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MBO 01

 2011-11-11

 人類の飽く無く欲望は、ついにリアル<現実>だけでは飽き足らずバーチャル<仮想>にまで及んでいる。 そのとある技術者はリアルを可能な限り仮想化し、俺たちを仮想の箱庭に閉じ込めた。 そこはもう、新しい世界だ。 新世界と呼んでもいいかもしれない。 0と1で作られたその仮初の世界の中で、俺たちは日々を生きている。 この禄でもない世界に、その命を握られたまま。

「サンキュー、ここは安いから助かるぜ」

「まいどありー」

 ホクホク顔で去って行く三十台ぐらいの男を適当な挨拶で見送りながら、俺は適当に空間モニターを弄る。 ズラズラとした項目の中には、デバイス関係のパーツ情報が並んでいる。 コア、CPU、カートリッジシステム、ボディーパーツ、変形システムなど、とにかく沢山のパーツが並んでいる。 これらは今までに俺が蒐集したコレクションだ。 貴重なものから第一世界でも買える安価なものまでそれなりにある。 俺は”デバイスマイスター”。 故に、その仕事はデバイスの修理と改造だ。 先ほどお客は、俺に改造を依頼してきた魔導師である。

 店の名前は『デバイス屋』。 なんとも捻りない名前だが、シンプルで俺は良いと思っている。 通常のNPCによるデバイス屋もあるが、ここはギルドショップという特殊な店だ。 ギルド基地というのを買い、その中で本拠地を改造して作った代物だ。 本来はギルドメンバーしか入れないが、ギルドショップは他のギルド員や一般プレイヤーも利用できるので鍛え上げたデバイススキルを有効利用するためにやっている。 頼まれれば中ランク程度までならダンジョンの中にも潜り、現地での改造や修理も請け負っている。 そのせいで俺のことを『戦場のデバイス屋』と呼ぶ者もいる。 モットーは『初心者に優しく』で、必要なら詳しく説明もしたりしている。

 もう、この第二十六世界『八百万の世界』で店を開いて一年は経つ。 そのおかげで愛用してくれる人も増えてきている。 例えば、先ほどの男はギルド『時空管理局』の男で偶々俺が『管理局員狩り』をされているところを助けたことから通ってくるようになっていた。

 この世界の『時空管理局』は、本物の時空管理局員と有志により形成されたギルドだ。 四年前、この世界が起動してから2週間で結成されたギルドである。 その目的は、このゲームに閉じ込められているプレイヤーの保護と、ゲーム攻略にある。 そのために、時空管理局はプロの魔導師をゲーム内に投入した。 中にはリアルで高ランク魔導師だった者もいるという。 しかし、この世界はゲームの世界。 魔法の使えないものでも魔法が使え、更にはレベルの概念によってその能力値の上限が決められる。 故に、地道にレベルを上げなければ強くなれない。 ある程度の力量差なら戦闘技術を学んだ管理局員は有利だが、二週間の間にさっさと強くなってレベルを上げていた魔導師プレイヤーや、一般プレイヤーの中には彼らの活動に難癖つける者が出た。

 この世界に法はない。 魔法攻撃で死ぬかもしれないという恐怖と、事件を解決できていないことを喚くプレイヤーが暴走するということも幾度かあった。 そしてPK活動によるテロなども起こったりなんかして、この世界の管理局は設立当初にかなり出遅れた。 そのせいで、このゲーム内では彼らにゲーム攻略を期待するものは少ない。 管理局の魔導師だって、レベルを上げれば強く成れる。 だが、どうしても巡回やら偵察、不当にゲーム内で命や人格の危険に晒されているものたちの保護を行っているとその速度が遅くなるのだ。

 また、この世界に投入された管理局員の絶対数が少ないというのもそれに拍車をかけている。 管理局も人手不足。 魔導師資格持ちを大量に投入することは憚られたのだろう。 それに、攻略の目処は立っていないし、プレイヤーとなった局員が無事に帰還できるかも分かっていない。 そんな中、世間の眼を気にして投入された局員は厄介払いプレイヤーというレッテルを張られたりもしている。 連中だって、まさか鍛えた魔法の力がゲーム攻略を求められるなどとは思ってなかっただろうし、上の命令で投入されたりもしているだろうから個人的には同情の念が絶えない。 まぁ、他にもこの四年でいくつか失態を犯したりしているからしょうがないのかもしれない。 けれど、彼らが攻略に消極的なプレイヤーを守る防壁になっており、PKの抑止に繋がっているというのも事実だ。 なので、俺は真面目な管理局員への協力は惜しまない。

 この世界のプレイヤーの中で、死ぬかもしれない過酷な場所に踏み込もうとするものは少ない。 魔導師の強さをランクで示すとしたなら、この世界では最低のCから始まりSSSまであるわけだが、大まかに分ければ現実と相違ない。 つまり、低ランク、中ランク、高ランクだ。 この分布は、当然のようにリアルと似ている。 低ランクの人間が多く、高ランクが少ないという現実に、だ。 

 とはいえ、さすがに四年もすればそれなりに中ランクも増えている。 情報がネットに書き込まれ、最速でレベルアップするための道筋が中ランクまではそれなりに研磨されているからだ。 ただし、大抵は高ランクの初めのフィールドで絶望する。 そして、AAA以上への成長率が著しく低下させる。  ソロプレイヤーのほとんどがここでソロプレイを諦め、誰かと組まざるを得なくなっている。

 この世界は魔導師の戦闘シミュレーターをベースに構築されたゲームだ。 AAAランク級魔導師の枕詞は『AAA級の魔導師であれば、都市を焼き尽くす火力を持つ』である。 レベルに応じた敵が出る中で、敵の魔導師型が全員AAAだとしたらどうだろう? しかも、敵はレーダーを持ったデバイスを使う。 AAA魔導師の最高射程と破壊力、そして人間型に搭載されている思考のうち仲間と組むという特性が加われば、その戦場は簡単に地獄と化す。 単純に、村から出てエンカウントした瞬間、大規模魔法の乱れ撃ちを喰らって死亡というのもありえる。 AAA以上、階層でいうと55世界以上は地獄だと俺は認識している。 プロの管理局員がきちんと適正レベルまでレベルを鍛えていたとしても、並大抵の力量では問題外というわけだ。

 正直、ゲームバランスがふざけている。 クソゲーだ。 しかも、ゲームなので連中は倒しても放っておけば元の場所で復活する。 これが、プレイヤーの攻略を妨げる理由である。  このふざけた難易度の世界を突き進むことができるプレイヤー集団を、俺たちプレイヤーは英雄と呼んでいる。 だが、そんな彼らでもSSの壁が厚いらしい。 オンラインゲームが後半になればなるほどレベル上げがし難くなるという性質と合さり、その英雄たちでも実際SS級世界――レベルにして86-96――の壁を突破できないでいる。

 考えても見て欲しい。 SSランクの敵といえば、魔導師で換算するとつまりは『リインフォース』『八神はやて』級が雑魚キャラとして平然と君臨しているということなのだ。 S階層クラスだと『なのはさん』や『フェイトさん』レベルというわけだが、そんなのがフィールドにひしめいているのだ。 一対一でせえ苦労させられるというのに、そんなのが倒しても復活しエンカウントすれば徒党を組んで攻撃してくるとなれば攻略の速度も鈍るというものである。

 実際、プレイヤーが攻略しなければならないのは最後の第百世界『アンリミテッド』タダ一つだけになっているのだが、恐らくはそれを攻略できる者はまだ当分はでないだろう。 九十九世界が攻略されてから既に一年が経過しているが、誰もその世界を闊歩できていない。 そもそも、適正レベル――階層レベル=プレイヤーレベル――まで行っていない連中ばかりなのだ。 とはいえ、連中が闘うことはできないでもない。 魔導師の戦闘においては、対抗上下幅は下ワンランクという法則がある。 理論上はSSならSSSの魔導師とも闘える。 がしかし、不利であるという事実は消えないしそもそもあの法則は一対一の場合のみ適応される法則だ。 集団戦闘になってしまう以上、この法則は当てにできない。 そして、英雄たちは貴重な戦力。 一人消えれば、その一人を生み出すためだけに三年はいるし命が掛かっているので皆無理は絶対にしない。 このゲームを作ったあの男が、十年は掛かると言った理由がよく分かるというものだ。 最終的に少数ではどうにもならず、対抗できる魔導師軍団が育つまでは絶対にクリアできない仕様になっているのだ。 鬼畜なゲームだよ本当に。

「ふぁぁぁぁ」

 欠伸をかみ殺しながら、デバイスパーツのデータを閲覧していた俺はふと、更にテレビとネットを閲覧する。 リアルの方の情報は重要だ。 これがないと、俺たちは現実感が希薄化してしまう。 リアルに帰りたいというモチベーションが無ければ、到底ゲーム攻略なぞ意識できない。 諦めてこの世界で暮らそうという者もいたり、ニートが安易に新しくこの世界にプレイヤーとしてやってきたり、自殺志願者がやってきたりもしている。 政府による規制はされているものの、裏でゲーム筐体を売り出したり、ゲームデータを流している連中もいる。 中には、相変わらず面白半分でハッキングして”プレイヤーを殺す”腐った奴もいる。 ハッキング者は逆ハックされて管理局のお縄に付くことが多いが、挑戦者は偶に出てくる。 良い迷惑だ。

 とはいえ、さすがに四年も経てば下火にはなる。 ネットの掲示板ではこのゲームのスレが残っているが、ほとんどリアルの人間は使っていないだろう。 興味半分な連中ぐらいだろうか? ニュースでももう、話題性がなくなったのか大規模な集団死でも無い限りは報道しなくなっていた。 解決されるまではもう、特にニュースにもしないのだろう。 

 管理局は一応魔導師を投入し事態の集束させる手を打っているというが、根本的にゲームを攻略するしかないという結論に達しており、攻略部隊にまかせっきりだ。 ただし、エース・オブ・エースが投入されたという話は聞かない。 さすがに、虎の子を出すことはできないということだろう。 メールで話したが、リンディが攻略部隊に志願したが落されたという話も聞いている。 つまりは、消えても良い程度の戦力しか送られてはいないということなのか? 真相は分からないが、俺としてはあいつがこの禄でもない世界に来ていないことにホッとしている。 それに、俺はもう爺さんに頼んで婚約者候補(仮)から外してもらった。

 さすがに、いつ帰れるかも分からない男がそんな立場に居るのはダメだろう。 ディーゼルに不戦勝なのは癪だが、もう三年以上前の話だ。 俺の人生が仮想の中に封印されている以上は、もうダメだ。 後、守護騎士連中も初めは右往左往していたらしいが、俺が来るなと厳命したことでこの世界にはやってきていない。 心配はしているだろうが、ミッドガルズでがんばっているらしい。 ならば、それでいいと思う。 態々、出られるかもわからない牢獄に囚われるよりも。

「……」

 テレビを見てリアルの情報をなんとなく吸収し、ネットの海で情報を探る。 何日も繰り返したその作業。 デバイス屋をやり始めてから、ずっと繰り返したルーチンワークのその一つ。 故に、大変に億劫だ。 クエストの情報なんかを探して、色々と駆け巡ることもあるけれど、大して食指が動くものがない。 珍しいデバイスパーツでもあるなら別だが、それ以外は基本欲してなどいない。 特殊な魔法が欲しければ、リアルの知り合いに調べてもらえば事足りるし、経験値が欲しいわけでもない。 英雄たちが今頃血みどろの戦いを繰り広げているかもしれないというのに、俺という奴はデバイスマイスタースキル、所謂職人スキルをカンストさせるほどデバイスを愛でてそれっきりだ。 適当に体は動かしてはいるものの、最前線に出るのは依頼が出ない限りはしていない。 もっぱらツレと素通りしていたダンジョンを巡ったり、ギルド基地でショップをやったりとまったりプレイ。 不真面目ここに極まれリ、だ。

「誰かマジでクリアしてくれないかなぁ」

 ぐったりと、ショップの机の上に顎を乗せたままで呟いてみる。 なんか、もう今日はやる気になれない。 看板を下げて、店仕舞いでもしようか、なんて思っていると、ガラガラと引き戸が開いた。

「いらっしゃいませー」

 最悪の接客態度だが、別に俺は儲けたいわけでもない。 条件反射で声を出し、のっそりと倒していた体を持ち上げて客を見る。 入ってきたのは、中学生ぐらいの少年少女たちだ。 全員で四人ほど。 彼らの顔に見覚えはない。 だが、一瞬俺は口元を楽しげに歪めていた。 一般人プレイヤーはデバイスで相手の魔力値を確認しなければ分からないが、魔導師プレイヤーは相手の魔力を肌で感じることができる。 デバイスを使わずとも、俺にはこの四人が英雄たちであることが見て取れたのだ。 高レベルプレイヤーなら、面白いパーツを持ってくる確率は高い。 良い仕事ができるかもしれないと思えば、顔もニヤけそうになるというものだ。 だが、ここは二十六世界ランクで言うとBギリギリの世界だ。 若い英雄様がやってくるには少しばかり変だと思うのだが。

「やっと見つけたぜ黒髪!!」

 先頭に立っている赤いツンツン頭の少年が、俺の方を指差して言う。 四年の間に姿はさすがに成長しないが、間違いなく俺の方が年上のはずだ。 故に、黒髪などと呼ばれる筋合いはない。 そもそも、見覚えの無いガキンチョだ。 なのに、何故喧嘩越しなのだ少年よ。

「だ、ダメだよシュウ君、睨まれてる、睨まれてるよぉ」
 
 シュウと呼ばれた少年の服の裾を引っ張るショートグレーの少女と、呆れたように少年を見ている桃色ポニーの少女。 もう一人居る緑ロンゲのヤセメガネ君は、苦笑いを浮かべながらも止めはしない。 いつものことだと思って達観しているのかは分からないが、どうにも穏やかな笑顔を浮かべている。

「んー? 黒髪は黒髪だが……俺には君にそんな風に親しげにかつエキセントリックに呼ばれる筋合いは無いと思うのだが……人違いじゃあないか?」

「いいや、お前で合ってる!! 忘れたとは言わせねぇ!! 第一世界で俺のチームに情報と引き換えに飛行用の魔法プログラムくれたのはアンタだろ!!」

「飛行用の魔法? ……あー、思い出した思い出した。 そういえば、そんなこともあったな。 あのときの少年か。 しかし、当時は少年たちだけだったと思うんだが……女の子の友達もできたんだな。 青春してるなぁ」

「青春とかはどうでもいい!! んなことより、どうして百世界を、アンリミテッドをクリアしねーんだよ! あんたらだろ。 伝説の英雄チーム、『ライアと愉快な下僕たち』は!!」

 赤髪ツンツンが、カウンターに寄ってきながら吼えてくる。 その相貌からは、どうにも怒りの感情が見て取れて、俺は思わずゲンナリする。 だって、そうではないか。 一方的にされていた期待を裏切ったから怒られるというのは理不尽な話でしかない。 そもそもこっちにだって、都合がある。 だから俺は面倒くさいので惚けることにした。

「何の話だ少年」

「惚けるなよ。 この一年散々聞きまくって尻尾は掴んでるんだ!」

 シュウと呼ばれたその彼は、カウンターを両手でバンッ叩きながら吼える。

「戦場に現れる二匹のフェレットと黒髪の女。 一年前までよく攻城戦でMVP取ったり、九十九世界までのボスを軒並み倒して次の世界を切り開いた最前線攻略チーム、それがあんたとあの二人の女の子たちのはずだ!!」

「いや、だから知らないと……っお?」

 一瞬、俺にチームの誘いが来た。 しかし、俺は既にチームを組んでいるのでそれは自動的にキャンセルされる。 だが、俺は顔を顰めざるを得なかった。 ゲームの仕様を思い出したのだ。 キャンセルされるときにチーム名が相手側に表示され、『チーム○○に入っているために誘えません』などというメッセージが誘った側に表示される。 つまり、調べられたということだ。

「あ、やっぱりビンゴじゃん。 『ライアと愉快な下僕たち』!! うわぁ、本当に居たんだ伝説のチーム」

 桃色ポニーめ、よけないことをする。 視線を向けると、ピースサインを向けてくる。 その隣では、俺に視線を向けられたせいで、グレーショートの少女がビクッと肩を竦ませている。

