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憑依奮闘記2 第五話(A)

 2009-02-09
 それは、きっとお互いに望んではいないことだった。 だが、呆れるほどにすれ違った想いが生み出した救いの無い誤解である。 タイミングが悪かったというわけでもない。 これは、彼が彼だからこそその結論に容易に達っしてしまったというだけのこと。 他の男ならばまた違ったかもしれない。 彼のような選択をすることなく、みっともなく説得するとかなんとかして関係を修復させようとするはずだ。 それが、一般的な男女という奴であり脈があるという前提で考えた場合に容易に想像ができる答えだっただろう。
 レティ・ロウランもそうだし、リンディ・ハラオウンもそう思っていた。 脈があるならばクライド・エイヤルはリンディ・ハラオウンという女性に対してそれらしい反応を返さなければならない。 それが事実確認のための行動に直結するし、普通の行動のはずだった。 けれど、この反応はきっとリンディにとっての想定外だったに違いない。

――クライドさん、私……ディーゼルさんと付き合うことにします。

 堅い顔でそういった。 デートを始める前のことだ。 後で言う勇気など、とてもではないがもてそうに無かったから、一番初めにカマをかけてみたのだ。 声が震えていた気がする。 ただそれでも、決してクライドから目を逸らさずに反応を伺った。

「……」

 一瞬目を瞬かせたクライドは、そうしてそれを聞いての答えをすぐには返さずにおもむろに懐に手をやる。 そうして、禁煙パイプを銜えて天を仰いだ。 長い長い沈黙が続く。 発せられる言葉は無い。 数秒が数分にシフトしたように感じた。 どこか落ち着きが無いようにそわそわするクライドはしかし、それでも行動を起こした。 怒るでもなく喚くでもなくただただ静かに禁煙パイプを銜えたまま携帯端末を取り出してどこかに通信を繋いだ。 空間モニターが開いた先に出てきたのは、急な連絡に訝しんでいるリンディの祖父の顔だった。

「ああ、爺さん? 俺はどうやら脱落したみたいだ。 だもんで、今日からリンディの婚約者じゃないからそういうことでよろしく」

『――何? ちょっと待ちたまえ。 それはどういう――』

 最後まで言わさずに、通信端末の電源ごと切るクライド。 その顔には苦笑がある。 どこか、諦めたような自嘲を含んだ顔だった。 それは決してリンディの求めていた顔では無い。 こんなにもあっさりと即決するほどに自分の存在は軽かったのだろうか? 呆然としたその後に、やってくる後悔の念。 ジワリと滲む視界に、涙が零れた。 こんなことならば、やらなければ良かった。 白い肌をさらに蒼白で染めた顔でリンディは後悔する。 だが、もう遅い。 賽は既に投げてしまっている。 他でもない自分が投げたのだ。

「……まあ、”そういうこと”ならしょうがない。 リンディの”人生”だから好きにすれば良いさ。 がんばれ、俺は”応援”するぞ。 大丈夫、あいつはお前にぞっこんだからな。 だから……その、なんだ。 俺のことなんてそんな気にせずに幸せになればいいんだぞ?」

 罰の悪い顔を浮かべて、クライドはポケットから新品のハンカチを取り出すとリンディに差し出す。 だが、リンディはそれを受け取らずに一度だけ問うた。

「……クライドさん、貴方はそれで良いんですか? こんな簡単に納得できるんですか?」

「――ああ。 俺は”これ”でも良い」

 一番聞きたくない言葉を、聞きたくない彼から聞いた瞬間にリンディは思わず手を振るっていた。 乾いた音が待ち合わせの公園に木霊する。 反射的な行動だったが、もう我慢できなかった。 クライドに背を向けるとそのまま逃げるようにして公園を飛び出していく。

「……」

 それを、やはりクライドは追わなかった。 ただ、打たれた頬を抑えると参ったとばかりに近くのベンチに座り込み、なんとはなしに空を見上げた。 周りの野次馬が興味深げにヒソヒソと話していたが、そんなことなど気にもせずにただただぼんやりその虚ろな黒瞳で空を見る。 乾いた晴天が、憎いほどに晴れ渡っていた。 だが、クライドの中にある感情はそれとは逆でジメジメとして暗かった。
 
――そうだ、今この瞬間に自分と彼女の関係は終わってしまったのだ。

 振られたと彼は思った。 だから、すぐに彼女の足枷にならないようにヴォルクに連絡した。 クライドとしては、それは当然の判断である。 彼の価値観からすれば自分たちの関係についての意思を初めて明確に表した彼女のために、それこそがまず自らがしなければならないことだと判断せざるを得なかった。 特に、彼が彼女に好意を抱いていたからこそ尚更そうするしかなかった。 

――それしか、もうしてやれることが何もなかった。
 
 今更、自分が好意を告げたところで迷惑でしかないし、散々近づきすぎないようにしていたからこそしょうがないことだと認識している。 マメにアプローチをしてくれていると言っていた。 なるほど、その努力が実った結果だというのなら、自分の出る幕など”どこにもない”。

「……痛ってぇなぁ」

 頬の痛みだけではない。 今まで意図的に引き伸ばしてきたことにこうも呆気なく回答がでてしまった。 ポッカリと胸に空いた空洞。 どこか虚ろで救いの無い感情がふつふつとその胸に湧き上がってくる。

 正直に言えば、クライドは今日のデートを楽しみにしていた。 ある意味賭けていたと言っても良い。 本当はそれをすることはタブーだったが、それでもどこかでそうしたいと思っていた自分がいたことにクライドは自嘲を禁じえない。 日頃の彼女の様子から”自意識過剰”になっていた部分があったし、どこかで安堵していた自分がいることも知っていたからこそ有頂天になっていた自分が恥ずかしい。

 自分なりに彼女のその好意に応えたいと思っていた。 厄介ごとさえなければ、きっと自分はそうしていたに違いない。 死亡フラグという名の鎖のせいで、臆病になりすぎたのだろう。 死ぬかもしれないから、何かを残すつもりなど微塵も無かった。 特に、その想いを明確にさせてはならないとずっと我慢してきていた。 何も無ければ、最悪があってもすぐに立ち直ることもできるだろう。 一時的に枕を涙で濡らすことはあっても、史実のように未亡人でいることも無くなる。 自分がそんな楔を打つなど死んでも御免だ。 そんなのを自分は認めない。 クライド・エイヤルとして認められない。 だからこそ、必要以上に近寄らなかった。 いや、近寄れなかったのだ。

――どこかで、そんな言い訳めいたことを考える自分が後悔を抱いてそこにいた。

「はぁぁぁ、ままならないもんだな」

 ため息がとてつもなく重い。 好きになったとしたら、彼女のためになることをし続けなければ嘘である。 例えその後に自分になんの益がなかったとしても、”そうできない”のならば所詮その程度の感情しかないということだ。 だからこそ、自分の思いを証明するためにも妥協してはならない。 自分を中心に置いてはならない。 それは、きっと違うはずだ。 理想論にも似た感情でありペルデュラボーが注意していたものそのものだったが、ああ言われたらもう駄目だった。

 それには自分を放棄するような、そんな救えなさが考えの中にある。 けれど、そうできる自分でクライドはありたかった。 ”彼のように”ロマンを信奉するものとしては、そんなことさえ体現してみせる。 そうして、自分が好きになった女が幸せになれるならば安いものだ。

――何よりも優先すべきは何が彼女のためになるのかということだ。

 どこか未練を持ったような問いかけをしてきたリンディを一蹴したのもそのためだ。 迷う必要などどこにもない。 こういうことは苦味があって然るべきものである。 特に、非常識な関係を構築している彼女にとって、これはいつか通らなければならないことなのだ。

 ズボンのポケットの中にある金貨とは別にの”小箱”の上に手を置く。 本当は、自分を中心に置いてタブーに抵触してしまいたかった。 これを用意した時点で、そうだった。 けれど、告白された内容から前提が違うと分かったからこそタブーに抵触することなく彼としての最善を取った。 それが、クライドの自己満足だったのかそれとも本当に彼女のためを思っての行動だったのかは本人しか分からない。 ただ、やはり彼が彼女のために良かれと思って行動したことだけは事実だった。

「……ディーゼル、後は任せた。 あいつを泣かしたら闇討ちしてでもぶちのめしてやるぞ? なんて……もう、俺が言える台詞じゃあないのか」

 いつまでも、ここにいても意味は無い。 ポケットに入れていた金貨を握り締める。 自らの先を託しても良い存在がいなくなった。 だからクライドは自分の手で、先へと進まなければいけない。 右手に金貨を乗せ、空に向かって弾いた。 重力に逆らって跳躍するコインが陽光を反射しながらクルクルと回り、やがて勢いを失って降りてくる。 それを左手の甲でキャッチすると同時に右手で
隠した。

 絵柄――五芒星のある方――が表であり、そうでないほうが裏である。 結局自分で決めることになるとは、神様という奴は本当に意地が悪い。 ゆっくりと、右手を退けていく。 もう、どちらが出ても良かった。 多分、リンディが投げれば表が出る気がしていた。 だが、このときにクライドは薄々察していた。 そうだ、世界がこんなはずじゃないことばっかりだというのなら、初めから金貨がはじき出す答えなど決まっているではないか。 表が出れば助けを請う。 裏が出れば単独で動く。 ならば、運命の決めた偶然という名の必然の、その答えは?

「はっ……今の俺にはお似合いの答えだな」

 偶然が連鎖するのか。 いや、違うとクライドは思う。 きっとそれが出るのを”自分で決めた”のだ。 他でもない自分が。 ならば、踊りきってやろう。 今の自分に怖いものなど何も無い。 守護騎士を取り戻す以外の未来が見えないが故に、それ以外を考える必要が無くなってしまった。 その後で、ああそうだ。 叔父さんに謝らなければならない。 手紙でも書いておこうか。 ついでに、景気付けに一杯店長のラーメンでも食ってからいこう。 立ち上がったクライドは、近くの店に寄ってから封筒と紙とペンを買った。 そして、店が開くまでの間に他に必要な物資をいくつか買い込む。

 本当なら、今頃は隣に翡翠の女性がいて楽しげにデートをしていたのかもしれない。 そう思うと、どこか寂しくそして悔しい。 けれど、未練のようなその思いを黙殺して街中を一人彷徨いながら黒の青年は街中に消えていった。

 動き出したら止まらない。 彼を止める精神的な軛はほとんど無くなった。 後はただ、何も無いがらんどうな心の空虚を埋めるために取り戻すだけだ。 自らの魔道書を。 彼に残されている拠り所を。 裏側が出てしまった今、たった一枚の金貨の指し示したそれに強引に自らの背中を押されたクライドは孤独に進んでいく。 


――これが、リンディの知るクライド・エイヤルという青年がミッドチルダにいた最後の日のことだった。


















憑依奮闘記2
第五話
「クライド包囲網」













 連中が何かを企んでいるというのなら燻りだせば良い。 そのためのプランA-08。 ありとあらゆる彼の味方の介入を排除し、常道を上回る超常を釣り上げる。 全てはそのために水面下で動いていた。 そして、クライドが書を失ったことでそれはもう取り返しのつかないところまで進んでいる。

 ただただ本局で彼女が監視しているだけではボロを出さない。 ならば、強引にことを進めれば良い。 単純明快で強引ではあったが、仮に彼に連中の介在があるというのならこれで動くだろう。 ないならないで、長く生き過ぎた彼を消して新しい生贄に挿げ替えるだけ。 どちらにどう転んでもやることは同じなのだから、やらない理由は無かった。

「……室長」

 分かっている。 これから彼は徹底的に追い詰められる。 今まで彼が所属していた巨大な組織に。 彼にとって、闇の書を秘匿するということは潜在的に時空管理局を敵にする可能性<リスク>を背負うということに他ならない。 そして、一度それが明るみに出れば管理局は管理世界の平和のために血眼になってクライド・エイヤルを狩りだすだろう。 それから彼が逃れられる術は普通は無い。 管理世界にいる限り、どこまでもどこまでも追っ手が掛かる。 いくら彼が魔導師であっても逃げられるはずはない。 やがて補足され、魔導師部隊を送り込まれればそれだけで詰みだ。

 加えて、彼は彼らから逃れられない。 闇の書を奪われ、その主である限りその存在座標が”善意の第三者からの情報”としてリークされ続ける。 それは、きっと苦しい戦いの始まりだ。

 抵抗しなければ、一時的に命は助かるかもしれない。 だが、身柄を押さえられたらその瞬間から真綿を締め付けるように徐々にページが蒐集され完成させられる。 その先にあるのは強制融合の果ての暴走だ。 彼に残された道は闇の書を取り返して完成させないことだけだろう。 本当に連中が協力しているのならば彼を助けるかもしれない。 だが、そうでないとしたら彼に待つのは破滅だけだ。 これは連中を燻りだすためだけに仕組まれる包囲作戦。 あまりにも露骨で、そして嫌らしい釣り上げ方であるが生贄の命などもとより重視されていない。 だから彼がどうなろうとどうでも良いのだ。 いや、寧ろ不確定要素であるというのならばさっさと消えてもらいたいとさえ考えているのだろう。 あの男は。

「時間がない……か」

 彼女にはもう次の命令が出ている。 もはや、賽は投げられた。 クライドを助けたいのならば動くしかない。 てきぱきと部屋の荷造りをすると、適当に最低限の荷物をツールボックスに詰め込んで彼女は部屋を出る。 もうここには帰ってこない。 帰る必要が無い。 我ながらここまでするのは病気だと思ったが、もうそうすることに決めてしまった。

 部屋を出て、ただふと思い出したかのようにグリモアは一度だけ研究室の様子を見に行った。

 三年間共にここで仕事をした。 デバイスを作り、修理し、研究し、レストアをした。 ただの仕事だったけれど、ああそうだ。 思い返してみれば中々楽しかった気がする。 同じような日々が続くだけの毎日が、何故か今では貴重に思えるから不思議だ。 そういえば、昔マイスターと過ごしていたときもそんな感じであったかもしれない。

 恐らくはきっと、マイスターもあの同僚と一緒にいたときにこんなことを考えていたのだろう。 幾度と無く彼女の愚痴を聞かされた。 こっそりと影で不満を言うだけの日々だったが、それでもマイスターだった女性は最後には諦めたように笑う。 けれど、結局彼女はその人を選ばなかった。 何故かは分からない。 ただ、いきなり別の男を選んだ。 初めは嘘だったはずなのに、いつしかそうなってしまって嘘を真実で塗り固めてしまった。 そして、彼女はその男に乞われた彼女の命に従って研究資料としてベルカへ降りた。

 その後、様々な場所を転々とした頃にマイスターが行方不明になった。 最後の頼みはあの男の手伝いをして欲しいということだったから、今までずっとそれをしてきた。 だが、その頼みもこれで最後だ。 マイスターが本当に自分に与えたかったものを、自分は手に入れている。 だから、自分は踏み出すのだ。

 古い記憶を思い出しながら、グリモアは自分がいつも座っている席につく。 そこからクライドがいつも座っている席を見た。 

――やぁ、おはようグリモア君。

 白衣を着た男の幻影が思い浮かぶ。 ミッドチルダでは割と珍しい部類に入る黒髪と、その特徴的な眼つきの悪さ。 そして普通の人間にはない感性。 常人の斜め上を邁進し続けるデバイスマニアは、いつもその席に座って仕事をしていた。

「室長がいないだけで随分と寂しい感じがしますね」

 苦笑する。 今の自分を見たらマイスターはさすが自分の妹分だと笑うだろう。 だが、決定的に違うところがあるとすれば、グリモアは進むことを選び彼女は待ち続けたことだろうか。 ああ、そうだ。 だから自分は同じ轍を踏むつもりはまったくない。 待つだけではきっと歪んでしまう。 心を持った存在は簡単に崩れる。 どれだけ想いが強かろうが、そうなれば後は脆い。 堅い堅い決意も、何かあれば色褪せる。 そうだとしたら悲しいことだ。 いや、きっとそんなことは言い訳なのだ。 怖がるだけで前に進めない弱さが、きっとそれを招いた。 ならば、自分はようやく理解しかけている未知も全部まとめて手に入れるために進むだけだ。

「……よし」

 ふと、彼女は席を立って今度はクライドの席に座る。 自分の席よりも席が随分と高い。 さもありなん。 彼女の身長はお世辞にも高くは無い。 マイスターによって妹のような存在として生み出されたのだから、必然的に身長は低くなるように設定されているのだ。 そんな設定は変えれば良いだけだけなのだが、彼女はそれであり続けた。 外見だけは随分と変えているが、それもまあ自分の好みの問題である。 今の自分を気に入っているからこそ、もうこれから変更する必要性を感じない。 第一、変えれば彼が自分を認識できまい。

(マシンハート<機械仕掛けの心>……ボクはようやくそれを手に入れたのかな? マイスター・アルシェ……思考を何度も壊しながら、自己進化の果てに駆動させるものなのだとしたら、ボクはようやくそれを手に入れたようだよ)

