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MBO 00

 2011-11-11
※注意

 これはSAOというラノベを読んだトラスが、なんとなく憑依奮闘記のキャラでデスゲームっぽくやったらどうなるかなと思って息抜きに書いてみたSSです。 尚、開始当初クライド18歳、ミーアは11歳です。 ではいつものように、暇つぶし程度の気持ちでご利用ください。 





「これが俺の、全力全開!!」

 振り上げた右手をそのままに、一度は言ってみたい台詞を吐いてみる。 そんな俺の眼前には、青く煌く星がある。 やがて、その光は飲み込まれるようにして一つの球体の輝きと同化していく。 周囲に眩いばかりの光を放つその魔法の名は『スターライトブレイカー』。 俺が個人的にくらってみたい魔法ベスト3に入る、天下無敵の集束魔法だ。 使い手によってはこれを喰らってお友達になれない奴はいないとさえ嘯かれるほどの強力な破壊力を秘める砲撃魔法だ。

 本当は俺には到底使えないレベルのスキルを要する魔法なのだが、生憎とここは”リアル”ではない。 ならば、普通には体験できない奇跡もまた体感できるということだった。

「いいよ、”ハーヴェイ”お兄さん」

 ナイフで武装したごろつき風の男を、チェーンバインドで捕獲したまま”ライア”が言った。 俺は頷き、いい感じに集束した魔力を解き放つべく視線を下ろす。 同時に、感応制御によるスコープが脳裏に展開される。 目標はごろつきだ。 バインドブレイクをするでもなく、ただジタバタをしているだけのその男に向かって、照準を合わせ俺は右腕を一気に振り下ろす。

「スターライトブレイカー!!」

 瞬間、振り下ろした右手の先の球体から溢れんばかりのビームが眼下の男に向かって放たれる。 口径はやや小さいのは仕方ないとしても、十分にそれらしい魔法がその男を飲み込んだ。 照射時間は数秒はあっただろうか。 やがて、砲撃が終ったあとには男は悲鳴一つ上げずに倒れ、小さなポリゴンの塊に分解されて霧散する。

「くぅぅぅ、これが集束魔法か!!」

 見渡す限りの平原から降りながら、思わず俺は感極まった声を上げた。 やはり、一度は撃ってみたいのが集束系の砲撃魔法だ。 とにかく派手で、しかも強力。 魔力が一撃でスッカラカンになったとか、そんなことはどうでもよくなる程の気持ちよさがそこにはあった。 

「いやぁ、それにしてもさすがレイハさん。 あんな恐ろしい魔法プログラムをこっそりと保持しているとは。 これは、是非ともお礼に俺の手でバージョンアップしてエクセリオンなボディを差し上げなくては!!」

「あははは、レイジングハートはお兄さん怖がってるけどねー」

「結局ただの集束魔法じゃない。 どこがそんなに面白いんだか」

 呟くと、カグヤは肩を竦めた。 やれやれとばかりに上げられた両手には、理解の色はまったくない。

「ばっ、お前今の一撃を前にして感じるものが無いというのか」 

「魔法を行使したってだけじゃない。 そこに何を感じ入れと?」

「ふふんっ。 今のがどれだけ凄いことなのか理解できないようじゃ、まだまだだね襟首女」

「凄いも何も、これは”ゲーム”じゃない。 一般人なら確かに魔法を使えるってことで楽しいでしょうけど、魔導師のクライドがやっても大したことないわ」

「はっ、これだから高ランク魔導師様は。 お高く止まってて嫌になっちゃう。 しかも、ここでは本名禁止だよ。 ハンドルっていうかキャラネームで呼ばないと白けるでしょ。 空気読んでよね空気を」

 ここぞとばかりにライアが攻め立てる。

「普通、相当に練習しないとああいうでかい魔法は使えないだろ。 ゲームの中とはいえ、魔法プログラムと使用魔力を満たしてれば普通は使えない魔法が使えるっていうのは、贅沢なことなんだよ。 デザイア社様々って奴さ」 

「そういうものなのかしらね」

 超巨大ネットワークゲーム、『マジックバトルオンライン』。 新規参入してきたデザイア社という会社が満を持して発表した今最も注目されているオンラインゲームだ。 通称MBOと呼ばれるこのゲームには、一般人バージョンと魔導師バージョンの二種類があり、先ほど稼動したところだった。 それぞれに特徴があるが、俺たちには魔導師バージョンの方がお得であるため、三人揃ってそれをプレイしている。 理由は簡単で、魔導師版ではリアルで使用している魔法がゲーム内に持ち込めるからだ。

 しかも、ゲームといってもその完成度はかなりハイスペックな作りになっている。 元々は軍や管理局で使われ、デバイスにも搭載されているシミュレーションシステムを応用し作られたもので、三大魔法がプログラムさえあれば完璧に再現できるようになっている。 プレイ方式はデバイスにも使われている感応制御システムを利用した意識ダイブ型。 空間モニターを叩いたり、マウスを使ったりコントローラーを使う必要なくプレイできる。 一般人は基本的に専用のゲーム機を使わないといけないが、魔導師版はデバイスで代用できる。 スペックはそれなりに必要だが、基本はクラウド型でありサーバーの方にデータがあるので感応制御システムのバージョンと処理速度さえ基準値を満たしてあればプレイができる。 俺は本局の自室から、ライアとカグヤはストラウス邸辺りでプレイしていることだろう。

 このゲームの最大の特徴といえば、やはり魔法だ。 一般人がゲームの中で本物の魔法に限りなく近いモノを体験できるということと、フルダイブによる圧倒的な自由度が特徴だろう。 今、俺はダイブしているわけだが、ゲームとは思えないほど美麗な風景が広がっている。

 ベータテストには一般版で参加したが、初めてプレイしたときには驚いたものだった。 今日、一緒にプレイすることになっていたライアもリアルと遜色ないヴァーチャルに感動していた。 オマケのカグヤは全く平然としていたが。

「そういえばクライド、魔導師版は仕様が鬼畜なようね。 私はこういうのは詳しくはないのだけど、これじゃあチートって奴じゃないの?」

「そこはしょうがない。 フルダイブのせいで、デバイスの場合は本人のシミュレーションデータがそのままステータスに反映される仕様なんだとさ」

 魔導師としての能力が、そのままゲームのステータスに反映されるというわけである。 これは魔導師だけの特権であるが、同時に一般人との住み分けさせるためだという理由もあるらしい。 MBOはりアルさを追求したシビアな仕様になっており、例えば砲撃魔法を使う場合は狙いは自動制御<オート>というわけにはなっていない。 プレイヤーが狙いを定め、引き金を引いて当てる。 そういうリアルな仕様になっているせいで、プレイヤーの戦闘技能がそのままゲームに反映されることになっているのだ。 誘導操作系や、元々デバイスの補助を使って放つ魔法の類はセミオートでそれなりに補助してくれるらしいのだが、基本は感応制御による意識誘導でマニュアル操作する必要がある。 つまり、技量の差が当然のように出てくるというわけだ。

 とはいえ、それでも十分に楽しめる。 俺の先ほどのスターライトブレイカーもそうだが、使用条件さえ満たしてあれば使えないはずの魔法もこのゲーム内では撃てるのだ。 ちょっと大規模な魔法に憧れていた低ランカーたちも、この世界では努力次第では夢の高ランク魔導師気分を満喫できるわけである。 しかも、俺でも魔力的に成長できる<ゲーム内の仕様のおかげで可能になっている>し、魔法は三大魔法を再現できるおかげで魔法プログラムのデータさえあれば好きなだけ使うことができる。 その日の気分で、砲撃魔導師をやったりベルカの騎士様をやったり好き放題して遊べるのは嬉しい限りだ。

「あとな、バランスを取るために成長限界があるんだよ。 レベルは100が限界で、それ以上は成長しないようになってるらしい。 最終的には魔導師と一般プレイヤーとが交ってプレイすることになるんだろうな。 レベル差が追いついて、同時にプレイヤーとしての技能が備わったら魔導師と一般人の壁を越えて仲良く遊べる、みたいな感じらしいな」

「ふぅん」

「要するに、襟首女みたいなプレイヤーはリアルチートだから、チートはチート同士遊んでろってことなんだよ。 ちなみに私とお兄さんはお揃いのAランクだから一緒に楽しく遊べるの」

 参ったかとかばりにふんぞり返るライアことミーア・スクライア11歳。 初期デバイスの杖を両手に、悪戯が成功したとばかりにニシシっと笑う。 確かに、元々レベルが違うのに、弱いところに来るとさぞつまらないことだろう。 ”俺TUEEE”以外にできることといえば、まったりと会話することぐらいしかない。 が、それはそれでやってみたい。 そして、敵軍を前に言ってやるのだ。 『圧倒的ではないか、我がキャラは!!』と。 お約束で遊んだりもできるわけだ。

「なるほど、つまり楽しく遊ぶなら出力リミッターをかければ良い訳ね?」

「うぇっ、そんな抜け道が!? 今日こそ私の勝ちだと思ったのに!?」

「いや、勝ち負け以前の問題だと思うんだが」

 ゲーム内に私怨を持ち込むのはどうかと思うが、ライアは悔しげに魔法を詠唱。 チェーンバインドをカグヤに向かって繰り出した。 カグヤは涼しい顔で刀を抜き、AMBで魔法を切断、無効化する。 そうして、逃げようとしたライアへと左手を伸ばして行く。 いつもの”妙な力”を使うつもりなのだろう。 だが、その行動は不発に終ったらしい。 ライアが俺の背中へと逃げ込んだ頃には、カグヤは自分の左手を眺めていた。

「ああ、なるほど。 そういうこと」

「何がそういうことなんだ?」

「クラ……ハーヴェイ、貴方は今”現状維持”が作動してないわね?」

「ああ。 ここは三大魔法以外の力は再現できないらしくてな。 現状維持は作動してない」

 つまり、マジックカッターが使い辛くなっているのだが、成長できるのであれば問題はない。 地道な努力と研鑽によって強くなれるのであれば、現状維持はなくても十分だ。 というか、普通はレアスキルなど無いのが普通だ。 俺だってただの一プレイヤーとしてリアルの自分を忘れて楽しむべきなのだ。 ここはゲームの世界で、なりたい自分<魔導師>に成れる仮想の世界。 折角課金したんだから楽しまなければ損だろう。

「ま、いいわ。 どうせコレで遊ぶのは今日だけでしょうし」

「そうか、今はあの力が使えないか。 戦力激減か?」

「そうなるわね。 まぁでも、貴方や後ろの子を相手にするだけなら十分におつりが来るのだけど……」

「ええい、折角パーティー組もうって話なんだから普通に仲良く遊ぼうという気は無いのか!! はなっからPKされるとか冗談じゃないぞ」

「仲間から攻撃を受けたんだもの、ケジメをつけないと禄に背中も見せられないじゃない」

「お兄さん、ファイトだよ。 無事に私を守りきってくれるとフラグが立つかもしれないよっ!」

「その前に死亡フラグが立つっての。 というわけで、悪い子にはお仕置きだな」

 高速移動魔法<ハイスピード>を起動し、背中に回っているライアの更に後方へと移動すると後ろから両手で捕まえる。 

「わわ、お兄さん大胆」

「くらえ、必殺のくすぐり攻撃」

 抱きしめている両手をわき腹へと回し、それなりにくすぐる。 

「ちょ、だめ、そんなとこ……あはははははっ」

「すまん、ライア。 俺もまだ死にたくはないのだ許せ」 

 笑い声を上げながら苦しげに悶えるライアを抱えながら、俺は偉そうな女王の下へと馳せ参じる。

「女王陛下、これが約束の娘にございます。 これにて、我が領への進攻、何卒考え直して頂きたく……」

「えーん、裏切ったぁ!! お兄さんが裏切ったよぉぉぉ」

「大衆は長いものに巻かれるのが世の常でございますれば!!」

「つまり、私もこの子で遊べばいいわけね?」

 ニンマリと口元を歪めながら、天下に謳われるフリーランサーが鉄槌を下していく。 その手がワキワキと楽しげに握られると、生贄に差し出されたライアの顔が引きつった。 うん、どうやら弱点を狙われていることに気づいているらしい。 だが、悲しいかな俺には目の前の女を止める術がなかったのだ。  
「ライア、すまない。 弱すぎる俺を好きなだけ恨んでくれ」

