向けている。

 それに気がついた瞬間、バッと神速で離れるとぎこちなくリンディは自分の席にダイブした。 若干顔が紅いのは単純に恥ずかしいところを見られたからだけでは決して無い。 羞恥心と予想外のアクシデントによって単純に恥ずかしさが倍増しているだけである。 それを見て、クライドが若干眉を顰める。 

「……なんだまた風邪か? 顔赤いし、気をつけた方が良いぞリンディ」

 鞄を机の横に引っ掛けると赤い顔のリンディにそういう。 そうしてクライドは日課の読書を始めた。 クライドが広げるのは月刊デバイスマイスター超特大号である。 そこにいるのはいつものクライドであり、間違ってもラブレターを貰うような少年のカッコ良さとかそういうのは微塵も感じられない。 どこかマニアっぽくて、眼つきの若干悪い少年にしか見えないだろう。 リンディはそんなクライドのいつもの様子をチラチラと横目にしながらため息をつく。 やはり、あの上級生は何かとんでもないフィルターでクライドを見ているに違いない。 絶対にそうである。 ドキドキと加速する心臓の音を感じながら、リンディはそう結論づける。 だが、やはり気になるのだった。

「む、ユニゾンデバイス擁護法案成立に向かってついにデバイスマイスター連盟が動き出したか……お? 聖王教会も動くのか……こりゃ、数年後には本当に成立しそうだな」

 ブツブツと呟くようにしながら、クライドが言う。 若干楽しげなのは、やはりデバイス関係の話だからだろう。 ゆっくりと文字を目で追うクライドは、机の中など全く気にもせずにそのまま雑誌を読み続けていく。

 少しずつクラスメイトがやってくるが、やはりクライドには動きは無い。 ずっと朝のホームルームまでは読み続けるのはいつものことなのだが、今日という日にそれは不味い。 何はともあれ、気づかれないというのはあの上級生の人の名誉にも関わるだろう。 リンディは少しばかり援護をすることにした。

「え、えと、クライドさん? 荷物は机に入れないんですか?」

「面倒くさい。 一々取り出すより鞄から出したほうが手間が省けるぞ」

「い、いえ。 今日に限っては机を使ったほうが良いと思いますよ?」

「んぁ?」

 何故机なのか? 気になったクライドが、そういえば何か机の辺りでしてたなぁと思って確認しようとする。 だが、その前に声がかかってきた。

「おう、二人ともおはようさん」

「お? ザースも早いな。 今日の一番はリンディだぞ?」

 そうして、机の中の手紙は華麗にスルーされた。 なんというバットタイミングだろうか。 リンディは思わず机に頭からダイブしそうになった。

(ざ、ザースさんKY<空気嫁>です。 今日に限ってはKY<空気を読め>ですよ!!)

 最近覚えた庶民のスラングを思わず内心で浮かべるほどに、タイミングは最悪だった。 さらに、机など関係ないと言わんばかりに話題を展開していく。 それがいつもの彼らのやり取りであるが故に、リンディはことごとく攻め込むタイミングを失っていった。

「いやぁ、昨日は散々な目にあったぜ。 お前は大丈夫だったか?」

「ん? ああ、デスティニーランドか?」

「そうそう。 結界でさ、隔離されてたじゃねーか。 しかも、解除された後の荒れ具合が半端じゃなかったぜ。 ホテルのところはなぎ倒されてるし、まるで戦争でも起きたみたいに質量兵器のスクラップがわんさかあったりで、撤去とかが終わるまでは立ち入り禁止区画にされちまってたぜ」

「うーん、営業妨害も良いところだったよなぁアレ」

 冷や汗をかきながら、クライドがその話を流す。 アレに大層関わっているクライドからすれば、さすがに思うところがあるのだろう。 少しばかり歯切れが悪い回答を繰り返す。 だが、ザースはそれに気づかずに見知っている情報をクライドに話していく。 やれ結界の外側は凄いことになっていたとか、本局から執務官が来たり地上本部からも人手が出たりと随分大変だったとか色々である。

