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憑依奮闘記2 第九話

 2009-07-11
「くそ!! 邪魔だぁぁぁぁ!!」

 悪態をつきながら、クライドが飛行型傀儡兵の間を高速で飛翔する。 もう通信機からはドクターの声は聞こえない。 グリモアと同じような声で喋った完成型とか言う奴が、ドクターの命を奪ったことは容易に分かった。 その上で、彼が最後に叫んだ言葉を反芻しながら、クライドは全力を尽くして目標を達成するしかない自分の無力を呪った。
――書を回収し……一刻も早くここから出……時間はもう……ない――
 
 聞こえた言葉は、自分たちのために向けられた。 どういう気持ちでドクターが最後にそうを言ったのかなんてクライドには分からない。 だが、あの警告は確かに自分とグリモアに向けられたもので、だったら最後の瞬間にそうやって命を賭けて警告してくれた彼のためにも急がなければならない。

 既に螺旋階段から出て、最下層に向かう道を飛翔している。 長い一本道が続くだけの、そんな道のりだ。 グリモアのマジックレールを使えば本来なら数分もかからずに走破できるはずだ。 だが、雲霞の如く現れ、尽きることを知らない傀儡兵の群れたちのせいで無駄な時間を取らされている。 貴重な時間が、奪われてしまっている。

「ドクター、あんたは言ったじゃないか!! 『私の頭脳を持ってすればこの程度はどうとでもできるのだよ』ってな!! 畜生……邪魔するな木偶人形共がぁぁぁぁぁ!!」

 通信機の向こう側から帰って来る声はない。 それでもクライドは叫んだ。

「ハッピーエンドが良いって言ったのに……なんだよ。 どうしてあんたはそうしたんだ!! 何故”そうしてくれたんだ”!! 俺はあんたにこれからどうやって感謝すれば良いんだ!! 答えろドクターァァァァァァ!!」

 コレが結果だった。 インテレクトでのアルカンシェルへの攻撃を中止させたおかげでこの様だ。 死ななかったかもしれない人間が死んだ。 自分の自己満足のせいで。 自分の決断に巻き込んだせいで。

(次は誰だ? 俺自身か? それとも俺を助けてくれているグリモア君か? 冗談じゃない!!)

 砲撃用プラズマを全て進行方向の前面に集束させる。 タイム・イズ・マネー。 時間がどれだけ残っているのか分からない今、チマチマと進んでいく暇などない。 マジックレールは出力全開。 音速機動の限界に挑戦するべく、クライドは歯を食いしばる。 紫銀を纏った黒が次の瞬間には超音速にまで到った。 複雑な回避機動など最早いらない。 最速たる直線を、最短距離で突き進むのみ。

「く、おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 メギンギョルズが安全のために全身を固定。 首一つ動かせないままに、強引にプラズマの貫通力だけを頼りに突き進んでいく。 クライドの認識を越えるほどに加速された体が一瞬にいくつもの傀儡兵の身体や砲撃を貫通し、破壊し、遂に最下層への妨害を潜り抜けさせる。 恐怖など無かった。 それよりもその身体を滾らせる何かが、クライドを突き動かしていたからだ。 背後で身体を貫かれた傀儡兵が落下しながら爆発する。 轟音をどこか遠い世界のことのように感じながら、クライドは荒げた息を落ち着かせつつ再び加速した。

 目の前に広がるのは広大な空間。 浮き島たる時の庭園の外側の景観に比べると美しさにかなり欠けるようで、むき出しの岩肌がここが石をくり貫いただけの簡素な世界のようにも感じさせる。 その最奥には小さな台座があり、その上にクライドが捜し求めていた夜天の書が鎮座していた。

『傀儡兵はいないようだな』

『トラップに気をつけてください。 一応、ボクのセンサーには何も怪しいモノは見当たりませんけど、万一ということもあります』

『そうだな。 この上捻くれた罠の一つや二つあっても可笑しくは無いからな』

 とはいえ、グラムサイトで感じる視界からも不自然なものは見当たらない。 少し速度を落として警戒しながらそれに近づく。 上にも下にも罠らしきものはない。 であれば、あの台座が最も怪しい。 書を取り上げた瞬間に台座に仕込まれた爆弾が爆破するとか、そういう類のモノが仕込まれている可能性は否定できないだろう。

『念のため、フィールドの出力を上げておいてくれ』

『……了解です』

 クライドは恐る恐るそれに近づく。 ここまで来るの随分と無茶をした。 犠牲も出た そのことを思えば慎重すぎるほどに慎重になるべきだった。 一歩二歩三歩とそれに近づき、ついには台座の真正面まで来た。

「……何も、ないのか?」

 右腕を伸ばし、書に触れる。 久しぶりに触るそれは、今までよりも随分と重そうに感じる。 そうして、クライドは一気にそれを台座から取り上げると同時に後方へと跳躍。 次の瞬間、発生した爆音に思わず眼を瞑って書を庇うようにしながら構えた。 だが、予想した衝撃は無かった。

『……室長、アレを見てください』

「……」

 グリモアの声に従うまでもなく、それをグラムサイトで感じていたクライドはどこまでも自分が遊ばれているらしいということを悟った。 ここまでくればもう、怒り感じるよりも先に笑いがこみ上げてくる。

 聞こえてきた爆音は巨大なクラッカーの音だったらしい。 紙のテープと吹き上がった色とりどりの紙吹雪が目の前で舞っては地面にヒラヒラと舞い落ちていく。

「く、あはははははははは!!」

 横隔膜が痙攣するぐらいに大笑いをすると、クライドは次の瞬間には台座に向かってミョルニルを発射した。 音速で迸るプラズマが台座ごとクラッカーを吹き飛ばす。 その程度では溜飲など到底下がらないが、何もしないよりはマシだった。 これを仕掛けた何者かはもしかしたらジョーク、或いは辿りついたことへのサプライズのつもりだったのかもしれないが、今のクライドにとっては火に油を注ぐような行為でしかない。

「――くっだらねぇ!!」

 もう用は無いとばかりに吐き捨てると、夜天の書のページを捲って中身を確認する。 ……本物だ。 守護騎士たちや自分が書いた字で書のページはどこも埋め尽くされている。 最終ページを見るとそこだけが真っ白で、自分の記憶の中にある状態そのままだった。

(やっと取り戻したぞ”俺の魔道書”)

 大きく息を吐き、ツールボックスに書を収納。 上空に向かって跳躍し、元来た道へとって返す。 その頃には傀儡兵はどういうわけか動きを止めていた。 ゲームをクリアしたことへのクリアボーナスということなのだろうか? 台座にクラッカーなんてものを仕掛ける連中だ。 こういう方面でも遊び心を忘れていないのかもしれない。 だが、そんなところでサービス精神を発揮するぐらいなら初めから自分の存在をスルーするぐらいのサービスをしても罰が当たらないだろうとクライドは思う。 書を奪われ、闇の書の主として管理局から終われ、散々な目にあった。 時の庭園に来てからはドクターを失った。 これ以上失わせるものなどなにもありはしない。

 魔力電磁砲身に打ち出されながら、考える。 仮に、今の戦力で戦うとしたらどうすれば良いのか、と。 そいつと出会わずに済むのであれば戦う必要はないだろう。 しかし、もはや楽観することなどできやしない。 戦う気は無い。 ドクターがここから出ろと言ったのだ。 つまりは、それだけ途方も無い相手であり、こちらにとって絶望的な存在ということなのだろう。 あの天才科学者が命と引き換えに手に入れた情報。 信じないわけにはいかない。 

『室長、前方から高速移動体が接近してくるのを確認しました。 凄まじい魔力を持った何かが高速でこちらに向かってきます』

『完成型とか言う奴か!? ……戻るぞ。 最下層から確か玉座の間へと抜けるルートがあったはずだ』

 ミーアたちのマップが正しければ、そのはずだった。 魔力電磁砲身の磁界を反転。 無理やり逆方向へと強引に撃ちだす。 急激に反転する視界のせいで、思わず意識が飛びそうになったがなんとかそれに耐え切ったクライドはグリモアにマップからのルート検索を急がせる。

 最下層から上に二部屋ほど広大な空間を上昇し、螺旋階段の方角へと飛べば玉座の間へと出る。 そこからさらに進めば螺旋階段の中腹に出るのだ。 敵が背後から追ってくるのであれば、上手い具合にかわせて脱出できるかもしれない。 苦肉の策ではあったが、真正面から相対するよりもよっぽど良いだろう。

 すぐに最下層に戻ると急いで上昇を開始する。 このときばかりはミーアたちが調べてくれた情報に感謝せざるを得ない。

「あれだ、上に行く非常用の螺旋階段とエレベーターが複数ある!!」

 迷わずクライドは螺旋階段を取った。 小さめだが、その中央を上昇する方がエレベーターを使うよりも断然速い。 グリモアに飛行の制御を任せると、クライドは幻影魔法を展開。 そうして、閃光爆音の術式を付加するとそれの魔法演算を強制的にカットして、現状維持を利用した即席の機雷と成した。

 見る見る遠ざかる最下層。 グリモアに移動の全てを任せたまま、クライドは下を見る。 すると、数秒して青の閃光が爆音よりも早く三度光るのが見えた。 仕掛けた幻影は三つ。 丁度全部起爆したらしい。 勿論、向こうもそれらが偽者であるとは分かっているだろう。 だが、飛行経路に仕掛けたそれが高確率で邪魔をするだろう位置に設置したのだ。 至近距離での爆発だ。 極短時間でも光学センサーを防げれば追撃を緩める小細工になるかもしれない。

「……!? 避けろグリモア君!!」

 だが、相手はそんなクライドの小細工など完全に無視した。 紫銀に光るプラズマの華が、次々と真下から咲いて来る。 ミョルニル<雷神の鉄鎚>だ。 クライドの言葉に従って、グリモアが丁度次の部屋に辿りついた瞬間に真上にではなく、前へと進行方向をズラす。 その瞬間、すぐ先ほどまで飛行していたルートに沿ってプラズマの弾丸が二人の姿を追い抜いた。 そのまま上昇し、天井に着弾。 綺麗に整えられた天井に着弾して穴を開ける。

 それを見たクライドは、もう一度視線を下に向ける。 さすがに死角になってそれ以上は狙えないのか、追撃は無い。 だが、すぐに敵はやってくるだろう。 グリモアは敵の観察と妨害をクライドに任せると、移動の方に専念する。 しばらく室内を進んで次の螺旋階段の中心を最速で飛翔していく。

(閃光と爆音は無意味か……イーターの野郎と同じで人間じゃないから効果がほとんど無いのか? だとしたら……)

 もう一度、効果は余り無いだろうがフェイクを仕掛ける。 考えが纏まらない。 だが、今は一瞬でも一秒でも相手の追撃速度を緩めたい。 再び螺旋階段の下を凝視する。 と、一瞬クライドの視界に紫銀の色をした何かが遠めに見えた。 ミョルニルかと思ったが、そうではない。 徐々にこちらに近づいて来ている。 そう理解した次の瞬間、再び仕掛けた幻影が青く光る。 その閃光に続くのは先ほどと同じく紫銀に光るプラズマ。 だが、今度は螺旋階段が短いせいでクライドが回避を警告する前に視界から消えた。 だが、弾道を急激に捻じ曲げられたそれが螺旋階段の出入り口を軽く粉砕。 その威力の程をまざまざと見せ付ける。 クライドはゴクリと、生唾を飲み込む。 アレが命中したとすると洒落にならない。

 次は玉座の間だ。 上昇は一時的に終了で、今度はもう殆ど真っ直ぐに螺旋階段へと直進するしかない。 敵の方が確実に足が早く、このままでは背後から次々と攻撃されてしまうだろう。 いつの世も逃げる敵を後ろから追い詰めていく方が有利なのは変わらないらしい。

(グリモア君が移動に全部リソース振ってるってのに、向こうはそれに追いつく速度を出しながらも攻撃まで出来るってのか!? くそ、ミョルニルをどうにかして防がなければ……。 魔力電磁砲身による電磁誘導射撃……発射工程が少しばかり通常の魔法とは違う。 ……嫌がらせだが、これしかないか?)

 再び魔法を展開するクライド。 だが今度仕掛けるのはシールドカッターだった。 攻撃力は勿論望まない。 そもそも威力が違いすぎる。 だが、アレには少なからず攻撃力がある。 だったら、それで良いだろう。 生み出しては現状維持で維持させながら放置していく。 次々と円形のシールドはそうやって空間に固定され、ただ”単純にその場で高速回転”。 クライドはそれを無意味に続けた。

 六つほど仕掛けたところで、玉座の間へと舞台が移る。 そのとき、クライドの黒瞳に紫銀の人影が映りこむ。 間違いない。 アレが完成型だ。 グリモアとそっくりの小柄な体躯と、特徴的な紫銀の髪。 ほぼクライドが知っているグリモアそのままの姿でそいつは姿を表した。 足元に光る紫銀の魔法陣。 向こうもやはり、グリモアを元にしているのか同じような戦闘スタイルらしかった。 次の瞬間、準備されていく十三発のプラズマ弾。

「グリモア君、回避機動!!」 

『了解!! 無茶苦茶に動きますから覚悟しておいてください室長!!』

 強引に電磁砲身を捻じ曲げ、クライドの身体が直進状態から左上に反れる。 その後を追おうとしたプラズマ弾は、しかし”そのほとんどが誘導されるずに”そのまま真っ直ぐにクライドが今しがた飛行していた場所へと突き進んだ。 仕掛けられたシールドカッターが敵の魔力電磁砲身を切り裂き、それ以上の誘導をさせなかったからだ。

「――おおぉぉ!?」

 ジェットコースターよりもやばいと、クライドは思った。 バレルロールをしながら、自分の身体が凄まじい速度で重力の束縛をものともせずに空を舞っている。 眼を回さないでいるのが不思議なほどだ。 そして、その眼前を紫銀の閃光がいくつも通過していく。 正直、生きた心地がしない。 今の自分は戦闘機であり、後方から次々に敵機からミサイルを放たれている状態だということを改めて認識した。 コックピットで操縦しているエースパイロットたるグリモアが一つでもミサイル<ミョルニル>を回避し損ねれば、たちまち火達磨<ファイヤーボール>となってその辺りの壁やら床に投げ出されてクラッシュすることになるだろう。 こうなればヤケだった。 そのまま無茶苦茶に自分の背後に障害物<シールドカッター>を生み出していく。

