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憑依奮闘記 断章 EP

 2010-07-12

 その日も、クライドの研究室は深夜まで稼動中だった。 元々はジル・アブソリュートの研究室だったそこは、しかし既にクライドとグリモアの手によって彼らの研究室に生まれ変わっている。 元々あったジルの遺産の数々はほとんど全てが倉庫に押し込まれ半ば封印された。 グリモアが少しずつ暇を見て目録を作ったり中の物の精査をしているので、いくつかは触れるモノもあるだろう。 しかし、その大半が実験用の兵器や機材である。 質量兵器もあれば魔導兵器もある。 クライドはデバイスマニアだ。 物の中にあるデバイス関連の物品以外は、結局はほとんど食指が動かず放置していた。

「ここが……ああで、それで……向こうが感応制御連動系で……」 

 その日も、クライドの研究室は深夜まで稼動中だった。 元々はジル・アブソリュートの研究室だったそこは、しかし既にクライドとグリモアの手によって彼らの研究室に生まれ変わっている。 元々あったジルの遺産の数々はほとんど全てが倉庫に押し込まれ半ば封印された。 グリモアが少しずつ暇を見て目録を作ったり中の物の精査をしているので、いくつかは触れるモノもあるだろう。 しかし、その大半が実験用の兵器や機材である。 質量兵器もあれば魔導兵器もある。 クライドはデバイスマニアだ。 物の中にあるデバイス関連の物品以外は、結局はほとんど食指が動かず放置していた。

「ここが……ああで、それで……向こうが感応制御連動系で……」 

 アルハザードに来訪してから役一年と半年。 その間に一つクライドが立てた目標がある。 ”PC計画”と名づけられたその計画は、クライドが己に課した課題であり責務である。 どれだけの時間が掛かるかは考えていない。 ただ計画を完遂させるという決定だけで動き出した計画なのだ。 今は現段階での技術習得の状況を確認するために試作一号機の完成を目指していた。 とはいえ、完成は随分と先になるだろう。 そこには、作業用のアームに固定されるようにして、人型大の大きさの青い鎧が立っていた。 

「ふぅ……」

 クライドは空間モニターのデータを覗いていた目を閉じ、乾燥していた瞳を休憩させる。 瞼の上から掌で目をこすり、しばらくしてからすぐに工具を持って作業を再開する。 黙々と続けられる作業。 静かな研究室で、一人作業に没頭するクライドの頭の中には既に余計な情報は無い。 集中し、研ぎ澄ませた頭脳がただ無心にそのデバイスを完成させるための行動をクライドに課す。 スポーツ選手がその競技の瞬間にありとあらゆる声援や雑音を遮断するのにも似ていたかもしれない。 と、ようやく納得がいったのかクライドの作業が中断された。

「今日はここまでだな」

 時計を確認すれば、時刻は既に明日になっていた。 壁掛け時計が律儀にチクタクチクタクと時間を刻む。 欠伸をしながら、作品にシートを被せるとよろよろと出口に向かって歩いていく。 その途中で、脱ぎ去った白衣を適当にハンガーにかけると、クライドは研究室の明かりを落して外へ出た。

 時刻は深夜。 空の人工スクリーンは薄暗い。 アルハザードの第六層にある田舎区画のため、外灯もそれほど数多く設えているというわけでもない。 ただ、人工の星光だけが視界を照らす。 それだけで十分な明かるさだ。 もう通いなれた道を、クライドは危なげなく飛んでいく。

 クライドの研究室は、どちらかといえば小さな町工場に似ている。 研究室の規模でいえば、大掛かりな研究をしているわけでもない割には広い部類だ。 アルハザードの初心者であるクライドが持つにしては破格の規模であるが、それはジル・アブソリュートのためのものだったおかげだ。 そのせいか家から走っても十分程度でたどり着ける程度に離れた場所に建っている。 もしかしたらそれは、単純に田舎区画の人気が無いだけで土地が余っているせいかもしれなかったが、それでもクライドはそれなりに気に入っていた。

 やがて、眼下に見える家にたどり着くとゆっくりと降下していく。 恐らくは先に実家であるテインデルの家へと帰ったグリモアが、玄関の照明を点けておいてくれたのだろう。 玄関の照明が、降下したクライドを照らしながら迎えた。

「ただいまーっと」

 家の中から返事は無い。 助手のグリモアはアムステルの門限のせいで夜は定時で家に帰るし、最近はヴァルハラで店の開業のために忙しいらしい。 その後でクライドの家に行ったとしてもやはり、夜の門限を意識して長居はしない。 したらしたでアムステルがクライドに対して”殲滅行動”に出ることが分かっているからである。

 靴を脱いで家に入ると、クライドはすぐにキッチンへと向かう。 腹が空いていたので、夜食にするつもりなのだ。 冷蔵庫の中から特売で買っておいた冷凍食品のピザを一枚取り出してレンジに仕掛ける。 その間にリビングに向かい、押入れから毛布を取り出してソファーに置いてテレビをつけた。 丁度画面の向こう側では夜の通販番組がやっている。 なんとはなしにそれを見る。 すると、本日の目玉商品という触れ込みで『次元破壊爆弾』なるモノを売っていた。

「へぇぇ、さすがアルハネットダケタ。 結構安いな」

 クライドに今年支給される研究費とほぼ同額で、その品物は売っていた。 そもそも普通の次元世界人の感想でないだろう。 だが、約二年もアルハザードにいれば直ぐに慣れてしまうからアルハザードとは本当に恐ろしい世界である。

 生活用品から殲滅兵器に家電と、とにかく脈絡無く宣伝してくるその番組は品揃えがカオスだ。 しかも、アフターサービスも充実しており、エコポイント制度や値切りシステムまで完備しているし、頼めば一時間以内に品物が届く。 勿論、時間指定も可能だ。 アルハザードではポピュラーな通販番組であった。

「やっぱこの前の”全てを光にするハンマー”買っておけば良かったかな」

 グリモアに止められて買い損ねたそれに思いを馳せる。 扱いが難しいらしいが、そのハンマーを使えば食らったものは問答無用で光になるらしい。 ”だからどうした”と言われたらそれまでだが、クライドは逃がした魚が大きかったことを今になって実感する。 と、クライドが悔しがっているとレンジが鳴った。 すぐにピザを取り出し、テーブルの上に運ぶと口に運ぶ。 熱々のピザの温度に辟易しながらも、空腹ゆえにかぶり付く。 五分もしない間に平らげると、照明の光度を落し毛布を引っつかんでソファーに横になる。 そうして、ぼんやりと薄暗い室内でふと呟いた。

「――何か物足りないんだよなぁ」

 絵も知れぬ空虚感があったのだ。 それは、物足りなさにも似た感覚であり、どこかしっくり来ない今に対しての苛立ちも混ざっていた呟きだった。 彼には何か目立った不満があるというわけではない。 それこそ、今のクライドは何だって手に入れているのだ。 飢えるとか物足りないとか、そういう感情とは無縁のはずだった。 本人もそれが分かっているから、尚更余計に苛立つ。 奇妙なジレンマであった。 満たされているからそれ以上の満足を欲して無意識に欲張ろうとしているのか、それとも本当に何かが足りないのか。

 己に自問自答するのは、こうして自分の時間に成るときだけである。 一人で居る時の、それも仕事などから離れたときにこそ顕著なそれは、持ちえない者だからこそ余計に欲しくなるという、奇妙な衝動にも似た何かなのか。

 黒の瞳が閉じられる。 その暗黒の視界の中で、ふと脳裏に現れる影があった。 ちらつく影は形を描く。 それが、実像を結ぼうとする瞬間にクライドは再び目を開けた。

「ちっ――」

 苛立ちが加速する。 舌打ちと共に吐き出された不快感が、更に更にその先を想起させた。 有体に言えば、それは”未練”という奴だったのかもしれない。 だとしたら、クライドにはどうすることもできない問題だ。 故に、できることといえばただ無為に時間を享受して忘れることぐらいであった。

 自分で解決できないのだとしたら、それはもう時間を使って忘却するしか打つ手が無い。 それ以外の手を使うとしたら、もっと強烈な何かで断ち切る以外に方法は無いのだ。 だが、その方法は彼には戸惑われた。 失礼な話を通り越して人間的にも最低だと言う自覚があったからである。 その問題こそ、自身で決着をつけなければならないことに他ならないからだ。 誰かの力を借りることなどできないし、流されるようにしてぬか喜びさせるのはもっと嫌だった。

「ちっ――」

 舌打ちをもう一度。 そうして、強制的に自身を眠らせる策をとる。 非殺傷魔法でノックダウンさせれば無問題。 自身に電撃魔法を行使すると、クライドは久しぶりに乱暴な眠りについた。

 まだ、翡翠の面影がちらつく彼だけの問題。 それを聴衆が嘲笑うことは簡単で、怒ることも容易ではある。 しかし、他人から見ればウザイだけのその優柔不断さは、当事者にとっては迷宮にも等しい無限地獄だ。 選択肢は無限大。 選択を容易く選べないことはなく、選んではいけないという理由もない。 どこまでいっても自分の心の問題で、それ以上でもそれ以下でもない。 しかしだからこそ、”どこまでも拘りたい”。 そういう身勝手さを捨てきれないのはきっと、それがどうでも良い問題ではないからなのだ。

 どうでも良いならそれこそどうだって良い。 悪い結果さえ導く答えでないのなら。 けれど、どうでも良くない問題だからこそ悩むのであり、決着が付けにくい。 終わったと理解してはいても、それは二人の関係がというだけの話。 一人一人の心の中で決着が付いたのかといえば話は違う。 これはそういう問題なのだ。 明確な事実の問題ではなくて酷く個人的なものなのである。 故に、そこには妥協などありはしない。 せめて未来に悔いが残らないような決着を彼は望む。 そんな上等で都合の良いだけの答えなど、簡単に手に入ることは無いだろうと知りながら。

――思考迷宮の出口は、まだ遠い。














憑依奮闘記
断章 EP
「そして、最後の幕が開く」














 ミッドガルズはフリーランスの魔導師のための斡旋会社でもある。 ならば、その近くにデバイスを扱う店を建てれば儲かるのではないかと考えるのはそんなに可笑しいことではない。 その発想は間違いではない。

 需要等供給。 需要があるからこそ供給に意味が出る。 そういう話だ。 しかし、では何故ミッドガルズはサービス展開していないのかという疑問は残るだろう。 その答えを吸血鬼の社長に聞いたグリモアは、簡単な商売などないのだと己の見通しの甘さを痛感していた。 だが、だからといってそんなに簡単に諦めるほど彼女は物分りは良くは無い。 

「ふふ、初めは多分苦労するわよカノンちゃん」

「構いません。 大きな店にするのは顧客が付いてからです。 そのための勉強もしてきました。 後は”デバイス”で固定客を作ってみせますよ」

「そう。 なら工事始めておくわね」

「お願いします」

 ペコリと頭を下げるグリモア。 紫銀のツインテールが、お辞儀のせいで揺れ動く。 ストラウスがそれを見て満足そうな笑みを浮かべると、仕事着を差し出す。 きちんとサイズを合わせた一品物である。

「衣装は日替わりでいくのよね。 本当にいいのかしら? 私としては着せ替え人形が楽しいからいいんだけど……」

「制服なんて飾りです。 ボクは特に気にはしません。 最近では”コスプレ”なる要素で着飾ってお客を楽しませるという商業戦略もあるようですし、この程度の小細工で少しでも出入りが増えるのであれば実践するべきでしょう」

「あらあら、手堅いのね」

「一人でも多くの顧客をゲットします。 軌道に乗るまでは考えられるだけの手を打とうかと思います。 助言がいつでもあればお願いします」

「そうね、私としてもデバイス関連は初めてだからなんともいえないけど……敢えて言うなら絶対に不良品と整備ミスを出さないことの徹底かな。 誰かの獲物を預かるということは、それを使う使用者の命に関わることだから」

「はい」

 頷きながら、用意された服を着る。 どうやらメイド服のようだった。 ツインテールメイド。 どこかのコアな連中が好きそうな井出達だ。 可愛いとか可愛くないとかは、この際グリモアは自分では判断しない。 ストラウスが良いというもので勝負することに決めていたからである。 少しでも何かの足しになれば良いというその程度のものだ。

 グリモアは最近、平日の昼間はヴァルハラのデバイス屋の開店準備で忙しい。 クライドの世話をしながら、コツコツと野心を形にするべく暗闘してきた。 本当は、店をやりたいと言っていたのはクライドだ。 その夢に乗っかってやろうと考えたのはグリモアであるが、それを現実にしてやろうと行動するところもまた彼女らしい。

 欲を言えば店長をクライドにしたかったが、クライドはそのための勉強などまったくしていないのだ。 帳簿のつけ方やら営業に必要な知識も無い。 そんな男を店長にするわけにもいかず、ならばとグリモアは必要な知識を自分で学んだ。 そして、開店資金はジルの遺産から捻出した。 デバイスや関連道具以外に対して興味をあまり示さないクライドが簡単に許可を出したことも大きい。

 後は建物の完成と、バイトの問題だけだ。 だが、それも募集している。 なんとかなるだろう。 クライドも週二ぐらいで開店後はバイトとして動くことになっている。 次元世界のデバイスの流行や魔導師の意見を知るためであり、研究室に篭るだけが研究ではないと言って頼まなくてもアルバイト要員を進んで申し出てきた。 経営に関してはまったく駄目だが、裏方の戦力としては十分に期待できる。 一応アレでも元管理局のデバイスマイスターなのだから当然だ。 

「うん、奉仕の心が服装からにじみ出てるわよ」

「はぁ……それは似合っているということでしょうか」

 元々が彼女はデバイスだ。 例え妹型喧嘩上等仕様であろうとも、ある意味では持ち主のために尽くすという側面は持っている。 そのせいで似合わぬ道理はないのかもしれない。 ただし、油断すると反逆されることだけは注意しなければならないという事実は忘れてはならない。

