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バハムートラグーンIF00

 2007-09-23
 ――その男の中には、果ての無い憎悪があった。

 双剣を握る腕は、すでに幾度もの素振りを終えてもなお止まることはない。

ブゥン、ブゥン、ブゥンと空を切り裂く風きり音だけが、それを振る剣士の耳に響く。


 常に、この浮遊大陸であるラグーンの上で聞こえるはずの風など剣士には何の意味はなく、その心地よい風に浸る暇など無いのだ。

 「はぁ、はぁ、はぁ――」

 左右からの袈裟と逆袈裟の斬撃に続き、頭上にクロスさせながら振り上げられた双剣が、炎を纏いつつ振りぬかれる。

「フレイム・ブレイク!!」

渾身の力を持って振り下ろされたその双剣は、纏った炎を炎弾へと変えて放出。

その炎弾は、彼が標的とした大木にぶつかるや否や、その圧倒的な熱量と威力を開放して爆発炎上する。

標的とされ大木は、その炎に抗うことなどできず幹ごと吹き飛ばされてその上業火によって燃え上がった。

彼の中の憎悪のレベルを示すような圧倒的な破壊撃。

通常、彼のようなクロスナイトはヒットと呼ばれる必殺剣を使うのだが、クロスナイトを止めると公言した彼は、自分の新たな力となる技を独自に編み出した。

ナイトとクロスナイトの技を独自に融合させたその技は、クロスソードと自らを定義する彼にこそ相応しい。

倒すべき相手がいて、憎悪をぶつける相手がいるのだ。

なぜ、そのための剣技を磨かずにいられよう。

思い出されるのは敗北の苦しみ。

心に満ちるのは圧倒的な喪失感。

忠誠を誓った国の全てを、守ると誓った者を、そしてその心すら目の前で奪われた。

いっそのこと、知らなければよかったのだ。

そうすれば、彼はまだあの国に忠誠を誓った騎士でいられたのだから。

だが、現実はそのような安易な展開など許さない。

奪われた故国を救うべく、活動を続けて三年目。

その二年目には目的が変わった。

守るべき故国だけでなく、守りたかった人間すら目の前で失ったそのときに。

時はもう戻らない。

だからこそ、彼はただ黙ってその双剣を振るうのだ。

黙々と、ただ淡々と。

体を鍛え、技を鍛え、組織を鍛えた。

いつの日にか、自らの内にある憎悪の空を消し去るそのために――。

「まだだ、まだ足りない。 この程度じゃ、まだ……」

記憶の中にある仮想敵の姿。

その姿と自分を比べ、さらにそのトータルの戦闘力を分析してみる。

しかし、どうやっても勝てない気がした。

気がしてならなかった。

いくら剣を振ろうと、実戦ではないただの訓練ではあの領域までたどり着けない。

――負ける。

今のままでは、確実に。

部隊内ではすでに彼は最強である。

そんな彼の練習相手が務まる相手など、もういない。

数人を交えての模擬戦をしてはいるが、それはあくまでも多対一の特訓である。

生と死のギリギリのやりとりではあるものの、どこか違う。

物足りなさが尽きず、しかしこれ以上の相手などいない現実に腹が立つ。

「ちっ、やはり実戦で完成させるしかないか」

独白しながら、自らの未熟さを痛感した。

故に、彼は基本を繰り返すことにする。

技はでき、基本もほぼ習得できた。

だが、圧倒的に習熟と経験からの練度が足りない。

だからこそ、少しずつ体に馴染ませていくように教え込むのだ。

徹底的に体を苛め、限界を超えようと足掻くのだ。

剣の重さに腕が上がらなくなるまで振りぬき、腕が上がらなくなればランニングを軽く行い、その日の鍛錬を終わる。

そうして、その日の修練の疲れを癒すために同僚のプリーストに頼んで白魔法をかけてもらって体を癒し、超回復で技だけでなく身体能力すらも底上げしてきた。

「ふぅぅぅぅ」

そろそろ、限界も近い。

ゆっくりと深く深呼吸をしながら剣を鞘に収め、ビュウは後ろを振り向いた。

そこにいたのは、髪を結ったプーリストの女性だ。

気がついてはいたが、まだ鍛錬中だったし見知らぬ気配の者でもなかったからそのまま特に気にせずにいたのだ。

「お疲れ様ビュウ、でもここ二年ぐらい無理しすぎじゃないかしら?」

