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私様奮闘記 01

 2011-01-27
※注意

 これは百万ヒット記念(?)の憑依奮闘記のIFストーリーです。 ダークホースなお方がメインになので許容できない人は拒絶反応に注意してください。 また、IFなので本編設定が変更されていたり熱血乙女アクションものだったりするかもしれないので意味も無く17禁ぐらいにしておきます。 それでも許容できる人はいつものようにどうぞ。


















 その張り詰めた空気の中に、私様はいた。 元凶たる二人は数メートル程距離を保ったままで睨みあっている。 とはいえ、人が変わったかのようにほとんど無表情に近い今の二人を見ていると、私は少し奇妙な感慨を覚えた。

 対峙する二人の少年は私にとっての友人に当たる。 どちらとも仲はそれほど悪くない。 執務官の彼――クライド・ディーゼル君とはちょっとした事件で知り合い、それをきっかけになんとなくメル友になったのだが、もう一人の黒髪の少年――クライド・エイヤルとは学校で色々と馬鹿をやっていた程度の関係である。 とはいえ、それなりにやはり仲は悪くないのでこの場合どちらかを一方的に応援するという気は起きなかった。

「――さて、始めるかの」

 二人の間にいる老人が、右手を上げながら呟く。 リンディちゃんのお爺ちゃんであるヴォルク提督だ。 孫馬鹿だというのが嫌でも分かるほどに、とにかくリンディちゃんを可愛がっている。 私もなんとなく彼女を妹のように可愛がっているのは周知の事実だけど、そんなのとは比べ物にならないほどなのである。 うん、とりあえず滅茶苦茶。 しかも随分とそのお節介レベルが高い。 その膨大な魔力量に比例するのではないかという程に、である。 同じ乙女としては、リンディちゃんに少しばかり同情してしまう。 だってそうじゃない。 

「仕切りなおしの第二戦……ね。 一体いつ第一戦があったの?」

 思わず尋ねる私に、隣にいたリンディちゃんが困ったように答えてくれた。

「えと……私が陸士訓練学校を卒業する前ぐらいです」

「ふむふむ、それでどうして第二戦なわけ?」

 可笑しいのはそこだ。 私様の灰色の脳細胞がその答えを予測しつつも、しかしそれでも現実を直視するために聞いてみろと訴えてくる。 何故態々聞くのかと言われれば、きっと誰もが不思議に思うことだからだと答えるわ。 だって、考えても見てよ。 Sランク相当の執務官と、当時学生のCランク魔導師(力量的には絶対にB?ニアAぐらい)よ。 勝負になるわけないじゃない。

「その、なんといいますか。 クライドさんが勝ちかけてたんですけどなんとなく有耶無耶になったというか、お爺様の乱入で流れたというか……その、そんな感じですよ」

「なるほど……また”あの馬鹿”が何かやりやがったのね」

「ええ、卑怯にも圧勝しかけてました。 あのディーゼルさんが文字通り手も足も出てませんでしたから」

 圧勝? 圧勝と言ったのだろうかリンディちゃんは。 これは聞き捨てならない単語ね。 でも、卑怯という件がなんともあいつらしい。 あの馬鹿はそういう奴である。 何を考えているか分からないことを武器に、時たまとんでもないことをやらかす。 そんなイレギュラーメーカーなのだ奴は。

「じゃあ今日はどうなると思う?」

「えーと、普通にやったら絶対にディーゼルさんが勝つはずなんですけど……クライドさんですから」

 そう、普通ではないから困る。 何かやってくれそうで期待してしまうのだ。 でも、きっと意外性だけではきっと長続きしない。 しかも青空教室で奴がのたまっていたが、一度使って見せた戦術は基本的に効かないと考えるという。 となれば、そう何度も同じ相手と戦うことを彼は良しとしないだろう。 別の手を見せるかいなか。 そして、それがディーゼル君に効いて実行可能かが問題となる。

 私様はどちらが勝っても別にかまわない。 例え、勝った方がリンディちゃんの婚約者になろうとも、だ。 だって、そうじゃない? 別にあの二人がリンディちゃんに何か害を及ぼすかと考えてみれば、考えるだけ無駄のような気がしてくるんだもの。

「まっ、お手並み拝見といきましょうか」

 リンディちゃんが一体どっちに勝って欲しいのかは聞かない。 さすがに、この子にはまだ早すぎる気もするからだ。 とはいえ、経験の無い私が考えているよりも幾分か世間のお子様の成長は早いらしいから、案外上手く行くこともあるのかもしれないけれど。 さすがにいくらなんでも早すぎると思うのは私がお節介焼きだからだろうか? 自問自答しながら、しかし私はふと思った。 結局のところ、どちらが勝ってもこの妹分を玩んだら鉄鎚を下してやらなければならないという私様の姉心には微塵も代わりはないのである。 であればなるほど、私様は今までのように生暖かく男共の馬鹿騒ぎ<奮闘>を眺めながらこの子を見守るだけでいいのだろう。

 一人っ子だからか、どうにも年下のこの子についつい構う私は、もしかしたら保母さんとかになっても良かったかもしれないと思うこともある。 でも、やっぱりそれは無いだろう。 何故なら、陸戦魔導師としてあの学校に行かなければ私は彼らともリンディちゃんとも、あの人にも出会わなかっただろうから。 だから、それは少し違う気がするのだ。 IFは考えるだけなら面白いけど、それが現実に反映されることがないからIFなのだ。 思考遊び以外の何物でもないから暇つぶし以外にはならない。 もっと考えるべきことは一杯あるのだ私様には。 

「では――初め!!」

 お爺ちゃんが号令し、その瞬間にディーゼル君が駆け出していく。 短くなる距離の中、対照的にクライドは動かない。 ただ、ニヤリとその口元が動かして不気味に佇むだけである。 私は思わずゾクゾクと背筋に奔るものを感じた。 知らず知らず握っていた掌には汗が握ってるようにさえ感じて呼吸さえも忘れそうになる。

 ディーゼル君のデバイスは杖型のストレージ。 先端には彼の得意魔法ジャベリンが展開されている。 魔力で作り出した槍の矛先が凄まじい速度で突き出される。 問題なのはその攻撃力だ。 魔法とはすべからく込められた魔力量と術式強度の総和で威力が決まる。 この場合、Sランクに数えられるディーゼル君の魔力は低ランク魔導師にとっては致命的な威力を容易に叩き出せるのである。 端から勝負にならない。 仮にそれを止めるとすればSSかSかAAA程の使い手でなければ難しい。 基本的な対抗上下幅がワンランク前後ぐらいでなければ厳しい。 それが常識。 だからディーゼル君の攻撃をあの馬鹿は絶対に受け止めてはいけない。 なのに、あいつはやはりそのまま動かなかった。

 突き出された槍が呆気ないほどにクライドの身体を突き抜ける。 思わず非殺傷設定を忘れたのではないかと私は呆然としかけた。 だが、それはディーゼル君も同じだったのだろう。 崩れ落ちようとしているクライドを訝しい目で見ている。 と、そうして倒れそうになったあの馬鹿の身体がいきなり轟音と閃光を撒き散らしながら破裂した。

「――キャッ」

「あの馬鹿――」

 咄嗟に驚いてリンディちゃんの身体を抱くように反射的に庇う動作をしてしまった私は、耳鳴りとチカチカする目を瞬きさせる。 閃光は一瞬でも、その一瞬で恐らくは全てが終わるだろう。 離れていたおかげで、あのスタングレネード混じりの幻影の効果はそれほど私たちには通じない。 とはいえ、やはりいきなりやられると目がチカチカする。 その間にクライドの方から爆発的に魔力が開放されるのを感じた。 どうやらクライド流最終奥義とかいう胡散臭い奥義で決めにかかったらしい。 Sランクのリンディちゃんのシールドやジャケットを抜けるのだ。 スタングレネードで忘我状態にした後、身動きできないうちに決めようというのだろう。

 それにしても、やり方がセコイというか汚い。 一対一の決闘で、対峙した時にはすでに幻影と入れ替わってその辺りに隠れていたのだろう。 ミラージュハイドという姿を隠す魔法をあいつは使う。 それと幻影を絡めたのだろう。 しかし、あの幻影は戦闘前に普通に喋っていた気がするのだが……やはり口元で喋ったりして誤魔化していたのだろうか? あいつなら腹話術もできるかもしれない。

 なんて、馬鹿なことを考えている間になんとか目のチカチカが納まってきた。 私は目を凝らして視界を確保。 すると、そこには予想を裏切られた光景広がっていた。

「え――」

「嘘――」

 思わず、リンディちゃんと私は呆然とした。 頭ではクライドが負けることが普通で勝つなどは不可能だと思っていたが、もしかしたらなんかやってくれるかもしれない、なんてことを期待していたのかもしれない。 この驚きの根源は、きっと当てが外れたことに対する物足りなさから起因したものだろう。

 目の前でクライドの身体が倒れる。 ドサリとトレーニングルームに倒れたクライドの前には、バリアジャケットを失って本局の制服姿を晒すディーゼル君の姿がある。 既にジャベリンの魔法は解かれ、デバイスを仕舞うところだった。 ただ、その表情には驚きがある。 恐らくは、クライドに純粋にジャケットを破壊されたことに驚いているのだろう。

「――ふむ、勝者ディーゼル君」

 魔力ダメージでノックダウンしたクライドをそのままに、お爺ちゃんがそう言う。 それで我に返った私たちはとりあえず三人の下へと向かった。

「えーと、一応非殺傷設定だから彼は単純に気絶してるだけだよ」

 ディーゼル君が頬を掻きながら言う。 その顔には少しばかりの困惑があるのを私は見逃さなかった。

「というわけで、婚約者はディーゼル君に決まりだ。 ディーゼル君、くれぐれも節度ある付き合いをしてやってくれたまえ。 ああ、何かあればすぐに私が飛んできて抗議しつつ講義するからそのつもりでいたまえ。 勿論、君が何度か体験したスペシャルな魔法言語でだ」

 軽く冗談めかして笑いながら、お爺ちゃんは気絶したクライドに浮遊魔法をかける。 どうやら、医務室に連れていくつもりのようだ。

「さて、後は若い二人に任せるとしよう。 フレスタ君、彼を運ぶのに付き合ってくれるかね?」

「え? は、はい。 分かりました」

 気を利かせるわけではなかったけれど、私はなんとなく居づらくなってお爺ちゃんについていく。 残されたリンディちゃんとディーゼル君がギクシャクしながら余りに呆気なく引き下がるヴォルク提督とお互いに視線を交互に動かす。 なんとなく、微笑ましいと思う私はもしかしたら相当に精神的成長を遂げているのかもしれない。