「だ、ダメだよコンテちゃん。 物凄く怒ってるよぉぉ」

「大丈夫よココア。 四対一だしね♪」

 涙目になっているグレーショート<ココア>に、快活な笑顔で桃色ポニー<コンテ>が言う。 しかしこのポニー、中々怖いことを言いなさる。 四対一。 つまり、何かしてきても数の理で反撃するぞと遠まわしに言ってるのだ。 どうせこの店の中だとPKなんてできないけどな。 でないと、さすがに職人系魔導師は悪い奴らに脅される生活を強いられるかもしれん。 というか、ギルド基地には関係ない人間は入れないのだ。 カウンターの向こうに居る限り、俺は見えない壁に守られていると言っても過言ではない。

「というわけで、”ハーヴェイさん”攻略よろしく」 

「驚いた、俺の名前まで調べてるとは」

「最前線で聞き込みしまくったからねぇ」

「つっても、今の最前線組みだと覚えてる奴なんて居ないと思うんだがなぁ」

 ”あいつ”は余分なクエストなど気にもしなかった。 ひたすらにボスがいるダンジョンだけを探し、ボスを狩り続けた。 その攻略速度は他の英雄たちの比ではない。 通常、攻略には安全マージンをとるためにレベルを上げてボスに挑むのが普通だが、あいつにはそんな常識は通用しない。 途中までは俺の忠告どおりにしていたのだが、敵が自分の脅威ではないと悟った段階から常識を放棄したのだ。

 あいつはAMB<アンチマジックブレイド>という反則を武器に、徹底的に突っ走った。 安全マージンを取らないというそのやり方は、他のプレイヤーたちとの間に隔絶した攻略速度を生み出す。 結果として、他のプレイヤーたちがレベル上げに併走するなか攻略し続け、高ランクの壁も力ずくで突破した。
 とはいえ、それでもボスの居るダンジョンを探すのに後半は苦労させられたために、九十九世界まで行くのに三年も掛かってしまった。 なにせ、最前線は俺たちだけで情報の共有という奴ができなかったのだ。 馬鹿みたいに広いこのゲーム世界を虱潰しに探すのにはかなりの時間がかかったもんだ。 主に働いたのはあいつだが。

「初めはそうでもなかったんでしょ? だから、三人の名前を覚えている人も居たの。 ブログに書いてた人もいるしね」

「なるほどね」

「というわけで、クリアしてよ。 お願い、ね?」

「嫌だ」

「どうしてだ!! 皆、一年前には期待してたんだ。 後一世界だけだって。 なのに、この一年あんたらの活躍を聞かなくなった!! あんたらだけなんだよ。 この世界から助け出してくれる希望はよぉ!!」

 シュウ少年が理解できないとばかりに、食い下がってくる。 気持ちは分からんでもないのだが、嫌なものは嫌だ。 俺は、絶対に無理だと思うことはできない。 厳密に言えば、勝てる算段が無いのだ。 あればとっくにやっている。 言われずともやっているさ。

「シュウ」

「止めるなマサ!!」 

 少年の後ろから、マサと呼ばれた少年が肩に手を置いて首を横に振る。 随分と冷静だ。 いや、この少年も諦め切れていないらしい。

「ハーヴェイさん、理由を教えて欲しい。 その情報を買うよ」

「いらねぇよ。 別に、金には不自由してないからな」

「では?」

「タダでいい。 その代わり、聞いたら帰れ」

「話によるよ。 シュウも、ほら落ち着いて」

「ちっ」

 舌打ちしながら、シュウ少年がマサ少年と入れ替わる。 自分ではダメだろうと判断したのか。 店の壁に背中を預け、不機嫌そうにこっちを見ている。 下らない理由だと暴れるぞと、無駄に俺にアイコンタクトしているのがなんというか、若い。

「どう説明すればいいかな……強いて言えば、嫌というよりはできないと言った方が正しい」

「できない?」

「そう、できない。 ここで止めておけ少年。 これ以上聞いても絶望するだけだぞ」

 そうだ。 これ以上俺に喋らせたところで、有益な情報は何一つとして出てこない。 態々凹む必要は無いだろう。

「いいから、さっさと続けろよ黒髪」

「黙ってろ外野。 俺はこのマサ少年と話してるんだ」

 黒髪で決定か。 あとで絞めるぞこのガキめ。 四年前はもっとこう、初々しい感じだった気がするんだが、この四年で随分とスレたか? まぁ、確かに色々とあったのかもしれないが、そんなんじゃあ人の神経を逆撫でして無駄に敵を作るだけだと思うんだがな。 いや、見た目が中学生だから強気に見せないと周りから舐められるということなのもしれない。 これも、自分を守るための処世術なのだろうか。 そう思うと、一人のいたいけな少年をヤサグレさせたゲームマスターの罪は重いな。

「この、人が下手に出たら――」

「はいはーい、シュウは黙ってて黙ってて」

 コンテが口に掌を押し付けて、それ以上喋らせるのを止める。 恨みがましい目で彼女を見るシュウは、しかしそれ以上は話が拗れるのを嫌って黙り込む。

「それで、どうしてできないのかな」

「クリアできる奴がいないからだよ」

「それは、袂を分かったとかそういう?」

「いいや、死んだからだよ。 アレはびっくりしたぜ。 死ぬはずがない奴が死んだからな。 何せ、百世界への道を開いた後の転移後、街中でいきなり死んだからな”あいつ”」

 今でも覚えている。 アンリミテッドのベースタウン、その最初の町であいつは、カグヤは死んだ。 敵にやられたのでは断じて無い。 あいつは、結局ボス相手だろうと無傷だった。 そう、”無傷”だったんだ。

「街中で、死んだ? まさかPK」

「違うな。 あいつをPKしようとした奴は軒並み返り討ちにあってる」

 驚く面子のなか、マサ少年だけが静かに納得した。 考えれば分かる。 最強の英雄が死ぬとしたら、戦場でか? いいや、違うだろう。  たった三人で勝ち抜いてきたということまで知っていれば、理不尽なほどに強いその連中がそう簡単にやられるとは思わないだろう。 そして、戦場でなければ死ぬ方法は限られてくる。

「もしかしてハッキングかな」

「正解だ」

「そんな、ハッキングですって!?」

「ええっ!?」

「嘘だろおい!!」

「運が悪かったんだな。 後一つで、この馬鹿げた世界を終らせるられるかもって、そう言ってた矢先だった。 いきなり、あいつが死んだのは」

 いきなり倒れて、ポリゴンの霧になって消えた。 理不尽だった。 同時に、俺とミーアは絶望した。 というよりも、理解できなかった。 だって、そうじゃないか。 あれだけ無敵だったあいつが、どこの誰かも分からない馬鹿野郎のおかげで死んだなんて、そんなことが信じられるか。 だが、死亡者一覧のサイトには、確かにあいつのキャラクターネームと死亡要因が羅列されていた。 ハッキングによるランダム死、と。

 ランダム死とはハッキング対策にゲームマスターが組み込んである防御策だ。 ハッキング人数に応じてプレイヤーをランダムで殺し、ハッキングによるプレイヤーの開放を封じている。 人の命が懸かっていれば、誰だって動けなくなる。 その心理を利用した嫌らしくも効果的な策である。

「分かってるとは思うが、AAAランク以上の戦場は楽じゃあない。 あいつは、特別な魔法を使えてな、魔導師に対して圧倒的なまでのアドバンテージを持っていた。 俺たちのチームの要で、だからあいつ抜きの攻略はできない。 だから、攻略したくてももうできないんだよ」

「なんだよそれ、俺たちの希望は、一年前にどこかの馬鹿に摘まれたっていうのかよ!!」

「そういうことだ。 あいつの代わりは誰にも出来ない。 この時点で、俺たちのチームはアンリミテッドの攻略が不可能になった」

 その場にへたり込む者、天を仰ぐ者、憤る者、顔を顰める者。 四者四様の姿が視界を埋める。 一年もかけて俺たちを探していたというのなら、当時の俺たちに脱出の希望を託していた、ということなのだろう。 勝手な話だが、気持ちは分からないでもない。 俺だって、あいつに期待した一人だったのだ。

 俺たちはチームだった。 だが、あいつは最終的にほぼ一人で闘っていた。 足手纏いを二人抱えたまま、それでもなんだかんだで見捨てずに。 攻略に関してはおんぶに抱っこだったと言われればそうかもしれない。 戦闘であまり役に立たない分、俺はデバイスの作成スキルを上げ、それ系のクエストを行い常にあいつに最強のデバイスを提供した。 ライアは情報収集とダンジョン内のサーチ、そして持ち前の癒し効果で猛威を振るったものだ。

 しかし、結局AA以上の戦場では俺たちはあいつの荷物でしかなかったのだ。 一対一なら俺もライアも負けはしない程度に強くなったが、結局集団戦闘になるとあいつ一人で片をつけることの方がよほど効率的だった。 それだけ、あいつは隔絶した戦闘能力を持っていたというべきか。 畏怖の念を抱くと共に、今でもまだ悔やまれる。 ハッキングによるランダム死は、せめて別の誰かだったなら、と。

 人の命に差は無いと普通なら思うべきなのだろうが、あいつに変わりが効かない以上、あいつ以外の誰かで、最悪俺でも良かったじゃあないかと思わずにはいられない。 プレイヤーたちの期待が、絶望に変わったのはそれからだろう。

 なまじ第一線でひたすらに攻略し続けていただけに、百世界が出た後に俺たちの情報が途絶えたせいで、ネットでは死亡説が流れ、捜索隊まで結成された。 その間、生き残った俺とライアはギルド基地でしばらくは動けなかった。 今ではギルド基地を拠点にそれぞれ前向きに考えられるようになったとはいえ、当時はさすがに何もする気にはなれなかったものである。

「ねぇねぇ、ハーヴェイさん。 ちょっと聞きたいんだけど、その人の特別な魔法って貴方は使えないの?」

「鋭い質問だな。 使うだけなら可能だと言っておく。 ただし、意図した効果を扱いきれていないのが現状だ。 えーと、コンテ……だったかな。 詳しく知りたいのか?」 

「うん。 教えてくれるとぉ、うれしいなぁ」

 カウンターの傍に寄ってきて、無意味に胸元をパタパタしてくる。 ブレザーの制服(夏服)をそのままバリアジャケットにしたような出で立ちだ。 色仕掛けのつもりなのだろうが、そんなことをしなくても別に出し惜しみするつもりもない。 だが、どうしたものか。 どちらにしても期待には添えないだろう。

「教えるのは構わないが、使う気か?」
 
「当然っしょ」

「なら、その前に教えて欲しいな。 君たちのデバイスは何型だ?」

「私たちは全員杖型だよ」

「はい、論外」

「えっ、杖じゃあダメなの?」

「ダメだ。 使うなら刀型のデバイスでないと意味が無いんだ。 アレは近接用の魔法で、使い手を選ぶ」

「えー、でもこのゲームの中だとそういう制約は一切無いはずだよ」

 魔法が使えない一般人も、低ランクな魔導師も、レベルを上げて魔法プログラムさえ手に入れられれば強力な魔法も扱える。 それがこのゲームのウリだ。 その根底を揺るがす俺の発言に、彼らは揃って懐疑的な目を向けてくる。

「さっきも言ったが、魔法を使うだけなら誰でもできるさ。 だが、アレはプレイヤーの力量で効果を発現する類の特殊性があるんだよ。 ほら、誘導弾系の魔法と同じさ。 アレの最大誘導弾数は使用者の制御能力に比例するだろ? それと同じで、プレイヤーの力量が諸に効果に直結するんだ。 練習せずに使えるもんじゃないし、覚えようとしてもかなりの時間がかかる」

 そも、グラムサイトの使用を前提としている。 アレは勿論、この世界でも使えるがそれと同時に切り裂く剣術も習得しなければ使えない。 ただ刀を振り回すだけではどうにもならないし、実戦で使えるレベルにまで昇華しなければ使い物にならない。 一石一丁で身に付けられるものではないのだ。

「なるほど、技量が問題ってことなんだ」

「そういうこと」

 まだ完全に納得したというわけではないのだろうが、コンテは一応引き下がる。 俺の言っていることが理解できないわけではないのだろう。 ただ、自分には無理らしいということを理解した。 それだけのことだ。 他の三人もこれで引き下がるかと思ったが、レッドツンツンことシュウは違うらしい。

「おい、なら俺にその魔法を教えろ。 時間がかかってもいい。 今の最前線のやり方だと、いつになったら攻略できるかなんか分からねぇ」

「お前な、頼むにしてももっと殊勝な態度って奴があるだろう」

 若いというべきか、向こう見ずというか、礼儀を知らないというべきか、態度がでかいだろ。 いやまぁ、見た目が中学生ぐらいだから、他のプレイヤーに舐められないように刺々しさを纏っているのかもしれんが、人に頼む態度じゃあないだろ。

「前線に出てこない腰抜けに言われたくねぇな。 どうせ、その死んだって奴の後ろにくっついてただけの金魚の糞だったんだろ」

「ちょ、ダメだよシュウ君!!」

 おろおろしながら止めようとするココアだったが、生憎と血の気の多い熱血漢には効果が無い。 再び、シュウはカウンターの前まで来ると俺の胸倉を掴み上げてくる。

「俺と勝負しろ腰抜け。 俺が勝ったら魔法を寄越せ。 俺はな、さっさとこんなゲームの世界から出たいんだよ」

 どうやら、黒髪から腰抜けにランクダウンしたらしい。 しかし、ここまで直情径行型だと天晴れだ。 気持ちいいぐらいにボロクソに言ってくれる。 面倒くさいのが来たもんだよ本当に。

「はぁぁぁ……おーい、この熱血馬鹿の友人諸君。 どうして止めてくれないかね」

「いやぁ、シュウの暴走は今に始まったことじゃあないしー」

「貴方の言う魔法に興味があるというのは、シュウと同じだから」

「そうかい。 そっちのえーと、ココアだっけか? 君も一緒かい」

「えう!? えと、その……私は乱暴なのはいけないと思います……」

「俺もそう思う。 君は君のままで居てくれ。 きっと将来、心の綺麗な人になれるからね」

「は、はぁ……」

 四人の中で、タダ一人の平和主義者。 貴重だ。 このまま立派に育ってくれれば、人類の繁栄も夢ではないと思えるほどに。

「ごちゃごちゃ抜かすな。 表に出ろ腰抜け」 

「お前たちがな”糞餓鬼”」

 瞬間、俺は店員スキルを利用し、迷惑な客を問答無用で店の外へとたたき出す。 店内でのモメゴトや、ウザイ客を一方的に外へと転移させるスキルだ。 一斉に四人が店の中から消えた後、俺はすぐに店を閉店状態にする。 そうして、席を立つを店の奥に消えて行く。 扉の向こう側から、熱血馬鹿の叫び声が聞こえてくるが俺は無視を決め込み、ギルド基地内へと帰って行く。

「まったく、営業妨害だっつーのなー」

 後の売り上げはもう期待しない。 もとより金儲けがしたいわけでもないのだが、ああいう面倒くさい客は無視するに限る。 しばらく放っておけば、どうせ飽きて帰るだろう。 さっさとクリアしたいというのなら、それこそ無駄な時間を嫌うはずだ。 だから、こんなところで油を売ってる暇などない。

「にしても、だ。 若いねぇ」 

 そもそも、勝負する必要などない。 ヒントはくれてやったのだ。 ならば、最前線の連中の中から刀型デバイスを使う奴を連れてくれば良い。 或いは、自分が習得することに拘るというのなら刀型デバイスを持ってきてからにして欲しい。 出なければ時間の無駄だ。 

 おっと、そういえば自己紹介してなかったけか。 俺のプレイヤー名はハーヴェイ。 マジックバトルオンライン――通称、MBOと呼ばれるオンラインゲーム。 それに囚われた哀れなプレイヤーの一人であり、タダの”腰抜け”だ。













マジックバトルオンライン
01
「若い平穏ブレイカーズ」













 ああいうシュウのような連中が店にやってくるのは初めてではない。 俺たちのことを調べ上げ、そして当時の最前線をぶっちぎって破竹の勢いでアンリミテッドまでの道を開けた理由を知りたがる者は何人か居たのだ。 だが、結局そいつらは断念した。 習得を、だ。 

 俺はまずグラムサイトを奴らにやった。 そして、そいつらはそこで見事に躓いた。 そもそも、彼らは懐疑的だったのだ。 信頼関係はそこにはなく、好奇心と一抹の希望だけを頼りにやってきたような連中だ。 俺を信頼せず、グラムサイトの効力を真に体感するまえにレベルを上げた方が確実だろうという結論に達したのだ。 俺はそのことに対して、特に何も言わない。 言うはずもない。 たとえ、グラムサイトを最低限の距離まで習得したとしても、その先の剣術を習得させて魔法を切り裂けるようになるまで我慢し続けるとは思えなかったからだ。

 そもそも、教える俺が見本らしい見本を見せてやれなかった。 この時点で、信用などできるはずもないだろう。 彼らは数日で諦めて去っていった。 一応、俺のことは黙っておくように頼んでおいたのが効いているのか、一斉に変なのが俺に声をかけてくることが無かったのが救いだ。

「お兄さん大変だよぉ!!」

「どうしたライア」

「昨日の夜からなんだけどね、ネットですっごくお兄さんが注目されてるみたいなんだけど」

「わーっつ?」

 朝、ギルド基地の食堂で朝食を食べているとライアがそんなことをのたまった。 意味が分からず、注文していた鮭お握りを思わず俺は落しそうになる。

「ほら、これだよこれ!! 見てよ、お兄さんのことが腰抜け呼ばわりされてるんだよ!!」

 空間モニターを表示させ、掲示板を俺に見せてくる彼女。 腰抜け、の件である程度察することはできたが、とりあえず文字列を追う。 すると、なるほど俺のことを示す情報と共に、最前線にも出ずに第二十六世界のデバイス屋でゴロゴロしているなどと書かれていた。 他にも攻略に有用な魔法を秘匿しているだの、実は大したこと無くて死んだ仲間の後ろでただ立っていただけのハイエナだとか、なんのかんのと書いてある。 言いたい放題だ。 正直、勘弁してもらいたい。

「陰湿だなぁ」

 匿名なのをいいことに、言いたい放題書いている様子だ。 しかし、不味いことになった。 ここまで咋だと、情報ギルドの連中や好奇心旺盛な連中が探りを入れてくるに違いない。 こうなると、ギルド基地の中に引きこもるしかなくなる。 しかし、妙だ。 あのレッドツンツン、こういう類のは好きそうではない感じだったが……見かけにはよらないということか?

