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バハムートラグーンIF01

 2007-09-23
――緑の大陸キャンベル。

元カーナ旗艦の戦艦を取り戻した俺たちオレルス解放軍は、今そこに来ているという元カーナの姫であるヨヨと、帝国皇帝サウザーがいるという情報を元にキャンベルの辺境の大地に踏み入っていた。


キャンベルは巨大な面積を持つラグーンであり、その豊かな土はオレルスの食料庫と呼ばれるほどの実りを持っている。

その自然豊かなキャンベルラグーンに、なぜ皇帝自ら少数の護衛だけでやってきたのか?

真意のほどは分からないが、これは俺たち解放軍にとってはチャンスだ。

情報を元に、サウザーがやってきたとされる城砦に俺たちは進行を開始した。












「サンダー・ブレイク!!」

雷を纏った剣が、その力を解放する。

焼き尽くす炎とは違って、焼き焦がす雷の一撃は破壊することに特化した攻撃だ。

小さな砦の上にいた槍兵や、その周囲で回復呪文を唱えていた敵兵を瓦礫の下へと誘う。

「ひゅぅーさすがビュウ」

「これじゃあ、私たちウィザードの立場がないわね」

ラッシュとアナスタシアが感嘆の声を上げる。

俺はそれに首を振ってたいしたことはないというと、さらに奥に切り込むべく指示を出す。

「サラ、行け!!」

竜笛を鳴らし、サラマンダーに指令を出す。

俺の命令を理解したサラは、その巨大な翼を羽ばたかせながら突撃を敢行。

砦の内部にいる敵に向かって、炎の吐息を浴びせる。

人間など食らえばすぐに火達磨になるほどの超高温の炎は、敵対する敵を飲み込む地獄の炎(ヘルファイア)。

断末魔の叫びを上げながら、炭と化していく敵兵。

戦場はどこでも阿鼻叫喚だ。

人を殺す手段など無数にある。

その中で、ただ敵を倒し自分たちの道理を押し通せるだけの純粋な力こそが全てを決める。

後ろにいるフレデリカは、その敵の断末魔の叫びに頬を強張らせているが、俺にはそれに掛ける言葉などない。

リーダーとして敵を殺せと命じている俺には、彼女の不安を取り除くような言葉などもっていないのだ。

「いくぞ、まだまだ門を一つ落としたぐらいだ、急いで次も破壊するぞ」

「おう!!」

戦竜隊には見慣れた光景だ。

ラッシュはすぐに俺に続き、剣を構える。

「アナスタシア、フレデリカ、敵のレギオンたちに突撃する。 援護任せた」

「了解!!」

「は、はい!!」

集団で向かってくる敵兵。

それに向かって剣を構えながら、俺はラッシュに目配せする。

竜笛を吹き、サラマンダーを近くに寄せると突撃させる。

竜の突撃によってくもの巣を散らすように逃げ惑う敵兵に向かって、俺たちはすでに瓦礫とかした砦の影から飛び出した。

「はっ!!」

「せい!!」

俺とラッシュの掛け声が戦場に轟く。

ラッシュの上段からの切り下ろし、俺の左右の剣の切り下ろし。

それによって敵は鮮血を撒き散らしながら倒れ付す。

「く、ちくしょーーー!!」

声から察するに若いレギオン兵は、倒れ付す仲間に下された死の鎌を持った俺たちに突撃してくる。

もう一人はすでにサラマンダーの爪と牙の餌食となっているので、コレはもはや決死の覚悟の突撃であった。

死なばもろとも。

一矢報いるためのその行動は、しかし刃が俺たちに届くことなどありはしない。

「ビュウ、ラッシュ!!」

背後を振り返れば、魔力風にローブや髪をはためかせるアナスタシアの姿。

意を汲み取って俺たちが後方に飛んだ瞬間、ウィザードの炎術が放たれた。

「フレイムゲイズ!!」

サラのヘルファイアには劣るが、人間を焼き殺すには十分な威力を誇るそれは決死の覚悟を決めたレギオンを飲み込む火柱となる。

「ぐわぁぁぁぁぁぁ」

叫びが木霊する。

そのむごい姿をそれ以上見ることなく次を目指す。

戦場ではそれはよくある光景である。

惨殺される光景、焼き尽くされる光景、四肢を吹き飛ばされる光景、いくつもの死の危険性が戦う兵士には付きまとう。

そうなってでも守りたい何かが背後にあるかぎり、俺たちはこのたった一つの命を散らす覚悟で戦うのだ。

だから、彼らに哀れみを持ってはならない。

彼らの死を振り返り、奪った俺たちが奪われるようなことになってはならない。

死の連鎖は、しかし踏みにじったものがいき続ける限りその糧となり続け、無駄に散った命であるといえなくなるのだ。

儚く散った命は決して無駄ではない。

否、無駄にしてはならないのだ。