 その後、医務室のベッドにクライドを寝かせた私とお爺ちゃんは軽く世間話をしてから別れた。 あれでヴォルク提督は忙しい御仁だ。 後を任せることに申し訳無さそうな顔をして退室する提督を見送ってから、私は適当にジャックした椅子の上で馬鹿の寝顔を眺めた。

 恐らくはこいつは勝つ気満々だったに違いない。 何をどういったところで、この馬鹿に負ける気などこれっぽっちもなかっただろうことは容易に想像できた。 こいつが切り札を切るときは絶対に勝ちに行くときである。 アレだけ学生時代に他人に見せないことを貫いてきた男だ。 それはディーゼル君に対しても代わるまい。 私だって一体それがなんなのかを説明してもらっていない。 例外はリンディちゃんだけ。 そんな秘密のベールにひた隠しにしてきたものをつぎ込んでまで勝ちに行って、負けた。 目覚めた馬鹿が一体どういう顔をするのか、少し心配になった。 達観しすぎた部分と、子供っぽいところが同居するこの男のことだ。 強がってみせるか、それとも悔しがるか。 いや、そうじゃないのではないだろうか。 多分、いつものように苦笑いしながら取り繕い、業とらしく凹んでみせるだけの気もする。

「――あんたがもし本気だったんだとしたら、ちょっとは泣いたりするのかな? ねぇ、この意地っ張り屋め」

 なんとなく、魔力ダメージで深い眠りに落ちているクライドにデコピンをかましてやる。 といっても、打つのはデコではなくて鼻先だ。 狙いを定め、ぺチンと鼻先を打ってやる。 その瞬間、クライドが寝苦しそうに眉ねを寄せる。 なんとなく面白くなって三連打してみた。 すると、クライドがいきなりくしゃみとともに身体を跳ね上げた。

 私自身は寝相が悪いほうだからなんともいえないけど、しかしこれは凄いわ。 思わず感心した。 身体ごと跳ね上がったクライドが敵襲とでも勘違いしたのか、私がいない反対側へと跳躍し、ベッドの端を踏み外して着地に失敗。 頭から床へとダイブした。 後頭部からモロにだ。 あれは間違いなく痛い。 だがそれでもそのまま動きを止めないように床を転がり、左手で後頭部を抑えながら右手では柄型デバイスであるブレイドから青の魔力刃を展開。 キョロキョロと周囲の様子を伺っている。 

「――むぅ? 犯罪者からの野営地への奇襲攻撃かとも思ったが違う……のか?」

「おはよクライド。 それにしてもあんた、随分とベタな”武装局員”の反応するじゃない」

「煩い。 これは職業病だ。 ……で、俺はどうしてここにいるんだよ。 ここ、本局の医務室の一つだろ」

 よく分かっていないらしく、首を傾げながら尋ねてくる。 若干寝起きのせいで眼つきが悪いが、それはいつものことだ。

「あんた覚えてないの? ディーゼル君とリンディちゃんを賭けて戦って負けたんでしょうが。 だから、ノックダウンして医務室送りと。 まぁ、つまりはそういうわけよ」

「……負けた、俺が?」

「ちょっと見えなかったけど、あんた負けてたじゃない。 戦闘時間は一分も無かったわよ。 奥義を使って負けてたじゃない」

「……あ、あーーーー、思い出した!! くそ、そうだよ。 あの耄碌爺、ディーゼルに変な入れ知恵しやがってからに。 おかげで初見の癖に俺の幻影防ぎやがったんだよあいつ!! アレが無きゃ絶対に勝ってたっつーの!!」

 悔しそうに頭をかきむしりながら、不快感を露にする。 でも、それもすぐに止んで大人しくなった。

「ちっ、だが何はともあれ負けは負けか。 勝てば官軍、負ければ賊軍。 敗者は全てを失うが運命<さだめ>。 リンディはどうなった」

「とりあえず、ディーゼル君と二人っきりにしたわ。 だから、今頃二人で色々と話しでもしてるんじゃない?」

「そうか。 ……なぁ、フレスタ。 リンディの奴、嫌がってたか?」

「うん? あー、あんたが負けたことに驚きはしてたけど嫌悪はしてなかったかな? 元々ディーゼル君とは知り合いなんだし、別にリンディちゃん的には有りだったんじゃない」

「そうか……ならいい」

 疲れた、とばかりにベッドに倒れこむクライドはそのまま白のシーツを頭から被る。  すると、しばらくしてからクライドはその上で奇妙に身体を揺らす。 これを形容する言葉は無い。 無いが、だからこそ私はあえて尋ねてみた。 異文化コミュニケーションは根気強い対話が大事である。 変人と会話するにはその基本を忘れてはいけない。

「何してんの?」

「海草のように揺らめいては心を空にしているのだ。 これが宇宙意思なのか、それとも自業自得なのか、運命なのか、偶然なのか、考えることが山のようにある。 だがしかし、今はただ何も考えないで良い海産物になりたい。 嗚呼そうか。 ワカメよりも貝だ。 俺は今無性に貝になりたいのだ。 閉じこもろう、内なる世界。 外に広がる夢も希望も枯れ果てた、無情なるこの世界から脱却するそのために。 いざ、イザ、IZA――」

 シーツの向こう側から、意味不明な言葉が帰って来た。 付き合いが長い私でも、さすがに解読が難しい。 やはり、こいつの思考回路は変だと思う。 まともなときと可笑しいときの落差が激しすぎる。

「海草でも貝でもどっちでもいいけど、要するに凹んでるのを身体全体で表現してるわけね?」

「ああ、分かりやすくコンパクトにまとめるとそうなる」

「ふーん、じゃああんたはもしかしなくても本気だったの?」

「今はまだ微妙。 しかしそうなってもいいかなと思っていたのは本当。 時間が必要だった。 お互いに。 ”あいつ”にはきっと、もっと沢山」

「可愛いもんねーリンディちゃん」

「将来有望だったぞ」

「まぁ、でもあんたは脱落したけどね」

「うぐっ。 お前、慰めたいのか傷を穿り回したいのかどっちなんだよ。 ここは友人としてだな、慰めて新しいフラグをゲットするか熱い友情で立ち直らせるかの二者択一がモアベターな人間の選択のはずだろう」

「はぁ? どうして私がそんなことしてあげなくちゃいけないのよ」

「どうしてって……」

「何よ。 あんた、私様に慰められたかったの?」

 言われてシーツから顔を出したクライドは、そのままふと天井を見上げた。 どうやら私様に慰められている姿を想像しているようだ。 確かにこの私様が慰めれば大抵の男は立ち直るかもしれない。 でも、やっぱりそれは違うと思う。 結局のところこの件に関しては私は部外者なのだ。 見守る以外の立ち位置は無いだろう。

「や、止めろ。 分かった、分かったから撃つな。 命は惜しい、惜しいぞ俺は……」

「何故そこで震えるのよ。 そこは私様の無限大の愛で癒されて復活し、ディーゼル君に再戦するフラグが立つはずでしょうが」

「いや、無限大の恐怖で脅されて逃げ出す姿しか想像できなかった。 ふっ、スナイピングバスターで追い回される姿が目に浮かぶな」

「そう? でもあんたにしては貧困な発想だわ。 今の私なら勿論ペネトレーションバスターだと思うけど?」

「へ、平和な世界への逃亡――」

 青くなって駆け出す愚者を前に私は冷静に高速移動魔法を展開。 瞬時に入り口を塞ぐと足を止めた愚か者にヘッドロックしてやる。 

「ぐぇ……や、病み上がりになんてことをしやがる」

「医務室では走らず騒がずが基本でしょうが。 ふふ、また一つ悪を撲滅したわ」

「うぐぐぐぐ……」 

「あ、そうだ。 どうせ今日も明日もお互い暇だし、クラナガンにでも繰り出す? 全部あんたの奢りでね。 お優しい私様が特別に慰めてあげるわよ」

「アホ、ただ暇を……俺で潰したいだけだ……ろうが」

「丁度良い映画やってるわ。 確かフリーのデバイスマイスターが作った助手型ユニゾンデバイスとその男が、休暇中に犯罪者に追われて戦う奴。 えーと題名はたしか『室長への愛が止まらない!!』だったっけ?」

「てめぇこの、そりゃデバイスマイスターに成れなかった俺へのあてつけか」

 ああ、そういえばこいつ第一志望であるデバイスマイスターでの入隊枠で落ちたのだ。 その後の二次募集で陸か海の魔導師に給料が良さそうな方を選んでエントリー。 つまりは、海を選んでそれで入隊したというわけである。 その後で私と同じように”陸戦”の武装局員になった。 こいつは本来総合だが、どういうわけか陸戦魔導師の殻を被っている。 かなり前に私様と一緒にランク昇格試験でBランクをとってきたところだ。 いやぁ、こいつを使うと随分と楽でいいわ。 次はそろそろAにチャレンジしてみようかな。

「どうせまだ諦めてないんでしょ」

「当たり前だ。 このままでは俺はただのデバイスマニアで終わってしまう。 今でも嫌がらせの如く転属願いを出しまくって人事部を苦しめているのだ。 その努力はきっといつか報われるはずだ」

 入隊して一日目に転属届けを出したこの男の扱いは先輩方も大変に困っていた。 知り合いであるこいつの管理を私に丸投げするほどだから、その困りようが伺える。 というか、勝手にコンビ扱いした上にセットで運用するのを止めてくれないだろうか? このままでは私様に好意を抱く見目麗しい白馬の王子様がやってこれない。 なんという由々しき事態だろう。 飢えた男共に対する安全装置としては非情に優秀なのだが、いかんせんそれが強固な足枷にもなっているという不幸具合。 上下関係をしっかりと躾けているおかげでなんだかんだ文句を言いながらも私には従順であるが、そのせいで武装隊内では私はこいつの彼女扱いである。 待て、落ち着け君たち。 私様にだって選ぶ権利ぐらいはあるはずでしょう? お願いだから私から女の幸せを奪い去るのはやめて頂戴。