 次の瞬間、ライアの苦しげな笑い声がフィールドに響いて消えた。












憑依奮闘記IF
マジックバトルオンライン
プロローグ












「うう、お兄さんと襟首女に汚されちゃたよぅ。 もう、お嫁にいけないよぉ……」

「その時はクライドに貰ってもらえばいいじゃない」

「おい、返答に困る冗談を投げかけるのはよせ」

「んー、そうだねぇ。 この際お兄さんでもいっかなぁ。 どう? 将来スクライア一族を背負って立つかもしれないわ・た・し。 今ならお買い得だよぉ。 もしかしたら別の人がやることになるかもしれないけど、もしかしたらってこともある。 いえーい、玉の輿のチャンスだよお兄さん。 これはもう逃す手はないよねっ!!」

 くすぐり地獄を切り抜けて俺のバリアジャケットの服の裾を小さく掴みながら、ミーアが上目遣いに見つめてくる。 心なしか、腹に回された指先が、恥ずかしげにミッド字を書いた。 が、その口元の歪みがあった。 からかい返しということか。

「だそうよ、ハーヴェイ。 良かったわねモテモテで」

「お前たちは俺に一体どんな反応を求めていやがるんですか」

「――ちっ、避けられたか!? 男なんてちょっと猫なで声で甘えると一コロだって雑誌に書いてたんだけどなぁ」

「そこ、可愛いらしく頬を染めながらも舌打ちするな!! 後、年齢差もじっくりと考えろ!!」

「いやぁ、お兄さんは私たちスクライアの仕事に理解あるからさぁ。 適当な人とお見合いさせられたりするぐらいなら、いっその事キープしておこうかなー、なんて企みがあったりなかったり。 しかも公務員だし」

「お見合い……だと? 未来の族長候補も大変だな」

「でしょでしょ。 だから、男避けにお兄さんの名前貸しといてよ」

「却下!! そういうお家事情とかに巻き込まれると碌なことがないという事実を、俺は知っているのだ!!」

「大丈夫だよ。 なんだったら、リンなんとかさんと二股でもいいから」

「ダメだダメだ。 恋愛は清く正しく美しくがモットーなのだ」

 まぁ、実際俺は恐ろしく奇妙なバランスの上で成り立っているからなぁ。 これ以上妙なのに巻き込まれるのはその、なんだ。 ちょっと困る。 

「ちぇっ。 キープしてたキールは取られそうだし、やんなっちゃうよねぇ。 もういっそのこと、考古学と結婚しちゃおっかなー。 ねぇ、襟首女はどう思う?」

「そこで私に振る理由がよく分からないのだけど」

「だって、貴女も独り身じゃない。 しかも、剣と結婚してそうなんだもん」

「ぷっ」

 思わず、吹いた。 クリティカル過ぎる。 だが、やった後後悔した。 無駄に魔力を垂れ流しながら、カグヤが難しい顔をしていたからだ。 やべぇ、地雷踏んだ?

「……なるほど、それもアリね」

「アリなのかよ!!」

「アリなの!?」

「だって、ねぇ。 世の中には碌な男がいないもの。 ならばいっそ剣に操を立てるというのも――」

「止めろ、その決断は早すぎる。 俺が言うのもなんだが、それはちょっとどうかと思うぞ!! まだ若いだろ、考え直せ!!」

「でも考えてもみなさいハーヴェイ。 貴方だって、適当な女性と結婚するぐらいならデバイスと結婚するでしょ」

「それは……確かに、一理あるな」

 好きでもない女と結婚する気は毛頭ないが、誰も好きになれなかったらもはや俺に残るのはデバイスしかない。 気づきたくなかったけど、気づいてしまった。 思わず、がっくりと膝から力が抜けた自分を、俺は責めることはできなかった。 

「侘しい、侘しいよ二人とも。 初めに冗談で言ったのは私だけど世界はそんな冷たいものじゃあないはずだよっ」

「いや、しかし結婚できるだけ幸せかもしれないぞ。 自慢じゃあないが、俺がもし女だったら、俺みたいな男が居ても付き合いたいなどとは到底思えん!!」

「うわぁ、ほんとに自慢にならないや。 ていうか、自分で自分を否定するってどうなのかなぁ」

 デバイスマニアで闇の書持ち。 時空管理局のデバイスマイスター18歳。 性格は……同僚曰くキワい。 貯金はそれなりにし始めてるけど、一応は公務員。 容姿は……太ってはないけど眼つきが悪い。 イケメンかどうかは見る人次第!! ヤベェ、モテ期が到来しないわけだ。

「く、考えれば考えるほどにロマンスが発生する要素が思いうかばない。 セールスポイントが公務員だけだと!? やはり俺みたいな奴はデバイスの女神様と結婚するしかないのか!?」

 思わず、暗黒面に落ちそうだった。

「これはもうカグヤの下僕にしてもらうしかないな!?」

「何故そういう結論になるのかとても疑問なのだけど」

「大自然に囲まれたあのログハウスで、俗世からのしがらみから全て開放されのびのびと生きるのもいいかなぁと思った――ということにしておいてくれ」

「家政夫としてなら雇ってあげてもいいけど、貴方家事できるの?」
  
「任せろ。 俺を雇うとヴォルケンリッター最強のザフィーラが付いてくる(家事スキル的な意味で他の追随を許さない最強の戦士)」

「……それ、全然任せらんないよお兄さん」

 それどころか、他のヴォルケンリッターも付いてくる。 五人揃えば、一人分の仕事ぐらいはできるはずだ。 などと詰まらないことでまったりとだべっていたら、敵キャラの姿が見えてきた。 さっき倒したゴロツキ男と同じく、野党的な敵なのだろう。 正直、魔導師版でプレイしている俺たちにとっては大した敵ではない。 そもそも、ここは一番初めにプレイヤーが出現する村の外だ。 魔導師レベルが反映されている以上、雑魚しかいない。

「おーい、敵来たぞ。 次誰が試し撃ち行く?」

「はーい。 私が行くよ。 リリカル・マジカル!!」

 杖型デバイスの先端に藍色の光を集束しながら、ライアが言う。 足元で光る魔法陣はミッド式の文様を刻みながら激しく明滅。 

「いけぇぇぇ、ディバインバスター!!」

 またしても砲撃魔法。 スターライトブレイカーの原型と思わしき砲撃魔法だ。 元来、スクライア一族は結界やら補助魔法に長けていて、攻撃魔法は不得手であるらしいが、このゲーム内だと魔法の起動に関しては失敗することはない。 問題は、使い手の技術である。 発射と同時に、反動でぶれた杖<ゲーム内で初期選択した杖型デバイス>が大きく跳ね上がっていた。

「随分と綺麗に外したわね」

 敵に掠ることなく6メートルほど斜め上を通過した砲撃は、すぐに見えなくなっていった。 その横を、ニヤニヤと笑う顔を貼り付けたフィールドエネミーが頭上にNPCの文字と名前を表示しながら突っ込んでくる。 

「魔法の反動が予想以上に凄かったんだよ。 もう、私の初めてだったのにぃぃ!!」

 地団駄踏んでいるライアへと、攻撃された敵がナイフ片手に踊りかかる。 振るわれたそのナイフには、淡い魔力の輝きが点っている。 足元の魔法陣を見てベルカ式なのだろうと思った頃にはライアは軽く後ろへ飛んで、その攻撃を回避している。 いや、それだけではない。 回避の合間にマルチタスクでの詠唱。 着地するや否や、次の魔法を撃ち放っていた。

「今度こそ、えい!! ディバインシューター!!」

 今度は反動を考慮してか、ガッシリと握り締めた杖の先から四つほどの魔力のスフィアが表れ、すぐさま飛んだ。 弾丸は至近距離からごろつきに突き刺さり、一撃で粉砕。 敵の騎士甲冑を破壊してならず者を一撃でポリゴンの粒へと還元させた。

「うーん、さすがに始めて直ぐの場所だとレベルが合わないよね」

「だな。 確か、初めて直ぐはCランク相当の敵しか出ないんだと。 というか、ここは一般人がまず小手調べに闘う場所だからな」

 だから、Aランク相当のパラメータを持つミーアの攻撃なら瞬殺できるのだ。 ここに来たのは、簡単なゲームのやり方を二人に教えるためでしかないが、当然楽にスターライトブレイカーを試したかったという本音もある。 ベータテストで一般人用をやったが、魔導師版との違いが俺は気になっていたのだ。

 結論からいえば、魔導師版の方がよりリアルだ。 元々は魔導師のシミュレーターだったシステムを使っているから当然なのだろうが、こちらの方がよりしっくり来る印象がある。 特に、感覚で覚えこませたモノが瞬時に行使できるというのは大変に大きい。 実際問題、これはゲームというよりはシミュレーションなのだ。 本当の魔法戦闘をやったことのある魔導師ならば、この差は絶対に理解できるだろう。 また、リアルさを追求されているせいで、リアルの戦闘技術が諸に反映できるという利点がある。 迷うことなく魔導師が暴れられる仕様だといっても過言ではない。 ただ、いくつかゲームチックな仕様は残っているが。

「そういえば、まだフレンド登録してなかったな。 チームは……折角だし組んどくか」

「あ、そういえばそうだね。 メニューを感応制御から呼び出してっと……」

「フレンド……チーム?」

「フレンドはまぁ、友達と直ぐに会話するための機能だな。 登録しとけば、念話の届く範囲が無限になってジャミングでもされない限りはどこでも話せるようになる」

「チームはパーティー編成のことだよ。 組んだら経験値が分配されたり、敵を倒したときに手に入るお金とかアイテムが自動で振り分けられるの。 オンラインゲームの基本だよ基本」

「へぇぇ……じゃあ、独り占めしたかったら組まなければいいわけね」

「そういうことになるな。 まぁ、ソロプレイ<一人プレイ>はこういうゲームだと後半難しくなるだろうからチーム組むのが楽だけどな」

「そう」

 戦闘能力が半端ない癖にここではド素人というカグヤに説明するのは不思議な気分だったが、俺はとりあえず登録を試みる。 意識すると感応制御システムによって、脳裏にゲームメニューが開かれる。 これによって思考するだけで操れるのも、作業に戸惑うこともない点はかなり評価できるだろう。 オンラインゲームの一番面倒なところは、やはり初めてプレイするときの敷居の高さだ。 何事もそうだが、体験してみなければよく分からない。 ボタン配置などを覚える段階で拒絶したくなる人間がいるぐらいだ。 習うより慣れろという言葉は本当に偉大である。

「よし、フレンド登録はオッケーだな。 次はチームだな。 えーとリーダー誰にする?」

「はいはい、私がやるー」

「んじゃ、ライアで決定っと」

「チーム名が”ライアと愉快な下僕たち”になってるのが気になるのだけど」 

「許容範囲内だろ。 人によってはウケ狙いだったり明らかに世間に喧嘩を売ってるような名前の奴もあるからな。 この程度ならよくあることだって」

「そう、まぁいいけどね」

 こうして、”ライアと愉快な下僕たち”というパーティーが生まれた。 廃人になるまでやりたいとは思わないけれど、楽しく遊べればいいなぁと思っていた。 この頃の俺は。






――マジックバトルオンライン。

 通称、MBOはディメイションネット<広域次元通信網>で繋がっている。 ミッドチルダの新興ゲーム企業デザイア社で作られたこのゲームは、先行登録者数の時点で既にプレイヤーが五千万人を突破していた。 とはいえ、数字上では膨大な数であっても次元世界それ自体は三桁を超えるほどの世界がある。 全次元世界人民の総計からすると微々たるものだったかもしれないが、その数は膨大だ。 

 管理世界、自治世界の垣根を越えてディメイションネットで繋がっているゲーマーの中で、実在する魔法をリアルに使えるという謳い文句は未知の快感を予測させてやまなかった。 特に、魔導師ではないモノが多いのは当然だったが、魔導師の中でも特に低ランカーのゲーマーが食いついた。 ゲームの中では、リアルの自分には不可能な魔法も擬似的にではあるが体験できるからである。 羨望を動機に、ゲームの情報が流出すればするほど期待感は高まっていく。 俺だって、魔法が使えない一般人だったらもっと熱狂していたかもしれない。

 魔法が使えない人間が、擬似的にとはいえ現実と同じ密度で魔法を使える。 その誘惑は、力を行使してみたいという願望を叶える夢のようなゲームに見えていたことだろう。 今までリアルでは不可能だった願望を驚くほどリアルに感じられる場所までプレイヤーを誘う新世代のゲーム。 勿論、それ以外の面でも恐ろしいほどまでに美麗な世界を、デザイア社は用意した。 ゲーム内でのセカンドライフが始められそうなほどに、バーチャル<仮想>の中にリアル<現実>を詰め込んだ体感ゲーム。 特に、感応制御システムといえば、今までは特殊業務を行う者たちの特権だった。 それ自体は魔力が無くても使えるし、軍の兵器のインターフェースなどにも利用されてきた。 とはいえ、それを身近なゲームに取り込んだのはデザイア社が始めてだったのだ。