「どうしよう。 さすがにギルド名は書いてないけど、何れは調べ上げて色々やってくるかもしれないよ」

「しばらくは店も休業だな。 ライアは大丈夫だと思うけどどうする? いつものように出かけるか?」

「んー、今日はちょっと様子を見てるよ。 それにしても、一体誰がこんなの書いたんだろ」

「昨日昼間に四人組の少年少女が尋ねてきたから、多分そいつらだな。 AMBを教えろって生意気な態度で行って来たから店の外に締め出して無視してやった。 その報復かなこれは」

「報復にしたってやりすぎだよ。 これじゃあ、お兄さんが悪者だよ」

「別に、正義の味方でもないから構わないさ。 どうせ、一月もすれば皆忘れるって。 それに、餓鬼の戯言に一々付き合っていられるか」

「それは、そうかもしれないけど……」

 こういうのは相手したら相手が面白がって弄ってくるもんである。 だったら、徹底的に無視してやればいい。 そうすれば、そのうち飽きるってなもんである。 ただし、まぁ、それでもどうにもならなかったらどうにかしないといけなくなるわけだが、さて、どうするかな。

 お握りを頬張りながら、とりあえず考えるも特に具体案は浮かばない。 なので、もう今日はくつろぐことにする。 幸い、ここはギルド基地。 一般プレイヤーが買う家とは違って馬鹿に広く、施設も豊富。 ギルド員は俺とライアしかいないので使い放題だ。

「ライア、俺は飯の後に朝風呂いくけどお前どうする?」

「お兄さんのんきだね」

「どうせ、金には困ってないからな。 ここで当分静かに暮らすってのも悪くない」

「一年前もやったけどね。 一ヶ月くらい二人で」

「いいじゃないか。 目新しいクエストもないし、ライアも今日はゆっくりしたらさ。 なんなら、背中を流してやるぞ」

「お兄さんのエッチ」

「俺も男だからな」

 遠い目をしながら、食堂のおばちゃん(NPC)にツナマヨお握りとチャーハンお握りを追加注文。 適当に腹を膨らませてから風呂に向かった。








――第二十六世界『八百万』。 初期のベースタウンは『戦国大江戸』という街であり、九十七管理外世界の過去を模倣している世界だ。 俺たちのギルド、マジカルフェレット団はその戦国大江戸から西にかなり進んだところにある街『戦国魔京』にある城である。

 そう、城なのだ。 露天風呂の温泉と、中にあるヒノキ風呂、そして道場と立派な庭付きの城であるこのギルド基地は、今はもう居ない”あいつ”が絶賛したために購入された。

 俺も温泉には心惹かれるものがあったことと、畳が完備されているという事実に負けてこの基地の資金集めに奔走したものである。 普通の家と違うせいで、かなりの額が必要だったが最前線をぶっちぎって独走していた俺たちは、当時に他の連中が手に入れられない階層の品を商人系プレイヤーに売ることで大金を稼いでいた。 何せ、その時は俺たちしかまだ手に入れていない。 そういう品は、品薄どころか市井に出回ってはいないせいでプレミア化していた。 今ではさすがにそういうことはできないだろうが、それでもまだいくつもレアアイテムを所持している。 このギルドの財産である。 そして、この基地もそうだ。 当時はよく、冒険を終えれば飯を食って皆でフェレットに変身して風呂に入ったりしたものだ。 一緒に酒なんかも用意して、夜景を肴に一献なんてのもやった。

 ここ以外にもギルド基地というのはある。 買うのは大変だが、普通の西洋チックな城や、近代的なビルなどがある世界では売られているので、大きなギルドなどは皆で金を工面して手に入れる。 一種のステータスと行っても良いだろう。 ギルド基地を持っていることが、実力があるギルドの証みたいな風潮もあるぐらいだ。 この二十六世界で俺たち以外に誰かがギルド基地を持っているという話はあまり聞かないので、ここを拠点にしているギルドは少ないだろう。 大抵はもっと近代的な基地を選んだりするので人気の基地なんかにはギルドが多い。 その代わり、ここはマニアックでワビサビが分かるような連中に好まれている。 かくいう俺もそんな連中の一人だ。 ライアに関してはこだわりはなかったようだが、今ではオリエンタルでハラキーリな特異文化ということで考古学魂を刺激されたりもしているようだ。

「はふぅー」

「お兄さん、やっぱり私も入るよー」

「うーい五秒後に来ーい」

 フェレット姿に変身し、プカプカと温泉に浮かぶ。 すると、きっかり五秒後にミーアがトコトコとやってくる。 当然のようにフェレット姿だ。 覗きが出ても安心である。 まぁ、ギルド基地は異次元にあり、城内は買ったギルド員しか中に入れないので覗きなどできるわけがないのだ。 無論、そのせいでギルド基地内部に向かって外からの狙撃もできない。 最強の安全地帯なのである。

「てりゃーっ」

 跳躍すると共に前回転しつつ温泉に飛び込む。 普通のフェレットが知ったらきっと驚くのは間違いない。 そもそも、フェレットは水が得意なのか? というか、泳げるのか? 首を傾げながらも、俺はまったりと温泉に漬かる。 そう、どうでもいい問いだ。 今はただ、ゆっくりと癒されよう。 全身を濡らす適度な温度、そして時折遠くから聞こえてくる獅子脅しのカコーンという音と、庭の見事な紅葉を眺めれば至福を感じるのも吝かではない。 陰湿な世間も現状も、ついつい忘れてしまいそうになってもしょうがなかろう。

「ぷはっ」

 潜水していたフェレットが顔を出し、フェレットかきなる新泳法で俺の隣へとやってくる。 そうして、温泉の淵に頭を乗せて腹を無防備にも空に晒す。 作法など、ここでは関係ない。 気持ちよければそれでいい。 タオルをつけてるわけでもないし、そもそも彼女に注意できるのが俺しか居ない。 フリーダムな湯治である。

「気持ち良いよねー温泉」

「そうだなぁ」

 ここがゲームの世界だなんて、思えないほどに食事や入浴、睡眠なども無駄に奴は凝っている。 裏の研究の産物なのだろうが、無駄にクオリティが高い。 特に、サーバーに使われているパーツにはホテルアグスタで態々オークションで手に入れたロストロギアなどもふんだんに使われているという専らの噂がある。 ジェイル・スカリエッティの本気を見た気がして、俺はなんともいえない感慨を抱いたものだ。

「お兄さん」

「ん?」

「いつまで、こうしていられるかな」

「さて、な。 あいつみたいにハッキングの見せしめにランダム死させられるって可能性もあるからな。 いつまでかなんて、分からないさ」

「……ねぇ、もうずっとこのままでもいいんじゃないかな。 怖い思いをしなくてもさ」

「でも、皆出たがってる」

「うん、でも襟首女抜きだって考えると、どうしても怖くなるよ。 性格は性悪だけど、腕だけは確かだったもん」

「俺にもうちょっとセンスあればよかったんだけどな」

 俺はカグヤにはなれない。 そんなことは分かりきっていることである。 しかし、それでもあいつみたいに強かったらと思うことがある。

「まぁ、100%同じことはできなくても、一割ぐらいはやってやるさ。 それまでは、マジカルフェレット団はお休みだ」

 一人では勝てない。 カグヤだけが一人で勝てた。 そんな彼女がいない以上、俺たちは自分たちの力だけで第百世界『アンリミテッド』をクリアしなければならない。 そのためには、今の最前線組みが百世界に来てくれなくては話にならない。 強い一握りの人間がいないのだとしたら、俺たち弱い人間はその力を束ねて挑まねばならない。 だから、俺は待っていた。 連中が、百世界へと到達するのを。 そのときには、俺も参戦することに決めていた。 出し惜しみはしない。 犠牲者は出るだろうが、それでもやらなければいつまでたってもこのゲームから抜け出せない。 それはあんまりだと思うのだ。

「死んじゃあダメだよ。 お兄さんまで居なくなっちゃったら、一人ぼっちになっちゃうもん」

「そりゃ大変だ。 心しておくよ。 つっても、まだ大分先の話さ。 SS階層を抜けるのはかなりキツイ。 アレは単純に数の問題だ。 数が揃わないとどうにもならない」

 かつては、数を凌駕する質があった。 その名刀は天下唯一の大業物。 しかし、それは愚者によって奪われて、今ではナマクラ<凡人>しか転がっていない。 そのナマクラたちは、せっせと自分を磨いている最中で、磨ぎ終わるまではどうにもならない。 ナマクラ上がりの名刀。 その数が増えに増えたその時に、世界が動くことになるのだろう。 或いは、その中にナマクラに偽装された名刀が目を覚ます可能性もある。 最前線組みの英雄とは、彼ら自身なのだから。 いつか、あいつのように突出した存在が生まれてくるかもしれない。 その時が来るまで、色々とやっておけばいい。 どうせここからは出られない。 それまでは待つだけだ。 そう、この諦観をぶっ壊すその日まで。

「勝ち目はあるの?」

「どうかな。 でも、やらないとダメだってことだけは分かってる。 だから、やらないとな」 

 自信があるというわけではないが、やってやれないことはないと思いたい。 どちらにしろそこにたどり着くまでが大変なのだ。 敵の中にはミラージュハイドが効かない者がいることが分かっているため、安易な手段などとれはしない。 となると、やはり数を揃えての強行突破ぐらいしか俺には思いつかないのだ。 更に、ボスが居るダンジョンまで探さなければならない。 事はそう簡単なことではない。

「そういえば、ライアの趣味の方はどうなってる?」

「AAまではダンジョンマップもフルコンプしてるから、一念発起した人が強くなるための情報サイトにはなったかな。 さすがにAAA以上は私だけだと難しいからお兄さんの手も貸して欲しいかも。 最悪、用心棒として攻略中のパーティーに混ぜてもらう予定だよ。 クエストの方は、情報が錯綜しすぎててどうにもならないから有志からの情報で随時更新中」

「そうか、順調といえば順調だな。 デバイス関係で情報は一応俺のほうでまとめてるから、必要があれば言ってくれ」

「分かった。 お兄さんの方は?」

「アレ以外では問題はないな。 店は普通に順調だったし。 ただ、これからどうなるかは分からない。 風評被害ってのに会わなきゃいいが」

「いっそのこと別の世界で新しく家でも買って、店の名前も変えれば?」

「金が無駄に飛ぶから止めておく。 もう、そう簡単に最前線で稼げたりはしないからな」

「そっか。 私も、引き締めなきゃだね」

 AAA以上の前線に単独で向かうのは正気の沙汰ではない。 冷静に、自分の力量と相談すればそれが自殺行為でしかないと知っている。 故に、俺はそこへは行かない。 一人でなくなるまでアンリミテッドのベースタウンに顔は出しても、フィールドには出ないことに決めているのだ。

「ま、今日はちょっと贅沢したい気分だから夜は豪勢なのにしようぜ」

「やったー!!」

 二人して尻尾をブンブン振って、温泉を波立たせる。 時折、水面をペチペチと叩きながら喜びを表す俺たちは、実に野生的であった。 











「ようやく落ち着いたか」

 一週間が過ぎた頃、ようやくギルド基地から外に出た俺は一人戦国魔京を歩いていた。 時刻は早朝。 さすがに、昼間とは違って人通りは少ない。 NPCはともかくとして、プレイヤーもさすがに一週間ずっと開かない店に興味を失ったようである。 店の向こう側から様子を見たときは、無駄に閉店中の店の引き戸の向こうから沢山の話し声や人影が見えていたものである。

 知り合いに念話で確認してもらったところ、野次馬やら弟子入り志願者やらで通りが溢れかえっていたとか。 けれどもずっと店は閉店で、いっこうに開店する気がない状況が続くとさすがにデマか何かじゃあないかという話が出たようだ。 ライアが掲示板にデマ説や悪質な冗談じゃないかという噂を流した効果も少なからずあったのかもしれない。

 昨日の時点ではもう、店の前で見張るような連中は粗方いなくなったという知らせを受けたので、俺は外に出ることにしたというわけだ。

 戦国魔京は迷い難い。 ミーアと共にタウン情報の蒐集もしたこともあって、今では迷うこともない。 武家屋敷や長屋など、無駄に凝っている建築物の間を歩きながら、トランスポーターへと移動し、適当なAランク級世界へと転移する。

 世界のランクは凡そ13世界を超えるとアップする。 Cランク級世界は1から13であり、14から27までが大体Bランク級世界となっている。 そこからSSまではその法則が当てはまる。 プレイヤーはAランクまで上げて空を飛ぶ魔法を買うことを目標とする。 けれどAAまで駆け上がったところで調子に乗るとAAAで絶望させられることになる。 その先に進むのは、勇気あるプレイヤーだけである。 大抵はここでクリアを諦め、足を止める。 AAAの壁は高く、SやSSになれば絶望しか思い浮かばない。 それほどに、急激に難易度が上がるのだ。

 プレイヤーの成長に比例して敵も強くなるのはよくある話ではあるが、広域攻撃や超長距離狙撃、連携行動などの要素が軒並み実装されてくるので始末に追えない。 この戦場では何よりも突出した武勇よりもチームの連携こそ求められる。

 全員がエースオブエースにはなりえない。 皆が皆、自分の役割を果たしながら協力していかなければ到底クリアできないという厳しい現実が突きつけられる。 最前線攻略組みが”英雄たち”と呼ばれるのはそのせいだ。 皆、そこまで行くと個人の武勇一つでどうにかなるなどと思えないからだろう。

 調子に乗れば自分の命がなくなると認識すれば、誰だって謙虚になる。 とはいえ、その中でもやはり活躍する連中は居るわけで、そういうプレイヤーにはやっかみと敬意を込めて二つ名やらが送られる。 例えば、カグヤには俺がバランスブレイカーの称号をやった。 勝手に俺が呼んでいただけだが、月に一度の攻城戦などで防衛などを行ったときには、彼女の戦いぶりを指してブラッドソードなんて名前まで付けられていた。 そういうのは何故かネット上でも異名だとか通り名をあだ名っぽく呼ばれていつの間にか定着していたりする。 有名なプレイヤーほどそうやって弄られ、期待されていくということなのだろう。 稀に自称して異名を作る奴もいるらしい。 『我こそは百の魔法を使える男、ハンドレッドマスターだ!!』みたいなノリで。 