『あははは、凄く上手く避けるわねカノン。 さすが私のカノンだわ』

『――アルシェ!?』

『念話の周波数ぐらい少し調べれば簡単に分かるわよ? それより、どうして逃げるのかしら……私とっても悲しいわ』
 
『”アルシェ”、今更私に新しい身体なんて必要ありませんよ。 それに、もう貴女は”私”のマイスターではありません。 第一、貴女は人格模倣AI……だとしたら、私が従う理由無いし、私の今のマイスターはこの”彼”です。 私は”私が選んだ”彼と一緒に往きます。 邪魔をしないでください』

『アハッ。 そういえば、貴女のアレはもう駆動しているんだったっけ? エート、アレアレ、マシンハート? そう、そう、そうだわ!! ワタシは貴女と仲良く姉妹ゲンカなんてやってみたかったんだわ。 ちょうどいいわ、この機会にやってみましょうか? ホホエマシク、思わず周りが暖かくミマモッテくれるよよような、とびっきりせせ凄惨で楽しいノをYARIまSYOうね。 シるウスやエれいナが戯れにやるような、あんな優しっくてあててかぁぁぁなのがいいいいの!!!!』

 玉座の間を抜け螺旋階段への通路を進む。 その頃にはもう後方から迫る紫銀が、前を行くクライドたちの三十メートルほど後方にまで迫っていた。 ミョルニルは何故か撃たない。 クライドの生み出すシールドカッターの無いところを選びながら、少しずつ距離を詰めてくる。 それでも破格の速度だというのに、どうやらまだまだ相手にはかなりの余力がありそうだった。

『カノォォォン、どこまで逃げるのー? そろそろ追いついちゃうわよぉ』

『……』

 すでに通常のミッド式やベルカ式の通常移動速度を当の昔に越えているが、それよりも更に速いというのか? その事実に戦慄を覚えるとともにグリモアにはこれ以上速度を上げられないことに歯噛みした。 これ以上は魔力出力的にもクライドの体力的にも厳しい。 電磁フィールドの防御限界ギリギリまで達しているし、このままだとクライドの安全を保証できない。 

『グリモア君、このまま外まで逃げ切れると思うか?』

『相手が”遊んでいる”間は。 ただし、向こうはいつその気になっても可笑しくはありません』

『……君が”全力”を出して、アレとどれだけ戦り合える?』

『十分……は持ちませんね。 初めの一回で五分。 後は恐らく、五分も持ちません。 勿論、”アルカンシェル”抜きで、ですけど』

『向こうは今駆動炉のバックアップを受けていない。 ついでに一つ聞きたいんだが、”アルシェ”っていう奴は戦闘は得意か?』

『いいえ、それはありえません。 彼女は研究者でしたから。 ただし”アルハザード”の研究者です。 例えAIだろうと狂っていようと、その頭脳は脅威になるでしょう』

 アルカンシェル・テインデルに戦闘経験があるはずがない。 少なくともグリモアの”知っている”アルシェには無かったはずだった。

 兵器の試射や魔法の試射をしたことはあっても、直接誰かと戦った話は聞いたことがない。 そもそもアルハザード生まれのアルシェには戦わなければならない相手がいなかった。 何かあれば”彼女の父親”が激怒しながら出張るし、いつも”幼馴染の男”が側に居た。 脅威という脅威を彼女は知らず、ずっと平和に過ごしていたはずなのだ。

 それにグリモアに搭載されている戦闘プログラムのほとんどはジルが構築したものだ。 このことから推測すると、アルシェ本人には戦闘を突き詰めて考えたことはなかったのではないだろうかと思われる。 どちらかといえば兵器を使用することよりも造ることの方を重視していた。 ”造りたいと思ったから造る”。 本人にとって重要だったのは、そういう欲求を満たすことだったのだ。

 攻撃兵器ばかり造っていたのは父親からの影響が少なからずあったようだが、彼女は父親のように全てを”殲滅”しようなどと思ったことは一度もない。 そして何より、グリモア自身もまた彼女のそういう欲求が生み出した産物であるという事実がある。 無垢なるウェポンクリエイター。 敵のいない兵器開発者。 彼女の作品を作品から兵器に転用するのは、いつだってそう利用しようとした者である。

 とはいえ、オリジナルがそうだったからといって今目の前にいる”AIアルシェ”がそうだとは限らない。 もしかしたらシュナイゼルの命令で様々な経験を積んでいるのかもしれないのだ。 だが、グリモアにはどうしてもそういうイメージが沸いてこなかった。

『戦るんですか?』

『向こうが”その気”になったらな。 逃げ切れなきゃそうするしかない。 このままだと十中八九そうなるだろうが……』

『驚きました。 室長にはまだ余裕があるんですね。 ボクはもういい加減挫けそうなんですけど……。 ここに来るまでに随分と”楽観しすぎていた”と後悔していたところですよ』

『余裕ってわけじゃない。 ただ単に”開き直った”だけだ。 それに、実を言うと今だって思いっきり気持ち悪いのを我慢しているんだ。 酔い止めの薬でも飲んどくんだった。 スポコラミンだっけか? なんかそういう名前の偉そうな奴を長靴一杯飲みたい気分だ』

『薬は飲みすぎると身体に有毒ですよ?』 

『そのときは優秀な助手に看病してもらうさ』

『それは別に構いませんけど、やはりその場合は白衣を纏った方が良いんでしょうか? そういうのが成人男性は好きらしいという情報を耳にしていますが』

『”人によりにけり”だ。 俺は似合っていれば何も言わん。 好き嫌いはあるが、基本的には雑食で世間では通っているからな。 俺は”良いものは何でも受け入れられる男”だ』

『なるほど、覚えておきます』

 思わずニヤリと笑ってしまうほどに、そのときの二人には悲壮感などなかった。 そもそも悲観することに意味が無い。 どうしようもないほどに意味は無い。 こんな程度の会話で覚悟が決まるのならばいくらでも続ける。 現実から逃避したいわけでは決してない。 そもそもに深い意味は無い。 意味は無いが、こんな会話ぐらいする時間はまだあった。

 数百メートル先に巨大な扉が見える。 アレを越えれば黄金色の螺旋階段の途中に出るだろう。 そこから先にはもう、こんな馬鹿話をする余裕なんてきっとない。 アルシェにはクライドとグリモアを逃がす気は毛頭無いだろう。 外に出られれば二人には次元転移が可能だ。 だとしたら、次の螺旋階段内で勝負をつけるだろう。 地上階層まで上れれば、強引に壁を破壊して外に出ることもそうそう不可能ではない。 であれば、相手にとっての”遊びの時間”はここまでだろう。 
 
『あの門を破ったら、制御をこっちへくれるか? 悪いが君に負担をかける。 なんとか耐えきってくれ』

『わかりました』

 お互いに一人では勝つ自信などはなかった。 だが、今は二人居る。 一人ではできないことも、二人でならできることもあるだろう。 単純スペックは向こうが何もかもが上だが、そんな理由だけで諦められる程に今の二人は諦めが良い方ではなかった。 

 グリモアは当然クライドと自分の未来を守るために。 クライドはグリモアと自分とあいつらのために。 諦めが可能性を殺すというのであれば、最後まで諦めずに模索し続ける責任が二人にはあった。 お互いがお互いの命を握っている。 その感覚がある限り、最後まで希望を捨てることは絶対にしてはならないのだから。

『さて、お仕事と往こうかグリモア君。 なに、室長たる俺と助手たる君が揃ってるんだ。 ちょっと性能が良すぎるデバイスが相手だから梃子摺るかも知れんが、解体してそのスクラップをリサイクルしてやろう。 デバイスマイスターがデバイスに負けるなんざ、プライドに関わる大事だからな』

『あー、そういえばそうですね。 相手は”デバイス”でしたね。 なら、ボクと室長で解体できないわけはないですね。 室長、いつもみたいに螺子一本レベルにまでやってくださいよ』

 紫銀のプラズマが一つ、クライドの眼前に現れる。 これを放てば戦いが始まるだろう。

『解体は解析よりも得意だ。 随分とSD<スクラップデバイサー>として鍛えているからな。 この分野で俺に勝てるデバイスマイスターなんかいやしないさ。 アルハザードだろうがなんだろうが、これだけは負ける気がしない』

『ええ、そうでしょうね。 あんなみみっちいことをボクの母親も父親もしていませんでした。 室長の方がダントツでその分野だけは腕が良いでしょう。 ボクが保証しますよ』

『君の保証があると心強い。 それじゃあ、始めるとしようか。 ロストロギア級を解体するのは初めてだが、まあ、多分なんとかなるだろ』

 放たれる紫銀のプラズマ。 高速で飛来するその後ろに付き、プラズマの着弾した部分に突撃していく。 粉砕された門の瓦礫をフィールドで弾き飛ばしながら、クライドは渡された飛行制御で姿勢を整える。 身体を反転。 三半規管が混乱しそうになるのになんとか耐えながら、全力で上に向かう。 慣性が身体を後方に流し、一瞬向かい側の螺旋階段に背中から突っ込みそうになった。 そこへ、クライドを追って出てきたアルシェがプラズマを纏いながら飛び出してくる。

 その顔は本当にグリモアに似ていた。 だが、それがどうしたというのか? 本物の助手は彼の中にしか存在せず、それ以外などただの偽者でしかない。

 ドォォンと、まるで身体の底から響くような音がした。 次の瞬間、クライドの意識の中に五分タイマーのカウントが現れる。 デバイスの視界下に現れたそれと同時に、グリモアの魔力出力が爆発的に増幅されていく。

 グリモアに内包されている補助動力がバイパスをメインの魔力路に繋ぎ駆動した。 本来はこれらは大出力を要する殲滅魔法『アルカンシェル』発射のために使うのだが、それをすれば相手からも撃たれるだろうし、ぶつけ合えば出力差で負けるのが必然。 故に、クライドたちはそれ以外に勝機を見出す方法しか取れなかった。 逃げようにもその状態でさえ、ワンランクから半ランクほど出力で負けている。 ならば、スペックではない角度から攻めるしかなかった。 それに、アルカンシェル発射には若干のタメがいるらしい。 高速機動戦闘下において向こう側が撃たなかったのはそのせいだろう。

 加速力が増す。 螺旋階段スレスレを強引に上昇するクライド。 その背後で、増えた加速力によて生じた誤差でアルシェの放ったプラズマが次々と螺旋階段を砕いていった。 だがそれも一瞬だろう、次の発射までには誤差修正をしてくることは目に見えている。 故に、クライドはそこから更に反転してアルシェに向かって突撃していく。 その手に握られているのは対魔法刀。 集束する紫銀のプラズマによって目も眩むほどの光を放出したそれが、一瞬で間合いに入った両者の間で振るわれた。

「――ぉぉぉ!!」

 渾身の振り下ろし。 上下逆の体制故にやや変則的だったが、それでも振るわれた刃に宿る威力は本物だ。 攻撃用プラズマの全てをつぎ込んだそれは、今現在二人の斬撃の中でも最強クラスの破壊力を有していた。

「――アハッ」

 アルシェはそれを理解した次の瞬間にはもうミョルニルの発射を止め、瞬時に右腕に攻撃用のプラズマを集束させていた。 その魔法の名はイルアンクライベル<雷神の篭手>。 次の瞬間、刀と腕が衝突し、互いのプラズマを弾け飛ぶ。 紫銀一色に染まる螺旋階段。 その中で、クライドは舌打ちする。 眼前には、薄く笑うアルシェの姿があった。 二人の全力の一撃は、苦もなく受け止められていたのだ。 だが、その程度は予想の範囲内だ。 寧ろ、あの一撃で終わるような相手であったならそれほど恐ろしさを感じないだろう。 だが、クライドは瞬時に理解した。 グラムサイトがそれを捉える。 右腕は受け止めているが、左腕にも驚くべきことに紫銀のプラズマが輝いている。 それほどに明確な出力差が彼らの間には横たわっているらしい。

「うふふふ、近距離ならどうにかなると思ったの? ”人間”の人格を使っていようと、”身体”が機械なんだから処理能力如何によっては”何百、何千”も先を予測し対処できるわよ」

 左腕が伸びてくる。 クライドが身体を捻り、辛うじてそれを回避。 横を無造作に通り過ぎていく左手。 だが、触れれば今のクライドの身体などひとたまりも無いだろう。 イルアンクライベルはグリモアにも搭載されている貫通攻撃魔法。 魔力集束密度と防御貫通能力はべらぼうに高い。

(一つの動きそれ自体は速いが、動きは素人丸出しだ。 まだ、望みはあるか?)