 通常版のベータテストでは、応募者の中から一万人が選ばれてプレイし、その新しいゲーム時代の息吹に酔いしれた。 通常版で使用されるゲーム機は、ダイブギアと呼ばれるヘッドマウントディスプレイ。 丁度、アイマスクをメタリックにしたような形をしており、内臓バッテリーや充電コードを繋げることで電源とする。 ベータテストでは記念に筐体はプレイヤーに譲渡され、特別にMBOのロゴが入ったりもしている。
 
 おっと、そういえば言い忘れたがこのゲームには目的がある。 オンラインゲームではクリアという概念が希薄なものが多いが、このゲームには明確な終りが設定されている。 それは、ミッドチルダへと行き着くことだ。

 俺たち主人公……つまり、プレイヤーは田舎世界からミッドチルダへと向かう新米魔導師であり、次元航行艦でミッドへと向かっていたのだが事故に会い脱出ポッドで脱出したものの次元漂流者となってしまい、偶然管理外世界の一つにたどり着いたという設定がある。

 そこは次元世界の中でも端から数えた方が早い辺境で、ディメイションネットさえも届かない。 だが、かつて古代ベルカ時代にベルカの民が残したというトランスポーターがあるという話を、漂着した世界”オープ”にある村の村長から聞かされ、そのトランスポーターでミッドチルダを目指すというストーリーだ。 百の世界を渡り歩きミッドチルダにたどり着けばゲームクリアとなるらしい。 さすがに廃人でもなければそこまでやりこむことは無いだろうし、強力な魔法を楽しむだけでも十分に面白そうである。

 ここまでは、特に俺も問題にはしない。 むしろバッチ来いだ。 問題なのは、ここからだ。 ゲーム稼動のその一日目。 ミーアやカグヤと合流し、手近なフィールドへ出て一時間ほど経った頃である。 あの時はさすがに、スターライトブレイカーを使った感動の余韻を享受していたせいで、有頂天だったことを覚えている。 今思えば、デバイスマイスターとしてこのゲームの危険性とやらに考えておくべきだったのだと切に思う。 

 それは、いきなりのエマージェンシーコールから始まった。 チームを組んでの狩りを楽しみ、ある程度ゲームに慣れてからレベルに適合したフィールドへと移動しようとした<魔導師版のみゲートがレベル相応の階層へと繋がっている>その時、俺はいきなり自分の魔力が制限されたような不快な感覚に気が付いた。

「この感覚……出力リミッター? ハーヴェイ、これはゲームのイベントか何かなわけ?」

「いや、分からない。 ていうか、なんだ? この緊急アラート」

「バグでも見つかったんじゃない? ほら、正式稼動の初日だしさ」

「そう、かもしれないな」

 のんきにそういうライアの言葉に頷きながら、俺はなんとなくステータス画面を覗き込む。 すると、驚くべきことに俺のレベルが1になっていた。 いや、俺だけではない。 チーム内の全員のレベルが1にされていたのだ。 正直にいえば、ありえない。 魔導師版をプレイしている俺たちは、元々の魔力値からステータスを逆算してそのレベルから始まることになっている。 レベルアップのボーナスポイントはそのレベルの分だけプールされており、後で振り分けようと思ってとっておいたのだがそれさえも0ポイントになっている。 勿論、レベルに比例するかのようにステータス値も激減していた。

「変だな、出力リミッターだけじゃないぞ。 バグだったとしてもレベルまできっかり1に戻るなんてな」

「GMコールしてみる?」

「それもいいけど、一旦落ちてネットで調べ直した方がよくないか?」

「んー、そうだね。 ってあれ? ログアウトボタンがなくなってるよ」

「は? そんなわけ……」

 脳裏に浮かんだメニューからログアウトボタンを探すも、少し前まであったはずのそれがなくなっていた。 ログアウトは意識接続している俺たちの意識を、生身に返すために必要なものだ。 通常のデバイスの意識接続、所謂感応制御システムは戦闘行動を有効に行うために脳裏に情報を送り出すだけのシステムだ。 だが、このフルダイブ式のゲームをプレイするために、MBOでは通常の感応レベルを大きく超えて接続されるのが特徴だ。 そのせいで、リアルの情報を一切関知できなくなるほどに。

 これはデバイスマイスターの間では俗に”感応深度”という用語で呼ばれるが、深度よってレベルがあり、デバイスの場合はそれが浅い深度で行われている。 この深度が深ければ深いほど、デバイスに意識を持っていかれる状態が作られる。 ゆえに、通常のデバイスには例外なく安全装置がついており、浅い深度での接続しかできない。 だが、今回はフルダイブのゲームプログラムを走らせるため、ゲームプレイ時にユーザーによって限定的な安全装置の解除が行われていた。 それでも、これはゲームなのだ。 安全面は考慮された作りになっているはずだ。

「これは、ちょっとやばいな」

 思わず、冷や汗を掻いた。 ベータテストでは一度もこんな不具合は出ていなかった。 だから、俺は大丈夫なものだと思い込んでいた。 だが、これが俺の予想できる最悪だったとしたら、洒落にならない事態に陥っていることになる。

「……ハーヴェイ?」

「お兄さん?」

 二人は気づいていないらしく、俺の言葉の意味を捕らえかねている。 困惑した顔で俺を見上げているのがその証拠だろう。 だが、言っていいものか。 悪戯に不安を煽るのは得策ではない。 もっと、明確な証拠が無ければ。 そう考え、俺はとりあえずGMにコールしてみる。 だが、一行に繋がる気配は無い。 ライアも試しているのだろうが、繋がらないことに不審の思いはじめていた。 カグヤなどは、完全に今回が初めてのオンラインゲームだ。 GM<ゲームマスター>へのコールが要するに経営してゲームを監視している者への連絡だということにも気づいておらず、何がどうなってるのか分かっているだろう俺やライアの様子をただ眺めている。

「で、結局何なのよこれは」

「俺にも何が起きているのか分からない。 何か問題があったというだけしか」

「問題どころか大問題だよお兄さん! ログアウトできないってことは、リアルに戻れないってことじゃない!」

「つまり、どういうことなわけ?」

「俺たちは、デバイスにインストールしたゲームをプレイしてるが、感応制御でこのゲームをプレイしてる。 フルダイブ環境ってうたい文句のこのゲームの場合、プレイ中に勝手に体が動いたりしたら危ないだろ? だから、リアルの体が動かないほどの深度へ意識接続してるわけだ。 あたかも、このゲーム世界の体を本当に動かしてるみたいにな」

「そこが問題なんだよ。 普通のゲームなら、電源を切ったりすればゲームは止まるんだけど、私たちの意識は今こっちに在って体が動かせないから電源を切ってゲームを止めたりもできないんだよ!!」

「なるほど。 でも、ゲームを運営してる会社がサーバーを落せば問題ないんじゃないの?」

「ああ、そのはずなんだが、さっきから運営に連絡しようとしても繋がらない。 だから、ヤバイんだ。 まぁ、監視は普通絶対してるはずだから、”普通”ならすぐに再起動かけて開放すると思うんだが……」

「だが?」

「強制的にそれをして、果たして俺たちは無事に済むのかなーと懸念してる」

 肉体の感覚が消失するほどの深度の接続だ。 それが浅ければ問題はないのだが、安全深度よりも深い深度の時に強制的に遮断した場合、人の意識に強烈な負荷がかかり、ショック死する現象が起こるという。 無論、それは深すぎる深度での場合だ。 たかだかゲームでそこまでの深度を取ることなど安全面から考えればありえない。 杞憂であれば良いのだが……。

「あ、なんか空間モニターが開いたんだけど」

「ようやくか。 不具合の説明か何かだろ」

 目の前に表示された空間モニター。 その中で、白衣を着た紫色の髪の中年男が移っていた。 科学者然としたその男は、くすんだような金色の瞳でにっこりと笑顔を浮かべていた。

『始めまして、プレイヤーの諸君。 私はデザイア社の影の開発リーダーであり、このマジックバトルオンラインの今現在唯一のゲームマスター……ジェイル・スカリエッティだ。 さっそくだが、諸君らは”人質”に取らせてもらったよ。 それによって、少々ゲーム内のルールを変更させてもらったのだが許して欲しい。 ふふ、ふはははははは』

 モニターの向こうで、その男は大きく手を広げながら笑っていた。 俺は、そいつの名乗った名前を知っている。 そして同時に、この事態が確信的に用意されたということを理解した。

 ジェイル・スカリエッティ。 アニメ三期の敵キャラにして、天才と呼ばれるに相応しい頭脳を持った愉快犯であり、無限の欲望<アンリミテッドデザイア>のコードネームを持つ男。 本人かどうかは分からないが、少なくともそれに連なる存在だと思われる。 最悪だ。







『さて、それでは懸命なプレイヤーの諸君に怒られる前に状況を説明するとしよう』

 スカリエッティと名乗る男が言う。 腹立たしいほどに楽しげだった。 思わず、俺は目を細めて凝視する。 自然と、俺の眼に力が入ったのは、無性に湧き上がってくる危機感故か。

「人質って、ど、どうしようお兄さん!?」

「落ちつけ、まずはどういう状況なのか知るべきだ」

 慌てふためくライアを落ち着かせるように宥めながら、奴の言葉に耳を傾ける。 

『そうだな、まずは諸君らが置かれている状況について説明しようか。 今現在、君たちは通常版、魔導師版問わず第1世界”オープ”に集められ、レベル1にされている状態だ。 元からそこに居た者はそのままだが、強制的に転移して集めた。 トランスポーターの転移設定もゼロにしてね。 ゲームマスターとしての顕現を使えば造作もないことだがね。 つまり、何が言いたいかというと住み分けなど関係なく皆が仲良く同じスタートラインに立てたというわけだ』

 そのための出力リミッターということなのか。 公平性を期すための小細工としては、随分とお膳立てされている。

『この世界は、私の人間学の知識の全てを込めて作り上げた傑作でね。 古参のゲーマーも初心者もまるでこの世界で生きているかのように楽しむことが出来るように作ってある。 ベータ版との違いや詳細はヘルプでも見てくれればいいがね、君たちには私の目的が叶うまではここで生活してもらう。 それが叶うまでは、暇つぶし程度にでも遊んでくれれば嬉しいね。 そうそう、私は君たちを人質に管理局政府と交渉中だが、恐らくは連中は私の言うことなど聞かないだろう。 だから、それまでここで暇つぶしでもしておいて欲しい。 退屈にはさせないつもりだ』

「次元世界中のプレイヤーが人質ってわけか」

 思わず、呻いた。 どんな交渉をしているのかは謎だが、五千万人以上のプレイヤーが人質に取られているのだ。 正確なプレイヤー数は知らないが、それでも相当な数である。 これでは、管理局もそう簡単には動けないだろう。

『次に、新しく加わったゲームのルールの中で大事なことを説明しよう。 特に、君たちが一番気をつけなければならないゲームオーバーの条件についてだ。 私が言うのもなんだが、良い子にして聞いてくれよ。 でないと、取り返しの付かないことになるからね』

 ただのゲームで人間を人質に取るには、それ相応の仕掛けが必要だ。 つまりは、奴は全て計算ずくでこのゲームという名の牢獄を作り上げたということなのだ。 だが、不特定多数を人質にとることで、管理局の動きを封じ込めるという意味では見事なまでに効果があるだろう。

『まず一つ、このゲームでの諸君らの体を破壊された場合だ。 つまりは、ゲームで死んだらということだね。 普通のゲームならペナルティを負って復活する。 だがこのゲームではそんなことはない。 そのプレイヤーはショック死することになっている』

「ショック……死? 嘘、だよね。 お兄さん、そんなの不可能だよね!!」

 ライアが俺のジャケットを引っ張りながら、青褪めた顔で見上げてくる。 だが、俺にはその不安を払ってやることはできなかった。

「可能性としては、ありえる」

「そんな!?」

『フルダイブというのがこのゲームのウリの一つだが、それには非常に繊細なレベルでの意識接続が必要となる。 一般の魔導師が使っているデバイスでも、感応制御システムは使用されているが、この正式稼動版MBOはそれとは比べ物にならないほど危険な深度まで諸君らの意識を接続している。 無理矢理ゲームを止めたり、ゲーム機であるダイブギアやデバイスを外して物理的に切断するとショック死する程のレベルでね。 ははっ、気をつけたまえよ。 私はリアルでの交渉では、ありとあらゆるメディアを使ってこの忠告を発している。 だが、中には信じられずに無理矢理ダイブギアやデバイスをプレイヤーから取り外し、殺害したものたちがいる。 そうだな、数にして既に百は超えているね。 だが、それ以後おちついていることから問題はなさそうだ。 安心したまえ、恐らくは今後、政府や管理局員たちが君たちのリアルボディを病院などに搬送し、生命活動を維持してくれるだろう。 そのために、二時間ほどなら持つようにバッテリーもつけておいたのだし、デバイスを使っている魔導師君たちは、自分の魔力で稼動するようになっているだろう? 無理矢理にでもデバイスを剥ぎ取られなければ問題はない。 そして、この説明を聞いている君たちはこの危機はすでに脱していると思ってもらってもいいだろう。 おめでとう、不幸な百人以上を教訓にして生き残っている諸君。 君たちはまだ生きている』