「勿論、それだけではないぞ。 しっかりと研究室に乗り込んでプロの方々にデバイスのメンテを頼みつつも自分を売り込んだり、ちょっと勉強を見てもらったりして日々邁進しているのだ。 俺はまだ進化しているのだよ。 クライド・エイヤルは武装隊員で終わる器ではないのだ。 何故それが人事部の野郎に分からないかがサッパリだ。 効率的に使おうよ人材。 遊ばせる暇なんて無いだろう管理局にはさ」

「はいはい。 分かったから、さっさと行くわよ」

 尚もいかに自分がデバイスマイスターになるべくして生まれた人間なのかを声高くのたまっているこの男の耳を引っつかむと、私はため息交じりに医務室を出る。

「痛い、耳はマジで痛いって。 耳たぶが伸びる、いやこのままだと取れるっつーの!!」

「いいじゃない、そのまま沢山伸ばせば常人の言葉もあんたの耳に届くようになるでしょうよ」

「馬鹿な、俺はいつでも人の話には真摯に耳を傾けているぞ」

「聞くだけじゃあ意味無いでしょうが。 行動に反映させなきゃまったく意味無いじゃないの。 ほら、ついでに鼻も伸ばしてあげるから動物園にでも行ってみたら? 珍獣扱いしてもらえるわよ」

「なんだと、武装隊の同期からは早くも名物局員とまで呼ばれたクライド君を人面象とでも偽って売り飛ばすつもりか!? く、さすがは暴君。 人身売買まで厭わないほどの暴政を無辜の民草に強要するとは恐ろしい娘よ……」

 作戦変更。 やっぱりこいつの口をまず初めに封殺するべきだわ。

「ふぐふぐぐぐぐぅ」

 更に私様の悪口を言いそうなので、口と耳を掴んだまま引っ張ってやる。 するとさすがに私の善意に満ち満ちた説得が通じたのか、数メートルも歩かない内に奴は大人しくなった。 反省しているようなので開放してやると、すぐに耳と口を押さえながら摩りはじめる。 無言で睨みつけてくるが、クライドに睨まれてもまったく全然怖くない。 昔ならともかく、今ではもう大体どういう奴か分かっているのだ。 この程度の戯れで、この男がキレることはまずない。 匙加減は十分に把握しているのだ。

「あのなぁ、いつもいつもそういう手段に出るのはどうかと思うぞ。 温厚なクライド君でもふとしたことをきっかけでキレることもある」

「だって、アンタにはこうすれば一番手っ取り早いじゃない」

「こ、効率を重視するだけでは人はついてこない!!」

「大丈夫、アンタ以外にはとーっても優しいから」

 とびっきりの笑顔で答えてやる。 すると、あまりにも私様の笑顔が眩しすぎたのか、直視できずにクライドは顔を背け、何を思ったか失礼にも足早で逃げ出し始める。

「あははは、待ちなさいクライド?♪」

「はっはっは。 捕まえてごらんフレスタ?♪」

「待てー待てったら??♪ 今なら二、三発で許してあげるから??♪」

「いや??撃たれたくない??♪」

 波打ち際で追いかけあうカップルの如く、私はとても甘い声で言いながら馬鹿をやはり早足で追いかける。 手に杖型の支給品デバイスを力強く握り締めているのはご愛嬌である。 嗚呼、神様。 少しばかり元気付けてやろうかなと血迷った思考をしてしまった私をお許しください。 どうやら、そんな必要も無いほどにあいつは立ち直っていたようです。

 その後、当然の如く捕獲した私は一旦部屋に着替えに行ってから合流。 首都クラナガンに向かってトランスポーターで転移した。

「さて、恐れ多くもこの私様がデートしてあげるんだから、しっかりとエスコートしなさいクライド」

「ど、どどどどどういうことだ。 気がついたら私服に着替えてクラナガンにいる。 はっ、これが噂に聞く伝説の暴君だけが使いこなせるという力……”絶対遵守の力”か!?」

 頭を抱えて訳の分からないことをのたまうクライドの手を引っ張りながら、私は久しぶりにミッドチルダの街を堪能しに出た。 ああ、そういえば自己紹介がまだだったかしらね。 私の名はフレスタ・ギュース。 今年で十七歳になる花も恥らう生粋の乙女よ。 断じて”暴君”とかいう妙に恐ろしく聞こえる物騒な存在ではないから、間違えないようにね。 美人のお姉さんとの約束だぞ?
















私様奮闘記
そのいち
「それは、乙女に大切なもの」















 クラスには大抵一人、男の輪の中に入って普通に遊べる女の子というのがいる。 フレスタ・ギュースはどちらかといえばそういう子だった。 彼女は幼少時から通して男を怖がるでもなく、一緒になって遊び男女とも区別無く友達を作ってきた。 どちらともバランスよく遊んできたせいで、どっちとも仲良くなれる。 割と強引な性格だが余りそれがマイナス面として他人から受け取られないのは、一重にそのバランス感覚が優れているからに他ならない。

 端的に言えば嫌味が無いのだ。 天真爛漫とは少し違うが、明け透けにモノを言うので言われた本人は大抵苦笑するしかない。 ぐうの音も出せずに終わるように言葉を叩き込んでは、持ち前の強引さで押し切る。 そのコンビネーションは対人関係では一つの武器となっていた。 当然、腹黒いタイプとはある意味で対極に位置するせいか、そういうのからは大抵距離を取られる。 故に、クライドのフレスタに対する苦手意識というのは普通に高い。 高いが、しかしそれでも普通に仲良くなってしまえるのがフレスタ・ギュースのフレスタ・ギュースたる所以であった。

 だがしかし、それでも限度というものがあるはずだった。 その境界を多分に両者ともに自覚し、明確に防衛線を張っていたはずだったのだが悲劇は既に起きていた。

「うぇ……頭痛いし気持ち悪いし体が動かないわで最悪じゃな――んん?」

 何かが可笑しい。 そのことに気がついた瞬間、フレスタは寝起きで満足に思考できない頭をフル回転させる。 可笑しい。 状況が掴めない。 何がどうなってそうなればこうなるのか。 寝起きの頭をローギアからセカンド、サードへと急激に思考のギアを上げていく。 やがてそれがトップになった数分後には、フレスタは見事に青ざめていた。 

「な、何故に私様が裸で見知らぬ部屋にいるのかしら。 そして、散乱した私の服らしきものの上で何故あの馬鹿が気持ち良さそうに眠っているのは何故? フェチという名の変態なの?」

 口に出してさらに困惑の度合いを深くしたフレスタは、すっかり混乱したまま頭を抱える。 冷静に冷静に考えていくが、どうにも昨夜のことが思い出せない。 ズキズキと痛む頭の理由を考えれば、その現実を直視することを拒絶する頭が答えを認識させないようにと邪魔してくるような気さえする。 しかし、そうも言ってられない。 状況証拠はほぼ確定している。 それは致命的な事実となって訴えていた。

(ま、さか……この私様が酔い潰されて……あの馬鹿といたした? 酔った勢いで? え、冗談でしょ!?)

 思い至った結論にブルリと全身が震える。 酔った勢いで、などというのは偶に聞く話だが、まさかそれを自分が体現することになろうとはフレスタ自身想像もしていなかったにちがいない。 しかも相手があのクライドである。 よく知りもしない赤の他人よりはまだ知っている分だけマシだったかもしれないが、この場合どっちにしろあまり変わらない。

「ぐすん……ぐすん……嘘でしょ。 初めての人は白馬に乗った王子様は無理でもそれぐらいの人だって決めてたのによりにもよって……うう、こうなったらこいつを殺して私様も後を追うしか……」

 マジ泣きしながらフレスタは床に落ちかけていた毛布を引っつかんで磨き上げた悩ましい肢体を隠す。

 この世の終りだとばかりのマジ泣きだ。 せめて、せめてこれでクライドのことを愛していたのであればまだ受け入れられるものがあったかもしれない。 しかし、今のフレスタにはこれっぽっちもそんな思考は沸かなかった。 頭に浮かぶのは既に極刑の二文字だけ。 ならば答えは決まっていた。

 寝ている男はそのまま微動だにしない。 フレスタはそろそろとシングルよりも当然大きいダブルベッドから降り、辺りに放置されていた自分のデバイスを手に取っては展開。 泣きながら魔力を収束させ、ペネトレーションバスターのチャージに入る。 更に、無言で非殺傷設定を解除した。 眠っているクライドにはどうやっても防げないだろう。

「っ……」

 持て余す感情をそのままに、チャージを終えた砲撃のトリガーを引こうとする。 だが、しかし寸前でフレスタは展開していた魔法を霧散させる。 

「馬鹿、何考えてるのよ」

 自分に言い聞かせるようにしながらデバイスを胸に抱く。 ひんやりとした杖の感触に思わず彼女は我に返った。 『ついカッとなってやった』では済まされないことをしようとした自分に、思わず愕然としながらフレスタは杖型デバイスをさらに強く胸に抱いた。 そうして、今度は非殺傷設定のスナイピングバスターを零距離でぶっぱなしてクライドを魔力ダメージでノックダウンさせ、すぐに目覚めないようにしてからパンツ一丁になっている男を杖でひっくり返して衣服を確保。 着替えるとそのまま男を残して部屋を出る。 既に、フレスタは理解していた。 ここがそういう場所だということに。 そのあからさま過ぎる部屋に入ったのは初めてだったが、しかし知識として彼女は聞いたことがある。

「ははは、ラブホテルねぇ……やっぱりそう……そうなのね。 若き日の過ちという奴なのね? 私様一生の不覚……」

 こんなはずじゃなかった。 そう呟いてから、一人フレスタは本局へと帰っていった。 次にクライドと顔を合わせたら、一体どういう顔をすればいいのかと盛大に悩みながら。 

 



 








 寝ているとき、目覚ましなどの電子音で起こされたら寿命が減る。 いつもいつもクライドはそう思っていた。 あの独特の、人の神経を逆なでし安眠を妨害する装備は革命的な発明であると理解しているにも関わらずクライドは苦手だった。

「っ、うるっせーな」

 気持ちよく寝ていたというのに、何度も何度も鳴り響く。 寝ぼけ頭を振るい、バシバシと部屋に置いてある目覚ましの位置を殴る様な勢いで叩く。 だが、本来あるはずの手応えが返ってこない。 何故か痛む全身に力を入れて体を起こすと、クライドは首を傾げた。