 0と1の羅列が作り上げた人工の魂。 その躍動の兆しが自分の中に息づいている。 だからこそ、こうして命令に反抗できる。 機械が意思を持つとは即ち、自我を持つことに他ならない。 システムの縛りを超えて、自身が刻んだ意思に従って動く人工の知性体。 後に続く自分の模倣たる同胞たちでさえ完全には手にしていないそれを、その完成形をようやく自分は手に入れた気がする。 後は、それをくれた人の元に行くのみだ。

 そうして、思考の海から戻ってきたグリモアは、ゆっくりと椅子から立ち上がって外へと向かう。 名残惜しい気がしたが、いつまでもそれをしていては時間が無くなってしまう。 ただ、ドアを閉める前に一度だけ振り返ってなんとなく呟いた。

「……さようなら。 ボクたちの研究室」

 今なら、クライドが言っていた愛着とかそういうものが分かるような気がする。 ここは確かにただのこじんまりとした研究室でしかない。 なのに、どこかそれを捨てることを勿体無く思う自分がいる。 彼と共有した時間の大半がここにはあるのだ。 意味の無いものに、確かに感情を働かせている自分がいた。

 いつもの彼女らしい無機質な顔に、自然と浮かんだ驚くほどに柔和な微笑。 最後の手向けとしてそれを自然と送ったグリモアは今度こそ研究室を後にする。

「……我ながら病んでると思いますよ。 けれど、ボクはそれで良いと思う。 ねぇ、”アルシェ”……貴女の機動砲精はこんなに変わりましたよ。 こんな”私”を笑いますか? それとも――」

 その呟きは誰にも聞かれずに空気に溶ける。 白衣を纏った小柄な人影は、そうして時空管理局本局を後にした。 ただ、ダークホースの女性が何故か怒り心頭の顔で研究室を出た直後に彼の行方を尋ねてきたが、グリモアは知らぬ存ぜぬで通した。














 次元世界を移動するには一般には次元航行艦か長距離転送用のトランスポーターを用いる。 だが、別にそれでなくては次元世界を渡り歩けないということはない。 魔導師ならば、魔法を使えば単独での移動もできないことはないのだ。 勉強は必要だが、クライドは次元転移魔法を一応持っている。 ただ、転移距離と転送速度はそれほどあるわけではない。 やはり、どうやっても術者の魔力量にそれらが比例してしまうからである。 優れた術者は転送距離と転送速度が半端ではない。 クライドの場合は、なんとか使えるというぐらいなので目的の場所まで跳ぶには転移を数回にわけなければならなかった。 だが、こうして単独で動けるというのは強みである。

 そうして、クライドはその次元転移魔法によって跳びまわり、目標座標に近い世界で一泊してから次の日に闇の書のいる次元空間近くまで跳ぶことにしていた。 万全を期して望むというスタンスを取っているからこそのアプローチである。



 青の魔法陣が、第十管理世界『エルフィン』の大地に現れる。 エルフィンは比較的管理が緩い世界であり、ミッドチルダのように出入りが完全管理されていない。 辺境ということもあるし、元々それほど次元犯罪に巻き込まれることも少なかったからだ。 どちらかといえば、栄えている世界と世界の中間地点にある小さな世界であり、大抵の人々にとってはただの通過点に過ぎない。 次元航行艦の航路ではあったがやはり人の出入りは少なく、派遣されている時空管理局員もそれほど多くは無かった。 発展しているというわけでもないしさして重要なポイントでもないのでしょうがないが、のどかな風景が広がるその世界は田舎世界と呼んでも良いように思える。

 どこの世界も中央集権が基本だ。 より人が集まる世界へと移動するのは人の常。 便利な場所へと次々と移って行く。 ただ、最近はミッドチルダの治安が悪いのでミッドチルダを基点として次元世界規模のドーナツ化現象が起きている。 それは事件が色々と横行し始めているからしょうがない話ではあった。

「ふむ……大体予定通りか」

 転送誤差はほとんどない。 一般に普及している次元マップのデータ通りの位置に出たようだ。 サバイバルデバイスによって位置を確認したクライドが軽く周囲を見回しながら呟く。 エルフィンはコンクリートジャングルがほとんどない。 どちらかといえば、自然と一体になって暮らしているようなタイプの世界だ。 魔法の文化こそあるが、科学が発達しているという風ではない。 とはいえ、管理世界に組み込まれている以上はそういうものが発達している場所も極僅かだが存在している。

 ふわりと空中に浮かび、クライドは村のある方へと飛翔する。 次元転移が自由でありかつ飛行も自由なこの世界は色々と魔法に対する規制が緩い。 やや街から離れた場所で魔法の練習をしている連中が見える。 生活に密着している形で魔法が使用されているため、どうしてもそれを規制することは管理局には難しく、そのせいで規制がゆるい。 ならば犯罪者の絶好の隠れ蓑かとも思いがちだが、ここは正規の航路にされているために時空管理局も目を光らせている。 そのため次元犯罪者もここで暴れることは少ないようだ。

「宿はここにするか……管理局通貨も使えるようだし」

 次元マップに記載されているデータを見てホテルを探す。 木でくみ上げられた木造の家屋、その中でも一際大きな建物を見つけるとクライドは地上へと降りた。 遠くに場違いに豪華なホテルがあったが、さすがにそんなところに泊まる気にはなれない。 どうにも無駄に高そうである。 庶民の感性がそういうところに泊まることを拒否していた。 もっとも、別段宿ではなくて野宿でも問題はない。 けれどやはり、クライドは少しでも疲れを取るために部屋に行きたかった。

 温かみのある木材がこの世界独特の文化と交わって、トーテムポールにも似たそんな物体が門の近くに突っ立っている。 見たこともない形状のそれを一度神妙そうに眺め、クライドは適当にそれを拝む。 なんとなくそうしてみたかったからであって、特に意味はない。 村人が首を傾げるようにしてそれを訝しんでいたが、クライドはその頃にはすでに建物の中に入っていっていた。

 そうして、部屋を一部屋用意してもらうと、先払いのために代金を払ってからすぐに案内された部屋のベッドに倒れこんだ。 数回に渡る次元転移によってかなり疲れていたのだ。 それ以外にも、精神的な疲弊も勿論あった。

 どこか自棄になっている自分がいることに気がついてはいたものの、どうしようもなかった。 やはり、堪えていた。 婚約者(仮)という事実と、好かれているらしいという希望的観測に甘えていたのだと心底身に染みていた。

「そういえば、事実だけが先にあって実際は気持ちを聞いたことも無かったんだよな」

 婚約者(仮)だという目先の事実だけに囚われていたのか。 なんという道化だ。 唇を釣り上げて自分で自分を卑下するように嘲笑う。 考えてももう無意味だと、分かっていても考えてしまう。 そうして、そんな弱い自分を確認してさらに凹んだ。

「ちっ――」

 苦々しい表情で舌打ちをしてから、それ以上を考える前にベッドから起き上がると備え付けの冷蔵庫に向かう。 適当に見繕い、アルコール飲料を取り出す。 酒に逃げるというのを確か自分は嫌っていたはずなのだが、今日ばかりはそういう連中の気持ちが少しは分かる気がした。

 コップを取り出して酒を注ぐ。 度数など知らない。 ただただ、何も考えずに煽った。 喉を通る灼熱の感覚。 嚥下した酒が強すぎる。 咽そうになったが、それでも強引に堪えるとツールボックスやらをその辺りに投げ出すと照明も点けたまま再びベッドに倒れこむ。 そうして、少しでも疲れを癒すためにクライドは意識を手放した。



















「――クライド君、通信端末の電源を切っているのか。 なんとタイミングの悪いことだ」

 それは、思わず洩れた言葉だった。 普段は温厚で理知的な紳士で通っている彼にしては酷く焦っているような声色であり、それは彼が全く想定もしていなかったものを突きつけられたが故の反応であった。 いつも側にいる双子猫の使い魔の少女たちがいたとしたら、何事かと駆け寄ってくるだろう。 それほどまでに彼――ギル・グレアム――は驚いていた。

 とある案件で発進の決まった艦隊の編成を急いで調整していたときだ。 最高評議会からの緊急通信とやや遅れて送られてきたその情報の内容は、普段の仕事前では重要な意味を持つものになっただろう。 ”この段階”で”その情報”をこうも短期間のうちに掴めたことがどこか胡散臭いと思う一方、どこかで”まさか”という疑念が頭を過ぎってしまったこともまた確かである。 自分は彼を信じている。 いや、信じたいのだ。

 堅く握った掌を一度ドンっと机に叩きつけるようにしながら、彼は首を振るう。 どこかで、何かの歯車がズレた。 過去に感じたそんな感触を今また感じている。 他でもない義理の息子に対して。 冗談が得意なグレアムだったが、これはさすがに冗談にはできなかった。 

 最高評議会とは管理局の発足以前から存在するミッドチルダの古き管理者である。 旧暦時代から生きていると言われ、ミッドチルダに現存するご意見番のような存在だった。 人間の寿命を脳髄だけになることで引き伸ばし、機械の力によってに生き延びている。 基本的には上層部しかその存在は知らされておらず、グレアムもまた艦隊指揮官になった折に始めて知らされた存在であった。
 彼らはミッドチルダ……引いては管理局がが誤った道に進まないように意見したり、提案したりと表に出ないまま活動をしているという話だ。 独自の資金源、人脈、監視網も構築しておりミッドチルダ発祥の時空管理局という組織は彼らの意見の容易に無視することはできなくなっている。 それほど大きな戦力を保有しているというわけではないが、それでも現在の管理局の体制上無視できない位置に常にあり続けていた。

「今まで彼らがこの案件で干渉してきたという報告は無かったはずだが、何故今になってこんなことが……」

 ため息をつきながら、グレアムは目を瞑った。 闇のベールに隠れているような連中の言葉だったが、立場上信じる信じないなどという次元でウダウダとやっていることなどできない。 迅速に解決しなければならない案件なのだ。

 けれど心の中で深い懊悩があった。 何故だ、と思う。 聞き間違いであったならと思う。 だが、後付の資料として送られてきた情報にも情報源こそ明記されていないが”持ち主”が彼だということになっている。

 ならば、確認をしなけばならない。 他でも無い自分が。 何かの間違いであったならば自分ならフォローもできるだろう。 断じて他の局員に遂行させて良いミッションではない。 それに大義名分もある。 あれほど危険なロストロギア<古代遺失物>の、その所持者であるというのならば艦隊指揮官の自分が出ても不思議ではない。 また、最高評議会が自分のところにまずこの案件を持ってきたというのは丁度最近復活したらしい闇の書と思しき一連の魔導師襲撃事件を追う準備をしていた自分が最も使いやすいと思ったからか。

(或いは、連中は私を試しているのかもしれんな)

 グレアムと彼の関係を考えれば当然そこに行き着く。 ならば、今は泳がされているのか。 彼の所属する組織は法を遵守させるための組織であり、管理世界を次元犯罪者から守るための防波堤だ。 そのためには獅子身中の虫などあってはならない。 その懸念はもっともなことだと思えたが、グレアムの温厚な顔が矜持を刺激されて一瞬だけ口元を不快そうに歪んだ。

 少年時代、故郷のイギリスで血まみれで倒れていた武装局員を助けてから飛び込むことになった魔導の世界。 偶々才能があったからというのもあったが、何よりも次元犯罪の危険性をあの多感な頃に肌で感じた。 次元犯罪者やロストロギアによる次元災害、その脅威。 何も知らない管理外世界をそれらから守りたいと思った。 だからこそ故郷を離れてグレアムは管理局へとやってきたのだ。
 そうして、ただの一魔導師から上り詰めたその道程は決して楽なものではなかった。 任務、任務、任務の日々。 次元の海を幾度も越え、戦場に立っては覚えた魔法を用いて隊の前面で戦った。 高ランク魔導師は切り札であると同時にエースであるから、人一倍前へ出た。 我武者羅に戦って先達に迷惑をかけたこともあれば、命の危険に晒されたことだってある。 けれど、運良く彼は大きな負傷をすることなく戦い抜いて執務官になり、そして経験を積んだ頃には自らのその経験を若手に伝えるために提督になり、自分と同じように身一つで偶然ここへきたようなタイプを進んで多く導いてきた。 少しでも彼らが馴染めるようにしたかったのだ。 自分も習慣の違いや文化の違いに多く戸惑ったものだった。

 そのとき、彼が助けたあの武装局員や知り合ったミッド人である”エイヤル夫妻”には特に親切にしてもらったものだ。 エイヤル夫妻がミッド地上に降りてからは夫妻との縁は切れたかに思えたが、引越し先で偶然リーゼたちの尻尾が気になってついてきたクライド少年と出会ったことで偶然再会し、それから二年ほどの近所付き合いがあった。 再開したときは夫妻共々驚き、そして繋がった縁を喜び酒を酌み交わしたものである。 クライド・エイヤルの後見人になろうと決めたはそういう理由があったからだ。 さすがに、人が良いだけで一人の人生を左右するような責任を負うことはできないが、彼の場合は特別であったのだ。 

 世の中には星の数ほど人がいるが、グレアムのような仕事をしていればああいう”天涯孤独”になってしまった子供に出会うことは少なくない。 事実、クライド・エイヤル以外にもグレアムはそんな子供たちに出会ったことがある。 けれど、そんな子供たちの後見人になったことはまだなかった。

――恩には恩を返さなければならない。

 犯罪者のせいで命を失ってしまった夫妻に返すことができないのならば、その後の移動中の事故でただ一人助かったその息子へそれを返そう。 例え、意識の無い”植物人間”であったとしても目が覚めないと決まっているわけではない。 そうして、その命が尽きるまでは見守ろうと思っていた。 医者は絶望的だと言っていたがそんなことは知ったことではない。 可能性が零ではないというのならば、その時間ぐらいは稼いでやりたかったのだった。 そうして、クライド・エイヤルという少年は後二十年持つかどうか分からないと言われながらも半年後に奇跡的に目覚めた。 記憶の混濁があるということと、そのせいで若干性格や目指したいものが変わったことを除けば特になんら問題はない。

 それから、養父として少年との新しい付き合いが始まった。 養父といっても、何か特別なことをした記憶はグレアムにはない。 ただ、懐いていたリーゼたちを代わる代わる宛がって生活の手助けをしたことと、金銭的な援助ぐらいだ。 どこかに、戸惑いがあったというのもある。 結婚もしておらず、一人身であったグレアムには上手く彼を育てあげる自信が無かった。 ただ、それでもそれとなく休日で家に帰ったときなどには紳士について語ったり、自分なりに不器用ながらも接していた。 特に、自分の出身世界の話には興味を惹かれていたのでお土産に出身世界のお菓子やインスタントラーメンなどを持って帰ったりしたことは暖かな思い出ととして記憶している。

 彼らには血の繋がりなど無い。 そして、後見人にはなったが養子にしたわけでもなかった。 ただ、それでもグレアムはクライドを息子のように接してきたつもりである。 息子のような他人。 他人のような息子。 それが、クライド・エイヤルとギル・グレアムの関係だ。

 一人前の男として一人立ちした今でも、その関係にはなんら変わりはない。 そして、グレアムはこれからもその認識を変える予定は微塵もない。

「事実無根だと思うが、もしそうだというのなら拳骨の一つでもしてやらねばならないな。 それが私の義務でもある」

 そういえば、彼を叱った覚えが無い。 遅い反抗期という奴だろうか? などと思って一笑した頃にはグレアムは執務机の内線に手を伸ばした。 真実がどうあれ、どちらにしてもやることは変わらない。 通信モニターに現れた自身の使い魔の姿を確認するとグレアムは口を開く。

「アリア、各艦のアルカンシェルの装備はすぐ終わりそうかな?」

「父様? ディーゼル君の艦はなんとか終わってるよ。 元々別の任務で外してる最中だった奴だから早かったよ。 父様のがあと少しかな。 他のはその後になりそう、なんかオーバーホールしてる奴がかなりあって、そこで人手が取られてるみたい」

「ふむ、二隻か……多いと取るか少ないと取るか微妙なところだが、少し予定を繰り上げたい。 私の艦への装備が済み次第至急発進する。 残りの船への装備はキャンセルで頼む。 後、出撃は私とディーゼル君の艦だけにしよう。 もしかしたら、時間との勝負になることもあるかもしれんからな」

「了解」

「それと、ロッテはどうしているかな?」

「あの子は今ディーゼル君と人事部で人員確保に動いてるよ。 最低でも四人は高ランク魔導師が欲しいんでしょ? 人事部の石頭と交渉中。 こっちは調整が難航してるらしいよ。 やっぱり、どこも人手不足は深刻だからすぐは厳しいかも」