それが戦争であり、殺し合いのルールである。

奪ったからには、自らの目的を達していかなければ踏みにじってきた命の価値に価値を見出せなくなるから。

だから、動き始めた俺たちは止まることを許されない。

「うぉぉぉぉぉぉ、インスパイア!!」

近くの小さな砦からマテライトの叫びが聞こえる。

パレスアーマーであるマテライトの使える破壊の技だ。

その雷を纏った一撃は、破壊の技に相応しく橋だろうと門だろうと吹き飛ばせるほどの威力を誇る。

「サンダーダスト!!」

マテライトとは反対の方向、ランサー二人組みのスローランサーがこちらも同じく砦をふきとばしては前進を開始する。

今回の戦いは5つのドラゴンによって戦闘がなされている。

中央突破の俺たちサラマンダー、その両脇にいるマテライトとこの前カーナ旗艦を奪還するために内部に潜入していたランサー部隊に、別働隊の二部隊。

この地が辺境ということもあり、かなり敵の布陣は甘い。

だが、それでも脅威である敵も存在する。

それが城砦への道に配置されているカタパルトの存在だった。

城砦を目指す間に両サイドから遠距離の大砲で狙い撃たれては、俺たちはタダではすまない。

ドラゴンでも何発も食らえば危険であろう。

だから、その二つの砲台を破壊する任務を二部隊がこなすのだ。

そうして、後は突破力を持つ俺たちが一気に城門をぶち破って城を占領する。

破壊部隊にはそれぞれトゥルースとビッケバッケ、プリーストとウィザードが一人ずつに志願してきたプチデビが向かっている。

予定ではそろそろウィザードの合図である魔法弾があがるはずだが……。

「来たぜビュウ!! 突撃の合図が二つ!!」

ラッシュが歓声を上げ、両方を指差す。

俺もそれを視界に確認すると、竜笛を吹く。

「全軍、行け!!」

「「「GUOOOO」」」

ドラゴンの超感覚が俺の発した竜笛を聞き、即座に命令を実行する。

俺たち歩兵より先行して、一気に敵陣へと切り込んでいく。

彼らの吐息、彼らの強靭な体躯で攻め入られては城内は騒然とすることだろう。

「よし、俺たちも行くぞ。 ドラゴンたちだけに負担を掛けるわけにはいかない!!」

突撃の最終的な合図をあげる。

中央から放たれる魔法弾。

それを合図に、俺たち解放軍は城砦へとなだれ込んだ。












「姫様ーーーー、マテライトですぞーーー」

「我輩はタイチョーでありマスーーー」

率先して城砦に突撃していくマテライトとタイチョー。

「ちぃ、誰もいやしないぜ」

「どうやら、すでにサウザーも姫様も立ったようですね」

「どうするのアニキ?」

それに遅れるようにして、進入してきた俺たちは、城の中の人の居なささに眉をしかめる。

(はめられた? いや……だとしても俺たちの反乱から時間はそう立っていない。 帝国本国からの情報では俺たちはまだノーマークのはず……だとすれば一体なぜ?)

考えてみるが、答えなどわかりはしない。

そもそも、なぜあの時サウザーがカーナからヨヨだけを連れて行ったのかすら分からない。

カーナ王家にあるドラグナーの血が目当てだったのか?

だとしても、今まで動き出さなかった理由が分からない。

「ビュウ、来てくれ!! 逃げ遅れたレギオンがいやがった!!」

マテライトを追っていたラッシュが、大慌てでやってきた。

「マテライトやタイチョーがどうやら拷問でもしようかと考えてるみたいだ。 どうする?」

「……とりあえずそのレギオンにあってみよう。 拷問が必要かどうかは、そのときに決めよう。 トゥルース、部隊の補給と出撃の準備を頼む。 ビッケバッケ、竜を呼んでおいてくれ餌あげないけないしね」

「「了解!!」」












「さあ、吐け、吐くのじゃ姫様はどこにいるんじゃ!!」

「吐くでアリマス!!」

「わ、あわわわわわわ」

二人の重武装兵に囲まれ、新兵らしきレギオンは恐怖に震えていた。

「マテライト、ちょっと待ってくれ」

「むぅ、ならばビュウに任せようかの。 姫様の行方をしっかりと聞き出すんじゃ!!」

血気盛んなマテライトはお預けを食らった反動からか声が荒い。

それも当然か。

マテライトは幼少の頃からのヨヨを知っている。

カーナの騎士団団長であり、カーナの王からもその勇猛さと力を認められていたマテライト。

ヨヨのことをまるで自分の孫のように可愛がって、大切にしていた。

カーナが滅びてから3年、ヨヨの存命を知り動き出すきっかけを作ったマテライトの中には、今も守るべきヨヨの姿が心にあることだろう。

(忠義も捨てた俺とは違ってな……)