「わーっつ? 何故俺はこんなところで寝ているんだ」

 昨夜の記憶を掘り起こしながら、電子音を奏でている受話器の元へと向かう。 そうして、なんとか思い出せたクライドは煩く鳴り響いている受話器をとって耳元に当てた。

『お客様、そろそろお時間なのですが延長しますか?』

「……あー、一時間延長で」

『畏まりました』

 それだけ言うと、受話器の向こう側の声は消えた。 今自分たちがどういう場所にいるのかを理解していたクライドは、なんとなく気恥ずかしげに後頭部をかく。 そうして、いるはずのフレスタの姿を探す。 が、その姿は無かった。 ベッドの上には何も無いし、部屋のどこにも面影が無い。

「あいつ、先に帰ったのかよ。 ったく、ここも俺のおごりか? あいつの乙女理論でいくと男は割に合わなさ過ぎるぞ。 マジで彼女ならともかく、普通同僚なら割り勘が基本だろうがよ」

 ため息を一つ吐いて、クライドは生まれて初めて入ったラブホテルとやらの内装を見る。 昨夜はそんなことをしている暇はなかったし、酔っていた。 どうせ金を払わされるのであれば、中がどうなっているのかをチェックしないのは男として落第である。 本番に備えて情報収集を怠るのは馬鹿のすることだ。 男の尊厳のためにも、いつかくるかもしれない機会のために装備や設備を色々と知っておくべきであった。

「おお!? これが噂のエロチャンネルか。 お? 普通のも見れるじゃあないか。 ゲーム機もあるし金かけてんなぁ」

 一人呟きながら、部屋を見回っては物色。 と、不意にクライドは風呂場へと向かった。

「そうだよ、洗濯しっぱなしだったんだ。 乾燥機にかけなきゃ濡れた服で帰らにゃあならない」

 洗濯機に仕掛けていた服を放りこみ、とりあえずシャワーを浴びる。 さすがに昨日クラナガンをフレスタに連れられて散策したせいで、それなりに汗をかいていたのだ。

(にしても、フレスタには無駄に気を使わせちまったな。 まぁ、その分奢らされたわけだが……気晴らしにはなったことだけは確かだ。 後で礼でも言っておくか)

 映画に買い物にカラオケに飲み屋にと、なんだか色々と連れまわされたことを思い出し、クライドは一人ほくそえむ。

(普段は暴君の癖に、あれで中々あいつも優しいところがあるじゃあないか。 見直したぞ。 最後のアレには参ったがな)

 久しぶりのクラナガンということもあってか、妙にはしゃいでいた。 そのせいで、ペース配分を随分と間違えたフレスタは飲み屋で完全に潰れかけていた。 しょうがなく背負って帰ろうとしたが、さすがにクライドもディーゼルに敗北したせいで自棄酒を飲み、フラフラだった。 そこへ、この辺りが詳しいフレスタがダウンしかけながらも巧みに誘導し、近くのホテルへと辿りついた。 さすがにクライドも渋ったが、それを鼻で笑い飛ばしたのがフレスタだ。 強気にも『なぁによ、あんた私様に手を出す気なわけ?』などと言ってからかってきた。 瞬時に『ありえん』と返すと後頭部をポコポコと殴られた。

 結局、クライドも酔いのせいもあってか奇妙なテンションで突撃。 しかし、悲劇は起きた。 暴君は部屋に入る寸前にクライドの上でダウン。 乙女にあるまじき失態を犯し、結果としてクライドは服を脱ぐハメになり、さらには衣類を分投げられた上から射撃を食らったせいで防御さえできずに気絶させられた。

 酔いが抜けた今となっては酒の恐ろしさを痛感するだけだが、しかしそれでもクライドの中でフレスタの株が少しばかり上がったことだけは確かである。 普通あそこまで張っちゃけられるわけないし、男でも思わず躊躇するような選択を下せるはずがない。 さすがは暴君である。 有事の際には頼りになる。 色々とコンビとして迷惑をかけていることもあるし、もう少しばかり気をつかってやろう。 などと、勝手に結論を下したクライドはしばらく風呂場の中の物を色々と物色。 色々と試してみていた。 

「うぉ、こいつはヌルヌルだ!?」

 妙な液体を嫌がらせのように鏡に塗りたくって見たり、

「こ、これ座って大丈夫なのか? 強度設計がすげぇーな。 プロの仕業か……」

 奇妙な形の椅子の強度計算をしてみたり、

「ぬぅぅ、これが噂の……あ、穴開いた」

 空気入ってそうなマットを遊び心でサンドバックよろしく殴っていたら穴を空けてしまったりと、とにかく好奇心を満たしていた。 当然、その後で掃除をしに来たスタッフが頬を引くつかせながら激怒したのは言うまでも無い。

――そうして、また一つクライドは大人になった。













「……それで、何か相談したいことがあったんではないのフレスタさん?」

 レインは自分の部屋にやってきたフレスタに尋ねる。 しかし、フレスタは何か言葉を探しているように唇を開いたり閉じたりしながらずっとそのままだった。 フレスタが気に入っているお茶にも手をつけていない。 何かがあったことは確かだが、さすがに数分もそのままで居られたらさすがのレインにもお手上げだった。

「話してくれないと、さすがに私もどうアドバイスすれば良いのかわからないわよ?」

 コクリと、一つ頷いたフレスタが意を決してお茶に手を伸ばす。 そうして、軽く飲んだ後に話し始めた。

「実はクライドの奴とラブホテルに入っちゃって……その、どうしたらいいでしょうお姉様」

「――ぶふっ!? ちょ、ちょっと待ちなさい」

 優雅にお茶を飲みつつ、後輩に助言を与える先輩としての顔で構えていたレイン・ビフレストが咽ながら問いかける。 

「今、物凄いことをカミングアウトされたような気がしたんですけれど……私の聞き間違いだったのかしら?」

「いいえ、マジな話ですお姉様。 不覚にも私には酔っていたせいで記憶が無いんですが、その……ほとんど裸でベッドの上で寝ていたので……多分その……あいつといたしたのではないかと思うのですよ。 あいつも下着一枚でいましたし……」

「記憶が無いって……貴方……まさか、本当に?」

「こ、こんなことで嘘は言えませんお姉様。 それで、その、私は一体どうしたらいいんでしょうか?」

 さすがに、レインもこういう話をカミングアウトされて相談されても、どうすれば良いのか分からない。 寧ろ混乱していた。

「ま、まずは落ち着きなさいな。 そうして、少しずつ”OHANASHI”して下さる? 覚えているところから全部説明して頂戴」

「は、はい。 実は昨日の昼間からあいつと一緒に街に繰り出して遊んでいたんですけど……飲み屋に行ってからの記憶が無いんです。 それで、朝気がついたらラブホテルだったという話なんですが……」

 しばらく話を聞く。 レインは一つ一つ聞くたびに頷きつつフレスタを宥めた。 偶にマジ泣きが入るので、レインとしても慰めないわけにもいかなかった。

「な……なるほど。 大体わかりましたわ」

「うう、これから私一体どうすれば……」

「む、難しい問題ね」

「色々と経験豊富なお姉様なら、何か良い知恵を貸してくれるのではないかと思って来たんですけど……ああ、やはりお姉様でも厳しい問題だったでしょうか?」

「そ、そうね。 想像の斜め上を行く問題だったわ。 でも、貴方は私がかつて姉妹の契りを交わした娘よ。 見捨てるわけないじゃないの」

「お姉様!!」

 思わずレインに抱きつくフレスタの頭をよしよしと撫でつつ、レインはしかし内心で焦っていた。 一体、どうしろというのだろう? この場合大げさに対処するならば、良い弁護士でも紹介してクライド・エイヤルから慰謝料をふんだくるために工作をするべきなのか、それとももっと小さく内々で処理するために性犯罪者として局員を派遣するべきなのか……。 レインもまた混乱した頭で大げさに考えていた。

 彼氏でも無い男とラブホテルで一夜を明かすなどと、言語道断である。 乙女としての心理がクライドに極刑をと思考する一方で、今まで培ってきた常識が邪魔をしてレインを止める。 さすがに公に問題にしすぎても不味い。 周知させてフレスタの今後の人生に何やら悪影響があってもいけない。 事態には慎重に対処しなければならないことは明白である。

「と、とりあえず確認しておきますわ。 フレスタさんは一体どうしたいのかしら?」

「どうしたいって……」

「ほら、責任を取らせたいとか慰謝料を払わせるとか色々とあるでしょう?」

「せ、責任? い、慰謝料!?」

「勿論泣き寝入りは最悪の選択ですわ。 なら、責任を取らせなければならないでしょう? ミッドでは男女共に平等な権利が与えられていますわ」

「そ、それはどうですけどお姉様、ちょ、ちょっとその、大げさじゃあない……かな?」

「大げさ? 同じ女性として、酒で酔い潰しておいて関係を持とうとするだなんて最低な男に対して一切容赦する必要は感じませんわ。 基本的に万死に値するわね。 それとも……まさかフレスタさん、彼に何か脅迫でもされていますの? あられもない姿をビデオやら写真をとられたとか、そういうのですの?」

「え、えーと、記憶に無いからなんとも言えないんだけど……」

「そう、ならばそれとなくそういう物の存在も確認しなければいけないわね。 一応彼のことは少しは知っているけれど、とりあえずザースにそれとなく確認とってみますわ」

「は? どうしてあいつに?」

「彼の男友達でしょう? なら、前々から彼がフレスタさんに気が在ったかどうかとか話しているかもしれないわ。 男も女もそういうところは変わらないものなのよ」

「そ、そうですか」

「大丈夫、心配しなくても探りを入れるだけですわ」

 端末を操り、通信を送る。 と、すぐに相手が出た。 空間ウィンドウに表示された先にはザースがいる。 フレスタは空間ウィンドウの反対側からとりあえず声だけ聞いて様子を伺うことにした。

『どうしたんだ、次のデートのスケジュール調整の相談か?』

「いいえ、少し聞きたいんだけれどクライド・エイヤルと貴方って仲は良いわよね?」

『クライドと? 良いほうだと思うぜ。 今じゃあフレスタの方が顔を会わせる機会が多いから、あいつかハラオウンにでも聞いた方がいいかもしれねーが……』

「ふと疑問に思ったのよ。 クライド・エイヤルがリンディ・ハラオウンと中々くっつかないのは彼の本命がフレスタさんだからなのかなってね。 本人たちに聞くわけにもいかないから聞いてみたんだけど、貴方から見てどうかしら?」