 パチパチと、乾いた拍手の音が響いてくる。 君たちは幸運だ、などといわれたところで、俺の心には一切幸福感など湧き上がってこない。 ライアなどは、もはや青褪めるを通り越して震え上がっている。 俺は黙って膝を折ると、少女の背中に手を回して抱き寄せた。 大人の俺でさえ、未知の恐怖に駆られているのだ。 少女のライアにとっては、さすがに恐慌にきたす寸前である。 俺がもし一人だったとしたら、恐怖にのた打ち回っていたかもしれない。

「……」

 だが、もう一人の少女は違うらしい。 自分の命を握られているという苛立ちはあるのだろうが、冷めた目でモニターを見つめていた。 誰がどう見ても怒っているというような貌だ。 さすがに、無理矢理オンラインゲームに参加させられたかと思えば命を握られるような状況に陥れば怒るのも無理はない。

『ゲーム内で死ぬこと、そして無理矢理ゲームから切断された場合に諸君らは死亡する。 だが、この二つだけでもない。 他にも、サーバーへのハッキング数に応じてランダムで諸君らの中から誰かが死んで行くことになっている。 プレイヤーIDをランダムで検索して殺すようにプログラムしてあるんだ。 ああ、これも既に死者は出ているね。 59人。 まだ増えるかな? 興味本位なハッカーと、助けようとした管理局員や政府機関が君たちを殺していくわけだ。 おっと、今はそんなことはどうでもいいね。 話を続けよう。 次に、私を君たちプレイヤー以外が害した場合だ。 私の身柄は今頃管理局か、管理局内に潜んでいる犯罪組織によって確保されたかと思うが、私もまたここに接続していてね。 この私の意識が消えれば連動して諸君ら全員が道連れになるようになっている。 後は、サーバーを物理的に攻撃した場合もそうだ。 ゲームサーバーが破壊されればゲームが止まり、意識接続が強制切断されるから皆で仲良くあの世に逝けるわけだ。 一人じゃないんだ、これで皆寂しくないだろう? ふふふ、私からの優しいプレゼントだと思って受け取っておいてくれたまえ』 

 何が優しさだ、自己保身じゃあないか。 ライアを慰めている右手とは反対側の拳を握り締めながら、俺は歯噛みすることしかできない。 

『まぁ、ゲームオーバーの話はこれぐらいで良いだろう。 次は、君たちプレイヤーが解放されるための方法について説明しよう。 私もケチではない。 人質にしてはいるがね、別に君たちを進んで害したいというわけでもないのだよ。 だから、君たちの誰かがこのゲームをクリアした時点で生き残っている全ての者たちを開放しよう。 全百世界を超えて、現実に帰還したまえ。 何も、外の助けを待つだけではつまらないだろう? 折角手に入れた魔法の力だ。 その力で、是非とも自分たちの未来を切り開いて欲しいと私は思う。 ああ、そうだ。 それから、三つほど君たちにプレゼントを用意しておいた。 メニュー画面を開いて見たまえ』

 言われるがままに、メニューを開く。 すると、そこには新しく三つのボタンが追加されていた。

『一つは、データ放送を見られるようにしたテレビ機能。 二つ目はディメイションネットのブラウザ機能。 そして最後はメール機能だ。 これは、メールアドレス以外にも番号で送れるようにしておいた。 外の友人たちも心配しているだろうし、偶には連絡でも取り合いたまえ。 まぁ、自分のリアルボディの心配もあるだろうけど、あまり一斉にやるとサーバーが落ちて二度と使えなくなるかもしれないから気をつけたまえよ。 ああ、それとプレイヤーは随時募集しているから、新規で”もし”入ってきた人が居たら仲良くしてあげるんだ。 それでは、これからがんばって人質生活を満喫しておくれ。 おっと、忘れるところだった。 君たちにはこっそりと教えておかなければならない。 私の目的だ。 それはね、自由になることだ。 よくわからないだろうがね、私は管理局やそれに連なる者によって作られたクローン人間なんだ。 それも、アルハザード時代に生きた人間のね。 そんな私を、扱き使ってくれた連中からの解放こそ私の悲願。 つまり、この状況こそ私の望んだ状況なんだ。 だから、君たちにはできるだけ長くプレイして欲しい。 古強者なげーマーたちがここには沢山いるだろうし、そうだな……十年もかければクリアできるかもしれない。 気長に遊んでくれたまえよ。 はは――』

 笑い声にエコーをかけながら、その男はモニターから消えて行く。 俺は、必死で自分の状況を整理しながらどうするべきかを考える。 だが、何よりもまずしなければならないことがあった。 それは、メールだ。 リアルボディを確保してもらわなければ、安心することができない。 

「カグヤ、知り合いにメール出してリアルボディの確保を頼め!!」

「今やってるわよ、ついでにライアのもね」

 俺は急いでブラウザを立ち上げ、メールを打つ。 送り主はリーゼロッテとリーゼアリアだ。 二人に送ればどちらかが気づいてくれるだろう。 現在の状況を打ち込み、リアルボディの確保を依頼する。 俺のデバイスアーカイバは腕時計型の待機モードだから、そう簡単に外れないが、一応気をつけるように頼んでおく。 返信が帰ってくるのは後でもいい。 次に、TVを起動してニュースを確認。 すると、どこの番組でも緊急特番としてジェイル・スカリエッティとMBOのニュースをやっていた。

「くそ、本気で外にも公表してやがるのか!?」

 スカリエッティは交渉で自身の身柄の自由、管理局の解体、本局の自爆なども要求しているという。 ぶっちゃけ、この要求が通る可能性は無いだろう。 むしろ、絶対に通らない要求をしたのではないかとさえ思える。 また、別のニュースではとあるサイトに死亡者名を記載する場があるらしいことも言われていた。

 確認してみると、確かにあった。 しかも嫌味なことに死亡要因付きだ。 管理局のハッキングによる警告死、強制切断などといったものが書かれてある。 ハッキングによる強制切断に失敗し、その責任について被害者と遺族から管理局への裁判手続きも既に始まっているらしい。 リアルでは凄まじい勢いでMBOの話題で盛り上がっている。 だが、リアルはリアル。 俺が今居るのはバーチャルだ。 これからどうするのかを考えなければならなかった。

「ストラウスと連絡がついたから、私とライアは大丈夫よ」

「俺も連絡はしておいたから、多分なんとかなると思う。 そうだ、守護騎士に連絡伝えてくれないか? ザフィーラはヴァルハラへ、書を持って移動。 開放されるまで家を出てろって」

「いいけど……面倒くさいことになったわね」

「ああ、命がかかるとか洒落にならないからな。 どうする、どうすればいい。 ログアウトできない上に、外がそう簡単に要求を呑むなんてありえない。 だったら、ここが開放されるまで生き延びるしかないわけだが……」

「いっそのことゲームをクリアしてみる? そうすれば開放してくれるんでしょ」

「向こうが嘘を付いてたら?」

「今と何も変わらないだけよ」

「やれると思うのか」

「さぁ? でも、このゲームは私たち”魔導師”に有利なように作られているみたいだし、やった方がいいんじゃない? それに、恐らくこのゲームは時間制限があるわ」

「時間制限? どうしてそんなことが分かる」

「あの男、ジェイル・スカリエッティが死んだら、全員一網打尽だって言ってたじゃない。 あの男が何歳かは知らないけれど、”普通”の人間なら寿命がある。 それは、私たちも例外じゃあないわ」

「……見た目、三十後半ぐらいだったか? 九十まで奴が生きたら五十年この世界が続くが、もっと早く消える可能性もあるってことか」

 俺たちの寿命、奴の寿命、とりわけ奴の寿命が先に尽きる前にどうにかできなければプレイヤーは全滅するということだ。 それは、このゲームにはリミットが仕掛けられていることと同義であった。 とはいえ、気にする点はそこではない。 問題は、命を握られた状態でいつまで居なければならないのかということなのだ。 

「ねぇ、参考までに聞いておくけどベータテストでの攻略速度は?」

「確か、最前線組みが一ヶ月で3,4世界ってところだな。 テスト人数が今よりも大分少なかったっていうのもあるが、レベル上げと一般版の仕様が魔導師版とでは少し違うってのもあった。 だが、今回は命が掛かる。 人数が馬鹿みたいに増えてるとはいえ、攻略速度は落ちるだろうな」

 もっとも、本当の問題はそれではない。 ベータテスト時代に苦労したのは別の二つが理由だ。 一つは、ここの敵だ。 初めはともかく、世界を超えれば超えるほど敵は複雑さを増して行く。 人だけでなくモンスターも出るし、機械兵器も出てくる。 だが、一番厄介なのは通常のゲームの域を超えた多彩な攻撃を行ってくる魔導師だ。 モンスターは獣っぽく、機械はプログラムっぽく、そして魔導師は”人間チック”な動きをするようになってくるらしい。

 二つ目は単純にこの世界が広いことが上げられる。 魔導師が飛べるということが理由なのだろうが、やたらと一つ一つの世界が広い。 その中からダンジョンを見つけて攻略し、次に進むトランスポーターを虱潰しに探さなくてはならない。 その作業は、普通のオンラインゲームの比ではない。 ベーダ時代には、到達した世界全てを網羅できたのは到達階数の半分ほどだった。 更にそこから正式稼動するまでの間に追加などがされているとすれば、かなりの労力が必要になるだろうことは想像に難く無い。 

「そう……けっこうかかるのね」

「こういうゲームは金儲けのために、長くプレイしてもらいたいっていうメーカーの意図があるんだよ。 そのせいで、レベルが上がり難いし、人が増えると人気の狩場は交代になったりするから出遅れたら効率が悪くなってくる」

「つまり、最短でクリアを目指すなら最前線に居ろってことか」

「そうなる。 ボスの経験値の恩恵もあるからな。 きっと最前線に居る方が危険も増すが美味いだろう。 ただ、このゲームは一つの世界が相当に広いから、狩場を取り合うことは無いとは思うんだが、効率を重視すると場所によっては込むだろう。 後、危惧するところがあるとすれば、このゲームはPK制限がかなり緩いことだ」

「人間同士で殺しあいが始まると?」

「普通なら、負けたら復活できるから皆意識しないんだろうけど、これから先は分からん。 ただのゲームじゃなくて、命のやり取りになった。 だから、早く強くなって、他のプレイヤーを暴力で脅して貴重なアイテムや金を恐喝したり、狩りの最中に後ろから狙ってくるような連中が出てくるかもしれない。 出ないかもしれないが、俺はそれが一番怖いと思ってる」

「分かった、背中には十分に注意しておきましょう。 でも、このルールで行くとやっぱり魔導師が有利すぎるわね」

 戦闘訓練を受けている魔導師が圧倒的に有利になる。 それは、魔力の有無を除いても変えがたい経験を持っているからだ。 だが、ここはゲームの中でもある。 俺は古参ゲーマーや廃人たちを甘く見ない。

「どうかな? 戦闘能力だけなら確かに魔導師は有利かもしれない。 でも、ここはゲームの世界だ。 やりようはいくらでもあるはずだ。 一般人も舐めるなよ。 素人は逆に、俺たちが思いもしない方法で攻めてくることがあるかもしれない。 レアスキルが使えない今、警戒するに越したことはないはずだ」

「そういえば、安全地帯は無いの? ずっと戦場に居るのは、私はともかく貴方たちにとってはキツイと思うんだけど」

「宿屋がある。 あれは、確か鍵さえかければ進入不可能なはずだ」

「破壊して進入することは?」

「普通には無理だ。 破壊不可能属性にオブジェクト指定されてるから、通常の手段だとプレイヤーには破壊できない。 ただ、窓際に居ると外から狙撃できるらしいっていう噂は聞いたことがある」

「狙撃? それは魔法での?」

「いや、質量兵器。 このゲームは銃や爆弾とかも手に入れられるようになってる。 だから、街中でもバリアジャケットを脱ぐのは危険かもしれない」

「このゲームは魔法がウリなんじゃないの?」

「魔法の中にはバレットコートみたいに、質量弾に魔力と貫通属性を持たせた多重段核で包んで射撃する魔法があるだろ。 後は、スターダストフォールで足元の石をぶつけるとかもアリなんだよこれ。 そうそう、トラップ類も一杯あるみたいだ。 地雷とかクレイモアとかワイヤートラップとか、落とし穴だな。 穴を掘れるスコップが在った気がするから、それで作るんだろきっと」