正直に言えば、その真っ直ぐなマテライトが俺には羨ましかった。

もう、俺には彼女を守るために命を張るなんてことはできない。

できやしないのだ。

「さて、じゃあレギオン君。 君の知っていることを教えてもらおうか。 偽証すればどうなるかは分かるな?」

勤めて優しく、しかし眼光は射抜くように語り掛ける。

「もうすでにこの周辺の帝国軍は俺たちが掃討している。 助けを待っても無駄だぞ」

「ひぃぃぃ、助け……命だけは……命だけは……」

「正直に言えば、君は捕虜として扱うさ。 さて、じゃあ質問タイムだ。 ヨヨ――元カーナの姫君とサウザーはどこへ向かった? 本国に帰ったのか?」

「し、知らない!!」

「タイチョー、ラッシュ、こいつを抑えてくれ」

「やめ、やめてくれーーー」

抑えられたレギオンが喚くが、屈強な男に抑えられたレギオンはそれから抜け出すことすらできない。

「さて、もう一度聞くぞ。 サウザーとヨヨはどこだ?」

「し、しらな――わはひゃひゃひゃひゃひゃ」

その瞬間、俺はくすぐりを開始した。

ドラゴンの餌にしてもいいのだけれど、さすがにそれは気が引ける。

できるだけ平和に解決させることも必要だ。

「さて、どうする? このまま笑い死ぬか、それともドラゴンお餌になるか。 喋れば捕虜として帝国まで送ってやるぞ」

「わ、わひゃひゃひゃひゃひゃ……言う、言うから、やめ……わひゃひゃひゃひゃ!!」

「よし、さあ教えてくれ」

「サ、サウザー皇帝は、北西の森に向かった!! 姫様も一緒だ!! ほ、本当だ!!」

「北西の森ねぇ……そんなところに何があるんだ?」

「コレ以上は俺も知らない!! 信じてくれ!!」

必死に言い募るレギオン。

どうやら、本当に知らないらしい。

と、その瞬間城砦が揺れた。

――ズゥゥゥン。

「なんだ?」

ラッシュが眉をひそめるが、弾かれたようにマテライトとタイチョーは部屋を飛び出す。

俺もその意図を悟って、レギオンの腹部に当身を喰らわして昏倒させるとラッシュを引き連れて引き返すことにする。

「帝国の援軍? だとしても早すぎるぜビュウ!!」

「元々皇帝の護衛としてはさっきの数は少なすぎる!! 後々で合流する手はずだったのかもしれない!!」

階段を駆け下りながら、そういうと一気に皆が待つ広間へと向かう。

「トゥルース、ビッケバッケ準備はどうだ!!」

「すでに完了しています。 後は出撃を待つだけです!!」

「こっちもいいよ!! ドラゴンの餌は僕がやっておいたよ」

「よし、連戦で疲れていると思うが、これを撃退すればサウザーは丸裸のはずだ。 一気に蹴散らしてサウザーの後を追うぞ!! 出撃!!」

「「「「「おう!!!!!!」」」」」











ドラゴンソード

第一話














反乱軍の強みの一つは、その豊富な軍の兵種である。

戦争ではただ数があればいいというわけではない。

勿論数が多いというのはそれだけで力となるが、質が高く、さまざまな戦術を展開できる幅の広さも一つの強みとなる場合がある。

それに、反乱軍は竜という一騎当千の存在を持っている。

彼らの持つ移動力と突破力に、戦闘に合わせて兵の役割をあわせた布陣に持っていく作戦立案をするビュウの存在は、反乱軍にとって状況を有利に運ぶ勝利の要因となる。

特に、数では圧倒的に不利なのである。

その差を覆すだけの采配と、兵の質が反乱軍のこれからを支えていくことになる。

この戦いもそうした背景ゆえに、反乱軍は押しに押すことになった。

帝国の援軍は三方向から迫ってきている。

それら全て歩兵部隊であり、空戦部隊は一騎も無い。

空からの偵察によりすぐに戦闘のあらかたの進め方を考察していたビュウは、すぐに自らの作戦を仲間たちに伝令する。

まず、部隊を三つに分けることを考える。

盾、槍、剣とそれぞれの役目にあわせた編成を行い、後衛の魔術師部隊を二種類作る。

普通戦力を分散させるのは愚であるが、この場合はそうではなかった。

今いる城砦の北には山、東と西には広大な森林を持っている。

南には反乱軍が破ってきた門とそこにいたる橋があり、歩兵が雪崩れ込むには容易な状態である。

だから、まずはこの橋を落とし、敵の進行を妨げた上でドラゴンによる強襲をかけるのにまず一部隊――。













「「サンダーダスト!!」」

それは軽装で足の速い部隊だった。

城砦の南部に向かったドラゴンが一騎ある。

サンダーホークに乗り込んだ槍兵の兄弟は、懇親の力を込めて槍を投擲。

雷を纏ったその一撃は橋を粉々に粉砕する。

「よっしゃーーーー!!」

「うん、次にいくよ兄さん!!」

槍を手に、急ぎ走るのは二人のランサーだった。

その先には、すでにある程度の距離を走破しているライトアーマーのルキアとプリーストのディアナの姿がある。

こちらにいるのは、情報では魔術師とレギオンの小隊が二つ。

そこを一部隊で殲滅するのがこの軽装部隊の仕事である。

サンダーホークに乗り込んだ槍兵が、橋に迫るまえの山道からやってくる部隊の前に回りこみ先に位置についていた二人に合流する。

「着たわね……準備はいいかしら三人とも?」

「おう」

「はい」

「いつでも」

小隊のリーダーを任されたルキアは、うなずくメンバーに確認を取り万全の準備をする。

「では、始めましょうか。 ホーク、お願い!!」

「GHYAAA」

象と猪のようにも見える巨躯を誇る竜が、雷をその身に奔らせながら雄叫びを上げる。

意を汲み取った竜が、行く。

次の瞬間、空に舞い上がったホークは山道を下り出していた敵二部隊の後方から奇襲を掛けた。

雷鳴が轟き、集団の頭上から落ちる雷の鉄槌。

サンダーホークの得意とするエレクトロンだ。

焼き焦がす雷撃は、二個小隊の丁度中心に落ち、周辺の木々をなぎ倒し大地に裂傷を刻む。

「な!?」

「竜だ、応戦開始!!」

浮き足立った敵がホークのほうに注意を向けた瞬間、下から駆け上がるのは軽装のランサー二人組み、フルンゼとレーヴェだ。

その数歩先を先行するのはもっとも足が早いルキアである。

遅れてくるディアナは、しかし詠唱を済ませながらゆっくりと道を進む。

一見無防備ではあるが、今このときに限ってはそうではない。

上と下から挟撃される格好となった敵は、ホークの相手に忙しいのだ。

「GUOOOOO」

ホークが散発的に放つ雄叫びは、下から迫る三人の足音を消し去り、魔術師を狙うに格好のシチュエーションを作り上げる。

そんな思惑を知らずに魔術師は術を編み、その詠唱の隙を守るためにホークの注意を引こうとするレギオン。