少し離れたところにいた、彼の姿を黙って見ていた女性は思わずそう口を開かずにはいられなかった。

心配してくれるプリーストの女性フレデリカが彼――ビュウに言った。

「――そうでもないさ。 これでも、まだ足りないぐらいだよ」

問いに答えながら、彼女のいるほうへと近づいていく。

実は、彼女だけが夜中に修練をしているビュウのことを知っていた。

憎悪に燃える姿を、ビュウは誰にも見せたくはなかった。

だからこそ、この修練は皆が寝静まった後に野営地から少しはなれて行っているのだ。

フレデリカはビュウをよく見ていたので、いつも朝方辛そうにしている彼を心配してよく眠れる薬の差し入れを行いに夜中にビュウのところへ行ったのだが、そのときに彼女は知ってしまった。

ただただ、必死に剣を振るうビュウの姿を。

カーナの訓練場でさえ見たことのないその鬼気迫る様子に、フレデリカはいつも心が締め付けられるような何かを感じた。

だから、放っておけなかったのだ。

得意の薬の知識を生かし、己の癒しの御技で少しでもビュウの手助けをしようとしていた。

今日もまた、体調がよかったのでビュウの様子を見に来ていたら案の定だ。

疲れているはずなのに、そんな姿を一つも見せず、黙々と訓練をこなしていくビュウ。

どこか、焦っているようなそんな姿が、フレデリカには堪らなく心配だった。

「そう? 無理してないんならいいんだけど……」

そういって、いつものようにドラッグやらばんのうやくやらを差し出す。

「ありがとう。 いつも助かってるよフレデリカ」

「ふふ、大したことはできないけどね。 私にできるのは、こんなことぐらいだもの」

ドラッグを飲んでいるビュウに、回復魔法であるホワイドラッグをかけるとフレデリカは近くにあった石の上に腰掛ける。

丁度近くにあった石にビュウも腰を下ろすと、夜空を見上げた。

人の灯がほとんどないこの辺境の地では、その夜空は別格に綺麗だ。

その分周辺の闇は濃いが、持ってきていたカンテラだけで十分闇を払える。

「なぁ、フレデリカはよく俺の訓練とか見てるけど、おもしろいのか?」

ふと、ビュウは訪ねてみた。

ビュウにすらばなんともないただの問いであったが、フレデリカはやや顔を赤らめて言葉を濁す。

「え、えーと、そういうわけじゃないんだけど……」

「ん?」

では一体なんなのだろう?

剣士の動きを見て、もし襲われたときのための対処法でも考えているということなのか。

だが、それは滅多にないことだ。

彼女達後衛部隊であるプリーストやウィザードを守るのが、前衛であるナイトやビュウの役目である。

もしもがないとは言い切れないが、それでもできるだけ気をつけておくつもりだ。

夜遅く自分の訓練を見る理由としては弱い気がする。

「い、いいじゃないそんなこと。 ビュウも明日に疲れを残すわけにはいかないんだから、時たまでも私がこうして来るほうがいいでしょ?」

「まあ、そうなんだけどね。 フレデリカのおかげで、朝が大分辛くなくなってきたのは確かだし」

「でしょ? ならいいじゃないですか。 それに、貴方は反乱軍のリーダーです。 貴方が倒れてしまったら、私達を引っ張る役目をするのは団長になっちゃいますよ?」

「あー、それはちょっとまずいかも」

団長は老兵なのだが、どっしりと構えてみんなを率いるというタイプではない。

自分から率先して突撃をしていくタイプの人間なのである。

押しが強く、頑固な一面があるために反乱軍を纏める役目はビュウがやっていた。

だが、腕は確かであるためビュウも団長にはそれなりに敬意を払っていたりする。

が、やはり反乱軍を纏める作業などの細々した作業は向かないだろう。

「だから、ビュウには倒れられたら困るの」

その言葉に苦笑しながら、ビュウはとりあえず納得したことにした。

他に何かあるような気がしたのだが、言いたくないことなのだと悟ったのだ。

「まあ、なんにしても決起は三日後だし、明日でこの訓練は終りにするよ。 疲れ残しておくわけにはいかないしね」

「そうなんだ……」

ほっと安心したように安堵するフレデリカ。

(あまり、心配をかけないようにしないといけないな)