「ええ。 それならクライド君も一殺<いちころ>じゃないかしら」

「どうでしょうか。 最近気づいたんですが、どうも装備する布切れは余り効果はないような気がするんですよ」

「そう?」

「変わったことすると逆に警戒されているような気がします。 一時期大規模攻勢に出てましたからね。 まぁ、ここまで追い込むと後は時間の問題でしょう。 後二百年ぐらいはこのまま大人しくして、悶々とさせてみますよ」

「なるほど。 押しまくって駄目だったから引いてみるのね。 臨機応変かつ高度な駆け引きだわ。 少し、時間が長すぎるような気もするのだけれど」

「そうですか? 極端なことをしたほう逆に効くこともあるという話を耳にしたので、実践しようかと思ったんですよ。 時間は有り余ってますから」

「ちなみにそれ、どこから出た話?」

「”人間タクシー”が言ってました」

「ああ、カグヤちゃんね」

 言い得て妙である。 無限踏破を有する剣聖も、グリモアからすればただの便利なタクシーらしい。 確かに、アルハザードとヴァルハラの行き来によくクライドとグリモアが利用しているからそのあだ名も納得はいく。 彼女は移動距離を破壊的なまでに短縮できる。 運送業でもやればその速度ではプロでさえ彼女には太刀打ちできまい。

「そのうち私もそう呼ばれる日がくるのかしら」

「貴女のは……余り多用したくはないですね。 移動は一瞬でも確実にセンサーが異常数値をたたき出して気持ち悪いですから」

「安全運転してるつもりなんだけどなぁ」

 困った風に笑いながら、しかしめげずにストラウスは次の装備を差し出す。 また別の服である。 用意が良いことこの上ない。

「……あの、何着用意したんですか?」

「”沢山”よ」

 笑顔でスルーされた。 そもそも、質問には答えられていない。 制服代がタダになるのでありがたいが、果たしてグリモアが消息を絶っていた間にどれだけの数がストックされているのか。 さすがの機人も慄かずにはいられなかった。

「こんなこともあろうかと、カノンちゃんの分を昔からずっと縫い溜めしておいてよかったわ」

「仕事が忙しくてそんな暇はなかったのでは?」

 CMでも七十二時間働けますか? などと語りかけてくるふざけたコマーシャルに出演していることを知っていた。 冗談でそんな台詞を要求されるぐらいに忙しいと良く言われているのだ。 そんな風にして労働基準法に真っ向から喧嘩を売っているはずなので、服を縫う暇など無いとグリモアは思うのだ。

「え? 忙しいなら忙しいなりに”時間の流れ”を捻じ曲げて縫っちゃえば良いじゃない」

「はぁ……」

 そんな簡単に言われても、グリモアにはイマイチ理解できない。 だが、そんな彼女を無視してストラウスは言うのだった。 

「例えば、一分を一時間にしたり一秒を一時間っていう風に引き伸ばせばいいだけよ。 ね? ほら割と簡単でしょ」

「やり方が上級者過ぎます」

 何の上級者かは、さすがにグリモアも言わない。 というか、言えない。 そして同時に詳しく尋ねるべきではなかったとも思った。 こうなると、ロストロギア級デバイスを本体に持つ彼女でさえ、自分の貧弱なスルー力を恥じることしかできない。

「それじゃあ、初心者用のから始めてみる? まずはそうね……一分を二分にするところからやってみましょう」

「いえ、レッスンする時間が惜しいですから遠慮しておきますよ」

「そう? カノンちゃんなら新世界が覗けると思うんだけど」

 だが、同時に新世界とやらに行ったまま帰ってこれないだろう。 グリモアは今度こそしっかりとスルーすると、新しい制服<シスター服>に着替えて姿見の前で営業スマイルをやってみた。 そこには、何故か無愛想極まりない無表情の自分がいた。 由々しき事態である。 仮に、彼女がシスターさんだったとしたら、司祭の人にもっと『慈悲と慈愛の精神を』と説かれるぐらいに無表情である。

「そんな……室長への愛によって手に入れたはずのボクの笑顔力が、こんなにも落ちています!?」

「うーん、硬い。 硬すぎるわよカノンちゃん。 これはピンチよ。 笑顔の無いカウンター席なんてそんなもの誰も利用したが……あら? これはこれで店の個性にはなる……かしら」

 無愛想な店長の店よりも、明るい笑顔を振りまく店長の居る店の方が客も足を運びやすいと思われる。 が、そこはそれだ。 大抵はどこの店でもまずやっていることであるし、それは飲食店などの場合が多い傾向だろう。 しかしデバイスマイスターはある意味では職人にも近い属性を持っている。 笑顔を振りまく暇があったら、頑固にこだわりのあるデバイスを黙ってストイックに提供するべきなのかもしれない。 さすがのストラウスもこの究極の二択には唸らずにはいられなかった。

 勿論、万人に受け入れやすいのは明るい笑顔のある店だ。 だが、後者は腕だけで店を選ぶディープな固定客を生みやすい。 そうなると、最終的な問題はどういう客を集めどういうニーズに答えていくのかという店長の経営方針によって決まるだろう。

「むむっ、笑顔が……ボクの笑顔が……」

 必死にスマイルを作ろうと苦戦するグリモア。 だが、作り笑いは無表情。 いや、若干引きつっているように見えなくもない。 駄目駄目だった。

 ストラウスが営業スマイルの伝道師なら、グリモアは無表情の伝道師である。 遂先ほどまで、昔と比べて随分と感情豊かになったはずであったのだ。 コレにはさすがにグリモアも凹んだ。

「あっ、カノンちゃん。 クライド君が来たわよ」

「室長が? そんな予定は……って、いないじゃないですか」

 その時、パッとグリモアの無表情に変化が出た。 古典的ではあったが、確かにその顔に表情らしきものが浮かんでいる。

「御免ね。 嘘は好きじゃないんだけど、嘘を吐けないのは悪いことだから吐いちゃったわ」

「……その意図は?」

「カノンちゃん、貴女仕事だと思うと硬くなるタイプ?」

「そのつもりは無かったんですが、貴女にそう見えるというならそうなのでしょうか」
 
「うーん、そういえば割と真面目な娘だったものね。 クライド君篭絡専用なら私にも表情を出してくれないはずだし、やっぱり真面目だからできないのかもしれないわね。 となると、住み分けをしてみなさい」

「住み分け……ですか」

「笑顔を捨てるという経営戦略も在りと言えば在りなんだけど、どうせならカノンちゃんはそれで行って、バイトの子には普通に笑顔で居てもらえば良いと思うの。 貴女の笑顔はクライド君専用に取っておいて、貴女は硬派な店長を目指して見なさい。 その際、お客さんに”一笑み”も見せずに常に無表情でいきましょう。 カノンちゃんはお客様に媚びないキャラで売ればいいわ」

「なるほど、短所を逆に武器にしろということですね」

「そういうこと。 一緒にお店に注意書きも出しておきましょう。 そうね……『店長のスマイル価格、ミッドガルズの収益金一千倍也』。 うん、これで行きましょう」

「そこまで行くとどこかの世界予算規模じゃないですか。 これだと実質ボクの笑顔は誰にも買えませんね」

「買おうと思ってもその頃にはもっと私が会社の収益を上げておいて上げるから、購買は実質不可能。 そして、仕事中には貴女は笑顔を振りまけないから笑顔を押し売ることもない。 完璧だわ。 笑顔が無くても許される接客モデルがここに完成したのよ」

「おおー」

 ある意味言語道断な接客スタイルであるが、笑顔担当と無表情担当の住み分けはグリモアには大変に魅力的に見えた。 世の中にはスマイルがゼロ円という安価な価格で売られる世界もある。 ならば、逆にスマイルが高価な世界が存在しても許されるのかもしれない。 特に、笑顔がクライド専用という件がグリモアにとってはツボであった。 この画期的な形態を取り入れない理由が彼女には無い。 こうして、硬派な女性店長(?)が二ヵ月後に誕生することになった。

「あ、そうだわ。 カノンちゃんちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれないかしら」

「なんですか? お世話になってますし、できることなら協力はしますが」

「えっとね、多分開店前ギリギリ四日前ぐらいになると思うんだけど虚数空間で調査をしてきてくれないかしら」 

「……虚数空間ですか? またどうしてそんな場所へ」

「ほら、ジルがいなくなっちゃったから六層の仕事を私が受け持ったじゃない。 その一環でね、アルハザードのセンサーが感知したとあるエネルギー反応を調べてきて欲しいのよ。 航行艦と探索機材の準備は私がしておくから、行って来てくれない?」

「しかし、タイミングがかなりアレな感じですね」

 さすがに開店準備が忙しいだろうことは想像に難くなかった。 彼女としても当然渋らざるをえない。 それに、彼女自身は研究者ではない。 その道の専門家に頼むべきであると進言する。 だが、それでもストラウスはグリモアに頼んだ。

「ほら、開店前の息抜きにクライド君と小旅行して英気を養ってきたらどう? その間店の準備は私が面倒を見ておいてあげるから。 ね、お願いよカノンちゃん」

「……はぁ。 ストラウスがそこまで言うなら引き受けましょう」

「本当? ありがとうねカノンちゃん」

「貴女には借りが沢山ありますからね。 できるところから返済しておくことにしますよ。 最近は室長も用が無ければ研究室に篭りがちですし、艦内で二人きりという素敵イベントも悪くはないです」

「うん、そうと決まれば船内も快適に過ごせるように色々と用意しておいて上げるから期待しておいて頂戴ね」

「はい。 それと、できるだけ早く詳細は教えてください。 それに合わせて室長も誘っておきますので」

「うんうん。 クライド君好みの部屋も用意しておくわね」

 二コリと笑うストラウスは、白衣に着替えたカノンの後ろから肩に手をやり、覗き込むように鏡を見た。 鏡の中には、三着目のナース服に着替えたグリモアがやっぱり無表情で立って居た。 その無様な様に愕然としながら、ふとグリモアは思った。

(白衣は研究者のユニフォームではありますが、これでは”白衣違い”の気がします……まぁ、これが世間が求めるものだというのであれば文句は言うつもりはないのですが)

 首を傾げながら、グリモアはしかし四着目に挑みかかった。 集客率を上げるための小細工とはいえ、違う意味でディープな世界に首を突っ込んだものである。 何の店か分からなくなってしまうという考えは、このとき彼女の頭の中には当然なかった。 










「王よ、気に入ってくれたかな?」

「ああ。 外観が少し違うは、この偉容だ。 懐かしき我が”揺り篭”を思い出すぞ。 気に入らぬはずが無かろう。 のう、シュナイゼル」

 白ジャージのジャケットに手を突っ込んだまま、金髪を揺らして背後を振り返ったカルディナが答えた。 シュナイゼルはそのご機嫌な彼女の様子に満足げな微笑を浮かべ、彼女の隣へと歩み寄ってその巨体を見上げる。

 二人の眼前にあるのは、まるで弓矢の鏃のような三角錐に似た形状の次元航行艦だ。 今ある管理局の航行艦よりも更に巨大な鉄の船。 かつて、古代ベルカで王と共に空を駆けたその船のオリジナルは、当時でさえロストロギア級の能力を誇っていた。

 アルハザードから奪取したそのオリジナルこそベルカの地で沈んだが、その時に取得したデータから秘密裏に建造された二隻の内の一隻が今二人の目の前にある三番艦である。 二番艦はミッドの山中で建造されたまま秘匿されており、いつか来る出番のためにただ静か眠りについている。 三番艦も本来は眠りに着いたままだったはずだが、カルディナの手を借りた礼として気前良くシュナイゼルは彼女に譲渡した。

「食料や生活物資を詰め込めるだけ詰め込んでおいた。 修理防衛用の魔導機械<ガジェット>もある。 恐らくは数年は余裕で航行できるだろう。 このまますぐに出発かな」

「そうだ。 次元世界中の未知が妾を待っておるでな」

「そうか、寂しくなるな」

 未知の探求こそカルディナの空虚を埋める唯一だ。 その道を止めるつもりはシュナイゼルには毛頭無い。 ただ、感慨深げに頷くだけだった。 その様が、余りにもしおらしいのでカルディナは首を傾げた。 二人の間にあるのは利己的な利用関係である。 希薄な友情のようなものがないでもなかったが、”やけ”にいつもと感触が違っていた。

「寂しいと? 貴公がそんなことを妾に言うとはのう。 明日は槍か剣でも降るかもしれぬな」

「そんな程度の物体が降る程度で済めばまだ良いがね。 最悪、管理世界には限界突破者が降ることになる」

「アルカンシェル・テインデルのロスト。 そして自治世界連合の暗躍か? ははっ、お前もドジを踏んだものよな。 タイムアップか? ええ、シュナイゼル」

「さすが、耳がお早い」

「世辞はいらんよ。 どうせ又聞きじゃからな。 妾が満足して帰ってくるまで……保つか?」

「さて、どうでしょうか。 ただ、もし貴女様が帰ってきてなお管理社会が健在であったならば、私の勝ちだったということでしょう。 局面はもう、そこまで動いていると見たほうが良い」

「はっはっは。 そうか、貴公はまだ飽きずに”魔導王の夢”を追うか!!」

 カルディナは盛大に笑い声を上げた。 彼女からすれば、その夢はもはや泡沫のようなものにしか見えないからである。

――絵に描いた餅を手に入れられる道理はない。 

 夢とは所詮見るものである。 夢に見るからこそ夢なのだ。 叶えようとする夢とは所轄目標であり願望だ。 目標に成り下がった夢は、確かに手が届く範囲に転がり落ちては来るが、目に見えぬ現実の壁が邪魔をしてくる。 その壁を破壊する術があれば問題はないが、それがシュナイゼルにはない。 遠ざかるその願望を、強引にアルカンシェルでせき止めるだけで精一杯だったはずだから。 そして何より、結局リミットブレイカーの一人も確保できていない。 その状態であの理不尽たちと戦えるわけがない。 勝敗は既に、始める前から決しているといっても過言ではなかった。

「はは」

 だが、シュナイゼルはカルディナの嘲笑するような笑いをやはり、いつもの微笑で受け止めて流した。 業とらしいその微笑には少しも懲りた様子はない。 大したものだと、彼女をしてなおその頑迷さだけは認めざるをを得なかった。