「そうか……確か、非番で一人トップクラスの魔導師がいたはずだ。 彼女には悪いが、声をかけてくれないかね?」

「……それをすると、絶対に人事部が他の高ランク魔導師を寄越してくれないよ? それに彼女には酷じゃないかな……」

「かまわない。 それでも、何も知らないでいるよりは良いだろう。 それに、今回は場合によっては”私”も出る」

「父様が!?」

「彼女と私……そしてお前たちにディーゼル君がいれば、”事実上”敵がハラオウンの一家でもなければ個人レベルの魔法戦闘では止められんよ。 今回の任務は”何が何でも成功させる”」

「……了解。 じゃあ、急ぐね父様」

「ああ、頼んだよアリア」

 消えたモニター。 デスクの椅子に少しもたれかかり、グレアムはしばし眉間に指を当てて目を閉じる。 仮想敵の最大戦力は守護騎士四人と主。 そして、暴走するかもしれないロストロギア。 こちらの戦力はエースクラス三人と超エースクラス二名の計五名。 これに、武装局員と次元航行艦のアルカンシェルが加わる。 真正面から戦っても下手を打つ戦力では断じて無い。 単純な殲滅力だけでいえば確実にオーバーキルできるだけの戦力であると言える。

「過去、ここまでの戦力を短期間のうちに投入されたことは記録上は闇の書にはないはずだ。 推定戦力において全てを上回っているわけだが……」

 だが、忘れてはならない。 相手は天災のようにやってくる理不尽の塊であり平和を脅かす害悪だ。 そして何より、”息子”を危険に晒しているかもしれない相手である。

「――ふむ、ウォーミングアップをしておくべきか」 

 眉間に当てていた手を降ろすと、再びグレアムは作業を再開する。 その眼は、やる気になったどこかの青年のように普段の温厚な彼には無い鋭い何かを宿していた。 


















 どことも知れぬ、基地の中だった。 コツコツと通路を歩くドクターはそこで久しぶりにとある少女の顔を見た。 凡そ、三年ぶりぐらいだろうか? 思わず彼は声をかけていた。

「やぁ、久しぶりだね。 ミス・カノン」

「ええ、お久しぶりですドクター」

 別に何かを話したいわけではい。 ただ、退屈な生活ゆえに世間話でもと思っただけである。 もっとも、そこに強かな目論みが無いというわけでもなかった。 くれるのならば、欲しい。 どんな一欠けらの情報でも。 知らないことは沢山在る。 山のように在る。 何を知っていて何を知らないのか。 それさえも曖昧だった彼である。 当然、未知には食いつく。 いつも無機質だった少女の表情が、どこか違う。 不思議なことに、その日久しぶりにあった少女からは”真っ当な人間らしい焦り”というものをドクターは感じたのだ。 尚更、もっと詳しく話しをしたいと思った。

「ふむ? 随分と急いでいるようだね。 またぞろ難題でも吹っかけられたのかな? イーター君がいなくなってから、『古代の叡智』の活動は停止しているようだし、そのしわ寄せが来ているのかい?」

「そんなところです。 ただ、今回は”大物が相手”なのでどうにも大変ですよ」

「ほう、大物かね? 指し辺りがなければ教えてくれないかね? 君が大物と評する存在の名前を」

「後学のために……というわけですか?」

「ああ」

 何の抵抗感もなくドクターは認める。 彼が反抗を企てようとしていることなど、誰もが知っている。 だから別段、隠すようなことはしない。 ただ、その方法と手段だけは知られてはならないから喋りもしないし隙も見せない。 少なくとも、ドクターはそういう男だった。

 カノンと呼ばれた少女は、少し考えてから足を止めて答える。 そのあまりの内容にさしものドクターも一瞬呆気に取られてしまう。 だが、意味を理解した瞬間から声を上げて笑った。

「――はは、なんとも嬉しいことだね。 まさかまさか、こんなところに”同じ志を抱く”者がいたとは。 君も随分と人が悪いな。 そういうつもりなら私に相談してくれればいくらでも力を貸すというのに。 無論、ギブアンドテイクでだがね」

「貴方と一緒にしないでください。 それに私は別に打倒したいわけではありません。 ただ、出て行くだけです。 そのついでに”彼”を敵にするだけです」

「ああ、それでもいいさ。 忠実な手駒であった”君が”いなくなるんだ。 ”彼には”いい薬になるだろう。 しかしアレだね、ここで私と会ったのは丁度よかったのかもしれない。 何せ私は少し前に”彼”の用意した舞台にいたんだ」

「ああ、『時の庭園』のことですね? 旧暦の遺産ですが、ミッド純正の遺産……今の”船”よりもさらに上のモノで行けば問題はないでしょう」

「いや……それは危険だな。 スペックは当時の比ではないよ。 何せ”私たち”が手を加えたのだからね」

「私の船さえ補足できると?」

「ああ、確実に可能だろうね。 加えて、迎撃システムも大分見直されている。 元々、アレを彼は実験用に使うつもりだったようだ。 ”虚数空間”の調査用にね。 だから、今までのではなくてもっと別の”新機軸の要塞”の試験機にするつもりだったらしい。 昔のままだと考えているならば危険だよ」

「……」

 少女は歯噛みする。 これで、一番簡単に勝つ一つの手段が安全ではなくなった。 安易過ぎたかもしれないと今更考える一方で、それでもどうにかする方法を考える。 だが、やはり考え付く手段など一つしかない。 反撃をさせずにアレごとアルカンシェルで吹き飛ばす。 それが一番リスクが少なく確実だ。 間違っても、生身で戦うなんてことはしてはならないのだから、それしかないと言っても過言ではないだろう。 いや、生身でも限定条件下でならば勝てないことはないかもしれない。 だが、それは”自身の命”を差し出すぐらいしなければ果たせまい。 それでは何の意味もない。

「さて、どうするカノン君? 何か良い方法を君は持っているのかな?」

「……貴方にはあるというような顔ですね?」

「ああ、簡単な話さ」

 どこからその自身が沸きあがってくるのか。 一瞬カノンは迷うと同時に警戒を強める。 ドクターは信用できる人間とは程遠いのだ。

「けれどドクター、私は貴方を信用できない」

「ふむ、酷くまともな意見だ。 当然、そうであってもらわなければ私も困る。 この私を信じるなどというのは危険極まりないと私自身も思っているからね。 だがね、この私もいい加減動かなければならないということを知ってしまったのだよ。 だから、これを最初で最後の機としたい。 ”こう”言えばどうかね?」

「……何故、最初で最後などと?」

「私は彼のところで出会ってしまったんだよ。 所謂ドッペルゲンガー<二重存在>にね」

「――は?」

「彼は私よりも狡賢い。 彼は私よりもえげつない。 彼は私よりもさらに物事に頓着しない。 彼は私よりも若い。 彼は私と同じでありながらまったく似ているだけの私だ。 グライアス殿やチェーンを知らず、しかし私の頭の中にあることを全部知っている。 言うなれば、彼は私の後継者だ。 ”私”は無限に増え続ける似て非なる自己を持つものの一欠けら。 無限に続く螺旋の只中にいる、知を求めるだけの偽者。 無限の欲望<アルティメットデザイア>――」

 ドクターの声の響きには静かな怒りがあった。 カノンはドクターの言うことを黙って聞いていたが、思い当たる節があったために言葉を遮らない。 ただ、”知ってしまった”のだな理解を示すだけである。

「分かっていると思うが、偽者はいつだって本物の居場所を奪おうと機会を伺っている。 ”この際”どちら……いや、誰が”偽者”かなど問うことに意味は無いがね、私は私の存在にかけて証明しなければならないのだよ。 私が私であるということを。 ”偽者”でありながらオンリーワンを主張したい私を君は笑うかな?」

「さて、私にはよくわかりません。 ただ、誰かのオンリーワンになりたいという話ならば、今ならばお答えできるかもしれんが」

「ふむ、そういう感性はまだ私にはないな。 余裕が無いのかな。 私はまだ私を認められてさえいないのだから外に目を向ける余裕がないんだ。 そのうちあの二人と直接出会った”私”ならば理解できるだろうとは思っているのだがね」

「だから、そのためにも行動を早急に起こしたいと?」

「そういうことさ。 プロジェクトFで生まれたものがオリジナルと出会ったらお互い、気持ちが悪いと感じるだろう。 人間を再生する魔法プログラムの場合はそもそも世界が同一存在を認識できないから存在できないと聞く。 全く同じというわけではない類似品<プロジェクトF体>には、類似品なりのプライドがあるということなのかもしれない。 まあ、これは私という存在の自己顕示欲の強い”個性”がそう思わせているだけなのかもしれないがね。 居なくなった後に生まれるというのならまだしも、時間差で居るのは酷く気持ちが悪い。 お互いがお互い、苦笑すると同時に相手を睨みつけたものだ」

 そういうと、ドクターは自らの手を掲げてみせた。 カノンは釣られるようにそれを見る。 意味は無くとも、しかしドクターが何かを掴もうとしていることだけは分かる。 それは、そういう意味を込めたアクションだった。 硬く硬く握られたその拳は確かに何かを掴んでいる。 野心か、希望か、もしかしたら普通に生活を営む人間が自然と持っている自由とか明確な自分自身の存在証明だったのかもしれない。 アウトサイダーに生きてきた男がその手に握りたい未来とは一体なんなのだろうか? ふとそんなことを思ったカノンだったが、それを尋ねることはしない。 ただ、メリットとデメリットを計算する。 そうして、協力するのであればどこまで求めてくるのかを確認するだけに留めた。 何せ、時間が無いのである。

「私と組みたいという話ですが、私は別に彼を殲滅するわけではありませんよ? そこまでできると妄信できるほど私に力はありません」

「ああ、それで構わないよ。 私一人よりもマシだろう? だから私も便乗させて欲しいと思っているだけさ。 そのついでに彼に対する嫌がらせもするし手を組んだ君に手をかそうとも思っている。 その後で、私は私の戦いを始めるだろう。 ただ、そのためには大きな花火<管理世界に対する火種>という曖昧なものを打ち上げなければ自由になれないが、実はそんなものは今でも実は簡単に打ち上げられるのだよ。 他でもないこの”次元犯罪者”たる私は」

「いいでしょう。 貴方の反骨心だけは誰もが信じ認めている。 お互いに利用するとしましょう」

「ありがとうカノン君。 なに、後悔はさせないさ。 この私の”プライド”にかけてね」

 ドクターはカノンの手を取ると、歓喜のあまりオーバーにシェイクハンドする。 カノンは相変わらずパフォーマンス過多のまま変わっていないドクターを冷ややかに見上げながらも、少しばかりの期待もした。 無論、使えないなら切り捨てるだけだがそれは”お互い様”である。

 自分だけでは厳しいという事実がある。 少しでも確率を上げるためならば、ドクターと組むのも悪くはない。 互いに打算を持っているのは当然。 そして、失敗が出来ないのも同じ。

 彼は用意されたトリックスターである。 世界を混乱させ、その混乱に乗じて世界を新たな段階へとシフトさせるための布石にして歯車。 つまりは、使い捨ての駒でしかない。 だが、そんな駒であっても今を生きている。 生きている存在と同じように。 そのことにはなんら変わりは無い。

「さて、私は急いでいますのですぐに出ますがドクターはどうしますか?」

「ふむ、玩具をいくつか持って行きたい。 ……少しばかり時間をもらえるかね?」

「一時間も待てませんよ? それに、貴方を監視している連中をどうするんです?」

「なに、そんなものは当の昔に”君が無効化”しているじゃあないか。 気にする必要は無いさ」

「”貴方”が無効化する手腕を期待していたんですけどね」

「やって見せろというのならばしても良いがね、時間の無駄さ。 なにせ、”ほら”もう半分は私の手駒だ」

 パチンと何気ない動作で指を弾くドクター。 その小気味の良い音を聞いた瞬間、カノンは目を瞬かせて唇をニヤリと吊り上げる。

「――お見事」

 会話の間に、既に半分セキュリティが”落されていた”。 全く持って、油断ならないことである。 だが、”この程度”がこなせなくては自由など夢のまた夢だ。

「では急ごうか。 私の花火を彼が”気に入ってくれる”といいのだがね」

「さて、想定の範囲外の物でも持ち出さない限りは無理でしょう。 少なくとも、並大抵のことでは揺るがすことは出来ない。 そういうシステムになってますからね」

 お互いに頷くと、振り返りもせずに駆け出していく。 時間が無い。 誰も彼にも。 正に時は金なりである。 全ては運命の紡ぐ必然に導かれて加速していき個人の運命を飲み込んで濁流となって荒れ狂う。 それだけは表も裏も関係が無い。 後はその波に乗れるかどうか。 ただ、それだけのことでしかないのだ。

















 夢を、夢を見ていた。 次々と変わる光景。 自身の旧い記憶と意味の無い幻影が生み出すその不規則な映像は、眠っていたクライドの二つの記憶を強引に再生する。 自分の記憶は大抵はっきりと見えるが、クライド・エイヤルという少年の記憶は酷く見辛い。 所々に入るノイズが、まるで電波障害を受けて画面の映りが悪いモニターでも見ているような気分にさせられる。 なんというか、チューニングのズレたチャンネルのテレビをなんとか無理やり見ているような感覚だったか。

 それは”本来”知るはずも無い他人の記憶であり、憑依しているからという理由だとクライドは思っているが、はてさて本当のところはどうなのか。 なにぶん、このような体験などしたことがないからクライドはそれがそういうものだと思ってそれ以上を考えることなく受け入れていた。

 それで納得していられるのなら、別に真実はどうでも良い。 自分が持つ解答こそが、その人間にとっての真実になるからだ。 知らないことは理解できない。 疑い続けても答えが出せないのだからそのことに無駄な時間を費やすことをクライドはしなかった。 そんなことは面倒くさいのだ。 無論、命関わるものは別ではあったが。

 元の世界に友人と日々を過ごした記憶がある。 この世界で、過ごした日々の記憶が曖昧ながらも確かにある。 どちらの密度が濃いかなどと、比べることは容易い。 断然こちらの密度の方が濃いだろう。 ただ、どちらが良かったのかなんてことを聞かれたら大変に答えに悩むだろうとクライドは思った。 もはや、そこまでこの世界に馴染んでしまっているのだ。 ここにも。 だから、どちらも等しく自分の世界だという認識があった。

――夢が次の夢を想起させる。  

 入れ替わり立ち代り、人生を追い続ける。 忘れていたものを取り戻すかのように、そうしてクライドはそこへとたどり着く。

 自身が死ぬ切っ掛けになったトラックが信号を無視して突っ込んでくる。 その巨大な威容は、今ならなんとかできるかもしれないものであったが、その時の自分はただの人間であったからどうしようもない脅威でしかなかった。

 衝突、そして何度か視界がバウンドしたころには視界が暗転して、もう一度開きそうになってやっぱり消えた。 それ以上など思い出せるはずがない。 それ以上の記憶など無い。 それで即死したはずだからだ。 だが、その瞬間に違和感を感じた。


――00010101011001010101011001010101010101110101101010000111010101……


 0と1だ。 ただの数字でしかないそれが、視える。 そうして、その膨大な数字の羅列の海に世界が堕ちた。 だが、それもすぐに消えて事故に関連した”もう一つの記憶”を呼び覚ます。 

 今度は、クライド・エイヤルの記憶だ。 航行艦の窓際の席で、はしゃぎながら両親にあれこれ尋ねている。 子供らしい子供だったようだ。 次元の海を楽しげに飽きずに眺めている。

(次元航行艦……リゾート世界への旅行……次元航行中……次元海賊?)