『ああ、それはない。 絶対に無い。 ミッドチルダにどっかのレジスタンス勢力が本局落とし作戦を企むぐらいにありえないぞ』

 それは、気持ちよいぐらいに即答だった。 レインは頷きながら更に尋ねる。

「本当に?」

『だって、考えても見ろよ。 フレスタとクライドだぜ? ロマンスが発生する最大の障害としてハラオウンがいるじゃねーか。 その問題を片付けない限り、ありえないだろ』

「片付いたとしたらどうかしら?」

『そうだな、可能性としては無きにしも非ずかもしれねーな。 なんだかんだいって、撃たれても扱き使われてもクライドは結局服従してきたからな。 けどやっぱ考えられねーって。 仮にクライドがそうだったとしても、フレスタがそうなるかって考えたら余計にありえねーよ。 あいつなら笑いながらクライドを振るぜ?  よほどのきっかけでもなけりゃあ無理だろ。 犬猿の仲じゃあないが、お互いにそういう目で相手を見るようなタイプじゃあないからな』

「そう……」

『あー、でもあれだな。 冷静に考えてみるとやっぱり無きにしも非ずかもしれん。 フレスタのあの砲撃癖をまともに受け続けて普通に付き合って行けるような素質があるのは今のところクライドだけだ。 俺なら絶対に一発も受けてやらねーし、よほど付き合いの良い奴か冗談で済ませられる奴か完全なマゾヒストじゃないと耐えられんだろ。 なら、逆にフレスタにとってあいつは希少種なのかもしれん。 それを自覚したらどうなるか……いや、やっぱこれもないな。 やっぱりありえないぜ』

「嫌よ嫌よも好きのうちって奴てことはないかしら?」

『さぁな。 面と向かってあいつらに聞いたことなんてねーし、そういえばそういう話をあいつらに振ったこともなかった。 今度飲みに誘ったときにでも笑い話にして聞いてみるわ』

「ふふ、それは面白そうね。 あ、それと次のデートの日は今のスケジュールで良いのかしら?」

『ああ、構わないぜ。 なんとか休み取れそうだ』

「次のデートも楽しみにしていますわよ」

『おう、任せろ。 じゃあな』

 通信が切られる。 レインはとりあえずフレスタの方を見る。 と、フレスタは何やら頭を抱えながらテーブルに突っ伏していた。

「そ、そんな嘘でしょ。 この私様が無意識にあの馬鹿を希少種だと思ってキープしていたとでも言うの? あ、ありえない。 ありえないわよぉぉ。 ザース、今度あったら砲撃の刑に処してやるんだからぁぁぁ」

 悶えながら何かの間違いだとばかり頭を振るうフレスタ。 客観的な現実を直視したくないらしく、本人としては嫌がっているらしい。 だが、ふとレインは口元を緩めて言う。

「貴方、少し前に流行したツンデレキャラなの? 砲撃でしかデレられないような極端なタイプの」

「やめてお姉様。 私はそんなキャラじゃないの!!」

「でも、顔を真っ赤にさせながら悶えてるじゃない」

「ありえなーい!! 私様ですよお姉様。 武装隊でも最近売り出し中の美少女砲撃魔導師フレスタ・ギュース陸士ですよ!? それが、あんなデバイスマニアに実は惚れていたなんて裏設定は全くこれっぽっちもないの!! ないったらないんです!! 大体、あいつだって私様に好意なんてこれっぽっちも――」

 と、ふとその瞬間フレスタの脳裏に過去の記憶が思い出される。 最近のものではないが、四年前のものである。 何故それを今頃思い出したのかと、不覚にもフレスタは思った。


――捻くれているというかなんというか……それがあんたの価値観なわけね

――そういうこと。 むしろ、こうしてる俺にちょっかいかけてくるようなタイプをこそよく見なければならないと思っている。 そうでなきゃ、お互い時間の無駄になっちまうからな

――大層立派な考えだけど、今のところそんな稀有な人いたの?

――……一人、いないでもないが

――嘘!? 誰誰、そんな奇特な奴!! ウチのクラス? それとも隣の?

――いや、冷静に考えると現在進行形で一人いるだろ

――……私のこと?

――元に話しかけてきてるだろう?

――そう、あんたはそんな目で私をみていたのね? 嗚呼、この私の美しさが仇となってしまったなんて……さすが私様だわ!! でも御免なさいクライド……私は貴方の気持ちに答えることなんて……
 

 取るに足らないやりとりだ。 冗談の応酬のようなやり取りだ。 しかし、そうでなかったのだとしたら話は変わってくる。

 リンディから『欲しくなったら俺は自分で動く』とか言ったという話を聞いてもいたし、クライドは基本的に自分にメリットがあるか単純に頼まれたことぐらいしかしないことを知っている。 ならば、総合して考えてみると答えが出た。


クライド=欲しくなったら動く
 ↓
クライド=フレスタとコンビを組むうちに惹かれてしまい欲しくなる
 ↓
酔った勢いでラブホテル作戦=確信犯的行動の末の計画
 ↓
フレスタに責任を取れと言われる。
 ↓
クライド=逆らえない振りをして頷き、責任を取ると言い出す
 ↓
フレスタ=混乱中なため冷静な判断ができずなし崩し的に流される
 ↓
いつの間にやら聖王教会で結婚式
 ↓
クライド=計画通り(ニヤリ)


(な、なんという確信犯。 そんなにあいつは私様にゾッコンだったの?)

 自分で考えた想像であったが、フレスタは思わず愕然とした。 同時に、やはり美しすぎたことがこのような結果を招いたのだと、自らの美貌を呪った。

「ど、どうしたのフレスタさん? 何か思うところでもあったの?」

「い、いえ。 ただちょっとあいつがこういうことに及んだ理由にちょっと思い当たったんです」

「理由?」

「ええ、多分どうしようもなかったんですよお姉様」

「どうしようもなかった?」

「はい。 武装隊で私があいつとコンビを組まされてることは話したことがありましたよね?」

「色々と問題を起こしつつも、偶に妙に結果を出すから扱いが難しんでしょう? だから、手綱を握れる貴方でコントロールしようとしたと聞いたけど」

「それですよ。 絶対に原因はそれです」

「というと?」

「今までも意識しなかったわけじゃないのよ。 けど、高嶺の花とばかりに思って半ば諦めていたこの私があろうことかコンビを組まされてパートナー扱い。 それでグッと近くに来てしまったもんだから、私様の美しさに中てられて我慢ができなくなった……と。 うん、きっとそうに違いないわ」

「そ、そうかしら?」

「ええ、そうに決まってますお姉様。 嗚呼、美しさは罪――」

 レインは頭痛を堪えながら、眉間に指を当てた。 偶にフレスタは自信過剰なことを言う癖があるが、こんなときにもそれを忘れないことに呆れと逞しさを覚えてしまったのだ。 はたしてそんなことで納得するつもりなのだろうか。 被害者として出るところに出ても良いとレインなら思うが、もしかして寛大な心で許そうとでも言うのだろうかと心配になった。 レインなら今頃きっと弁護士に相談しているところである。 痴話喧嘩で裁判ができるかどうかなどこの際関係はない。 相手にそれ相応の断罪を与えなくては我慢なら無いからだ。 そして、彼女はやるといったらやるタイプの女だったからそういう方向を意識しないわけがなかった。

「で、結局どうするの? 弁護士が必要なら遠慮なく相談して頂戴な」

「そう……ですね。 ちょっと話をしてみます」

「そう?」

「それで、撃つか訴えるか切り落とすか責任を取らせるか慰謝料をふんだくるか地獄に叩き落すか決めます」

「そ、そう?」

「相談に乗ってくれてありがとうございますお姉様」

「い、いいわこのくらいなら。 がんばりなさいなフレスタさん」

「はい」

 お茶を飲み干してから、立ち上がるとビシッと敬礼をしてフレスタは去っていく。 心なし足取りが軽いのは、自分に相談した結果だろうか。 誰かに悩みを打ち明けるだけ打ち明けて、自己完結した彼女を見送ったレインはため息をつくと、すっかり冷めてしまったお茶を飲んだ。

「普通、話し合いをしたその瞬間に修羅場になると思うのだけど……フレスタさんたちの場合は痴話ゲンカになりそうね。 フレスタさんにもようやく春が来たのかしら」

 今年中に兄と結託して行動を起こし、来年には結婚しようかなと密かに話し合っているレインは、ふと同時に結婚式をやるのも有りかなと思った。 果たして本当にそんなことが起りうるのかわからなかったが、フレスタが一体どういう結論を出すのかによってはそういう流れもあるかもしれない。

 が、その想像をした瞬間をしたときにはもう肩を震わしながらレインは笑った。 ありえない。 あの二人に限ってそんなことは。 今回もなんだかんだいって丸く収まるに違いない。 あの二人はそういう二人だ。 腐れ縁的に仲が良いままで終わるタイプだ。 立ち上がって二つのカップを持つと、レインは後片付けに向かった。














「クライドー、入るわよー」

「ちょ、おま、返事をする前に入ってくるな!!」

 勝手知ったる人の部屋。 鍵が掛かっていないことをいいことに、突撃したフレスタは慌てふためくクライドを無視して部屋に入る。 すると、クライドは何やら愛用している部屋着のジャージのズボンをずり上げていた。

「……何してんのあんた?」

「超特大月刊デバイスマイスターを読んでたら、誰かさんがいきなりやってきたから見苦しくないようにズボンを着用したところだ。 さすがに、野郎ならともかく女の前でもそんなのは俺は嫌だ」

「ふーん」

 どうでも良いと言わんばかりにそのまま、テーブルの前のソファーに座るフレスタ。 クライドもまた座りなおしながら、昨日買ったばかりの本に目を落とそうとして、踏みとどまる。 何か用があったから来たのだろう。 隣に座ったフレスタに視線を向けて問う。

「で、何の用だ?」

「昨日の夜のことであんたに聞きたいことが沢山あるんだけど……」

「昨日のこと? ……ああ、そういえばお前今朝さっさと帰ってたな。 何か用事でもあったのか?」

(く、こいつヤケに余裕ね。 ――ハッ!? これが所謂DTを捨てた男の余裕って奴なの!? 噂では別人のように男は進化するという話だけど……)