「……さて、と」
 
 街に用があるわけではないので、さっさと通りを抜けてフィールドへと移動し適当に雑魚を探す。 デバイスは刀型アームドデバイス『氷水』を選択。 これはあいつの形見で、俺が作った刀型デバイスの中でも最高の能力を持っている。 持っているのだが、あいつはこれでも不満たらたらだった。 強度が足りない、切れ味が悪いだの文句を言われた記憶がある。 まぁ、今はどうでもいいことか。

「お、”ディーゼル”発見」

 黒髪に黒目の、野良魔導師。 妙に顔つきが彼に似ているので勝手にディーゼルなどと呼んでいるNPCの敵キャラである。 本物の方が三ランクは上だが、彼は良い練習相手だ。 倒すとストレスが発散できるし、それなりに色々な意味で歯ごたえもあるため彼にはよくお世話になっている。

「んじゃ、今日も頼むぜ」

 砲撃を放ってくるディーゼルに向かって低空を飛行する。 その間飛んでくる砲撃の火線を出鱈目に飛行することで避けながら接近。 デバイスに魔法を最小の魔力で展開しながら着地すると、刀を抜刀。 すれ違い様に斬りつける。 理想的な疾走居合い。 そんな驕りが頭の中を駆け巡った次の瞬間、俺は地面を削りながら両足で大地にブレーキを駆ける。 

「チッ――」

 零れた舌打ちの理由は、斬りつけられて倒れたディーゼルが”平然”と起き上がろうとしている光景を見たからである。   

(今のは、会心の一撃だったと思うんだがな)

 実戦が一週間ぶりだったせいで、勘が鈍っていたのかもしれないと思いなおし、再び接近。 ディーゼルがラウンドシールドを張ったのをこれ幸いと、上段から袈裟斬りを放ってみる。 すると、今度は切っ先がきちんとシールドを切断し、俺の意図した結果になった。

「ふむ、何が違うんだろうな。 上と横の差? それともタイミングか?」

 ブツブツと呟きながら、バックステップを取って距離を開けるディーゼルをそのままに思考の海へと埋没する。 その間、適当にバリアを張って敵の攻撃を無効化しながら刀を一度鞘に収める。 今度はそのままジリジリと腰ダメに近づきつつ、敵の思考を誘導。 AIのルーチンが俺の接近を感知して攻撃から防御へと切り替わる瞬間を狙う。 この辺りの敵は距離による戦闘思考を有しているようで、適正距離に与えられた攻撃を放ってくる。 イレギュラーな行動がないわけではないが、ディーゼルとの付き合いは長い。 凡その攻撃パターンは理解している。 このまま近づけば、またシールドを張るだろう。 

 摺り足気味に近づく俺を、不気味だと思う感性は当たり前だが奴にはない。 やがて、砲撃をやめてシールドを張った瞬間に俺はバリアを解除して飛び込んでいく。 狙うのはシールド。 上体を捻りつつ、右足でしっかりと大地を踏みしめて刀を鞘で走らせる。 脳裏に思い描くのは、苦も無く魔法を切り裂く黒髪剣士のその姿。 それに自分の体を重ねて、ただ無心に刃を抜く。

「せいっ!!」

 斜め上に奔る右腕の、その瞬間的な動きに上体の態勢が乱れそうになるのを感じながら、その結果に目を凝らす。 今度も、シールドをきちんと切り裂けたようである。

「ふぅぅぅ」

 深呼吸しながら、内心の喜びを封印。 再びバックステップで距離を取るディーゼルを前にしてバリアを張って閉じこもる。 そして、またディーゼルにシールドを張らせてひたすらに練習を繰り返す。 魔力の残量が気になれば回復薬を頭から被り、黙々とディーゼルのシールドを斬り続ける。 成功することもあれば、失敗もする。 まずはそのムラをどうにかしたい。 確実に使用できなければ戦闘では使えない。 信用の出来ない武器ほど、使い勝手が悪いものはないのだから。 








「くそっ、マシにはなっているんだがなぁ」

 一旦休憩することにしてディーゼルを仕留めると、ツールボックス<プレイヤーが全員所持しているアイテム収納装備>から取り出した魔力回復薬の入った瓶の蓋を開けて頭から被りフィールドに寝転んだ。

 俺の技量が成長していないことはないのだが、その速度が遅すぎて正直ヤキモキしてくる。 苛立ちは募るばかりだ。 こればかりは、延々と積み重ねるしかないのだが、そろそろ一皮剥けたいというのが正直な感想で、そうなるとただただ焦れてくる。 俺を監視してる奴が居るというのも合さって、無駄にイライラしてくる。

「広域探査あたりか? 暇人だなぁ」

 上空にあるその光の玉は、サーチ系の魔法だろう。 フィールドに出てグラムサイトを起動した辺りから気づいてはいたが、攻撃魔法ではないために放置していた。 しかし、さすがに堂々と寝ている俺の頭上に居座られているとげんなりしてくる。 これで、一念発起して旅を始めたプレイヤーが周辺の情報を探っているというのなら可愛いものだが、さすがにピンポイントで俺を監視している現実にはため息しか出てこない。

(ずっと張ってた奴が居るってことか。 随分とマメだ。 このまま街に戻ったら袋叩きって可能性もあるが)

 数の暴力はいつだって凶悪だ。 俺は単独なだけに、迂闊な行動はとり難い。 一瞬、ギルド『時空管理局』に通報することも考えたが、気のしすぎという可能性もある。 とはいえ、相手がどういうつもりなのかが分からない以上警戒しないというわけにもいかなかった。

 頭の中で最悪を推察しながら見えない敵と化かしあう準備を進めていく。 数分そのままで過ごし、再度出現してきたディーゼルを叩き斬ると俺は頭上のサーチャーへとショットセイバーを放ち破壊する。 と同時に、結界上部に穴が開いているという意味不明な結界を唱えつつ転移魔法で転移した。

 グラムサイトの視界内、つまりは展開範囲内には誰もいなかったが、狙撃主が数キロ先からスコープで俺を監視している可能性があったからだ。 結界で身を隠したのは気づいて長距離狙撃を行われる可能性を減らしたかったからである。

 転移先は、街からそれなりに離れた場所だ。 次元転移で直接二十六世界に飛んでも良かったのだが、このゲーム内では次元転移はトランスポーターの近くしか飛べないようにされている。 連中の最大人数など知らないが、あちこちに手を回されているとしたらそこでエンカウントすることになる。 故に、まずはこの世界で探りを入れることにする。

 バリアジャケットをいつもの黒いジャケット姿から管理局の武装局員のデザインへと変更。 デバイスはツールボックスから杖型を取り出し、幻影魔法を用いて顔をあの優男<虹男>へと仕立てる。 金髪のイケメンだ。 噂ではその甘いマスクと胡散臭い物腰で近所の奥様方に評判らしい。 花屋だけに華まで売ってるとはさすがだよ本当に。

「まったく、我ながらレインボーな出来だゼ」

 大変遺憾なことだが、イケメンと美人さんは美の神の祝福効果で裁判なんかでは死刑判決がやや出にくくなるという統計があるとかないとか。 その効果を用い、気になってもスルーされる可能性を強引に高め、更には時空管理局のジャケットを着ることで管理局員の持つ独特の近寄りがたさを演出する。 我ながら完璧な布陣だ……ゼ。

 そのまま堂々と空を飛び、転移してきた街へと向かう。 ここは第二十八世界『リッチメン』のベースタウン『ゴールド』。 Aランク世界の初めであり、通常のプレイヤーが始めて飛行魔法を購入できる世界だ。 ここまで来ると低ランクを卒業し中ランク規模のプレイヤーとして名乗りを上げることが出来る。

 また、世界名はその世界の傾向を表すことが多い。 ここだと、妙に金持ち臭がしてくる。 何せ、民家が他の世界と比べるとやたらでかい。 街並みも綺麗で、近代世界並みに整っている。 初めて飛行魔法を買えるということと、煌びやかな都会然とした空気は一度訪れれば早々忘れられるものではない。

「ちわーっす。 巡回ご苦労様っス」

「ああ。 君も、外に出るなら気をつけてな」

 早速、空で声をかけられた。 人懐っこい感じの”少年”だ。 俺はニコリと爽やかな笑みを浮かべながら冗談めかして敬礼を返してやる。 すると、向こうも敬礼しながら俺の横を併走し始める。  

「おや、もしかして何か管理局に用事でもあるのか少年?」

「街の外で黒髪黒服の人見ませんでした? 待ち合わせしてたんっすけど中々来なくて」

「いや、見かけてはいないが……念話は試したのか?」

「それが、フレンド登録してなかったんでちょっと……」

「そうか。 なら、管理局で人を出して探そうか? その人のレベルが低いのなら、急いで上に掛け合ってみるが……」

「い、いえ。 結構強いはずなんで、大丈夫だと思います。 なので、もうちょっと待ってみます。 ありがとうございました」

 誤魔化すように言うと、少年は去っていく。 去っていく少年を不思議そうな顔で見送ると、少年が向かっていく門へと目を落す。 すると、仲間と思わしき少年少女たちが居た。 杖のスコープを起動し、遠めに見る。 すると、桃色ポニーがそこに居た。 確か、コンテと呼ばれていた少女だ。 周辺にはあのレッドツンツンたちはいない。 単独行動か、それとも分散しているのかは分からない。 ただ、やはりあいつらかと心の中で毒ずいて巡回員の振りをする。

 空の上から街を眺めると、出入り口付近やその空の上に少年少女たちの姿がポツポツ見える。 今日に限っては、全員グルに見えてたまらない。

 最前線ではギルドは連立していく傾向にある。 ギルドを作っていないチームは、限界を感じればギルド員たちと繋がっていく。 ギルドは基本的に即戦力を拒まない。 最前線まで来れたなら、それはそれだけで十分強者としての実力を持っている証になるからだ。 問題は人格だが、全員が全員強者なので十分に互いの監視ができる。 死線を潜り抜けて来たという連帯感も育っているため、早々に裏切りに奔ることもできない。 戦いで芽生えた友情などもあるだろう。 特に、若いゲーマーたちからすれば似たような年頃の方が安心でもあるという事情もあると思われる。 仮に、この前の四人が最前線組みで古参ギルドだった場合、その人脈は馬鹿にできないものになる。

(巨大チーム……それともギルドか? どちらにしてもかなり人数が居そうだな)

 俺たちのチームは最前線の更に先だった。 途中からぶっちぎったおかげで繋がりというものが大変に希薄だ。 知り合いもいないことはないのだが、厄介ごとに首を突っ込んでくれるようなレベルの親密な付き合いではない。 故に、誰かの庇護を受けるという手は使えない。 外に出たのは早計だったかもしれない。 最悪、時空管理局に仲裁を頼むという手もあるが、あまり世話になりたいとは思わない。

 結局、考えが纏まらないまま街に下りると、俺は路地裏へと移動してバリアジャケットを変更。 裕福そうなNPCの服を参考に私服へと切り替える。 ジャケットの意匠など所詮イメージだ。 術者のイメージによって作られるため、簡単に切り替えられる。 デバイスに登録しておけば、それこそファッションショーもできる。 私服に替えることで本職の管理局員にバレないようにすると、ようやく俺は街中を歩く。

 気分は逃亡者だ。 虹男<エーリッヒ・ビフレスト>の見事な作り笑顔を真似ながら、どうしたものかと考える。 トランスポーターには当然見張りがいるだろう。 この世界の各所と、そして俺が拠点にしている八百万は確実に抑えられている可能性がある。 転移すると幻影は解けるので、見つかるかもしれない。 となると、滅多に行かない世界が妥当だろう。 さすがに、百ある世界全てに部下を配置することなどできまい。

「……お?」

 ふと、起動しっぱなしだったグラムサイトにレッドツンツン<シュウ>とグレーショート<ココア>の姿を捉えた。 この街の人通りはそれなりに多い。 我ながらよく気が付いたと思ったが、視線を向けてみるとなにやら様子が可笑しいことに気が付いた。 少し迷ったが、魔力回復薬を体に振りかけて幻影で消費した維持魔力を回復させつつ後を付けることにする。

 どうやら、シュウはどこか腹立たしげにしながら急ぎ足で目的地を目指していた。 その後ろからココアが人ごみを掻き分けながら追いかけている。 痴話喧嘩かと思ったが、どうもそういう風でもない。 人ごみの中で通行人にぶつかってコケた彼女に気が付いたシュウは、足を止めて引き返しやや乱暴ではあったが、手を差し伸べて立たせていた。 その後、運動が余り得意そうではない彼女の手を取ったまま移動スピードを彼女の歩幅に合わせて歩き始める。

(ああいう気遣いができるってことは、喧嘩とかじゃあないな)

 少なくとも、それなりに理性的な考えを持って行動できる以上はそうだろう。 ぶっきら棒な優しさではあったが、年頃の少年ならあんなもんだろう。 無視して去っていくような奴なら拳骨の一発でもお見舞いしたくなってくるが、これだと逆にほっこりする。

 やがて、二人は桃色ポニーことコンテが居た門のところまでたどり着く前に手を放し、出入り口でたむろしている六人ほどのメンバーと合流する。 俺は近くに在った噴水に腰を駆けると、彼らに気づかれないように周囲を確認してからアルハ式でサーチャーを作り、ミラージュハイドをかけて連中の頭上へと送り出す。 とにかく、連中のことを探るには丁度いい機会であるため、彼らの会話に耳を傾けることにする。

「おい、コンテ」

「あら、シュウとココアじゃない。 どうしたの、今日はゆっくりするって言ってたのに」

「マサから連絡があってな。 あの腰抜けが知ってる特殊な魔法ってのが気になるんだろうが、明らかにやりすぎだ」

「やりすぎって、何のことよぉ」

 知らないとばかりに肩を竦めながら、コンテは業とらしく首を傾げる。 しかし、シュウはそんな言葉を無視して続ける。

「惚けるなよ。 ネチケットに反する掲示板のことといい、仲間動かして監視してる件といい、明らかにやりすぎだろうがよ」

「いいじゃない。 別に貴方たちに迷惑かけたわけじゃなし、全員私のチームなんだしさぁ」

「せめて俺たちに一声かけてからにしろよ。 一応、あの腰抜けだってレベルだけは高いはずだ」

 だけは余計だ、レッドツンツン。

「なによぉ、私があんな冴えないのにやられるとでも思ってるの? 高々一人じゃん、囲んでボコにしちゃえば終わりっしょ」

「派手な騒ぎを起すと管理局が動くだろ。 それに、あいつの人脈は未知数だ。 『ブラッドソード』が死んでたとしても、他にも強力な仲間やギルドがある可能性もある」

「もう、シュウは心配性だなぁ」

「俺は、もう仲間に死んで欲しくないだけだ」

 グッと、右拳を握りこむ彼はそう呟くとジッとコンテを見つめる。 後ろで様子を伺っていたココアは無言でその光景を見詰めている。 やりとりを見ていたコンテの仲間たちも、さすがに茶化せる雰囲気ではないと悟っているのか黙り込んだままである。 けれど、その沈黙は長くは続かない。 口火を切るのは、今回の首謀者らしき少女コンテである。 

「シュウの気持ちは分かるけどさ、だったらどうするのよ」

「どうするって、なにがだ」

「これから先のことよ。 今でギリギリなのよ? 実際、現実に目を向けたら他に手が無いってことぐらいシュウにも分かってるはずでしょ」

「それは……だが、そもそも腰抜けの魔法が実際に使えるかどうかもわかってねーだろ。 信用できねぇ」

「でも、私たちには先がない。 ぶっちゃけさぁ、あれ以上先に進むと絶対に誰か死ぬよ。 だったら、ちょっと悪いことでもやってみないとだめだじゃん。 他に”手”が無いんだよ」 

「……最悪、他の大手ギルドと大々的に組むって手もある」

「どうかなぁ? 前みたいに裏切られるかもしれないよぉ」

「ありゃあ篩い分けされる前の、昔の話だろ。 最前線には、人の足を引っ張るような余裕はない。 口が悪いおっさんも、性格最悪な年増女もいたがよぉ、皆あそこじゃあ顔見知りで、救ったことも救われたこともそれなりにある。 それはお前も知ってるはずだぜ」