「勝負は終わってみなければ分かりませんよ」

「随分と強気よな。 なるほど……確かに、”お前”はそうなのかもしれぬな」

「おや? さすがに気づかれましたか」

「ああ。 あの時、お前は妾に言ったな。 私に”世界全てを騙せ”と」

「ええ」

「で、あればだ。 お前自身もまた何がしかの形で”世界全てを騙している”のだろう? 当然、妾に嘘は言わずとも嘘を吐いたまま騙しきって、な。 ならば結局、その”黄金のマスク”、妾の前で脱がなかったわけか。 小癪な奴だよ貴公は」

「さて、なんのことやら」

「惚けるか? なら未知探索の旅の前に、貴公の最後の未知を探ってやっても良いぞ」

 凄みながら、ジャージのポケットから聖王が拳を抜く。 それは右の裏拳となって虹色に輝き、シュナイゼルの肌に触れる寸前でピタリと静止した。 拳風がシュナイゼルの肌を撫で、金髪を靡かせる。 だが、そこまでされてもシュナイゼルは何も言わない。 それどころか、若干その笑みを深くした。

「おや、当てないのですか?」

「嫌味な奴め。 このままでは”届かん”」

「私の部下は優秀ですから」

「はっ、ならばそういうことにしておいてやるさシュナイゼル。 精々、夢を追うが良い。 それは、結局貴公には手に入らぬぞ」

「知っていますよ。 しかし、手に入れなくても在ったなら、それは手に入れたも同じことなのですよ。 ただの一瞬でも、この世界を私の夢で染められたなら、それで結構ではないですか」

「そして、最悪届かなければ全てを道連れか。 度し難い奴だな。 このペテン師め」

「それは最高のほめ言葉です、王よ」

「だろうな。 さて、そろそろ行くとするかのう。 先に乗り込んだ皆が催促しておるでな。 ではな魔導王。 次に会うときは地獄か来世かは分からぬが、精々その夢に挑むが良い。 それが面白い話にでもなれば、酒の肴にでもしてやろう。 他人の夢も未知だ。 そんな形の無いあやふやなものでこの胸の空虚が埋まるかどうかは知らぬがな、満たされたなら教えてくれ。 参考にでもさせてもらおう」

「参考に? 今更、私のように世直しでもすると?」

「それこそまさかだ。 それはお前の”ジャンル”だから関与せぬよ。 妾は……そうさな。 昼寝帝国でも作るさ。 飢えが満たせぬならせめて、惰眠ぐらいは貪ってやりたいからのう。 ……さらばだ」

 冗談を言うと、カルディナは彼に背を向けて歩いていった。 彼女の背後で、シュナイゼルはその背中を眺める。 恐らくは、もう二度と会うことはないだろうと思いながら、それでも相変わらずの微笑を浮かべて見送った。 カルディナの身体がタラップから三番艦の中に消え、数分後にはその艦もまた彼の前から消え去っていく。 三番館艦のためだけに用意されていたこの施設も、これで役目を終えたことになる。 破壊するか再利用するかぼんやりと考えをめぐらせていたところで、彼に声が掛かった。

「行ったわね」

「ああ」

「珍しいわね。 貴方が使い潰そうとしないなんて」

 彼の背後に現れた、黒髪の誰かが言う。 馴れ馴れしい口調から随分と気安い間柄が伺える。 恐らくは彼の仲間なのだろう。 特徴としてまず目が行くのは、長い黒髪と紅の瞳だ。 見間違うものなど居ないのではないかと思うほどに、それはどこかに居るはずの誰かに似ていた。

「王には散々力を使って頂いたし、シリウスへの嫌がらせが出来る程度の武を私に示してくれたからな。 後は、私のシナリオが伸るか反るかさ。 これで、停滞していた盤面に決着がつく。 それまでに新しい”おめかし”でもして、アレの回収にでも行くさ。 勿論、遊べるなら遊ぶがね」

「そう。 それからは?」

「シナリオの通りに進ませるよ。 存続か破滅か。 この二者択一を押し付けるために」

「極端な話だわ」

「極端? はは、そうかね。 まぁ、どちらにしろ殺す。 殺し尽くす。 そのために私はここまで来たのだ。 だから、そう。 やらねばならない。 他でもない私が。 ここまでしてきたこの私が」

「革命はインテリが始めるものらしいけど、本当は愚者がやるのかしらね」

「そうとも。 夢を現実にしたい愚者だけの特権なのだ。 酷い自己満足だよ。 このシナリオで金を取ったら客は全員ブーイングだろう。 だが、知っているかね私の”ソードダンサー”。 そんな茶番でも、演じる者は皆必死だということを」

 微笑の君が振り返りながら笑う。 その視線を紅眼がただ黙って受け止めた。 交わる視線には温度が無い。 互いへの敬意さえない。 ただの確認のようなそれは、しかし直ぐに止んだ。 時間は押してきていた。 だから、数秒だとて無駄にはできない。
   
「さぁ、もう準備に帰ろうか。 最後のプレゼントを”同胞”に残すために。 ”不可解”が消えたあの場所へ。 あの、”時の庭園へ”――」












 二ヶ月経った。 止まることの無い時間が、濁流の用に押し寄せ流れる。 その問答無用の流れの中で、クライドはしかし相変わらずであった。 何かを劇的に変えるわけでもなく、その内面に新しい変化が出てきたというわけでもない。 燻るように日々を謳歌した。

 それがいけないというわけではない。 誰だって面倒ごとは嫌いだ。 ならば、それを避けるように生きて何が悪いというのか。 アルハザードでデバイスを弄り倒しつつPC計画に望んで、適当に身体を動かしながらヴァルハラで息抜きをする。 いつの間にか、それが彼の日々となっていた。 埋没する月日の、その静かな時間はクライドの心の平穏を守り続けた。 無為な時間が、ようやく彼に今の安らぎを感じさせ始めていたのだ。 ならば、ちょっとした変化がその日常に割って入ったとしてもそう簡単には変わるまい。 

「航行艦……か」

 ディメイションポート<次元港>にあるそれを見上げながら、クライドが呟く。 その顔が若干乗り気ではないのは、彼の今までの経験から来る不安が原因である。

 オリジナルのクライド・エイヤルに始まり、乗った後での研修旅行でのいざこざにインテレクトでの反抗劇。 クライドという男が次元航行艦に関わるときはいつも碌なことが無い。 そもそも、航行艦に乗る機会事態が普通は稀なのだ。 嫌なジンクスを感じないわけがなかった。

 その灰色の航行艦は、アルハザード製を主張するかのように船体に『メイドインアルハザード』という洒落たロゴがついている。 艦はまるで三叉槍の槍先のようにような形をしており、時空管理局の航行艦とはフォルムが随分と違っている。 ストラウスが用意したという中古のレンタルシップ。 だが、その航行能力と武装は管理局の航行艦の比ではない。 そもそも、これから彼らは虚数空間を航行するのだ。

 クライドはそうやってどうでも良いことを考えることで嫌な予感を振り払う。 それはまるで、己が虚数空間の藻屑にならないと自分に言い聞かせるようでもあった。 と、そんな男の所にようやく待ち人がやってきた。

「お待たせしました」

「ごきげんよう、クライド君」

「うぃーっす」

 何故か体育会系のノリで挨拶を返すクライド。 その気だるげな様子にストラウスは苦笑し、グリモアはそっと乗り物酔いの薬を差し出した。

「いや、さすがに航行艦じゃ酔わないって」 

「そうですか」

 そもそも乗ってさえいないし、航行艦で酔った人間の話などクライドは聞いたことが無い。 航行艦は重力制御と慣性制御がしっかりと効いているせいで、酔えるはずがないのである。 だが、それでもクライドのために用意してくる辺りがグリモアのグリモアらしい所以であった。

「それじゃあ、二人ともよろしくね」

「了解っす。 つっても、俺にできることなんてないんだろうけどさ」

「まぁまぁ。 さすがにカノンちゃん一人だけだと可哀想でしょう? クライド君はただ居てくれるだけで役に立つのよ。 寂しさ撲滅要員なの」

「確かに一人旅は寂しい。 非常に重要なポジションなわけだ」

「いつの間にボクに寂しがり屋属性が付加されたのかは謎ですが、とっとと行きましょう。 ハネムーンに」

「あらあら。 私はもうお邪魔かしらね。 じゃあ、後は若い二人に任せるということで……」

 何故、そこで嬉しげに微笑むのか? クライドは頭痛を感じながら、もしかして謀られたのかと邪推する。 だが、その念を感じ取ったのかストラウスは否定した。

「勘違いよクライド君。 今回の件、”私”には深い意味はないから」

「信じられないっす。 ストラウスさんはどちらかと言えばグリモア君の味方だし」

「大丈夫よ。 私、自分から、嘘、あまり、つかない」

 役々怪しいが、今更言っても始まらない。 グリモアに手を伸ばしたクライドは、彼女の持っていた旅行鞄を左手で持ち上げる。 それがさも当然という風であった。 思わずマイスターに荷物を持たせた自分の行動にグリモア自身驚いていたが、彼女は荷物を奪い返すことなくストラウスに向き直った。

「それじゃあ、行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい。 二人とも”がんばって”ね。 帰りはここでもヴァルハラの次元港でもどっちでもいいから」

 見送られながらタラップを進む二人。 艦内へと二人が消えていった頃、ストラウスの隣にグルグルメガネの少年がやってきた。 見送りだろうか。 発進用のゲートに移動させられていく艦に手を振るう。 そんな彼に向かって、ストラウスは問いかけた。

「二人とも行ったけど、これで良かったかしら」

「ああ、これで良いよ」

「クライド君のためかしら、それともやっぱり貴方の楽しみのためかしら」 

「両方、とだけ言っておこうかな」

 笑みを浮かべるその少年の答えに気にもせず、ストラウスはそれ以上聞かずに両手を上に上げるようにしながら背中を伸ばす。 すぐに仕事に戻るつもりなのだろう。 営業スマイルをペタリと顔に貼り付けながら去っていく。

「さて……どうするクライド君。 シリウスだけならきっと問題は無いけど、君が混ざったら結果が微妙に変化するからね。 足を引っ張るだけなのか、それとも――」

 頭上にあるメガネを手に取りながら、ペルデュラボーは一人楽しげに呟いた。











 その物体は、暗黒と黒の中にあった。 次元空間よりも黒く、深遠のように寂しい虚ろの彼方。 そこに生きるものは居らず、あるのは伝説の御伽噺を追い求める愚者たちの残骸。 重力の底へとただ向かいながら堕ちていくだけの夢時空の中では、それでも珍しいものである。 冷たく、残酷な静謐があるだけの空間が、しかしてその瞬間その物体を中心に脈動した。

 脈動は震動となり、青白い閃光を放ついくつもの青い宝石の種が、健気にも少しずつ自己主張するかのように静寂を犯していく。 間違いなくそれは異常であったが、それでもその空間は好きにさせた。 切り裂かれようが、震動させられようが、次元断層の向こうにある通常次元への道を開こうが気にもしない。 いつものように在るだけだ。 ただ、このときは珍しくもまた別の存在を招いていた。

 それは、灰色の艦船だ。 三叉槍の槍先のような三つ又が、虚数空間をものともせずに航行している。 波打つ虚数の海のなかにあっても、平然と泳ぐその船は通常次元の中ではかなり異質な存在だろう。 その船は名を、トライデントと言った。 

「探査目標より次元震動確認。 震度増大……やはり、なんの捻りもない結論のようですね。 向こう側へ帰るつもりみたいですアレ」

「へぇ……そいつはまた豪勢な。 周辺次元への被害を考えたら俺はもう呆れることしかできないぞ」

「いえ、それほど酷くはならないと思いますよ。 綺麗に制御されているみたいですから、こちら側でほとんど被害を抑えるつもりらしいです」

 震動が加速する。 虚数の次元さえも引き裂きながら、亀裂のような断層を生み出していく。 初めは小さい穴だったが、それも数十秒もすれば莫大なまでに広がっていく。 それはまるで放出された青い宝石の種が、栄養のように次元の闇を吸っているかのようだった。 宝石の数はとにかく多い。 彼の黒瞳には、それこそ数え切れないほどであった。 馬鹿馬鹿しいと思いつつも、顔を引きつらせながらクライドはただ状況に身を任せる。 艦船の空間モニター越しに見えるその光景には、さすがの彼も度肝を抜かれていたのだ。 やがて、二人が探索しにきた件の物体は、その亀裂に吸い込まれるようにして飲み込まれていった。

「震動エネルギーが虚数空間へと干渉中。 震動余波、そろそろ来ます」

「あー、だったらこの艦もやばいんじゃないか?」

「はい。 想像通り通常の防御フィールドでは即撃沈ですよ」

「超ピンチって奴だな。 それで、どうにかならないのかグリモア艦長」 

「別にこのまま二人揃って次元震動の波に攫われて心中するという選択肢もありますよ」

「それはちょっと……その、ヘビーな展開だと俺は思う」

「お望みならそれでもかまいません。 貴方次第です」

「じゃ、却下で」

「はぁ……虚数空間を貴方の力で永久に彷徨うのも楽しいかもしれないですよ? 勿論、邪魔も入らずに二人っきり的な意味で、ですけど。 誰の目も憚らずにボクとイチャイチャウチャウチャできますけど……本当に良いんですか?」

「マジでそれはやめよう。 俺はまだ人里にもデバイスにも未練があるのだ」

 本気とも冗談とも聞こえる助手の言葉を、クライドは冷や汗を掻きながらやり過ごす。 次元航行艦の甲板一枚向こうには確かに虚数の大海原が広がってはいるものの、彼には生憎とそんな危険な海で泳ごうなんていう趣味はない。 少し前に面白そうなものを見つけ、回収するために”遊泳”してきてはいたものの、さすがに永遠には嫌だった。