彼女自身も、体が強いほうではない。

むしろ、戦闘以外の時はほとんど自室で休んでいるぐらいなのだ。

自分の八つ当たりのような訓練のために、体調を悪化されでもしたら大変である。

立ち上がりながらよっと背伸びをし、一度月を見上げた。

それで、今日の訓練はおしまい。

「さて、みんなのところに戻ろうか」

「ええ」

立ち上がろうとするフレデリカの手を引いて立ち上がらせると、そばにおいてあったカンテラを持つ。

「くすくす、ねぇビュウ? こうしてると私たち周りからどんな風に見えるかな?」

悪戯をするような、小悪魔な笑みを浮かべてビュウの握っていた手を離して腕に抱きつく。

その様子に困惑したビュウだったが、冷静にただ一言だけ――――

「――あー、その周りに誰もいないからなんとも思えないんじゃないか?」

――と、デリカシーのないことをのたまった後、そそくさと歩き始める。

「もう……ちょっとぐらい気の利いたことを言ってくれてもいいのに……」

腕に抱きついていたせいで、引きずられそうになったフレデリカが不満を言うが、ビュウはそれに答えることもなくただ黙って歩いた。

しかし、歩調はフレデリカに合わせてゆっくりだったし、その頬がやや赤いのは気恥ずかしさからだった。

普段あまり多くを話すような饒舌な人間ではないビュウ。

フレデリカはだから、そのビュウのちょっと照れている様子に満足することにする。

あまり苛めるのも酷いと思い、冗談よと微笑みながらビュウの腕を抱いたままで歩く。

たったそれだけのことだったが、フレデリカはそれでも嬉しかった。

訓練に明け暮れるビュウは、いつものビュウではない別の誰かのような気がして、そんな誰とも知らない人間ではなくて、自身のよく知っている口数の少ないけれど優しいビュウに戻ったような気がするから。

それは不安だったののかもしれない。

ある日突然、今は亡き故国の騎士を辞めると言った彼の、あの闇のように暗い瞳を宿すようになったビュウをこれ以上見たくないから。

自分が少しでも、そのビュウをいつものビュウにすることができれば。

それはきっと、自分自身の幸福にも繋がるのだからと。

昔よりも遥かに縮まった距離の中で、フレデリカには今自分が会っているビュウの、そのいつもの様子が堪らなく嬉しかった。

その笑みは消えることなく、そのまま二人が野営地まで帰って仲間たちから冷やかされることとなる。

だけれども、フレデリカはそれで良かった。

このまま、いつものビュウのままで居てくれさえすれば、それはとてもとても嬉しいことなのだ。

部下のナイト三人組に、そして反乱軍の起きているみんなから冷やかされて真っ赤になっているビュウ。

それは”いつも”見る情景。

そのかけがえの無い日常が、どうか壊されるなんてことのないように。

フレデリカは心の中で祈っていた。

それは彼らオレルス反乱軍が決起する、ほんの三日前の平和でちっぽけだったけれど彼らの”日常”の出来事であった。


















ふと、昔の夢を見た。

まるで走馬灯のように、追いすがる子供のように。

食い入るようにそれを見た気がする。

いつだってそこにあるオレルスの空。

その空に抱かれたまま浮遊している大陸――ラグーン――に生きる俺たちの、それは平和な日常の記憶だ。








俺、ビュウはカーナ戦竜隊の隊長のクロスナイトの親父の息子で、親父の仕事場に来ては竜たちと遊んでいた。
それに苦笑しながらも、その当時は何も戦争なんかなかったから騎士の人たちも誰も止めず、好きなようにさせていてくれていた。