 捻った身体を強引に戻しながら、刹那の反射に身体を繋げる。 刀は敵の右腕を離れ、それと同時にクライドの身体が一瞬離れる。 そうして、空中を踏みしめ離れた距離をすぐに詰めた。 マジックレールなどこの距離では必要ない。 敵はまだ自分の優位を信じきっている。 ならば、なんとしてでも砲撃戦に持ち込まれる前に勝敗を決するか逃げられるようにしなければならない。

(昔とは違う。 信じろクライド・エイヤル。 イーターはヴィータの戦闘技術に手も足もでなかった。 アレと同じことができるとは思えないが、それに近いことをやってのけなければならないんだぞ)

 機動砲精に近距離戦闘を強いる。 これぐらいしか、明確な対処法がクライドには浮かばなかった。 魔力電磁砲身の最大戦速下においてはクライドに有効な戦闘技術がほとんどない。 まだこれの方が勝算はあるように思える。

――絶望への反逆が始まった。









憑依奮闘記2
第九話
「地の底の地獄」















「あっはっはっは、凄い、凄いぞ剣聖!! ここまで凌ぐか!! ここまで到達していたか!! もはや汝の剣を前にして逃げおおせる者は存在すまい。 この私でさえ負けないことで精一杯だぞ!!」

 聖王が笑う。 笑いながら拳を振るう。 随分と楽しそうだった。 誰が見ても喜んでいるように見える。 決して押してはいない。 二対一でありながら、それでもなお攻めきれずに拮抗に落ちついている。 ただその状態を作るだけに苦心し、まだ負けていないだけだった。 だというのに、心底楽しそうにしている。

 輝く虹と絶対零度の白がぶつかり、その合間に紫の炎が踊る。 剣閃は幾度となく拳閃とぶつかり、互いに”弾き”あっては人工の大気に衝撃を奔らせていく。 聖王は武神と呼ばれ尊ばれた。 では、その王とここまでやりあえる目の前の女は何なのか? カルディナはその答え知っている。 明確な答えを知っていながら、それでもなお考えた。

――限界突破者<リミットブレイカー>。

 限界を超える者。 越えて更に未知の領域へとシフトする権利を得た者。 その一旦を垣間見ることは幸福であり、愉悦であり、快楽だった。 対峙するだけで甘く、舞うごとに歯痒く、ただ王の空虚を埋めていく尽きることのない未知の塊にはまるで魂が求めていたような何かを感じる。

 人工的に人間の限界を超え、自分自身はその上に立ってるはずなのに目の前の女はそんな不条理を更なる不条理で凌駕してくる。 能力でも、性能でも。 天然の究極が、人工の究極と衝突する。 そもそも天然の限界を超えるために人工は生み出されたはずなのに、これでは話が違うではないか。 なんのために人工は生み出された? こうして天然を倒せずにいるというのに。

 思考が飛ぶ。 遥か昔のかの世界へと。 かの者のオリジナルの場所へと。 チリチリと、まるで己の存在全てにもう一度その問いを発するためにそこへ戻る。 

 オリジナルの記憶。 対して面白みもない記憶。 だが、忘れえぬ一つの記憶がある。 今戦っている女の記憶もまたその一つ。 少しばかりのあの女の残滓が、剣と拳の記憶を超えて旧い記憶を遡らせた。 そんな、一瞬の泡沫が見える。


――貴公、何故手を抜いた?

――聖王陛下に勝てる人間は”いない”。 そうでありましょう陛下?

――……それでいいのか?

――それが必要であるのなら、是非はありません。

――妾にとっては屈辱でしかない言葉だな。 負けないようにするだけならば、不可能ではない。 だが、事実として妾が勝つとするのであればもう一歩相打ち覚悟で踏み込まねばならん。 今のままではその一歩が絶望的に遠すぎた。

――それは手を伸ばしたら届くということでございましょう? それだけでは満足できませんか?
 
――ふん、歳若い娘に妾が説かれるか。 末恐ろしい娘よ。 夜天の地は当分安泰だな。 

――王に進言するのは領主の娘でも不敬罪でしたか? お望みならば牢にでも進んで入りますが。

――良い。 それをすれば妾がさらに惨めになるだけだ。 武神としての誇りが許さぬよ。 時にシリウス。 お前は何か欲しいモノがあるか?

――……特には何も。

――そうか、無欲なのだな。 歴代最弱とはいえ、聖王に負けを認めさせたのだ。 その栄誉は称えられて然るべきだというのに。

――……。

――ふむ……そうだシリウス。 一つ称号を持っていけ。 貴公の”立場”は分かっているが、これぐらいはさせてもらっても罰は当たるまい。 汝ほどの女が資格無しの烙印を押されたままでいるのを見るのは忍びない。

――喜んで受け取らせて頂きます、陛下。

――うむ、それと……なんだ。 暇なときにで良いから顔を出せ。 このままだと少しばかり悔しい。 次の機会には”足りない一歩”を進めるようにしておくでな。

――……陛下は負けず嫌いだったのですか?

――ふふ、臣民には内緒だぞ。 これでも無敵の王で通っておるからな。

――分かりました。 陛下と私の秘密としましょう。

――ああ、秘密だ。


(ああそうか。 この頃から片鱗があったわけか。 あいつは引きわけにしてもらったわけだからな)

 もしかしたら、今のカルディナがここまで楽しいのはオリジナルの記憶の残滓がそうしているのだろうか? 胸の奥で滾る感情がある。 遣り残した一歩を歩もうと焦がれている。 身体に広がる熱が全身に広がり、漲る魔力に乗っていった。

 振るわれる幾筋もの剣閃の側面に手の甲を合わせ、外側に弾く。 昔と比べれば更にシリウスの剣は進化していた。 速度も、技術も、魔力さえも、更に更に進化している。 本当に限界はないのか? この理不尽さが何よりも楽しい。 常人にはきっと理解できないだろう。 これではラウムと同じだ。 そもそも、自分はバトルジャンキーではない。 だが、だが、それでも分かることもあった。 ラウムはこの感覚が好きで戦うのだろう。 勝てる勝てないは大した問題ではない。 挑戦できることにこそ魅せられているのだろうから。 目指し続けることの快楽に酔っているのだろうから。

 空中をひた走る。 盗み取った技術<エアステップ>を駆使し、空を踏みしめながら拳の弾幕を張り剣の女に突貫する。 さらに、グラムサイトでこの剣の結界へと挑みかかった。 距離は全てレイヴァンが合わせる。 通常の人間では正確な距離を図れず、絶えず変化するその距離を理解できずに一方的に敗北するしかないだろう。 だが、聖王の鎧と取得したグラムサイトがそれら全ての差を埋める。 身体能力も元々聖王が上。 魔力も上だ。 だのに、技術と剣の有無だけで凌ぎ続けられている。 まさしく異常である。

 だが、続ければ続けるほどに自信が湧いてくる。 届いているという実感と、負けていないという事実がある。 ならば、後はあの一歩。 届くか届かないかを埋めうる渾身の一撃で勝負を決すれば良い。 まだまだ時間はたっぷりある。 夜天の王はどうせすぐには戻ってこれない。 ラウムがいる。 ”シュナイゼルの女”がいる。 一度入ったが最後、あの場所から帰って来ることなどあの程度の力量では到底できまい。 カノンの能力だけでここまで生き延びられたような男には決して。

「ふむ、そういえば結局お前とあの男の関係はなんなのだ? 弟子と師匠という風には見えなかったがな。 そなたの男か?」 

「どこをどう見ればそう見えるのか謎ね? 無駄口を叩く余裕があるのかしら」

「ああ、少し前までは無かったがな。 存外そなたの意識が”別の方”に向いているようで余裕が出てきた。 もしかして、夜天の王が心配で焦っているのか?」

「まさか」

「ほう」

 嘲笑い斬って捨てる剣聖に、しかしニンマリと聖王は笑う。 なんだ、随分と可愛らしいところもあるじゃあないか。 記憶の中でさえ生意気そうに思えたというのに、こういうところも小生意気らしい。 随分と澄ましているものだ。

「うむ、愛か。 ならばしょうがないな」

「……随分と俗なのねベルカ最後の王は」

「愛は人を強くするらしいな。 どこの次元世界でもよく聞く台詞だ。 もしかしたら全次元で共通の真理なのかもしれん。 例えば、元々貴公は妹のためにそこまでの剣を磨いたのだと聞き及んでいる。 その力の原点は姉妹愛だったのだろう?  案外、限界突破者になるにはそういうものが必要なのかもしれぬな」

「知らないわ。 それに、なんでもかんでも愛に理由を押し付けるのは人間の悪い癖よ。 愛が有ろうが無かろうが、関係なく強くなろうと思った人間はどこまでも強くなれるもの。 そんなのは理由が無ければ戦えない連中と同じでしょ」

「くく、違いない。 理由があろうがなかろうが確かに関係が無いな。 極論すれば強くなろうとするモノがより強くなれるだけの話だからな。 理由などどうでも良い。 義務感だろうが愛だろうが目的だろうが怖いもの見たさだろうが、理由など所詮目指す手助けをするための要素に過ぎん。 ちなみに妾の場合は好奇心さ。 先代は恐らく義務感と負けず嫌いかな? まぁ、そんなものだったろう。 で、率直に尋ねるが貴公はどうだ?」

「言う理由は無いわね」

「そうか? それは残念だ。 好奇心の一つが満たされるかと思ったんだがな。 お? 剣速が更に増したな。 リズムも変化したし……はは、これは無駄話をする余裕もいよいよ無くなってきたぞ」

「それは重畳」

 振るわれる剣速が増していく。 それに比例して聖王もまた速度を上げた。 全リソースを攻撃に回し、紙一重で刀を捌く。 無手で剣の相手をするのは通常はかなり厳しいが、魔導師や魔法騎士に限って言えばそうそう不可能なことではない。 だが、通常の剣であったならそれは可能だが、聖王は一度たりとも斬られるわけにはいかなかった。 カグヤにはAMB<アンチマジックブレイド>がある。 シュナイゼルからもたらされたデータと、その身に蒐集した魔法データがそれを三大魔法で防げないという結論をたたき出している。 要するに斬られなければ良いだけだが、距離を越える相手にそんな反則を振るわれては勝てるものも勝てない。 普通ならそうだった。 だが、辛うじてそれを防ぐ例外を聖王もレイヴァンも持っている。 それのおかげで、なんとかこの拮抗は続いているのだ。

「――レイヴァンよ気を張れ。 この戦闘の要はお前だ」

 無言で距離を越える剣を振るう剣の騎士<レイヴァン>。 だが聖王の言葉は忠実に守っているならば、ソレで良い。 物理と魔法の四枚の魔法障壁と彼の者の剣が在る限り、そうそうに落ちることはありえない。 更に聖王が絶えず攻撃を仕掛けているのだ。 この布陣で敗北することは単純にシリウスがシリウスで有り続ける限りありえない。 そして、AMBを一応防ぐ方法が二人にはある。 それのせいでシリウスは押し切れない。

(AMBは三大魔法の術式を切断することで魔法を無力かさせる対魔法剣。 だがシリウスよ。 それは逆に言えば三大魔法以外にはただの威力のある魔法剣にしかならんということだ。 ベルカ式以前の古代魔法は切断無効化はできぬぞ? 威力勝負ならば一度や二度ならレイヴァンは耐え切れるし、妾なら十分に受け止められる。 とはいえ、お前ならばそれでもこちらの攻撃を斬りそうで怖いのだがな)

 カグヤはかつて”管理局員”たるアーク・チェザイルに剣を教えた。 その剣の秘密は既にそこからシュナイゼルの手に渡っている。 カグヤはそれを気にも留めなかった。 当然だ。 それだけの自信と技量が彼女には備わっているから、シュナイゼル程度にはどうにもできないと信じきっていた。 事実、ただ古代魔法に切り替えた程度ではどうにもならない。 だが、聖王とレイヴァンは別だった。 単純にそれをなす技量が備わっているが故に、だ。

 走る剣が空間越え距離を越えて飛び続ける。 その合間に身体を潜りこませ、避け、弾き、刹那の見切りで反撃の拳を叩き込む聖王。 眼前を幾度も通り過ぎる必殺の剣。 グラムサイトに聖王の鎧、そして卓越した戦闘技術の三位一体によってカルディナはそれに対処していく。 果たして、それはどれだけの精神力と集中力を有するのか? 普段からラウムが見ているぐうたらさと比べると信じられない事実だっただろう。 だが、これが聖王カルディナの姿だった。

 天衣無縫にして柔軟。 血の業と人工の力によって支えられた武の結晶は、常人を遥かに越えるほどの力を振るうにまで到った。 剣道三倍段を考慮すれば、この躍進は凄まじい。 カルディナ自身、この生涯においてここまで身体が動けるとは思ってもみなかったのだ。 武神は決して完成された究極形ではなかった。 更に更に進化していく。 知識と技術を吸収し、より高みにまで上っていく。 有体に言えば、戦えば戦うほど強くなっていくのだろう。 そういう星の元に生まれたといっても過言ではない。 そしてまだ、彼女の成長は止まっていない。 まだまだ、十分に戦えるだろう。 と、そう思考していたときだった。 カルディナは新しくここへ転移してくる何かに気がついた。 
 庭園の端の方から感じるそれは、驚くべきことに人間の持ちうる魔力の常識を大幅に超えていた。 一瞬シュナイゼルが戻ってきたのかとも思ったが、違う。 戦場に響き渡る広域思念通信がそれ以外の何者かであることを理解させた。 聞こえてきたのは若い女の声だった。

『こちら、時空管理局執務官リンディ・ハラオウンです。 これより、貴方がたがミッドチルダより強奪した時の庭園の奪還任務に入ります。 現在戦闘中の者は速やかに戦闘を中止し、投降してください。 繰り返します――』 

 何の冗談だろうか? 確かに魔力は凄まじいが、たった一人だ。 いや、それ以前になぜ時空管理局がここにやってくる?