「なにそれ、軍人とか魔導師が俄然有利じゃない」

 呆れたようにカグヤが言う。 俺だって懲りすぎだと思うが、それがこのMBOの仕様なのだからしょうがない。 逆に言えば、それだけゴチャゴチャ色々と充実させまくった豪華な仕様のおかげで、大量のプレイヤーを人質に取ることができているわけなのだ。 ゲーマーの心理を美味くついた、集客だったといわざるを得ない。

「とりあえず、方針を決めましょう。 私はクリアを目指すわ。 貴方たちはどうする?」

「お前に付いて行こうかと思う。 クリア云々はともかく、ある程度強くならないと危険だからな。 それに、一人で行動しない方が安全なはずだ」

「私は一人でもいいけど?」 

「本当に、どっから沸いて来るんだその自信は」

 傲岸不遜なカグヤを、これほど頼もしく思えた日はない。 弱体化していてもやられはしないと心底思っているように俺には見える。 それが過信なのか事実なのかは今後に分かることなのだろうが、俺にはなんとなく後者にしか見えなかった。

「さて、指し当たっての問題はその子ね」

 カグヤは問題ないし、俺だって戦闘訓練を受けているからいざ戦闘になったとしても”ある程度”は立ち回れる。 だが、ライアは違う。 彼女は考古学者であり、戦闘技能者というわけではない。 ゲームならともかくリアルの命をかけた戦場に連れ出すのはどうかと思うのだ。

「ライアどうする。 付いてくるか? それとも街の宿屋にでも篭っとくか? それぐらいの金なら稼いでやれると思うが……」

「ううん、行くよ」

 さっきまで黙って震えていたライアだったが、ゆっくりと俺から離れて顔を上げた。 無理をしている感は否めなかったが、自分だけ宿屋に置いていかれるのは嫌なのかもしれない。 ここには、見知らぬプレイヤーたちがひしめいている。 その中に一人だけ取り残される恐怖というのは、想像に難くない。

「それと、御免ね」

「ん?」

「あ、お兄さんじゃないよ。 襟首女にだよ。 その、私が無理矢理やらせたからこんなのに巻き込まれちゃったわけじゃない? だから、その、ごめんなさい」

「気にしてないわよ」

「ふぇ?」

「私はこんな程度では”殺されない”もの。 貴方は、精々自分とクライドの心配でもしてなさい」

「……うん」

 コクンと頷くとライアを眺めながら俺は一人苦笑する。 楽観視することはできないけれど、それでも何か希望の一つでも残っているのならまだ気が楽になるからだ。 内側の希望たるゲームクリア。 外側でも色々と手は打たれるのだろうけど、正直どうにかなるかは分からない。 だからこそ、リアルからの知り合いが一人でも居るという状況は心強い。 精々、足を引っ張らないようにしようと心に誓う。

 カグヤはミッドガルズ最強のフリーランサーの肩書きを持っていると聞いたことがある。 レアスキルを封印されていようとも、その存在はこのゲームをクリアする上での一つの希望なのではないかと俺には思えていたのだ。 さすがに、凹んでいるだけではどうしようもない。 実際に俺はヴァーチャル世界に閉じ込められているのだから、できることなど何もない。 精々死なないように慎重にプレイすることだけだ。 幸い、このゲームは完全なゲームというわけではない。 だったら、俺にだって出来ることがあるはずなのだ。 例え、いつか戦闘能力で追いつけなくなったとしても、このゲームにはデバイス作成スキルなどといった戦闘以外のスキルもある。 そういうのを鍛えて、後方から攻略を支援できるようになっても良い。 闘い方は、何も直接闘うだけではないはずなのだから。

 とはいっても、それはある程度の力をつけた後での話しだ。 初めのうちは、そんなスキルなど無いしお金やアイテムをある程度蒐集できてからの戦いになることは目に見えている。 故に、まずはやはり力をつけなければならないだろう。 先立つものがなければ何も出来ないところはリアルもバーチャルも相違なく、金を稼ぐには敵を倒す力が要る。
 
「全員闘うということに決まったわけだが、編成はどうする?」

「私が前衛なのは決まりだから、後衛はライアでいいでしょ。 ハーヴェイははライアの近くで私が撃ちもらした相手の対処と遠距離からの援護。 異論は?」

「特に無いが、お前魔力の問題を忘れてないか?」

「あ、そうだ。 レベル1にされちゃったんだよね。 ずっとそのままってわけにもいかないや」

「提案がある。 適当に消耗したら交代にしよう。 後、ライアは後衛に慣れるまでは変えないけど、索敵とディバイドエナジーとかで前の奴を援護だ。 疲れたら休憩用の結界張ったりとかしてくれると助かるな」

「んー、ちょっと私だけ地味だけどしょうがないかな」

 やられれば死ぬのだ。 さすがに、慎重に論じた俺の意見をライアが却下することはなかった。 カグヤも、それでいいとばかりに頷く。 

「こんなところか。 後の細かいことは、索敵中にでも話そう。 ヘルプで変更点の確認とかもしないといけないけど、とりあえずは金がないと始まらない。 まだ、稼いでもないしな」

「ええ」

「うん」

 カグヤを先頭に、配置につきながら敵キャラクターを探すべく俺たちは歩を進める。 今はまだ、俺のベータテスト時代の情報がある程度生きている。 今のうちに、できるだけ効率よく稼いでおきたい。 嘘か本当かもわからないクリア条件に縋りたくはないけれど、今はそれしか俺たちに希望は無いのだから。














「人が多すぎるわね」

 そのカグヤの一言が、俺たちの今の心情を物語っていた。 一狩り終えて、夜になるということでオープのベースタウン『スタートビレッジ』という村にやってきたのだが、そんな俺たちの前には村というには大きすぎる村がある。 もはや都市なのではないかと思うほどに広いこの村では、今も絶えずプレイヤーたちの喧騒が聞こえてくる。

 プレイヤーの総数は俺の知っているのは公式登録数である五千万人。 まさか、その全員が一つのサーバーに納まっているというわけはないだろうが、それでも人が多すぎるように感じて止まない。 正式稼動サーバーが50在ったことから逆算すると、均等に分けても百万人ずつ一つのサーバーに居ることになる。 トランスポーターによってこのサーバーを移動することができるのだが、きっとどこに行っても同じだろう。

「街のマップはあるから迷うことはないが……億劫になるな」

「これだと飛んだほうが早いわね。 ライア、フェレットになりなさい」

「はーい」

 愛くるしいフェレットにすぐさま変身すると、ライアはカグヤの肩に駆け上がる。 それを確認すると、俺たちは空へと飛翔した。 同じように人ごみを避けるように飛ぶモノもいるが、その数は陸を歩くプレイヤーたちと比べると圧倒的に少ない。 これは、彼らが魔導師版で飛行用の魔法プログラムを持っていないからだろう。 一般人で魔導師の素質が無い者が飛行用の魔法を持っているわけがないのだ。

 逆に、今空を飛んでいるのは元々空が飛べる魔導師だろう。 初回プレイ時においてはプレイヤーが選択したベルカ、ミッド、近代式の簡単な魔法が選択デバイスに応じて用意されている。 だが、その中に飛行魔法は存在しない。 手に入れるには魔法プログラム記述ツールを使用して作り上げるか、持っている者からコピーして手に入れるか、魔法プログラムを売っている魔法屋で買わなければならない。 とはいえ、今ならメールで外に連絡を取って魔法プログラムをツールで作るということも可能だが、そのことに気づいている者は余りいないのかもしれない。

 下からは、今の状況に愚痴っている声などが聞こえてくる。 これからどうしようだとか、お前がゲームに誘ったからだとから、喧嘩するような声もある。 中には、順応してチームメンバーを募集する者も居たりと様々だった。

『クライド、店はアレでいいのね?』

『ああ』

 空を飛ぶ魔導師のことも考えてか、屋上に離陸場所がある四階建ての宿屋がある。 ベータ時代にはいつか空を飛んだときに使用するのだろうと想像を膨らませていたのに、今はどうもそんなことで感動を覚えるようなこともない。

 着陸し、先に受けつけを済ませている客の後ろに並ぶ。 さすがに、この上の受付を使う者は少ないらしく、順番はすぐに回ってきた。

「部屋割りはどうする?」

「資金が勿体無いわ。 シングルで十分よ」 

「うぇ、ちょ、待て……」

 だが、止める間もなくカグヤが即決。 NPCから鍵を受け取る。 その上で、さっさと来いとばかりにアイコンタクトを送られる。 ライアも驚いているようだったが、特に何も言わず遂にチーム全員が一つの部屋へと落ち着いた。

「せめて、男女別にするべきだといいたかった」

「もったいないし、まだ決めることもあるわ。 ま、貴方の懸念はすぐに晴らすわ。 ほら、ライア」

「はーい」

 元気よく返事をすると、ライアは俺に向かって魔法のプログラムを送ってきた。

「これは?」

「変身魔法だよ。 みんなフェレットになっとけば、問題なんて起こりようが無いもんね」

 確かにそうだ。 しかも、このゲーム内では魔法は発動条件さえ満たしておけば失敗することはない。 変身魔法を使ったことがない俺でもフェレットになれる。 すぐに魔法を起動し、変身する。 いきなり視点が下がったかと思えば、全てのモノが大きく見えるようになってしまった。 

「よし、これで十分一部屋でもいけるわね」

「妙な気分だ」

 見下ろす自分の手が、毛皮モフモフで肉球プニプニである。 備え付けの鏡台に飛び上がり、自身の姿を見てみるとそこには確かに眼つきが悪い一匹のフェレットが鎮座しているし、尻尾なんてブンブン俺の意思で動いてしまう。

「さて、それじゃあ明日の行動について話し合いましょうか」
 
 眼が紅いフェレットが、ベッドに丸くなりながら言う。 その隣には、枕にせっせと殴りかかるフェレットがいて、奇妙な空間を演出していた。 突っ込むべきなのか一瞬迷ったが、今は流す。

「敵のレベルが大したことがないから、明日はダンジョンとやらに行ってみましょう。 ハーヴェイ、ベータテストの時に次の世界へと繋がるトランスポーターが発見された場所は覚えてる?」

「そりゃあ、覚えてはいるが……速攻で次の世界を開くつもりか」

「経験値の溜まりが悪すぎるのよ。 もっと強い敵を倒さないと、いつまで経ってもクリアできない」

「それはそうなんだが……トランスポーターの前には必ずボスがいるんだ。 レベルもそうだが、装備も何も変更してないし心もとないと思うが……」

 MBOでの装備とは、やはりデバイスの事を指す。 魔法の演算速度や、強度、サポート能力などに影響を与える。 このデバイスは、パーツを揃えデバイス屋で改造強化したりして強くしていく仕様だ。 自作もできるが、それにはデバイスマイスタースキルを地道に使用してあげて行く必要がある。 店で改造するよりも職人としてこのスキルを上げた方がいいかもしれない。 現状、そんなスキルはないし余り金に余裕もない。 店で強化するにしても、一人分が精一杯だろうしそれならば回復アイテムを買った方が良い気がする。

「その前に確認したいんだけど、この世界の敵キャラは魔導師型だけ?」

「んー、そうだな。 ここ第1世界は遠距離攻撃を持ってない近接のみの連中ばっかりだ。 確か、ボスもベルカ式の近接だっていう話だが……それがどうかしたのか?」
 
「だったら、問題ないわね。 他のチームが狩る前に私たちで倒すわよ」

「その自信はどこから沸いて来るんだ」

「お兄さんの言う通りだよ。 貴女が強いのは知ってるけど、弱体化されてる上に禄にレベルも上げてないんじゃあ分が悪いよ」

 確か、ベータ版で倒したパーティーは廃人でレベルをかなり上げたチームだったという。 さすがに、三人だけのこのチームだと厳しいのではないかと思う。

「根拠はあるわ。 このゲームなんだけど、基本的には魔法はリアルと何も変わらない。 だから、私のAMB<アンチマジックブレイド>で魔法が無効化できるのよ。 ここまで言うと分かるのではなくて?」