「そうだったとしても、経験値が激減するから牛並みに遅い歩みが更に遅くなっちゃうよぉ」

 チームの人数が増えれば増えるほど、手に入る経験値は経る。 MBOでは特にそれが顕著である。 単純に経験値が人数による分割で、一番多くダメージを与えたモノだけはやや人よりも多く手に入る。 が、基本的には人数が多ければ多いほど分割されて分け前が減る。 レベルが上がり難い後半、チーム戦でないと生き残れないというのにチームの人数を増やせば増やすほどレベルアップが遠くなるという悪循環に悩まされる。 コンテの懸念は当然だ。 

「それに、私はいつまでもこの世界にいたくはない。 シュウだってそれは同じでしょ」

「それはそうだ。 誰がこんな仮想牢獄に居たがるかよ」

「でしょ? だったら、前に進むための手段は選べないっしょ。 もしかしたらこれで犠牲が減るかもしれない。 攻略が早まるかもしれない。 だったら、やっておくべき。 そうでしょ?」

 驚くべきことに、言っていることはまともだ。 やり方はどうあれ、動機については分からんでもない。 何故だろう。 俺は連中に怒っていい立場のはずなんだが、そんな気が失せてくるのは。 

「……腰抜けの魔法に期待したいっていうのは、分からんでもねぇ。 だが、手段が許せねぇよ。 俺たちの信用にも関わってくる。 あんな方法を取ったのが俺たちだなんて思われたら、他のギルドやチームとの連携にも問題が出てくるかも知れねぇだろ。 お前だって、俺たちだけでクリアできるなんて馬鹿な夢想してるわけじゃねぇはずだ。 きっと最後は前線の連中全員の力が必要なんだよ。 だから、その輪からはじき出されるような真似だけはするんじゃねぇ」

「それは……」

「なぁ、焦るなよコンテ。 確かにもう四年だ。 でも四年で俺たちはSS階層まで来たんだぜ。 だったら、後ワンランク上まで堪えろよ。 皆、お前の力が必要だと思ってるんだぞ。 俺だって、お前のことは頼りにしてる」

「もう、シュウは本当に恥ずかしい奴なんだから。 分かった、分かったわよ。 皆撤収させるわ。 これでいいでしょ?」 

「ああ。 うし、そうと決まれば飯でも食いに行こうぜ」

「それはダメ」

「んあ? 何か他に用でもあるのか」

「そうじゃないけどさぁ、大事なこと忘れてるでしょあんたは」

 お馬鹿さんめっ、とばかりにコンテが仏頂面なシュウの額にデコピンをかます。 いきなり喰らったシュウはよくわからないと言う表情で、すぐに後ろに振り返ったコンテの姿を見る。 

「アクセル君、今日から貴方がチームのリーダーやって頂戴」

「ええ!? 俺がっすか!?」

「うん。 後ね、私今日でギルドも抜けるから」

「はぁ!? おま、いきなり何言ってんだよ!!」

「シュウが言ったんじゃないのよぉ。 信用は大事だって。 だから、独断専行した私を貴方が排斥した。 オーケイ?」

「ふざけんな!! お前を放逐して、ギルドの対面を保てって言うのかよ!!」

「そうだよ。 でないと、ケジメが付かないでしょ。 後で掲示板の方は上手くまとめておくから。 ということで、てやー!!」

「げっ、こいつマジでギルド脱退しやがった……」

「コンテちゃんがそこまですることないよ!!」

「ダメよココアちゃん。 ここで私がやめないと、他のメンバーも巻き添え食らうっちゃうよぉ。 それは、困るでしょ?」

「で、でもぉ……」

「リーダーが辞めることないって!! なんだったら、俺が……」

「トカゲの尻尾斬りなら下っ端の役目だろコンテ」

「そうそう、君のためなら濡れ衣だって着れる!!」

 口々に元チームメイトが叫ぶが、彼女はただ首を振るばかり。 決意は固いらしく、答えることはしなかった。

「俺たちのとこ出てどうする気だ」

「そうだね。 まずは、ハーヴェイさんとこにいって謝ってくる。 いつ出てくるか分からないけどさ、ずっと店閉めてるとは思えないから。 それに――」

 笑みを浮かべながら、シュウを振り返るコンテ。 二人の視線が交差する。 その一瞬で、何か通じ合ったものがあったのかもしれない。 生憎と俺にはわからないが、ただ、何か語り合ったような気がした。

「――あの人、多分ムッツリだから、押しかけて色仕掛けでもしたら魔法くれそうなんだもん。 そしたらこっちに横流しするつもりだから、そのときは功績を認めてまた入れてくれると嬉しいなぁ」

「ぶっ」

 さすがに思わず、吹いた。 桃色ポニー、どういう目をしてやがる。 さすがに遠いので気づかれてはいないが、俺は咳き込んだ振りをしながら、頭を抱えたくなるのを必死に堪える。 訂正したい、訂正したいが、ここで出て行ったら騒ぎになるだけだろう。 そんなのは嫌だ。

「その根拠はなんなんだよ、おい」

 呆れたようにな顔でシュウが尋ねる。 いい質問だ。 俺だって聞きたい。 そこんとこ詳しく。

「えぇー、だって、会いに行ったときに私が胸元パタパタやったらしっかりと反応してたんだもん。 多分、しっかりと下着の色を判別した挙句、私のカップサイズまでチェック入れてたよあの人」

 嘘だ、と声を大にして言いたかった。 だが、今ここで『色しか判断できんなかったわ!!』などと叫びながら出て行くと、一部殺気立っている少年たちに血祭りにされることだけは確かだろう。 だから、俺は内心の憤りをただただ堪えることしかできなかった。
 
「そうか。 なら、いつでも帰って来いよ。 お前の席はいつまでも開けとくからな。 功績なんかどうでもいい。 ほとぼりが冷めたら戻ってこいよ」

「うん。 じゃあね、皆」

 軽く手を振って、コンテが走り去っていく。 何処に行くかは誰も知らない。 ただ、その場に残った彼らはなんともいえない表情でいつまでも彼女の去っていった方角を眺め続けた。

「ね、ねぇ、シュウ君!! いいの!? コンテちゃんがいっちゃうよ!!」

「自分で言ったことは責任を持つ奴だったからな。 納得がいくまでしばらくは好きにさせてやろう」

「で、でも色仕掛けとか言ってたよ!!」

「アレはいつもの冗談だろ。 俺たちに気を使ったんだ。 いいな、お前ら!! あいつは、コンテは俺たちの仲間だ。 いつ帰ってきても暖かく迎えてやるぞ!!」

「「「「おう!!」」」」

 少年たちが、一人の大切な仲間との別れを気にまた一つ大きくなった瞬間であった。 

「よし、ずらかるぞ!! マサや他の皆にも報告しなきゃなんねぇ!! アクセル!! あいつが指名したんだ。 これからあいつのチームを頼むぜ!!」

「はいっす!!」

「よっしゃ、それじゃあ解散!! 各自次の作戦までにしっかりと準備しとけよ!!」

 号令を発し、それぞれが散っていく。

「帰るぞココア。 俺たちのギルド、『攻略生徒会』のギルド基地にな」 

「うん」

 シュウとココアも自分たちの拠点に帰るべく、二人して空へと飛んでいく。 本当に最速で報告に向かうつもりなのだろう。 俺はサーチャーを消すと、頬杖をついて空を見上げた。

「若いって、いいなぁ」

 ああいう時代が俺にもあったのだと思うと、なんとなくノスタルジーな感慨に溺れたくなってくる。 思い返してみれば、二回目の今頃は既に陸士訓練学校だった。 アレはアレで青春ではあったが、彼らのように一丸となっていたわけではない。 寧ろ一匹狼だったし。 というか、敢えて一人だったし。 いつの間にか増えてたけどな。

「友達、百人つくっときゃ良かったゼ」

 今更の話だった。











 ゴールドで昼食を終え、トランスポーターで戦国魔京に戻ってきた俺はゆっくりとギルド基地を目指す。 一応、周囲の警戒のためにグラムサイトは起動しているが、姿を現した俺を尾行するような人影はない。

 NPCの大名行列が『頭が高い』などと言って来るので、適当にひれ伏しつつ道を行く。 やがて、基地に到着するとそのまま城の門番に挨拶してから敷地内へと移動する。 NPCの門番に話すことで、ギルド基地の中に入れるのだ。 そこから、更に城の中を歩きながらギルドショップへと向かい店を開く。

 こうすることで、城の塀の一部に作られているこの店が開く仕組みだ。 この一週間の間に依頼などは無かったので、特に客からの頼まれ物はない。 その代わり、俺にネットの審議を念話で尋ねてくる連中にはノーコメントを貫き通した。 知りたきゃ足を運んで来いってなもんである。 そもそも、俺はデバイス屋。 話しを聞きたければまず仕事を依頼してからにして欲しい。 デバイスを見せろ。 話はそれからだ。

「ふむ」

 入ってくる人影はない。 さすがに、一週間閉店していたのだから当然か。 コンテが見張っているかどうかは確かめたりはしていないが、来ないなら来ないで別に良い。 青春という名の形にはできないモノを見せてもらったのだ。 怒る気も既に失せていた。

『ライア、もう外に出歩いても大丈夫そうだ』
  
『あ、そうなんだ。 良かったね何事もなくて』

『ああ』

 カウンターに座り、いつものようにネットを漁る。 ついでに城のNPC女中さんに頼んでお茶を注文。 代金と引き換えに茶を貰うと、一応あの少年たちのギルドについて調べ情報を収集。

 どうやら、『攻略生徒会』は学生たちが中心のギルドらしい。 制服で活動する者が多く、このサーバー内では十本の指に入るほどの規模を持つ。 が、基本的に悪いな噂はないようだ。 ガラは悪そうに見えても、熱血で青春なかれらのことである。 ほとんど無害みたいなものだろう。 トップのレッドツンツンからしてアレだし。 掲示板をチェックすると、どうやら盛大な”釣り”だったということにされている。 それで解決できるかは知らないが、まぁ、デマ説と相まってスレにはガッカリ感が漂っていた。 
 放置しても問題はなさそうなのでそのまま何事もなく仕事に入る。 奥の部屋で使用した氷水を取り出し、修理する。 使用すると耐久度が落ちていくのだ。 これは仕様なのでしょうがない。 とはいえ、生半可な強度ではないために本来ならそんなことをする必要はない。 だが、俺は一々この氷水の手入れだけは欠かさない。

 感傷なのだろう。 他にもデバイスは持っているが、こいつらには役目がある。 アンリミテッドのボスの血を吸うという大切な役目だ。 それだけは、こいつらの役目だと勝手に俺は決めていた。 故に、いつでも万全にしておこうと思うのだ。

 かつてあいつは、『剣に意地と魂を込めろ』なんて言って俺に剣を教えてくれた。 こっちに来てから俺自身が志願したのだが、今でもさっぱり意味が分からない。 ただ、今の俺だと執念だけは無駄に篭っているのではないかと思っている。 意地だとか魂だとか、そんな綺麗なものではないけれど、込められるものならば同じはずだ。 現に、リアルでは全く成功しなかったのにゲーム内ではAMBがきちんと発動することがある。 狙って確実とはいかないが、それでも格段の進歩と言える。 みっちりと矯正された甲斐があったというものだ。 
 
「おお?」
 
 ふと、気が付けば既に夕刻である。 今日はもうこの程度にしておこうかと思い、閉店させようとする。 だが、俺は何を思ったかここで入り口の戸を開けて外を見る。

(よし、いないな)

 通り過ぎる飛脚のNPCが、右から左へと通過する。 それをなんとなく目で追って、戸を閉めようとしたその矢先、ふと右側から視線を感じた。

「あ……」

 そこに居たのか、桃色ポニー。

 戸の直ぐ右側に塀を背にした状態で、体育座りをしたまま家出少女よろしく俺を見上げている。 とりあえず目頭を揉んでから、俺はもう一度そちらへと視線を向ける。 すると、立ち上がってくる少女P2を発見した。 ちなみに、ピンクポニーでP2だ。 

「少女よ、そこで何をしてるんだ?」

「えと、ハーヴェイさんに会いにきました」

 無駄に憂いを帯びた表情のまま、こちらを見上げてくるその少女。 夕日の光のそのせいで、妙に眩しい。 これが、若さの煌きか。

「そうか。 じゃあ用事はこれで終わりだな」

 そそくさとお帰り願う。 俺の中ではもう、終った話だ。 イザコザなんて無かった。 そう、無かったのだ。 平和主義万歳。 罪を憎んで若さ憎まず。

「待ってください」

「話すことなんて無いような気がするけどな」

「その、私が掲示板の犯人なんです。 だから、その、ごめんなさい」

 立ち上がり、全力で頭を下げられる。 真っ向勝負か!? さすが、あのレッドツンツンの仲間だ。 なんて潔い。

「別に気にしてなんてないさ。 一応謝罪は受け取るけど、何か問題にする気とかは無い」

「そう、ですか」

「ああ、だから仲間の所に帰りな」

 どこかホッとするような表情を浮かべる少女に背を向けて、俺は戸を閉めようとする。 だが、戸を閉める手が無常にも止まった。 何かに当たったと思えば、少女が閉める戸の間に爪先を突っ込んでいるご様子だ。 殊勝な心がけと思った先ほどの俺のほっこりとした気持ちを返して欲しい。 桃色ポニー、まさかとは思うが本気で俺を色仕掛けで堕としに来たのではあるまいな?

「閉店の時間なんだが」

「滑り込みで、修理してもらうのはダメですか」

「……入れ」

 デバイスのことを言われると、つい反射的に返事をしてしまった。 一瞬確かに葛藤したのだが、マジだったらデバイスが可哀想過ぎる。 葛藤に負けた俺は悪くない。 悪くないはずだ。 そして、なんとなくグラムサイトを起動した拍子に背中の後ろで小さくガッツポーズしていたのが見えたなんて俺は知らない。 断じて知らない。

「どうですか?」

「ちょっと消耗してるな。 待ってろ、すぐに直す」

 一応は激戦の名残が伺える。 すぐに壊れるほどではないが、俺みたいなデバイス馬鹿には許せない程度の消耗が見えるのだ。 修理スキルを起動し、デバイスの耐久度やパーツの消耗をメンテしていく。 限界を超えれば、買い換えるしかない。 レアなパーツで武装し始める後半には、デバイスのメンテはプレイヤーの必須アクションなのである。

 メンテの間、少女は珍しそうに室内を眺めていた。 特に飾りつけてもいないが、それでもケースに飾っている完成品をジッと見ている。 一応、サンプルとして全種類を網羅してある。 杖型しか使っていないのであれば、少し興味を引かれているのかもしれない。

「杖型以外が珍しいか」

「はい。 私も、仲間たちもほとんどが杖型ですから」

「そうか。 杖型に拘りでもあったりするのか?」

「そういうわけじゃないですけどぉ、やっぱり最優のデバイスだってネットでも専らの噂ですから」

 杖型に癖はない。 近接も遠距離もこなせる万能性は確かに美点だ。 その代わり、尖った戦闘スタイルを持つ者にとっては機能が生かせないこともある。 だが、それを差し引いても優秀なことには変わりは無い。 柔軟にして敷居低し。 それが、杖型という奴なのだ。

 また、管理局の作り出したイメージもあるのだろう。 杖型の愛好家が圧倒的に多い。 そのせいで魔法=杖みたいな、そんなイメージが持たれている気がするのだ。 映画とかの魔導師も杖が多い。 固定観念という奴かもしれない。 だが、今にして思えばそれは結構当たり前なのかもしれない。

 管理局は軍隊と警察を合わせたような組織であり、街中に出たりもするわけだ。 そんな連中が物騒な刃物や質量兵器を模した銃型なんてデバイスを携行していたりすると市民が怖がる。 待機モードがあるとはいえ、それでもいきなり街中でドンパチが始まったときに局員が物騒な獲物を持っていると視覚的にも怖いだろう。 杖型ならそういう負のイメージを軽減できる効果がある気がする。 なにせ、刃物や銃に比べれば物騒には見えない。 ううむ、杖型が普及してるのにももしかして、そういう心理的な方面を気にしてるせいもあるのかな。

「本当は個人の素質に合うのが一番なんだが」

「でも、ミッド式と一番相性がいいのは杖ですよね」

「それはあまり否定できないな」

 とりとめの無い会話をポツリポツリと交えつつ、時間を潰す。 そろそろ、メンテも終わりだ。 仕上がりは言うまでもなく完璧で、ワックス処置もサービスする。 見違える、とまではいかないがそれなりにピカピカと輝くデバイス。 相変わらず、デバイスは美しい。 メタリックでありながらそれでいて繊細で、野蛮な使われ方をする癖に優美。 現代の兵器と呼ばれるほど理知的な魔導師の相棒だ。 やはり、これは良い物だ。