「どうやら、シュナイゼルがしくじったようね?」

「さてな。 だとしても、別に何が変わるわけでもあるまい? そなたや妾を止められるほどの猛者ではなさそうだ」

「ふぅん?」

「邪魔をしてくるならば叩きのめせば良いだけだからな。 さぁ、続きをしよう剣聖。 別段、妾には不都合などない。 後始末に苦労するとしても、それは奴であって妾ではないからな」

 前に出て、間合いに飛ぶ。 迎撃の刃を横に回転しながらさけ、裏拳を叩き込む。 カグヤはそれを特に頓着せずにバックステップで避けると、神速の速さで刀を切り返す。 下から跳ね上がってくるその刃を左手で剣の腹を殴るようにして弾き、更に前へ。 まだ、必殺の位置までは遠い。 間合いを距離を完璧にするため、聖王は戦闘に没頭していった。












「――なんて、言っても投降してくれるわけないですよね」

 だが、別にそれでもかまわない。 今ここに管理局員が来たという事実を知らせることでもしかしたら敵に様々な混乱が生じるかもしれないことを期待していた。 防衛側と攻撃側の二種類はそもそもどういう勢力かは分からない。 どちらもが自分が管理局員だと理解していれば、それぞれの思惑通りに動かざるを得ないだろう。 例えば、攻撃側はこちらが一人だということを知れば動きに便乗するようにして動くことを選択するかもしれないし、防衛側は防衛側で何がしかのアクションを起こすだろう。 まだこの場所でならば、リンディは撤退も容易にできる。 出てきた敵如何によっては更なる情報が手に入る可能性もあった。 特に、この場所にクライドがいるとしたならば自分の名前を聞けば声をかけてくれる可能性もあるのではないかと期待してもいた。

 だが、数秒待ってみても帰って来る返答は無い。 だとしたら、あとはやはり内部へと突っ込むだけだった。

『レイン艦長、行ってきます』

『ええ、良い報告を期待していますわ』

 通信ウィンドウが消える。 リンディは軽く深呼吸すると杖を構えて飛び出していった。 今までに無いほどの加速力だ。 背面の翼もまたそれに比例するようにして巨大化している。 全身から溢れ出る魔力の残滓によって彼女の身体が淡く光っていた。

 今現在、リンディは次元航行艦のバックアップを受けている。 これは高ランク魔導師にのみ許された裏技である。 航行艦の魔導炉から魔力を供給してもらい、自らの魔力とするわけだがその魔力制御は恐ろしいほど複雑であり、一定以上の魔力量を扱えるものでなければ到底有効に利用することができない。 低魔力しか持っていない魔導師ならば、バックアップを受けた瞬間に受け皿が小さすぎて身体が持たないこともある。 在る意味これは高ランク魔導師専用の装備だとも言えるだろう。

 リンディはこれを用いればこの時の庭園を覆うほどのディストーションシールドを張ることさえ可能となるのだから、扱い切れれば恐ろしいほどの武器になる。 ただ、これはあくまでも外側から無理やり魔力を得ている状態だ。 庭園の外ならば問題無いが、庭園の内部に入ってしまえば艦のバックアップを受けられなくなる。 この場所でのみ破格の戦闘力を発揮できるできるわけだ。

(外の魔道兵器群は無視。 邪魔をしてくる相手のみ最低限撃破……ここに何かあれば良いのだけど)

 眼前にそびえ立つ巨大な塔。 内部の情報は一応局に提出されたモノを出撃前に叩き込んだが、果たして上と下どちらに行くべきか。 駆動炉は重要部位だ。 だが、通常考えればそちらは本命ではないと予測される。 最奥部または玉座の間辺りが怪しい。

 眼下では次々と戦場の生々しい爪あとが残されていた。 設けられているはずの花壇や木々が戦闘の余波で吹き飛び、魔導機械たちの残骸が降り注いでいる。 と、前方に紅鎧を着たリビングデッドの騎士が立ちふさがる。 リンディは迷わずデバイスの先端から薙刀の魔力刃を発生させる。

「……ぉぉぉ!!」

「やぁぁぁ!!」

 低い声が聞こえたその次の瞬間、リンディは大上段から薙刀を振り下ろす。 ――衝突。 艦船からバックアップを受けている今のリンディの薙刀をそうそう簡単に止めることは出来ない。 一撃で受け止めようとしたトンファーごと唐竹に叩き切る。 重厚な鎧は縦に両断され、その向こう側にある魔力体ごとフーガの身体を両断した。

 切り捨て御免とばかりに、リンディはそのまま下に高度を下げるようにして先を急ぐ。 切り裂かれたフーガの身体は確認するまでもなく重症だった。 そのまま、魔力の霧となって霧散していく。

(――まず一人)

 邪魔をするならばあと一人。 シスターの少女だ。 だが、シスターの少女はどうやら建物の中に入っていく。 内部に侵入していく魔導機械たちを追おうとしているようだ。 少女に追いつく形で突入するリンディ。 瞬間、艦からのバックアップが消える。 だが、限界ギリギリまで背面の翼に魔力を貯蓄してきた。 いつもよりも長時間戦闘が可能だろう。

 目の前に広がる黄金色の螺旋階段。 リンディに気がついて振り変えった彼女の右手には異様な形のデバイスが握られていた。 振り返ったということは、先に自分の相手をするつもりなのだろう。 リンディは油断無くデバイスを構えながら少女を見る。 先に口を開いたのは少女の方だ。 首をかしげながらリンディに問う。

「お姉さんもひょっとして部外者なのかな? だったらやっつけなきゃいけないんだけど……」

「部外者……というなら貴女たちもそうじゃないかしら? 時の庭園には現在時空管理局に捜索願が出されていますから」

「ふむふむ。 でも、ここはもう王様たちのだから貴女たちの方が部外者ですよー。 元の持ち主の人には残念な話だけどねー」

「王様? ……一つ聞きたいんですけど、貴方達は一体何者ですか? 古代の叡智の人間ですか?」

「古代の叡智? あれって、確かイーターっていう黒コートの人がやられちゃったから壊滅したはずだよ。 それに私たちは神様に仕える敬虔なる僕なの。 シュナイゼルの手下なんかと間違えないでよね」

「古代の叡智が壊滅した? 神様……シュナイゼル? どういうことですか?」

「そのままの意味だよ。 私は神様に仕えるシスターさんだもん」

 確かに見た目は聖王教会の服に見えたが、果たして祈っている神とやらば聖王教会の掲げる聖王やらその縁者なのかはリンディには分かりかねた。 別段リンディは聖王教会の教徒というわけでもない。 本物か偽者かの区別などつくはずがなかった。

「さて、質問タイムはお仕舞いね。 さっきの魔導機械を止めないと私が神様に怒られちゃうの。 聖王様はお優しい方だけど、怒ったらとっても怖い人なんだってラウムが言ってた」

「は? 聖王?」

 今度こそ、リンディの思考が止まる。 聖王? 今目の前の少女はそう言ったのか? いよいよリンディの頭は混乱してきた。 いるはずがない。 聖王教会は公式発表で既にかの者はいないと公表している。 なのに、何故今ここでその名前が出てくる?

「よーし、いっくよー」

 それを聞きたい衝動に駆られたが、それをする前にまた別のことでリンディは思考を中断させられた。 少女が手に持っているデバイスが唸り声を上げ始めたからだ。 比喩ではなく、本当に耳も劈くような独特のサウンドをそのデバイスは吐き出している。 まるでエンジンが咆哮しているようにも感じるだろう。 だが、それはそんな生易しいものではない。

 一メートルほどの剣の握りの先には獰猛な唸り声を上げて回転し続ける全長二メートルほどもありそうなチェーンがある。 人類が生み出した物体切断用具のなかでもかなりそれの名は有名だ。 その機具の名はチェーンソー。 まるで剣の刃の部分にチェーンソーをくっつけたようなそのアームドデバイスの名は『ジェノサイダー』という。 シルビア・シルエイティという小柄な少女には似合わない酷く物騒な獲物だった。 さすがのリンディもここまで凶悪なデバイスは見たことが無く、まさかと思っていたのだがそれがさすがにチェーン部分を回転させながら同時に足元に銀色に光るベルカ式魔法陣発生させているのを見せられれば誰だってそれをデバイスだと認めないわけにはいかない。

(――ひ、非常識だわ)

 思わずあのデバイス狂いの男が作ったのかと邪推してしまうほどに、その用途は明らかだった。 少なくとも、ミッド式のデバイスにはこんなものは無い。

「それぇぇぇぇ!!」

 桃色のツインテールを風になびかせながら、シルビアが可愛らしい掛け声と共に突っ込んでくる。 リンディは真横に振るわれるそれを上に飛翔することで避けると、そのまま上から薙刀の刃を振るう。 手応えはない。 避けられたことを察知したシルビアがすぐに横へと身体をずらしたのである。 シルビアの側面スレスレを過ぎ去った魔力刃。 十代前半にも見えるその少女は、しかしそんなものに怯えることもなくすぐに体制を立て直して上を向くと飛翔して突撃を敢行する。

「いっけぇぇぇ!!」

 チェーンソーで突撃などという攻撃を始めて見せられたリンディは半ば放心しながらも、薙刀の刃で打ち払おうとする。 次の瞬間刃同士が接触し、今まで感じたことが無い衝撃がデバイスを通じてリンディを襲う。

「――や、やっぱり非常識だわ!!」

 リンディは半ば悲鳴を上げたくなった。 その視線の先では、魔力刃を少しずつ切り裂いて問答無用で襲い掛かろうとしてくる刃が火花を散らしながら迫っていた。 しかも大音量付きである。 その視覚聴覚共に恐怖を与えてくる武器は脅威的な切断力を持っているらしい。 クライドのシールドカッターに近いが、デバイスでこの攻撃を受け止めたとしたら恐らく数秒もせずにフィールドごとデバイスを切断されてしまうだろう。 剣などで受け止めたらもしかしたら刃先をボロボロにされてしまうかもしれない。

 生きた心地がしなくなったリンディはすぐに高速移動魔法を展開。 上空に離れるようにしながら距離を取る。

「ブラスト――」

 高速で生み出した爆裂弾を生み出し、打ち出そうとする。 だが、眼下にいるはずのシルビアはそこにはいなかった。 グラムサイトが感知する。 シルビアはすでに後ろにいた。 どうやらリンディが高速移動魔法を使った少し後に彼女も使用して距離を詰めていたらしい。

「えーい!!」 

 無邪気な掛け声とともに三度振るわれる回転ノコギリ。 容赦なく首元を狙われたそれをリンディは礼をするようにして回避する。 その瞬間後ろで括っていた翡翠の髪の一部が空を舞った。 リンディはすぐに反転。 その勢いも加えて薙ぎ払う。 若干涙目だったのは髪の毛を少し奪われたことへの怒りもあった。

「髪は女の命ですよ!!」

「長すぎる髪はいけないのです。 質素倹約こそ基本ですぅ。 教義が緩いといっても、節度は守らないといけないんですよー」

 シルビアはジェノサイダーでそれを迎え撃つが、途中で詠唱が止まっていたブラストバレットが上空より至近距離で発射されたことに気づき後退。 シールドを張ってブラストバレットを受け止めようとする。 だが、ブラストバレットは爆裂弾だ。 シールドの上で破裂し、シルビアの小柄な身体を大きく吹き飛ばしていった。

「……ち、近づけなければ問題ないわよね」

 さすがに嘱託時代を通してあんな凶器に襲われたのは初めてだ。 絶対に近づきたくなどない。 残りのブラストバレットを追撃に出しながら、次の魔法を準備に入る。

「きゃーぁぁぁぁ」

 ブラストバレットから逃げ惑うようにして飛行するピンク髪の女の子。 何故か無償に自分が年下の女の子を苛めているような気がしてきたが、リンディは心を鬼にして魔法を放つ。 用意したのは得意魔法であるスティンガーブレイドだ。 

「スティンガーブレイド・ホーミングシフト!!」

 真上から隙間も無いほどに螺旋階段の中央部一杯に生み出した膨大な数の魔力剣を解き放つ。 ブラストバレットの対処に手一杯だったシルビアがそれに気づいたときにはもう逃げ場所などないほどに視界の全てが翡翠一色に染まっていた。

「――あー、神様御免なさい」

 ブラストバレットが着弾。 その後に降り注ぐ脅威の弾幕。 これにはさすがにシルビアも手も足も出なかった。 元々シルビアは魔法戦闘の特訓はあまり受けていなかった。 どちらかといえば聖王の侍女扱いだった彼女には、さすがに十分に訓練を積んだSSランク魔導師に勝つ力はないようだ。 ただ、その割りにはその切断攻撃力は常軌を逸している。 まともに攻撃を喰らっていればリンディでもやばかったことだけは確かだ。 
 
「……あの子もリビングデッドだったのかしら?」

 殆ど確信していたが、それでも身体が魔力に還元していったことはグラムサイトで確認している。神様、聖王、シュナイゼル、古代の叡智の壊滅、口にしていた単語はどれも理解不能だったが、今の言葉をリンディは心に止めておくことにする。 一応デバイスに会話は録音させてもいたし、今後何らかの形で役に立つこともあるかもしれない。

(さて、上に行くか下に行くかだけど……)

 デバイスのレーダーを確認。 真下の方から魔力反応が三つある。 この分だと戦闘をしているのかもしれない。 長い長い螺旋階段。 その先に何が待っているのだろう? 疑問に思う。 だが、危険度は跳ね上がりそうだ。

「無理はできませんけど……駆動炉よりは情報を集められるかしら」

 決めた。 下に向かおう。 何が待っているのかなんて分からない。 だが、それでも下の方がメリットは高そうだ。 技術屋ではないリンディには駆動炉の停止方法が分からないし、できることと言ったら破壊することぐらいだ。 だが、今ここで破壊して何のメリットがあるというのか? 何でも良いから少しでも手掛かりを。 リンディは慎重に降下を開始した。














 アルシェの近接戦闘技術はそれほど高くは無い。 だが問題なのはその驚異的な反応速度と魔力量だった。 グラムサイトを使用するクライドはそのことに微妙な感想を抱く。 目で見てから考え、さらには反応し対処するという凡そ人間には真似できないことをやってのけてくるのだ。 しかも、イーターとは比べ物にならないほどに思考のラグがそこにはない。 人と機械の良いところを持っているといえば良いのか、機械的な計算と合わせて所々に人間の直感に近い癖のようなものを感じた。

 刀を振るう。 拳と衝突。 瞬時に空いた方の右手が飛来し、クライドを襲う。 動き自体は素人だから、出鱈目に振り回されるそれをなんとか致命傷だけは避けるようにして避ける。 貫通のみを重視する雷神の篭手によってそれらが掠る度にクライドに鋭いナイフで切りつけられたような痛みが奔った。 だが、クライドはそれでもその距離から離れない。

 痛みが恐怖を呼び、恐怖は危機感となって感覚を鋭敏にさせてクライドを突き動かす。 振り回す刀の切っ先は何度も何度もアルシェの魔法に襲われている癖に、恐ろしいほどの頑丈さでクライドの命を支え続けた。 通常のデバイスであったのだとしたら、確実にここまで持たないだろう。 だとしたら、やはりこれもまたアルハザードの品なのだろう。 頼もしいことこの上ない。

「すっごく硬いわねその武器。 材質は一体何なのかしら?」

「貰い物なんでね、生憎と知らないな!!」

 クライドが身体を捻りながら左下から切り上げる。 直後、右の拳が弾き上げられアルシェの体勢が崩れる。 衝撃がビリビリと身体を伝わるが、それを無視。 泳ぎそうになる体制をエアステップの要領でなんとか踏ん張って耐えると、刀を振り逆袈裟に振り下ろす。 剣閃がアルシェの身体を襲い、斬撃のダメージを与える。 だがこの程度ではアルシェは落ちない。

「あたた、痛いなぁ。 でも、そろそろそれが何か分かってきたかも。 その異常な強度……材料はイヴァルディかシンドリー辺りでしょ? 可笑しいなぁ。 アルハザードでは確かにメジャーだけど、”この界隈”じゃあ存在しないはずなんだけど」