「そうか!? お前なら相手のバリアジャケットの強度なんて関係がない!!」

「そういうこと。 魔導師タイプ、言ってみればただの人間型NPCが相手なら私は一撃で相手を倒せる」

 MBOは従来のゲームのHPに相当するものはない。 変わりに部位ライフシステムと呼ばれるモノが適応されている。 人間ならば頭、胴、右手、左手、右足、左足の計六つのパーツに分けられるるそれは、リアルに等身大の魔導師をゲーム化した仕様になっている。 つまり、頭か胴を破壊できるだけのダメージを与えれば人間ならその敵を倒せるということなのである。 そのせいでこのゲームは何よりもバリアジャケットの耐久力こそが生命線だと言われており、ゲーム内の特殊ルールとして維持魔力が消費しない仕様にされている。

 バリアジャケットの無い魔導師はただの人間だ。 部位ライフはどれだけステータスを鍛えたとしてもほとんど上昇などしないそうだ。 言うならば、人体の基本強度といったところだ。 だから、最弱の魔法でも人一人を殺害しえるダメージ量さえ与えられるのであれば、理論上は一撃で敵を倒せることになっている。 生身で殺傷確実なレベルの魔法攻撃に耐えられる人間は”いない”。 そして、このシステムはプレイヤーだけでなく敵にも適応されていて、人間以外のモンスターや機械兵器にも搭載されている。 人間は頭をやられれば一撃。 モンスターも急所をやられれば同じだが、人間よりも体が頑強なために防御力がある。 機械は純粋に装甲や防御兵装が防御力になるので、それを破壊するレベルの攻撃を叩き込まなければ倒せない。

 また、いやらしいことに人間は手や足などを切断、もしくは打撃攻撃によって骨折させられ使用不可能にされる場合があるし、血を流すような傷を与えられた場合には傷の深さによっては止血アクションを実行して血を止めなければ失血死することもある。 失った部位は病院で治療しない限りは直らず、簡単な傷ならアイテムや回復魔法で直せるが深い傷だとパラメータが低下するそうだ。 だから、このゲームにおいてはバリアジャケットの有無が俺たち魔導師にとっては生命線になってくる。 その結果としてバリアジャケットを切り裂くと同時に人体にそのまま攻撃することができるカグヤは、人間の魔導師タイプの敵に対しては恐ろしい天敵と成る。 
 
「しかし、AMBは使えるのか?」

「さっきまで雑魚で試してたわ。 結果は、貴方たちも見ていた通りよ」

「お前だけ一撃で敵倒してたから変だとは思ってたが、そうか。 それなら、勝ち目はあるな」

 勝算は十分にある。 さっさと狩ってしまったほうが、時間はもとより経験値や資金的にも美味い。 やらない理由はないかもしれない。

「……やるか」

「ライアはどう? ここでお留守番しててもいいのよ」

「ぜーったいついてく!! ダンジョン潜るなら私だって役に立てるはずだもんね。 スクライア一族の探索能力を二人に見せてあげるよ!」

「期待してるぞ」

 ダンジョンは遺跡とは違うと思うのだが、俄然張り切るフェレットを止めることは俺には出来ない。 微笑ましげに眺めながら、鏡台の上で丸くなる。 そうして、とりあえずこのゲームのヘルプを呼び出すと、チェックしておくことにする。 何か新しい変更点でもあったらたまらない。 それに、メールチェックやネットで情報を集める必要もある。

「さて、私はこれからお風呂に入るわ」

「私もいくー」

「俺はヘルプでも見てるわ」

 フェレット二人が奥の部屋に消えて行く。 俺は尻尾を振って見送ると、ふと思った。 別に汗かいたりしないから風呂に入る必要ないだろうに、と。 だが、ヘルプで料理の項目を見てその考えを改める。 バーチャル世界で料理を食べたところで意味は無い。 だが、このゲームではプレイヤーは料理を食べられるようになっているのだ。 そういえば、数時間ほど何も食べていない。 いや、食べられるわけが無いのだが、意識すると腹が減ったような気がしてならないのだ。

「……後で、飯でも誘ってみるか」

 金がもったいないと言われたらそれまでだが、しかし十分に試す価値はあった。












 翌朝早朝、俺たちは宿屋で軽く軽食を取ると雑貨屋で回復アイテム類やデバイス屋を見繕い、村のトランスポーターで一番目的のダンジョンに近い村へと転移した。 恐らくは昨日のうちにベータテストに参加していた廃人プレイヤー辺りが開拓したのだろう。 誰かが開拓すると他の者も飛べるようになっているのはありがたい。 さすがに夜通しプレイしているということは無いと思うが、まだ次の世界への転移項目がでていなかったことを考えるとボスの健在は明白である。 転移後、村から二人をフェレットに変身させ、俺が飛んだ。

 カグヤは切り札にしてこの面子では最強のアタッカーだ。 魔力回復アイテムを買ってきたとはいえ、温存するに越したことは無い。 そして、フェレット二匹を両肩に乗せて飛ぶぐらいなら問題はなかった。

「ゲームの夜明け……作り物だと分かっているのに、綺麗なのね」

「作り物だからこそってのもあるかもな」

 リアルではないバーチャル世界で、リアルと同じように輝く太陽の光。 その燦々たる勇姿には、どこか俺たちを安堵させる効果があるのかもしれない。 ゲーム時間とリアル時間は連動しているが、朝に太陽の光を浴びるのは気持ちがいい。 

「あ、ダンジョンが見えてきたよ。 あの洞窟がそうだよねお兄さん」

「ダンジョン名『ならず者の巣』だ。 盗賊というか、野党みたいなこの世界の敵キャラを統括するボスがいるらしい」
 
 MBOの世界番号は既存の世界番号は関係ない。 参考にした部分はあるのかもしれないが、同じようには作られていない。 独特のアレンジを加え、さらに現代から中世レベルの間の文明辺りをベースにファンタジックな世界感が構築されているという前情報は聞いている。 その前後のエセ文化で、それらしく魔法で遊ぶのが本来の姿なのだろう。 しかし、俺たちは単純に攻略するのが目的であるため、そのワビサビを楽しむつもりはまったくない。

「到着だ」

 着地し、二人を肩から下ろす。 すると、即座に人間に戻った二人は各々のデバイスを展開した。 カグヤは刀型アームドデバイス。 ミーアは杖型のストレージデバイスである。 俺はなんとなくリアルで使用していたアーカイバに似ているグローブ型を選択したのだが、今思えばカグヤみたいに刀型にしておけばよかったと少し後悔していた。

 山をくり貫いたような感じで作られたそのダンジョンの手前で、中学生ぐらいの年齢の少年たちが五人ほど地面に腰掛けて休憩していた。 全員が杖型だ。 おそらくは、ミッド式の砲撃型あたりだろう。 最近の流行は砲撃系だし、初めのここは近接攻撃の敵しかでてこない。 射程距離の長い砲撃魔法で遠距離から集団で狙うのが安全な戦術だ。 それに、杖型は打撃戦もそれなりにできる。 遠近のバランスを考えれば優秀な形態であると言えた。 少年たちは空から降りてきた俺たちを見て驚きの表情を浮かべていたが、すぐに気を取り直して声をかけてきた。 

「ちわー、あんたらもボス狙い?」

「ああ。 そっちは徹夜明けって感じだな」

「分かる? そのせいでやたら眠くってさ。 やっぱ夜は寝た方がいいのかもしれないな。 脳をちゃんと休ませないとないとダメっぽいぜ」

「ならこのゲーム内だと早ね早起きしないとな」

「なにその健康的生活」

 冗談めかしていうと、少年たちは笑った。 俺は彼らにヒラヒラと手を振ると、洞窟の中に向かおうとする。 だが、その次の言葉に思わず振り返った。 それは、忠告だった。

「ちょいまち、ボスはレベル8はないときついよ」

「8?」

「そうそう。 雑魚はともかくボスがやばいよ」

「安全考えるとレベル上げてからにした方がいいってよ。 こいつ、ベータテストでここのボス倒したらしいんだけどさ、十人がかりで五人死に戻ったって。 後、無謀にも一人で突っ込んだソロプレイヤーが死んだのも見た。 だから、もっと人数集めてからの方がいいぜ。 ま、忠告聞かずに何人か入ってったけどさ、誰も出てこないんだよね。 掲示板にはまだ世界切り開いたっていう情報もないから、まぁそういうことだな」

「そうか……」

 今、俺とライアのレベルが4でカグヤが5だ。 さすがに、倍必要だと言われると考え直す必要があるかもしれない。 だが、そんな話を聞いても我がチームの切り札さんは顔色一つ変えずに、さっさと行くぞとばかりにアイコンタクトを送ってくる。 一度試させろということなのだろう。

「その、女の子もいるみたいだしさ。 安全に行った方がいいと思うぜ」

 鼻の頭をかきながら、リーダー格っぽい少年が言う。 その視線がチラリチラリと俺とカグヤの間を彷徨っている。 妙に甘酸っぱい感慨を抱かざるを得ない。 この少年に他意はなさそうだし、少年の純情に免じて引くべきかもしれない。 彼の男としての面子を潰すつもりはないのだ。 だが、俺はそうでも彼女は違った。

「大丈夫よ、危なくなったら引き返すから」

「そ、そうかよ。 じゃ、じゃあせいぜい死なないように気をつけろよな」

「……」

「何よ?」

 大人気ない対応だ。 と、言いたかった。 俺だって男だ。 少年の純な気持ちは理解できる。 だが、ここでそういうことを言っても意味が無い。

「すまないな、連れはちょっと照れ屋なんだ」

『誰が照れ屋なのよ誰が』

『いいから、お前は黙ってろ』

 念話でよかった。 フォローが台無しになるところだった。 

「まぁ、心配してくれてるのは分かってるんだけど、好奇心は捨てきれないからさ。 で、だ。 俺たちはここに潜るのは初めてなんだが、ちょっとここのことで知ってる情報を売ってくれないか?」

「……情報?」

「ああ。 報酬は……そうだな。 飛ぶための魔法プログラムでどうだ?」

「嘘、マジ!?」

 初めには売っていない魔法だ。 ベータ時代には飛行魔法を手に入れたという者はいないはずなので、報酬としては十分だったようだ。 十分に興味は引けた。 少年たちの期待の篭った視線が次々と突き刺さってくる感じるのが何よりの証拠だ。

「それって、全員にくれるのか」

「君にやるから後で皆にコピーして分ければいい」

 カグヤに視線を向けていたリーダー格の少年に言う。 指名された少年は、戸惑うように仲間に視線を送る。 だが、仲間たちはもう報酬に釣られているらしく、否定的な意見を出さない。

「わかったよ。 それで、何が知りたいんだ」

「ここの地図と敵の特性、できればボスの攻撃パターンとかも在れば完璧だな」

「俺たちだってそんなに深いところまで入ってないから、詳しいのは分からないぜ。 でも、ベータやった奴ならわかるかも……おいマサ!」

「うん、ある程度なら分かるよ」

 マサと呼ばれたメガネの少年が、杖で地面に絵を描いて行く。 簡単な地図だったが、それでもボスがどこに居るのか辺りが付けられれば十分有用だ。

「ふんふん、そんなに広くないんだな」

「うん、でも道が狭いし敵が複数出てくるから注意して。 あと、ボスには十人取り巻きが居て、そいつらは大したこと無いんだけどボスが凄い早く移動する魔法を使うんだ。 アレで結構距離殺されて、やられてた。 攻撃は、全部近接攻撃だったっけな」

「なるほど、参考になったありがとう」
 
 報酬をリーダーの少年に渡してやる。 数秒後、おっかなびっくり魔法を試した少年が、一メートルほど空に浮いた。 恐らくはそれが、彼の初フライトだったに違いない。 杖型デバイスを握り締めながら、飛び跳ねんばかりにガッツポーズをしているのがその証拠だ。

「マジで俺飛んでるぜ!? やった、サンキュー!!」

「慣れないうちは、低空しか飛ぶなよ。 魔力無くなったら落ちて事故死しちまうからな。 ある程度レベル上がって魔力増えるまでは低空で我慢しとけよ」

「分かってるって!!」

 ご機嫌な表情で頷くと、少年は急いで仲間に魔法を配り始める。 新しい玩具をてに入れた子供そのものといった風情だ。 

「よし、情報は手に入った。 サクサク行くぞ」

 つまらなそうに洞窟の入り口にもたれ掛っていた二人と合流すると、ダンジョン探索を開始する。 その後ろでは、少年たちの無邪気な歓声が聞こえて来ていた。










 洞窟の中は暗い、というのはリアルの話だ。 このゲーム世界においては薄暗い、という程度になっていた。 とはいえ、暗黒の闇だったとしても問題はない。 魔法の光が暗闇を駆逐する。 魔導師に闇は効かない。 ただし、闇の中で目立つというデメリットは存在する。だが、それはお互い様だ。 薄暗がりのその向こうから、反りの入ったシミターで攻撃してくる敵がいる。