「おいおい、外じゃあそんなことになってたのかよ」

「ああ、リンディのデート相手の執務官いただろ? 中で戦闘にあってボロボロになってた。 といってもフレスタの膝枕でグッスリだったし、傷は自分でほとんど治してたみたいだから特に大事は無かったらしいぜ」

「……なるほど。 回復魔法はさすがに持ってるか。 なら、やはり一撃で意識を断たないといけない……か」

「ん? どうかしたのかクライド?」

「ん、あーいやなんでもない。 良い情報をありがとうザース君」

 少年二人の会話はそれからも続く。 ザースの話が終わった頃には、今度はフレスタから聞いた話とかを披露していた。 そして、その頃にはフレスタがやってきてさらに詳しい話をすることになり、着々と時間を潰していく。

(あう、あう。 つ、机です机!!)

 だが、心の中での必死の叫びもクライドには届かなかった。 ホームルームが始まってもそのままクライドは気づかない。 やがて授業が始まりかけるギリギリまで粘ったが、やはりクライドはリンディのアプローチを全てスルー。 完全にやり過ごした。

「うう、手ごわいですクライドさん」


――このときから、リンディの静かな戦いの幕が開いたのであった。








「ま、まさかありませんよね?」

 昼食時。 珍しくクラスの全員より速く教室に帰っていたリンディはずっと気になっていたクライドの机を覗き込む。 有る意味、そこまで完璧にスルーされていたらいっそ笑うしかない。 そう思って半信半疑で中を覗いてみた。 

「……あった」

 ピンクの便箋が、宛名を上にした状態のまましっかりと待機していた。 瞬間、リンディは思いっきり咆哮を上げた。 所謂、妖精咆哮リンディベインという奴である。

「あ、あの人はぁぁぁぁ!!!!」

 正しき乙女の怒りが、鈍感を断つ剣となって静かに教室に爆裂する。 だが、やはりタイミングが悪い。

「おーい、なにしてんだ? 飯いこーぜ。 あいつらが先に場所確保してるからよさっさといかないと取られるぞ」

「あ、あう……で、でもクライドさん机……」

「ん? ああ、また落書きされてるな。 まあ、よくあることだそんなの。 後で消しちまえば問題ない。 ほれ、いくぞ」

(ち、違います!! 絶望的に違いますよクライドさん!!)

 机を中々離れようとしないリンディの手を引っ張るようにしながら、クライドが歩いていく。 今日に限ってどうしてこんなに強引なのか。 いつもは極力そういう直接的なアプローチを取らない癖に、何かあのラブレターには呪いか何かがあるのだろうか? リンディにはこの間の悪さには邪神の介入があると思えてならなかった。

「ほら、急ぐぞリンディ。 速くしないと限定ランチ食い損ねる!!」

「げ、限定ランチに乙女の純情が敗北するんですかぁぁぁぁ!! 神様何やってるんですか!!」


――昼食時、再びリンディ惨敗。











 帰りのショートホームも終わった頃、教室で最後の戦いが行われようとしていた。 ここを逃せば後は無い。 最悪の場合、昼休みに???へ来てくださいで終わっているかもしれないが、あの上級生は確認のためにここに来ていないらしいことは確認済みである。 クライドの様子も特に変わっていないし、やはりまだ接触は無いものと思われた。

 リンディ・ハラオウンは思う。 なんとしてもクライド・エイヤルという少年に乙女の純情という奴を理解させねばならないと。 やはり、この少年には遠まわしなアプローチなど無意味。 どうでも良いことは三歩で忘れられるような頭をしているのだ彼は。 机机と今日だけで会話に何度絡めたことか。 それら全てを、しかしクライドは回避し続けて今に到っている。

 こうなったら、やるしかない。 クラスの連中にそのアイテムの存在を知られようと、それでもやらなければならない。

(私しかいないんです。 アレの存在を知っている私がやらないで、一体他の誰がやるというのですか!!)