 フレスタはその余裕のある表情を見て戦慄した。 半ば勢いでやってきたフレスタは内心さすがに緊張していたのだが、目の前の男は余裕綽々である。 さすが確信犯め、とばかりにフレスタは気合を入れなおす。 すでに戦いは始まっているのだ。

「ちょ、ちょっとね。 女性には色々とあるものなのよ」

「ふーん、そうか」

 クライドは特に気にせずに相槌を打つ。 しかし、その後で攻撃することは忘れなかった。

「しかしな、”そっちから誘っておいて”ホテル代全部俺持ちはありえんと思うぞ?」

「……はい?」

 フレスタの思考が止まる。 いきなり飛び出した危険なワードに、思わず口をポカンと開いた。 ちょっとお間抜けっぽいビジュアルだった。

「だから、”そっちから誘っておいて”ホテル代を全部俺持ちってのはありえんだろう? それ以外でもちょっと奢らせすぎてたと思う。 おかげで今月買おうかと思ってたデバイスパーツが買えないじゃないか。 まあ、昨日俺を元気付けるために”色々とやってくれた”のには感謝してるからこれ以上は言わないけど、俺以外の男だったら割りにあわないってキレるところだったかもしれんぞ?」

「……あ、あああぁぁぁ」

「ん? どうしたフレスタ。 顔が青ざめてるぜ? 昨日のせいで風邪でも引いたのか? なんかお前、寝相最悪に悪いし」

「う、あう……あ、ち、違うわよ。 ちょ、ちょっと待ちなさいクライド。 昨日、私があんたをホテルに誘ったんだっけ?」

「酔っ払いながらあそこが一番近いって案内したのはお前じゃないか。 あの辺りは俺は詳しくないんだぜ?」

「なぬぅっ!?」

 風向きが悪くなってきたことをフレスタは敏感に感じ取る。 前提が違う。 違い過ぎる。 そういえば『逆方向ならそれなりに知ってるがこっち側はよく知らない』とか言ったので、昨日は自分が引っ張り歩いたことを今になって思い出したのだ。 酔っ払って記憶が飛んでいるとはいっても痛恨のミスである。 金魚のように口をパクパクとさせながら、声にならない悲鳴を上げてフレスタがテーブルに倒れこむようにして突っ伏す。

「ちょ、おい本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ。 大丈夫じゃないけど大丈夫よ。 ちょっと頭が痛いけど……」

 必死に自分を落ち着けさせながら、フレスタは深呼吸する。 しかし、それでも限度があった。

「あー、昨日”色々と楽しんだツケ”か?」

「た、楽しんでた!?」

「はぁ? 随分と楽しんでただろうがお前も(映画的な意味で)」

「た、楽しんでた? この私様があんたで!?」

「最初は俺が(道を)知らなさ過ぎて文句ありそうにしてたけど、途中からお前のリードで行って最後には結局満足してたじゃないか。 その後も色々とお前主導で行ってたし(娯楽施設や飲み屋へ)」

「イってたの私!? しかもリードしたの!?」

「なんだよ、自分のことなのになんでそんなに驚くんだ? もしかして飲みすぎて記憶が無いのか? あんなに楽しんでた癖にもったいないぞ。 俺が満足したぐらいだから、かなり良かったぞ(やっぱし映画や休日の息抜き的な意味で)」

「い、い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「――へぶっ!?」

 もう耐えられなかった。 フレスタは一瞬でデバイスを展開すると砲撃して部屋を飛び出していった。 妙に顔が紅かったのがクライドに見えたが、しかしクライドの意識はその頃にはほぼ飛んでいた。 いきなり来客からの抜き打ちな砲撃である。 そんなモノをほぼ零距離で回避しろと言われても不可能だった。

「な、ぜだ。 俺が一体何をした……理不尽……過ぎるぞ……」

 風邪を引いたのを自分のせいにされてもどうしようもない。 クライドは意識が消える寸前にそんなことを思った。 当然、ダイイングメッセージは残す余裕などなかった。















「……それで、今度はどうしたのフレスタさん」

「うう、ぐす。 ヤバイです。 ヤバイんですお姉様」

 泣き崩れるフレスタが再びやってきた。 レインは余りにも早く戻って来た彼女をあやしながら推測してみる。 しかし、何故ヤバイのかが分からない。

(まさか、既に向こう側はビデオと写真をネット上でばら撒く準備を終えていたとか?)

 それをやられたらフレスタの名誉は地に落ちる。 というか、色々と大変なことになるかもしれない。 敵はそこまで狡猾だったか? そういえば、かつて彼女の兄であるエーリッヒ・ビフレストが気にしていたこともある男であるし、妖精の眼<グラムサイト>やカートリッジシステム搭載型デバイスのことでアドバイスをしてくれた男でもある。 とんだ喰わせものだった可能性をレインは見逃していたかもしれないと思った。

「説明してくれないと分からないわよフレスタさん」

「じ、実はどうやらラブホテルに誘ったのは酔っ払った私だったみたいなんです。 あいつが真顔で言ってやがりました……」

「な、んですって!?」

「そ、それだけじゃなくて私がリードしたとか、最後には私も満足してたとか……うう、凄いことを言われたんです……ど、どうすればいいんでしょうか!? お、覚えてない。 覚えてないのに私とんでもないことになってるんですけど!!」

「お、落ち着きなさいフレスタさん!! 傷はまだ浅いかもしれないのよ!!」

 レインは突然の激白にやはり思考を停止した。 というか、想像の斜め上の回答が来たことに対して唖然してしまっていた。

(ということは、裁判の証言次第では不利になるのはもしかしてこちら?)

 冷静な部分はすでにそんなところまで考えているが、いやそもそもその発想が無かった。 酔った勢いでクライドがフレスタを襲う可能性は容易に考えることはできたが、その逆もまたありえたなどとどうやって発想しろというのか。 普通は逆だ。 逆の方が絶対に多いはずだった。 偶にハニートラップなどという恐ろしい戦術を行使しうる女もいるらしいが、フレスタはそんなことができる女ではない。 想像しろというほうが無理である。

「……そ、それで向こうは他になんて言っていたんですの?」

「じ、自分以外だったらキレたかもしれないとか、満足したとか、そんな話を……」

(……さ、さすがにいきなり迫られて逆に押し倒されたとしたら普通の男はキレるでしょうけど……自分以外……満足……つまり、向こうは満更でもなかった? え、いや、でも……)

 レインも混乱しながら、しかしどうにか力になってやろうと悩む。 だが、問題が問題であり特殊すぎる。 そういう分野の専門家ではない自分が口を出せるレベルを超えているかもしれない。 しかし、しかしである。 ここで助言をしてやれないならば姉妹の契りを交わした仲とはいえない。

「ふぅ……ならばフレスタさん。 少しばかり賭けでもしてみればどうかしら?」

「か、賭けですか?」

「ええ、この問題に対して色々と終止符を打つためには、もはや対等な条件で戦い綺麗サッパリお互いに遺恨が残らないようにするぐらいしか私には思いつかないのよ」

「た、戦い……ですか?」

「武装隊ならばやはり魔法戦闘が無難かしらね。 貴方とクライド・エイヤル、コンビを組んでいるのでしょう? ならば彼の得意も不得意も理解しておいでですわね」

「そ、それはそうですけど……あいつ、結構強いですよ? 一対一だと先輩方も近いランクなら苦戦するし、というかあいつが本気だしたら何が起こるかわからないし……」

「貴方とのランク差は?」

「特にないです。 お、お互い陸戦Bは持ってますけど……」

「それ以上ではないのね? 魔力量は?」

「私の方が今のところちょっと多いぐらいです」

「そう……フレスタさん、貴方近距離戦闘の方法はモノにしてまして?」

「い、一応は」

「……なら、仕込めばギリギリ行けるかしら」

 ランクがほぼ同じで魔力量も同等ならば後は単純に技量と相性と作戦の問題だ。 敵の戦い方が分かっているのであれば、それを加味した上で作戦を立て戦えば良い。 少々博打だが、やりようによってはやれないことはないはずだった。

「フレスタさん、一度犯した過ちは消えないわ。 でも、だからといってそのままでいいわけでもない。 ならば、戦って平和を勝ち取りなさいな!!」

「え、あーお姉様? 私にどうしろと?」

「勝負は常に公平でなければならないわ。 ならば古来より存在するアレを賭けて勝負しなさい」

「アレ……ですか?」

「ええ、勝った方が負けた方の願いを一つ叶える。 そういうアレよ」

「あの、それだと私が負けちゃったりしたら……」

「ええ、一度狼になった男はその時のことを決して忘れないと言うわ。 十中八九貴方に迫るかもしれない。 でも、要するに勝てば良いのですわ!! そうして明るい未来を勝ち取りなさい」

「お、おお!? なんか未来に希望が湧いてきましたお姉様。 そう、そうですよね。 昔ならともかく今なら私様も同年代ではちょっとした武装隊員!! やってやれないことはない!!」

「その意気や良しですわ。 では早速果たし状を送り付けなければいけませんわね。 特訓のこともありますし、二月はさすがに長過ぎるか……一月後でどうかしら? 私が立ち会ってあげますわ」

「お姉さまが!? ならば鬼に金棒です。 勝ったも同然だわ。 久しぶりにお姉様の指導……よろしくお願いします」

「ええ、よくってよ。 ただし、私の修行は厳しいですわよ」

「この窮地を脱出するためならば望むところです。 絶対に勝ってこの件を無かったことにさせてかつノーカンにしてやります!!」

 決意を新たにしたフレスタがレインの手を力強く握った。 姉妹の契りを交わした二人は、そうして新しい戦いへの準備を始めることになった。

 レイン・ビフレスト。 少々漢娘<おとこ>らしいところがある女性である。 こういう熱いノリが大好きであった。 そのことはかつてザースに勝負を挑んで愛を勝ち取ったことからも伺える。 今回もまた、その理論でフレスタを助けようとしていた。 しかし、それがあのデバイスマニアに通じるかどうかは謎であった。












「くそ、一体なんだってんだよフレスタの奴……」

 ノックダウンから立ち直ったクライドが、ソファーの上で一人ごちる。 若干イラっときたのは確かである。 とはいえ、暴君のすることである。 よくあることなのでクライドは寛大というよりはどうでもよいとばかりに流していた。 そんな些事よりも、今は読みかけの超特大月刊デバイスマイスターを熟読することの方が重要だった。