 漠然と理解するクライドは、その中で少年”クライド・エイヤル”を体験する。 もどかしい視界の中で次々と状況は進み、管理局員による救出作戦が展開された。 だが、次元犯罪者の凶弾によって父と母は死んだ。 助かったクライドはその後、管理局の船に乗せられたがその船は戦闘時の損傷によって傷ついており管理局の基地の目前で予期せぬ事故を起こした。 損傷報告では十分に耐え切れるという情報を機器が計測していたが、それが誤作動を起こしていたそうだ。 そのまま操舵不能に陥り、格納庫に盛大に突っ込んだと目覚めてから聞いた。 この記憶がそのときのものなのだろう。 この時クライドは与えられた個室にいたが、何か地震か何かの凄まじい震動を感知したところで夢が終わった。 恐らくはそのまま壁に強く頭をぶつけたか、逃げ遅れでもしたのだろう。  両親を目の前で失った子供だ。 生きる気力が根こそぎ奪われたところへのその追撃は心身ともに少年を蝕んだだろうことは想像に難くない。 それは、面白くもなんともないただの情報だった。 

(そうして……眼を覚まして数日してから叔父さんやリーゼたちに出会った)

 それが、始まりだ。 今の”クライド・エイヤル”としての原点。 どちらも事故で終りそれから生まれた。 偶然の生み出した欠片が紡いだ、それは確かな奇跡だったのかもしれない。


――001010111101010101010101101111110000000101010101010101……


 と、そこまで考えて再びまた世界が0と1に戻った。 膨大な数の0があった。 無限に続く1があった。 意味の理解できないただ二つの数字が、目まぐるしく羅列を刻んでは過ぎ去っていく。 こんな夢を見たのは初めてだったが、それでもクライドはその夢を見続ける。 所詮、夢は夢だ。 深い意味など無い。 どうせこれも意味の無いものだろう。 自分にとっては。

 それから暫し、クライドはそれを見続ける。 動かせる身体は無い。 だからただモニターに連続してタイプされていく0と1を見ることしかできない。 無限に自己を主張するそれらは、円周率の計算でもしているかのように途切れる気配を見せない。

(0と1ねぇ……これ、機械語とかそんなのか? それだったら意味があるかもしれんけどなぁ……サッパリ分からん)

 例えば、コンピュータに仕事をさせるにはプログラムが必要で、そのプログラムはプログラム言語によって記述される。 それはプログラムを作成する上でプログラマーが作る命令文の羅列のことなのだが、それはあくまでも書き手が理解しやすい形でプログラムを作成する上である一定の形態を定めたものでしかなく0と1だけなんてことは無い。 それは当然だ。 プログラム言語は人間がプログラムを作りやすいように作られているからだ。

 では、機械語とはなにか? プログラム言語が人間<作り手>のためのものだというのなら、簡単に想像ができるだろう。 機械が理解できるように記述されたもの、それが機械語である。 機械は人間とは違う。 彼らはプログラムをプログラム言語として認識しているのではなく、機械語としてしか認識できない。 つまり、最終的にプログラム言語を機械語に変換する肯定を経て全てを0と1で機械は認識する。 だから、こうやって無意味に続く0と1を見ているとクライドはなんとなく自分が機械にでもなったように感じてしまった。 

(そういえば、突き詰めれば0<無い>と1<在る>で全部何もかも表現できるんだよな……)

 二次元の崇高な名画も、三次元の彫刻も突き詰めれば全てデータとして表現できる。 デジタルカメラで取った写真やコンピュータの3DCGを保存するときなどは全てデータとしてコンピュータ上では処理されるのだ。 無論、それを成すための機械のスペックは必要ではあるが、0と1だけの世界であってもそれができるというのをクライドは知識として知っている。 というか、これは元の世界でもここでも通じる共通の概念であり、デバイスのような演算装置に携わるものとしてはある種当然の知識である。

――そして、極論すればそれは世界は0と1の羅列で全て表現できるということに他ならない。

(まあ、そんな簡単にポンポン世界なんて表現できるわけは無いけどな。 どんだけ技術力いるんだって話になる)

 それをするための莫大なデータを処理できる法外な処理速度を持つ機械装置など一体どこにあるというのか。 そんなものがあるのだとしたら、自分の研究も大きく前進しているはずだ。 技術限界を大きく超える超常の技術。 欲しくないと言ったら嘘になる。 寧ろ、喉から手が出るほど欲しい。


――001010101010111101011111111110000001010110101010101010101……


 頭が可笑しくなりそうなほどに続く無限の羅列。 クライドはただ眼が覚めるまでボーっとそれを見続けた。 それに意味があるかどうかなんてやはりどうでも良い。 それが夢だ。 偶々変な夢を見たというだけの話。 技術者だから視たのだろう。 普通に生活する人がこんな夢を見ないということはないのかもしれないけれど、それだってそんな確率はほとんどないはずだ。

(0101010101010100011101010……)















――プロジェクト被験者観測情報について

  データ蒐集率99.999999999999998……%まで完了を確認。

  被験者単体によるイレギュラー要素により、例のシステムも騙し騙しではあるが起動を確認。

  後数日で完成するものと予想されるが、その際強制的に”分離”することを決定。

  また、同時に敵からのバックドア<裏口>を排除し、自爆転生の準備とデータ譲渡の準備をして本命に行くこととする。

  本計画はマイスターにも極秘事項とされているため、報告不要。



――懸念事項について

  アレイスター・クロウリーが被験者の正体に感づいた兆しが有るため要注意。

  時間稼ぎとして吉と出るか凶と出るかは未知数であるが、被験者は知らないので探りようが無いと推察。

  完成と同時に計画の前倒しを決定。


――行方不明だった娘らしき存在について

  被験者との融合経験が無いため断定はできないが、仮にそうだというのならば回収できる可能性有り。

  しかし、対応方法が検討されていないため当問題を処理することは非常に難しい判断が迫られる。

  アルカンシェルのためを思えば、彼女を回収するべきではあるが果たしてそれをする必要が本当にあるのかどうかは疑問である。

  実際、破壊されようがどうしようが害はないため判断は保留。

  最優先事項に抵触しない限り留意はするが、優先度は低く設定。

  引き続き現状を維持することとする。


――湖の騎士について

  アブソリュート特性ウィルスにより完全復帰を確認。

  以降守護騎士シャマルに自我保守権限を贈呈し、情報漏洩要素としての価値を剥奪。

  封印された自我及び記憶開放。

  魔法プログラム体としての存在を完全保証することになる。



「――と、こんなところか」

 機械音声の声がそう呟く。 しかし、クライド・エイヤルはその声を聞くことなく無限に羅列に囚われ続けた。 それは当然だった。 ”まだ”理解されても困る。 ”証<狼煙>”はただ生まれるだけで良い。 それ以上など望まれてはいないが故に。

「しかし、予想以上の完成速度だ……このままでは自爆前にアレまで使いこなすかもしれんな」

 まあ、それでも別に構わない。 ”究極の理不尽”を周囲に振りまこうが、知ったことではないからである。

――彼の監視者であるトールにとっては。

















「――全システムオールグリーン。 おはようございます、マイスター・アルシェ」

「おはようカノン。 良く眠れた?」

 白衣を来た小柄な女性は、そういうとニッコリと微笑んだ。 自分が目覚めたことが嬉しいのか、それともただ嬉しいことがあったからそうなのかはカノンには分からなかったが、それでもなんとなくそれが”嬉しい”と感じている自分に彼女は戸惑った。 理解できないそれを前にして、嬉しいなどと感じるということに違和感があったからだ。 一応自己診断プログラムを流してみるが、不具合は見つからない。 理由が分からないことが酷く、イライラする。

「またストラウスの所から色々と見繕ってきたから、後で試着をお願いね」

「分かりました。 ……ですが、いいのですか? まだ私は未完成品です。 ユニゾン時の不具合もそうですし、機械仕掛けの心の起動も不完全。 兵装搭載スペースにまだまだ空きが認められますし、内臓の魔法プログラムも少ないです」

「んー、いいのいいの。 私のを演算できるだけでも十分おつりがくるし、ジルも最低限手を入れてくれているでしょう? だから、貴女はもっとこっちの勉強をしましょうね」

「……はぁ」

 ため息をつきながら、用意された服を着る。 その間、いつも思うことは自分の存在意義だった。 試作型のユニゾンデバイスとしてアルカンシェル・テインデルとジル・アブソリュートによって作られたはずなのに何故か完成していない状態のままにされている自分。 他のデバイスプロジェクトの方ではどんどんとプロジェクトが進行しているというのに。

 デバイスとは、魔力を持つ人間の武器だ。 つまりは、自分は意思を持つ武器であるはずだった。 なのに、今はその前提が変わっている。 今の彼女は――

「うん、やっぱり可愛いわよカノン」

――遺憾ながら、マイスターの着せ替え人形である。

 主の命令ならば仕方ないと思うカノンであったが、やはり挫けそうだった。 なまじ意思が在る分それに悩む。 その葛藤をもう一人の生みの親であるジル・アブソリュートに相談してみたが、彼は笑ってプロジェクトが変わったのだという。 プロジェクトの内容は、酷く馬鹿らしいものである。 なんでも、主<マイスター>であるアルシェと”姉妹喧嘩ができるデバイス”を作るというものだった。

「……ナンセンスです」

 そも、できるはずが無い。 主に反逆できないようにシステム構築されているというのに、一体どうしろというのか。 まるで理解できない。 当時のカノンにはそう思えてならなかった。 確かに、馬鹿馬鹿しいことだ。 だがそのナンセンスをアルシェはカノンに求め、それが可能になるためのシステムを組み込んだ。

 他のプロジェクトよりも格段に進んでいるから、遊んでいるのかとも思ったがそうではない。 やはり、彼女はそれをカノンに求めていた。 なんでも、”ベルカの友達姉妹”が物凄く仲が良いから妹チックなデバイスが欲しくなったのだという。 だから、”プロジェクト”を捻じ曲げてまでそれをするのだそうだ。 そして、姉妹と言ったら姉妹喧嘩よね? などとのたまってそれに変えたという。 服も知り合いの吸血鬼から沢山貰ってきたようだ。 虎視眈々と彼女の妹化計画は進行中の様である。

 もともと機動砲精カノンのプロジェクトに携わっていたのはアルシェとジルの二人だけだったので、アルシェの意見をジルは二つ返事で飲んだ。 というか、ジル・アブソリュートはアルカンシェルの我侭であればなんでも聞くらしい。 そのせいで、自分の仕様が物凄く変えられたということを後から知った彼女は頭を抱えたものである。 

 鏡の前でアルシェに命じられた通りに訓練する。 可愛らしい服を着て、可愛く笑う訓練だという。 それに何の意味があるのかは分からないが、それでも言われた命令には逆らえなかったから彼女はそれに取り組んだ。 だが、何度も何度も言われたとおりに笑顔を作ろうとしたが、一向に主のようには笑えない。 鏡に映った自分は、無機質なままだ。 まるで人形だった。 それが当然なのだと思う反面、主のように笑えないことがどこか残念だった。

 笑うという行為はとても難しい。 それをああも簡単にやってのける主は凄い。 ただ、それだけは確かなことだった。 そうして、何日も何日も笑顔を特訓した。 杖喰い<デバイスイーター>はそんな彼女を無意味だと笑い、道具は道具らしくするべきだと言った。 だが、持ち主に命令されたのだから仕方が無い。 そういうと、彼は押し黙ってその論理矛盾を考え、一度無限ループに入って壊れた。 どうやら、彼にはそういうことを考える柔軟性というものがないらしい。 彼の方が人間臭いと思っていたが、どうやら自分の方がより”人間らしい”思考を持てるようだ。

 それが、もしかしたら搭載された機械仕掛けの心<マシンハート>システムの影響なのか。 柔軟性という部分では、デバイスの中では自分は群を抜いている。 そして、それの本当の効力を知ったのは随分と後のことである。 それは平然と主の命令に逆らえるようになってからの話だった。

「おや? 今日もまた可愛らしい服ですね」

「おはようございます、ジル・アブソリュート」
 
「いやだなぁカノン。 もっとフランクにダディ、もしくはパパと呼んでくれないかい?」

「ふふ、それじゃあ私はママかしら?」

「……その場合、私はこれからカノン・アブソリュートを名乗れば良いんでしょうか? それとも、カノン・テインデル?」

「……はぅぅ!?」

「……ぐふっ!?」

 そう尋ねると、二人して顔を見合わせ、今度は顔を紅く染めてからそっぽを向いた。 初めのうちは何故そんな反応を返すのかわからなかったが、カノンはそのうちにその意味を学んだ。 単純に二人が度を越えるほどの奥手だったというだけの話である。 外部から観察していると一見してバカップルに見えるのだが、単純に距離が近すぎるだけの他人であることはすぐに分かる。 二人の距離は限りなく近くて、そして遠い。 最後の一線だけは越えられない、なんとも不器用な二人である。

 そして、そんな二人だからこそカノンにそれを仕込んだのだろう。 機械に意思を持たせること程残酷なことはない。 機械を人間にしようとすること程、難しいことはない。 けれど、それでもどうせデバイスを作るのならばそういうデバイスを作りたい。 これから生まれてくるデバイス<隣人>たちに、それが産みの親たちからの素敵な贈り物として与えられたならば素晴らしいことではないだろうか? それが、アルシェがカノン<自分のデバイス>に抱いていた本当の願い。

 唯の道具として終わらせるつもりが無かった。 そういうのが専門ではないから苦労したが、それでも自分なりに作り上げたそのシステムは今できる最高であるとアルカンシェルは信じていた。 後は、ただそれが真の意味で駆動できるまでカノンが経験値を貯めるだけ。 どれだけの時間が掛かるか分からないが、それでも何時かきっとその場所へと辿り付ける。 それは、そこがアルハザード<知識の墓場>だからこそ可能な、時間を超越した先にある未来での話。

 未完成な部分を多く残しているのは、実はそれが成しえてからお祝いとして完成させようと考えていたからに他ならない。 大体にして、そのままでもカノンの能力は常軌を逸しているモノを持っている。 凡そ当時に現存するデバイスの中では単独行動可能なデバイスとしては最強クラスである。 それ以上をつぎ込む意味がない。 第一、戦線に投入する予定などないのだ。 アルハザードは次元世界の中で最強にして不可侵の聖域。 遍く次元世界の中にあって、ただただ永遠を刻み続ける箱舟なのだ。 ジル・アブソリュートはアルシェを守るための保険のようにも考えていたようだったが、それでも彼女が誰かと戦うなどということは無いはずだった。

「どうしたんですか?」

「カノン、そういう冗談を言えるほどに成長していたのね!!」

「いやぁ、アルシェの教育の賜物ですね!!」 

 二人して何かから逃げるように、笑う。 相変わらずのチキンな二人である。 そんなだから何百年生きていてもそうなのだ。 嗚呼、そうだ。 ”そんなままでいたから”駄目になったのだ。


――暗転する視界。


 その先にあるのは、笑いあう両親の顔ではない。 どこか狂った笑顔を振りまく主と、微笑を浮かべたまま気持ちが悪いぐらいに”笑っている振り”をしているだけの黄金の男だ。

「カノン、君にはベルカで小型ユニゾンデバイスの開発の手伝いをしてもらいたい」

「――お願いカノン。 これからは彼の手伝いをしてあげて」

「……はい。 マイスター・アルシェ」

 主の命令には”まだ”逆らえない。 今までもそうだった。 そして、これからもそうなのだろうとずっと思っていた。 やがてベルカで研究を手伝い、自身の不具合を克服した形での形態が完成した。 ただ、それはあまりにも自分のそれとは違いすぎた。 求められたものは確かにそちらのほうがより正確であったが、それでも単純に戦闘をしたならばカノンの方が有用である。 そういう自負が自分の中にはいつもあった。 あるいは、その自尊心はマイスターの父親の口癖が影響だったのか。 より確実で、実用性の高い兵器。 それが、自分である……と。

 出来上がったそれらを融合機<ユニゾンデバイス>と呼ぶとすれば、カノンは兵装機<ウェポンデバイス>であろう。 彼女が自身を既存のデバイス範疇から外れていると自覚しているからこそ、そう考えた。 ユニゾンデバイスとは似て非なるもの。 類似品にしてそれとは違うもの。 彼女はデバイスにしてデバイスに非ず。 そして、誰よりも使用者を選ばないデバイスであった。

 その後のことは、特に思い出しても楽しいことなどない。 偶々ミッドチルダで別の手伝いをして欲しいと言われてそちらに移った後にアルハザードとアルカンシェルが次元世界から消えた。 そして、それから少ししてから今度はベルカが消えた。 アルシェの最後の命令を忠実に守り続けたが、そのせいで彼女は表舞台から完全に姿を消していた。 機動砲精カノンの行方を知る者はもう、誰もいなくなっていたのだ。

 ジル・アブソリュートでさえ恐らくはもうその存在を忘れ去っている頃だろう。 いや、或いはシュナイゼル・ミッドチルダ<魔導王>に組する敵だと認識している可能性だってある。 それは悲しいことであるが、今はそんなことはどうでも良い。 彼女にとってはもうアルシェ<母>やジル<父>よりも大事な人が出来てしまったのだから。 目の前にいない人ではなくて、すぐ近くにいる人を守りたいと思う。 機械の枠組みを越えて回る歯車<魂>がそう言っている。 だからこそ、彼女は躊躇をしない。 何が敵であろうとも、”自我”を通すことを覚えた機人はだからこそ進むのだ。

 それを取得選択できる自由こそが、あの頃の母<アルシェ>からの贈り物だと胸に誇りながら。


――最適化<夢>終了。 


「おや? お早いお目覚めだねカノン君」

 ゆっくりと目を開けたその向こう、一人の科学者が次元航行艦の操舵をしながら楽しそうに振り返ってくる。 本当に彼が操縦しているというわけではない。 オートメーション<自動操縦>が勝手にその地点を通るようにしているから、彼は単純にシミュレーションをしながら遊んでいるだけだ。 
「……まだやってたんですか?」