 気合を入れながら、隣の少年を盗み見る。 適当にショートホームを受け流し、雑誌を読んでいた彼が珍しく動こうとした。 いつもならしばらく見て、それから寮へと向かうのにどういうことなのだろうか。 タイミングという奴を今日はことごとく逃しているような気がしてならない。

「さて、今日で最後かな」

 鞄から休学届けの書類の入った茶封筒を取り出すと、クライドが提出に向かうべく立ち上がる。 だが、それをグラムサイトで瞬時に察知していたリンディが自分も鞄を持ったままクライドの制服の裾を掴んで止めた。

「く、クライドさん!!」

 鞄を掴んだのは速攻で逃げるためである。 さすがにアレの存在を暴露してそのままその場にいられるほどリンディはこの手の羞恥心に耐性が無かった。 というか、念話で会話するなりなんなりの方法が冷静に考えれば浮かびそうなものだが、今このとき使命感に燃える彼女の頭にはそういう手段がすっぽりと抜け落ちていた。

「ど、どうしたんだ?」

 いつに無いリンディの様子に、クライドが呻く。

(な、なんだ? も、もしかしてバレた? アレの件を爺さん喋ったのか?)

 さすがにクライドもラブレターなどという存在に思い当たることはなかった。 思いついたのはこれから提出する休学届けのことと、リンディの婚約者候補と一戦交えるということがヴォルク提督から洩れたかということだ。 正直、冷や汗を禁じえなかった。 更に、何事かとクラスの連中が二人のやり取りに目を向けているのもありえない。

(や、止めてくれリンディ。 フレスタに知られたら多分俺は殺される。 怒ったフレスタに殺されちまう!!)

 桃色の魔力光が、既にスタンバっていた。 リンディからは見えない位置で、しかし確実にクライドを打ち抜くだけの威力を持った魔法が準備されている クライドに、退路は無い。 だが、ことここに到っては何もできない。 せめて、その怒りの矛先が向かないように丸く治めようと努力するか、逃げる準備をすることしか選択肢が無いのだから。

「ど、どうかしたのか?」

 できるだけ努めて冷静に振舞う。 何かあれば、速攻で逃げ出せるように高速移動魔法を展開する準備をしておくことも忘れていないが、最悪その悪あがきさえできずにぶっ飛ばされることになる。 対応を誤るわけにはいかない。 背を伝う極上の緊張感。 奇しくも、リンディとクライド。 共に醸し出すその奇妙な雰囲気に、クラスメイトたちは静かに二人のやりとりを見守る。 無論、今何か余計なことをすれば、ガソリン<フレスタ>が引火することは想像に難くない。 誰もが動けずに二人のやり取りが終わるのを待つしかなかった。

(クライドさんには遠まわしな言い方は無意味。 ならば、回避不可能な言葉で直接攻撃を仕掛けるのみ!!)

(く、来るか!?)

 開いていく小さな唇。 その可憐な唇から吐き出されようとするのは年相応のソプラノボイスだ。 その言葉の意味次第で速攻で動かなければならない。 クライドもまた、意識を集中し希望<多分無い>に縋ってみる。 だが、やはり嫌な予感しかしなかった。 だがかといって抵抗しないわけにはいかない。 無事に明日の朝日を拝むためには。 どことなく恥ずかしそうにしているリンディ。 言葉を吐き出す寸前、その相貌に浮かんだのは羞恥の紅だ。 それを見た瞬間、クライドは得も知れぬ敗北を感じた。

(だ、駄目だ。 なんか分からんけど敗北しか浮かばねぇ!!)

「――クライドさん!!」

「な、なんだ?」

 そして紡がれるは必滅の奥義。 妖精の最強の一撃が、クライド・エイヤルという矮小な存在を塵芥に化すべく解き放たれた!!
