「知るか!!」

 斬られた反動を利用して離れようとするアルシェを追う。

 確かに一撃で落とすのは無理だ。 しかしそれならばダメージを重ねてやれば良い。 フィールドを弱らせ、倒す。 本当は一撃で落としたいところだったが、欲張れる状況ではない。 堅実に確実に、今できることをする。 そうするしか抗う術が見当たらない。

『室長、カウント二分切れました』

『了解』

 磨り減っていく時間。 カウントは補助動力の使用時間だ。 このカウントが無くなった瞬間、グリモアは魔力出力をメイン動力一つレベルにまで落としてしまう。  補助動力の連続使用はできるらしいが、グリモアの初期設計出力を大きく超えているため使えば使うほど大きな負荷となってグリモアを襲う。 過剰出力を扱う弊害だ。 クライドが”使用”を躊躇う要因でもあった。 クライドにはグリモアを修理できない。 その事実はとても重い。

 焦りが募る。 できるだけ速い段階で決めてしまわなければならない。 だが敵はそんなクライドの焦りを嘲笑うかのようにタフで、強大だ。

「こんの、逃がすかよ!!」

 口で刀の峰側を噛むようにして固定すると、ツールボックスから長いワイヤーの束を取り出す。 グリモアが束ねたワイヤーの一つだ。 先端にはマジックガンのカートリッジが取り付けられている。 クライドはそれに無理やり感応し、無機物操作の魔法を使う。 青い魔力がワイヤーを伝い、クライドの意思とリンク。 クライドはそれを軽くカウボーイよろしく二回三回と振り回すとアルシェが逃げる方角に投げ放つ。

 離れながらミョルニルを放とうとプラズマを用意していたアルシェが、目前に迫ったワイヤーを下に移動することで避ける。 が、意思を得たワイヤーは感応制御に反応し、虚空で下に落ちるようにして曲がりアルシェを追尾した。 シグナムの連結刃形態のワイヤーと似ているが操作練度は低い。 だがそれでも意思ある蛇のように空中を右に左にとのたうちながらアルシェを目指す。 それに彼女が気を取られた隙に、クライドは左手でワイヤーを操作したまま右手に刀を持って逃げた下方へと最短距離で追撃をかける。 上から追いつき、刀を振るう。

「っらぁぁ!!」

 上段から振り下ろされる刃が再びアルシェのフィールドに叩きつけられる。 手応えは軽い。 片手では攻撃力がさらに足りなかったようだ。 だが、異変が起きた。

 クライドをアルシェが見つめる。 黒瞳が紫銀の視線が絡まったその瞬間、アルシェの顔の表情が激変した。 至近距離でそれを見たクライドは思わず動きを止めそうになった。 

 表情が狂っている。 人間の感情表現ではない。 怒りながら笑い、笑いながら泣き、泣きながら怒っている。 そんな滅茶苦茶な表情だ。 グリモアと同じ顔でありながら、まるで別人の何かだと思うほどに、それは致命的に感情表現を間違っていた。

「――フィールドダメージ50%オーバー。 状況Fにより敵殲滅プログラムを検索――」

 クライドは呟きが終わる前に反射的に後方に下がる。 ただ、ワイヤーに伝わせた意思はそのままに十メートル程の距離を開けたまま動きを止めたアルシェの上半身に巻きつけるようにして拘束。  嫌な予感がする。 だが、同時にチャンスだった。 動きを止めたまま、敵は動きを止めていた。 不具合ではなく、物騒な代物を用意している最中らしいが待ってやる義理などない。 残りのカウントのこともある。 ここで決めたいという欲が注意を促す自制を超えた。

『グリモア君、これで決めるぞ!!』

『はい、プラズマ集束――』

 プラズマが集束されていく刀を後ろに回しながら突きの構えを取る。 同時に展開された魔力電磁砲身が二つ、必殺の魔法を編んでいく。 紫銀の先端に集ったその瞬間、クライドの身体が魔力電磁砲身内を加速する。

「該当プログラム確認――」

 放つ魔法は散々敵が使っていた雷神の篭手。 ただし、プラズマを纏わせるのは腕ではなく対魔法刀の先端部。 突きは放った後の隙がやや気になるが、普通に斬りつけまくるよりは破壊力が見込める。 点と線ではフィールドにかかる圧力が違う。 攻撃力が増すのは当然だろう。 さらにこれならばフィールドの一点突破も可能なはずだし、上空という位置を取っていることから真下に突っ込むことで重力が加速を補助してくれる。

「――イルアンクライベル、貫けぇぇぇぇ!!」

 突き出される刀が、更に砲身内で二つ目の砲身により打ち出される。 まるで二段加速のロケットだ。 目にも留まらない突きが紫銀の閃光となってアルシェを襲う。

「プログラムスタート――」

 瞬間的に確実に音速に乗った一撃。 それが必中の胴に放たれている刹那の瞬間、アルシェの顔から表情が消えた。 狂った表情がなくなり、能面のように感情表現を無表情で固定される。 そうして、彼女は”戦闘兵器”へと成り代わった。 

 必中の胴まで一メートルも無い。 首や手を動かすのと比べれば胴という部位は遥かに位置を動かすことができない部位と言える。 故によほど腕に自信がある玄人で無い限りは頭部よりも胴体を狙うのが効率的だ。 例え攻撃を避けられるとしても的となる面積の大きさと動かし難さのせいで命中させやすいから、攻撃が無駄になる確率を減らすことができる。 本来ならそのはずだった。

(――馬鹿な!?)

 クライドには理解できなかった。 あるべき手応えがまるでない。 必殺のはずの突きは軽く横に動いた程度で避けられていた。 突きが点の攻撃だというのもあったのかもしれないが、それでも半身になってちょっと移動した程度で避けられていた。 すれ違いながら驚愕に支配されるクライドの脳。 彼がその事実を認める前にグリモアが、突きの勢で落ちていく体を止めるべく干渉。 螺旋階段を真下に降りながらもできるだけ距離を離さないようにするべくブレーキをかける。 左腕に握っていたはずのワイヤーは驚いた拍子に手から離してしまっていた。 握っていたままであれば、敵ごと真下へと運動エネルギーを与えていたかもしれない。 もっとも、そのときにはクライドの左肩が外れるぐらいの凄まじい負荷がかかっていただろうが。

(ありえない。 あの距離まで動いていなかったんだぞ!? 動きは素人だったのにあんな綺麗に狙って見切れるはずが――)

 身体を反転して上を仰ぐ。 すると、アルシェはプラズマでワイヤーを焼き切ってすでに自由の身となっていた。 落下してくるワイヤーの残骸がクライドの側を落下する。 そこまで見てクライドはアルシェの次の行動に唖然とした。

「なんだアレは……」

 握りを入れると三メートルは有りそうな長大な棒がその手には握られている。 握りは少しばかり特殊で、まるでライフル銃を握っているかのようにも見える。 いや、事実そうなのかもしれない。 確かに握りの部分には引き金が付いていた。 であれば、アレは銃なのだろうか。 しかし先端は下にいるクライドの方向を向いておらず、寧ろ上に向いている。

『……新種の魔力反応を確認。 どうやら、魔導兵器か何かのようです。 ほとんど彼女自身と同じ量の魔力が観測されました。 ……どうしましょう?』 

「……どうするって言われてもな」

 笑うに笑えないグリモアの言葉がクライドを愕然とさせる。 刀を握る指先が震えて、カタカタと震えていた。 引きつった笑みしか浮かばない。 思考は間違いなく停止していた。

 別動力を用意するという方法は確かに考えられた。 無論、”自分”だってそういうのが究極の汎用デバイスの姿かなと思っていたものの、それを形作る技術が無かったから今は諦めていた。 だが、こんな程度はちょっと考えればすぐに誰でも思いつく程度のことである。 問題は、それを管理世界が受け入れられるかどうかという話だったが、それは”できるようになってから”考えるべきことだった。 なのに、存在しないはずのモノが出てきてからその前提が覆りまくっている。

 振り上げたライフルのようなものの先に”黄色”のプラズマが凄まじい勢いで形成されていく。 それはまるで太陽のように凄まじく輝きながら膨張し、巨大な球形を形作っていった。 半径にしておよそ五メートルはあるだろうか。 とにかくでかい。

(動力内臓型……魔力光が黄色だから魔力を直結して利用はできないのか? しかし、同色の魔法陣が足元に展開されている。 いや、自前の魔法も展開しようとしている。 今の俺とグリモア君に近い状態か。 ……なんだこりゃ)

 端的に言えば”デバイス”が”デバイス”を使っているという状況だった。 あまりにも想定外の出来事過ぎた。 何せ、今まで”見たこと”が無い。 少なくともデバイスというものは”魔導師”が使うものだという固定観念があったからだ。

 プラズマを構築し終えたアルシェがそれを両手で構える。 構えから行けばアレは”ハンマー”の役割でも果たすのだろう。 球形のプラズマを鈍器とする鉄鎚だ。 砲撃型でミョルニルという魔法があるが、これは恐らくそのままの意味の名を持つ近接魔法なのだろう。 

 アルシェがマジックレールを生成し、真っ直ぐにクライドに向かって加速する。 呆然としていたクライドはそれに反応が遅れた。 瞬く間に距離を詰められ、凶悪なプラズマハンマーを振るわれる。 攻撃範囲を考え、避けられるとは到底思えず、クライドは刀でそれを防御しようと試みる。 

「――トールハンマー<雷神の鉄鎚>」

 一切感情を含まないような無機質な声と共に、馬鹿でかいプラズマがクライドを襲う。 プラズマに身体全てが飲み込まれそうな錯覚をクライドが感じた頃には、すでに身体は吹き飛んでいた。 余りにもスイング速度が早すぎた。 グラムサイトが効いていなければ絶対に反応できなかっただろう。 辛うじて刀を盾にできたが、クライドにできたのはそこまでだった。 刀に纏われていたプラズマはすでに無い。 ただの一撃で全部持っていかれた。 いや、それだけではない。 

『たった一撃で……メギンギョルズ<電磁フィールド>が消失!?』

 悲鳴のようなその声をクライドが認識するよりも先に、身体が螺旋階段の壁に着弾。 背中から全身に広がった凄まじい衝撃。 後頭部を強く打ったのか、意識が闇の中に落ちる。 辛うじてクライド自身の展開していたバリアジャケットが衝撃を幾ばくか吸収していたが、それが無ければ今の一撃で終わっていたかもしれない。

『室長!! くっ――』

 魔法制御に介入して意思を伝え、魔法を行使。 気絶した主に代わって飛行魔法を掌握。 再度メギンギョルズを纏い、無防備に虚空へと落ちようとする体を支える。 だが、目の前にはもう恐ろしく凶悪な鉄鎚を振りかぶったアルシェの姿がある。 辛うじて高速移動魔法<ハイスピード>を発動。 瞬時に距離を取る。

『室長、目を覚ましてください!! 室長!!』

 必死に叫びながら、姿勢制御。 そのまま玉座の間へと続く通路へと飛び込む。 だが、いくら呼びかけてもクライドは反応しなかった。 脳震盪でも起こしたのか反応が返ってこない。 グリモアの顔から血の気が引いた。 クライドの後頭部からは血が滴り落ちていた。

 背後から絶望の輩がやってくる。 自分の姿と瓜二つな癖して、凶悪な力を隠し持っていた敵だ。 敵はどういうわけかミョルニルを放ってこない。 トールハンマーだけで十分だと判断しているのだろう。 速度も向こうが上だ。 真実それだけでも容易に二人を制圧できる。 さらに間の悪いことに、カウントが零になった。 グリモアの魔力出力が通常レベルにまで低下する。 と同時に、彼女の身体をいくつものエラーが襲った。 過剰出力で戦闘を行っていた弊害だ。 

(こんなときに泣き言なんて!!)

 エラー警告を致命的なもの以外全て無視。 本来ならば”一旦冷却時間を取るべき”補助動力にもう一度無理やり火を入れる。 落ちた出力が先ほどのレベルまでなんとか持ち直し、最低限の魔力量を確保する。 マジックレールを形成。 だがまだ全速力は出さない。 いや、出せないと言った方が正しいだろう。 今の状態で限界ギリギリの高速機動を行えばクライドがどうなるか分かったものではない。 それをするとしたら、最低でもそうするだけのメリットが無ければ!!

 方法を考える。 少なくとも、このままでは駄目だった。 一旦クライドと融合を解除しなければ”どうにもならない”ことがある。 グリモアには分かってしまったのだ。 このままでは絶対にクライド・エイヤルは勝てないということに。 それが、普通の人間の限界だった。

――視界に新しい警告が奔る。

 機動砲精内部のエラーが止まない。 警告カウントが本来なら三分は持つはずなのに二分しかない。 徐々に下がっていく稼働率。 完全なオーバーホールもせずにずっと騙し騙し使ってきた身体が急激に内部から崩壊していく。 さすがにアルハザードの遺産といっても、設計限界を超え続ける無茶をし続ければそうなることは分かりきっていた。 特に人一倍不具合が出やすい試作機ならば当然のことだ。

 改良は勿論不具合が発覚されてから何度も受けてはいたものの、それは抜本的なものではなくて応急処置的なものばかり。 今思えば、あの頃から完成型の構想があったのだろう。 だが、それが今はネックになってグリモアの目の前に立ちふさがっている。 笑えない冗談だと思う。 もしかしたら、”自分”だったかもしれないモノに彼女たちは殺されかけているのだから。 しかも、それをしているのは自分の昔のマイスターで、彼女にとっては大切だった人なのだ。 これほど笑えない話は無い。

(……もう、これしかないか)

 低空に位置し、玉座の間へと戻る最後の数百メートルで最大加速。 クライドに負担がかかるだろうことを理解していながら、そうすることしかできない無力を嘆く。 別段、グリモアは天狗になっていたとうわけではない。 少なくとも、管理世界の常識レベルで行けば文句なしに彼女はクライドに破格の力を与えていたのだ。 それは事実だったはずだ。 今のこの状況が異常で、決して彼女が無力なわけではなかった。 だが、それでも思うのだ。 もっともっと強かったら、と。

――デバイスは普通は最新型こそ最強だよなぁ。 うーむ、こんなところにもランクの格差があるわけか。 デバイスと魔導師って結構現代社会では似てるところがあるなぁグリモア君。

(ええ、その通りですよ室長。 少なくとも、後継機がスペック上先行試作型に負ける道理は無いんです。 勝てるとしたら、それは例外の特機だけ……)

 常に常に機械は進化していく。 人間には代わりはいないから、彼らは成長という要素でもってオンリーワンたる能力を確保し生き抜いていく。 だが、機械には変わりがいくらでもいて限界が常に生まれたときから決まっている。 スペック以上の結果を出そうと思えばパーツを取りかえ、改良改造しなければならない。 つまりは、そのたびに生まれ変わっていくようなものだ。 限界を克服したのではなく新しい限界を持ったものに変わるだけでしかない。 在る意味人間の競争社会よりもシビアと言える。 初めから持っているものだけで明確に決まっているから。

 だが、だからこそ成りたいと思うのだ。 例外が許される”特機”という奴に。 スペックでは勝てそうにない。 だからどうしたというのか? 限界突破者という人間の中の例外がいるならば、機械の中でも限界突破者が生まれてはならない理由は無い。 例外はいつだって可能性として世界には転がっている。 例えただの一度きりの奇跡だろうと構わない。 プログラムで人工的に作られた擬似的な存在の癖に、造物主と同じ種族の人間に恋をして、結婚しようなんて馬鹿な夢を見るような例外中の例外である自分が、どうして”それ以上の例外”になれないなんて道理がある? このままで勝てないのだとしたら、特機になって勝てば良い。 ただ、それだけのことではないか? 