「残念です。 それでは奥の手を出しましょう」

「いいね、奥の手。 心強い響きだ。 さすがストラウスさんの用意してくれた艦だな。 きっと、”こんなこともあろうかと”用意しておいてくれたんだろうぜ」

「でしょうね。 では行きます。 ポチッとな」

 紫銀の助手がコンソール上にある怪しげなスイッチを叩く。 すると、灰色の艦船が青白い光に包まれ、震動の余波ごと虚数空間を切り裂いていった。

「ディメイションブレード展開完了。 機関出力安全域で固定。 このまま通常次元へと”切り込みます”」

「なんというか、ここまで来るともう驚くのも疲れるな」

 やれやれと呟きながら、青年はなんとなくシートベルトを締める。 もはや何でもありなのだ。 原理が分からなくても、この船が”アルハザード”の船だという時点で十分に満腹なのである。 理不尽の権化も裸足で逃げ出す伝説の都<アルハザード>。 虚数空間への来訪者と残骸を増やす最大要因にして魔の聖域。 青年は、自分の乗っている船を製造した世界を思いながら必死に現実と戦った。 だが、やはり現実は何一つとして変わらない。

 一段上の艦長席で艦の操船をしている艦長<助手>が、退屈そうに艦のステータスを眺めていて、彼はその下の通常オペレーターの席で頬杖をついているだけ。 全部が全部助手任せ。 他にもいくつも重要スポットのような席があるが、それらは全て空席だ。 実質その船の全てを艦長一人が背負っている形である。

「ふーむ、虚数空間と次元空間の間は次元断層……って認識でいいのか?」

「それでもいいですけど、今居るのはその境界ですよ」

「境界ねぇ……変な色だな」

 暗黒の向こうの境界は、不気味なまでに虚ろな色だ。 生物の脈動にも似た不可思議な色彩。 黒のようにも見え、他のどの色にも見えるグラディエーションが続いていく。 だが、それも有限だ。 境界が境目である限り、その向こう側が存在する。 ならば当然のように果ては来た。

「通常次元まで後十秒……五、四、三、二、一、通常次元へと復帰します。 ディメイションブレード解除。 同時にステルス作動」

「おお――」

 クライドの口から感嘆の声が自然と洩れ出た。 そこには見覚えのある空間が広がっていたのだ。 深遠でありながら仄かに明るいその空間には、次元世界の宇宙が内包されている。 その世界の一つに思い入れがある彼にとって、そこはどこか懐かしい感じがした。

「超広域次元通信網<ディメイションネットワーク>に繋がりました。 現在地測定……目当てのアレと少し離れていますが、十分に追える位置ですね。 これより追撃します」 

「細かいことは分からんから、グリモア艦長の判断に任せる。 好きにしてやってくれ」

「はい。 ああ、それと今の居る場所はどうやら因縁の場所に近いようですよ」

「因縁の場所?」

「はい」

 空間モニターが青年の目の前に表示される。 そこには、確かにボロボロになってはいたものの彼ら二人にとって見覚えがあるモノが映っていた。

「”時の庭園”ですよ」
















「んー、どうしたリンディ?」

「クライド……さん? あれ、どうして……」 

 黒髪黒瞳の少年が、ふと気がつけば自分を見下ろしているのにリンディは気がついた。 制服は陸士訓練校の制服で、随分と懐かしいものだった。 いや、懐かしいを通り越してありえない風景である。 それは、もう過去のこと。 過去に通り過ぎたはずの光景。 だから当然、これは”今”にあるはずがない大切な記憶の彼方にあったモノで作られた即興劇に他ならない。 

「よぉ、どうしたんだよ二人とも」

「あちゃー、ちょっとお邪魔だったかな」

 声をかけてきたのは、ザース・リャクトンとフレスタ・ギュース。 人当たりの良い兄のような少年と、ぐいぐいと自分の腕を引っ張りながら広い場所へと引っ張って行ってくれるお姉さんのような少女だった。 当時にお世話になった二人。 今もまだ縁が繋がっている二人が、訓練学校の制服姿でやってくる。

 それぞれが手に持っているのはかつての彼らのデバイスで、まるでいつかの青空教室のようなそんな一幕が目の前に広がっていた。 気がつけば彼女も、昔のデバイスを手にしたまま制服姿でそこに居る。

(ああ、そうなんだ。 これはそういう設定の――)

 先を考えるまでもなく、思考が止まった。 否、止めていたのだろう。 それ以上は考えない。 考えたくない。 思考を放棄し、前を見る。 すると、首を傾げながらよく分からんとばかりに、エセ教師の皮を被った黒の少年が頭をかいていた。 しばらくすると結論が出たのか、右手を差し出してくる。  リンディは迷うことなくその手を掴んで立ち上がる。 すると、いつかのように力強く引っ張り上げられた。

「どうしたリンディ、寝ぼけてるのか? まぁ、こんな陽気だ。 今日はいつもの訓練も休みにするのもいいかもしれん。 クライド流も偶には休みが必要だ」

「そう……ですね。 今日はサボっちゃいたい気分ですね」

「んー? なんか珍しいわね。 生き急いでるリンディちゃんがそんなこと言うなんて」

「い、生き急いでるって……」

「まぁ、俺とかクライドとかと比べるとそうだろ。 ハラオウンは生き急いでる感じがするぜ。 もっと肩の力を抜いて考えればいいんじゃねーかな」

「そうそう、でないとフレスタみたいに物理的に凶悪にな――」

「いぇーいクライド。 あんたはどうしてそういつも一言多いのかな? かな?」

「ほ、ほらリンディ。 でないとフレスタみたいな元気な子になれないぞ!!」

「こいつは、元気すぎる気がするけどな」

「そこも私様の百八ある魅力の一つ」

「はは……」

 相変わらずだった。 劇の中までこんな風だ。 だったら、現実の方でも今でさえもこんな風であるはずだった。 フレスタが居て、ザースが居て、ディーゼルが居て、他にも沢山の人々がいる。 そんな現実があるはずだった。

「――あ、れ?」

 ふと気がつけば、離さなかったはずの手の温もりが消えていた。 周りには本局の制服を着たフレスタが居て、地上の制服を来たザースが居て、ディーゼルが居て祖父が居てレティが居て……そして、彼の代わりに”クライド・エイヤル少年”が居た。 いや、居たけれどその少年はずっと遠い場所でグレアム提督やリーゼ姉妹に守られるようにして存在していた。 リンディは彼を探す。 黒の少年ではない、黒の青年の彼を。 デバイスマイスターの彼を。 しかし、その姿はどこにもない。 何処にも居ない。

「酷い……こんなところでまで、居なくなるなんて……さっきまですぐ傍にいたのに。 居て、くれてたのに……」

 面倒くさいとかなんだかんだと理由をつけて、始めは嫌がっていたのに居てくれた。 なのに、もっと欲張って本当に本気で居て欲しくなった時には居てくれない。 例えこれが夢の中でもあんまりだった。

 堪らなくなって駆け出す。 ここは夢幻の劇の中。 ならば翡翠の少女から翡翠の女性へとすぐに成れる。 小さな体躯は歳相応の姿になり、リンディは駆けるようにその場から逃げ出していく。

 出口は無い。 ここは舞台という名の迷宮だ。 ゴール<彼>の存在しない夢幻のラビリンス<迷宮>。 逃げるには彼がいる。 しかし、彼はもうここにはいない。 故に何処まで行っても出口は無い。

(違う。 私の求める出口は一つ。 他にも出口は無数にある。 けど――)

 厳密に言えば在る。 抜け出す道は他にもある。 しかしそれをまだ、”リンディ・ハラオウン”は選べない。 だから、そう、走り続けるしかない。 あの”災厄の書”に辿り着くために。 居ないはずの彼が居るかもしれないその場所へと向かうために。

 ふと、走り続けた先に捜し求めた本が見える。 資料で幾度と無く見た、その本だ。 必死に手を伸ばして、掴み取る。 そして、そこに居るはずの彼を探す。 と、今度こそ居た。 白衣を着た黒髪の彼が、何やら作業台の上で円形の物体を弄っているのが見える。 何やらそわそわと、しかし柄にもなく口元を歪めて楽しそうにそれを完成させることにのみ全力を注ぎ込んでいた。 

「クライドさん!!」

 大声で叫んだ。 しかし、彼はそのまま別の方向を向いた。 小柄な人影が彼を引っ張っている。 グリモアだ。 クライドは完成させたそれを台の上に放置して、困りながらも、しかし席を立つ。 そして、そのまま二人して歩き去っていく。 白衣の背中が遠くなる。

「待って、クライドさん!! 待ってくださいお願いですから!!」

 歩いていく二人に追いつけない。 どれだけ走っても追いつけない。 いや、願いの通りに距離は詰まっていた。 気を抜けば離されるだろう。 必死に走って走って、捕まえたと思ったその瞬間、やはりクライドは消えた。

「あ、あぁぁ……」

 残るのはいつもその輪だった。 捕まえた瞬間には左手に輝く、それだけが残る。 他は何も残らない。 一番重要な者だけが残らない。 何度も見た劇のフィナーレ。 それは、初めは暖かい即興劇だったが、いつも最後のシーンだけは同じ悪夢になる。

――そんな悲しい夢を、彼女はもう何度となく見ていた。







「クラ――」

 伸ばされた掌のその先、左手に輝く指輪がある。 その感覚で思わず彼女は我に返った。 虚空に伸ばしたままの指先が、実体の無い空気を握り締める。 その手には空調の効いた室内の、冷たくて生暖かい感触がした。 そっと、伸ばした左手を下ろす。 夢の中でも掴めなかった。 それが、まるで現実だと言わんばかりにその事実を想起させる。

 ベッドの上で半身を起こし、縋るように彼女は左手の重みを撫でた。 それだけが、縋り得る希望であり束縛の鎖だった。 唯一つだけ信じ続けたい、甘く苦しい背反の輪だ。

 と、その頃になって不意に耳に触るような無機質な電子音が聞こえてくる。 仕事の合図だ。 枕元に在るスイッチを押し、呼び出しのそれに応える。 すぐに空間モニターが開き、その向こうから若いオペレーターの顔が現れる。 リンディはすぐに意識を覚醒させた。

『お休み中の所申し訳ありません”艦長”。 レティ提督から緊急通信が入ってます』

「分かったわ。 すぐに繋いで」

『了解です』

 すぐに画面が切り替わり、友人の顔が映る。 メガネを人差し指で押し上げながら待っていたらしいレティ・ロウランは、少し焦り顔だった。 またぞろ何か緊急の案件でも発生したのかもしれないとリンディは気を引き締める。 

『ごめんなさいねリンディ、ちょっと急ぎの案件があるの。 いいかしら?』

「アースラは帰還中だから特に問題は無いけど……」

 苦笑しながら、先を促す。

『実はね、”時の庭園跡付近”の次元空間で小規模な次元震が確認されたの。 致命的な規模の震動じゃあないみたいだけど、急いで確認してきて欲しいのよ』

「え――」

『多分、今の座標だと”丁度都合が良い”ことに貴方の艦が一番近いみたいだから確認してきてくれない?』

「……確認するのは構わないのだけどレティ。 どうしてあそこで、次元震が?」

 素朴な疑問だった。 あの位置には廃棄された庭園しかない。 しかも、時の庭園は既に過去の事件のせいでボロボロだ。 動力は虚数空間に消え、内部は所々岩盤が崩れ落ちていうためそう簡単には使い物にならない。 辛うじて庭園を覆うエアフィルターだけは生きているが、それだけだ。 持ち主も既に保険金を受け取って放棄しているような程のものなのである。

『分からないわ、ただ一瞬だけどそこで航行艦らしき艦影を定置観測隊が確認したらしいわ。 どこかのマッドがアルハザードでも目指して何かやらかしたのかもしれないし、犯罪者が密輸していたロストロギアがあの辺りで暴走したのかもしれない。 すぐに情報を送るから、行ってくれる?』

「了解」

『お願いね。 追加任務だし、査定にはプラスになるようにしておくから』

「もう、不謹慎よレティ」

『ふふっ』

 お互いに苦笑しながら、それで通信を終えるとリンディはすぐにブリッジに通信を戻してクルーに連絡。 寄り道の連絡をすると、青の制服に袖を通していく。

「時の庭園……」

 呟くと、心がざわめいた。 感傷に浸りたいわけでなくても、それでも勝手に心の中に暗雲は立ち込めてくる。 夕立にいきなり振られたような切ない気分になってしまうのも無理はない。 だが、仕事だった。 いつものように次元航行艦の艦長として任務をこなさなくてはならない。

「はぁ。 ため息、増えたかしら」

 指輪を撫で、リンディは艦長室を出た。 その頃にはもう、クルーに見せられる管理局の魔導師としての顔になっていた。














 その遺跡、時の庭園跡は既にかつての優美な姿からは目も当てられないほどに寂れていた。 管理する者のいなくなったせいで草木は雑草に塗れ、地面は四年前の次元震動によって瞬間的に発生した虚数空間に所々飲み込まれた結果、いくつかのクレーターや空洞部を作っている有様だ。 辛うじて大気を形成するエアフィルターの機能こそ生き残っていたが、動力部は完全に虚数空間に落ちているため次元航行さえできない。 更に、内部空間は岩盤がいくつも崩れ落ち、通路もほとんど塞がってしまっている。 これでは価値などほとんどないだろう。

 よしんば価値を見出したとしても、それはほとんど金持ちの道楽といった領域での話。 回収し改修するのであれば相当な時間と手間と金が掛かるだろう。 そのため、かつての持ち主は掛けていた保険金を受けって既にこの庭園を放棄していた。 もはやそれは、時の庭園が次元空間には通常存在しないデブリとなった証明である。 

「――♪」

 最近良く聞く歌姫の新曲をハミングしながら、その黒の男は何かに気づいたように腰を上げた。 見る人が見れば、立ち上がった彼の足元の影が更に大きな影に飲み込まれていくことに気づくだろう。 彼はハミングを止めると、頭上を見上げる。 すると、その黒瞳の向こうには、遺跡のエアフィルターを突っ切って落下してくる飛翔体が存在した。