「――いい加減、貴方の机の中にあるラブレターを読んでください!!」



















「――は?」

 その瞬間、確実にクライドの用意していた術式が霧散し、クラスメイトたちの時が止まった。 あの暴君フレスタでさえ、思わずスナイピングバスターの詠唱を止めてしまったほどだ。 皆が感じた衝撃は確実に彼らの魂をアルハザードあたりまで吹き飛ばしていただろう。

「じゃ、じゃあ私は”先に行きます”!!」

 そのまま脱兎の如く走り去るリンディ。 その後姿を追うこともできず、クライドは目を数回瞬かせ、数分後にようやく再起動を果たす。 そうして、誰も動けない教室で唯一動き出せたクライドは真っ白な頭の中をなんとか動かすと、ゆっくりと自分の机の中を覗いた。 と、そこには確かにラブレターらしきピンクの便箋が存在していた。 次の瞬間、クライドは絶叫した。

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 明らかにオーバーなアクションだったが、その大げささがクライドの受けた衝撃が半端ではなかったことを表していた。

(この丸文字、男の字じゃねぇよな当然……リンディが書いたのか? あ、え?) 

「ど、どうしろっちゅーねん!!」

 混乱の極みだった。 なにがどうしてこうなったのか。 それさえも分からない。 いや、そもそこコレは本当に現実か? とりあえず隣で呆けているザースにクライドは言った。

「ザース、頼みがある。 俺を殴ってくれ」

「あ、ああ」

 ザースも放心していたのだ。 だからこそ、現実かどうか確かめるためになんらかの処置が必要だと思ったのだろう。 クライドの頼み通り一発その顔にパンチを打ち込む。 鈍い音と共にクライドの顔が弾け飛ぶ。 だが、その次の瞬間に仰け反っていたクライドがシールドナックルを纏った拳でもってザースを殴り飛ばした。

「て、てめぇ!?」

「安心しろ、一回は一回だ。 それにお互いギリギリ手加減してただろう? 俺は滅茶苦茶痛かったが……お前は?」

「いてぇーに決まってるだろうが!!」

「じゃあ、アレか。 これは現実なのか?」

「あ、ああ……ら、らしいな」

 クライドの出した結論に、ザースもまた呆然とするしかない。 どういう反応を返せば良いのかさえ、二人は分からなかったのだ。 クラスメイトたちもその頃になると落ち着いたのか、冷静さを少しずつ取り戻し、周囲の友人たちと遅れて驚愕の叫びを上げた。


「おいおい、妖精がラブレターを……」

「ううむ、あの恥じらい。 やはり、一緒に訓練していて愛が芽生えたのか!?」

「クライド……KILL YOU」

「ば、馬鹿な!? こんな事態が起こらないように行動していたというのに、もはや手遅れだったというのか!?」

「さ、先に行くってどういうことだKO☆RA!!」

 クラス中に伝播する喧騒の波。 鬱陶しいほど騒がしい教室内で、クライドはしかし再び思考停止に陥ってしまう。 杖喰い<デバイスイーター>も強敵だったが、この問題はさらにそれを超えるインパクトとなってクライドを襲っていた。

「お、俺は一体どうすれば!?」

 頭を抱えながら呻くように呟くクライド。 だが、そこに一発の砲撃音が轟いた。 喧騒がピタッとそれで止んだ。

「どうするもこうするも無いでしょうが!!」

「ちょ、まて。 俺にも何がなんだかわからん!!」

「どうでも良いわよあんたの都合なんてね!! でも、どんな結末だろうと”女<リンディちゃん>”に恥をかかせたら私が閻魔様に代わって地獄へ送ってあげるわ!!」

「ま、まて。 早まるなフレスタ!! 今から読む!!」

(な、何かの間違いじゃねー? いや、しかしあの恥じらいは……ちょ、え? いや、うーん)