 探せ、探せ、探せ。 自身の中に無いのだとしたら、それを見つけろ。 方法は無数にはるはずだ。 無限にはなくても、その数少ない何かがあるはずだ。 でなければ、現実として特機などと呼ばれる存在は存在できない。 限界突破者なんていう理不尽な規格外なんてモノも幻想に成り下がるだけ。 誰もが焦がれるだけで終わる、理想的な夢になる。 けれど、そうではないとグリモアは知っていた。

 アルハザード生まれのグリモアは知っている。 限界突破者は現実に存在し、そしてそれと同じように特機もまた存在しているということを。

 思考を圧迫してくるエラーと戦いながら、周囲を確認。 何でも良い。 好きな人を助けられるぐらいの何かを!!

 と、そのときグリモアは偶然にもそれを目に留めた。 それは、刀だった。 凄まじい強度を持ったクライドの武器。 そして、クライドが気絶しても握り締めて離さなかった奇跡の武器だ。

(……そうだ、まだ武器はある!!) 

 グリモアはそう考えつくや否や、目の前に迫った玉座の間の入り口を越えた瞬間に左に逸れて、身体を追跡者の視界から一瞬隠すように移動する。 そうして、限界一杯まで減速し、床を転がるようにしながら力ずくで減速する。 クライドには申し訳ないが、メギンギョルズがあるからこれぐらいなら大丈夫だろう。 ほとんど転がるのが止まった頃に、融合を解除するとクライドの右手から刀を回収。 処理能力のリソースを使い、ミラージュハイドをクライドに唱え、姿を隠すと同時に飛翔する。

 急加速したことで少しばかり距離を離すことができていたので、なんとか相手に視認される前に離脱できていることを願う。 レーダーで一瞬二つの反応を感知することは避けられないだろうが、おそらくはクライドよりもグリモア自身の方がアルシェの感心は高いだろう。 昔の自分とアルシェの絆にグリモアは賭けた。 

(――よし!!)

 アルシェの狙いはグリモアだった。 これなら、なんとかクライドを守れるかもしれない。 次の部屋へと向かいながら刀を力強く握り締める。 まだクライドの熱が残っているような気がする。 その温もりがグリモアに力を与えた。

――カウント15

 次の部屋へと突入。 身体を反転。 180度急速に変わる視界。 だが、グリモアはクライドと違ってGによる気持ち悪さなどとは無縁だ。 そのまま慣性の法則に身を任せるようにしつつも最低限の浮力だけを維持して刀を電磁フィールド<メギンギョルズ>で包み込む。

――カウント10

 慣性だけで後方に飛んでいる今速度は加速度的にこちらは落ちている。 相対的に向こうの速度が上がって急激に距離を詰めてきている。 だが、まだだめだ。 マジックレールを前方に展開した状態のままでそれに全魔力を注ぎ込む。 狙いは丹田よりもやや上の部位。 自身のメイン動力炉が存在する場所だ。 後継機なのだとしたら、基本的な部位は変わるまい。 それに、人間の言うところの背骨が通る位置は同じように上半身を支える重要部位になっている。 ここを破壊することができれば、あるいは上半身を振るう動作、つまりはあの凶悪な武器を封じることができる可能性があった。

――カウント1

 アルシェが狙いに気づいたのか、トールハンマーで身体を隠すようにしながらマジックレールを展開。 同じ魔力電磁砲身を利用するモノ同士のセンサーが射線上に互いを捉える。 だが、グリモアはそのまま自分の勘を信じた。 負けることなど考えない。

(――引き金があった。 つまりは、それはあの極大プラズマを撃つ機能があるということ。 機動砲精の名を冠するのであれば、撃てないと考えるほうが可笑しい。 確かに、ボクのプラズマでは貴女のそれは絶対に破れない。 でも貴女は自分で”言ったはず”ですよアルシェ――)

――カウント0

 左足のリミッターを解除。 それと同時に、限界まで砲身に蓄えさせた魔力を注ぎ込んでグリモアが起死回生の一発を放つ。 発射するのはプラズマではない。 先ほどメギンギョルズで包み込んだクライドの対魔法刀だ。 今までとは比べ物にならないほどの加速力でもって必殺の弾丸が飛翔する。 それとほぼ同じくして、最強のプラズマがアルシェから発射された。 デバイストールハンマーから放たれた極大のミョルニルだ。

――カウント0…

 発射直後、その結果を確認するよりも先にグリモアは己の左足が破壊されるのも辞さない勢いで左足を跳ね上げた。 瞬間、虚空に発生した紫銀のシールドを粉砕しながら左足がメキメキと嫌な音を立てて吹き飛ぶ。 反動でグリモアの身体が頭から斜め下に急速で落下する。

 このとき、通常の人間には到底不可能な勢いでグリモアの身体は動いていた。 そもそも動体視力や反応速度が人間よりも彼女たちの方が圧倒的に速い。 だからアルシェは初めの方では見て考えてから避けるなどということができたのだ。 それは一重にアルハザードの法外な技術力を持ってして生まれた産物である。 単純に人間と機械の差であり、致命的な差だった。

 トールハンマーで殴られたとき、クライドがほとんど反応できないような速度で物体を振るったということは、それができるパワーもまた兼ね備えているということでもある。 単純に身体能力強化以前の問題だ。 機械の力に人間が勝てるわけがない。 さらに、魔法の威力でも負けていたのだからクライドでは絶対に勝てないだろう。 身体が反応できるギリギリの速度であの武器を振り回されたら近づくことさえできない。 しかも、遠距離攻撃をするにも基本性能は向こうの方が上なのだ。

――カウント0……

 互いに放った必殺の魔弾が衝突し、互いの方向へと疾駆する。 その頃にはもう決着はついていた。 黄色のプラズマにグリモアの下半身が飲み込まれていく。 だが、ギリギリで動力部のある部位は守ることが出来た。 だが、その下にあった補助動力は駄目だ。 超高温のプラズマで全て持っていかれてしまった。 危険排除のためにメイン動力のバイパスを強制切断。 そのまま落下に身を任せる。

――……。

 一瞬の勝負の後、やや遅れて二体の機動砲精が床に墜落した。 一人はグリモア。 もう一人はアルシェだ。 アルシェの胸元には、ぽっかりと穴が空いていた。 天井を見ながら、アルシェはどうして自分が負けたのかを考えていた。

「――嘘……こんな結果……」

 呟きが聞こえた。 機能停止までまだ時間があるようだったが、それ以上に動力炉をやられたのは致命的だったらしい。 グリモアは腹から下が無い体でなんとか、首を動かしてアルシェを視界に捉えた。 凄まじく視界にノイズが走っている。 辛うじて見えているといったところか。 エラーの数も半端ではなく、機能停止寸前だったがそれでもまだ生きていた。

「貴女が……言ったことですよ。 あの刀の強度はイヴァルディかシンドリー並だって」

「……そうね。 あんなモノを通常のレールガンの手順で撃ち出されたんじゃ、止められるわけがない……か」

「しかも、自分の弾丸で視界を覆っていました。 放ったのがイルアンクライベルならばまだ別でしたが、加速力にほとんど全てをつぎ込ませましたから並みの防御魔法じゃあ止められませんよ。 ”スペック”だけで勝てるようにその身体を組んだんでしょうけど、貴女は戦闘を知らなすぎたみたいですね」

 レールガンは基本的に電磁力を利用して弾丸を撃ちだす兵器だ。 その弾丸の速度は使用されるエネルギー量に比例し、光の速度まで出せる。 撃ちだす弾丸は物体によっては空気との摩擦熱で数百メートル進んだ程度で溶けてしまうこともあるが、イヴァルディやシンドリーというアルハザード謹製の特殊な金属は通常の常識を遥かに越える強度を持っている。 撃たれたのが普通の質量を持った弾丸ならば結果はまた変わったかもしれないが、アルシェが撃ったのはプラズマだ。 アークやカグヤの使う刀の刀身と同じ材質でもあり、SSS程度の魔法攻撃の直撃を受けてもびくともしないレベルの超金属に”勝てるわけがない”。

「余分な思考をカットして、最適行動を最速で行う戦闘プログラムを組んでたんだけどそれが災いしたのね。 ふふ、成長したわねカノン」

「六層の警備兵器の迎撃パターン作成をジルにばかり任せていたツケです」

「かも……しれない……わね……」

「……」

 それっきり、アルシェが喋ることはなかった。 機能停止したのだろう。 ドクターと話していたときと比べれば随分とまともになったと思う。 或いは、それは相手がカノンだったからだろうか? 思考回路の狂いを越えて”何か”が作用していたのかもしれない。

 ノイズが奔る。 エラーが奔る。 状態チェック終了。 右腕が少々動く程度だ。 左手はもう動く気配がない。 足は、そもそもプラズマで消し飛んだ。 魔法は使えそうにない。 今は機能停止に抗うのに精一杯だ。 それ以上負荷をかけたら終わってしまう。 だが、当然グリモアは終わるわけにはいかなかった。 

「戻らないと……」

――戻る?

 一体どこに? アルハザードのジルのところか? それとも、アルシェの場所か? いいや、どちらでもない。 彼女の男が待っている場所へだ。 まだ気絶しているだろうか? 頭部への強打はかなり危険だ。 場合によっては早く戻って手当てをしないといけないかもしれない。 こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。

 右手でなんとか身体をうつ伏せにし、そのまま地面を這うように動き出そうとした。 遠い。 たった一部屋分向こうなのに、その距離が絶望的に遠い。 せめて左腕が動けば良いのだが、墜落時に変な方向へと曲がって動かない。 ノイズが視界を奪う。 エラーがさらに増す。 演算装置が悲鳴を上げる。 右腕が動かせなくなった。 二メートルも移動していない。

(室……)

 世界に暗黒の闇が広がっていった。











 人工の天才と天然の天才が衝突するその戦場にはもはや三人しかいなかった。 それぐらい、思考のリソースを聖王も剣聖を相手に向けていた。

 どうしようもないが、事実だった。

 カグヤは内心で歯噛みしていた。 最後の聖王の力を甘く見すぎていた。 二人掛りとはいえ、”限界突破者”である自分を相手にここまで対等に渡り合う駒がシュナイゼルにあるとは少しも思っていなかった。 本当は長引かせるつもりなどなかったが、こうも長引いてしまっている。

 聖王とレイヴァンを抑えているだけでも十分な援護ではあったが、それだけではカグヤ自身が納得できそうに無い。 素手の聖王が”生き残ることを優先して戦っている”からといって、長引きすぎだ。 数えてはいないが、もうかなりの間戦っている気がした。 攻めきれない。 調子が上がらない。

 剣と拳を交える。 相手の思考は届かない。 拳は剣聖にとって専門外だ。 聞こえる言葉などそこからは何一つありはしない。 酷く空しい。

「ははっ、さすがのお前もいい加減息が上がってきたか?」

「……さて、それはどうかしらね」

 見え透いた挑発さえ、今は煩わしい。 常人には視認さえできないほどの速度で戦闘は続いていた。 翻る剣閃に次ぐ剣閃。 疾風怒濤の剣舞が空間を埋め尽くす。 だが、それを前にしても聖王は耐え凌ぐ。 人間の反応速度を嘲笑う速度で反応し、紙一重で刀を避けると踏み込んでくる。 そうして、次のカグヤの切り替えしに弾き返され間合いの外にとび、また攻めるの繰り返し。 ずっとこのパターンが続く。

 それ以外が無意味だと分かっているのだろう。 距離を犯す権利を擬似的に得たといっても、それを自分の意思で成せないが故に、ただ愚直にそうするしかない。 そうして、ずっとタイミングを計っているのだ。 カグヤが攻めきれない問題は、高速の剣を見切ることを可能とした身体能力と反応速度。 グラムサイトを盗まれたことは別に大した問題ではないと思っていたが、これに”聖王の鎧”が組み合わさったせいで非常識な速度で反応する。 もはや、聖王は本当に人間の枠を超えたのではないだろうか。 

――人工の限界突破者。

 一瞬そんなことをカグヤは考えた。 だが、実際はそうではない。 ただそのように錯覚しているだけだ。 確かに、そういう言葉を冠せられるに相応しいものを持っているだろう。 結局それは元々の上限値を変更されているが故に感じるものである。 カグヤとは単純に元々の限界値が違っただけのこと。

 それは単純に言えば銃の口径が元々違うとかそんな程度の差だった。 44口径の弾と45口径の弾の威力の差ぐらいのものだ。 もっとも、それで45口径<聖王>と張り合える44口径<カグヤ>がありえないのだが。

「これは……」

「ふむ、そろそろこの茶番劇もフィナーレ目前といったところか?」

 時の庭園全体がまるで地震でも起きたかのように震動していた。 暗黒の宇宙よりも更に黒い深遠が、それによって少しずつ広がろうとしていく。 ただの震動ではないことはすぐに分かった。 次元空間そのものが震えるこの特異な現象の名は次元震動。 やがて、これが大規模なものになると次元断層という次元の裂け目を作り出す。 その先に待っているのは虚数空間だ。