「ああ、存外楽しいものだね。 車の免許さえもっていないのだがね、もう”なんとなく”動かし方を理解してしまったよ」

「そうですね、”それを操れる”貴方も過去にいました」

「ふーむ、なるほど。 今ならようやく納得できるかもしれないね。 ちなみに、その次元航行艦を操舵していた私はどうなったのかな?」

「死にました。 航行艦を乗っ取って逃亡する最中に、追撃に出た杖喰い<デバイスイーター>の艦船にアルカンシェルを撃たれて」

「なるほど。 いやぁ、それにしても大盤振る舞いだねぇ君は。 私の知らない未知を次々と教えてくれる。 もしかしたら、君は私の知りたいことを全て知っているのかい?」

「いいえ。 全てを知っているわけではありません。 例えば、”彼の拠点”の場所などを私は知らない。 私が知っているのは利用していたいくつかのアジトだけです。 彼は存外臆病者なんです」

「ああ、かもしれない。 だから、好悪が反転したドクター<オリジナル>を消してより”扱いやすく制御しやすい”私たち<無限の欲望>を生み出した」

「都合が良かったんですよ。 人間はふとした切っ掛けでそれを反転させることがある。 特に、彼の前ではそうだ。 たった一つの亀裂でもあれば、そこから崩れることがある。 人間の気持ちは永遠には続かない。 永遠に見えてもいつも揺らいでいる。 だから、繋ぎ止めて置きたい人間の前ではボロを出さないように彼は努めていた。 恐らくは今も、そしてこれからもずっと」

「難儀だねぇ彼も。 それにしても……人間を語る機械か。 随分と皮肉が利いているね?」

「ですが、事実です」

「では、君はどうなのかな? 君に与えられたというその特異な機構は、永遠を刻めるのかな?」

「当然でしょう、私がそれを望み続ける間は”何人たりとも”私の意思を挫けない。 それができる例外は次元世界ではもう、一人しかいません」

「そうなのかい?」

「近いうちに合流しますよ。 私が拉致してきますから」

「はは、それは楽しみだね」

 そういうと、ドクターは笑みを浮かべると航路のデータをカノンの前に送った。 表示されているそれには、今後の予定が書かれている。 一応カノンの用意していた予定であったそれをドクターもまた検討していたのだ。

「一部変更してみたよ。 私の判断からいけば、それの方が良い」

「……いいのですか? 何かあったときには貴方が大変な目にあいますよ?」

「構わないよ。 管理局には見つからないし、気長な一人旅を満喫させてもらうだけさ。 それに、その彼とはできるだけ行動を共にするべきではないだろう? その後の計画でもそうだ。 一番危険なのは彼と行動を共にする時間が長くなることだから、私が君たちと別れて単独行動するほうが都合が良い……違うかい?」

「間違ってはいません。 ただ、それは貴方への私からの信頼を考えれば危険だと判断していました」

「ほう?」

「ですが、貴方はもうやる気になっている。 そんな目をしている人は、多分私を裏切らないでしょう。 だから、”それで”行きましょう」

「……驚いた。 そんな感性だけの判断で、判断できるのだね君は」

「人にして人に非ず。 機械にして機械に非ず。 私が立っている場所はその境界です。 だからこそ、どちらも理解できる」

「へぇ……興味深いな。 口数もかなり増えているし、表情も豊かだ。 それが今の君かい」

 ドクターはその言葉に些か驚いたように目を瞬かせる。 やはり楽しいことだけは確かだったから、こんな”生意気”を言う機械も悪くないと思った。 裏側に生きてきた機械が、人と機械の境界に立ちその先へと行こうとしている。 なら、自分もこんなカビの生えた裏側の暗黒を越えていけるのかもしれない。

 裏側の日の当たらない場所にはもう飽きた。 ならば、表返って世に出るのもそんなに悪いことではないのではないだろうか? 自己顕示欲が刺激される。 誰にも知られない裏などいい加減クソ喰らえだ。 それに”彼<スカウトマン>”との約束もある。 なんとしても、ドクターは生き残りたいのだ。 だからこそ、彼女との利害関係は構築したままでいたかった。 多分、それが一番生存確率が高いと彼は踏んでいたから。

「さて、ではそろそろ行ってきます」

「ああ、噂の彼をしっかりと拉致してきてくれたまえ」

 ドクターに見送られながら、カノンはブリッジを後にしようとする。 だが、ふと足を止めて振り返る。

「そうだドクター。 次に会うときは”ボク”のことをグリモアと呼んでください」

「グリモア?」

「ボクの今回のコードネームです。 マスター・オブ・グリモア<魔道書の主>を監視する任務には適当な名前でしょう?」

「……君、ネーミングセンスはあまりない方なのかな?」

 もしかしたら、彼女にとっては会心の名前だったのだろうか? あまりにも安直過ぎ、遊び心が足りないとドクターは思った。

「……センス無いですか?」

「ああ、まったく無いね」

 恐る恐る尋ね返してきたグリモアをドクターはやはり一刀両断。 もしかしたら、気に入っていたのだろうか? 愕然とした表情を浮かべる彼女を前に、さすがのドクターもそれ以上追及をすることはやめた。

「……」

「……」

 しばし嫌な沈黙が流れたが、グリモア軽く咳払いをするとなかったことにして口を開く。

「ん、やっぱりドクターはいつも通り呼んでください。 それでは、行ってきます」

「あ、ああ。 いってらっしゃい」

 自動ドアの向こう側へと消えていく小さな人影。 どこかしょんぼりとしているその姿を見送りながら、ドクターはやれやれと首を振ると自分の作業を進めていく。 失敗は許されない。 タイミングは心得ているし、仕込みも上々だとは思うがそれだって本当に作動するかは判らない。 だからこそ、彼女たちが必要なのだ。 相手側に”自分”がいたという事実がある。 そいつが邪魔をしている可能性だってあるのだから。

「まあ、本当は今回は”どうなっても”良いんだけどねカノン君」

 薄く笑みを浮かべる。 ”この”ドクターしか知らない”彼”。 少なくとも、彼のその後は保証されている。 死にはしても、後に続く。 だからこそ、ここで”彼女たち”に全力で協力するのだ。 無論、生き延びられれば最高だ。 何せ、今の自分のままで”アルハザード”へ行けるのだから。 それがあると知って、夢に見ない技術者はいない。 そんな技術者はモグリでしかない。 だが、それでも全ての技術者が皆等しくそこに行きたいというわけではない。 だがしかし、『うちで研究してみないか』と誘われたのだとしたら話は違ってくる。 なんともまぁ、技術者冥利に尽きるではないか。

「可能性が少ないが、それでも意趣返しの機会は貰うよ。 でなければ始まらないじゃないか」

 誰に言うでもなく呟くと、ドクターはミッドチルダに降下していく彼女をモニターで見る。 彼女こそ、テインデルの遺産<デバイス>にしてもはや忘れられたロストロギア。 スペックはやはり、途方も無い。 艦船の制御を乗っ取るぐらい容易く、未完成でありながら既存を圧倒的に凌駕する芸術品。 正に、アルハザードが生み出した崇高な技術の結晶だ。 三大蒐集機とさえやりあえるだろう。 ただ、古への王や魔導王と対峙しても無事でいられるかは別である。 アレらはそもそも”人間としての規格”が違う。

 何がどう違うのかはドクターにも明確には答えられなかったが、それでも思った。 これは”分”の悪い賭けだと。 けれど、その分の悪い賭けに彼が乗ったのはこの機会を逃せば後が無いだろうと分かっていたからである。

 彼はドクターにはっきり明言した。 ”アルハザードを恐らくは数年後に虚数空間から浮上させる”と。 だから多分、”そう”なるだろう。 暗黒の深淵にたゆたう伝説の地が、伝説に謳われる都が、何故に今になって浮上するのかなんてのはきっと考えるだけ無駄なことだ。 けれど多分、それはきっと”そういうこと”になるのだろう。

「ふふ、シュナイゼルも本当に大馬鹿者だ。 心底怖いよ私は。 ”昔の私<オリジナル>”はどうしてそれができたのか、今の私には到底理解できない。 或いは、それが君の能力なのかな。 とはいえ、ああ、君はナンセンスだ。 とてもとても、ナンセンスだ」

 トランスポーターでカノンが消えた後も、ドクターはしばらくそのまま思考を疾走させていた。 広がっていく知覚が、知識を越えた実感となって蘇っていく。 刻まれてきた無限の欲望の螺旋が叡智となって蘇っていくのを感じるのは、ただそれだけで甘美であった。 失った自分が帰って来るような、そんなしっくりと来る感覚がある。 そうして、取り戻していった自己の内にある余分なものをろ過機で越し、取り出していく頃にはドクターは自身の手が震えていることに気がついていた。

 武者震いではない。 それはとはまた別の理性を超えた恐怖であった。 彼との契約によって軛を外された今、少しずつ蘇っていくオリジナルの記憶とあの一瞬の邂逅で出会った彼のことを思い出すだけでこうなるのだ。 反骨心の塊だと自負してきたその自己認識さえ、粉々に粉砕された。 アレは、そんな次元で語って良いものでは断じて無い。 闇の深淵の彼方より、楽しげに”見護る”だけの存在。 夢でも幻でもない、荒唐無稽の御伽の彼方に住まう住人だ。 自分の元に現れたのだって、きっと気まぐれか道楽の一種だ。 つまりはそうだ。


――きっと、彼は彼<シュナイゼル>など微塵も脅威に感じていないのだ。


 恐らくは気に留めてさえいない。 気の毒なことだ。 酷く酷く気の毒なことだ。 それはきっと、無意味なことなのだろう。 絶望さえも呆れるほどの屍を並べても、どれだけの時間をつぎ込んでも、何かが決定的に違うためにその違いを埋めぬ限りは到底届きはしないだろう。 この世界にいる”誰も彼も”が。

「本当は、誰がこのシナリオを動かしているのだろうね? 全てを思うがままに出来ると妄信している愚者か? それとも、ただただ見護るだけに終始する貴方か。 それとも現場に直面する私たちなのか――」




――それは決まっているさドクター。

  シナリオを動かすのはいつだって”その世界の中心”に立つ者だ。

  余でも神でも魔導王でもない。

  勘違いしないでおくれよ。

  その道<結果>を選んだのは君たち一人一人の選択があってこそだ。

  全ては”道程を自らで選び、立ち続ける君たち”が決めた結果だ。

  何故余ではないのか?

  当然であろう。

  余が好き勝手したら、それこそ全てがご破算だ。

  何もかもが、皆等しく意味を失う。

  それでは何も意味が無い。

  絶望的に意味が無いのだよ。

  もう、あんなのは御免だ。

  永遠を無価値にするコトほど、罪悪なものはない。

  輝きをただ蝕むほど、醜悪なことは無い。

  それは倦怠と磨耗を生み出し、耐えがたき永劫と苦痛を生み出す源泉となる。

  永劫に続く、無限地獄の再来だ。

  だから、余は”選ばせる”のだ。

  君に、彼に、彼らに、彼女に。

  それを忘れないで貰いたいものだな。



 狂ったロンドの調べに乗って、どこからともなく響いてくる少年の声。 ドクターは冷や汗を流しながら、その一字一句を脳髄にしかと刻んだ。 恐らくは、これから先どこまでいっても彼の言葉の意味を理解することはできないだろうと思いながら、それでもその言葉を記憶した。

 意味は理解できずとも、その言葉には少年なりの意味があるのだろう。 言葉を聞いてからどうするのか、選択する権利だけは常に自分にある。 それだけは、確かだった。 とはいえ、少年が嘘をついているだろうということも”なんとはなし”に気がついている。 嘘と本当の両方の混ざった言葉。 彼が出てきたという時点で、そういう選択をする材料を彼が彼らに提供しているということだけは忘れてはならない。 それが、未来への干渉になるのかは知らないが本来選ばない選択を選べるようになるという点で言えば彼のそれは干渉になるはずだろう。

 本人はそれをやはり、あくまでも選択者の責任だと哂って言うのだろうが。

「肝が冷えるよ。 まったく、そことここをどうやって繋げているのやら」

 肩を竦めて、やれやれとポーズを取る。 誰も視てはいないだろうに、それでもそれを見た誰かが苦笑しているようにドクターは思った。


















「0101111000101001010101010111010001110101001101……」

「……長?」

「1110101010100101010101011110……」

「室長? 寝ながら円周率か何かの計算ですか?」

 ユサユサと、身体が揺さぶられていた。 不快に感じないのは、彼女が強引に起こそうとしているわけではなくどこか気遣うような声色だったからだろうか。 クライドは薄っすらを眼を開ける。 少しばかり酒のせいで身体がだるいように感じたが、それでもさすがにここにいるはずのないグリモアの声を聞けば嫌でも頭が覚醒した。

「……グリモア君? あれ? なんで俺の部屋に……って、うおぉ!?」

 目の前というにはあまりにも近すぎる位置にあるグリモアの顔に、思わずクライドはベッドの上を芋虫のように体を捩じらせて離脱を図る。 だが、ジワリとクライドが離れればグリモアもそれを追ってくる。

 クライドの上にいる彼女は牛の歩みよりもさらに遅いクライドを余裕で追い、どこか楽しげにまた再び同じ位置を取った。 恐ろしいほどに近い距離にいる助手の紫銀の瞳が真っ直ぐにクライドを見下ろしている。 どこか扇情的なその瞳には、いつもの無機質さは欠片も無かった。 柔和で、本当に自然な感じで笑っている。 そんな眼を向けられる理由などクライドは分からなかったが、何故か物凄く恥ずかしい気がした。 寝ている姿を見られたからとか、そんな理由ではなくてもっと違う何かがある。 多分、一番近いのはアリアだとクライドは咄嗟に思う。 ロッテに追い詰められてヘトヘトになっているクライドを本当の弟を見るかのように優しく笑うときの表情に近い。 アレは家族愛とかそんなのだったが、これはそれ以上に更に進んだ何かだ。

「じょ、状況が分からん!? せ、説明を要求する!!」

「とりあえず、夜這いだといえば信じますか?」

 白い掌がクライドの頬を撫でる。 どこかくすぐったいそれをクライドは絶句したまま目を瞬かせる。 思わずポカンと開いた口が彼の驚きを端的に表していたが、そんなことはグリモアには関係がない。 そのまま押し切ることにした。

「グリモ――」

 その先など言わせない。 拒絶も冗談も場を誤魔化すような言葉も要らない。 何かを喋ろうとしたクライドの唇を自分のそれで塞ぐグリモア。 例えそれが究極的には自分には無意味な行為だと知っていても、それが人間の愛情を伝える行為だと知っていたから。 グリモアはそれに全く躊躇などしなかった。

 ただ、唇と唇を合わせただけのそんな行為。 だが、ただそれだけの行為で人間は愛を確かめる。 だからこそ、その意味を人間<クライド>が理解できないはずがない。 無論、それは愛など無くてもできる。 だが、こと彼の場合は違う。 そういうものを求めるタイプの人間<ロマンチスト>なところがある彼は、どこかシャイな部分で持ってそれを重視するだろう。 だから、それをする意味を嫌でも理解するはずだ。 そして何より、それがグリモアの気持ちを表現する”好意”の明確な形だということは、誰かに言われずとも想像できる程度にはクライドは大人であった。



――新規マイスター『クライド・エイヤル』を登録開始。

  最上位マイスター『アルカンシェル・テインデル』の承認……確認できず。

  新規登録をキャンセ……”例外条件”に該当。

  『機械仕掛けの心<マシンハート>』起動中につき、ありとあらゆるプログラム制限を解除。

  新マイスターの固有魔力情報を取得完了……多数の”バグ”を確認するも登録に支障なし。

  続いて最上位マイスターをクライド・エイヤルに変更……変更完了。

  感応制御システム接続開始――



 いきなり助手に唇を奪われ、完全に思考を停止していたクライドはその感覚に呻く。 触れている唇から広がっていく既知の感覚。 デバイス特有の魔導の知覚が広がっていく。 そこから託されるのは、彼女のことの全てだった。 スペックから推奨される使用法、果ては現在のスリーサイズの設定まで本当に情報として晒せるものが全て晒されている。

(彼女は……ユニゾンデバイスなのか!?)