「ほれ、終ったぞ」

「ありがとうございます。 えっと、御代は……」

「一見さんだからタダで良い。 次からは貰うがな」

「そんな、悪いですよ」

「気にするな。 それより、遅くなる前に帰った方がいい。 夜は偶に不審者がでるからな」

 仮想の中とはいえ、不埒者は出てくる。 寧ろ、命の危険に晒されているせいで、ゲーム初期では暴走する者が幾人か出た。 今もでないとは限らない。 管理局の管理領域が増え、見回りが増えてきたせいで今ではもう下火だが出ないとも限らない。 まぁ、最前線プレイヤーをどうこうするってのは厳しいだろうが、数がそろうと厄介になる。 仮想の中でまで犯罪組織や詐欺集団が現れるのは情けないが、それもまた人間の浅ましい姿という奴なのか。 何度かそういう奴に出会ったこともあるが、ああいうのは厄介極まりない。 関わらないに越したことは無い。

「ほら、店も閉めなきゃならん」

 戸をあけて、見送りのスタンスを取る。 だが、デバイスを受け取った少女は外に出ることに戸惑う素振りをみせている。 まぁ、とてつもなく怪しい。 彼女のシナリオがどういうものだったかは知らないが、少なくとも”タダで許してもらえる”とかは思ってなかったのかもしれない。 ゲーム内の通貨や、レアアイテムでもせびられると思っていたのではないかと、俺は読む。 彼女の目的がゴールドでレッドツンツンに言った通りなら、ではあるが。

 正直に言おう。 実は俺はこの状況を少しだけ楽しんでいる。 性格が悪いとは自分でも思うが、なに、可愛らしい意趣返しだろう。 風評被害やら、俺が知らずに店を開けていたときに発生していたかもしれない騒ぎを考えれば。 

「あの、その……」

「んー? まだ何かあるのか」

 さぁ、どうでる桃色ポニー。 俺ならば今回はこのまま帰り、一時撤退で後日常連になりつつ情報を探るという手を打つ。 何故なら、”今回”は仲間と一緒ではない。 俺の戦闘能力が未知数な以上、無理をすることはできない。 この子が一般人か魔導師かは分からないが、俺の魔力値をデバイスで探ることはできるはずだ。 そこから、戦闘能力を逆算して勝てると踏めば無理な作戦に打って出ることもできるかもしれないが、それは余り分の良いものではない。

 そしてこの店は俺のテリトリー。 俺の意思一つで客にはお帰り願える。 戦闘行為に付き合うつもりはないのは、前回のことで分かっているはず。 故に、戦闘による脅しではなく取れる手段は交渉による説得。 しかし、今回の件で自分の心象は最悪だということは理解できるはずであるから、自分の都合の良い方向へとやすやすと進むとも思わないはず。 俺が食いつくようなネタでもあれば話は別だがな。 しかし、そんなネタを探す時間はなかったはずだ。 ならば結局、ここで彼女が取れる手段は二つだけ。 長期戦か不利な状況からの説得だけだ。

 俯きながら、考え込む彼女を前に、俺は意地悪くその結論を待つ。 好きなだけ考えて決めてくれれば良い。 俺としては、別にどっちに転んでも構わないのだ。 諦めてもいいし、アレを習得したいと申し出ても良い。 グラムサイトをやって、今日はお帰り願うだけなのだから。

「お詫び、お詫びに何か受け取ってください」
 
「謝罪はしてもらったし、別に気にはしてないからいいぞ」

「そ、そんなこと言わないでくださいよぉ。 でないと、私の気が済みませんから」

 ふむ? 説得方面で攻めることにしたのか? 歪曲だが、なるほど本命を切り出す前には良い手かもしれない。 誠意を見せたいということか。 

「しかし、俺は別に金に困ってないしな」

「レアアイテムとか、どうですか? これでも結構、色々なデバイスパーツを持ってますよ」

 ピクリと、俺がの眉が動いた。 それを確認したのだろう。 そこを突破口にしようと期待の眼差しを向けてくる。 まぁ、最前線組みにいたならそれなりに持ってるだろうけど。

「何か欲しいものが在ったら言ってください。 絶対に用意してきますから」

「ふぅん、なんでもいいのか?」

「はい!!」

「んじゃ、”人工リンカーコア”よろしく」

「人工リンカーコア……ですか?」

「うむ。 超レアなパーツでな、今となっては幻のパーツだ」

「ちょっと待ってください。 ネットで調べますから」

 冷や汗を滲ませながら、少女は聞きなれないパーツを情報系サイトで探す。 とはいえ、その情報は無いはずだ。 何せ、九十九世界のボスが落したレアパーツであり、ユニゾンデバイスのパーツなのだ。 SSS級の世界に踏み込んでいない連中は誰も知らないはずだ。 故に、ネットにも乗っているはずがない。 ライアのサイトにも乗ってない。 デバイス系は俺が担当しているのだが、うっかり書き忘れていてそのままなのだ。 そもそもボスからのレアドロップで、地獄のフィールドを突破するまでは試すことなどできやしない。 どうせ当分は誰も取れないのだから、書かなくても良いだろう。

「ええと、その、どこにあるんですか?」

「九十九階層のレアドロップ品」

「ちょっ」

 絶対不可能な条件だと知って、少女は一瞬恨みがましい目で俺を見る。 だが、俺は知らん顔を決め込む。 すると、なんとか笑顔を取り繕ってくる。

「その、さすがに、難易度が高すぎますよぉ」

「だろうな。 俺もあまり期待していなかった。 まぁ、全部のドロップを知ってるわけじゃあないから物は試しに聞いてみただけなんだけどな。 他の階層にもあったらラッキーだと思っただけでな」

「そ、そうですか」

「うむ、そうなのだ」

「じゃあ、じゃあ他に欲しいものとかは? できればその、SS階層の初期辺りのがありがたいんですけど……」

「いや、アレ以外は別に今探してないからいいよ」

 うん、俺とライアのはもう十分にカスタマイズしてある。 もっとコレクションを増やしても良いのだが、使わなければ宝の持ち腐れだ。 ならば、いずれ彼女が戻ったときにでも自分のギルドで活用してもらった方が良い。

「金には困ってないし、アイテムもそんなに欲してない。 というわけで、別にお詫びなんて考えなくて構わないぞ。 謝罪の言葉だけで十分だ」

「えと、じゃあ……えいっ」

 おもむろに、少女が抱きついてくる。 うん、意味不明。 いや、意図は分かるんだがどうにもその、だ。 さすがに、力ずくで無理矢理押し倒してくるのはどうかと思うのだ。 しかも今ちょっと頭打った。 バリアジャケットがなければ悶絶してるところだ。

「一応聞いておくが、どういうつもりだ?」

「その、他に差し上げるものが無いので」

「あー、なるほど」

 目を伏せながら、少女が黙る。 無駄に熱い視線が俺を見下ろす彼女の頬は、赤く染まり何かを期待している、ように見えなくも無い。 演技力は中々だが、如何せん両手が震えているのが痛々しい。 何故そこまでと、思わないでもない。 何せ、俺はこの少女がそうまでしようとする理由が量りかねているからだ。 ただ、男に無駄に火を付けるのは頂けない。 ここが仮想だから、本体に何も影響が無いなどと楽観しているのであれば”浅はか”に過ぎる。

 感応制御システムによる意識接続。 体の感覚まで喪失する重度の没入ともなれば、仮想とリアルの差は無くなる。 そもそも、現実を認識するのは人間の脳であり、肌でもなければ神経でもない。 プレイヤーのキャラクターは、ゲーム筐体やデバイスに組み込まれたモーションセンサーやらスキャンセンサーを使って寸分の狂いもなくキャラクターを構築している。 そして、仮想の体はリアルと同等の感覚を俺たちに与えるまで進化している。 ここでの五感は、痛みに関しては制限があるが味覚や触覚に大しては制限が無い。 ことはそう簡単なものではない。 

 現に、中にはその機能を利用してゲーム内で娼婦や男娼をしている者も居る。 金を手に入れるための手段にしているのだ。 通常はR指定を解除しなければならないが、これは自己申告制である。 故に、気づいた者の中で使用する者もいるし、これのせいでゲーム内に変質者が出たこともある。 ただし、両方がR指定を解除しなければ事に及べない。 とはいえ、命を盾にされたらどうなるかは分からない。 どちらにせよ狙われた場合には相手よりを撃退できるほどの技量か備えをしていなければどうともならないだろう。 まぁ、男なら狙われる心配はあんまりないわけだが。

「しかし、困った。 俺はこういうのは初めてなんだ。 優しくできるかどうかわかないがいいんだな?」

「……は、はい」

「そうか、じゃあ遠慮なく」

 アルハ式で魔法陣を起動することなくストラグルバインドを発動。 とりあえず縛り上げて上からどかす。

「あのー、聞きたいんですけどいいですか?」

「ああ」

「このバインドはその、一体どういう……」

「いやぁ、途中でやっぱなしとか言われたら嫌だし、どうせなら忘れられないほど激しい一夜にしようかと」

 とりあえず、手をワキワキとさせながらニヤニヤ笑って言ってみる。 すると、さすがにがんばって作っていただろう笑顔が、サァーっと青褪めていくのが見えた。 目に見えて顔色は悪い。 

「わ、わかりました。 そ、その代わりちょっとお願いがあるんですけどぉ……」

「はぁ? これは君のお詫びだろ」

「それは……そうなんですけど……」

 聞く耳は持たない。 餌をちらつかせて我慢できなくさせておいて言質をとりたかったのだろうが、そうはいかない。 しかし、本当にがんばるな。 ギルドのために文字通り体を張ろうという少女である。 そんなのを相手に弄って楽しんでいる今の俺は、相当な外道なのではなかろうか? 俺は紳士だったはずなのだが、この四年でメッキが剥がれたとか? いやいや。

「というわけで、まずは順当にだな」

 ゆっくりと、顔を近づけていく。 さすがに後には引けないと思ったのか、向こうも目を閉じる。 が、手放していなかったデバイスのコアが明滅しているのに俺は気が付いた。 ストレージ、いやインテリ系かぁ、などと冷静に判断したところで俺はふと思い出す。 そういえば、前にもこうやって遊んだことがあったな、と。

 相手は、そうだ。 リンディだったな。 そうそう、キスするとでも思わせるような態度をとってからかったんだっけか。 懐かしいなぁ。 今度の教訓はデコピンじゃあ足りなさそうだけどなっ。

「よっと」

 瞬間的にフィールドの強度を高めた左手を自身の顎下に出しつつ、唇を奪う振りをしていた頭部を後ろにそらす。 瞬間、真下から顎目掛けて飛来した桃色の球体<魔力弾>が、左手を強引に跳ね上げつつ天井へと飛んでいく。

「嘘ッ――」

 奇襲を防がれるとは思っていなかったらしい少女が、一瞬驚きの声を上げる。 しかし、状況を見てすぐに砲撃と同時に演算していただろうバインドブレイクを使い、拘束から逃れると俺から距離を取ろうと後ろに飛ぶアクションを取る。 だが、それは失敗する。 俺が後ろに体を傾けた反動を利用し、前に一歩脚を出しながら右手を伸ばし首根っこを強引に掴んだからだ。

「嘘を付くなんて悪い子だ。 全然反省の色が見えん。 これはお仕置きが必要だな」

「年下の学生に欲情するようなのよりマシですよぉ」

「ぬかせ。 色気が全然足りんかったわ」

「えぇー、でもちょっと鼻の下伸びてましたよ」

「可愛い子に言い寄られると大抵の男はそうなるさ。 ただ、実際に手を出すかどうかは別だな。 それより、良かったのか? ”色仕掛け作戦”を放棄して。 確か俺はムッツリだからそういうのが有効なんだろ」

 言われっぱなしは癪なので、とりあえず反撃してみる。 すると、目を見開いて驚いてみせた。 ムッツリだと面と向かって彼女が俺に言ったことはない。 すぐに意図を察したようだ。

「うわっ、驚いたなぁ。 ゴールドでの会話聞いてたんだぁ。 やるね、ハーヴェイさん」

「気づくはずが無いシュウが来たことで、警戒が緩んだんだろ。 大したことじゃあない」

「うーん、冴えない感じなのに実は結構やる?」

「試してみればいいだろ。 丁度今は二人っきりだ」

「えー、私にも好みのタイプって奴があるんだけどなぁ」

「安心しろ、俺にもある」

 軽口を叩きながら、互いに相手の様子を伺う。 首を押さえられた状態のコンテは、右手に握ったデバイスのコアを明滅させながら離脱の気配を探っている。 対して俺は、デバイスを展開しないまま右手でコンテの首を押さえている状態だ。 

 この店の店内は狭い。 加えて逃げようにも外に出るための戸は横に動かさなければ開かないタイプ。 この店は破壊不可能属性のオブジェクトなので、プレイヤーには破壊できない。 彼女が逃げるには、俺をどうにかしつつ戸を開いて外に出るしかない。

「……」

「……」

 現状、戸は彼女のすぐ右にある。 しかし、右手でデバイスを握っている以上はすぐに開くことは出来ないだろう。 加えて、彼女が考え込んでいる間にアルハ式でトラップバインドを戸の前に仕掛けている。 それが今終わった。 気づかれた様子はない。 恐らく、彼女は一般人なのだ。 それ故、魔法に対する勘の良さというのが絶望的に低いのかもしれない。 仮に気づいていて気づかない振りをしている可能性もあるが、処理に一工程費やすという結果は変わらないので保留しておく。

「うーん、参ったなぁ。 動けないや」

「この状態だとデバイスを持っている君が有利そうな気もするけどな」

「意地悪さんめぇ。 距離が近すぎるし、ここ隅っこだから狭いじゃん。 しかも、絶対に負けないって確信的な目をしてるよハーヴェイさんは」

「そうか? 案外ブラフかもしれないぞ。 デバイスもまだ抜いてない」

「デバイスを出してないのは、狭すぎて邪魔だから。 後、無手でも闘える術を持ってるからじゃないの?」

「なるほど。 その可能性はあるかもしれないな。 じゃあ、俺も手を読んでみようか。 君が今悩んで見せているのは実は嘘だ。 逃げる算段はつけてからここに来たんだろ? だから、いつでも念話で仲間を呼べるようにしている。 君が動く切っ掛けは、そこの戸が開いたときだ」

「んー、でもそれは可笑しくない? 話を盗み聞きしてたんなら分かるでしょうけど、今私ギルドを抜けてるんだよねぇ」

「別に少年少女だけが君の仲間じゃあないはずだ。 傭兵を雇っても良いだろう」

「なるほど、そういう可能性はあるかもねぇ。 でも、私がそんな面倒くさいことすると思うのハーヴェイさんは」

「正直五分五分だな。 君のことをサッパリ知らない。 ただ、君ならそういう手を打っても不思議ではないとは思っている。 シュウならこんな手の込んだことはせずに真っ向から来るだろうし、マサと呼ばれていた少年なら考えるかもしれないが、そもそも彼ならまず交渉してくる気がするな。 それとココアちゃんは論外だ。 あの子は顔に出るし何よりも似合わない」 

「私ならやりかねないっていうのは、なるほど。 前科があるもんね」

「”そういうこと”」

 ネット上の情報では、攻略生徒会の中で唯一絡め手が得意そうなのが彼女である。 ネット攻撃の件もあるし、一番面倒くさいタイプだ。 ただ、本人に純粋なところがまだ残っているらしいせいか、まだ甘い。 が、それはそれで可愛らしいところなので評価し難いのが困る。

「それで、どうするのかなハーヴェイさん」

「どうもしない。 久しぶりに刺激的な時間をプレゼントしてくれたんだ。 暗くなる前にお帰り願うだけだ」

 右手を離し、開放してやる。 すると、少しばかり驚いた表情でこちらを見てくる。 

「いいの?」

「そもそも戦う意味が無い。 PKは趣味じゃあないし、嫌がる相手を無理矢理なんてのも趣味じゃあないからな」

「そっか。 でも、ごめんなさいハーヴェイさん」

「ああ?」

「さっき、シュウに無理矢理店に連れ込まれたって連絡しちゃった♪」

「わーっつ」

 あの、熱血系青春男に連絡しただと? 