 吸い込まれたが最後魔法の発動停止させる特殊な空間であり、魔法科学の産物ではでは決して越えられない深淵の闇。 ここに落ちれば、無限転生を繰り返すあの闇の書でさえ活動を停止するだろう。 それほどに魔法科学の天敵たる空間である。

「……次元震動? 意味が分からないわね」

「なに、別段妾たちが気にすることではあるまい。 所詮はシュナイゼルの謀り事よ」

「正気かしら? こんなところで次元断層を起こしたらそれこそ余波でミッドチルダが崩壊するわよ」

「”大昔”の実験データが生きているんだろうて。 指向性を持たせて震動の津波をミッド方面外へと逃がすとか言っておったぞ。 まあ、別に失敗して”ミッド”が沈んでもどうでも良いのだろうがな」

 人の命などどうでも良いということだろう。 アレはそういう屑のような男だった。 カグヤにはあの男が涼しげに嘲笑している様が容易に想像できてしまった。 紅眼に乗った憤怒が、かつて屈辱を刺激されより一層鋭いものに変化する。 身体から放たれる白い魔力が静かに猛る感情に触発されてさらに冷却を促進する。 周辺の熱量が更に凄まじい勢いで次々と失われていく。

「おぉ……魔力放出の余波だけでこれだけの空間を冷却するとは……」

 カグヤの周辺一体が目に見えて変化する。 聖王の鎧の向こう側の空間が少しずつ凍結していくような、そんな錯覚をカルディナは感じた。 その冷気はやがて刀に集束されていく。 冷却されたことで空気中の水蒸気が水の雫になり、氷のように冷たい刃の上をゆっくりと伝う。 カグヤが氷水の剣聖と呼ばれた所以だ。

 刀の鍔元からその水が滴るその上を、雪より白い指先がなぞる様にして先端に向かっていく。 その刃の切っ先の向こう側にいるのは勿論聖王だ。 敵の狙いはカグヤには分かる。 もとより、無限踏破を持たない人間が勝つ手段は限られる。 レイヴァンの補佐を得て拮抗を生み出す。 そこまでは良い。 だが、勝利するためには拮抗ではだめなのだ。

 無限踏破は距離を操作する”レアスキル”。 だが、カグヤが剣士である限り絶対に攻撃の瞬間だけは攻撃地点の距離が双方に至近距離で繋がった状態にしなければ攻撃ができない。 例外は同スキルを持つ人間同士の距離掌握力による距離変動作用が生じた場合だけだ。 常人が勝つ手段は一つ。 距離が至近距離になった瞬間にカグヤの攻撃を掻い潜ると同時にカウンターでダメージを与えるしかない。 かつてカグヤと戦った聖王は、それが唯一の勝利戦術であると考えた。

 通常それはほぼ不可能に近い。 だが聖王の鎧がそれを可能にする。 カグヤの弟子アークにはグラムサイトがあったから彼女の剣に触れられた。 では、この二つを得たカルディナはどうだろうか? それこそ、決死の一歩さえ越えられればカグヤを打倒することはカルディナにとっては不可能ではないだろう。 ただし、素手である彼女にとってそのたった一歩は容易ではない。 が、今だけはレイヴァンがいるせいでほぼ距離の問題は解決している。 単純に捨て身の覚悟があればいつでも勝負をしかけられるはずだったが、それを実行する気が湧いてこなかった。 今までは。

「……ふむ、このまま永遠と力尽きるまで泥仕合を続けても良いが、やはり何事もやってみないことには始まらんな。 どれ、そろそろ一勝負しないか剣聖。 一撃で良いから付き合ってくれぬか? この一回だけレイヴァンを使わん」

 虹色の魔力を拳に集束しながらカルディナは言う。 本人からしたらそちらの方がより楽しそうだから提案するのだろう。 自分の有利不利などをまったく勘定に入れていない。 いや、そもそも入れる必要が無いのか。 生と死の境界から絶望的に無縁の存在だ。 天秤を用意するまでもないのだろう。 そういう意味でいえば、死を超越する連中は誰も彼も何かしら狂っている。

「抜き打ちで私に挑みたいと? 正気の沙汰ではないわね」

「なに限界突破者と戦うのだ。 これは正常な狂い方だろうて。 それに第一、妾の正気を疑うならばお主自身の正気を証明してくれ。 その剣が本当に歪み一つ無い聖剣なのか、それとも歪みの限界を超えた魔剣なのか、それが妾にはまだ分からん」

「どちらでもない可能性もあるんじゃないかしら?」

「ほう?」

「聖剣も魔剣もただの剣も極論すれば皆等しく剣である事実は変わらない。 ならば、”初めから”答えは一つしか存在しないのではなくて?」

「はっ、ただの一振りだと言いたいわけか? 欲の無いことよ。 どんな剣にも誇るべき銘はあるはずだというのにな。 だが、感謝しようシリウス。 久方ぶりに楽しめた。 レイヴァン、私が死ぬまで何もするなよ」

「……」 

 剣の騎士は言われるがままに動きを止める。 答えはしない。 ただ、従うのみだ。 カグヤはため息をつきながら誘いに乗った。 突きの構えを解き、氷水を鞘に戻しながら半身になって居合いの構えを取る。

「誇るべき銘は太古の昔に消失し、常世に残るは亡霊の如き残滓のみ。 残滓が誇れるモノなど”何も無い”。 なら、それはまだ消えていないだけの泡沫。 幽玄の如き幻には皆等しく価値なんて残っていないわよ」

「何、それもまた一興。 残滓と本物の差など肉体を構成する要素の差に過ぎぬ。 細胞が魔力に変わったところで、自らを卑下する理由にはならん。 自らが自己に絶望しない限りは――」

 庭園上空で動きを止めた両者は、そのまましばし睨みあう。 次元震動の余波がビリビリと二人のフィールドを揺らす。 だが、その内側で守られている二人はそれを一顧だにせず、ただその一瞬が来るのを待った。 限界まで高められた集中力。 そのとき、どこからとも無く二人の中間地点を一話の鳥が通過した。 カルディナの友、シルフィだ。 友の激励にでも駆けつけたのか、声を発した。 その刹那の瞬間、聖王が先に動いた。

 奔る。 ただ、前へ向かって。 その瞬間、カグヤが全身を使って刀を抜刀。 鞘走りを利用して剣閃を更に加速させ氷水の刃を抜き放つ。 その斬撃の速度は正に目にも留まらぬほどの超スピードである。

 その白い軌跡がはっきりとカルディナには感じられた。 聖王の鎧とグラムサイト。 はっきりと眼前の距離が繋がったことを感知する刹那の瞬間のそのワンテンポ前で、まるで武の神がその身に宿ったかのようにカルディナは動いた。 全身全霊を賭けた一撃。 ただ、相手を倒すためだけに渾身の一歩を踏み出していく。

 世界から音が消え、互いの知覚が加速される。 刹那の刹那を越えて、白い剣閃が伸びる。 斬撃の角度は剣聖からすれば左上に奔る角度だった。 斜め上への斬撃。 聖王はそれが自分の身体を襲う前に右手が動かす。 その頃になってようやく知覚が追いついた。 勘と感覚が融合。 右手が力いっぱい絶望の刃の腹を裏拳の要領で叩く。 衝撃で剣聖の刀が上に跳ね上がった。 聖王はその瞬間を逃がさない。 距離はまだ零となっている。 右腕の動きに連動して動かしていた左腕が下から跳ね上がる寸前、更に最後の一歩をつめた。 同時に踏みしめた空が震脚で爆砕し、反動でより強大な力を左腕に与えた。 虹色の破滅が、剣聖を襲う。

 剣聖は弾かれた刀の勢いを利用し、剣を袈裟切りの構えで振り下ろそうとしている。 いや、それだけではなく、後方に軽く飛んでいる。

(ええい、ままよ――)

 届くか届かないか。 その紙一重の瞬間において迷いなどというものは不要だ。 届くと信じて聖王は左腕を跳ね上げる。 事実、そのまま何も無ければ届くはずだった。 だが、聖王はそれを知覚した瞬間に不覚にも顔を驚愕で彩ってしまう。

 それは、初めは剣の後に続く何の変哲も無い白い魔力だったはずだった。 しかし、その認識は誤りだ。 弾いたはずの居合いの剣閃の、その弾く前の場所に白の魔力が凝結しいきなり実体を形成したのだ。 攻撃力それ自体がそれにあるわけではない。 それの役割は真実足止め以外の何物でもない。 白い剣の残滓が聖王とぶつかり、身体がその壁に衝突したせいで勢いが止められ、届くかもしれなかったはずの一撃がギリギリ顎を掠める程度で終わってしまう。 その瞬間、無造作に放たれた袈裟切りが聖王の身体を襲った。 逃げられない。 技後硬直で止まった体を襲う高速の斬撃。 絶対零度の剣が切り口ごと聖王の身体を肩の上から奔りぬける。 それで、決着は呆気ないほど簡単についていた。

「――くく、カウンター殺しの魔法剣か。 楽しませてくれる……さすが、オリジナルが剣聖と呼んで気に入るほどの女だ」

「選択を間違えたわね”陛下”。 防御に徹してさえいればもうしばらく時間を稼げたでしょうに」

「ふふ。 勝負せずにいられるほど、妾の好奇心は小さくはないのでな。 だが、楽しめたよ」

「好奇心は聖王さえも殺す。 精々気をつけておくことね。 ”蒐集詩篇”の本体を見つけたら私がすぐに先代の所へ送ってあげるわ」

「くく、やってみれば良い。 当分アレは誰にも見つけられぬ」

「そうなの? それは残念ね。 ”アレイスター”は見つけたと言っていたわよ」

「な、に?」

「時が来れば、彼は動くのでしょうね。 そうなったら誰にも止められないわよ。 ”この封鎖世界”で彼の目から逃れられる存在は数えきれるほど少ししか存在しないらしいから」

「……」

 無言のまま、聖王は身体が魔力に還元されるのを待つ。 カグヤが冷却系だからか、魔力体である体の崩壊が凍結作用のせいか妙に遅いが特に気にせずに言葉の内容を吟味しているようだった。 虹色が消えていく。 そうして、最後には苦笑を浮かべたカルディナは軽くカグヤに向かって十字を切った。

「剣十字の祝福なんて、もうこの身には届かないというのに……」

 そう呟くと、剣を構える。 眼前に映りこむのは剣の騎士。 振るった氷水の刃が騎士の剣を弾き飛ばす。 懐かしい剣の感触がする。 永劫の忘れることのできない、唯一のそれに限りなく近いそれが、そこにはある。 しかし、それにはあるべきはずの何もかもが無かった。 哀しいほどに、何も無かった。

 剣を越えて伝わる言葉が無い。 気持ちが無い。 魂が無い。 そんなものには、何一つ価値が無い。

「二度もそんな貴方に会うとは思わなかったわ、レイヴァン」

「……」

 返事が帰って来ることなど、期待さえしていない。 だが、それでもカグヤは語りかけずにはいられなかった。 それは、普段決して彼女が見せない甘えだったのかもしれない。 磨耗した精神と魂が安息を求めている。 そうなのだとしたら、随分といじらしいものだ。 自嘲しながら、それでも抑えきれないものを吐き出していく。

「この数百年の間に弟子を二人取ったわ。 一人は何れ貴方とさえも戦えるかもしれなかった程の男。 もう一人は夜天と私たちの被害者。 こっちは剣の才能なんてまるでないから基礎だけ教えて放置してるけど、諦めだけは嫌に悪いのよ。 多分、今この瞬間も悪あがきでもしてるのかもしれないわ。 あの子はそういう子みたいだから」

 剣戟が鋭さを増していく。 空間を切断する勢いで振るわれる氷水が、レイヴァンを滅多斬りにしていくが、それでもカグヤはそれをやめない。 防衛プログラムとしてのレイヴァンには、恐ろしいほどの再生能力と防御力の高い複合障壁を持っている。 本来それを剥ぎ取るには凄まじいほどの攻撃力が必要となるのだが、カグヤはそれを力ずくで押し切っていく。

 レイヴァンは聖王たちのようなリビングデッドとは違う。 守護騎士に近く、それよりも強靭にカスタマイズをされた個体だ。 本来であれば、彼は昔の姿ではもう顕現できない。 蒐集によって得た情報で自らに取り込み、最終的には暴走するようにされているからだ。 そして、防衛プログラムが出現し暴走するのは蒐集が終わった後である。 幾多の魔導師のデータとその能力を手に入れ、周囲を侵食しながら暴走し狂うことしかできぬ破壊の者。 それが彼なのだ。 だが、クライドのせいで一ページも蒐集されていない今回だけはこの姿で顕現できる。 魔力出力も当時のレイヴァン個人のものしかないし、無限踏破もまだ消えていない。 身体は酷く頑強で恐ろしいほどの速度で復元されていくが、それだけだ。

「もしかしたら、もう死んだかもしれないわ。 ああ、ブラッドマーキングの反応も消えたみたいね。 ……殺すつもりはなかった。 といっても、あの子には言い訳にもならないでしょう。 だから、やることが終わったら彼に剣を預けようと思うの。 彼が私をどう使うかは知らないわ。 でも、その頃の私は多分抜け殻だと思うから、暇だけはたっぷりとあると思うのよ。 どうかしら? ”私らしい”決断だとは思わない?」

「……」

 レイヴァンは答えない。 何も言わない。 ただ、自分を滅ぼす者に抗い続けるだけだった。 カグヤはだが、それを無視する。 聞こえていようがいまいが、そもそも関係が無い。 彼女自身が言いたいから話しているだけで、もうほとんど独白に近い。 これは会話ではないのだ。

「それにしても、困るわ。 もう二度と会えないと思っていたから、楽しい話なんて用意していないのよ。 御免なさい、本当はもう少し話をしていたいのだけれど、厄介な物もその辺りに在るようだし……今回はこれぐらいにしておくわ」

「……」

 炎熱の剣が業火を宿しながら煌く。 傷つきながら、我武者羅に振るわれる剣。 痛みさえ知らぬとばかりにただ生前を模倣するだけの残滓の、それは儚い抵抗だった。 カグヤは当然、そんな程度で落ちるはずがない。 過去の最高など、最早超越している。 狂ったライバルなど脅威にさえならない。 