「アイスマジ――」

集団で高まった魔力を開放しようと、一斉に目標であるホークに狙いを定めた魔術師たちは一人としてその魔術を放つことはできなかった。

レイピアに、そして鋭い槍に貫かれた魔術師たち。

一人だけ貫かれた者はいなかったが、その者はすでに意識を失って昏倒している。

プリーストのディアナが放ったスリーピンの魔法によって深い眠りに落とされたのだ。

「よっし、後はレギオン4人!! 各個撃破するわよ!」

「くそ、はめられたか!?」

レギオンを率いていた小隊長が青ざめたように、武器を構える。

だがすでに勝敗は決しているのだ。

背後には巨大な力を持つ竜、前には一瞬で魔術師を屠った兵三人と背後のプリースト。

どのような実力者であろうとも、レギオンクラスの実力しかない彼らにこの状況を打破するだけの力は無い。

だが、彼らは引けなかった。

逃げ帰ったと知られれば、キャンベルを治めている将軍に何をされるか分からないのだ。

豪腕を持つその将軍の鉄槌を下されるのは眼に見えている。

だから彼らはおろかな選択をした。

捕虜になるという選択さえあったというのに、冷静な判断さえできなかったレギオン兵はその命を散らすことになる。

「ちくしょうーーーー!!」

切りかかる。

ショートソードを振り上げて、一番弱そうに見える軽装の女に。

それに続く残りの兵士。

だが、先に進めたのは二人だけ。

残りの一人は、ホークの巨大な顎によってかみつかれている。

「ぐわーーーー」

絶叫を背後にしながら、レギオンは奔る。

せめて、前へ。

この包囲を突き破り、城砦にたどり着ければ――。

「はっ!!」

それを阻むのはブランドの髪を揺らす女騎士。

ルキアは振り下ろされた剣を受けるような真似はせず、マタドールよろしくひらりとかわす。

予想した手ごたえがなく、たたらを踏んだ小隊長は次の瞬間怒涛の突きに晒される。

「サンダータワー!!」

舞い落ちる連続の雷。

幾度もの刺突の後に落ちる雷光に晒されて、レギオンはそのまま息絶えた。

最後に見えた、女騎士の美しさに心を奪われたまま。

その両隣でも、ランサーに胸から貫かれたレギオンが二人いた。

これで、この場での戦闘は終わりである。

橋も落としたし、もし援軍がさらにこようが少しの時間稼ぎもできるだろう。

「……行きましょう。 これで背後から襲われる心配は消えました」

ルキアはレイピアを伝う血を拭いながら鞘に収め、味方の援護に向かうべく皆を促してホークに乗り込んだ。











――城砦の東西にあるのは深い森。

北の山は敵に空戦戦力が無い限りやってくることは稀である。

山越えをするならかなりの時間がかかるしそんなことをしても竜がこちらに居る時点で、匂いによる察知が可能であるのだ。

だから、警戒を放棄しても構わない。

それよりもまずすべきことは、左右からの挟撃する部隊を撃破すること。

しかし、これには二部隊ずつあたっても時間はかかる。

より安全に、より確実に敵を倒すためにはこの森を利用しない手は無い。

そして西側から向かってくるのが敵の将軍であるということを考慮するなら、西側の苦戦は必死である。

長期戦に耐えうる耐久力、そして森を利用して戦う必要があるというのなら、選ぶ人材は決まっている。

マテライト率いる重武装のヘビーアーマー部隊と、森を焼き払えるだけの火力を持つウィザードと長期戦のための回復を担うプリーストの混合部隊だ。

それで敵の本体を足止めしている間に、他の二部隊が南と東の敵を倒して援軍に駆けつける。

東はそのまま走り、竜で敵の後方から挟撃。

これで詰みとなる――。















――城砦の東側。

深い森林が続くその上を、二騎の竜が飛んでいる。

アイスドラゴンと前回の戦いから一緒に戦っているツインヘッドと呼ばれる双頭の竜である。

乗せているのはナイト二人ずつとプチデビにプリーストで構成された混合部隊だ。

その上には反乱軍のリーダーであるビュウの姿もある。

こちらに突破力の高いナイトが采配されているのは、速さが勝負の鍵を握っているためであった。

耐久力に優れているとはいえ、西側はかなりの猛攻に晒されることになるだろう。

その負担を限りなく軽減するためには、後方から敵の意表をつくためのこの部隊は、できる限りの最大スピードをもって敵を駆逐せねばならない。

ツインヘッドに乗り込んだのはラッシュとトゥルースにプチデビルのモニョとウィザードのエカテリーナ。

アイスドラゴンにはビュウとビッケバッケ、そしてフレデリカとマニョである。

敵は上から見たところ魔術師部隊のようで、おそらくは森ごと焼き払えるような火力を持っていると推測される。

そらに言えばその数が多い。

少なく見ても4小隊はいるように見える。

前衛のレギオン兵もいるようだが、その数は申し訳程度でしかない。

「よし、いくぞ!!」

敵部隊が森林に踏み込んだことを確認すると、挟撃するために二手に分かれる。

アイスドラゴンに乗っているビュウは、まず彼らの横から降り立つ。

深い森林によって頭上の様子が分からぬ彼らから少し離れた場所に降り、ドラゴンを先行させる。

氷の蛇とも思える容姿をしているアイスは、森林を縫うようにして這い回る。

まるで大蛇のようなその姿に苦笑しながら、アイスに向かって放たれるフレイムゲイズの着火音が止んだところを見計らって突撃する。

「くそ! 気をつけろこの竜結構やるぞ!!」

タダの野良ドラゴンとは違って、よく調練された戦竜は森林を高速で移動しながら敵の魔術師を蹂躙する。

フレイムゲイズの黒魔法を放つ魔術師に、自らの氷の吐息(アイスブレス)をぶつけて相殺しその巨躯を用いて押しつぶす。

翼を持たぬアイスだからこそできる戦術である。

アイスはあまり接近戦を好む竜ではないが頭はいい。

自分の力の振るいようをよく知っているのだ。

「はぁぁぁぁ!!」

「てや!!」

そこに、ビュウとビッケバッケが切り込む。

「く、伏兵だ!! 気をつけろ!!」

敵の小隊長が悲鳴にも似た怒号を発し、竜に翻弄されている部隊をまとめようと躍起になる。

だが、それがなる前に現れた二匹目のドラゴンがそれをさせなかった。

放たれる炎と氷。

双頭の竜であるツインヘッドは、同時に違う属性の吐息を持って戦場に現れた。

高速で大地を駆けるその姿は、一見すれば太古に絶滅したという肉食動物のそれに酷似している。

だが、それを凌ぐほどの強靭さを持つこの種族は、決してただの肉食獣ではない。

絶対の力と最強の力を誇る竜にその身をおく存在なのだ。

たかだか矮小な人間を蹂躙するのに、苦など無い。