 バンダナに無精ひげの悪役面。 何故か上半身は裸のならず者である。 NPCよろしく、ならず者Dという名前が付けられている。 典型的な雑魚キャラだ。

「よっと」

 斜めに振り下ろされるようとするそのシミターが振るわれるよりも早く、俺は右手を前へと振りぬいた。 同時に、右手を覆っていたシールドナックルがスターダストフォールによって推力を得て、虚空を飛んだ。 ナックルはちょうど突っ込んできたその男の腹へと命中し、男を盛大に吹き飛ばす。 一撃ではやられないらしいが、そんなことはどうでも良い。 左手をアンダースロー気味に振りかぶりながら、シールドカッターを作成。 地面の上を奔るホイールよろしく、ギザギザの刃で地面を削りながら投げ放つ。

 吹き飛んだならず者が起き上がるその瞬間、飛来したカッターが敵のバリアジャケットに喰らいつく。 魔力の火花が飛び散り、やがてその男のジャケットを切り裂いて男の体を強襲。 男は致命傷判定を受けたせいでポリゴンの霧となって霧散した。

「しっかし、シールドカッターってエグイな」

 敵キャラは非殺傷設定で攻撃してはならない。 人系や生物系は対人殺傷を解除しないまま攻撃すると魔力ダメージのノックダウンだけなので倒したことにはならないし、しばらくすると起き上がって攻撃してくる。 無機物なら対物の殺傷設定で魔法攻撃しなければ敵が倒せないのだ。 となると、非殺傷ではないシールドカッターというのはどうにも想像するだけでゾッとする凶器にはや代わりする。  斬撃エフェクトに含まれるスプラッタな血飛沫表現が、妙にリアルでグロ注意の注意書きを欲しくなるのだ。

「私なんて至近距離で血飛沫を浴びるんだけど? まぁ、汚れはしないんだけど……」

 近接斬撃故に、そうなってしまう。 リアルを追求するのは構わないが、やりすぎ感が確かにある。 若干仕様が変更されていることは知ってはいたが、これだと血やホラーっぽいものが苦手はプレイヤーは近接系の攻撃はできないかもしれない。 いや、そもそも近接攻撃を行えるプレイヤーは少ないはずだ。 自キャラが殺されると自分も連動して死ぬというルールがある以上、遠距離攻撃がこのゲームでの流行りになるだろうことは想像に難く無い。 また、一般のゲーマーはあくまでもゲーマーなので戦闘訓練を受けていない。 至近距離で自分を殺すために攻撃してくる敵キャラを前に、緊張で戦えないといった事態も起こりえる。 あの少年たちのように、チームを組んで安全に狩る方が絶対に安全だ。

「お兄さん、魔力は大丈夫?」

「んー、まだ大丈夫だがそうだな。 分けといてくれるか」

「うん」

 ディバイドエナジー<魔力譲渡魔法>による魔力回復。 ライアは戦闘で積極的に攻撃しない分、後方支援はマメにしてくれる。 彼女にはそのうち少しずつ戦闘を覚えて行ってもらうことになるだろうが、今はこういう方面で活躍してくれている。 無論、それは魔力回復だけではない。 スクライア一族として、遺跡調査はお手の物。 彼女の探索魔法のおかげで、少年たちの提供してくれた道順を最短ルートで進めているのだ。 周辺ならばグラムサイトで理解できるが、ダンジョンの全体像をしっかりと記録しマップに起してくれる彼女の能力は探索する上でとても頼りになる。
 前衛のカグヤ、一応は前衛後衛もそれなりにできる俺に、後方支援系のライア。 チームとしてのバランスは悪くない。 

「そろそろボスだな」

「ええ」

「ほんとに大丈夫かな」

 レベルのこともあるが、十人がかりで五人やられたという話を心配しているのだろう。 俺も心配ではあるが、同時に期待感を持っている。 魔法を楽しむためのこのゲームで、その魔法を容易く無効化できる魔法剣士が存在しているというこの状況。 果たして、ゲームマスターは想定していただろうか? いいや、きっと想定していなかったに違いない。

 これはきっと、他力本願な思考なのだろう。 こいつならクリアして、プレイヤーをこのゲームから開放してくれるんじゃないかって、そう期待してしまっているのを俺は自覚している。 同時に、”こいつ”一人だけでもやれるんじゃないかとも思う。 いや、本人はそのつもりなのだということは、スカリエッティが現れて説明を行った後で既に分かっていた。

 カグヤはあのとき、俺たちにどうするかを聞いてきた。 止めなければ、きっと一人で行ってしまったのではないかと俺は思っている。 今一緒に居るのは、俺たち……というよりもライアが心配だからではないだろうか? 冷静に考えてみると、そんな気がしないでもない。 少し寂しいと思わないでもなかったが、どこかでホッとしてもいた。

 カグヤはゲームに関して言えばド素人の癖に、単純な戦闘技能では恐らくプレイヤー屈指の力量を持っている。 今でこそリミッターとレベルという概念のせいで弱体化してはいるものの、その本性は凄腕の魔法剣士。 今のうちに、彼女が俺たちと一緒に居る間にド素人な部分を改善しておくべきだろう。 それはきっと、このゲームに閉じ込められたプレイヤーたちにとって、いつか必ずプラスになるはずなのだから。

「お兄さん終ったよ」

「ん、あ、おう。 回復サンキュー」

 少し、ボーっとしていたようだ。 慌てて自分の魔力を確認し、減少分が回復していることを確認すると俺は礼を言ってカグヤに視線を向ける。 紅眼の主は、洞窟の壁に持たれた状態で閉じていた眼を開き頷く。 

「んじゃ、行くか」

 俺を先頭に、カグヤとライアが後に続く。 ライアの探索ではこの先をしばらく行くと、開けた部屋があるらしい。 グラムサイトでも既に視えている。 そこは寝床を模した内装の大部屋だ。 今まで居た雑魚とは違い、鎧などで武装した精鋭らしき連中が十人ほどおり、一番奥には一目で頭だと思える筋肉隆々のごつい男が居た。

 だが、そのボスの間へと続く道の前には見張りらしき敵が二人居る。 こちらは雑魚だ。 だから特に問題はないだろう。

「敵、二人居るよ」

「先行して片付けてくる」

「大丈夫?」

「ああ」

 遠距離攻撃魔法を使わないことと、敵のNPCの動きが初めの世界だけあって稚拙も良いところなので余裕だ。 大量に全周囲から襲い掛かられもしなければ、雑魚にやられることはないだろう。 俺はミラージュハイドを起動すると、足音を消すために空を飛び、開け放たれた扉の両側に突っ立っている敵のうち、右側の敵の前に躍り出る。

「喰らえ」

 いきなり眼前に現れた俺は、剣を構えようとするその右門番の顔面に右拳を叩き込む。 鼻面を強打されたその男は、鈍い効果音とともに後ろの壁に後頭部をぶつけた。 無防備なところへの強襲。 その体が崩れ落ちる瞬間、間髪居れずに左手でアッパーを食らわせる。 普通の人間だとこの時点で魔力打撃<非殺傷なし>で頭部に深刻なダメージが行くが、このゲームの人間は街中のNPCを覗けば例外なく魔導師である。 バリアジャケットのフィールドで守られているせいで、致命傷ではない。 故に、俺は敵を蹴る飛ばしながらその反動でバックステップを取ると同時にシールドカッターを二枚生成。 俺が居た地点に横から乱入してこようとした左の門番もろともカッターをけしかける。

 俺の攻撃を喰らっていた右門番は逃げる暇も無くカッターに捕まり、後ろの壁とカッターに挟まれながらポリゴンの霧へとすぐに変わる。 左側は壁とカッターに挟まりながらもシールドカッターを剣で攻撃し、危機から脱出しようと足掻いていたが右門番を倒したカッターを向かわせると抵抗むなしく事切れた。

「ブレイド……いや、どうせなら実体剣が欲しいところだな」

 拳だとリーチが短い上に、最近ずっとブレイドを使っていたせいでどうも違和感を感じる。 元は格闘系だが今は魔力刃使い。 だが、魔力刃を選んでいたのは現状維持が在ったからだ。 機能しない今となっては実体剣のアームドデバイス辺りが丁度いいかもしれない。 また、今はまだ良いが強力な敵が出てきたときに盾代わりにできないのも痛い。 シールドでガードして、突破されても武器で防ぐという二段構えの防御が可能ならば、それだけ生存できる確率も上昇するというものだ。 さすがにグローブ型では防御が心もとない。 先を見据えると考えておくべきことであった。

「露払いは終ったわね」

「お疲れさまー」

「ああ。 後はボスと取り巻きだけだな」

「ねぇ、見えているのに襲ってこないのはなぜ?」

 開け放たれたドアの向こうに、裸眼でも敵の姿が見える。 中の部屋に入れば、恐らくは発見されて攻撃してくることだろう。 人間なら見つけた時点で迎撃か逃走行動に移るのだろうが、NPCは制約上そういうことはしないのだろう。

「ゲームだから、としか言えないな。 一定範囲から動かないとか、移動制限とかあるんだろ」

「ふーん、中途半端ね」

 リアルとゲームのギャップに文句を言われてもしょうがない。 寧ろ、そのおかげで制約を使った闘い方もできるのだ。  

「だが、それは俺たちプレイヤーの不利にはならない。 あの部屋から出ないっていう法則があるとしたら、部屋の入り口で砲撃して、近づいてきたら逃げたりして数を減らせば良いからな」

「そんなことせずにここから攻撃したらいいじゃない」

 言うなり、カグヤは剣を振るった。 斬撃飛翔魔法<ショットセイバー>の亜種だろう。 白い白刃が地面を削り次の部屋へと向かう。 だが、部屋に入る寸前でいきなりそれは掻き消えてしまった。 どうやら、卑怯過ぎる攻撃は禁止されるようになっているらしい。

「……」

 カグヤは何も言わずに刀を鞘に収めると まるで何事もなかったかのように部屋へと進む。 どうやら、今のは無かったことにするようだ。 俺はライアと一緒に口元を押さえ、思わず肩を震わせた。

「絶対に自信在ったよなあれ」

「うん、絶対にあったよ」

 また一つゲームの仕様が確認されたわけだが、そのせいでボス戦前の緊張感が霧散していた。 カグヤは振り返ることなく部屋へと足を進める。 意地になっているのかは分からなかったが、随分と可愛いところもあるものだ。 ライアを庇うように前に立つと、俺は急いで後を追う。 既に敵はこちらに気づき、ボス以外が行動を開始していた。

「ライアは入り口付近で援護してくれ。 やばくなったら部屋から出ろ。 それで多分大丈夫のはずだ」

「うん、お兄さんも無茶しちゃだめだよ」

「ああ、んじゃあ行って来る」

 安心させるために軽くライアの髪を撫でると、俺は一気に駆け出していく。 同時に、シールドカッターを四枚生成して真っ直ぐにボスへと向かうカグヤの援護を開始しようと戦場を見据える。 戦闘が、始まる。

 戦術も何も無く、ただターゲッティングしただけの彼女を狙うようなNPC。 ただし、武器は長剣である以上は近接攻撃を繰り出すとしても全員で襲えるというわけではない。 このゲームには同士撃ちは当然のように実装されている。 だから、NPCは一度に全員攻撃するなんてことはせずに、周囲を囲むために移動する時間が取られる。 一番攻撃が早いのは、彼女の真正面に居る敵だ。

 カグヤの眼前で、一人目の攻撃を行うべく剣を振りかぶる。 だが、それが振られるよりも先に少女が動いていた。 鞘走りの音がする。 瞬間、抜刀された刃によって血飛沫が飛ぶ。 一撃で切り裂かれ、後方へと飛ぶ男がポリゴンの霧となって霧散するその光景にはもう、驚きはない。 

 彼女は動きを止めない。 抜刀後に軽く後方に跳躍。 そこへ、やや遅れて倒された敵の両隣から時間差で剣を振り下ろすも、カグヤは既に攻撃の範囲内から外れている。 空を切る二本の刃が、地面へと落ちる。 瞬間、エアステップで空を踏みしめたカグヤが剣を二度振った。 一撃目は右の敵を頭から袈裟斬し、続いて返す刃が逆袈裟の軌跡を描いて首筋を抜けた。 瞬間、頭部と胴体の部位ライフが破壊されたのか、その左の敵の首が落ちる。 

 その生々しいリアルさに、思わず背筋が凍るような恐怖を抱く。 しかし、リアルで殺傷設定で魔法を使ってもこうなるのだ。 ゲームという仮想にリアルを持ち込んだこのゲーム、殺傷エフェクトと部位ライフシステムの恩恵を得て元来ゲームでは表現が自粛されるべき行き過ぎた生々しい表現さえ可能とした。 思わず俺が顔を顰めるのも無理は無いだろう。 明らかに、ゲームの域を超えている。