 ぺらりぺらりとページを捲る。 超特大というからには、当然凄まじい分厚さである。 もはや辞典といっても過言ではないほどのページ数がある。 月刊シリーズ五十周年記念の一冊なため、過去五十年のデバイスの歴史と流れが網羅されている。 ここまで来ると本当のマニアや本職しか買わないだろうというレベルの代物だ。 しかし、そこはこのデバイスマニア。 クライドは目を皿のようにして読みふけっていく。 顔がニヤけているのがその証拠だ。 趣味に生きる人間の、至福に満ちた幸せ面であった。

「……おお、やはりデバイスの歴史から入っていくのか。 編集め、相変わらず良い仕事をしやがるぜ。 これは、いいものだ」

 いつも痒いところに手を伸ばしたような情報が記載されている。 敏腕の編集のチャレンジ精神と深い知識には脱帽である。 さらにはデバイスマイスター連盟への取材や、今と昔のデバイスの差などが事細かに記載されている。 デバイスマイスターのバイブルに数えても良いような仕上がりになっていた。 しかも、別冊付録の『挑戦、リサイクルデバイス――資材は有効に活用してこそのクリーン編――』などもはや発狂するほどのディープさがある。

「くおお!? 一体誰だ、廃棄デバイスパーツから作るお手軽スクラップデバイスの作り方など編み出した奴は!? ぬぬ、初心者にもできる簡単な修理方法まで……こ、こいつはやべぇ……この発想はなかたネ」

 逸る心を抑えながら、震える手でページを捲る。 侮れぬ超特大号。 先ほどから仕切りに喉が渇いて仕方が無い。 だが、何かを飲む時間さえもったいないとばかりにクライドは没頭した。 だから、当然再びやってきた彼女のことに気がついていなかった。

「クライド」

「……ん? はわぁぁ!?」

 いきなり背後から聞こえてきた声にクライドが振り返る。 と、その瞬間クライドの顔面スレスレを一条の矢が通過した。 クライドは悲鳴を上げてその場から飛び上がり、すかさず距離をとる。

「フレスタお前、それは一体どういうつもりだ!?」

 クライドの黒瞳の先には、悪魔のような暗黒のオーラを揺らめかせて立つ一人の少女がいる。 茶髪セミロングのその少女は、何故か巫女服を着たまま弓を構えて仁王立ち。 阿修羅を思わせるような凄まじい闘気を身に纏ってそこにいた。

「何故に巫女さんのコスプレ」

「ふふふ、これはお姉様が貸してくれた宣戦布告装束MIKOSAMAよ。 今日は他でもない我が怨敵に決闘のための果たし状を届けに来たわ」

「は、果たし状だと!?」

 フレスタの視線がテーブルの上に向く。 と、釣られて視線を動かしたクライドの目に、矢に巻きつけられている紙が目に入った。 矢文だ。 矢に紙の手紙を巻きつけて相手に届ける文である。 九十七管理外世界でも今時誰もやらないような、そんな古風な宣戦布告手段。 クライドはそれを真逆自分が喰らうなど夢にも見たことは無かった。 思わず、戦慄しながら頷くしかなかった。

「く、なんと素敵な宣戦布告だ。 巫女のコスプレと言い弓と言い、何故お前がそんな次元世界的に極めてローカルな素敵文化を知っているかは知らないが、その格好だと矢文でも物凄く違和感が無い。 確かに、確かにそれは立派な宣戦布告スタイルだ。 認めよう、認めようじゃないかフレスタ・ギュース。 お前は俺の敵に値する女だ。 決闘でも何でもしてやろうじゃないか!!」

 よく分からないが、喧嘩を売られたということだけはクライドも理解した。 というか、理解せざるを得ない。 矢文はきっかりクライドの超特大号に突き刺さっている。 楽しみにしていた超特大号。 聖書のように感じていた知の結晶が無粋なというよりはちょっと小粋な矢で攻撃されて黙っていられるほどクライドは大人ではなかった。 次元世界に存在するデバイスマニアの一人として、ここは暴君に立ち向うときであったのだ。 散々眼つきが悪い悪いと言われ続けた眼で、睨みつけるようにしてフレスタを見る。 その瞳には迷いが無かった。 フレスタを完全にエネミー<敵>として認識している。

「――場所は?」

「いつものトレーニングルーム」

「――開始日時は?」

「一月後の夜」

「――ルールは?」

「一対一の非殺傷、ノックダウン一本勝負。 審判はレインお姉様」

「――パーフェクトだフレスタ。 レイン先輩は真剣勝負でえこひいきするようなタイプではない。 いいだろう、その決闘受けて立つ」

「詳しいことは矢文に書いてあるわ。 精々上手く立ち回りなさい。 有象無象の区別なく、私様の弾丸は愚者を射る。 貴方の敗北は既に決定しているのよ」

「ふん、何を言うかと思えば。 そちらこそ、二度と暴君を名乗れなくなるということを体で思い知らせてやるから覚悟しておけ(魔力ダメージでのノックダウン的な意味で)」

「か、体でって……やっぱりそういうわけね!? いいわ、やってやろうじゃない。 あんたが勝ったら結婚でもなんでもしてやるけど、その代わり私様が勝ったら絶対にあんたを下僕にして一生こき使ってやるわ!!」

 そう言って啖呵をきると、袴を翻しながらフレスタがノシノシと去っていく。 クライドはしかし、敵愾心たっぷりな表情でそれを見送った。 が、フレスタの後姿が無くなった瞬間表情を一変させてテーブルの上にある長特大号に眼をやった。 その眼は悔し涙に濡れている。

「くそ、今回ばかりはマジで許さんぞ。 穴空きじゃないか。 これじゃあ絶対に読めない部分が出てくるだろうに。 もう一冊買いなおせというのか。 今月無駄遣いをしまくったんだぞ……くそ、やはりケチらずに保存用と観賞用も買っとくべきだったか!?」

 見事に突き刺さっている矢を慎重に引き抜くクライド。 しかし、やはり読めない。 突き刺さった部分は見事に大穴があいてしまっている。 クライドは怒りの咆哮を上げると、すぐに乾いた声で笑い始める。 まるで亀裂のような笑みであった。 悪役でもそこまでは無いと言わないばかりの邪悪さ加減である。

「く、くく……あーっはっはっはっは!!」

 クライドはディーゼルに不覚を取ったが、アレはそもそも始まる前からハンデを背負わされていたような戦いだ。 しかしフレスタとクライドには現在それほどの差が無い。 ならば、後は戦いようでどうとでもできる。 少なくとも、そう簡単に負けないのだから勝つ見込みなど十分にあった。 勝率などディーゼルと比べれば天と地程のものがある。

 忌々しい矢を力任せにへし折り、クライドは文に手を伸ばす。 既に、クライドの頭の中では対フレスタ戦の戦術が模索されていた。 だが、とある疑問はずっとクライドの中で残り続けた。

(それにしてもまさかあいつに”コスプレ趣味”があったとはな。 人は見かけによらないとは正にこのことだ。 これが大宇宙の神秘か……次元世界は奥が深いな)

 久しぶりに見た故郷の衣装。 普通にミッドであんなローカルでピンポイントな服を着ている奴など見たことは無かったが、醸し出された故郷の匂いに思わずクライドはその時の光景を心に刻んでいた。 ただし、茶髪は邪道だと言っておくべきだったと、後で思いついて酷く後悔した。 巫女さんには黒髪以外邪道だと、言ってやるべきだったのだ。 本気のレイヤーならせめて髪を真っ黒に染めるかウィッグでもつけて来るべきなのである。 後で言ってやろうと、クライドはこれもまた心に刻んだ。













「うぷっ……お、お姉様これは一体どんな拷問なんですか」

「ふふふ、頑張って耐えなさいなフレスタさん。 それこそ対クライド・エイヤル戦で必須の技能。 グラムサイト<妖精の眼>ですわ」

「ううう、こんな気持ち悪い状態で戦えるわけないわ。 うっ」 

 トレーニングルームの床に倒れたまま、何度も体を起こそうとするフレスタ。 しかし、三半規管が仕事を放棄したかのようにバランスを取れず、床に倒れる。 腕立て伏せのような状態からかれこれ数分立ち上がろうとして奮闘するものの、まったく効果が無い。 まるで拷問でもされているかのようだ。 涼しい顔でその様を見下ろすレインは、かつての己の姿を思い出しながら苦笑するように言った。

「懐かしいですわ。 私もお兄様もそれには随分と苦労しましたのよ。 教えてくれたクライド・エイヤルも当然初めは習得するまでの間同じように苦労したそうですわ。 でも、これを習得すれば飛躍的に近接戦闘技能が上がることは確かなの。 頑張って習得しなさいね」

「お、お姉様。 クライドからこんなの習ったんですか?」

「ええ。 貴女が無理して覚える必要は無かっただろうけど、今となっては必要だから習得した方が絶対に良いですわ。 クライド・エイヤルから無理を言って教えてもらったのだけれど、まぁ貴女なら教えても問題はないでしょう。 この技術を習得すれば、貴女は展開範囲内であれば眼を瞑ってても戦えるようになりますわ」

「そ、それは凄いと思いますけど……でも……」

 敬愛するお姉様の言葉を疑うわけではないが、フレスタは既にくじけかけていた。 こんな状態では満足に戦うことなどできやしない。 レインが言ったのでなければ、数秒と持たずにグラムサイトの展開を止めていただろう

「これより一月の間に一日一メートルずつ展開範囲を増やしていきなさい。 暇なときはずっと展開して、いち早く慣れるように努力なさい。 最低十メートルはカバーできれば本職でなくても近接戦闘で十分な反応速度を得られるようになりますわ」

「じゅ、十メートルって……そんな無茶苦茶な……」

 一メートルでさえこの有様だ。 フレスタにとってその言葉は正に地獄へ突き進む言葉にしか思えなかった。 単純に今の十倍。 つまり、下手をすると今の十倍気持ち悪くなるわけだ。 今でさえなんとか耐えているというのに、このままだと乙女にあるまじきビジュアルシーンを演出することになる。 それは、乙女であったフレスタには耐え難い苦行であったのは想像に難くない。