決してドラゴンを人間が倒せないということではないが、人の持つ知恵と武器と最高の武力が無ければ彼らを屠るのは難しい。

一騎でさえ手を焼く存在が二騎いるのだ。

辺境にやってきた皇帝の護衛としか聞いていなかった援軍にとって、それは悪夢にも等しい現実である。

「おらぁぁぁぁぁ、フレイムパルス!!」

竜の背から飛び下りるラッシュが、炎を纏った剣を振り下ろす。

その一撃は、やや離れて詠唱していた魔術師を炎刃でもって焼き尽くす。

そして隣では、同じく飛び下りたトゥルースが同様の技を持ってラッシュを狙って迫ってきていた敵を焼く。

「着地時はもっとも隙ができますよ、もう少し回りを見てからの方がいいですよラッシュ」

「へっ、お前が何とかするだろう? 俺が切り込みでお前が状況にあわせて動く、適材適所だろ?」

「ふぅ……もう少し頭を使ってくださいよっと」

自分がいなかったらどうする気だったのかとトゥルースは言うが、それをラッシュは聞き流す。

彼はそういうときが来るなど少しも考えてはいない。

トゥルースとビッケバッケとは死ぬまで身近にいるだろうと本能で確信している。

だから、彼らがいるのならば彼らのやり方でやるのだ。

「大きいのいくわよ!!」

エカテリーナが叫びにも似た合図を送る。

それに気づいたラッシュとトゥルースは一旦エカテリーナのいる場所まで下がる。

と、エカテリーナにその猛っている魔力を開放させまいとレギオンが二人踊りかかった。

「させるかよ!!」

「うらぁぁぁぁぁ」

銀鋼が煌いて、今にもエカテリーナを切り裂こうと迫ったが、それを防ぐために配置された人員がそれを阻むべく踊った。

見間違いなどでは決して無い。

この存在は戦場で踊っているのだ。

人ではない種族、プチデビルという存在であるモニョである。

彼女が踊るのはデビルダンス。

摩訶不思議な効果をもたらす魔のダンスであった。

「モニョニョーーーー(プチデビを忘れんなーーー)!!」

自然に干渉する魔性の踊りは、その力を容赦なく発揮する。

モニョの全周囲の自然が彼女によって干渉され、空間ごと焼き払う火炎放射となってレギオン二人を飲み込んだ。

「お、やるじゃねーか」

「さすがですね」

目の前で起こった超越現象に驚くラッシュとトゥルース。

「モニョーー(当然だぜニンゲン)!!」

それに答えながら、さらに踊りを激しくするモニョ。

頼もしいダンスに、二人は顔を見合わせて剣を構える。

「よし、いくわよ……ありがとねモニョ!! アイスマジック!!」

プチデビルの踊りが自然に干渉する魔の踊りなら、ウィザードの放つ魔術は自然を超越した魔の術だ。

いきなり、何も無い空間の中心部に吹雪が発生したかと思うと、周辺をその猛威でもって凍りつかせる。

おおよそ自然現象のなんたるかを無視するその一発は、魔術を唱えていた魔術師を凍えさせ、冷凍保存されたマグロのような氷塊とした。

「ま、こんなとこかな?」

――ニヤリと笑みを浮かべ、魔術師は冷笑した。

その笑みが魔性の笑みだったことから、男二人はゾッとする。

(あー、魔術師の奴らに手を出したらやっぱやばいことになるな。 やっぱ俺、姫様一筋でよかった)

(……素敵ですね)

安堵するもの、違う意味でゾッとした者様々だが戦場はまだまだ乱戦中だ。

「よっし、次いくぜ」

攻め寄ってくる敵兵を倒すべく、ラッシュは先陣を切った。



















――城砦西の森林。

「「「フレイムゲイズ!!」」」

詠唱によって紡がれる魔の炎。

森林を蹂躙するその業火は、森林を走破していた敵軍ごと飲み込んでいく。

「GHUOOOOOO!!」

それに続くは地獄の炎(ヘルファイア)。

サラマンダーの炎の吐息である。

火刑に次ぐその火刑は、西からの猛攻を抑えるファイヤーウォールだ。

火とは生物が本能的に恐れる御業である。

獣はそれを本能的に危険だとしっているし、理性のある人間はそれに飛び込むような愚を冒すことはない。

だが、道がそこしかないというのなら肌を焼くほどの業火を前に飛び込まねばならぬときもある。

「ちっ、どこのどいつか知らんが、俺様の領土に踏み入っているとはいい度胸だ」

燃える炎に舌打ちしながら、このキャンベルを統べる帝国の将ゾンベルトは眉を顰めた。

本国の皇帝サウザーが、亡国の姫を連れてしばし滞在すると聞いたときから嫌な予感はしていたのだ。

それが、まさか反乱軍を呼び寄せることになるとはまったくもって想定外だ。

炎の向こう側に突撃したもので帰って来る者は誰一人としていない。

時折聞こえる生物の唸り声と、その雄叫びはまるでその先が地獄への入り口であるかのようにゾンベルトには感じられた。

魔術師部隊はほとんど西の方からやってくる手はずであったが、今からそれを呼び戻すとしても時間がかかりすぎる。

それに、後ろにはプリーストがいるのだ。

少々の火傷ならば、癒せるし時間がたてばこの業火では森林が燃え尽きる方が速い。

突撃できないのが残念だったが、炎の向こう側で敵が陣を引いていることは明白である。

ならば、不用意な突撃は兵を減らすだけの愚考でしかない。

戦争によってのし上がってきたグランベロスの将はそう考えると突撃を取りやめ、様子を見ることにした。

それが後に自らの首を絞めることになっているとも知らずに。


一方、その炎の向こう側では重武装部隊を率いるマテライトと、ウィザードとプリーストの混合部隊を指揮するセンダックの姿があった。

「うん、ビュウの作戦うまくいってるみたい。 後ろからサンダーホークが戻ってくるのが見える」

「ふむ、ならばこれでここが突破されることはないのう。 ワシの戦斧の出番が少ないのは我慢するがの」

散発的に魔術を放っているウィザードたちに比べると、マテライトたちが屠った数は少ない。

元々歩兵ばかりだったし、このファイアーウォールの前で不用意に突撃できるようなものなどほとんどいないのだ。

帝国兵の誰もが二の足を踏み、意を決して飛び込んだところでドラゴンと黒魔法、そして重厚な布陣を有する騎士たちの守りを突破することはできない。

勇猛で知られるゾンベルト自身が飛び込んでくればどうなるかは分からないが、彼が待ったをかけている以上、この陣が破られることなどありえないのだ。

「団長、ルキア以下サンダーホーク隊帰還しました!!」

「おお、ルキアか。 戻ってきたところ悪いが、まだまだ出番はないぞい」

報告を聞いていたマテライトは、冗談めかしてそういうと炎の向こう側、北西の方向にある森に思いを馳せた。

(ヨヨ様、このマテライト……絶対にヨヨ様をお救いいたしますぞ)