大きな背中と、強靭な体躯。

それらを持っている最強の種族である竜。

けれど、調練された彼らは俺に危害を加えるような真似はせず、むしろ成長を見守ってくれていた。

真紅の鳳凰のようなドラゴン、サラマンダーのサラは特に俺を可愛がってくれたものだ。

今では俺の大事な相棒。

当時は、とても大きな友達だったな。

背に乗って空を翔る。

そうして、親父の竜笛で呼び戻されては拳骨を貰ったっけ。

『ビュウ、乗りたいんだったら一声掛けてからにしろよ? 一応こいつらは戦竜隊のドラゴンなんだからな?』

戦竜隊の隊長はいつだって竜に好かれる。

だから、こんなにも彼らに相手をしてもらっている自分も、いつしか戦竜隊に入って隊長になるんだとそのときに決めた。





訓練している親父たちの訓練所の隅っこで、ドラゴン親父に無理を言って竜の世話の手伝いをさせてもらったり、親父の模擬剣を振るってはクロスナイトごっこをしていた。

そんなときに、親父は言った。

『クロスナイトになりたいんなら、ナイトをやってからだぜビュウ。 ほら、見てろよ』

いつも二本の長剣を操る親父が、その日に限っては両手で剣を握り締め、俺の前で型をいくつもやってくれる。

空気ごと切り裂くような、とても速い剣速。

ビュン、ビュンと音がして、風圧が見ている俺にも降りかかる。

目の前で繰り広げられる剣舞に、俺は魅せられた。

『さて、んじゃこっからはクロスナイトの剣だな』

力強い、両断する剣からうって変わって激しい剣へと切り替わる。

ナイトが剛剣ならば、クロスナイトは速剣だ。

一撃の威力は当然ナイトに劣るのだろうが、その分手数と相手に反撃を許さぬ剣は怒涛の連撃を俺に魅せる。

どちらも、子供心にすごいとしか思えなかった。

『ふむ、こんなとこかな? ま、参考になるか分からないが、無いよりはマシだろうな。 ちょっと来い、一つずつ型を教えてやる』

仕事が忙しいはずだったが、親父はそういって俺が剣を取るたびに仕込んでくれた。

剣の扱い方、一本と二刀流の使い方の違い、そうしてそれを成す体を作るための訓練方法まで。

だから、俺が18の若さで当時戦竜隊の隊長に選ばれることになったってわけだ。

この頃に作られた下地が、今の俺を支えているのだ。

本当なら、親父たち前世代の戦竜隊が部隊を率いているはずなのだが、生憎と同盟国だったキャンベルを救うために出撃してから代替わりしている。

ドラゴン達も、生き残った奴を除いては世代が違う。

サラマンダーは親父の最後すらも見届けている俺の相棒だ。

『そうそう、ビュウ。 俺達クロスナイトはナイトの派生みたいなもんだが、要求されるスキルはナイトよりも多い。 んで、そのクロスナイトの上の職業なんていうのも噂ではあるんだ。 知ってるか?』

そういえば、今クロスソードなんて職業をでっち上げてるのもそのときのことを、覚えていたからだ。

『クロスソードってのは、ナイトとクロスナイトの複合みたいな、そんな出鱈目な技を扱える奴が成れる。 たとえば、ナイトが使う技はパルス系、クロスナイトはヒット系だ。 が、奴らが扱うのはそれらの複合。 ナイトの一刀両断の技、クロスナイトの対集団用の技とは違って敵の集団を一刀両断する剣なんだよ』

出鱈目もいいところだ。

そんな、範囲を拡散させながらも威力はそのままなんていう美味しい技術、誰だって目指すだろうに。

けれど、実際にそれに成った者は少ないという。

『クロスソードは……文字通り双剣使い、つまり騎士じゃないんだよ。 俺達は自分の国を、何か大切な者を守るための剣であり騎士なんだが、こいつは違う。 ただ強さだけを求めた結果生まれた産物、騎士の奴らからすれば邪道な職業なんだ』

クロスソードは、騎士では成れない。

強い力を持つというのに、それは誰かを守るための剣に非ず。

ただ、自身の求める何かを成すためだけの剣であるという。

『そういえば、クロスソードについて伝わる伝説があったな。 クロスソードの元となったと思われる人物を示した者だったと思うが、曰く――その剣は抜いたからには勝利を約束される剣なんだそうだ。 不老だとか、氷漬けになったとか、エクスカリバーを使ってたとか、いろいろと逸話が残っているらしいが、眉唾だな』

確かにそうだと思う。

そんな、摩訶不思議な剣士がいるとは思えない。

人間とも不老やら氷漬けやら、とてもじゃないが人外のものだ。

ましてや、一度抜いただけで勝利を約束される剣なんてモノがあるなら、俺達のような軍隊などいらない。

たった一人で戦争なんてできるわけないのだ。

『ま、伝説は伝説だろうな。 まぁ、規格外の噂ばっかりだったが、なれる奴なんていないだろうな。 そんな威力のある剣、人間に放てるのかどうか疑問だ』

だが、目指すことはできる。

なぁ、そうだろう親父?