「どう、なんて書いてあるの?」

「ほ、放課後いつも”いらっしゃる”場所でお待ちしています……できれば一人で来てください。 いつまでもお待ちしております?」

「……オーケーオーケー。 私とザースは外すわ。 でも、分かってるわねクライド?」

「……」

「クライド? おーい……」

 デバイスで軽くフレスタが小突く。 だが、やはりクライドに反応はなかった。 なにやら、真っ白になって灰になろうとしている。
 
「こ、こいつ。 気絶してるぞ?」

 ザースが恐る恐る確認してみる。 立ったまままま気絶している馬鹿は、そのまま瞬き一つせずにその場で彫像となっていた。 だが、それも長くは続かない。

「とっとといかんかーー!!!」

 再び轟音が室内に轟き、桃色の光弾は今度こそクライドを直撃する。 クライドに気つけの一発<スナイピングバスター>がお見舞いされ、そこで初めて気絶から立ち直った少年はほうほうの身体で歩き出した。 向かう先など決まっている。 この時間で、いつもの場所といえばいつもいつも訓練しているあの模擬戦場しかない。 どうすれば良いのか答えはでなかったが、それでもクライドは何かに取り付かれたかのように持っていた鞄とラブレターを持って全速で走っていった。


――リンディ・ハラオウン、観客も呆然の最終回逆転サヨナラホームランで勝利する。

 ただし、そのせいで何か大切なものを根こそぎ失ったのは言うまでも無い。











 模擬戦場に、トコトコとやってきていたリンディ。 さすがにクラスが阿鼻叫喚になっていることなど彼女は知らない。 ただ、よく分からない羞恥心で一杯だった。 アレが最善だったのかどうかとかそういうこともあったが、とりあえず任務は果たした。 それで、あの上級生の人が最低限待ちぼうけを喰らう心配はしなくて済むはずだ。 乙女の純情を最低限守れるというか、どういう結末だろうが勇気を振り絞ったからには彼の言葉を聞くべきである。 その権利が彼女にはあるはずだと思っていた。

「あれ? あの人……ま、さか!?」

 いつもの模擬戦場の合流地点で金髪縦ロールの上級生がソワソワしながら立っていた。 どことなく顔が赤いのを見れば、まさかこれからここで待ち合わせということなのだろうか? リンディは咄嗟にミラージュハイドを唱えると姿を隠した。

(な、何故隠れたんでしょうか私!?)

 そんなことをするより、さっさとこの場から去るべきである。 その方が良いと分かっているのに、しかしリンディの足は動かない。 好奇心なのだろうか。 それとも、緊張して動けなかったのかは分からなかったが、それでも何故かその場から動けなかった。

 やがて、数分そのまま固まっていた頃だろうか。 遅れてクライドがやってくる。 かなり急いでいたらしく、滅多に飛ばない癖にこのときばかりは飛んできていた。 その顔にあるのは明らかな緊張である。 上級生の姿を見ると軽く眉を顰めたが、すぐに気にせずにそのまま誰かを待つようなポーズを取る。

 上級生とクライド。 奇しくも二人は距離を保ったまま何もしない。

(う、うーむ。 俺、いつのまにか愛ゲットしてたの? てか、向こうにいる女誰だ?)

 初めて見る顔だった。 どことなく誰かに似ているような気もしないでもなかったが、クライドは彼女を無視することにする。 どういう理由でいても知ったことではなかった。 一応いて欲しくは無いとは思っていたがそこにいるのが相手の自由であるのだからクライドにはどうしようもない。 たまたま待ち合わせ場所がバッティングしたとかそんなものかと思っていたのだ。 クライドはそのまま腕を組むようにしながら、待つことにする。 まだ来ていないということは、もしかしたら一旦寮に帰って着替えてくるつもりなのかもしれない。 自分自身は学生服のままだが、これで良いのかなんて考えながら、色々と思考をめぐらせていった。

(ど、どうしたらいいんでしょうか? こ、これじゃあデバガメです!!)

 ミラージュハイドで隠れたは良いが、動くに動けずリンディはそのまま二人を観察することしかできない。 だが、ふと可笑しいことに気がついた。 クライドが相手を知らないというのなら分かるが、それでもラブレターを出したほうはクライドの顔ぐらいは知っているはずではないだろうか?