戦闘はまだまだ終わらない。

むしろ、最後の敵軍本体との死闘を前に徐々にその激しさを増そうとしていた。



















――城砦の北側。

山の向こう側を疾駆する二騎がある。

すでに東の魔術師部隊は突破して後は西の援護に向かうだけだったが、ここで思わぬ敵に遭遇することになった。

唐突にビュウは二騎を大地に降りさせる。

青空の向こう、どうやらその青空に負けぬほどの青を称えて飛行する物体が見える。

「GHUUUU」

乗っていたアイスドラゴンもまた、その竜の存在を知覚したらしくうなり声を上げた。

「どうしたんだよビュウ!!」

怪訝な様子でビュウを眺めるラッシュであったが、アイスドラゴンのただならぬ様子から敵の姿を察知した。

「……ビュウ」

後ろに乗っていたフレデリカは、彼女の嫌いなビュウが現れたことに震える様子で問いかけた。

「……フレデリカ、マニョ、ビッケバッケ。 あいつは俺が抑える。 ラッシュたちと一緒に一足先に行ってくれ」

「はぁ!? お前何ってんだよ」

「隊長、敵は一体とはいえ、せめてビッケバッケたちを連れて……」

トゥルースが進言するが、ビュウは無表情でそれを断わった。

「これは……元戦竜隊隊長の任務だ。 俺だけでやる」

そういうと、体の弱いフレデリカを抱き上げて地面に下ろし、自らはアイスドラゴンに乗り込んだ。

「アニキ!! なら、絶対帰って来るって約束だよ!! でなきゃ、僕たちも行く!!」

「ああ……約束だ」

真剣な様子に、それ以上ビッケバッケは言葉を挟むことをやめる。

さらに言い募ろうとしたラッシュたちのいるツインヘッドに乗り込む。

マニョも何か言いたそうだったが、彼女の言葉が分かるのはウィザードのメロディアぐらいのものだ。

抗議しているのは分かったが、頼み込むとしぶしぶであったが応じる。

「……敵を全部倒しても、文句は言うなよ」

「ああ、あいつは俺が必ずそっちには行かせない。 頼んだぞ」

ラッシュにそういうと、アイスドラゴンに命令してビュウは発見した彼の敵を追いかける。

「ちっなんだってんだ一体……」

今までにない様子のビュウに皆は困惑を隠せない。

ただ、フレデリカだけは薄々その原因を悟っていた。

あの、悪を全て隠した無表情な顔を見せるとき、いつだってビュウは見えざる何かと戦っているのだ。

見えない幽霊の影に怯える子供のような、大事なものを取り上げられて怒っている子供見たいに。

夜に剣を振るうときと同じである。

仮想敵とするその敵に、本当に負けたくないのだろう。

負ければ自分が破滅することを知っているから、負けた自分が許せないから。

「……ビュウ、絶対に生きて帰ってきて」

今のビュウは脆い。

その脆さを感じているフレデリカは、祈るように杖握り締める。

実際彼女は祈っていた。

プリーストが信仰する神に、ついていくとさえ言えなかった自分の弱さを懺悔しながら。







――神様、どうかビュウを守ってください。












沈黙がツインヘッドに乗り込む乗員に漂う。

「……作戦通りに行きます。 皆さん、敵との戦闘は熾烈を極めるでしょう。 今は隊長のことは忘れて精一杯やりましょう。 早く作戦を成功させれば、その分隊長のお援護に行けるのですから。 戦闘が終わりさえすれば、援護に向かっても隊長は文句を言えません」