「オーケイ。 誤差範囲内だ」

 落ちてくるのは、半径五メートルは下らなそうな奇妙な物体。 隕石のように流れてくるそれは、減速するような気配はなかった。 寧ろ、庭園に引かれているのではないかと思う程に迷いなく落ちてくる。 やがて、不時着。 激震と共に庭園の大地をめくれ上げ、粉塵を舞い上げる。 だが、青年は気にもせずにその中へと歩いていった。 
 
 視界の向こう、鋼鉄の塊が彼の目の前にある。 地面にクレーターを作っているそれは、舞い上げた土砂のせいで少し埋まりかけていた。 慎重に近づき、鋼鉄に乗っている粉塵を払うと、その下からミッドチルダ語の文字が確認できた。 それはやはり、彼の記憶にあるものと間違いなく一致した。 

「ビンゴ」

 彼にとっては特に”気にするべきもの”ではない。 今気にしなければならないのは、覚えてきた手順に従って内部のデータディスクを取り出すことだった。 鋼鉄の残骸は落下の衝撃で衝突部が三分の一ほど埋まっていたが、それでもなんとかディスクを収めている部分にたどり着く。 ディスク部分はとにかくあの”機動砲精”が頑丈にしてあると言っていた。 ならば、問題はないのだろう。

 思わずほくそ笑みながら作業に入る。 ディスク部分は落下物は丁度中ほどにある。 魔法で飛び、高度をあわせてから鋼鉄の装甲の継ぎ目を開放する。 非常用のバッテリーが生きているようで、その下には簡素なキーボートのようなものがある。 手順どおりに触ればパスワードを求められた。 パスワードを打ち込む。 すると、ガシャンという景気の良い音と共に勢いよくディスクが飛び出してくる。 とりあえずそれをデバイスの空きスペースに収納すると、青年は地面に降りたった。

「これで終わり……か?」

 呆気ない任務だった。 子供のお使いレベルである。 何も無ければそれでよいが、彼からすれば何かが腑に落ちない気がした。 とはいえここで考えていてもしょうがない。 もはや用を成さない鋼鉄の塊に背を向ける青年。 後は航行艦に回収してもらうだけだった。 ただ、それだけでこの任務は終わる。

 何とはなしに鋼鉄に背を向け、歩く。 青年は内心、面倒くさいことがなかったことに”物足りなさ”を感じた。 と、彼が鋼鉄から二十メートルほど離れた瞬間、轟音が背後から響いてきた。 

 落下物が機密保持のために自爆したのだ。 残骸が派手に飛び散るようなことはない。 単純に重要部位だけを爆破するような仕掛けでもされていたのだろう。 虚数空間帰りの癖に、味なまねをする。

 仕掛けただろう女の趣味かと、なんとはなしにそう思って彼が振り返った視線を前に戻した瞬間、自然とその足が止まった。

「……」

 前方に、彼の足を止めるかのように青の光が集ったかと思えばいきなり実体化していく人影がある。 次の瞬間、転移光を伴って黒髪黒瞳の青年がその姿を現した。 青年は思わず口笛を吹く。 その顔には苦笑があった。 ニヤリと釣りあがった唇が、ついつい楽しげに歪んだ。

「わーお、まさかと思ってたけど、噂をすれば……とはな。 よう、不可解。 いいや、確かあんたはドッペルゲンガーだったか?」

 フランクに微笑気味に話しかける青年だったが、対面した”黒の青年”は不快そうに顔を歪めるだけだった。 だが、それも長くは続かない。 初めから居た青年とまったく”同じ声”で、その黒の青年が口を開いたのだ。
 
「確かに、”噂のあの子”が十数年後に俺を見たら俺はドッペルゲンガーになるのかもしれん。 もはやそれさえも当てはまらないがな。 しかし、仮に俺がドッペルゲンガーなんだとしたら、お前は”イレギュラー”だな。 存在が許されるはずのない”ルール破り”だ」

「へぇぇぇ、そいつは中々謎めいた解答だ。 だが、イレギュラーだろうとなんだろうと確かに俺はここにいるぜ。 それはきっと、真実って奴なんじゃないかな」

「それは”誰”にとっての真実だ」

「勿論、俺にとってさ。 有象無象には必要が無い、俺だけの宝物だ。 精々羨ましがってくれ。 そいつはきっと、この広大な次元世界の中心でスポットライトを浴びられる奴だけの特権だ」

 ドッペルゲンガーとイレギュラー。 共に睨み合いながら、言葉を交わす。 奇妙なのは、どちらもまったく同じ顔で、同じ声で互いを値踏みしていることだろうか。 実際問題として、片方が変身魔法を使っているというわけではない。 それは両者共に既に同じように判断していた。 では、現実問題として目の前にいる存在は何なのか? 真実を知らぬ者にはその意味が分からない。 故に両者は自身のデバイスを躊躇なく抜いた。

 共に展開されるのは、刀の柄のようなデバイス。 そのデバイスから、圧縮魔力カートリッジの薬莢が飛ぶ。 瞬間、両者の握るデバイス『ブレイド』から魔力の刀身が寸分違わず現れた。 イレギュラーの足元に光るはミッドチルダ式の内部で正方形が二つ回転する円の魔方陣。 一方、ドッペルゲンガーの足元から五茫星形の魔方陣が青く輝いた。 同じ青の光だ。 不自然なほど全く同じ魔力光を灯しながら、二人は眼つきを悪くさせていく。

「やるってーなら相手になるぜドッペルゲンガー」

 イレギュラーが吼える。 

「お互い、出会っちまったからには確かめるしかないだろ。 そうさ。 俺だけじゃない。 お前だってそのつもりなんだろう」

 イレギュラーの周囲に四枚のシールドが現れる。 円周上にある鋸の刃が高速で回転しながら虚空に浮かぶ。 シールドカッターの魔法だ。 ドッペルゲンガーはそれに驚きながらも、直ぐに納得して自らも同じくシールドカッターを同じ数だけ発生させた。

「随分と好戦的だな」

「どうせあんたは敵だろう? なら、早いか遅いかの違いだけだ」

 言うなりすぐに飛び出すイレギュラー。 同時に、シールドカッターが飛んだ。 ドッペルゲンガーも同じく前に出る。 シールドカッターは互いに自分の写し身をに喰らいつこうとして、互いに模倣存在にぶち当たる。 刃で火花を散らしながら、存在が消え去るまで喰らいつく。 と、その間を高速移動魔法<ハイスピード>で駆け抜けながら、二つの黒が残像を残しながら交差した。

 すれ違いながらも交差する青の刃。 魔力が衝突の際に反動を両者に返し、衝撃を互いの腕に伝播させる。 だが、二人ともにダメージはない。 バリアジャケット<防護服>のフィールドがその凶悪な反動から二人の体を守ったのだ。 その両者の斜め前で、相変わらず二人が操作するシールドカッターが対消滅の悲鳴をあげた。

 削り続けて、磨り減りながらそれでも最後まで回転し続けていく。 本物が自分だと、ただ主張するかのように刃を擦り合って偽者を駆逐せんと咆哮を続ける。 甲高いシールドカッターの雄たけび。 耳も劈くような金属と金属が削りあうような高音の中、背中合わせになった二人が動いた。

「ショットセイバー!!」

 ドッペルゲンガーは振り返りながらながらも、虚空を薙いだ。 その光刃が不意に鍔元から飛翔する。 ミッド式の斬撃飛翔魔法と同じ魔法なのだろう。 柄から離れた刃がイレギュラーに向かい虚空を飛ぶ。 しかし、当然イレギュラーもまた第二撃のために動いていた。 身を捻りながらの後方への跳躍。 飛翔斬撃の青を飛び越えながら、曲芸染みた動きで身体を捻る。 ただの人間にはできない動きだった。 そもそも”その距離”を飛び上がる脚力など常人にはない。 魔導師だからのできるのだ。

「どっせい!!」  

 飛翔魔法とあわせて背後へと振り返りながら跳躍していた体が真上からブレイドを叩きつける。 上段から全体重を叩きつけるような思い切りの良い斬撃だ。 ドッペルゲンガーは舌打ちしながらも刃を振り切った体勢を戻す。 薙ぎ払いで右に振りぬいた刀身を強引に戻しながら、再度青の刃を発生させてイレギュラーの攻撃を受け止める。

「っ――」

 防御したドッペルゲンガーが舌打ちした。。 互いのデバイスのセンサーが捕らえていた相手の魔力量は寸分違わず同等。 ならば単純にカートリッジを使用した状態の刃を持つドッペルゲンガーの刀身の方に威力があることは明白だった。 その負担はダイレクトに受けとめた腕を軋ませる。
 
「そら、次行くぞっ!!」

 即席の刀身では長くは持たない。 それが分かっているイレギュラーはカートリッジを装填する隙を与えない。 着地した右足を踏み出し、さらに右薙ぎの斬撃を放つ。 ドッペルゲンガーはそれを剣を縦に構え、盾にして防ぎつつも後方にその威力を流すために後方に飛びながら距離を取る。 二人の距離が離れた。 イレギュラーはそれを追うようにして前方にスターダストフォールの魔法を展開。 右手を引き戻しながらその環状型魔方陣の輪の中へと飛び込んだ。
 
――高速で打ち出される黒がある。

 目も霞むような至近距離でのそれは見事な追撃だ。 ドッペルゲンガーが目を見開きながらも反射的にシールドを張る。 離したはずの距離が”零”になる。 瞬間、突き出されたイレギュラーの刃がドッペルゲンガーのシールドを襲った。 

「くっ――」

 イレギュラーが上げる感嘆の声。 シールドとブレイドの青の魔力が、接触点で互いの魔力を対消滅させながら二人の間で発光する。 飛び散る火花のその向こう、互いに瞳が交差した。 だが、それも一瞬のことである。 ドッペルゲンガーがシールドの位置をそのままに、体だけ後方に下がる。 いつの間にか、その手には代えのカートリッジが握られていた。 装填され、吐き出される薬莢。 瞬間、レグザスのブレイドがシールドを突き破って消し飛ばす。 そこへ、様子見は止めたとばかりにドッペルゲンガーが切り込んでいく。

 戦場は既に地上から空へ移行する。 当然空を飛べる両者の動きに停滞は無い。 ブレイドで斬り付け合いながら少しずつ庭園の空へと上昇していく。 幾重にも奔る二人の剣閃。 他の魔法を使う様子はほとんどない。 二人ともが、まるで何かを”探る”ようにして剣を交えていた。

 ドッペルゲンガーの動きには不恰好ながらも何かの流れのようなものがあるが、イレギュラーはただ滅茶苦茶にその場凌ぎにブレイドを振るっている。 見た目にはドッペルゲンガーの方の動きの方がまだ安心して見られるのだが、そんな適当でもイレギュラーは受け止め続けた。 打ち合う中で、ドッペルゲンガーはその事実に気づく。 だが、それよりも気になることがあった。

「お前は……なんだ? そのデバイスをどうやって手に入れた!!」

「こいつは俺が作ったのさ」

「”作った”だと? じゃあやっぱり”お前”、俺の研究室のデータから複製しやがったな!?」

「はっ――」

 ドッペルゲンガーの推測の言葉に、イレギュラーは面白そうに顔を歪める。 それを見て、忌々しそうに顔を歪めた相手の動きが一瞬止まった。 その隙を彼は見逃さない。 大振りで斬りかかり、渾身の力でブレイドを相手に叩きつける。 反応が遅れたドッペルゲンガーとの距離が再び開く。
 
「こいつを食らいな」

 突き出す左手に、瞬時に展開されるは銃型のデバイス。 開放された魔力がマガジン内部に仕込まれたチャンバー内で暴れ狂った。 銃口の先が輝くや否や、銃身から青の閃光を吐き出す。 ほとんど抜き打ちのその銃弾は、寸分違わずにドッペルゲンガーに突き刺さるかに見えた。 だが、禄に狙いもつけられていないそれを当てる技量がイレギュラーには無かった。 ドッペルゲンガーの右頬を掠めるようにして弾丸は通り過ぎる。 その攻撃に唖然としたドッペルゲンガーは、しかしそれでも二発目を食らう前に高速移動魔法を起動。 瞬時に右斜め後方に下がって距離を取る。 しかし、その顔は驚愕したままだ。

「マジックガンの”魔導砲モード”……それも間違いなくフルチャージの一発だと?」

 ドッペルゲンガーは困惑を隠し切れなかった。 それができるのは”現状維持”を持っている者だけだ。 フレスタの予備のマガジンを盗んできたのか、それとも”自前”でそれを用意したのかの判断が彼にはつかない。

「んー、やっぱ俺これ使うのまだ下手だわ。 命中率が高くないな。 折角準備しといたのによ」

 マガジンを抜き、新しいマガジンを差し込むイレギュラー。 ブレイドとマジックガン。 銃と刀をそれぞれ両手に握るその様に、さらにドッペルゲンガーの警戒度が上がる。 その目が細められ、その顔から表情が消えていく。

「不可解だとあんたは言うが、あんたこそ俺からすれば不可解だ。 一つ、このままやりあって答えを明確にしておくかい?」

「はっ、どうせ俺が勝てばある程度は分かるさ。 お前がリビングデッドか、それともプロジェクトFのクローンか……化けの皮を剥がしてやる」

 右足を前に出し、虚空を踏んで半身に構えながらドッペルゲンガーが言う。

「できるのかよあんたに」

 イレギュラーは、ただ面白そうに問うた。 推定戦力にそれほどの差は見られない。 そういう感触を得ている以上、勝てない相手ではないと理解しているのだろう。 ただ、それは同時に相手からもそういう認識であるということでもあった。 故にこそ、笑う顔の奥に隠された思考は、勝つための手段を次々と模索していた。

 ただブレイドを振り回すだけでは泥仕合だ。 両者のスペックやスキルが似通っているのであれば、今出来ることを組み合わせて、攻めなければならない。 これは、そういう勝負であった。 いや、それだけではない。 両者共に考えていた。 相手の存在がどうにも無性に気に食わないと。 もっと踏み込めば、”気持ち悪い”とさえ思っていた。 同じ顔で、同じ声で、同じ魔力色で、同じようなデバイスで対峙している眼前の敵。 それを気味が悪いと感じるのは、恐らくは間違いではなかった。