 二人とも距離を取ったまま一行に動かない。 それどころか互いに妙に牽制しているような様子さえ見て取れた。

(うーん、できればもう少し向こうへいって欲しいぞ)

 さらに数分その膠着は続く。 だが、それもクライドが手にしていた手紙を見だした辺りから雲行きが怪しくなっていた。 上級生がクライドの持っていた手紙を見て動き出したのだ。

「……それは間違いなく私が書いた手紙……答えなさいな。 貴方、どうして私がクライド・エイヤルの机に入れたそれを持っているんですの!!」

「――は?」

「ま、まさか。 私程度のクンフーでは足りないと? く、みてらっしゃいクライド・エイヤル!! ちょっとシューティングアーツができるからってこの私を身代わりに振らせようとしたことを必ず後悔させてあげますわ!! ふふ、クライド・エイヤル……真の乙女はこんな程度では諦めませんことよ。 必ず貴方のハートはこの私<わたくし>、レイン・ビフレストが頂いてみせますわ!!」

 上級生はそういうと、まるでひったくる様にクライドの持っていた手紙を奪い、そのままノシノシと歩き去っていった。 その顔に浮かんでいたのは決意だ。 この程度ではアプローチを諦めないと心に決めた顔があった。

「……もしかしてなくてもアレか? あのラブレターはリンディが書いたんじゃなくて、あの女が書いた奴で、しかも待ってたのはシューティングアーツを使うクライド。 つまりは俺の名前名乗って上級生追い払ってたザース……か?  んで、リンディはもしかしてそれを俺宛のラブレターだと思って言おうとしてただけ? は、はははは――」

 しばし、クライドの空しく乾いた笑い声が静かに模擬戦場に響いた。 まったくもってやるせなない。 なんという勘違いだろうか。 これにはさすがにクライドも理不尽な何かを感じずにはいられない。 誰かが悪いというわけではないが、それでもそれは確かな怒りと羞恥心を刺激していた。

「ちょっと、いやかなり期待した俺が馬鹿だった!! 死亡フラグ無視する覚悟を決めようとか、色々とやばい決意固めかけてたのになんてこったい!!  く、大体にして話が美味すぎたんだ!! そうだよな、こんなことあるわけないよな。 なんて自意識過剰だクライド・エイヤル!!  愛ってなんだぁぁぁ!! 史実ってなんだぁぁぁぁ!! 俺の未来は一体どこに向かってるんだぁぁぁ!! わっかんねーよ、ああもう!!」

 頭を抱えながら悶えると、クライドはおもむろに走り出す。 目的地は校長室だ。 一刻も早く休学届けを出さなければならない。 何故か無性に夕日に向かって走り出したい気分だった。 全速力で突っ走るクライド。 顔が真っ赤に染まっているのは夕日のせいだけでは決して無い。 恐らくは自分の勘違いと、内心で固めかけていた色々な浪漫を思い返して死ぬほど恥ずかしくなってしまったのだろう。

「……ええと、一件落着ですか?」

 ミラージュハイドを解除したリンディ。 とりあえず、クライドの独白で事態を理解したが。 こっちも負けず劣らず顔が真っ赤だった。

「か、勘違い……うう、あ、穴があったら入りたい気分です」

 蹲りながら悶えた。 そして、更にクライドの独白を思い出して二度悶えた。

「クライドさん私が書いたって勘違いしてたんですよね? じゃあ、クライドさんが待ってたのは私で……し、しかも、かなり”期待してた”とか”決意を固めた”とか言ってたような……あう……あうぅ……そ、それってつまり――」

 そこから先を言う前に、頭から湯気を吐き出したリンディはそのまま知恵熱でばったりと倒れた。
どうやらお子様にはまだ、色々と耐えられない高度な部分まで想像してしまったらしい。

 いつもの訓練に付き合うべくやってきたザフィーラがしばらくしてリンディを発見し、とりあえず医務室に運んで事なきを得たが、ベッドにもぐりこんでからリンディが出てくるまでにはかなりの時間がかかった。

 そして、校長に休学届けを出したクライドはその足で再び全速力で走っていた。 行き先は教室だ。 今回の原因そのものになりうる対象がなんなのかを思いつき、八つ当たりをするために走っていたのだ。