「よっしゃ!! ならさっさと帝国の奴らを追っ払っちまおうぜ皆!!」

トゥルースの言葉に、ラッシュが意を得たりとばかりに皆を奮い立たせる。

誰だってビュウを今失うことの意味を理解しているから。

ビュウが騎士をやめてまでこの反乱に苦心して望んでいることを知っているから。

「急ぎましょう。 帝国に私たち反乱軍の力を見せ付けて、ビュウを助けるために!!」

「マニョニョーーー(やってやるぜ)!!」

「モニョーー(いそぐぜーー)!!」

「そうですね……急ぎましょうか」

「アニキ、すぐ行くからね!!」

猛る軍勢。

士気を限界一杯まで高めながら、ツインヘッドに乗り込んだ者たちは竜に最大戦速を命じる。

「ツイン……行け!!!!」

「GUOOOOO」

意を汲み取ったツインヘッドは、今までで最大の加速を見せた。

必死にしがみ付く乗員の思いを受けて。

オレルスの空に、双頭の竜の雄叫びが響き渡った。





















――アイスドラゴン上空。

竜速に達し、流れるパノラマのような情景を前にして俺は逸る心を必死に静めようと剣を握り締める。

硬く握った手の平が、今にもさけそうな痛みを訴えるが、俺はそれを止めはしない。

そうでもしなければ自分が抑えられないのだ。

「もう少し、もう少しだ!!」

オレルスの空を泳ぐように飛ぶアイスの背の上で、歓喜に勇む俺がいる。

どこか冷静で、どこか狂おしいほどに熱した思考の中でただ目の前の男を倒すために命令を下す。

「行け!!」

「GHOOO」

咆哮をあげるアイスも、俺の命令に込められた感情を受けたのだろうか。

その雄叫びには確かな敵意があった。

アイスは賢い竜である。

目の前にいる竜とその騎手が、俺の敵であるということを理解している。

だから、俺が威とする敵に向かって突撃を敢行した。

「く!?」

何かに心を奪われていたのか、剣を二本腰に差す男はギリギリまでそれに気づくことはなかった。

竜は気にしていたようだったが、それにさえ気がつかないほどに男は先を急いでいたのだろう。

青い竜に噛み付いたアイス。

「GYAAAA」

苦痛に泣きながら、奴の乗った竜が翼でアイスを一撃する。

竜と竜の争いは、どんな種族の闘争よりも激しい。

騎手である俺たちでさえ、振り下ろされないようにしがみ付くだけで精一杯だ。

みるみると降下していく俺たち。

俺たちが地面に降り立つ前に、竜は主に負担をかけないように直前で羽ばいて墜落を避ける。

必死に体制を立て直し、着地。

その瞬間、俺たちは同時に地面に飛び下りる。

抜き放った二本の長剣が銀光を放ち、ついで発する殺気が両者の中央でぶつかった。

「サスァ=パルパレオスだな?」

「お前は!! ……そうかあの時カーナにいた……死んでいないとは思っていたがこんな場所までやってくるとはな」

帝国の将軍は、剣を構えながらどこか苦虫を噛み潰したような表情をする。

それをどこか心地よく感じながら対峙しつつ、竜笛を吹く。

命令は行け。

意を汲み取ったアイスは、飛び出すように敵の竜へと飛び立つ。

それと同時にパルパレオスの竜も目標をアイスに定めて激突した。

肉と肉がぶつかる音が木霊し、二匹の竜の雄叫びが周囲の空気を震撼させる。

吹き付ける氷の吐息に対するは獄炎の吐息。

互いに殺しあった吐息は水飛沫となって周囲に降り注ぐ雨となる。

最強種の戦いは、血で血を洗う闘争だ。

噛み付き、爪を立て、互いの命が止まるまで果てぬエンドレスバトル。

より強い者が勝つというシンプルな方程式によってもたらされる勝者こそ、最後に生き残って勝ちを誇れる。

ともに主を守る身。

敵がどれほど強大だとしても、全力でぶつかってそれを超える。

竜と竜の激突は、ドッグファイトのように攻守を入れ替えながら激しさを増していく。

地で静かに睨み合っている俺たちを鼓舞するかのように、その闘争心が伝播した。

両者の中央に降り注ぐ雨。

吐息によって生じた小雨のようなそれを合図に、俺たちは互いに飛び出していく。

クロスソードとして磨いてきた剣を今こそぶつけるために。

歓喜と狂気が入り混じり、愉悦を抑えきれない顔が笑みを浮かべる。

対するパレパレオスは、どこか困惑するように俺を見る。

だが、向けられる剣を防ぐその剣には困惑は見当たらない。

キィィンと剣が高鳴った。

左右から袈裟に切り下ろした一撃を、剣を押し出すようにして防御するパルパレオス。

鈍重な金属の軋む音が響き渡り、ついで命を狙う俺の双剣が果敢に敵を攻め立てた。

威力よりも速さを重視した一撃である。

常に攻め立てるための最善の剣が、しかしギリギリのところで防がれていく。

舞うように攻め立てる剣舞を前に、パルパレオスの剛剣が唸りをあげた。

衝突させた剣を持つ腕に痺れが奔る。

俺よりもパルパレオスの剣の方が威力が大きいらしい。

剣速はこちらが上回っているが、その巧みな技と一撃に込められた剣の重さは自分の比ではないのだ。

「カーナ戦竜隊隊長ビュウ……やるな!!」

「生憎と俺の国はもうない。 あんた達帝国が滅ぼしたおかげでなぁ!!」

パルパレオスの賛辞を、怒号とともに掻き消して一旦後ろに下がる。

瞬間、共に炎を刀身に纏わせ必殺剣の構えを取った。

「フレイム・ヒット!!」

業火に燃える双剣を、大地に叩きつけるようにして技を放つパレパレオス。

それを迎撃するは懇親の力を込めた破壊の技。

「フレイム・ブレイク!!」

パルパレオスの大地から吹き出るような火柱を、大地を切り裂きながら走る炎刃が迎撃する。

ぶつかり合う両者の技は、互いを燃やしつくしながらその命を散らしていく。

炎を飲み込む焔。

炎を飲み込む業火。

互いに互いを貪る果てに残ったのは、焼け焦げた大地の傷跡。

その上を、俺達は駆ける。

(技の威力はほぼ互角……いや、俺の方がわずかに押しているけど――)

舞う双剣に、迎撃する双剣。

「らぁ!!」

「はぁぁぁ!!」

(――まともに剣で撃ち合えば俺の方が不利か)

いくら速さで圧倒しようと、それを裁ききる技量と断頭台のギロチンを思わせる鈍重な一撃がパルパレオスにはある。

速さはスタミナが落ちれば死に行くが、体力を温存するような堅実な防御の技は限界が遠い。

それに、パルパレオスには帝国が培ってきた絶対の戦闘経験がある。

その歴然とした戦闘経験の差が俺を優位には立たせない。

攻めているの俺だが、実質押している防御をしているパルパレオスだ。

この優位は、ただ闇雲に剣を振るうだけでは決して届かない場所にまだパルパレオスがいることを証明していた。

いや、まるで届かないわけではない。

運命の天秤を傾けるだけの力が俺に無いわけじゃない。

ただ、俺よりもまだ目の前の男の方が速度以外で勝っていたというだけ。

「アレから随分と腕を上げたな……それほどになるまで私達帝国を憎んで修練をしてきたのだな」

「知った風な口を聞くな!!」

語りかけるような口調に怒声で答え、至近距離でフレイム・ブレイクを放つ。

「む!!」

それを迎撃するパルパレオス。

が、放ったのは同属性の技ではなく氷の技であった。

炎を氷が飲もうとするが、氷と相殺されて威力を殺される。

汗ではない水が、俺達の体を濡らすように舐めた。

それを不快に思いながら、さらに猛り狂った思いをぶつける。

「では聞こう、せっかく帝国がオレルスの空を全て征服し一つに纏め上げたことで争いが絶えたというのに、なぜ今更戦火を広げるような真似をする? 大人しくしていれば私達だとて、無意味にお前達を狩り出すような真似はせんというのに……」