力が無かったから守れない。

守れない騎士に価値なんてない。

守るものを失った騎士には、もう何も残っちゃいないんだ。

騎士じゃなくなった今、俺はただの憎悪と絶望からクロスソードを目指す。

全てを取り戻さなくてもかまわない。

もう、戻れなくてもかまわない。

それでも、ただ一つだけでも譲れない感情を納得させるためだけに。

力がほしい。

ただ、自身を納得させることのできる力が――。





進み行く夢。

夢はいくつもの過去を見せる。

改変せず、ただ俺が見たことのある光景やもはや忘れ去った記憶さえも呼び覚ます。

なんてことのない、ちっぽけな記憶からビッケバッケやラッシュやといったナイトの三人をスカウトしたときの記憶まで、実に多種多様。

嬉しい記憶、悲しい記憶、どうでもいい記憶、過去から現在にいたるまでの自分の歴史、ビュウという人間の歩みを、ただ淡々と映し出す映写機のように。

そこには事実と記憶しかなくて、それをどこか遠くで見ているようなそんな錯覚を感じさせ俺が見た光景、俺が体験した事象だというのに、どこか違和感を感じる。

(なんだ、この違和感?)

この場所は俺だけの場所だというのに、誰かが隣にいるような感覚。

だが、それは間違いだ。

ここは俺の世界であり、俺だけの領域のはず。

俺以外の意識があるなど、ありえないのだ通常なら――。


――ならば、通常ではない状態だとすればどうだ?


思考を揺らすノイズ、夢の世界を吹き飛ばすよな圧倒的な存在感。

まるで、舞台の向こう側から突き破ってくるドラゴンのような強大な意識が俺の夢を突き破る。

そうして、俺は夢の世界に新たな見学者に出会った。

いや、見学者というには言葉がおかしいかもしれない。

この俺、ビュウという人間の中に巣食っている超越者は、どちらかといえば寄生者とか共生者とかそういう概念の言葉のほうがしっくり来る。

大きな顎からむき出した鋭い牙、どのような剣も槍も通さぬ鋼鉄の鱗に覆われた巨躯、そして空を自由に翔るための翼。

彼こそは竜の身でありながら神と呼ばれ、代々俺の国の守護竜として崇められてきた神竜バハムートである。

本来、亡国となったカーナという国の守護竜であったバハムートは、しかし人間たちの戦争には興味がないといわんばかりに、俺のいた国を見捨てた。

いや、そもそも彼らと俺らでは論理が違う。

価値観が違い精神が違う。

カーナ王家の血脈のみが使えるという、神竜の力もしかし彼が認めぬ限り使えるはずもない。

だからこそ滅んだカーナ。

最後の最後で、信じていた守護竜にさえ見捨てられて消え果てた王国。

その、もはや無くなった王城に眠ったままのはずのバハムートが、今俺の中にいる。

「……久しぶりといったところだな。 バハムート……カーナの守護竜」

あの日、あのカーナの城で、俺を逃がすために力を貸してくれた神竜。

今、この場面で俺と対面するその真意とは?

あれから、すでに三年だ。

それまで一言も喋りかけてさえこなかったあんたが……何故?