 左手を掲げ、瞬時に長剣を展開。 アームドデバイスがカートリッジを吐き出しながら、カグヤの魔力をブースト。 そのデバイスこそ、かつてオリジナルのレイヴァンが振るっていた剣であり、今はカグヤの手元に収まっている魔剣レイヴァンテイン<レイヴァンの杖>。 内部機構は相当に改造されているが、刀身と握りは生前のままだ。

 本来ならその魔剣から吹き上がるのは炎熱の炎だが、今は使い手がカグヤのせいで逆ベクトルの白い炎が燃えるのみ。 だが、使い手が超一流であればそんなものは些細な属性の相違でしかない。 真正面、レイヴァンの剣を弾いた氷水のその次に構えた防御の鞘ごとレイヴァンテインが容赦なく叩きつけられる。

「凍破一閃――」

 鞘ごとレイヴァンの身体を胸部からごっそりと断ち切り、振りぬく。 容赦など無い。 臓腑と鮮血が虚空に飛ぶ。 生々しい鮮血が血飛沫となって吹き上がるが、カグヤはそれを避けもせずに追撃に入った。 生半可な攻撃では再生するのだから、手を抜く理由が無い。 そして何より、こんな醜い姿を晒させ続けるのはカグヤには耐え切れない。 自分のためにも。 彼のためにも。

「もう一度、跡形も無く還してあげるわ。 青竜――」

 氷水には既に、竜が宿っている。 顎を開ける瞬間を待ちわびながら、もう一度彼の物のために咆哮するそのために。
 限界が雲の彼方へと吹き飛んだ。 火竜の吐息さえ飲み込んだかつての奥義。 それが時の庭園の上空で再びその姿を顕現する。

「―― 一閃!!」

 薙ぎ払われる氷水から解き放たれる白き閃光。 絶対零度の理を越える奥義が、レイヴァンの身体を飲み込んでいく。 その瞬間、確かにその奥義の射程内に入った空間内の全てが凍結し、砕け散った。 無論、レイヴァンの身体もまた耐え切れずに細胞一片残らずに消し飛んだ。 

 刀を振り切った状態のまま、カグヤは暫し虚空に佇む。 その紅眼の向こうには何も写ってはいない。 映すべきものが無かった。 故に、ため息を吐きながら長剣を仕舞うとそのまま次元震動を発生させている物体の封印に取り掛かかる。 数が少し多いが、一つでも多く減らせば次元世界への被害を少しでも減らすことができる。

 ブラッドマーキングには既にクライドの反応が無い。 ということは、死んだのだろう。 聖王とレイヴァンを倒すことを選んだために、クライド・エイヤルの命を見捨てた。 それが事実だった。 それ以外の事実などどこにも無い。 アレイスターが忠告していた筈なのに、それでもあの瞬間の自分はクライドのことを留意することを放棄した。 これは、ある意味自分への裏切りでもあった。 その事実が酷く歯痒い。 だが、クライド・エイヤルを助けることに執着していたとしてもきっと何かを見殺しにしたという結果は変わらなかっただろう。

 クライド・エイヤルを助けることは可能かもしれないが、敵が闇の書を破棄するかもしれなかった可能性はあったし、遠隔暴走させる可能性もある。 さらには戦場にクライドが居られても邪魔でしかなかっただろう。 ああして、彼女があそこで相手をしているほうが、在る意味ではベストに近い結果までいける可能性はあったのだ。 酷く酷く残酷な話だが、結論からいうとそれは失敗だったのだろう。 クライド・エイヤルの力ではその結果を出すことができなかったのだから。

(……運命か。 これほど嫌な言葉はないわね)

 その一言で何もかにもを諦められるわけがない。 納得ができるはずがない。 だが、現実はこんなはずではない未来ばかりを紡ぎだしていく。 負の連鎖は止まらない。 いつまで続くのだろうか。 この次元世界規模の狂想曲は。 未来永劫か? だとしたら絶対に阻止しなければならない。 シリウスとしてもカグヤとしても、もはや止まることはできない。 まだ力が足りないというのであれば、更に更に剣を研ぎ澄ませるだけ。 限界を超えて、越え続けて、求めるべき結果を手に入れるその日まで。

――カグヤはあの日からもうずっと、止まることなど許されていないのだから。













 慎重に慎重を重ね、螺旋階段を下りた。 証明のおかげで暗黒の闇に行く手を遮られることもなく、リンディは階段をゆっくりと下りていく。 トラップの可能性、奇襲の可能性、考慮することは数多い。 だが、グラムサイトの感覚は警戒する心とは裏腹に何も危険を感知させなかった。 デバイスのセンサーの情報もそうだ。 結局、障害らしい障害に会うこともなく、中腹まで降りた。 そこで止まったのは、行く先に悩んだからである。 下に行くと決めたが、戦闘を行っているらしい魔導師組が螺旋階段の中腹の道の奥に居るらしいのだ。 最深部までこのままいくか、悩む。 と、そのときなんとなく懐かしい魔力の波動を感じたような気がした。 その瞬間、リンディは弾かれるようにして道を選ぶ。 中腹の道を飛翔。 この選択以外にはありえない。 この感覚は知っている。 だとしたら、それはもしかしたらの可能性を内包しているように思えた。

 通路をしばらく進むと、玉座の間へと到着。 その向こう側の部屋から恐ろしいほどの魔力が吹き荒れ、光り輝く何かが一直線に頭上を奔った。 それは紫銀の光を宿した何かだった。 高速ですれ違い、天井にぶつかっていったそれのもたらした衝撃がソニックブームとなってリンディの身体を襲う。

「――く!?」

 なんとか姿勢制御し、注意深く周囲を睥睨。 グラムサイトが何かを感知している。 そこには倒れ伏した青年が一人いた。 パッとは見えなかったが、すぐにミラージュハイドが解けた。 その瞬間、リンディはその向こう側で戦闘をしているだろう何物かの存在など思考から追い出した。 その青年を彼女は知っている。 気絶したのか、意識を失った状態でそこにいる。 その側に駆け出し、声をかける。

「クライドさん!!」

 反応は返ってこない。 それどころか、近づいたときには血の気が引いた。 後頭部が血に塗れている。 胸が上下に揺れていることから、死んでいるというわけではないようだったが、それでも恐ろしい想像を誘発するのには容易かった。

 急いで呼吸と脈拍を確認。 呼吸、脈拍共にしっかりとある。 心臓は鼓動し、確かにまだ命の灯火を消さずにいる。 思わず、涙が出た。 クライドのアーカイバデバイスに感応し、バイタルを確認。 こちらも、まだしっかりと反応がある。 安堵のため息をつくまもなく、リンディはクライドを慎重に抱き起こす。 急いで医療施設へ運ばなければ。 そのことで頭の中が一杯になった。

 彼の発見以上の成果はもう無いだろう。 何故ここにいるのか? 何故、管理局と戦うようになってしまったのか、助ければそれを聞くこともできる。 このときばかりは、自分が魔導師で良かったと思った。 非力な自分でさえ、こうして運ぶことができるのだから。

 と、抱き上げた瞬間、クライドのツールボックスの金具がはずれ、床に落ちた。 リンディはしかし、それを拾い上げるようなことはせずにそのまま飛んだ。 一分一秒でも早くここを出たかったのだ。 そのまま、できるだけ負担にならないような飛び方で飛んだ。 だが、それもすぐに無理だと判断する。 庭園自体が激しく震動を開始したのだ。

 いや、それだけではない。 何か凄まじいエネルギーを放出する物体の反応をセンサーが捉えていた。 

「この揺れ……まさか、次元震動!?」

 もはや悠長に構えることはできない。 全速で飛びながら螺旋階段を飛び上がり、外へと出る。 外では、もはや戦闘が終わっていたようだ。 急いで通信を送り、レインボーへと転送してもらう。 もう一仕事する必要があった。

「リンディちゃん、よく無事で帰って来たわ。 って、そいつ!?」

「フレスタさん、急いで医療班を呼んでください。 私はブリッジへ急ぎます」

「分かったわ!! でも、どうするの。 もう艦で逃げるには震源地が近すぎるわよ」

「私が何とかします!!」

 クライドをフレスタに託すと、急いで艦橋へと向かう。 そのまま通信をレインに繋げたまま、もう一度艦のバックアップを要請。 サポートシステムの接続を急いでもらう。 飛び込むようにしてブリッジへ。 そのまま、バックアップを受けながら艦のメインシステムと繋がる。

「いけまして?」

「やるしかありません。 最悪、私が廃人になってでも被害を止めてみせます!!」

 折角クライドと会えたというのに、次元震動の余波で吹き飛ばされてはたまらない。 艦へのディストーションシールドの展開は研修でやったことはあるが、艦外の超大質量建造物に対してそれを行使したことはまだ無い。 だが、かつてハラオウンの一門の中にはそれを成し遂げた人物がいるという。 そして彼女の祖父からもそれが可能だという話は聞かされていた。 ならば、後は自分がそれをやれるかどうかにかかっていた。

「ディストーションシールド展開用魔力散布完了。 お願いします、ハラオウン執務官!!」

「シールド全開!!」 

 ブリッジの中心で、リンディの身体が翡翠に輝く。 メインシステムの演算装置と魔力炉につながりその爆発的なエネルギーを魔導師の身体一つで強引に制御。 漏れ出す魔力は既に通常の魔導師では内部から崩壊しても可笑しくは無いほどの出力だった。

「く……これは……キツイ……ですね」

 思った以上に次元震動の力が強すぎる。 身体中から暴走しそうになる魔力の波を押さえ、さらには次元震動を力ずくで押さえ込む。 時の庭園を覆うディストーションシールドの輝き。 だが、それをものともせずに破滅のエネルギーは荒れ狂う。 リンカーコアが悲鳴を上げる。 いや、それだけではない。 全身が空気を入れすぎた風船のようにパンクしてしまいそうだった。

「次元震動なおも震度を上げていきます!! このままでは三分も持ちません!!」

 悲鳴のように聞こえるオペレーターの声。 絶望が艦一杯へと広がっていく。 だが、それでもリンディは耐え続ける。 歯を食いしばって耐えるしか、もう手段が無いのだ。 思わず崩れ落ちそうになる。 その身体を、後ろからレインが支えた。 

「しっかりしなさいな。 大丈夫、貴方ならやれますわ」

「はい……つっ……」

 頷きつつ、なんとか堪えていく。 一分、二分とその状態が続く。 もう駄目かと誰しもがそのときに思った。 だが、レインとリンディだけは最後まで諦めなかった。 艦長として、レインは諦めてはならなかったし、リンディは諦める理由がどこにもなかったからだった。 自分たちのこともあるし、クライドのこともある。 だが、それ以上にこのまま次元震動を放置しておけば周辺世界への被害もまた凄まじいものになるだろうことは容易く理解できる。 なんとしても被害を抑えなければならなかった。

「……こ、これは!?」

 そのとき、オペレーターが驚愕の声を上げる。 どこか震えるその声には、明らかに歓喜の色が混じっていた。 ブリッジクルーが一斉にそのオペレーターに視線を向けた。

「艦長、次元震動を生み出しているであろうエネルギー体が数個、活動を停止しました!!」

「なんですって?」

「この魔力反応……恐らく、庭園上空で戦っていた黒髪の魔導師だと思われます。 す、すごい勢いでエネルギー体を止めていきます!!」

「そう、助かったということかしら? リンディさん、もう一分張りですわよ。 絶望はまだ我々には遠すぎますわ」

「はい!!」

 徐々に、少しずつ手応えが軽くなっていく。 何者かは知らないが、その人のおかげだ。 限界ギリギリまで堪え続け、ついにはほぼ完全に震動を押さえ込むところまで行く。 内部空間では恐らくは局所的に虚数空間が発生しているだろうが、次元震動が収まればそれも消えるだろう。 もっとも、時の庭園は発生した虚数空間に粗方飲み込まれることになるかもしれないが、人の命には代えられない。

「じ、次元震動消失しました!!」

 オペレーターの報告と同時に、湧き上がるブリッジ。 誰もが一時は諦めかけたというのに、結果としてはこれ以上ないほど被害を抑えることができた。 レインは活気ずくブリッジでその最大の功労者を支えながら安堵のため息をついた。

「お疲れ様。 貴方のおかげよ。 私ではあそこまではできませんでしたわ」

「あははは、中の人のおかげですよ。 きっと私だけだったら抑え切れませんでしたから」

「……そうね。 彼女にも話が聞けたら良いんだけど、無理でしょうね。 アレは多分、貴方にも止められませんわ」

 庭園上空での戦闘はモニターしていたが、最後の一撃を止められる人間がいないということをレインは既に理解していた。 恐らくは、艦のバックアップを受けたリンディ・ハラオウンのディストーションシールドでもなければ無理だろう。 リンディは今大絶賛疲弊中だ。 下手に接触したときに艦への被害を考えれば、どうすることもできない。 というか、次元震動の震源地に居て普通に活動できていた時点で人間技ではない。

「艦はこのままの位置で引き続き庭園の監視を継続。 問題が特に無ければ現地捜査のために陸士部隊を派遣しますわ。 状況把握急ぎでお願い。 よろしくて?」

「「「は!!」」」

 艦長の言葉にクルーたちが一斉に動き出す。 歓声をいつまでも上げているわけにもいかない。 場の空気を切り替えると、ヘロヘロになっているリンディに肩を貸す。

「副長、しばらくここをお願いしますわ。 彼女と一緒に医務室へと向かいます」

「了解」

「さあ、行きましょうか。 全ての謎は彼が握っているのでしょう?」

「はい」 

 疲弊した体を鞭打って、それでもリンディとレインは微笑を交わした。

コメント
毎日着てたら連続更新とは嬉しい。
 なんとか生き残ることができて良かったけど、これからどうなるやら
とりあえず一区切りついて何よりです。
【2009/07/11 01:03】 | anc #OARS9n6I | [edit]
結果的に夜天の書と自身の命はつないだけど悲しすぎるな、しかもまだまだ死神の鎌が見え隠れしてやがる。
【2009/07/11 01:13】 | Tomo #- | [edit]
怒涛の連続更新、お疲れ様です。

ほぼ毎日巡回しながら、この時を待っていました。

いやもう、最高でした。
【2009/07/11 02:11】 | R931 #LFp.HGL2 | [edit]












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