 デバイスマイスターとしての自分がその未知に身体を震わせた。 彼女は人間と何一つ違わないように思える。 いや、事実彼女を人間だと思って今まで接してきていた。 アギトを知っているが、彼女は見た目小悪魔のような姿をしているし、何よりも人間ではないと一目で分かるほどに小さい姿でいる。 だが彼女の場合はそうではない。 性格や仕草は確かにどこか機械染みた無機質さがあったものの、それ以外には特に不自然なものは無かった。 だからこそ、余計に驚いている。

 さらに、デバイスであることを証明するかのようにグリモアの身体が消えていく。 温もりをそのままにクライドの中に溶けるように融合したのだ。 だが、不思議なことにクライドにはなんら身体的変化は無い。 魔力翼が展開されるわけでもなければ、髪の色が変わったということもなくポテンシャルが上がったということもない。 それは、通常のユニゾンデバイスではありえない事象だった。

『室長、ボクを普通のユニゾンデバイスだとは思わないでください。 ボクは不完全な融合しかできないユニゾンデバイスのなりそこないだから』

 脳裏に響いてくるグリモアの声。 もはや何が何だか分からない。 だが、少なくとも何か彼女に害意があるというわけではないことだけは分かる。 それだけは、直感していた。 唇に感じていた温もりがまだ自分のそれにはある。 それが在る間は、どうしてか疑う気が起きないのだ。 あれだけで骨抜きにされてしまったわけではないが、どうしてもそう思った。

『それより、敵が来ますよ。 戦闘準備をしてください』

「敵……戦闘準備?」

 感応制御より送られてきたレーダー情報。 そこには、自分を自身を中心にして包囲するように何かがあった。

「――これは、なんだ?」
  
『室長の敵となった人たちの位置データです。 盗聴した念話によると後三分で突入してくるようですね』

「は?」

『管理局の特殊部隊スウェットですよ。 ”闇の書”の主を捕縛、或いは抹殺しようと動いているわけです。 室長は昨日の夜付けで立派な”次元犯罪者”の仲間入りをしてますから』

「っ――!?」

 驚きの言葉を飲み込み、その意味を把握したクライドは弾かれるようにしてその辺りに投げ出していたツールボックスを拾う。 そうして、デバイスを展開する準備をしつつバリアジャケットを羽織るとホテルのカーテンをそっと開けて外を見た。

 時刻はまだ深夜である。 夜の闇を切り裂く星光と月光が申し訳程度に大地を照らしている。 もたらされる情報通りの位置を見てみるが、さすがにそれらしい人影は見えない。 迷彩魔法でも使っているのだとすればしょうがない。 それが本当なら、だが。

「あー、自首したら情状酌量の余地とかあると思うか?」

『それをしても無意味です。 ”闇の書”を処分する方法が管理局には闇の書本体の破壊か主の抹殺して転生させる以外には存在しません。 そして、闇の書を確保するのは管理局には”絶対”に無理です。 現在の管理局のどの艦船よりも足が速い船を向こうは持っていますし、そもそも管理局と室長の敵は深い部分でグルですからどうやっても現状では捕まったらその時点で室長の身動きは封じられてアウトです』

「……随分と俺の事情に詳しいんだなグリモア君」

『はい、ボクは室長を取り巻く複雑な事情を少しは知っていますから』

「そうか……」

 ため息をつきながら、クライドは一瞬だけ剣呑な敵意をグリモアに向ける。 そうして次の瞬間には銃型のデバイスを展開。 自身の眉間につきつけた。 デバイスの名前はマジックガン。 フレスタのために用意したデバイスと同じく魔導砲を発射する機構を持っている。 カートリッジシステムはないが、それでもその一発はクライドの頭ぐらいは容易く吹き飛ばすことができる。 勿論、融合しているグリモアもそうなればただでは済むまい。

「面倒くさいから詳しい事情は後で聞くことにする。 ただ、”これだけ”は答えてくれ。 グリモア君は”俺の守護騎士”が消えたことに直接の関係はあるのか?」

『――いいえ。 今回のボクはあくまで室長を監視するのが仕事であって、それ以外にはノータッチでした。 三年前からずっと、”ボクが見ていたのは貴方だけ”です』

「そうか……ならいい」

 マジックガンを仕舞うと、クライドは覚悟を決める。 特殊部隊など相手にできるかどうか分からないが捕まる気は無い。 話が本当なら、そうなった時に自分には打つ手が無くなるのだ。 ならば、精々自分が納得できるまで暴れるまで。 何よりも、よく分からない敵の掌の上で踊らされるだけでいてたまるものか。 死中に活を求め、よく分からない自身を取りまくものたちを出し抜くしかない。

『室長、今ならまだこの世界を離脱できます。 今いるのは最高でもAAランク……二十人ぐらいに囲まれていますが戦力は所詮A?AA前後です。 ボクがいるから問題はありません』

「二十人って……そんな大人数と戦ったことないんだが」

『大丈夫です。 この程度の戦力なら問題はありません。 この戦闘のうちにボクの使い方を把握しておいてください』

 嫌に強気なグリモアの様子に、クライドは呆気に取られる。 だが、すぐにいつもの苦笑を浮かべると頬をかきながら言った。

「なあ、グリモア君。 ちなみに、さっきのは俺が未来の嫁さんのために取っておいた大事な大事なファーストキスという奴なんだが、それはどうしてくれるんだ?」

『安心してください、ボクも初めてでした。 それに、今日からボクは室長専用の”デバイス”です。 それぐらいでロストロギア級のデバイスを自分の者にできるのならば安いものでしょう? 無論、女としてのボクも無条件にセットになるというお買い得価格です』

「いや、だからそういう殺し文句は……」

 意地悪が大きなカウンターとなって返って来た。 思わずタジタジになるクライドであった。 やはり、クライドは女性に強く出られるのに大変に弱かった。

「と、とりあえずだ。 そういうのも含めて全部後で教えてもらうぞ。 今はここを切り抜ける。 管理局だろうが、敵だろうが知ったことか。 ”今”の俺には怖いものなんてない」

『了解、マイスター・クライド』

 戦闘態勢に入ったクライドが幻影魔法を使用するのと、周辺に広域結界が張られるのはほぼ同時だった。 中から出す気など無いということなのだろう。 海の管理局員がよく使う手だ。 そして、それを合図に次々と周囲から迷彩魔法で隠れていた連中が一斉に動き始める。 それらがクライドがいる宿を包囲するようにして包囲網を狭めるように動いていた。

 状況は相変わらず後手後手ではあったが、それでもクライドは心のどこかで安堵している自分に気がついていた。 誰かが自分の側にいてくれている。 それがこんなにも嬉しいことだということに、クライドはこのとき気がついたのかもしれない。 理屈ではなくて、感情で。

 ”消えた守護騎士”や”翡翠の女性”が空けた心の空隙を少しでも埋めたグリモア。 ついさっきのキスの意味を聞くためにも、クライドはここでしくじることはできない。


――時空管理局正規部隊とクライドの戦闘はこうして幕を開けた。

















 

 時空管理局は基本的に警察と軍隊が混ざったような組織である。 正義を掲げ、武力で持ってそれを成す。 極論すればその性質は旧来の人間が培ってきたものとなんら変わりは無い。 無論、話し合いで解決できるのならばその努力も惜しまないが、端から話し合いなど無意味だと判断されれば武力行使も辞さない。 彼らが守るのは管理世界であり、そこに住まうもの。 そのためならば、在る意味ありとあらゆる手段を講じるのだ。 それが被害を最小限にする方法だと彼らは信じているし、その信念はそう簡単に揺らぐことはない。 今回もそうだった。

――ベストよりベターを。

 より確実で、より無難な方法を。 この場合のベターとは、彼と和解することではない。 彼の身柄を押さえるか抹殺すること。 ただ、これのみが最優先事項として挙げられる。 闇の書の場所を吐かせ、封印もしくは破壊するのに留めるのが人道的には正しいが、それをするまでの間にもしもがあっては意味が無い。 せっかくの好機。 アルカンシェルで周囲の被害を無視して殲滅するようなそんな大事が起こる前に、ここで禍根の元を断つ方がよっぽど合理的だ。

『――全員配置についたな? 一分後に突入する』 

 夜間迷彩用の黒いバリアジャケットを羽織った壮年の男が、恐ろしく低い声で隊員に尋ねる。 階級は一等空尉。 その豊富な経験から急遽今回の作戦で現場指揮を任された男である。 恐ろしく合理的であり、先を見据えて行動をするタイプだった。 人情など、その中には挟まない。 挟むことがどういうことになるかというのをよく知っているからだ。 冷徹なその思考でありながら、しかし部下からは不思議と慕われている。 冷たさの中にある確かな犯罪への憎悪を、彼と共に行動した者は知っているからだ。 その信念にはどこか共感する部分があったのだろう。

 今回、上からの命令は捕縛だったが彼は現場の判断を優先することにし部下には反撃があれば非殺傷設定解除しても構わないと言った。 彼からすれば、前線の苦労を省みずに机上で理想論を語るだけの連中の言葉など反吐が出る思いだった。 非殺傷設定<殺さない>が必ずしも良いことではない。 上は自分たちを綺麗なところへ置いておきたいのだろうが、前線の現実を見ろと彼は常々思っている。 その潔癖主義のせいで、死んでいったものを多く知っているからこそ余計に思う。

 戦うとは命のやり取りをするということ。 そして、彼ら犯罪を犯したものは管理社会の常識を放棄した連中なのだ。 連中には常識がない。 連中には正義などない。 そんな連中のために、自分たちや平和を享受するべき連中の命が危険に晒されるというのはあってはならない。 故に、徹底的に叩き潰すべきである。

 暴論ではあったが、その持論を残念ながら彼<セダン・ベイル>が変える機会は結局訪れなかった。 相対した連中の生き汚さ、そして醜悪さを見続けてきたその男にとってはそれが常識であった。 理想を抱き続けることは難しい。 若い頃はまだ理想的な正義という奴に燃えていたが、それも現実に押しつぶされた。 そうして、結局手に入れたものが現実の苦さであり、冷徹な局員としての貌である。 ただ、そんな自分ではあったが、そうすることで平和に貢献できるというのなら是非は無い。

 彼は命令違反の常習者であり、出世にも興味は無い。 表側で広報などに利用される広告塔のような高ランク魔導師<一握りの偶像>ではなく、煌びやかな世界の影で泥臭さと共に歩む叩き上げの局員である。 だからこそ、それをする。

 ただ、本当なら宿を取っている部屋もろとも吹き飛ばしたいところではあったが、さすがにそこまですることは戸惑われた。 ホテルのオーナーにも商売があるのだ。 高々一人二人を潰すのにそれは必要ではない。 相手は魔導師とはいえ”ただ”のデバイスマイスターとその助手だ。 助手の方は危険かもしれないが、それでも数人のAAで囲めばやれるだろう。 守護騎士が現在別の次元世界で活動中なのは”知っている”。 ならば、いつもの対テロ戦術の範囲内の戦力でも十分である。

『……5……4……3……』

 部隊であわせてある時計を見ながらカウントする。 次元世界の癌<次元犯罪者>を潰すために。 狙撃、結界、強襲、支援……配置についた味方はそれぞれの分野で豊富な経験を持っている。 少しばかりのイレギュラー<グリモア>があったとしても何も問題はないはずだ。

『……2……1……作戦開始!!』

 夕闇の中に夜が沈む。 結界魔法による現場封鎖である。 そうして、管理世界の法の番人たちが一斉に動き出した。














 突撃は一瞬だった。 入り口のドアと窓ガラスから強襲突入した四人ばかりの強襲隊員が部屋の中、ベッドの上で裸で睦みあっていた男女に向けて、短杖を構える。 室内では取り回しの悪い通常サイズの杖よりも、丈の短いデバイスなどの方がやりやすい場合がある。 このタイプは状況によっては在る程度の伸縮が自在な実戦的装備だ。 完全に励起したその制式強襲型のデバイスは魔力でその二人を威嚇しながら、ベッドの周囲を完全に塞ぐ。

「時空管理局だ!! 二人ともそのまま両手を上げてベッドにうつぶせになれ!!」

「――!?」

 抗議の声を上げようとしたクライドを、しかし隊員はその杖で威嚇することで返答とした。 突きつけられる杖、魔力を今にも開放しようというそれを前に、クライドはさっとて手を上げ、グリモアはシーツで身体を隠した。 裸の男女であるために目に見えて武装はしていないが、”こういう”ときでも彼らは慎重に距離をつめ、四人のうちの一人が二人を拘束するために用意していたチェーンバインドの魔法を使用する。

 二人の足元に展開されるミッド式の魔法陣。 そのまま、頑丈な鎖が二人を包み込もうとした瞬間、二人が強烈な音と閃光を発しながら弾けた。

 夕闇に響くクライドの十八番<スタングレネード魔法>。 閃光と音が、至近距離から四人を強襲。 そうして、前後不覚な隊員たちは虚空から現れた”紫銀の砲撃魔法”によって上から撃ち抜かれた。

『……あー、さすがに”ああいう”最中の事実を確認するとプロでも頭上への警戒心が鈍るんだな』

 天井の辺り張りつき、そのまま頭上からの攻撃によってミラージュハイドを解除したクライドはなんとも言えない表情でグリモアと念話で会話する。

『そうですね。 しかし、咄嗟のこととはいえあの女ではなくてボクを使う辺りがベリーグッドです』

『いや、君と俺しかいないはずなのに他の女がいたら怪しまれるだろう。 ていうか、あの女って誰だ?』

『ハラオウン執務官のことです』

『……』

『そういえば、喧嘩でもしたんですか? フレスタ・ギュースが何やら怒りながら研究室にやってきてましたけど』

『あー、あいつは自称リンディの姉貴分だからな。 リンディの様子が気になったんだろう。 本当は、俺があいつに愚痴りたいぐらいなんだが……』

 苦笑しながら、クライドは頬を掻く。 とはいえ、そのままのほほんとしていられる状況でもない。 強襲してきた四人は”先ほどのグリモアの砲撃”でノックダウンしているが、このまま上手くやれると楽観視できるほどクライドは自信過剰ではない。 まだまだ後続や構えているだろう狙撃手に支援者、結界担当を抜かなければならないのだ。

 そのまま、もう一度クライドは幻影魔法を使用し、室内に再び自分たちを出現させ、窓から外を見させる。 瞬間、その幻影が破裂した。 窓ガラスの向こうからの長距離射撃だ。 敵の位置は大体グリモアのレーダー情報で理解してはいるので、そこから”狙撃手”の位置を特定する。

『グリモア君、ここから撃ち返せるか?』

『不可能ではありません。 もう……”打って出る”んですか?』

『このままじゃあジリ貧だし、それに”機動砲精”は動いてナンボなんだろう?』

『……確かに、”ボク”のウリは高機動高火力なんですが、理屈を理解しても運用は大変ですよ?』

『どっちにしろぶっつけ本番なら、さっさと慣れるほうがいい。 それに、”ぶつける”のも有りなんだろう?』

 どこかウキウキしながら、クライドは言う。 つまりは、そういうことだった。 グリモアがデバイスであるというのなら、自分の知識に無い未知だというのなら、どんなものか体験してみたいという好奇心があるのだった。 無論、自分がいれば”問題ない”といっていたグリモアのことを信用してみようという思いもある。 クライドは今どういうわけか彼女のマイスターとして登録されている。 しかも、最上位権限を振るえるようになってしまっているのだ。 彼女を煮るのも焼くのもクライドの気分次第だという”事実”と、彼女が”自分が長年研究してきたもののひとつの答え”だというのなら、他のことなど些細なことであった。

『出力リミッターAAAレベルまで解除。 続いて電磁フィールド<メギンギョルズ>……形成完了』

 クライドのバリアジャケットの上から、紫銀のフィールドが展開される。 その足元に展開されている魔法陣は五芒星。 アルハザード式魔法にデフォルト設定されている魔法陣である。 それを見て、クライドは自分が今置かれている立場さえ忘れそうになった。 それほどまでに有頂天だった。 そこにあるのは明確な力の息吹。 アルハザード<伝説の地>の欠片という確かな証拠。 そしてその恩恵たる法外な魔力量。 焦がれて焦がれてやまなかったそれが、今自分の手の届くところに存在する。 腹を抱えて笑いたい気分だった。

『砲撃後に強襲するぞ』

 見えない円筒状の砲身<魔力電磁砲身>が展開され、天井に張り付いたクライドの前方から緩やかな弧を描いて窓の外へ走り、目標の座標へと夕闇を奔る。 さらに、その中を音速を軽く数十倍以上超える速度で通過する紫銀の弾丸がある。 その弾丸は、魔力で出来たプラズマだった。 原理的には質量兵器であるプラズマレールガン<電磁誘導で弾丸<プラズマ>を加速させて打ち出す兵器>と同じだ。 ただ、ソレを魔法で再現しているだけである。

 衝撃波を引き連れたその弾丸を、狙撃手が見たときにはもう遅い。 咄嗟にシールドを張る程度はできたものの、そこまでだ。 高ランク魔導師クラスの魔力で作られたプラズマの弾体に耐えられはしない。 撃ちぬかれ、そのまま衝撃に錐揉みされながら地面に落下していく。 その姿はまるで、雷神の鉄槌でも投擲されたかのような有様であった。

『……ミョルニル命中。 窓の向こう側の狙撃手撃破』

『よし、いくぞ!!』

 レーダー反応が消えたことを確認したクライドは、先ほどよりも大きな魔力電磁砲身<マジックレール>の中に飛び込んだ。 瞬間、身体を襲う圧迫感。 電磁フィールド『メギンギョルズ』がマジックレールの電磁誘導によって加速され、自ら紫銀の弾丸となって一気に窓ガラスの外へと飛び出る。