「だから時間稼ぎしようかなぁって思ってたの。 ハーヴェイさんの読みは鋭かったけど、さすがに信用できない人たちを雇うのは怖いからね。 あ、もう来るって」 

 瞬間、戸を力一杯盛大に開け放つ音がした。 間違いない。 奴だ。 奴が来たのだ。

「てめぇ腰抜け!! 俺の大事な仲間に何してやが――ってバインド!?」

 コンテに仕掛けたバインドに引っかかったシュウが、両手両足を拘束されながらも恨みがましい目で俺を見てくる。

「あ、助けてシュウー。 謝ったのにこの人に無理やり連れ込まれちゃってこまってたのぉ」

 拘束されたシュウに抱きつきながら、コンテが俺を売り渡す。 やられた。 この女、初めからこれを狙ってやがったな? 少女だ、などと侮っていたのは俺の方だったのかもしれない。 なるほど、ネットで”小悪魔”などと言う二つ名で呼ばれている意味がようやく分かった。 

「コンテちゃん!!」

「無事か!?」

 更に、ココアとマサが遅れてやってくる。 その後ろには、彼らのギルドメンバーだと思わしき少年少女がデバイスで武装したまま俺を睨んでいる姿が見えた。 正直に言おう。 さっさと奥に帰って不貞寝したい。 だが、そういうわけにもいかないのだ。 ここで逃げれば、今後俺は外に出るたびにこの少年少女たちに追い回されかねない。 事態を収拾するには、どうやら小悪魔の作戦に乗るしかないようだ。 もはや呆れを通り越して関心した。 どうやら、女というのは恐ろしい存在のようだ。 世の男どもが人生の墓場に延々と送り込まれ続けるわけである。

「面倒くさいなぁ。 おい小悪魔。 望みはなんだ言ってみろ」

「お願いします、はないのかなぁ?」

「ここは俺の領域だ。 下手に出る理由がない」

「そっか。 まぁいいけどね。 御免ねシュウ。 嘘だから怒らなくていいよ」

「はぁっ!? なんだよ。 襲われてるんじゃなかったのかよ」 

「ごめーん。 ちょっと計算が狂ってさぁ。 ムッツリだと思ってたんだけど、ガードが固くて」

「コンテ、またかい」

「うん、まただよぉ」

 バインドをブレイクしていたシュウが戸惑いの声をあげ、マサ少年が頬を引きつらせながら天を仰いだ。 恐らくは、何度かこんなことがあったのだろう。 一人よく分かってないココアだけ、展開についていけずにオロオロしている。

「おい、マサ少年。 今後は絶対にその子の首に鈴でもつけて監視しとけ。 そのうち絶対に痛い目見るぞ。 というか、俺があわせたい今すぐに」  

「……心中、お察しします」

「とりあえず、用件を言え。 俺はもう、引っ掻き回されるのは御免だ」

「んー、じゃあシュウと一対一で決闘してみせてくれないかな」

「はぁ? なんでそんな、だいたいあいつの魔法が欲しかったんじゃないのかよ」

 そのための茶番だったはずだ。 なのに何故レッドツンツンと戦う必要がある。 いきなり戦う役目を押し付けられて困惑するシュウ。

「魔法は欲しいよ。 でもね、それよりも私ハーヴェイさんが欲しくなったんだぁ。 シュウが勝ったら私たちのギルドに入ってよ。 最悪入るのがダメでも、色々とギルドに協力してほしいなぁ」

「色々引っ掻き回されて、更には勝負させらる羽目になった挙句に負けたら協力しろだって? 随分と虫の良い話だな」

「ハーヴェイさんが勝ったら私がそっちのギルドに入ってあげるよぉ。 それでどう?」

「ちょ、おまえ何勝手に……」

「はいはーい、シュウはちょっと黙っててねぇ話がややこしくなるから」

 ややこしくしてるのはお前だと突っ込みたい衝動に駆られる。 だが、面白い提案だったのは確かだった。 何せ、これはどちらにせよ彼女の望みが達成される勝負だ。 正直狡いやり方だと思ったがまぁいい。 後々のことを考えれば、この提案を利用するのも一興だ。 腐っても最前線攻略組みのトップ10に入っているギルドだ。 繋ぎを作っておくのは損じゃない。 小悪魔は俺を有効活用したい。 俺はこいつらをアンリミテッド攻略のために利用できるようにパイプを持っておきたい。 利害は一応一致する。

「どうかな、ハーヴェイさん」

「いいだろう。 一対一の決闘だな?」

「うん他の皆には手を出させないようにさせるよ。 それじゃあ、交渉成立だね」

「場所はどうする。 あんまり遠くに行くのは嫌だぞ」

「確かここの城って、ギルド基地としてじゃあなくて普通に入ると、NPCの殿様の城にいけるよね? たしかそこに訓練場があったはずだから、そこでいいよ」

「わかった」

 NPCの侍やらが訓練している道場のことだろう。 確かに、あそこなら広い上に金を払えば貸切りにもできる。 

「じゃ決まりだね。 皆ぁ、移動するよぉー」

 シュウがリーダーだと思うのだが、話をまとめた彼女はさっさと店を出て城に向かって移動する。 他の面子も、それに従ってゾロゾロと移動を始める。 俺はライアに一応連絡すると、店を閉店させて連中の最後尾から城に向かう。 すると、道中にマサ少年が話しかけてきた。

「うちのが迷惑かけて、すいませんほんとに」

「ああ、すっげぇ迷惑だ」

 主にネット攻撃とむっつり宣言が。

「しかし、ならどうして決闘を受諾したんですか」

「勝てばあの厄介な娘をスカウトできるらしいからな」

「……その、言うのもなんですけど彼女はその、トラブルメーカーですよ」

「だが、頭は回る。 危なっかしいところはあるけどな。 それに、どうしても俺はあいつに拳骨の一発でもくれてやりたい」

「それは、ええ、是非ともお願いします」

 このなんともいえない憤り、誰かにぶつけなければ納まりがつかん。

「というわけで、お前らのリーダーをボコボコにするぞ」

「そちらも、できるものなら是非。 コンテが貴方を欲しいと言った理由が知りたいので」

 楽しそうに笑うマサ少年。 シュウが勝つのか俺が勝つのか、単純に興味があるということなのだろう。 シュウが彼らの最強かは分からない。 だが、皆に認められ牽引してきたのは間違いなくあの少年だ。 小悪魔が素直に下に付いているという事実から考えても、少なくとも弱くはないだろう。 そんな彼を一対一で倒すことができれば、攻略生徒会も俺を無碍にはできまい。 伝説のチームの一員とか言われてはいるものの、伝説を作ったのは”あいつ”であって俺ではない。 あいつ以外の武勇は俺たちのチームには存在しない。 だから、俺という未知数なプレイヤーを胡散臭く思っているという現実をブレイクすることで、価値を示す。 後は、足元をすくわれないようにできるかどうかだ。

「楽しみにしておきますよハーヴェイさん」

「平穏を破壊してくれた礼だ。 精々、楽しんでくれ」

 肩を竦めながら、俺は面倒くさそうに言った。 












 城の中の訓練場<道場>に制服姿の彼らが集まると、学校に思えてくるから不思議である。 これがクラブ活動だったら好きにやってくれと思うのだが、そういうわけにもいかないのが現実だ。 ただ、一つ突っ込みたいところがあるとすれば学生たちが皆土足で道場の上に上がっているということに対してだ。

 彼らは次元世界中のプレイヤーたちだ。 靴を脱ぐ、という習慣が無い世界のモノが大半らしく遠慮がない。 体育館シューズという概念を持っているモノは戸惑っていたようだが、結局土足で踏み入った。 換えの靴など無いからである。

 まことに遺憾だが、注意したところで換えの靴が無いし、この世界では靴が汚れてもすぐに綺麗になる。 というかエフェクトで汚れるだけで、リアルとは汚れ方が違うのだ。 だから、誰も最終的には気にしないのだろう。

 俺はせめてもの抵抗とばかりにバリアジャケットの具足部分を変更し、裸足になると氷水ではない刀型のデバイス『ソード』を展開。 道場の中心に立つシュウと向き直る。

「ルールはどうする腰抜け」

「非殺傷設定だけでいいだろ。 ノックダウンするか降参した方が負けだ。 シンプルで見てる奴らにも分かりやすい」

「ちがいねぇ」

 意識接続でゲームメニューを呼び出し、決定オプションを起動してルールを定めて相手に受諾を求める。 受諾すれば決闘モードに移行し、そのルールによってしか戦えなくなる。 また、外野の手出しができなくなるようにほぼ透明な結界が展開されるので白黒つけたいときにはプレイヤーたちがよく用いる。

「シュウがんばってねぇ」

「シュウ君ファイト」

 レッドツンツンに黄色い声援が飛ぶ。 他にも、少年たちがやいのやいのとはやしたてつつも、鼓舞していく。 勿論、俺への声援はゼロだ。 そのせいで、俺のやる気は目に見えて磨り減っていく。

「人気者だなぁレッドツンツン」

「てめぇ、変なあだ名で呼ぶんじゃねぇ」

 腰抜け呼ばわりはいいのか若者と言ってやると、グッと喉を詰まらせる。 ふむ。 やはり、口は悪いが素直である。

「じゃあなんて呼べばいいんだよ」

「ハーヴェイでもハーヴェイさんでも好きに呼べばいい。 できれば常識の範囲内が望ましい」

「オーケー、じゃハーヴェイにするぜ」

 迷い無く呼び捨てだ。 そこは迷え。

「二人とも準備はいいかな」

 決闘用の結界が展開されたことを見て、マサ少年が尋ねてくる。 俺もシュウも頷き、五メートルほど距離を取る。 シュウは杖型のデバイスを右手で握り、左手を前に置いた状態で突きの構えを取っている。

 対して俺は、鞘から刀を抜いた状態でやや前傾姿勢を取った。 相手がどういうタイプなのかまだ分からない。 まずは様子見といったところだ。

「それじゃあ、初め!!」

 砲撃が撃たれる。 天井に向かって放たれた弾丸を合図に、シュウが先手必勝とばかりに突っ込んでくる。 その足元には燃えるように赤い魔法陣が照り、杖の先端にはジャベリンの魔法が形成される。 

「喰らえぇぇ!!」

 気合の入った声と共に、突き出されるは槍。 突進速度を上乗せしたその突きを、俺はとりえず右に軽く飛んで避ける。 シュウはそれを確認するや否や、槍を強引に薙いで来る。 反応はそれなりだが、違和感を覚える。 それが何かを悟る前に、俺は左手を突き出してシールドを展開。 シュウの槍を受け止める。 青のシールドの向こうで、衝突した槍が火花を散らす。 力ずくでシールドを突破しようと、シュウが強引に押し込んでくるのを冷ややかに見つめて、シールドをそのままにハイスピードを発動し、後方へと回り込んで無防備な背中に刀を振るうが、バリアで防御されて防がれる。  

「おっ――」 

 一撃が入りそうな際どいタイミングでの防御だった。 それをきちんと防ぎきったことに思わず感嘆の声を上げずにはいられない。 赤いバリアのその向こう、背後を取られた屈辱に目の色を変えて、シュウが振り向き様槍を振るう。 今度は、右周りの薙ぎ払い。 柄を上げ気味にしながら、刃を立ててその攻撃を受け止める。

 獲物同士の衝突で、甲高い音が鳴る。 受け止めた衝撃はかなりのもので、俺の両手にガツンと響く。

「ふむふむ、近接系ステか」

 魔力系の破壊力というよりは、腕力系の重みを感じる。 プレイヤーパラメータは間違いなく前衛系だろう。 ディーゼルに似た類の魔導師か。 ただ、あいつなら杖に交えて魔法を使う。 それに対処しなくて良い分楽かもしれない。

 鍔迫り合いのなか、互いに力量を探りあう。 腕力だけならたいしたものだが、それほど脅威に思えるレベルではない。 いや、確かに腕力は強いと思うのだが、プレッシャーが余り感じられないのだ。 恐らくは、それが初めに俺が感じた違和感なのかもしれない。

「余裕そうだな腰抜け。 安心しろよ、まだまだ小手調べだ」

「だといいんだがなレッドツンツン」 

「馬鹿、シュウ後ろ!!」

「なっ!?」

 小悪魔が叫び、シュウが顔を引きつらせる。 破壊せずにその場で放置されていたはずの俺のシールドが、いきなり背中から襲い掛かってきたからである。

 それは俺お得意のシールドカッターだった。 鍔迫り合いの最中、視界の外で後ろから奇襲されるというのは始めてらしく、シュウの集中力が分散する。 その隙を俺は見逃さない。 強引に力を込めて、シールドカッターの方へとシュウの体を押し込みにかかる。

「く、こんのぉぉ!!」  

 背中から過負荷を与えられるフィールド。 徐々に削られていくという状況は、普通に怖いだろう。 このまま力押しを行うのは不利だと悟り、シュウは魔法を展開。 高速移動魔法<クイックムーブ>で逃げに出る。 だが、タダ逃げるだけではないようだ。 そのまま俺から距離を取り、杖を振る。 瞬間、ジャベリンの矛先が飛びだして俺を襲う。 が、それはシールドカッターの壁に阻まれて互いに消えた。

「うぜぇ、なんだそのシールド。 そんな魔法どこで売ってるんだよ!!」

「売ってるわけあるか。 これは俺の自作だ」

「てめぇ、マジックプログラマーか!?」

 この世界での、魔法を自作できる人間のことだ。 一般人のほとんどは魔法をNPCから買うことで増やす。 自作できる機能は誰もが持っているのだが、一般人は魔法を作るノウハウを知らないものが多い。 よって、そのほとんどが魔法を作成するスキルを持っていない。 中には、魔法マニアという奴がいて自作魔法を作っては売り捌き金にしている者もいるが、その数は少ない。 それ以外だと後は純粋に魔導師で、単純に勉強していたものがそう呼ばれる。

「マジかよ。 伝説のチームの上、マジックプログラマーなのか」

「それにシュウ相手に余裕の顔してるぞ。 まさか、リアルチートじゃ……」

 ざわざわと、外野が騒ぎ出す。 その顔には、羨望と共に嫉妬が入り混じった顔がある。 リアルチートとはこの世界のスラングで、リアルで魔導師だった者の事を指す。 大半が一般人であるなか、元々魔法の力を持っている連中を皮肉った呼び名だ。 現在序列最強の攻略ギルド『リアルメイジ』の数多くがそれであり、最前線組みの中でもずば抜けて強いらしい。 ただ、魔導師数は一般人よりも圧倒的に少ないため組織人数はそれほどでもないとも聞いている。 しかし、彼らは訓練されていない一般人と比べれば格段に強いそうだ。 持つものと持たざるものの差、という奴なのかもしれない。 この場合、その図式は俺と目の前の少年にも当てはまっているようだ。

「シュウ!! 先天的チートになんか負けるな!!」

「がんばって、シュウ君!!」

 俺へのブーイングこそ無いが、道場内ではシュウコールが巻き起こる。 役々俺の士気が下がっていくのはお約束なのだろうか? ここはアウェイだ。 間違いない。

「なるほど、コンテがお前を欲しがるわけだぜ」

「いや、多分それは知らなかったはずだぞ。 俺はあの子にそんな事実見せてないから」

「はぁ?」

「多分、欲しかったのは情報だろ。 百世界まで切り開いた奴と一緒に色々と見てるからな」

 レアドロップの話しもした。 嘘か本当かはともかくとして、事実なら使えるとでも思ったのだろう。 後は、戦力としての俺か。 チラリと、視線を向けてみるとコンテから投げキッスが飛んできた。 瞬間、少年たちの眼に殺意の光が灯りはじめる。

「シュウやっちまえ!!」

「絶対に生きて返すなよ!!」

 俺は戦いが終った後、生きて帰れるのだろうか? 何かするたびに悪者にされている気がするのだ。 さっさと終らせるた方がいいかもしれない。 長引かせれば、何を拍子に連中を怒らせてしまうかがわからない。

「めんどうくさいなぁ」

 ボヤキながら、左手の先にブラストバレットを作成。 ついでに軽く煽っておくことにする。  

「おい、さっきはそっちからだったからこっちから行くぞ。 ああ、それともお前から来るか? どっちにしろこれで終らせるからよ」

「はっ、やってみろよ。 できるもんならな!!」

 ちょっとした挑発だったが、舐められているということが我慢できなかったらしく、再びジャベリンを展開して構える。 ギルドを率いているプライドもあるのだろう。 俺の攻撃など、防ぎきってやるぞと闘志を燃やしている。 真っ直ぐなその視線は、怒りには燃えて居ても純粋だ。 穢れなど知らない、そういうところが若さなのだろう。 これは、ただの心理的な罠だというのに。