真摯な、そして本心から思っている言葉だった。

パルパレオスは本気でそう思っているらしい。

だが、”そんなこと”はそれでいいと思っている奴らの言い分でしかない。

「ふざけるな!! 故郷を焼かれ、国を滅ぼされ、全てを奪っていった貴様らの統治など俺達が望むものか!!。 聞こえるか、この怨嗟のような心の叫びを。 聞こえないのか、この絶望に染められた剣の音が!!」

暗い闇を纏った剣が奔る。

全てを奪い去っていったこの男を倒せと剣が唸り、弾き飛ばされるたびに悲しみの音を奏でる。

それは、剣を扱う者たちだけに感じる共感。

剣が語る涙だった。

パルパレオスの顔が苦渋に歪む。

それを痛いほど感じる彼は、どこかで蹂躙してきた全てに罪悪感を持っていたが故に。

「誰だって故郷を奪われる悲しみを知っている。 誰だって自分の国が消え去るのを良しとしないさ。 そうして戦ってきた俺達が、国を守るために命を張ってきた俺達が、全てを失ってでも取り戻したいと焦がれる現実がそこにある!! それを、無意味だなんて言わせてたまるかぁぁぁぁぁ!!」

激情に身を焦がす体が燃え上がるように熱い。

冷静な思考をかなぐり捨てろ、ただ一つの機能を果たす機械のように!!

目の前の敵をただ屠れとオレの心が訴えてくる。

建前のような空しい口上、勿論本心もあったし何よりも全てを奪われたというのは本当だ。

故郷を奪われたカーナのクロスナイトだった俺が叫ぶ。

――守れなかった国を蹂躙したこの男たちを許すなと。

そして、何よりも守りたかった者を奪い去られた俺が叫ぶ。

――許すな、全てを清算するその時まで。 

俺達故郷を失ったものたちの激情は、止まる所を知らない望郷の念によって突き動かされている。

守るものを失った騎士の叫びは、心に燻る業火のようにこの体を突き動かす!!

「ぬ!?」

予想を超えた剣戟に、呻くように後退せざるを得ないパルパレオス。

激情に焦がされた剣が、徐々に加速して威力を増した。

燃えるように、燃え尽きるように、破滅の炎が俺を動かす。

まるで壊れた玩具のように――。

その、一種の限界を走破する剣は正しく執念といえるだろう。

身を省みぬ剣、いつか誰かが言っていた。


――ただ強さだけを求めた結果生まれた産物、騎士の奴らからすれば邪道な職業がクロスソードだ。


違いない。

まるで滅びることすら憩わぬ剣がそこにあった。

加速する知覚と、加速する剣速。

流れるように全てが消える。

消えたように錯覚するほどに、俺の認識は飛躍しようとする。

だが、それでもなお食いついてくる目の前の存在は一体なんなのだろう?

「く、ぬ、私はまだ……死ぬわけには……いかぬ!!」

押していた剣が再び返されるようになった。

執念の剣が、何かに突き動かされる剣によって押し戻された。

パルパレオスの剣が叫んでいた。

絶叫を上げながら叫んでいた。

感じるのは悲しみ。

誰かを置いて逝くことへの恐怖と、誰かを失う恐怖に慟哭する叫びだ。

その瞬間、俺は確かに見た。

対峙する俺達の剣の間、目の前の男を庇うように立って祈りを捧げる誰かの姿を。

誰かなどと分からぬはずはない。

見えたビジョンは明確に俺を攻める。

幻影の、誰かの力を得た剣が遂に拮抗を破壊した。

「まだ……逝けぬさ!!」

怒声にも似た宣言を俺は聞いた。

超至近距離で鼓膜を揺さぶるようなその叫びは、俺の執念を完膚なきまでに打ち砕く。

剛剣に弾かれる右の剣。

「しまっ――」

瞬間、俺は死を覚悟した。

スローモーションで剣が奔る。

左手に残った剣に右手を沿え、なんとかその場をやり過ごそうとするが果たして受け止めることはできないだろう。

上段から迫った双剣。

それが俺の構えた左の剣ごと俺を切り裂くことなど分かりきっている。

その瞬間、俺の意識は闇に落ちた。

ただ――。


『安心して眠るがいい我が主、しばし無粋ではあるが、厄介ごとは我が引き受けよう』


――俺は確かに誰かに守られたような気がした。















「くそ、ここまでか撤退する!!」

どこかで見たことがある戦斧を鎚で受けながら、ゾンベルトは撤退命令を下した。

このままでは自身の命すら危ういのだ。

部隊も挟撃されており、このままでは全滅だろう。

そうなっては、せっかく自らが任されたキャンベルの大地が失われてしまうだろう。

恥を忍んで出す命令。

「忘れんぞ、この屈辱……カーナの生き残りどもめぇぇぇぇぇ!!」

駆け出していく敵。

敵軍を深追いせぬように命令を下しながら、マテライトは確かな手ごたえを感じていた。

三年前とは違い、敵の将軍に手も足も出ないというわけではなくなっている。

これならば囚われの身になっている姫もサウザーの手から救えるだろうと。

「ふむ、思いのほか手ごたえの無い奴らじゃったの」

「ビュウの作戦が効いてるみたい。 さすがビュウ」

喜ぶセンダックであったが、帝国を蹴散らしながらやってくるラッシュたちツインヘッドの部隊を見るなり怪訝な顔をする。

「あれ? ビュウたちのアイスドラゴンの姿が見えない?」

「ふん、大方深追いでもしておるんじゃろう? じゃがあの程度ならば、ビュウたちだけでも大丈夫じゃ」

部隊の損害を確認しに向かうマテライト。

しかし、センダックは嫌な予感がしたのだ。

ワーロックである彼が感じたそれは、ビュウの胸に今にもパルパレオスが剣を振り下ろさんとしたときであった。

その反乱軍リーダーの危機を、今はまだ彼らは知らない。



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