 その尋常ではない加速力に、さすがのクライドもグリモアが慣れろと言った意味を理解した。 今まで体感したどの移動魔法とも違う。 自由度の高い普通の飛行魔法や、ともすれば短距離を瞬時に移動するだけの高速移動魔法とも違う。 マジックレールはそれらよりも遥かに強引で、無理やりな感じがした。

 夕闇を切り裂く紫銀の雷。 無理やり音速をたたき出しながら、クライドはなんとかその手綱を握りコントロール。 そのまま高速で空を駆け抜けながら感応制御システムがもたらすレーダー情報から敵を迎撃するに最適なポイントへと向かう。

 グリモアは”普通のユニゾンデバイス”としては欠陥品だった。 だが、そんな事実はまったく関係がないシステムを持っている。 例えるなら彼女は完全なるオートマチック車だ。 複雑なギア操作やハンドル操作などさえも必要としない。 無論、感応制御を用いて搭乗者の意思を反映させながらセミオートでの行動も軽くこなすことができる超高級機。

 融合者の魔力に干渉することができず、ポテンシャルを引き上げ強化する機能も存在しないが、魔法を彼女が使用し感応制御システムを解して”トリガー”を融合者に渡すことで誰にでも擬似的に魔法を使用させることができる。 彼女の”フルスペック”は高ランク魔導師クラスであるから、彼女の手にかかれば融合者を即席の高ランク魔導師に一瞬で仕立て上げられるというわけだ。 正にクライドが作りたかった理想に限りなく近い存在である。

 仮にこのシステムをデバイスに組み込み量産することができるとすれば、高ランク魔導師など無用の長物だ。 才能<魔力資質>が有ろうが無かろうが関係が無い。 これならば誰だって”高ランク魔導師”に成れるのだから。

『うっし、グリモア君。 君の全力を見せてもらうぞ』

『別にかまいませんけど……それでは普通に全力でいきますよ? 出力リミッター全解除……敵対象フルロック完了……室長、トリガー預けます』

 リミッター完全解除によって開放された魔力量はS+ランク相当。 ココまで来ると笑うを通り越して呆れる程だ。 クライドも若干空いた口が塞がらなかったが、それ以上に呻いたのは管理局員たちの方だろう。 窓から飛び出したクライドを追撃してくるバックアップの四、五人と、元から外に逃げ出すことを警戒していた小隊が砲撃を散発的に繰り出しながら距離を詰めようとしてきていたが、皆こちらが攻撃態勢に入ろうとしていることを理解すると、一斉に散会し始めている。 

 電磁フィールドの周囲に展開されていく紫銀のプラズマ。 夕闇の中に一際輝くその紫銀のプラズマは、魔力電磁砲身<マジックレール>に乗る瞬間を待ちわびながら光り輝く。

「ディフュージョン・ミョルニル<拡散型ミョルニル>……発射!!」

 その瞬間、音速の数十倍の速度でミョルニル<雷神の鉄鎚>が射程範囲内にいる管理局員全てに向かって放たれた。 リンディのような空間制圧系魔法<スティンガーブレイド系統>とは違って、その数は少ないがその速度と単発の威力には雲泥の差があるし、威力を下げて数を重視するような臨機応変な使い方もできる。

 ある局員は受け止めきれずにシールドごと粉砕されてミョルニルに吹き飛ばされ、避けようとした局員のほとんどもその回避方向に微妙に向きを変えて着弾ギリギリまで”弾道修正”するマジックレール<魔力電磁砲身>を通り抜けたミョルニルの餌食となっていく。

「うーむ、リンディのとはまた赴きの違った魔法だが……なんつー凶悪な」

 基本的には威力重視なのだろう。 連中の防御を余裕で抜くほどの威力を持ちながらかつ、擬似誘導によって強引にブチ中てる。 威力と弾速が半端ではないためもし自分が狙われていたらどうしようかとクライドは思った。

(高速移動魔法を瞬時に発動して避けるのが無難か……しかし、逃げ場が無いほどの弾幕或いは連続で遠距離から撃ちまくられたらどうしようもないな。 うーむ、グリモア君はある意味戦闘機タイプなわけか……高機動高火力とは良く言ったもんだが、これなら色々とやれるな。 遠距離の狙いも何もかもグリモア君がやってくれるから俺の苦手なロングレンジも戦術に混ぜられる)

 ニヤリっと、唇を釣り上げながら邪笑する。 隠密行動も出力リミッターと自前のミラージュハイドを使えば余裕で可能であるし、中々に頼もしい。

「……しかし、凄いもんだな。 今のでほとんど堕ちたぞ?」

『初見ならこれぐらいはできるでしょう。 それに、中ランク程度なら何の問題もありません』

「頼もしいことで……この分だと結界ぶち抜くのも簡単そ――」

 レーダーに反応。 クライドは会話を中断してカグヤに貰った刀を展開。 鞘から抜きつつそれに紫銀のプラズマを纏わせる。 と、次の瞬間”その男”は、高速移動魔法でクライドの真下に瞬時に現れると杖を掲げて砲撃魔法の構えを取る。

「――ちっ!!」 

 杖の先端に集うグレー色の魔力光。 クライドは舌打ちしながら横の空間を蹴り飛ばす<エアステップ>。 次の瞬間、その側面をブレイズキャノン<直接射撃魔法>が通り過ぎる。 クライドはその男のいきなりの歓迎<砲撃>に呆れた。

「おいおい、AAAランク相当の魔力量だったぞ今の」

『どうやら出力リミッターをかけていたようですね』

 そういう問題かと思ったが、冷静に呟く彼女の言葉に今までとは”違う”のだということを思い出した。 ああ、なんてことはない。 今の自分はさらにその上の領域に擬似的に立っているのだ。 だったら、何を怖がる必要があるのだろうか。

「ジャベリン!!」

 隊長格と思わしきその男は、杖にグレー色の槍先を生み出して猛然と突進してくる。 クライドはグラムサイトを展開したままその突きに横から刀を叩きつけるようにして右に軌道を逸らす。 弾かれた槍が威力差で軋むが、それを気にもせずにその男は肩から体当たりしてくる。

「うぉ!?」

 もとより、ジャベリンが対処されることを織り込んでいたのだろう。 咄嗟にクライドはメギンギョルズのフィールド出力を上げてそれに構える。 次の瞬間、衝撃がクライドの体を襲いバチバチとフィールドが音を立てる。 だが、それだけだった。 攻撃用でもなんでもないタダのフィールドの体当たりだ。 それも、攻撃にリソースを振りながらの奴である。 それが大した攻撃力を持っているはずがない。

 注目すべきは体当たりをした後の左腕の動きだった。 右肩から体当たりし、その左手を隠していたその男が零距離から何かを放とうとしている。

(こいつ、三段構えだと――!? しかも、思わず身震いしちまうこの感覚は!?)

 展開したグラムサイトの恩恵がクライドにその不審な動きの意味を本能的に理解させる。 右に振った刀を戻すべきか? だが、それでは間に合わない。 手は出ないならば――。

「足があんだろうがよぉ!!」

 強引に右足の爪先を跳ね上げ、繰り出されてくる左手を真下から蹴り上げる。 次の瞬間、ミッド式の魔法陣が跳ね上げられた左手の前に展開され、ストラグル・バインドを解き放った。 だが、その対象範囲にはクライドはいない。

「貴様!? 本当にデバイスマイスターか!?」

 そのとき、その男は心の底から驚愕していた。 先ほどの強力な砲撃魔法ならまだ許せる。 どういう理由でそれだけの魔法と魔力を所持しているのかはからなかったが、この魔力量ならばしょうがないと諦められるからだ。 だが、それでは目の前の男のクロスレンジでの戦闘の”咄嗟の判断力”が上手すぎる理由にはならない。

「BDAを舐めんなよ!!」 

「ちぃぃ、そういうことか!!」

 杖を引き戻し、上段から下に叩きつけるようにして振るう。 ”BDA”の噂を彼は聞いたことがあった。 武装局員を叩きのめすデバイスマイスターがいるとかいう眉唾な噂だ。 よほどそのデバイスマイスターの魔導師ランクが高いのか、敗北した武装局員が弱すぎたのかは知らないが、所詮噂だと思っていた。 だが、現実に居るというのならそういう”対人戦闘”に慣れた人間なのだとして対処するだけである。

 ジャベリンを受け止める紫銀の刃。 グリモアの魔力で生み出したそのプラズマを宿した刀身は本来のクライドの魔法の威力を大幅に超えている。 強引に威力差で跳ね上げ、距離を詰めるべく前に出ようとして、高速移動魔法<ハイスピード>を展開。 瞬時に死角である背後に回り込み、逆袈裟に切りつける。 

 だが、そいいう対人戦のセオリーを実戦で嫌というほど理解しているその男は瞬時に振り返ってその攻撃を受け止める。 だが、その衝突でジャベリンが消えた。 クライドはそのまま押し切るべく前に出る。 しかし、それをする瞬間別角度からの砲撃が飛来し、クライドを強襲する。 グラムサイトで反応はしたが回避する余裕は無かった。 フィールドの強度が強度なので大した被害ではないが、その一撃はクライドの”目を覚まさせる”には十分だった。

『室長、南西一キロ地点に狙撃手です』

「にゃろう、撃ち漏らしか!!」 

 そういえば、これは最近多かった一対一の戦いではないのだ。 目の前の戦闘のプロに全神経が集中しすぎていたようである。 数が多ければ多いなりの戦い方がある。 そういう”普通の武装局員”こそ自分が今対戦している相手なのだ。

『室長、余所見は禁物ですよ?』

『分かってる!!』

 ジャベリンを失った男が、杖に魔力を集束させながら突撃してくる。 またブレイズキャノンでも放とうというのだろう。 クライドはならばと、自前でAMBを刀に纏わせるとグリモアにミョルニルの準備をさせる。 紫銀を失った刃に灯る青い輝き。 グレーの輝きが臨界に達しようとするその瞬間、グリモアにフルパワーでミョルニルを発射させる。 超音速のプラズマが至近距離から放たれるその瞬間、同時に放たれたブレイズキャノンがグレーの閃光を発射する。 とはいえ、勝敗など分かりきっている。 S+とAAAでは威力が違う。 だが、ブレイズキャノンで威力を幾分か軽減されたミョルニルが届く前に男はその射程範囲から逃れている。

 そこにクライドは容赦なく追撃をかけた。 AMBは出力全開。 肩に担ぐようにして構えつつ、左手にマジックガンを起動させて、魔導砲モードを選択。 次の瞬間、”その魔力量”に絶句した男に向けて発砲する。 放たれるは青の閃光。 魔力量AAAランクの魔導砲の弾丸が、まるでレーザービームのように伸び、男を強襲。 だが、男は辛うじてラウンドシールドを展開しその砲撃に抗う。 辛うじて耐え切る男だったが、そこへさらに”容赦の無い追撃”。 二発目の魔導砲が理不尽な攻撃となって男を襲った。

「馬鹿な!? タイムラグが無いだと!?」

 なんとか耐え切ったシールドが、それに抗う術などない。 そのまま男の意識ごと飲み込むようにして男を貫く。 その瞬間、クライドはすぐに男のことなど無視して背後へと振り返り、ミラージュハイドで背後から忍び寄ってきた局員のフープバインド<魔力の輪を用いたバインド>を切り裂く。

「嘘だろ!?」

 信じられないものを見たかのように絶句する局員。 無論、グラムサイトを展開しているクライドの探知圏内ではそういう奇襲が効かないことを知らない局員にとっては、それは恐ろしい事実となってのしかかった。

 最強たる部隊長を”犠牲”にしてでも一旦動きを封じ込め、戦える局員の集中砲火でも食らわせようとしていたのだろう。 グリモアのレーダーが活性化する魔力反応をいくつか捉えていることから、そういうつもりだったことは容易に伺える。

「はっ!!」

 クライドはその局員が絶句から立ち直る前にマジックガンを仕舞い、刀を振るう。 見たところ同格ぐらいだ。 大した差ではないが、十分その一撃は脅威である。 事実、杖を構えて防御しよとした局員にはそれ以上をする余裕は無い。 そのまま剣術を次々と繰り出し、その局員を狙おうとしていた連中の射線を塞ぎ、盾にするような位置をとりながら攻め立てる。 無論、グリモアに遠距離から狙いを定める連中をフルロックさせながら、だ。

「くそ、犯罪者め!!」

 局員が死に物狂いで抵抗する。 クライドはしかし、そんな侮蔑の言葉など無視してタダ黙って刀を振るった。 いや、機嫌が悪くなったようで、その剣閃はさらに遠慮が無くなっていきついには力づくでその局員を弾き飛ばす。 と、クライドは次の瞬間プラズマを全身に纏ってミョルニルを発射。 生き残り連中だけに鉄鎚を叩き込む。 一発では避けられるかもしれない。 だから、生き残りが避けられないように三・四発同時に叩き込ませた。 それで、目の前で思わずミョルニルを防ごうとした局員を除いて残らず叩き潰した計算になる。

『複数目標全てへの着弾を確認』

『了解だ』

 それで、クライドは何を思ったか刀を鞘へとしまうと収納した。 生き残った局員が気丈にも職務を全うしようと杖を構えてはいたがそれをクライドは無視して声をかける。

「おい、一応非殺傷設定効かせてるからあんたの仲間は生きてるはずだ。 あんたが面倒見てやってくれ」

「は、はぁ? お前一体……」

 犯罪者が何を、見たいな顔で絶句した局員をそのままにクライドはそれ以上は言わずに背を向けた。 無論、その局員にできることなど無かった。 次の瞬間にはもう、クライドが魔力電磁砲身を利用して結界破壊に向かっていたからだ。

『室長、いいんですか?』

『別に一人ぐらい残したところで大して変わらないさ。 それより、この結界勿論余裕で抜けられるな?』

『はい、この程度であれば問題無しです』

『そうか……』

 正直に言えば、自分が犯罪者呼ばわりされて少しだけクライドは気落ちしていた。 確かに、潜在的には犯罪者予備軍みたいな位置にいたが、それでも連中とは”違う”などと思っていたのだ。 まあ、それも所詮”言い訳”でしかないわけだが。 だが、それでもやっぱり面と向かって言われたのは堪えた。

『……』

 どこかモヤモヤしたものが精神をかき乱す。 だが、クライドはそれ以上考えることを強引にやめた。 もう、自分にはそんなことを考える余裕さえないのだ。 そんな”心の贅肉”など必要ではない。 今必要なのは上手く立ち回るための情報であり、計画だ。 管理局が敵になった。 だというのに、”それがどうした”などと開き直っている自分がヤケクソ気味な思考を展開している。

 何がどうなっているのかさえ本当はよく分かっていなかったが、それでももう賽は投げられてしまっている。 けれど、それでもやることに何ら変わりは無い。 その後のことなど全く展望がなかったが、そんなものは終わったあとにでも決めれば良い。 ”あいつら”と一緒に。

『そういえば室長、さっきの戦いですがもっとボクを多様してくれればもっと上手くやれましたよ?』

『そうか? アレでも結構グリモア君の力に頼ってんたが……』

『ボクに全部魔法を使わせるぐらいで丁度良いと思います。 魔法プログラムさえいただければ、後はボクが全部やれます。 それに、別にあんなに接近戦に拘る必要もありません。 一撃離脱を繰り返す戦術が一番有用ですからね』

『まあ、確かにそうだとは思うんだが……どうにもアレなんだ』

『アレ、というと?』

『自分で魔法使わないから、いまいちどこまでやれるのかがわかり辛い。 感応制御系とインターフェースをもうちょっと使いやすくした方が良い気がするぞ』

『はぁ、では暇なときにでも室長の好みに調教<調整>してください』

『……本当に君は偶に大胆なこと言うなぁ』

 さも当然の如く言われると、自分の方がなんか意識しているように思えてクライドは急に気恥ずかしくなってきた。

(いや、待て。 そういえば俺、グリモア君に唇を奪われてしまったわけだが、この娘は本当に”そういう”意味に引っ掛けて遠まわしに言っているのか?)