「ザース!! てんめぇぇぇぇぇ!!! そこに直れぇぇぇぇ!! 成敗してくれるわ!!」

「ちょ、いきなり何しやがるクライド!!!」

「いいから謝れ!! 俺に謝れ!! リンディにも謝れ、ついでにあの美人さんにも謝ってから今すぐ俺に殴られ続けろ!!」

「はぁ!? いて、こら、やめろ!!」

「どちくしょう!! あんな恥ずかしい真似させやがって!! お前がんばりすぎだこら!!!!」

「な、何の話だ!!」

「全部勘違いだよちくしょう!! アレはお前宛だ!! しかも、書いたのは美人の上級生だぞ!! リンディはそれを俺宛だって勘違いしてただけなんだよ!!」

「はぁ!? ちょ、もっと分かりやすく説明を――」

「後はてめぇで考えろ!!」

 シールドナックルを構え、問答無用で襲い掛かるクライド。 教室の中だろうがどこだろうが知ったことではなかった。 

 その日、訓練は休みとなった。 ザースは見境をなくしたクライドと懸命に戦ったがついにカートリッジを使用したブレイドまで持ち出され、クライドの猛攻には耐え切れず十数分健闘した後でノックダウン。 クラスメイトら有志によって医務室のベッドへ運ばれていく次第となった。 そこでシーツを頭から被ったリンディから詳細を聞くことになるのだが、それはまた別の話である。


「……で、結局何がどうなったわけ?」

「知るか!! リンディにでも聞いてくれ!!」

 ふてくされた顔でそういうと、クライドはフレスタに背を向けて訓練場へとまた戻った。 詳細をリンディにも包み隠さず報告してやろうと思ったからだ。 だが、結局彼がリンディと顔をあわせたのは夕食時であり、出会った瞬間に二人して顔を赤くしてギクシャクしたのは言うまでもない。

 一応フレスタが事態を収拾するために動き、そのおかげで翌日にはクラスメイトから彼女たちが変な目で見られることはなかったという。 だが、それ以外のクラスにまで一夜にして広がった噂をやっつけるのにはフレスタがかなり尽力することになった。

 また、後日”シューティングアーツの使い手たるクライド・エイヤル”に愛を叫ぶ金髪縦ロールの上級生の存在によって、ザース、クライド共にその彼女の双子の兄である”あの妙にカラフルな男”が再び勝負を挑んでくることになるということを彼らはまだ知らない。 

コメント
冒頭を読んで思ったこと
「えっと、ここ(HP)って『空腹を満たせ』って名前だっけ?」

今回は、日常の一幕って感じですね。すこしこっぱずかしいけど
ほのぼのとしてていい感じでした。
今回のことが二人の関係を一歩進めることになればいいなあと思いました。
(自分は、やっぱりエリヤル×リンディ派なので)

追伸:
この奮闘紀を読んでいろいろ感じたこと、創造したこと、考察めいたことを書いてみたいんですけど、
BBSのほうがいいですか?それともここの感想に書いたほうがいいでしょうか?
自分の想像が外れていればいんですけど、あたっていた場合のことを考えると、書かないほうがいいですかね

【2008/07/05 15:48】 | 友紀 #t50BOgd. | [edit]
友紀さんどうもコメありです^^

>>>創造したこと、考察めいたことを書いてみたい・・・

そうですね、BBSの方に書いてくださればOKですよ。 そういう楽しみ方もありだと思いますし、止める理由はありません。
一応BBSで板を作ってみましたが、ご自身で作ってくださっても構いませんので、好きにしてやってくださいw

また、晒したく無いという人は『管理者にだけ表示を許可する』で私にコメを送るなりしてくださるなり、自分の想像の中だけで楽しむとかで良いと思います。 シークレットには答えることはしませんけれど、そういうのもアリだとは思いますからw
【2008/07/05 16:48】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
ザフィーラいいですね。一家に一人は欲しいです。膝枕…ディーゼルさんに番号教えたのはリンディじゃなくてフレスタってことでしょうか?エイヤル君、こんなタイミングで休学届け出したら「失恋したショック」で出したと思われるんじゃ…。しかしこれが結果的にはエイヤルとリンディの仲を進展させるきっかけになる……はず!奴を萌殺して、奥歯ガタガタ言わせてやれぇぇぇ!!リンディベイン!
【2008/07/05 17:45】 | 打刀 #- | [edit]
リ、リンディベイン…あまりにも恐ろしいネタ。某サイト様の桃孔明さんや司馬リンディにも並ぶ名言になるやも…!