『我が主よ、そのままでは足りぬ』

「足りない?」

何が、とは聞かない。

神竜と心を通わせることができるドラグナーではない俺には普通分からないのだが、なんとなく感情だけは分かった。

彼、――バハムートは反乱軍のリーダーであるビュウ、つまり俺を心配してくれているらしい。

眼と、声に含まれていたであろう感情が俺に伝わってくるのだ。

『そう、その程度では足りぬ。 おぬしでは我の力をまだ使えぬ』

「当たり前だろう? 俺はドラグナーじゃ――」

『そうではない我が主よ。 そなたはこの我が認めた主である。 ドラグナーのような力の使用こそできぬが、それ以外の使いようがある』

そういうとバハムートは一つの幻想を魅せる。

夢という属性を用いたその幻視は、とある剣士の姿を映し出す。

輝ける金色の髪に翡翠の瞳。

こちらをただ見つめるように映し出されたのは、一人の女性だった。

小柄ではあるが、王家の姫君もかくやといった秀麗な容姿。

しかし、バハムートが見せたいのはそんなものではない。

「あれは!?」

思わず眼を見開いた。

彼女の腰に刺さった二本の長剣。

その剣を彼女が抜いた瞬間、映像越しの彼女が金色の光に包まれる。

さらには、抜き出した二本の長剣にもまた圧倒的な輝きを灯して、次の瞬間には全てを飲み込む閃光となった。

「な、なんだこれは……」

冷や汗を禁じえない。

コレは、本当に人間に放てる一撃なのか?

ラグーンをタダの一撃で割り、その先にいる全ての敵を薙ぎ払った黄金の斬撃。

あれの前では、もはやどのような堅牢な城や城砦であろうと薄紙に等しい。

『これが、本当のクロスソードの一撃だ』

「これが?」

眼を凝らしてみる。

彼女が剣を振るうたびに、周辺の敵全てが屠られていく。

圧倒的な惨殺であり、これはもはや戦争ですらない。

これが、クロスナイトに伝わる最強の剣士の力だというのか?

いつの間にか握った拳が、冷や汗で濡れ、怖気の走るような光景に戦慄する。

だが、コレでさえ終わりではないらしい。

瞬間、女性の背中から一対の翼が生えだした。

「竜の翼?」

それは、まさしく竜の翼だった。

あのような強靭な翼、ドラゴン以外のどのような生物にもありえない。

『彼女は神竜の因子を持つ竜の子である』

空を飛翔するその竜の化身は、暴風のように荒れ狂う。

逃れた敵を、ただの一人も逃さぬように二種類の剣で叩ききる。

その膨大な魔力の胎動はオレルスの空を振動させ、伝播する破壊の力は全てを飲み干す竜の吐息にも等しい。

絶対の破壊者、そういえるだろう。

これは、なんだ?

これがクロスソードの伝説だというのか?