「できるさ。 そっちには無理かもしれないけどな」

 対峙したまま暫し動きを止めた両者。 交差する視線は、相手を射殺さんばかりに険しい。 静寂は一瞬。 呼吸を整え、脳裏に描く戦術を行使するべく二人はすぐに動き出す。 次の瞬間、己の模倣存在に向かって黒の二人が飛び出していった。











 次元航行艦アースラは比較的新しい部類に入る艦だ。 最新鋭艦ではないものの、その能力は決して低いものではない。 長期任務にも耐えうる設備と装備が施されているし、それなりの武装も施されている。 必要に応じて魔導砲アルカンシェルなどの兵装を装備できるのも特徴だ。 そのため、特定条件下においては強力な魔導砲を行使しうる艦にもなる。 管理世界の秩序と安全を守るための管理局の航行艦としては、比較的ポピュラーなレベルの艦であった。

 リンディ率いるアースラチームの仕事は現地派遣任務が多い。 基本的に航行艦の仕事といえば巡回任務と現地任務だ。 重要拠点防衛などよりも定置観測隊の観測しきれない区域や、何がしかの事件があった世界や宙域を調べる任務を主とする。 中でも、彼女のチームは次元震動を発生させるロストロギアがあるところに優先的に派遣されることが多い。 これは単に過去の彼女の実績と能力を考えてのことであるのは言うまでもないだろう。

 リンディは航行艦のバックアップを受けてのディストーションシールドで、次元震動を抑え込むという荒業が行える稀有な人材だ。 その非凡な魔導師のスキルに合わせて適材適所で人員を送り込み、効率的に任務を遂行させることを基本戦術としている以上は、航行艦の人間であろうともその慣例は適応されるというわけである。

「――というわけで、本艦はこれより小規模次元震が観測された時の庭園跡地に向かいます。 帰還中での追加任務になりますけど、これもお給料のうちだと思ってがんばって下さい」

「「「了解」」」

 空間モニター越しに武装局員との通信を終えると、リンディは艦長席にもたれかかる。 そうして、レティからの情報に目を向ける。 一瞬艦影を捉えたようだが、それもほとんど数秒だけだ。 もしかしたらもういないのかもしれない。 だが、場所が場所だ。 リンディは内心に感じるセンチメンタリズムを冷静に受け止めながら、追加情報に目を向ける。 どうやら、魔法戦闘が観測されているらしい。 少なくとも二人の人間がいるようだ。 情報にはそうあった。 最悪、自分も出撃することをリンディは考える。 艦長と言えど、それが必要であるのならば躊躇しない。 ただ、通常それは武装隊員の仕事だ。 執務官がいればその人物に現場を任せるという手もあるが、リンディ自身が執務官資格を持っている。 今現在は人手不足のせいで兼任している状態だ。 慎重に見極めていかなければならないことだけは確かだった。

 ポケットの中にある待機状態のデバイスに、自然と左手がいく。 現場に出ること事態は減ったが、かといって最低限の訓練を中断することはしていない。 アースラチームの最後の砦としての自覚故か。 それとも、他に理由があるからかは彼女しか知らない。 

「リンディ艦長?」

 と、不意に二段ブリッジの下方からオペレーターの男の声がして、リンディはそちらに視線を向ける。 すると、下の方から怪訝そうな顔でオペレーターが振り仰いでいるのが見えた。 リンディはすぐに意識を戻すと先を促す。

「艦長、センサーに拾えました。 確かに庭園で何者かが戦闘中のようです。 魔導師が二人、戦ってます。 後数分でモニターに拾えます」

「待機中の武装隊員にそのデータを回して。 場合によっては私も出ます」

「はっ」

 艦長が戦場に出てはならないという決まりはない。 臨機応変にして柔軟。 既に数度任務で実行している前例があるため、ブリッジクルーの誰もがその言葉に意義を唱えない。 数分後、現場の映像が届く。 枯れた草木と残骸の降り注ぐ庭園の上に、件の魔導師たちがいた。

「クライドさんが二人……え?」

 一瞬、動揺した。 クライドらしい黒髪の魔導師二人が庭園の上で魔法戦闘を行っているその光景、思わず言葉を失ったリンディだったが、すぐに次の疑問にぶち当たった。 かつてこの場所で消えてしまった男だ。 確かに、ここに現れるのはそれほど不思議ではないかもしれないが、それでも可能性として予測された時期よりも早すぎる気がした。 けれど、それでも”もしかしたら”と、期待しようとしている自分に気がついてリンディは苦笑する。

(短絡的……ね)

 すぐに思考を戻す。 個人としてではなく、艦長として。 そうやって切り替えでもしなければ、そのままその身だけで飛び出してしまいたいぐらいだった。 けれど、そんな勝手はできない。 

 眼を瞑り、一度深く呼吸をしてからまた眼を開く。 すると、変わらない現実がそこにあった。 ならば、リンディ・ハラオウンが取るべき道は決まっていた。 期待通りなら予想よりも早すぎたが、それでもそうあって欲しいと思わずには居られない気持ちに嘘はつけない。 

「転移可能距離になり次第すぐに出撃してもらいます。 武装隊員にはこの映像を送って。 それと、”私へ”の魔力バックアップの用意も」

 ブリッジに響いたリンディの言葉に、一瞬クルーたちは絶句した。 リンディ・ハラオウンがアースラの魔力炉のバックアップを受けてただの”魔導師戦”にアレを使用するのはコレが始めてだったからである。 小規模な次元震を感知していたので警戒しているのだと受け取る者と、単純に相手方を過剰に警戒しすぎているのではないかと思った者に分かれたのも無理は無い。 ただ、どちらにしてもより安全な方向でいくことに異を発する者などいるはずがなかった。

「りょ、了解。 バックアップ準備を開始します」

 オペレーターの一人が眼前の空間モニターに向き直り、準備を進めていく。 何故か、その時ブリッジの体感温度が数度は下がったかのようにクルーたちは感じた。 背後から威圧感というか重苦しい何かが漂ってくる。 ちらりと振り返った勇気あるクルーの一人が、モニターを見つめる艦長の姿を見た。 そこにはいつもの天然混じりでアットホームな感じの柔らかな笑顔でも、キリリと凛々しい作戦時の艦長の顔もない。 どこか気負った風な表情を浮かべる顔があるだけだった。 思わず、そのオペレーターの少年は念話で隣にいる同期のオペレーターに尋ねてしまった。

『な、なぁアレックス。 艦長、今日に限って無茶苦茶気合が入ってるんだが……相手はそんなにヤバイ相手なのか? それとも、寝てる所を起こされたせいで機嫌が悪いのか?』

『振り返るな、前を見ろ。 心なしか気合入れすぎて魔力が漏れてるが気にするんじゃない。 気にしたら負けだぞランディ』

『……ほんとだ。 ブリッジの魔力センサーが凄まじい魔力の胎動を感知してる』

 冷や汗をかきながら、メガネの位置を直しているやや黄土色っぽい髪の少年アレックスを横目に、ランディはなるほどと頷いた。 なんとなく赤いネクタイを締めなおしたり、紫の髪の毛を煩わしそうにかきあげつつバックアップの作業を続けるのは、ブリッジに充満した違う意味で高まっている緊張感のせいに他ならない。 次元災害を水際で食い止めたときと同じか、それと同等でしかも何やらベクトルが違う鬼気があるのだ。 

『もしかしたら、計測上はAランク程のあの魔導師たちは、総合SSの艦長や戦闘のプロフェッショナルである武装隊員が束になってもかなわないような凶悪な犯罪者なのか?』

『俺に聞かれても分からないさ。 ただ……俺たちは艦長が本気で戦ってるところを多分見たことがない。 もしかしたら、見られるかもな。 艦長の本気って奴。 やったら弱いもの苛めになりそうだけど……』

 なるほどと、ランディは思った。 大抵は武装局員が束になって犯罪者を押さえ込んで片をつける。 艦長が出る程の相手に遭遇することは少なく、大抵は出てもすぐに戦闘が終わることが多い。 確かに、魔導師二人が相手とはいえその可能性は十分にあるだろう。 しかし、同時にランディは思った。 だとしたら、今空間モニターの向こう側でドンパチやっている二人組は”とてつもなく可哀想だ”、と。

『俺、この二人に心底同情するわ』

『俺もさ』

 同期のオペレーター二人は、そうして念話を打ち切って仕事に専念した。 その時何故か、後方で艦長が小さなくしゃみをしていたが、二人が噂をしていたからか空調が効きすぎているからかどうかは定かではない。










 戦場に入り乱れる幻影、それらは全て同じ男だった。 破裂しながら閃光を放つ幻影、シールドナックルを纏った殴れる幻影が、同じ幻影にぶち当たって消えていく。 青の閃光が魔力の華となって咲いて散るその様は、一言で言えば異様だった。 その間を、更に数枚のシールドカッターが獲物を探しながら行き交っていく。

 幻影を切裂き、滅茶苦茶に虚空を飛び回りながら敵を探す両者。 共にミラージュハイドで隠れているのだ。 怪しいポイントを片端から移動するシールドカッター。 それを操る魔導師は、息を顰めながら相手を索敵しつつ奇襲するタイミングを計っている。 消えてはどこからともなく生まれる幻影。 通常の魔導師であれば、維持魔力に苦心するはずなのに、彼らにその苦はほとんど無い。

 幻影魔法の最大の難点は展開に必要な魔力の量ではなく、その後に継続的に使用する維持魔力だ。 幻影の数が増えれば増えるほどその負担は大きくなる。 大魔力を持つものならばともかく、そうでない者にとっては本来はそれの使用は諸刃の剣となる。 だが、例外も勿論いるのだ。 彼らのような”現状維持持ち”である。 維持魔力を必要としないせいで魔力の使用量が最小限で済む。 故に、かつて”クライド・エイヤル”と呼ばれていた男はそれをよく好んで使っていた。

 ふと、幻影とシールドカッターの群れから少し離れた場所の大気が歪んだ。 その向こう、攻撃のために解けたミラージュハイドの残滓の中から現れたドッペルゲンガーがブレイドを何も無い虚空に振るった。 振り下ろされるその刃。 青の光刃が虚空で止まる。 その瞬間、ブレイドで青い刃を受け止めた存在が、ミラージュハイドを消失させてその姿を現した。 イレギュラーだ。 驚愕と共に釣りあがった彼の唇は、しかしすぐに楽しげに歪む。

「――すげぇ、ははっ。 どうやって俺を見つけたドッペルゲンガー!! あの魔法を感知するのは並大抵の感の良さじゃ駄目だぜ? あんたに出来て、俺に出来ない何かコツでもあるのかよ!!」

「さて、なぁっ!! お前こそどうなんだイレギュラー<不可解>!! 俺がそうならお前もそうだろうがよ!!」

 鍔迫り合う刃の衝突点。 互いの魔力量は同等。 身体能力もほとんど同じ。 力比べに意味は無い。 切っ先は直ぐに離れた。 ドッペルゲンガーが体を回す。 右足が空を”踏みしめ”、それを軸に地上と同じように腰を捻る。 放たれるは薙ぎ払い。 それを青年が同じく薙ぎで強引に相殺。 次の斬撃を繰り出そうとしたその瞬間、”それ”は青年の体に向かって飛んできた。
  
「なっ――」   

 薙ぎ払いのために捻られ、体の線で隠されていたドッペルゲンガーの左手。 その左手に、いつの間にかグローブ形のデバイスが展開されていた。 その手の甲の上にあるリールのようなモノから射出されたワイヤーがある。 そのワイヤーの先端が、青い魔力で輝いていた。 それは至近距離での、ほとんど意図できない見事な奇襲だった。 そのワイヤーをイレギュラーの青年はさけられない。 思わず身構えたその青年の胸部に接触。 フィールドに”吸着”する。 

「どっせい!!」

「――!?」

 気合と共に放たれる声。 瞬時にドッペルゲンガーが左手を引きながらワイヤーを巻く。 同時に、予期せぬ攻撃によって硬直した青年の体が斬撃の間合いから更に内側へと引き寄せられた。 ドッペルゲンガーが予定調和とばかりに右足を跳ね上げる。 跳ね上がった足が、寸分違わず青年の腹を狙っていた。

 フィールド越しに鳩尾に炸裂しようとするその一撃。 さすがに青年もそれを唯で食らうつもりは無い。 避けられる体制ではなかった。 しかし、それでも咄嗟にブレイドから手を離して飛行魔法を一時停止。 両腕で跳ね上がってくる足をガードする。

 足は通常腕の三倍の力があると言われている。 身体能力を強化されている魔導師の蹴りだ。 同じレベルで身体能力が強化されている青年とはいえ、それが魔力打撃となっているために受け止めた腕のフィールドを軋ませる。

「――つぁぁ!!」

 飛行魔法を青年が再起動。 蹴りの衝撃でやや浮き上がった体を踵から逆立ちするようにして変則的に浮き上がらせながら、強引にドッペルゲンガーの上後方へと曲芸染みた動きで体を飛ばす。

 胸部にあるワイヤーはそのままだ。 既に巻かれたワイヤーはほとんどドッペルゲンガーの左手から零の位置。 後ろ足から丁度後方へと抜けようとする青年の移動に、ドッペルゲンガーの左腕が引っ張られる。 蹴りを放った後でもある。 その予期せぬ動きに、今度はドッペルゲンガーが目を見張った。 そのまま行けば、左腕の稼動限界を超えるだろう。 やりようによっては、関節技に持っていくこともできる。 ドッペルゲンガーは舌打ちしながら吸着させていたワイヤーの先端にある吸着魔法を解除する。 

「往生際の悪い奴め!!」

 悪態をつく男の背後で、ワイヤーから開放された青年がそのまま飛行の勢いで離れながらもマジックガンを抜く。 体勢は最悪。 故にこそ、その至近距離でさえ照準も禄に合わせられない。 当然、発射しても当たらない。 魔力弾は狙いをそれ、明後日の方向へと飛んでいく。 