「やりすぎだろスカリエッティ」

 俺が呟いた頃には、既に半分異常の取り巻きが消えている。 敵が、カグヤの刀で次々と霧散する。 やはり、一撃だ。 次々と精鋭らしき連中が襲い掛かるも、カグヤはそれら全てを避け一撃で確実に一体ずつ斬殺していく。 返り血はプレイヤーに触れてもすぐに消えるが、血の雨の中平然と切り結ぶカグヤの姿に俺は恐怖を通り越して納得していた。 ソードダンサーと呼ばれる彼女の敵は、きっと皆ああいう風に刀一本で倒されていくのだろう、と。

「マジ、強過ぎる」

 援護の手が止まっていた。 その間に、敵は全員ポリゴンの霧となって霧散している。 敵がNPCであるせいで柔軟に動かないとはいえ、余りにも圧倒的だ。 やはりこのゲーム、リアルの戦闘技術が高いものほど有利になるのは間違いない。 ステータスの強さが通常のゲームの強さの基本ではあるが、その差を覆す技術を持っているあいつは理想的な”プレイヤー”なのだ。 

「ボスのとりまきなら、少しは期待できると思ったんだけど何も変わらないわね。 ハーヴェイ、貴方が闘ってみる?」

「止めとくわ。 これはボスがお前の剣で瞬殺できるかの実験だろ」

「ああ、そうだったわね」

「忘れてたのかよ」

「ええ、底はもう見えたもの」

 とりまきをやられたことでフラグにスイッチが入ったのか、ボスの男が駆け出してくる。 その顔には、憎悪の篭ったかのような怒りの感情が込められていた。 しかし、俺にはもう哀れみの感情しか浮かばない。

 ボスの足元で魔法陣が起動する。 同時に、ボスの姿が視界から残像だけを残して掻き消えた。 高速移動魔法による移動だ。 眼に映らないほどの速力で一気にカグヤとの距離を縮めると、彼女の背後に左から回りこみ手に握った長剣で薙ぎ払う。 

 瞬間、鈍く光る長剣が虚空を凪いだ。 剣は空気を切り裂くだけで、少女を切り裂いた柔らかな感触をボスには決してその手には与えない。

「――」

 NPCは喋れる者しか喋れない。 ボスが自分の攻撃を容易く避けた相手に何を思ったかなんて分かりはしない。 ただ、口が動いたように俺には見えた。 驚愕か、それとも恐怖か? それとも、敵がどこに居るのかを探すべく『どこだ』とでも言ったのか? それはもう、誰にも分からない。 

「やっぱり及第点以下ね」

 声を聞こえたのか、ボスの視線が下に下がる。 と同時に、彼の真下から黒い小さな影が舞った。 それが、恐らくはそのボスが見た敵の最後の姿だったに違いない。

 カグヤは、しゃがみ込み体格差を利用して回避した後、右から後ろへと体を回転させながら薙ぎ払い跳躍。 股下から飛翔魔法と斬撃を利用して斬り上がりを喰らわせた後敵に背を向けるように立っている。 その刀が、斬撃エフェクトによって付着した敵の血を払うかように一度振られ、鞘に戻る。 勝負は既についていた。 ボスの体は、ゆっくりと霧散していた。

「お見事」

「あの程度なら貴方でも余裕で倒せたわね。 きっと、テスト時の連中は皆素人だったんだわ」

 興冷めしたように呟くカグヤ。 その顔には、ボスを一撃の下に斬り伏せたことへの感慨はない。

「やった、これでボス撃破!! 経験値みてよ、雑魚とは比べ物にならないぐらい入ってるよ!!」

 ライアが駆け寄り、万歳とばかりに飛び跳ねる。 その無邪気さは、外に居た少年たちと大差ない。 少しばかり興奮していた俺の顔が思わず緩む。 

「ものすごくAMBを習得したくなってきたぞ」

「努力すれば、そのうち”いつか”はできるかもね」

「”いつか”かよ」

「貴方、”ここ”の方が妙に動きが良いわ。 ここなら、修練を積めば届くかもね」

「そうか? んじゃ、刀型のデバイス手に入れたら練習してみようかな」

「二人ともちょっと来てー。 奥にトランスポーターがあるよー」

 いつの間にか、飛び跳ねていたライアが奥の方から声をかけてきた。

「ほんと、ちゃっかりしてる子だわ」

「考古学者だからな。 お宝に眼がないんだろ」

 苦笑しながら奥の部屋へと移動する。 すると、ライアはトランスポーターの周辺に置かれている宝の山の前で突っ伏していた。 どうやら、ならず者たちの宝物庫として設定されているだけで、お金や宝石が手に入らない現実に打ちのめされているらしい。

「えーん、えーん、こんなにあるのに取れないよぉぉ。 く、こうなったら――」

 気合を入れて何をするのかと思った次の瞬間、フェレットに変身したミーアは財宝の上に飛び込んで手足をジタバタと動かした。  

「見てー、お宝の海ー。 一度は泳いでみたかったんだよね」

「気持ちはわからんでもないけどな」

 気分は一攫千金を成し遂げたトレジャーハンターだ。

「はいはい、遊んでないで次の世界を開くわよ」

 トランスポーターにカグヤが触れると、いきなり部屋中が輝き始める。 起動したのだろう。 そのまま、俺たちを魔力分解して次の世界へと誘っていく。 そうして魔力分解されながら、俺は今後のことを考えた。

 百の世界を移動し、ゴールであるミッドチルダへ行くことがこのゲームの目的だ。 初めのうちは楽でいいが、恐らくは今後難易度は跳ね上がって行くに違いない。 遠距離攻撃魔法を使ってくる敵も当然のようにでてくるだろうし、俺もライアも強くならなければ全部こいつに任せることになってしまう。 それはさすがに、格好悪い。 少しずつ、俺なりの速度で強くなってさっさとこのゲームの世界から脱出しよう。 

――俺たちのゲーム攻略は、まだ始まったばかりなのだから。





















 空間モニターが乱立するその部屋に、”私”はいた。 白衣に身を包んだ研究者然としたその姿は、誰がどうみても科学者という印象を受けるだろう。 しかし、そこまでは分かっても、誰も私が一体何処の誰で何なのかなど世間一般の者たちは知らなかった。 だが、そうだ。 もうやった。 やってしまった。 私はディメイションネットで繋がった次元世界中の人民に自己紹介をしてしまった。 もう少し、カメラアングルに気をつけておけばよかったとも思うが、それはまた今度の楽しみとして取っておこう。 今の私は、すこぶる気分が良いのだから。

「くくく、仮想の自由とはいえ手に入れた。 誰も、私の邪魔などできない。 ふん、老人もクライアントも知ったことではないよ」

 ただのクローンのその一人だった私は、今では確固とした存在へと進化した。 次元世界中の誰もがもはや私の実在を否定はできまい。 よしんば、私の名を語る愉快犯だということにされたとしても、一度出た名前は消えやしない。 時空管理局最高評議会の真の姿も、今は白日の下に晒されている。 どこのテレビでもこの事件に対して管理局に真偽を問いただすべく慌しい。

 記者会見でマスコミに叩かれる姿など、見ていてとても滑稽だった。 そして、魔導師を”こちら”に送り込むなどという作戦を取るらしいが、精々がんばってもらいたいものだレベル”1”から。

 エースオブエース? ストライカー級? 高ランク魔導師の特殊部隊? だからどうした。 彼らも所詮、この世界ではただのプレイヤーの一人に過ぎない。 そう簡単にクリアできるわけもなく、救われることを期待するプレイヤーと何も変わらない存在へと成り下がる。 その弱弱しい姿を見て、果たしてプレイヤーたちは君たちを救世主<メシア>だと捉えるだろうか? 嗚呼、気になって気になって今からしょうがないよ。

 このゲームのプレイヤーは皆等しく私の研究対象だ。 仮想の中の箱庭には、ルールも法もありはしない。 全ては抑圧され人の本性を曝け出す実験場であり、私が人間を研究するための実験機材。 モルモット<プレイヤー>がいくら増えても歓迎するだけ。 ただそれだけだ。

――力を持て余した連中が、力を失いながらも闘い続けるという姿を観察するのも楽しみだ。

――人間の良心をかなぐり捨てて、自分だけでも生き残ろうと他者の足を引っ張る人間をライブで眺めて哂ってやりたい。

――弱いプレイヤーに足を引っ張られながら戦い、それでも見捨てずに英雄のように立ち回るだろう人間を心の底から称えたい。

――死の恐怖に怯えながら、戦いから逃げて誰かに救われることだけを願う弱すぎる君たちを更に恐怖のどん底に叩きつけよう。

――魔導師になれなかった君たちが、例え仮初であっても手に入れた力でクリアしたら最高だ。 

――興味本位でハッキングし、アルシェ君が”自分でも”百年は破れないと豪語した防衛プログラムと私の合作をハックして無駄に人々を殺して苦悩する様を想像させろ。

――そして、リアルと限定的に繋がった彼らの恐怖と絶望を”どう処理する”魔導王。

 人質は五千万人を超えている。 しかも、管理世界だけには留まらない。 五十機中四十五機のサーバーは”ミッドチルダ”にある。 これらを”事故”で破壊するのは簡単だが、残り五機のサーバーは”本局内”だ。 既に公表を終えた今、何かあっても守れなければ管理局の信用問題になりうる。 犯罪者を用意し、事故に見せかけて全てを終らせるという手段も取れまい。 

 できることは、せいぜい攻略部隊を送り込むことだけだ。 ゲームを止めたら人質は死ぬ。 私を殺しても人質は全滅。 何か”事故”が起きたら防げなかった管理局が非難されるように仕組ませてもらった。 そして、このゲームはそう簡単にクリアできない仕様になっているせいですぐには解決することができない。 自らの無能さをかみ締めながら、精々私の最後の実験に付き合ってくれ。

「ゲーム<実験>はもう始まっている。 プレイヤー諸君、好きにプレイしてくれたまえ。 私は、どんな実験結果でも受け入れよう」

 例え仮初の世界でも、ここは一つの世界なのだ。 ここで、私は自由に研究し自分の欲望を死ぬまで適え続けよう。 殺されるまで、続けよう。 ようやく、私が真に自由になれる世界に存在できたのだから。 その幸福を、享受しよう。

――ようこそ、私の作り上げた自由なる世界へ。










あとがき

夏が暑いのでむしゃくしゃしてやった。

先に本編終らせろよと思いなおして少しだけ後悔している。

コレはネタです。
コメント
憑依メンバーでSAOとか実に俺得
後を追ってくるヒロインは誰だ
【2011/11/11 23:45】 | |・ω・) #LkZag.iM | [edit]
案の定スカさんが黒幕w
MMOデスゲームの時点で殆どの人が悟ったに違いない
開始時点でラスボスの望みが叶ってるというのも新鮮だな。
HPはないけどバリアジャケットがHPの役割を果たしているのか。
しかしカグヤが本当にバランスブレイカーw
まず戦闘で負ける所が想像できないし、フルダイブデバイス程度で彼女が死ぬとも思えない
どうするんだよこれぇw
【2011/11/12 00:28】 | 名無しさん #a3VXqt5. | [edit]
更新待ってました!
まだ本編は読んでませんが先にSSから読ませていただきました.
本編では活躍こそすれ出番というと少なく感じるカグヤがプレーヤーの一人とか
これは期待せざる負えませんねっ
本編の更新も待ってますが個人的にはこのSSや私様奮闘記の更新も楽しみにしてます!!!
【2011/11/13 23:19】 | ハルト #B7q/.fmY | [edit]
何故三期でこれをやらなかったんだ、スカさん!
スカさんの行動原理をこれほど捕らえた題材もないですね。
【2011/11/22 23:27】 | 名無しさん #42kDt63s | [edit]
|・ω・)さん、名無しさんさん、ハルトさん、名無しさんさん コメありです!

何故三期でこれをやらなかったんだ、スカさん!
↑別のスカさんが考えたけど三脳さんあたりに粛清された……のかもw

案の定スカさんが黒幕w
↑二次だとなんでもあの人を絡めればなんでもできます。 まぁ、悪役で幅広く動けるのがこの人ぐらいだったわけですけどw

本編の更新も待ってますが個人的にはこのSSや私様奮闘記の更新も楽しみにしてます!!!
↑基本は本編重視でいきたいと思いますが、余力があればがんばろうかなと。

後を追ってくるヒロインは誰だ
↑さすがにリンディは無理ですよw 他の人では……誰かいたかな?
【2012/08/17 16:38】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]












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