嫌な汗が背中に流れるのを感じた。

その冷たさで我に返ったときには、バハムートはすでに映像を消し去っている。

どうやら、見せたかったものは終わったらしい。

『あれが、汝が目指した領域である。 その場所に立つ意思があるというのなら、我を呼べ。 我が神竜の因子となって汝に力を貸そう』

「あんな馬鹿げた力、俺に扱えるって、そういうのかバハムート?」

『当然だ。 ドラグナーとは似ても似つかぬ汝であるが、あの程度ならば意思と我との相性によってどうとでもなる。 ただし、命の保障はできぬが――』

そういうとバハムートは伝えたかったことは終わりだとでも言うように、この領域から離れていった。

存在感が希薄化していく。

用はそれだけだと、後は自分しだいだとバハムートは去っていった。

いや、彼はまだ確かに俺の中に存在している。

ただ俺の意識に干渉していないだけで、その圧倒的な魂やらはこの身の内にあった。

俺はただの倉庫である。

ただ、そんな入れ物でしかない俺をバハムートは主と呼ぶ。

その理由は分からないが、俺にはそんなことはどうでもよかった。

人を超える力を手に入れられるという現実、それを受け入れるかどうかの選択しなければならないのだ。

それがどのような代償を払うことになるのかも知らぬままに。

「まあ、いいか。 覚悟だけはしておくさ……サンキュー、これは立派な切り札になりそうだ」

回想は終わりだ。

もう、終わりが近い。

この領域はもう、おそらくすぐに終わるだろう。

そうでなければ、俺の現実が始まらないのだ。

さあ行こうか。

絶望の後にある未来、何も得るものが無い未来を紡ぎに。

オレルスの空が、無限に広がりながら俺たちを待っている。

なあ、バハムート。














――反乱決行日。

空を翔る4種のドラゴンがあった。

サラマンダー、モルテン、サンダーホーク、アイスドラゴン。

火、回復、雷、氷の属性がそれぞれ得意なドラゴンに、俺たち兵士が乗り込んだ。

「皆の者!! これより、グランベロス帝国への反乱を開始する。 用意はできておるな!!」

「マテライト殿、ヘビーアーマー部隊準備オーケーでアリマス!!」

「うむ、タイチョー。 おぬしの国マハールを救う戦いもこれが初戦じゃ。 心してかかるのじゃ」

「了解でありマス」

サンダーホークに乗ったのは、カーナとマハールから逃れた重装部隊。

防御力と耐久力では部隊内最強の部隊である。

反乱軍は、これまでさまざまな国から落ち延びて行き場をなくした者や、故国を帝国に奪われた者たちで構成されている。

彼らは皆、自国とこのオレルスの空を平定した帝国から全ての国を解放するために立ち上がった者たちだ。

その士気は高く、皆が一致団結して帝国打倒に燃えている。

「やれやれ、危なくなったらすぐに後退するんだよ? 私たちプリーストがいるんだからね」

「ビュウ、気をつけてね」

モルテンに乗りこんだプリーストたちが突撃しそうな騎士たちに釘を刺す。

「フレデリカも気をつけなよ。 俺たちが前線の敵を潰していくとはいえ、伏兵とかが居る可能性もあるから」

「大丈夫よ、私たちはビュウたちを信じてるもの」

「おいおいビュウ、こんなときにイチャイチャするなよ?」

「隊長、不謹慎ですよ」

「アニキ、モテモテだね」

「煩い、三人とも準備はいいな?」

「「「おーー!!」」」

サラマンダーに乗っているナイト三人組の返事を聞きながらちょっとため息。

ラッシュ、トゥルース、ビッケバッケは俺の部隊の人員のナイトなのだが、斬り込み隊としてはかなりの力を持っている。

耐久力と防御力ではマテライトたちに負けるのだが、機動力と攻撃力に関しては勝っている。

一長一短の兵士の特性を把握して部隊を編成し、部隊を勝利へと導くのがリーダーの俺の役目だ。

一人で突っ走ることがないように、自重していかなければならない。

だが、俺は最前線で戦う必要がある。

「ビュウ、大丈夫かな? ワシとっても心配」

「大丈夫よセンダック、ビュウたちを信じなさいって」

アイスドラゴンに乗り込んでいるウィザード部隊だ。

この後の作戦で俺たちの旗艦となる戦艦の、艦長になる予定のセンダックや他のウィザードを乗せている。

「大丈夫、先に乗り込んでいる奴らもいるんだしどうとでもするさ」

そう、すでに密偵は放っているのだ。

外と内側からの二重の挟撃で帝国の奴らを戦艦から叩き出すだけ。

これからの戦争の前哨戦としては、肩慣らし程度の作戦であろう。

故に、この程度にてこずるような部隊ならば、これから帝国と戦っていけるはずはない。

「うん、がんばろうね」

落ち着きを取り戻すセンダック老師。

だが、俺も不安はあった。

鍛え上げてきた力が、どの程度まで奴らに通じるのか。

どれほどパルパレオスたちとのレベル差があるのか。

本当に勝ち続けることができるのか。

不安は、闇の中から俺の頭によぎっては消えていく。

そのたびにあの最悪の情景が頭に浮かび俺を苛む。

まるで、拷問にも等しい。

自身のトラウマが強制的に呼び起こされるという馬鹿げた現象を振り切るためには、俺自身が少しずつ自分に自身を持ってのし上がっていくしかないのだ。

だから、歓喜と恐怖が俺なかをめぐっている。

雑魚相手だからといって、手を抜くような真似はできない。

己の力量と、これからの展望のために自らの力と仲間の力を把握せねば。

「よし、みんな行くぞ!! 作戦開始だ!!」

「「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

4騎の竜が空をかける。

それぞれの背中に俺たち矮小な人間を乗せて。

さあ、コレが俺たちの始まりだ。

グランベロス帝国皇帝サウザー、そしてその右腕のサスァ=パルパレオスよ。

俺たち故国を奪われた者たちの力を、その眼にしかと焼き付けろ。

これが俺たちオレルス反乱軍の産声だ!!




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