「ったく使えねぇ。 モードチェンジ、こいつでどうだ!!」 

 マジックガンが通常のデバイスモードへと戻しながら、イレギュラーは右手に予備のブレイドを抜く。 だが、相変わらずその身体は後退気味だ。 その頃には、ドッペルゲンガーも振り返っている。 青年は躊躇なくマジックガンの引き金を引いた。 マジックガンは通常のデバイスとして使うことが出来る。 威力故にマジックガンは止めを刺すのに多用することが多いが、通常の砲撃戦ができないわけでもないのだ。

「はっはぁ、喰らいやがれ!!」

「邪魔臭い!!」

 銃口から不可解の青年の魔力を食らった青の誘導弾が発射されていく。 引き金を引くたびに砲撃魔法の反動と砲撃音が彼の左腕を震わせた。 その連射されてくる弾丸を、ドッペルゲンガーはブレイドで叩き切る。 誘導操作のせいで、弾速度が目で追える程にまで低下している。 そこに、彼のグラムサイトが合わさればそれほど難しい作業ではなかった。 虚空を飛びながら、避けられるものだけは避けドッペルゲンガーが距離を詰めていく。 何発かそれでも食らっていたが、連射するせいで一発一発の威力が軽い。 そのまま強引に距離をつめ、再び近距離に間合いを戻していく。

 と、そこまで距離を詰めたドッペルゲンガーもまた、左手に”マジックガン”を抜いた。 開放される異常な魔力。 それが魔導砲モードなのは明白だ。

「せっかくのデバイスも、そんなんじゃ宝の持ち腐れだぜイレギュラー!!」

 その姿が、ふと残像を残しながら消失する。 ハッと青年が気づいたときには、背後に回り込まれようとしていた。 銃口が突き出すように左手から伸びていき、胴体に向けらていく。 唯でさえ当てる技術が無いのだ。 一番面積が広く回避し難い胴を狙うのは当然の工夫だっただろう。 左側から振り返りる青年の表情が凍りつく。 引き金を引かれるまで時間はほとんど無い。

「っぅぅぉぉぉ――」

 考えるよりも先に、条件反射のように体が動いていた。 青年が手持ちのデバイスに感応。 ”管理局側”が持ちえる”最速の演算速度”でシールドを紡いだ。 青の弾丸が青年のシールドに喰らいつく。 驚くべきことにそのシールドは魔導砲の一撃を受け止め明後日の方向へと弾き飛ばした。

「防いだ!?」

 イレギュラーの青年がマジックガンの砲撃を受け止められるわけがない。 その規模のシールドを使いきれる能力がかつての”クライド・エイヤル”にはないはずだからだ。 例外があるとすればそれはオリジナルのクライド・エイヤルだけである。 しかし、だとしたら身体からAAA+級の魔力があるはずだ。 なのに、それが存在しない。 不可解極まりない事象であった。 

(だが、こいつには二発目がある!!)

 もう一度、ドッペルゲンガーが引き金を引く。 しかし、その追撃にもそのシールドは驚くべきとに”耐え切った”。 ドッペルゲンガーの眼が見開く。 湧き上がったその驚愕の感情を、しかし彼には享受する時間が無い。 

「――はっ。 デバイスの使い方がなんだってドッペルゲンガー?」

 なぜならば、シールドの向こう側で体勢を立て直したイレギュラーがいるからだ。 その手には見慣れぬデバイスがあった。 青く輝く杖型のそのデバイス。 不思議なことにそれから”魔力”の反応が感じられない。 それに近い何かがあることはドッペルゲンガーにも分かったが、現状それ以上のことなど分からなかった。

「あんたこそ、”最新のデバイス”の何を知ってやがる!! 食らえよ、これが本当の”デバイスの力”って奴だ!!」
 
 ドッペルゲンガーの眼前で、そのデバイスが爛々と起動する。 展開される不可解な青のエネルギー。 青年の足元に広がるのは、”幾何学的”なテンプレートだ。 三大魔法の魔方陣と似ているが、それらとは違う未知の何かだった。

 杖の先端に集う、その未知のエネルギー。 危機感に突き動かされ、ドッペルゲンガーが回避行動に出る。 空中で何も無い空間を蹴り飛ばすようにして、虚空を転がるように真横に飛ぶ。 その横を掠めるように、凄まじい閃光が我が物顔で進軍した。

 それは、青の極光だった。 大口径の砲撃が、ドッペルゲンガーが先ほどまでいた場所を問答無用で蹂躙していく。 庭園の大気を飲み干し、エアフィルターの彼方まで抜けていく一条の閃光。 マジックガンの一撃などとは比べ物にならない程の威力があることは明白だった。

「な、んだと――」

 一撃を避けたドッペルゲンガーだったが、その眼光は険しい。 青年の握っている杖型のデバイスに視線を向けて、何かを思案していた。 と、青年は不意にそのデバイスを仕舞うと、代わりにブレイドを構え、罰が悪そうな顔でドッペルゲンガーに言った。 

「――タイムアップだぜドッペルゲンガー。 見ろよ、団体さんのお着きだ」

 庭園内部にエアフィルターを突き抜けて、転移してくる団体がある。 二人の周囲を囲むように円周上に広範囲に転移してくるそれらが一斉に実体を形作った。 杖型のデバイスを構え、彼らは同時に魔法を発動。 瞬間、庭園内が夕闇に飲まれ、広大な結界の中に飲み込まれていく。

「決着も謎の解明もお預けか――」

 ドッペルゲンガーが忌々しそうに呟くと結界が展開しきる前に逃げようと、頭上へと飛翔する。 結界が完成する前に逃げる算段だったのかもしれない。 無駄に管理局と敵対する意思は彼にはなかったようだ。 だが、その目論見はかなわない。 なぜなら、離脱ルートに最後に転移してきた人影があるからだ。

 庭園の高高度で実体化したその魔導師は、実体を得るや否や透明で巨大な妖精翼<フェアリーウィング>をはためかせる。 瞬間、完全に励起した翡翠の魔力が周囲を淡く照らした。 凄まじいプレッシャーだ。 感覚が鳴らした警鐘に、思わず彼らは動きを止めてその姿を見上げる。 その先には、”リンディ・ハラオウン”が居た。

「リンディ……ハラオウン――」 

 ドッペルゲンガーの口から、誰にも聞こえないほど小さな呟きが洩れる。 それは当然のように空気に溶けて消えた。 呟いた彼の顔に、戸惑いのような表情が浮かぶ。 何かを考えあぐねているような、そんな顔だった。 何かを言おうと口を開こうとして、しかしその唇が寸前で閉じられた。

「こちらは時空管理局提督、リンディ・ハラオウンです。 現在あなた方両名には、小規模次元震発生に関する疑いがあります。 よって事情聴取のため、双方武器を収め我々の指示に従ってください。 抵抗するならこちらは実力行使に出ます」

 握り締められた杖の先端がスライドし、翡翠の魔力刃を発生する。 威嚇としてはそれなりの効果があるだろう。 そもそも、航行艦のバックアップを受けているおかげで莫大な余剰魔力を持って戦場に現れている。 その時点で十分な牽制になっていた。

「……」

 ドッペルゲンガーが、右腕に握っているブレイドの刃を消すと無言で仕舞う。 戦闘の意思は無いということなのかと一瞬リンディが安堵したのもつかの間、その手に別の武器が展開されていた。 それは、一振りの刀だった。 鞘から取り出したそれを握り締め、少しずつ降下していく。

 リンディには当然意図は分からない。 ただ、視界に彼ともう一人を押さえるようにしてセオリーとして頭上を取った。 そのまま地面にゆっくりと降りていく。 もう一人の方は、手に握ったブレイドの刃は相変わらず青の輝きを灯したままで様子を伺っていた。 だが、結局彼も武装解除には応じていない。 つまりは、どちらも”投降の意思”は無いわけである。

(私だって分かっているはずなのに、どちらからも返答も念話もない……か。 私を知らない貴方? それとも……どちらも似ているだけの別人なの? なら――)

 武装隊員たちは既に各所に散り、結界担当班と迎撃班に分かれている。 戦闘が始まり結界破壊に二人が動けば立ち回る手はずだ。 沈黙が降りた場に、念話で局員たちにカウントダウンを開始。 リンディは一度大きく呼吸をすると宣言した。

「投降の意思は無いものと判断します。 これより管理局法に則り我々は武力行使に移ります」

 言うが早いか、翡翠の魔力剣が次々と虚空に生まれていく。 かつてのそれよりも更に多いだろう。 その膨大な数こそ、航行艦からのバックアップを受けている証であり会戦の狼煙だった。 

「やれやれ、こりゃ難儀だな――」

 イレギュラーはどうしたものかと天を会仰ぐ。 だが、何を思ったかそのままリンディに向かって飛翔した。 その瞬間、その姿が掻き消える。 ミラージュハイドの魔法で姿を隠したのだ。 その場から”消えた青年”。 それをグラムサイトの視界に捕らえていたドッペルゲンガーが舌打ちする。

 一方、彼らの頭上に居たリンディも驚きこそしたが、彼女には全て視えている。 スティンガーブレイドの詠唱をそのままに、薙刀の刃で迎え撃つ。

 翡翠の残光が空を奔る。 上段からの流麗な振り下ろし。 その斬光の後には、リンディの眼前に迫っていた青年の実態が現れた。 その青年はブレイドの魔力刃ごと叩き斬られ、真っ二つに身体を両断されながらその身体が魔力の霧に返る。

「リビング……デッド!?」

 リンディの驚愕をよそに、その青年が消えていく。 その顔には不適な笑みが張り付いていた。 彼の装備していたツールボックスやデバイスが重力に惹かれて庭園へと落ちていく。 それの回収は後でもできる。 消え去った存在への詮索は一時的に忘却して、リンディは次の獲物に狙いを定めた。

 残った方に意識を集中。 彼女としては最低一人は確実に抑えて確かめたいのだ。 故に、この領域からもう一人を絶対に逃すわけいにはいかなかった。 だから、手を抜くことなく自分の分野で全力で行くことを選択する。 必死ゆえに、手心を加える気は彼女にはないのだ。

「スティンガーブレイド……エクスキューションシフト!!」

 振り下ろされた杖の先にはドッペルゲンガーがいる。 険しい顔をしながら、それでも何かの魔法を展開していた。 そのたった一人に対する空間制圧魔法。 上空から飛来するは容赦のない弾幕。 翡翠の魔力剣が、この四年間に溜めに溜めた感情と共に空の涙の如く落ちていく。

 弾幕は次々と庭園の大地に突き刺さり爆裂した。 舞い上がる粉塵と翡翠の魔力光。 衝撃と魔力拡散の余波で確かに庭園内部の大気が震える。 直撃を食らえば、通常のAランク程度の魔導師では抗えまい。 それほどに過剰な威力がそれにはある。 だが、リンディは己のグラムサイトでその瞬間を確かに捉えていた。 

 リンディの視線が動く。 翡翠の瞳が、時の庭園の塔の入り口を見つめる。 その場所に、集いて光る青の粒子のようなものがあった。 転移光だ。 実体を取りながら現れるそれは、短距離の空間転移で広域攻撃をかわした黒の青年である。 結界を張られている今内から外への転移はできないが、内から内への転移ならば確かに不可能ではない。 彼はリンディの姿を一度だけ仰ぎ見て、塔の中へと消えていった。 リンディは部下に指示を飛ばしながらその後を追う。 逃がすわけにはいかなかった。

『結界班は結界の維持、残りは塔の包囲を!! 逃がさないように網を張ってください。 中には、私が行きます』

 部下の返事が帰って来る。 リンディはワイドエリアサーチ<広域探索魔法>とグラムサイトの眼を頼りに塔の内部へと突入した。 艦からのバックアップが途切れる。 だが、それでも所持している魔力は膨大だ。 何をどうやっても、彼がクライド・エイヤルであるならば抗えないだろう。 SSの魔力で編んだバリアジャケットやシールドであればクライドには絶対に抜けない。 例え、マジックカッターを使用してもワンランク威力が足りないのだ。 もはや、状況は詰んでいるにも等しい。

 しかし、そんな事実を認識していながらリンディはそれでも慎重に進む。 何をしてくるか分からない男だということは骨身に染みて知っていたからだ。 かつての不可解な魔力量の話も聞いている。 トラップやら奇襲やらを狙うために、あえて塔の中に逃げ込んだのだと考えれば合点がいくのだ。 庭園の上で戦うよりも、まだこの狭い塔内部の方が開けた場所で広域攻撃型と戦うよりはマシだろうから。

(でも、ここはもう四年前の事件のせいで内部はかなり道が制限されている。 袋の鼠だわ)

 螺旋階段から玉座の間へと続く道は瓦礫で塞がっている。 火力が小さいクライドには、それを除去する力はほとんどない。 できることといえば、螺旋階段の最深部から狭い通路を通って奥に行くこと。 だが、そこを通ってしまえばもう完全に逃げ場はない。 加えて、リンディのグラムサイトはクライドが隠れてやり過ごそうとしても範囲内ならば絶対に見つけ出せる。 どちらにしても、”彼一人”でこの状況から切り抜けられるわけがなかった。 

(クライドさん”一人”なら?)