>”あの妙にカラフルな男”が再び勝負を挑んでくることになるということを彼らはまだ知らない。 

名言に気を取られていたらさりげに虹男との再戦フラグ成立が。ディーゼル君との勝負もあるのにエイヤル君の明日はどっちだ!?
【2008/07/05 20:04】 | サザナミ #GBUMP3rY | [edit]
今回はザースが災難だったな、エイヤルは言ってはなんだが自業自得といわざるをえないw
 一つ思うのは虹男おまえ名前はちゃんとあるんだろうな (=w=;
【2008/07/05 20:52】 | Tomo #Lis.ZDmI | [edit]
頑張れクライド! 地味ぃ~~にフラグは立ってるぞ!
それにしても、テンションにかまけて迂闊な発言しなくてよかったな!!

……って、え~~~!! 双子の兄!? モブキャラにいきなりスポットが!?
【2008/07/05 23:59】 | マイマイ #aReeLJcY | [edit]
クライド君は変なとこでリンディに告白まがいのことを
やってしまっていますね。
せっかく本格的にディーゼル君との勝負のため訓練を
しようとしているのに変なフラグがたってしまいましたね。
これからどんな展開になっていくのか楽しみです。
【2008/07/06 00:37】 | NAI #IgNuUUdA | [edit]
更新、待っていました
【2008/07/06 04:58】 | 謎の食通 #- | [edit]
打刀さん サザナミさん Tomoさん マイマイさん NAIさん
謎の食通さん 感想どうもありがとうございます^^

なんかほのぼのするのを書きたかったのでやってみました。
リンディベインは勿論ネタですが、なんとなく浮かんでしまったので
書かざるを得ませんでしたがw

これもきっと邪神の陰(ry
【2008/07/06 21:18】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
更新を見逃していました。。。
それにしても今回は閑話的な話なのに他の話と同じくらいの長さだったってのがとても満足です。

なんかこう、本人(エイヤル)の知らぬ間に思いが相手(リンディベイン)に伝わってたりって言うの・・・ニヤニヤしてしまいましたw
おもしろすぎますwww

ほのぼの、いいですねぇ。

次回も楽しみにしてます。
【2008/07/07 00:38】 | NIKKA #TY.N/4k. | [edit]
ちょっときてない間に2つも更新されてて、俺涙目。
いや、気付いてないとはいえ微妙に告白気味のクライド君w リンディもまんざらじゃなさそうだし、これはもしかすると、もしかするんじゃないか!?
【2008/07/10 22:00】 | 牛猫 #mQop/nM. | [edit]
やっぱ嫁にするならザフィーラですね
【2008/07/12 13:45】 | Perot #Fh98Fwic | [edit]
NIKKAさん 牛猫さん Perotさんどうもコメありです^^

>>やっぱ嫁にするならザフィーラですね

ちょ、その選択肢は色々と危険な感じがw

それにしても、今回の話は割と好評なようですね。
拍手を結構頂いてしまっているし……うん、ほのぼのって皆さん割りと好きなんですね^^
【2008/07/14 04:22】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
ちょっとした意見を書き込ませていただきます。

デモンベインはDemon:魔をBane:滅ぼすということでDemonBane:魔を滅ぼす者という名前な訳ですが、リンディベインではリンディを滅ぼすということになってしまうと思います。
ここはむしろ妖精咆吼クライドベインでは!!!!
【2009/04/07 11:08】 | HAL #PTRa1D3I | [edit]












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