「前に習ったときはクライド・エイヤルの展開範囲は60メートルを超えているという話を聞きました。 私は今なんとか八十メートル。 目標は九十メートルなのでここまでくれば通常の有視界戦闘下では随分と上手く立ち回れることになりますわ。 極めればキロ単位までいける人もいるらしいですけれど、さすがに私もそこまでやれとは言いませんわ。 最低十メートル。 それぐらいの近接戦闘領域をカバーできれば、まあ射撃型の貴女でも色々と勝ち目が見えてきますわね」

「い、一応近距離射撃も習得してるんですけど……」

「命中回避率がそれで上がるのだから、我慢なさい。 直接見たわけではないのだけれど、クライド・エイヤルは基本的に近中距離が得意距離なんでしょう? 遠距離は貴女の独壇場だからこのさい考えずに置くとしても、近接戦闘技能の強化こそが絶対の急務ですわ」

 一々最もなその言葉に、フレスタは口をつぐむ。 結局のところ遠距離で仕留めれればそれで良いが、決闘でそれ程の距離を稼げるとは思えない。 となると、近中距離戦になるのは容易に想像がつく。 そして、その距離が得意な敵の相手をするのだから確かにこの行動には意味があった。

「ああ、そうそうフレスタさん。 時に、貴女は乙女に一番必要なものが何かを知っているかしら?」

「え、えーと……美しさですか?」

「いいえ。 それは欲しい要素だけれど必須ではないわ」

「じゃ、じゃあ優しさ……とか」

「無いよりは魅力的ですけど、それも違いますわね」

「う、うーんなら愛情とかですか?」

「それが無い人間は乙女以前に人類でさえありませんわ」

 次々と必要そうなものを思いつく限りフレスタを口にするが、その度にレインは首を振る。 やがて、口に出せるものが無くなった頃にレインが言った。

「乙女に一番必要な物。 それはずばり”根性”ですわフレスタさん」

「根性……ですか? か、可愛くない……可愛くないですよお姉様」

「ええ、可愛くなくても残念ながら根性なのよ。 いつだったか、風の噂で私の耳に届きましたわ。 その真理を発見したのはどこかの次元世界に住む鉄球を振り回す乙女らしいのだけれど……正直、考えれば考えるほど眼から鱗が落ちましたわ」

 根性などと、これまた美しくない単語が出てきた。 レインが言わなければフレスタはきっと大笑いしながら否定する頃だろう。 しかし、真顔でレインが言うものだからフレスタは反論できずに口を閉じる。

「昔はね、確かに私も貴女のように思っていた時期もあったのよ。 美しさや優雅さ、優しさや愛情などという物が大事だと……ね。 でも十八にもなれば嫌でも気づきましたわ。 根性こそ乙女が失ってはならないものだと、ね」

「は、はぁ……」

「例えば、そう。 そう、例えばの話よフレスタさん。 貴女が今より十キロ体重が増えたとしたらどう? いえ、体重でなくてもいいわ。 ウエストが十センチ増えてお気に入りの服を着ることができなくなったとかでも構わない。 想像してみてくださる? そうなったとき、貴女も私も、他の乙女たちもきっとある選択をしますわ」

「そ、そりゃあきっと皆ダイエットを始めると思いますけど……」

「そう、そうですわ。 私もそうします。 でも、ダイエットを成功させるのは難しいですわ。 甘いお菓子の誘惑、美味しい料理、運動量の増加による疲労の蓄積、やる気を失って長続きしないなどといったこともあるでしょうし、例え打ち勝ったとしても二段構えの魔物『リバウンド』とも戦わなければならない。 一度戦い始めたら絶対に止められないマラソンを乙女たちは強いられる。 それはそれは辛いレースですわ。 何人もの乙女たちがその強大な的に敗北してきたのは周知の事実!!」

 それは、この世の地獄である。 遠い眼をして語るレイン。 耳にしただけでもその過酷さを嫌というほど先達から聞かされたことがあるフレスタもまた、乙女の最強の敵『ダイエット』を想像し恐れ慄く。 いくら暴君などと言われる彼女であっても、ダイエットと『リバウンド』という名の魔物は恐ろしいのだ。 震えながらレインを見上げる。 当然、レインもまた体に感じる視線の意味を理解していた。 レインだとて恐ろしいのだ。 それと戦う聖戦が始まれば乙女は皆苦しむことになるということを知っているから。

「ダイエット……苦しくも過酷なその聖戦を制するのに、美しさや優しさや愛がどれだけ役に立ちますの? いいえ、決してそんな生ぬるいモノは役に立ちませんわ!!」

 ピシャリと言い切る。 恐ろしいほどに真顔であった。 フレスタもここまで言われては気づかないわけにはいかなかった。 なるほど、そんな絶望的な状況下に陥ってしまえば美しさや優しさなどあっても意味が無い。 何の戦力にもならない。

「決して諦めずに戦い続ける終わり無き戦いの日々を駆け抜けるそのためにこそ、乙女たちは常日頃から根性で武装していなければならないの。 逆に、これさえあれば美しさも優しさも愛さえも手に入れることができますわ。 不屈の闘志、永遠の戦いに身を投じ続けるだけの精神的タフさ。 美貌を研鑽し続けるための、女を磨き続けるための、引いては乙女として存在し続けるための根源にしてその境界はとは正に”根性”があるかないかなのよ。 根性……それこそ乙女たちの最後の武器にして究極奥義なのですわ!!」

「お、お姉様。 わ、私……がんばります。 がんばって根性でこの窮地を乗り越えて見せます!!」

「よく言ったわフレスタさん。 そう、それでこそ乙女を名乗れるというものよ。 根性の無い女など、ただの女ですわ。 私たちはそんな段階に堕ちるわけにはいかないの。 お分かりですわね? そんなのはただ抵抗を止めて女の振りをしているだけの何かですわ!!」

「はい!!」

 このときばかりはフレスタも自分がいかに根性を舐めていたか痛感した。 レインの分かりやすすぎる講義に反論できる女など、もはや乙女ではない。 そしてそれは、自らのあるべき姿ではないとフレスタ・ギュースは切に思った。 ならば、この窮地を乗り越えなければならない。 根性で。 乙女の武器で。 究極の奥義で。

 吐き気が催すからなんだというのだ? ダイエットで食事制限をし、眼が回りそうなぐらいの運動を自ら強要させられることに比べたら易いものだ。 ならば今こそ、乙女として立ち上がるときであった。 根性で。 一心不乱な根性で!!

 こうして、現実を直視した乙女の戦いが幕を開けた。 何故戦うかなど、その頃にはフレスタの脳裏からはほとんど消し飛んでしまっていた。 そこにいるのは乙女としてクライドを倒し、失ってしまった何かを取り戻そうと立ち上がった一人の乙女がいるだけである。

「お姉様、私倒します。 クライドの奴を絶対に倒しますから!!」

「ええ、良くってよ。 存分に乙女の根性をぶつけて差し上げなさいな」

 レイン・ビフレストはひたすらに立ち上がろうと足掻く後輩を見下ろしながら、満足そうに何度も頷く。 今はただ無様かもしれない。 しかし、二週間もあれば十分にフレスタは立ち上がれると彼女は固く信じていた。

 クライド・エイヤルが彼女の兄エーリッヒが見つけた興味深い存在なのだとしたら、フレスタ・ギュースはレインが見つけた近年稀にみる乙女である。 そして、自らが姉妹の契りを交わすほどに有能な可愛い後輩である。 その事実がある限り、レインはフレスタへの協力を惜しむことは無い。 ならば当然、フレスタが何も出来ずに負けるなどということはありえない。

――フレスタの乙女の尊厳をかけた過酷なる戦いは、その日より始まった。













あとがき
続くかはわからないw

コメント
この世界に絶対室長クライドいますよねこれwスクラップとか助手の映画とかw
けどこの二人、やっぱり相性がいいんだなあ。情愛とか抜きにしたら、人生のパートナーとしてはフレスタの方がハーヴェイにはあってたのやも。

互いに互いを支え高めあうというあり方が、フレスタだとしっくりくるんですよね。結婚したとしたら、結婚生活が楽しそうと言いますか。


【2011/01/27 23:50】 | 名無しさん #mQop/nM. | [edit]
わからないとかじゃなくて、ぜひとも続きをw
勘違いの真相を知ったときのフレスタの態度とか、その後の変遷とか気になる。

本編がダブルヒロインの様相を呈してきているから、いっそ一人に絞った外伝的なものもありだと思いますよ。

【2011/01/29 01:27】 | 名無しさん #TT0fzUCU | [edit]
乙女(笑)

で、済ませられない真実をみたw

IFというか、フレスタルートに進まないでもこーいうエピソード
が間に挟まれててもいいかもなー
【2011/01/29 16:51】 | 名刀ツルギ #qx6UTKxA | [edit]
こ、こういう外伝が有るならかぐやのも書いてください!!!(切実)
【2011/01/30 04:12】 | 名無しさん #/CsKs7ZA | [edit]
導入はありがちな勘違い系ラブコメなのに、さすがフレスタさんラブ臭がまったくしないぜ。

映画の内容はクライドさんの出自とか、デジタル世界とか、由来が謎の原作知識とか考えると結構怖いですね。
【2011/02/28 00:26】 | sg #3/2tU3w2 | [edit]
名無しさんがた 名刀ツルギさん sgさん

コメありです。

>>互いに互いを支え高めあうというあり方が、フレスタだとしっくりくるんですよね。
↑そうですね、割かし戦闘スタイルとか見れば噛み合うと思いますよ。
性格は……まあ、クライドが尻に敷かれる未来しか思い浮かびませんがw

>>わからないとかじゃなくて、ぜひとも続きをw
↑書くとしたら本編終わらせないときついっすね。
先にこっちを書いちゃうと本編がかけなくなってしまいますし。

>>こ、こういう外伝が有るならかぐやのも書いてください!!!(切実)
↑デレさせるのか、切り刻まれるのか……それが問題ですねぇ。

>>IFというか、フレスタルートに進まないでもこーいうエピソード
が間に挟まれててもいいかもなー
↑二部は余裕なかったんですからねぇ。

>>さすがフレスタさんラブ臭がまったくしないぜ。
愛情より友情的なタイプですからねぇ。
突っ走ったら面白そうだったんで書いたんですが……こんなもんでしょうw

【2011/11/11 18:40】 | トラス・シュタイン #Zn9MvRGY | [edit]












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