 ふと、思い浮かんだ疑問。 瞬間、リンディは全速で塔の中を飛んだ。 すぐに見えてくる黄金色の螺旋階段。 螺旋階段は上下に道が通じており、エリアサーチは沢山在る部屋を虱潰しに探していた。 必然的に時間が取られる。 と、エリアサーチの一つが塔の上に向かう黒い人影を探知する。 だが、ほぼ同時にグラムサイトが下に高速で飛ぶ人影を見つけた。 どちらが本命か。 思案するのは一瞬。 その一瞬を遮るのは、部下からの通信だった。

『艦長引き返してください!! 庭園下部に向かう未確認航行艦を確認。 その艦から超高エネルギー反応!? この分だといつ砲撃してもおかしくありません!!』

「庭園下部に? ――やられた」

『艦長!?』 

 報告を聞いたリンディは、躊躇なく下へと降りた。 全速力で飛ぶ。 トラップの警戒などもはや無意味だ。 寧ろ、余計な抵抗を考えて必要以上に警戒しすぎたことが裏目に出ていた。 知っている相手だからこその、その手の内を理解しているという慢心を突かれた形だった。

「局員は結界を解除、安全のためにアースラへと緊急避難を。 アースラは局員を回収次第すぐに対艦戦の準備。 アースラと庭園の距離は?」

『後十五分もあれば交戦可能距離に届きます。 ですが――砲撃発射されました!!』

「――っ!?」

 黒の人影のそのさらに下、青白い閃光の華が咲いて消えた。 件の未確認艦から発射された砲撃だろう。 庭園の下部を貫通したそれのせいで、頑強な庭園の底が抜け離脱ルートが出来上がった。 砲撃着弾の余波で、庭園がその身を捩じる。 激震が庭園全体を襲い揺れ動その様はまるで、庭園の上げる悲鳴のようだ。 過去の事件のことも相まって脆くなった箇所が崩れ、どこかで瓦礫が落ちたような音がする。 だが、もはやリンディにはそんなことなどどうでも良い。

『庭園下部に砲撃着弾……貫通を確認!! リンディ艦長、それ以上下に行ったら次元空間に出ますよ!! それにもし狙って撃たれでもしたら!!』

「大丈夫、彼に私を撃つ気はないわ」

『か、艦長? 一体何を言って……』

「彼が撃つわけがないわ。 撃つなら、私が塔に入る前に局員や結界もろとも撃てば良かった。 側面に艦を隠していたのよ。 いつでも撃って結界破壊や局員の排除ができたのにそれをしなかったのは、必要以上に犠牲を出したくなかったからだわ」

『だからって――』

「大丈夫です。 それより敵艦の情報収集は?」

『やってます、ですが……局のデータベースにはこんな船の登録はありません。 型式不明!!』

「そう……では、停戦するように通信を送ってください」

『相手がそれで止まるとは思えませんが……』

「そのさい通信記録をとっておいて。 今は無理でも、それで何か情報が分かるかもしれないわ。 私はこのまま追撃します。 逃げられたらそのまま次元空間に出ますから、出た瞬間に回収して下さい」

『はっ』

「お願い……間に合って!!」
 
 速さが足りない。 黒の青年のその下には、既に次元空間が見えていた。 その遥か向こうには、灰色の装甲で覆われた何かがある。 速度差のせいで目に見えて距離は縮まっていく。 リンディの方が全速を出せば圧倒的に早いから当然だ。 だが、初めに読み間違えたせいでその距離が絶望的に遠い。 一か八か、念話を飛ばす。 彼が自身が待ち望んだクライド・エイヤルであったならと、その思いを乗せて叫んだ。

『クライドさん!!』

 瞬間、黒の青年が振り返る。 振り返った瞬間、その黒瞳が翡翠のそれを見た気がした。 しかし、その歩みが止まることはなかった。 青年の体が、魔力の粒子となって消えていく。 庭園に開けた穴の向こうから航行艦に転移回収されているのだろう。 青の粒子が虚空へと溶けていく。 転移光の残滓が完全に消える前に、リンディがその残影を通過する。 リンディは転移魔法を展開。 一か八か眼下に佇む航行艦へと転移を試みようと詠唱した。

 しかし、それでもやはり届かなかった。 それが完了するよりも先に航行艦がステルス装置を起動させたせいだ。 次元空間に溶けるように消えていく航行艦。 光学迷彩とジャミングのせいで、デバイスのセンサーが転移距離の算出を阻害され、転移魔法の術式演算が安全のためにエラーで止まる。 

「っ――」

 リンディは唇を噛む。 そのまま、砲撃で底が抜けた庭園の外へと出る。 当然、目当ての艦はもう目視することはできなかった。 

『未確認航行艦、センサーから完全消失。 艦長、回収準備が整いましたが……』

「……後を追える?」

『あの航行艦のステルスは完璧でした。 アースラの探査能力では残念ながら……』

「そう……艦を庭園まで寄せてください。 武装隊は再度庭園に降下して外部と内部の調査を。 ここで何かがあったのかもしれません。 彼らの行動目的となったものが、です。 私は一旦アースラに戻ります。 回収、お願いします」

『はっ』

 次元空間の彼方を見る。 その翡翠の瞳の向こうに移る空間には何もない。 だが、それでもリンディ脳裏には、一瞬振り返ってくれた青年の顔が残っていた。 相変わらず、目つきが悪いのは健在のようだった。 だが、その眼は確かに彼女には”彼”だったように思える。 

「あの人は生きていた……生きていて、くれたのね。 本当に……」

 念話は無視されるかと思っていた。 そうだ、無視しておけばよかった癖に”振り返った”。 その意味を、リンディは考える。 二人居た中で、後に残った方だけがアクションを取った。 偶然だったのかもしれないけれど、そのことに意味を求める自分がいた。 と、彼女は自分の体が魔力の粒子となって溶けていくのに気がついた。 アースラがトランスポーターで回収しているのだろう。 重力が消失するような特異な感覚に身を任せながら、リンディは今後のことを考えた。

 不可解なことに、リビングデッドが落としたはずのデバイスもツールボックスも発見されることはなかった。 見つかったのは残骸だけで、それからは詳しい情報は分からなかった。 








「――なにこれ」

 それが、リンディの友人であるレティ・ロウランの第一声だった。 だが、尋ねられてもそんなものはリンディにも答えられない。 だから、あるがままを伝えた。

「庭園にいたクライドさんたちの映像よレティ」

「いえ、それはなんとなく分かってるんだけど……え? これ作り物じゃないの?」

 顔を引きつらせながらズレた眼鏡を人差し指で押して直すレティだったが、リンディは残念そうに首を振るうだけである。 さすがに報告時に冗談を言うような友人ではないことは分かりきっている。 レティは直視できない現実を、なんとか直視しようとがんばっていた。 けれどやはり、頭痛がした。

「彼のそっくりさん、この次元世界にいったい何人いるのかしら」

「次元世界には三人は同じ顔の人がいるというのが俗説よ」

「なら彼の場合一人いたら十人はいると思った方がいいかもね」

「あのねぇレティ、あの人はキッチンに現れる黒いのじゃないのよ?」

「分かってるわよ。 でも、もう本当に私には彼の存在全てが意味不明だわ」

「これぐらいは可愛いものよ。 ほら、これなんてもっと凄いの」

 リンディが卓上のコンソールを弄って問題のそれを見せる。 現れたのは灰色の船だ。 アースラが長距離から捉えた航行艦の映像である。 それだけなら別段不思議ではない。 三叉槍の槍先にも似たその艦の映像。 リンディはさらに映像の一部を拡大。 船舶の横にあるロゴマークを拡大していることにレティはすぐに気がついた。 そして、いきなり噴出した。 

「”メイド・イン・アルハザード”? ぷ、くくく、ちょ、待って。 本当にこれ、冗談じゃないのリンディ」

 今度こそ、レティは現実を直視できずに挫けた。 口元を抑えながら、笑いを堪えるのを我慢していた程だから、相当にツボに入っているご様子だ。 眼鏡を外して、目尻から溢れた涙を拭う。

「レティ……貴女には冗談に見えるかもしれないけど、私たちアースラチームからすれば紛れも無い現実なのよ」

「御免なさいね。 でも無理よ。 誰に見せてもこれ、絶対に吹くわよ。 最近だとそうね……ちょっと前のJSウィルスと同じぐらいのセンスだわ」
 
 JSウィルス。 ジェイル・スカリエッティがばら撒いたウィルスの略称だ。 四年前、突如として広域次元通信網経由で爆発的に感染した情報テロの源である。 アレは管理世界ではキワい妄想の生み出した都市伝説ということで最近では落ち着いていた。 その際管理世界は少々ごたつきはしたが、結局はそれだけで済んでいた。

「アレはいくつか本物だって聞いているけど?」

「ええ、発明に関してはそうね。 それだけは本当かもしれないわ。 でも、くく、あんなの今時流行らないわよ。 今の管理世界は管理局を牛耳ってるとか言うシュナイゼル何某の陰謀のせいだとか言ってる奴でしょ? 最高評議会の人たちの姿も非公式ながら精査員たちと内輪に公開されたけど、皆ちゃんと生身があったじゃない。 何が脳髄だけで百年以上生きてるよ。 歴代の記録もちゃんと代替わりしてたのが”写真付きで残ってた”じゃない」

「それは、そうかもしれないけど……」

 だが、不審な点も多く残っていたことも確かだった。 そのことがリンディの中では引っかかっていた。 何が本当で何が嘘なのか、明確な検査を管理局は行ったし、外部の監査組織が出来上がって監査したが、結局ほとんど何も出てこなかったのだ。 四年も経った今では、もはや都市伝説扱いの代物に成り下がっていた。 さすがに当時はそれなりにメディアを騒がせたが、それだけだ。 騒がせ続けることはできなかった。

 無論、最高評議会については事実であるがある程度上級の幹部たち以外には機密のためそういう風に処理されているということをまだ若い二人は知らない。 ただ、それでもAMFなどの研究成果は本物だったと教えられていた。 そのせいで、ウィルスに添付された図面を用いて作られたAMF搭載兵器を量産しようと企む犯罪者が現れ始め、それに連動した事件も増えているとも。

 管理局としては頭が痛いことである。 せめてもの救いはあのAMFがまだ完全な代物ではないことだ。 魔導師ランクがBクラスならば、今はまだなんとか対処することができる。 まだまだ開発の余地がある不完全な技術であると言えた。 また、AMF搭載機は既に現れており、管理局によって”ガジェット・ドローン”と呼称されて警戒されている。

「それにジェイル・スカリエッティは広域次元犯罪者で、自己顕示欲の塊のような男だとプロファイリングされているわ。 要するに目立ちたがり屋なのよ。 だから名前を売るためにあんな茶番を仕組んだんじゃないかしら?」

 理路整然とレティは言う。 レティからすれば馬鹿馬鹿しい都市伝説の類だと思っているようだった。 そして、それはほとんどの管理局員が持つ認識である。 いや、管理世界の住人は皆そういう風にして決着をつけていた。 所詮は犯罪者の戯言であり、証拠不十分な世迷いごとであり、管理世界の秩序に対する悪質な嫌がらせだと言う風に思っている人が多いのだろう。 しかし、リンディにとっては違う。 おおっぴらにウィルスからの情報を鵜呑みにすることはなくても、何かがあるかもしれないとは思っていた。 それは当然、四年前の闇の書に事件に触れたことに端を発する思考である。

 あの不可解な事件の、その真相こそもはや知る術は無いが、それでも特に”シュナイゼル”という名前だけは良く覚えていた。 ”彼”と”彼”に関する謎もあるが、助けた”クライド”が言った言葉である。 簡単に忘れられるはずもなかった。

「あ、でもレイン提督とグレアム顧問官はまだ色々と調べているんだったかしら?」
 
「ええ、あのお二人はウィルスに記載されていたアジトらしきモノを確保していたから、仕事の合間に色々と調べてるみたい」

 レインとグレアムがシュナイゼルを追っているのは近しい人間なら知っている。 リンディも手が空いていたら手伝うこともあったが、彼女はどちらかといえば闇の書のことについて調べ直していた。 無限書庫に足を運んだこともあるし、過去の案件で事件を担当した退役局員に当時の話を聞いたりもしている。 リンディは次に闇の書が復活したときに事件を担当するつもりなのだ。 そのために艦の提督になった。 元々いつかはそういう方向へと行くつもりだったが、あの頃は切っ掛けが無かった。 だが、事件を転機として全力を注いだ結果、この四年で新しい立場を彼女は得ていた。

「人それぞれ思うところがある……か。 まぁ、こっちの方で彼の行方が掴めそうな任務があったらできるだけ貴方に声をかけてあげる。 そうそう、寄り道したおかげで修理ドッグが空いたから休暇は少し伸びるわよ」

「そう……随分とアースラも働き詰めだったから、丁度いい頃合だわ。 クルーの人たちにもようやく纏まったお休みがあげられるもの」 

「そうなるわね。 ついでに有給も消化しておきなさい。 その後だと多分、また取り難くなるぐらい仕事が舞い込んでるかもしれないしね」

「相変わらず人使いが荒いのね、ここは」

「その分お給料は出してるはずよ。 あと兼任してる執務官職のほうも、近いうちにどうにかしてあげたいんだけど……中々難しいわ」

「艦長が前線に出るのは本当は好ましくないし、副官的な人がいい加減欲しいんだけど……」

「私の方でも一応貴女と相性がよさそうな人を探してるんだけど、執務官で高ランクレベルの人は中々……ね」

「ちょっと高望みしすぎなんじゃないかしら」

「足手纏いを寄越したなんて思われたくないの。 適当なのでいいならそれこそ簡単に済むけど、貴女のお爺さんの目が光ってるから生半可な相手は無理よ。 後、貴女に近い立場になるから独身の男も不可能で、更に難しくなってるわ。 正直、頭が痛いんだけど……」

「お爺様……」

 嫌な暗躍だった。 そのせいで、無駄に仕事量が増えている事実がある。 リンディは顔を引きつらせて愛想笑いを浮かべることしかできなかった。

「愛されてるわねリンディ」

「いい加減、過保護すぎる気もするけど……ね」

「そうね。 さてと、これで今日の業務も終了。 どう? 久しぶりに食事でも」

「いいわよ」

「じゃ、後で合流ね」

 立ち上げていた仕事用の端末を閉じ、帰り支度を始めるレティ。 リンディもまた、支度をするためにレティの執務室を後にした。

 数日後、長期休暇を取ったリンディはかねてより誘われていた同窓会へと足を運んだ。 だが、この時リンディは気づいていなかった。 人知れず、事態は水面下で動いていたということに。

――最後の幕は、既に人知れず開幕していた。

コメント
謎が謎を呼ぶ展開w

りんでぃが絡んできたのでそれだけでも満足感があるなぁ
【2011/01/29 12:25】 | 名刀ツルギ #qx6UTKxA | [edit]












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