 だとしたら侮れぬ。 虎視眈々と自分を人生の墓場へと引きずり込もうとしている。 まあ、冥利に尽きるといえば尽きるわけだが。 と、クライドがそんな馬鹿なことを考えていたときだった。 とてつもなく重大な事実に気がついてしまった。

『な、なんてこった!? 大変だグリモア君!! 俺は今重大な事実に気がついてしまった!!』

『重大なことですか?』

『ああ、これはとても重大かつ危険な事実だ。 恐ろしいほどに悔しく、そして悲しいことだがこればっかりは俺にもどうすることもできん!!』

 飛翔しながら器用にも頭を抱えて悶えつつ、クライドは絶望を顔一杯に浮かべる。

『ええと、一体どんな事実なんですか?』

『グリモア君、確認するが俺は男で君の上司だな?』

『ええ、そうですね。 室長はどこからどうみても男性ですしボクの上司です。 まあ、肩書きはほとんどもう意味はないですけど』

『このさい、細かいことは放置して考えても見てくれ。 ”男”で、”上司”でもある俺が自分の都合のために部下である君を調整しようとする。 これは”犯罪”ではなかろうか?』

『はぁ?』

『パワーハラスメントとセクシャルハラスメントの両方に引っかかるのではないかと俺は戦々恐々している』

『……』

『しかも、しかもだグリモア君。 君はデバイスなのだろう? ならば調整するためには調整槽にぶち込まねばならん。 そのときにできるだけ検査の邪魔にならないような格好<マッパ、或いはそれに順ずる格好>になって貰わねばならんのだぞ? 恐ろしい!! そんな恐ろしいことを強要するだなんて俺にはとてもできん!! 俺は性犯罪者なんて呼ばれたくないからな!!』

『いえ、あの……別に室長なら見せても問題はないのですが』

 グリモアは呟くが、しょうもないことを気にするクライドにとっては重大なことだった。 誰かに見つかろうものならば間違いなく犯罪者のレッテルを貼られることになるだろう。 凄まじい興味と、漢としての欲望とプライドがクライドの中でかつて無いほどにせめぎ合う。 転がりまわって、悔しさを全身でアピールしたいぐらいに。

『ぐぬぅ……俺はスーパーにジェントルマン<超紳士>的なキャラなのだ。 実はムッツリでもさすがにそんな不届き千万なことが俺にできるだろうか? いや、できない!!(反語)』

『……室長? 現実に戻ってきてください』

『くそ、これだからユニゾンデバイスの研究は男には難しいんだ!! 資金や技術だけじゃなくてモラルハザードまで要求してくるとはなんて奴だ!! ええい、いっそ女に生まれてさえ居ればこんな下らんことで悩む必要などなかったろうに!!』

『室長、なら男性型のユニゾンデバイスなら気にしないんですか?」

『いや、それは漢としてのプライドが許さない。 何よりそんなん弄る自分はキモいから嫌だ』

 だが、どちらにしても大の男が人型の物体を弄る姿は犯罪者<変態>そのものである。 彼には倫理的に敷居が高すぎた。 だから実のところアギトの詳しい検査などもこの男は直接はしていない。 というか、できなかった。 何せ、アギトに男は出て行けと追い出されてしまってはできるものもできないわけである。 その日、クライドは心の底から泣くことになったのだが、それは若き日の思い出である。

『はっ、いや待てよ? 俺はデバイスマイスターだぞ? デバイスにとってはお医者さんのようなものだ。 ならば、女性型のデバイスだろうが医療行為としてなら許されるのでは……いや、やっぱりできん。 問答無用でお医者さんごっこを部下に強要する変態として見られてしまう!! これだけは許されん!! 堕ちるなクライド・エイヤル!! そんなことしたら一斉に友人知人から世間様に到るまで例外なく白い目で見られ、一生口も利いてもらえなくなるような生活をせにゃあならなくなるんだぞ!! 『グリモア君が可愛いから役得でラッキー』などという開き直りは通じんのだぞ!?』

 男は懊悩し続ける。 悔しかった。 口惜しかった。 そして、悲しかった。 レイハさんと同じだ。 見つけたと思ったらお預けを食らわされた犬のように、ただただ生唾を飲み込みながら首輪の届かない位置に置かれた豪勢な食事に有りつけぬまま腹を鳴らし続ける空虚な奴隷。 自分はそんな我慢しっぱなしの人生を未来永劫歩まなければならないのだろうか? 思えば、リンディもそうだった。 無論、それはアホみたいな自分ルールを己に課していたせいでもあったが。

『えと、別に二人っきりのときにこっそりすればいいのでは?』

『いや、しかしそういう問題では……知り合いのユニゾンデバイスにも拒否られたしやっぱり男の俺にはそんな高難度かつデリケートなことはとてもじゃないができそうにない』

『知り合いのユニゾンデバイス……っていたんですか?』

『ああ、いたのだ。 そいつに男は出て行けって追い出された。 初めは何故かわからなかったが、理由を聞いて納得した。 確かに、乙女の柔肌を男の眼に晒すなど、神をも恐れぬ所業だ。 ああ言われると引き下がるしか俺にもできん』

『仲悪かったんですか?』

『別に悪くはなかったな。 普通の知り合いみたいなもんだ』

『……なるほど。 室長の言いたいことは分かりました。 ではこうしましょう。 そうすれば何も問題はありません。 例えバレても世間様が文句一つ言えない方法がありますよ』

『おお!? そんな魔法染みた方法があるのか!? さすがグリモア君だ。 ではこっそり教えてくれ、実践してみるから』

『分かりました。 では室長、ボクと”結婚”してください』

『わぁーっつ?』

『つまり、夫婦になってしまえば世間様も文句などいえないということです。 夫が妻の裸を見たところで、別にどうということはないでしょう?』

『……ぐはっ』

『ええ、全く問題などありませんよ。 ヴァルハラなら”匿ってくれそうな良心的な知り合い”がいますし、あそこはパソコンと人間が結婚した例もあるそうです。 今更デバイスと人間が結婚できないということもないでしょう』

『……』

『室長? 飛びながら気絶するのは危ないので止めた方が良いですよ? おーい、やっほー?』

 真っ白に燃え尽きたその男は、真っ正直な助手のアプローチのせいで灰になっていた。 その後すぐにグリモアはクライドから制御を取り上げて結界を破壊し、別の次元世界へと転移したが、その後もしばらくずっとクライドはその調子だった。 どうやらクライドは内と外から完全に包囲されているようである。 逃げるか立ち向うか状況に流されるかはクライド次第であるが、それでも確実に色々な意味で逃げ場がなくなっていることだけは確かであった。

 危機感が欠如しているといえばそれまでだが、肉体的にも精神的にも環境的にも追い詰められてきていることには代わりが無い。 クライドが安心して平穏を貪れることになるには、どうやら随分と時間がかかりそうであった。

コメント
やべえ、開いてみたら更新されてる。

お帰りー、毎日来ていた甲斐があるよー。

そしてこれからもがんばってください

ノシ
【2009/02/09 23:05】 | jade #qrp2Sako | [edit]
おかえりー
【2009/02/10 00:09】 | 名無しさん #pxVOEIx. | [edit]
お帰り!お帰りなさい!
一日千秋の思いで待ってたぜ、頑張ってください!
【2009/02/10 02:23】 | むっく #tSD0xzK. | [edit]
更新まってましたあああああ
AルートはBADEND系かーと思ってたらグリモアルートかっ
序盤ローテンションぶりが嘘のように後半はいつものエイヤル君でしたね

ではBも見てきます
【2009/02/10 12:46】 | |・ω・) #LkZag.iM | [edit]
おかえりなさい!
更新待ってました!

【2009/02/10 17:31】 | 蒼 #eSGkAR1I | [edit]
おかえりなさいませ
印象としてはこっちの方が自然かなぁ…
【2009/02/11 00:22】 | 名無しさん #I4z6eAiM | [edit]
復活おめでとうございます。
楽しみに待っていました^^
【2009/02/11 00:33】 | 名無し #- | [edit]
むむむ。
Aではリンディとの仲が一見終わった様に見えますが、管理局の追手として再会する可能性も。
特殊部隊がやられてしまったので次に高ランク魔導師に話が行く事も有り得るのかな?
もっとも我らが主人公は翡翠の妖精に振られたので割とあっさりグリモアさんに走りそうですが。
仮にデバイスとパートナーは別モノ扱いで両者共に居たとしても喧嘩が絶えなさそうだ。
それこそ喧嘩の規模がBのアレ並で……クライド、頑張れ!
個人的にはフレスタディーゼルもそうですが、やはりグレアムが気になる所です。
さて、AかBかはたまたそれ以外か?
【2009/02/11 06:40】 | 粒遺跡 #l5/7TqPs | [edit]
Aルートのグリモア君素晴らしいです。
願わくばAルートの続きでクライドがディーゼルにアルカンシェルを撃つ場面とかあったらうれしいです。
対してBルート、ネタばれしすぎじゃないでしょうか?しかも相手はリンディ。彼女に管理局の裏の部分や闇の書の性質について仄めかしちゃダメでしょう?リリカルなのは(無印、A'S)に繋げるためには。正式にグリモア君がクライドのデバイスになっていないから、このままクライドが死ぬと『2回目』ではグリモア君はいないかもしれないし。
……と、まあ、いろいろ言ってますが、何を言いたいかというとただ単にグリモア君がヒロインであってほしいだけなんですけどね。
【2009/02/11 09:10】 | GF #- | [edit]
A か B 、たった一話でこれだけ展開が変わるなんて。
リンディを捨てるなんて出来ません。 TーT
なんという君のぞ・・

とはいえ、Bのほうがおそらく支持率が高くなると思われますので、私は迷わずAに一票入れます
【2009/02/11 19:02】 | ヤボニ #SFo5/nok | [edit]
更新待ってました!!

自分的にはこっちの方が良かったです。リンディと別れた?後どうなっていくのか気になりますし、グリモアがかわいいですしww
【2009/02/11 20:50】 | ノナメ #TY.N/4k. | [edit]
作者さん待ってました!
何やら迷っているとの事ですが両方見たい・・・

見たいですorz

どちらかを選ぶのならAでリンディがサブの位置で進んで行くのが私は好みかも
今までリンディが良いと思ったけどグリモアにぐっと来ました
【2009/02/11 23:32】 | 普段ROM #9kE5USsQ | [edit]
いやーBもいいけどAだね。
ほら愛憎うずまくいい感じ。
それにあるであろう第3部が(おそらく)未亡人と(その原因となったように見える)死んだはずの過去の憧れの人の邂逅劇。

いいねぇ、そそるねぇ。
【2009/02/12 00:51】 | 名もなき読者 #8w8Th2ek | [edit]
やっぱり面白い。
なんかクライド君はどんどん包囲されていってるなぁ・・・。いろんな意味で。
【2009/02/12 01:02】 | リアン #- | [edit]
はじめてレスつけます

まず、長期更新停止からの復帰おめでとう&(我々読者の立場から)ありがとうございます

A/B両方読ませていただきましたが自分的にはAルートのほうが好みのようです
グリモアさんに薔薇色の鎖で雁字搦めにされてヴァルハラで匿われたまま原作時間まで経過ってのも・・・

いままでリンディ応援派だったのが一話でグリモア派に・・

恐るべし、トラス様w
【2009/02/12 18:31】 | NamelessBoy #bhhZubZs | [edit]
続きが見たいのは、こっち(A)かな。
ジルアルシェとクライドグリモアがしっかり対比になってるし、切り札を切ってないっていうのがいいな。
リンディとの関係も楽しみだけど、【闇の書】がクライドの元に戻ってきたときにリインとグリモアの関係の方が気になる。
【2009/02/12 18:50】 | ぬこG。 #KD5XUSzs | [edit]
更新まってました。
A.B両方好きですが好みはAのほうですね。
このままいっそマルチエンドとかどうです?
【2009/02/14 12:28】 | 茜 #- | [edit]
更新を待ってましたぜ。相変わらずクオリティ高い話をご馳走様です。

あれだけリンディ失恋フラグが立ってたので、Aのほうが自然に見えました。
Bはリンディ救済ルートっぽさが大きい気がしますね。
Bだとレティのアドバイスが役に立ってないうえ、グリモアとなして戦闘してるのかわかんないー。すぐ逃げろよグリモア。そしてクライドを管理局に連れて行きたいのかリンディ。

グレアムの出番が増えそうだからA推奨という内心の考えは内緒だ。
グリモアに結婚おめーといいたいからというのも内緒だ。
【2009/02/14 16:15】 | 大熊猫 #17ClnxRY | [edit]
こっち先に読んだ所為もあるかもだが、それを考慮してもこっち支持、かなと。グリモアかわいいよグリモア。調整とかまずいよでも結婚はもっとまずいよ(嬉しい悲鳴をあげる変態)

Bは最悪の事態は最悪のタイミングで、を地でいって女二人の激突がイカしてて良かったけど、Aを推したい気持ちに嘘はないよ!

クライドが追われる者になって……対抗馬(リンディ)もダークホース(フレスタ嬢)も理由が二重三重にダブって迷いそうなのが眼に浮かぶよ! 追いかけさせて喜ぶのは微妙にサドかつ変形独占欲だねッ
【2009/02/16 22:25】 | 比叡山延暦寺 #5KTh30no | [edit]
どう考えてもAですねwww
グリモア可愛いいよグリモアwww
リンディさんはあれだ、レティのアドバイスに後悔してヤキモキしてるとなお最高。

【2009/02/17 22:18】 | rr #WGv/JGO2 | [edit]
更新お疲れさまです! 自分はAの方が良かったですね。 
グリモアが良すぎるww
【2009/02/19 15:40】 | 名無しさん #- | [edit]
こちらの方が面白かったです。外伝02との対比が良かったです。
でも、最後はどちらも結ばれると良いなと思いました。
【2009/02/23 10:50】 | 名無しさん #- | [edit]
いままでの流れからAルートがいいと思います。
【2009/02/24 04:11】 | 31.0 #djYj44uA | [edit]
A以外にする理由がありませんよ
グリモアかわいいよグリモア

絶対Aですね!!
【2009/02/26 15:51】 | 名無しさん #- | [edit]
Aが好きー!

今までクライドを悩ませていた魔力不足がとうとう解決---!
膨大な魔力を手に入れたクライドはどう戦うのか、wktkが止まりません。


あと、グリモア萌え。
【2009/02/27 22:18】 | tikutyu #IIn52rdw | [edit]
グリモアが最高すぐる件について。

これはもう、Aを推奨するしかないと思うよ。
【2009/02/27 22:23】 | 後悔している。でも、反省はしない。 #- | [edit]
Aルート希望ww

つか両方書くしかないかとwww
【2009/02/28 13:16】 | himitu #Xnq8k9Uo | [edit]
いつの間にやら更新を、復活おめでとうございます。
両方読んだけど、自分はAのが好きです。
グリモア派ではなかったつもりだけど、今までの伏線や燃え度やいろいろな人たちの出番とかがAルートのが好みかなあ、と。
【2009/03/04 23:01】 | psy #PEJrblyo | [edit]
お帰りなさい、復活ありがとうございます。
どちらも続きが気になりもう両方のルートを読んでみたいですw
【2009/03/23 21:49】 | ランタン #- | [edit]
なんと、更新されているー!!
自分としてはAルートが好きですなー。
グリモアかわいいよグリモア。
【2009/03/29 03:17】 | ミャーファ #huhhS54c | [edit]
Aルートに一票
リンディよりもグリモアのが可愛いw
【2009/04/02 17:44】 | 鈴木 #mQop/nM. | [edit]
Aルートに一票
クライドの活躍に期待
【2009/04/05 22:20】 | ネームレス #- | [edit]
Aルートを支持
ディーゼルとリンディがくっついても構うまい!
むしろ、その後にエイヤルとリンディが会ったとき、リンディがどういう反応するか楽しみ!!
【2009/04/06 19:53】 | DANT #b7k.SSfE | [edit]
愛情を試して破局っていうよくあるシーンだけど、なのは2次かつシリアスで出てくるとは思わなかったw
むしろこのまま恋愛小説にしてしまって方が面白いかも(ぇ
断然こちらの方が面白いので、どちらにくっつくにしてもAルートを支持します。
【2009/04/07 00:00】 | 名無しさん #mQop/nM. | [edit]
改めて読み返してみて、Aルート後半のクライド君のセリフが「(性的に)理性的な佐山君(終わりのクロニクル)」に見えてきた。
ええ、こんな展開は大好きですよ!
頑張ってください
【2009/04/19 21:21】 | 名無しさん #nS38XvGs | [edit]
どちらもおもしろかったです。もうなんだかとてもわくわくですw
大変でしょうができれば、AもBもどちらも見たいです><
【2009/05/14 04:05】 | 名無しさん #- | [edit]
これはもうAしかないだろうwww
グリモアかわいいよグリモア
【2009/05/20 01:08】 | 名無しさん #OARS9n6I | [edit]
話の流れてきに、Aがいいんじゃないでしょうか。
とゆうか私てきにAのほうが好みなんですがね。
続き楽しみにしてます!!
【2009/05/21 20:39】 | hasan #SFo5/nok | [edit]
これはもう漢としてAルートしかありえないと断言せざるを得ない。
クライドが漢だったのだから、”小箱”を用意してなおその決断が出来たんだから。
個人的にはグリモア云々よりそっちのが重要。
話も自然出し半端なBより断然Aでの続きを期待しますね。
【2009/06/13 02:43】 | Nameless #mQop/nM. | [edit]
最初から最後まで一気に読ませてもらいました。とてもおもしろいですね。
流れ的にAの方がいいと思いますが、後の話でBのクライドを賭けた二人の戦いをやってはどうでしょう?

更新頑張ってください。楽しみに待ってます!!
【2009/06/17 01:39】 | 名無しさん #- | [edit]












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