 相手に先手はやるのはいいが、決めに掛かってくると決めた敵は別である。 戦いにルールはない。 決闘上のルールというのは決めたが、彼は俺に対して”全力”ではなかったし、舐めていた部分がある。 だというのに、こっちはある程度相手の底を理解した上で”潰す”気で行く。 向こうは、俺の好きにさせてくれるだろう。 防ぐことに傾倒し、その後での反撃を狙うのならば”反撃できないようにすればよい”。 そのために参考となる情報は既にある。 そう、彼はマジックプログラマーというところで目をむいた。 他の連中もそうだが、こいつらは一般人の”プレイヤー”なのだ。 連中の多くが相手をしたのはNPCで、魔法はほとんど店での購入品。 魔法を弄るということを知らないのなら、アレへの対策などしていないだろう。

「んじゃ行くぞ。 精々、がんばれ」

 左手を振り下ろし、足元にブラストバレットを炸裂させる。 舞い上がるは粉塵。 その煙に紛れて、俺は姿を光学的に眩ませる。 数秒も掛からない。 これは、もって俺が得意とした一見者制圧戦術だ。

「なにを……っ――」

 戸惑いの声を上げるシュウ。 その眼前には、煙を突っ切って走り寄る二人の俺の姿がある。

「片方は幻影か、せこい手を使う」

 一瞬悩む素振りを見せるも、本体がどちらか分かっていないらしく先に近づいた右側の俺を突きかかる。 ジャベリンは容易く俺を貫通し、幻影を弾き飛ばす。 それに遅れて、左の俺が時間差で刀を振り上げて突撃するもそれもシュウに破壊される。

「どっちも偽物だと!?」 

「はい、残念賞」

 三人目の俺が、姿を現す。 空中から、大上段で刀を振り下ろす。 際どいタイミングだったが、シュウはなんとか杖を頭上に振り上げて攻撃を受け止める。 だが、その瞬間幻影が閃光と爆音を上げて自壊する。 幻影のスタングレネード。 音と光の感覚殺しが、シュウに対して牙をむく。

「く……あ……」

 その手から、ジャベリンを展開していた杖が零れ落ちる。 気絶して倒れないだけでもたいしたものだが、もはやその体は死に体だ。

 ミラージュハイドを解いた俺は、先ほど破裂した幻影の後ろから彼の真正面に現れてブレイドを振るい、バリアジャケットをマジックカッターで破壊。 そのまま返す刀で魔力刃を発生させて無防備な体を切りつける。 ジャケットを失っていた体には、防御力など存在しない。 その一撃で、彼の意識を完全に断ち切っていく。 少年の体が力を失って地面に倒れ、決闘結界が解除される。 勝負はもう、ついていた。

「はい、一丁上がり」

 ブレイドを仕舞い、魔力回復のポーションを頭から被ると倒れた彼に背を向けて出入り口の方へと向かっていく。 観客は、呆然としたまま倒れた彼を眺めている。 だが、すぐに彼の元へかけだした少女がいた。 ココアである。

「シュウ君!!」

 泣きそうな顔で駆け寄る彼女が、状態を確かめる。 だが、すぐに命に別状がないと悟ると大きく息を吐き出した。

「ただ非殺傷魔法で攻撃しただけだから、気絶してるだけだぞ。 しばらくすれば目を覚ますだろ」

「そうですか。 しかし、シュウを歯牙にもかけないとは……驚いたな」

「一般人苛めてもなぁ。 さて、それじゃ終ったから帰るぞ。 景品はぶっちゃけいらないが、アンリミテッド攻略の時には手を貸してくれるとありがたいな」

 マサ少年にそれだけ言うと、返事を聞かずに俺は道場を出て行く。 途中、小悪魔が俺に声をかけようとしていたが、シュウの元へと駆け寄る仲間たちの人ごみに飲まれてい近寄れないのを見てこれ幸いと離脱を図る。 十分、これで顔は覚えてもらえたはずだ。 用があれば、顔を出せばいいだろう。 さすがにこれ以上ちょっかいをかけてくることはあるまい。 貸し一という奴だ。

 リーダーを心配する喧騒を背中で聞きながら、俺はギルド基地へと帰還する。 ただ、小悪魔に拳骨をくれてやるのを忘れていたことだけが残念だった。













「お兄さぁぁん、大変だよぉぉ!!」

「うぇ?」

 翌朝、いつもどおり食堂で朝飯を食っていたら血相を変えたライアがやってきた。 気のせいだろうか? 最近、こんな会話をやった気がするのだが。

「どうしたんだ」

「これだよこれ!!」

「なんだよ。 『新聞部』が発行してる新聞じゃないか」

 差し出してくるそれを受け取って、見出しを見る。 なにやら一面にデカデカと書かれている記事がある。 何かの特集なのだろう。 随分な扱いなのが目に見えて分かる。

 この新聞は情報発信系集団『新聞部』が、MBO内であった様々なこと、新しいクエスト、事件などを題材に発行しているものである。 ネットの掲示板や攻略サイトなどと違って有名プレイヤーのゴシップなど、話題性のあるネタを記事にしてプレイヤーを楽しませている。 俺は購読してはいないが、ライアはマメに入手して胡散臭い情報源として活用していた。

「えーと、なになに。  伝説の攻略チームの一人と思われる男、攻略生徒会のリーダーに決闘で圧勝……伝説の力の一旦を見せつけただぁ!?」

「新聞部は見ていた!! だってさ。 スクリーンショット機能は肖像権の侵害の恐れがあるって理由でこのゲームにはないけど、似顔絵と一緒にお兄さんの特徴がバッチし書いてるあったよ。 ていうか、決闘って何なの? 昨日はちょっと遊んでくるって夕方出て行ってたけど、それが原因なの?」

「あー、今後に備えて先行投資でもしておこうかと思ってやったんだが……」

「へぇぇ、これでまた当分デバイス屋は閉店だね。 それどころかお兄さんまたしばらく外に出られなくなっちゃうよ」

「うわぁーい。 あの餓鬼共本当に碌なことしやがらねぇー」

 箸を折れそうなほどに握り締めながら、込みあがってくる怒りの矛先を模索する。 しかし、当然のようにそんな都合の良いものは存在しない。

「それと、この最後のどういうことなのかな!! かな!!」

「最後?」

 記事を読み進める。 最後に、生徒会の一人の少女を引き抜くための勝負だったとか書かれている。 なんでも、伝説のチームの男はその少女を一目で気に入り、自分の手元に置こうと画策したとかしないとか。 ……ざけんな。 

「店に連れ込んだ疑いもとか怪しく書かれてあるんだけど」

「事実無根だ。 店には向こうが勝手に入ってきた。 後な、面白いとは思ったし、引き入れたら大手ギルドとの繋がりができるかなぁとは思ってはいたけど、執着した覚えはない!! しかもその子はこの前ネットで俺の風評を操作してた奴だぞ!!」

「ジトー」

 何故か、白い目で見上げられる。 疑いの眼差し、という奴だ。 俺は彼女に新聞を押し付けると、それ以上の弁明はせずに飯と戦うことにする。 今日は定食な気分なのだ。 焼き鮭とトン汁が俺を待っている。 これから行われる白米との激しい戦いを思えば、嫌なことなど忘れるに限る。

「お兄さん、話は終わってないよ!! 結局勝負には勝ったんでしょ。 もしかしてその子をギルドに入れるつもりなの?」

「彼女は攻略生徒会の一員だぞ。 どうせ入らないって」

「本当?」

「ふーむ、仮に入れるとしたら嫌か」

「嫌ってことはないけど、せめて相談してほしいよ。 ギルド長は私なんだからねっ!!」

「そう、だな。 その点に関していえば悪かったよ。 今度からは絶対に相談する」

「約束だよ!!」

「おう」

 ギルド、マジカルフェレット団の活動目標はこのゲームからの脱出だ。 そのためとはいえ、さすがに先走りすぎていた感はある。 それは反省しなければならないことだ。 しかも団員は彼女と俺しかいないのだ。 である以上は、相談してしかるべきことだった。

「それじゃ、お兄さんにしっかりとお灸を据えたところで、私はそろそろ行くね」

「そういえば、最近ライアは何をしてるんだっけか」

 AAまでのダンジョンは網羅したと聞いているし、単独でできることは大分限られていると思うのだが。

「AAまでのクエスト情報でもやっつけようかなぁーて思って。 ほら、怪しいのをやってみたりとかね」

「クエスト系か……ん、気をつけてな」

「それじゃ行ってきまーす!!」

 相変わらず元気が良い。 一時期ふさぎ込んでいた時期もあったが、持ち前の前向きさは変わらないようだ。 キールさんがいればもっと落ち着いていたのかもしれないが、生憎と俺はあの人とは違う。 ライアと常に一緒にいる、なんてことはしない。 もしかしたら、俺も誰かのハッキングで先に死ぬかもしれない。 だから、彼女は一人でも生きていけるようになってもらわなければならない。 まぁ、あの様子だと大丈夫だろう。 などと思いつつも、食事を続けているとなにやらドタバタと駆け寄ってくる音がした。

「お兄さん!!」

「なんだ忘れ物か」 

「違うよ。 攻略生徒会の人たちがね、うちのギルドの傘下に入りたいって大勢入り口の門のところで待ってるんだよ!!」
 
「ぶふっ――」

 待て、なぜそういう話になってるんだ。 確かに、アンリミテッド攻略に手を貸して欲しいみたいなことは言ったが、俺たちの下に付けなんて一言も言ってないぞ。 まさか、また子悪魔の暗躍か!? そうなのか!!

「えほっ、えほっ。 くそ、寝耳に水な話だぞ」

「なんでも良いからとにかく来てっ。 門の外で大勢でたむろしてるせいで、怖くて外に出らんないよぉ」

 食事もそこそこに席を立つと、ライアとともに外に向かう。 すると、確かに昨日の連中が門の前でたむろっていた。 通行の邪魔どころの話ではない。 フェレット一匹外に出られないといったような状態だ。 アイドルの出待ちじゃあないんだぞ。

「おっはよー、ハーヴェイさん」

「「「「おはようございます!!」」」」

 小悪魔が出てきてあきれ果てている俺に挨拶し、それにやや遅れて少年少女たちが挨拶してくる。 すさまじい音量だ。 耳が変になるかと思った。 思わず顔をしかめる俺は、とりあえず最前列に立っている彼らの代表格四人に声をかける。

「おい、朝っぱらから一体これはなんなんだよ」

「コンテ一人だけ、なんてケチ臭いことはいわねぇ。 俺ら全員まとめてお前のギルドに入ってやるよ腰抜ゲフッ。 ……”ハーヴェイさん”」

 コンテに肘打ちされて、シュウが言い直す。

 しかし、それにしてもどう反応したらいいのだろうか。

「どうしてそういう結論になったのかが分からん。 誰か説明しろ」

「では、僕から」

 マサ少年だ。

「昨日、貴方はアンリミテッド攻略の時には手伝って欲しいと言いましたよね?」

「ああ、確かに言ったな」

 しかし、それは大分先の話でその時が来たら、という話である。 明日から協力しろ、なんてことを言った覚えは無い。

「貴方は攻略できないと言っていたけれど、諦めてはいないということが分かりましたので、だったら、早い段階で協力関係を結んでおいた方が良いという話になったんですよ」

「それは確かに、そのほうが効率的だとは思う。 だが、昨日の今日で傘下に入りたいっていうのはどうなんだ。 協力関係を結びたいっていうだけならまだ分かるが……」

「後のことを考えればその方が都合がよいからですよ」

「ほう?」

 メガネの位置をわざとらしく人差し指で上げるマサ少年。 その思わせぶりな態度は中々に堂に入っていた。 俺は、目を細めて先の言葉を待つことにする。

「伝説の攻略チームが、アンリミテッド攻略のために仲間を集いながら活動をしている。 その一環としてまず手始めに、僕たち攻略生徒会を傘下にした。 ということにしておけば、今後戦力を集めやすくなるはずです。 ブラッドソードが居ない今、質ではなく貴方は量での攻略を視野に入れていると思います。 実際にはただの協力関係でいいんですが、その方がハッタリが効いてて良いでしょう」

 あの頃の名声も利用したい、ということなのだろう。 目立ちすぎてしまうことだけが懸念だが、使えるものは使っておいた方が確かに良い。 ただ、失敗したらどうなるかは考えたくない。 上に立つということは、責任を負うということだ。 伝説のチームで売るなら、俺だけでなくライアにも何がしかの影響が考えられる。 それは到底看過できることではない。 ならば、答えは決まっている。

「断る」

「なっ!!」

「そっちが下に付く必要はない。 協力関係だけで十分なんだ。 俺たちはゲームを攻略し、リアルに帰りたいという目的のために活動する、言うなれば同じ志を持った仲間、同志だ。 だからそこに上だの下だの面倒くさいことは持ち込む必要はない」

「しかし、それでは……」

「そもそも伝説はブラッドソードが死んだときに一緒に死んだ。 だから、俺たちには牽引するための実績なんてない。 俺たちは”ブラッドソード”じゃあないから、過度に期待されても困る。 それに、俺にはあいつの代替はできないからな」

 あいつの伝説は終わっているのだ。 居ない奴の名声を利用しても、何れは破綻するに違いない。 だが、プレイヤーたちの最終目標である「攻略」を掲げたただの集団ならば、伝説の代替として十分に機能するはずだ。

 プレイヤーが希求する脱出のための集団。 それを忌避するプレイヤーは、果たしてどれだけいるだろうか? 目的は明瞭で、それに挑む価値を見出せるものには十分にいるはずだ。 でなければ、最前線で戦う必要などどこにもない。 ならば、それで十分だ……という方向に俺は必死で誘導する。 誰が責任者になどなるものか。 

「あいつは強すぎたから、一人でよかった。 だが、俺は違う。 一人じゃあ攻略できないから人手が欲しい”腰抜け”だ。 そしてそれはきっと、他のプレイヤーも同じなはずだ。 だから、みんなギルドを作りチームを組んでる。 最前線も、中ランク層も低ランク層の奴らもみんな同じはずだ。 そこに下位も上位も存在しない。 必要ない。 俺たちはこのゲームから脱出するために集まったただのプレイヤー集団。 それで良い」

「建前としてはそれでもいいでしょう。 しかし誰かが上に立たなければ、まとまるものもまとまらないです。 僕たちにはそれは無理で、他の上位ギルドだってそう。 仮に今の最前線のギルドの誰かが上に立ったとしたら、確実にどのギルドも自分たちがもっとも安全な場所に立とうとするはずです。 誰だって死にたくない。 しかし、貴方たちは背負うものが少ない。 人数が二人という極めて異例な少人数ギルドだ。 だからこそ、公平に戦力を分配することができる」

 おお、食い下がってくるなマサ少年。 

「なに、そういうのに最も相応しいギルドがあるじゃあないか」

「馬鹿な、貴方たち以上に適格なギルドなんてありませんよ」

「あるだろう。 素人ではなくて、”軍”としてもっとも魔法戦闘が得意なあの連中だよ。 ”分からない”か、マサ少年」

 ニヤリと、思わせぶりに振ってみる。 マサ少年は、一瞬絶句したような顔をしつつも俺の言っているその連中に対して考えはじめる。 いや、マサ少年だけではない。 話を聞いていた少年少女、そして何よりも最もここで熱い男までもしばし考え、そして揃ってありえないとばかりにヒソヒソと話し始めた。

「冗談だろ腰……ぐげっ。 つ、ハーヴェイさん」

「冗談? 俺は本気だ」

「それだけは笑えないですよ」

「そ、そうですよ。 あの人たち駄目です。 無理ですよぉ……」

 シュウが迎撃され、マサ少年顔を引きつらせ、最後の良心であるココアまでもが否定的な意見を出してくる。

「まぁまぁ、みんな落ち着いてってば。 で、ハーヴェイさん。 あいつらを指名するからには理由があるんだよねぇ? 私たちが納得できる理由がぁ」

「もちろんだ」

 ああ、押し付けるに足る理由は事欠かない。 何せ連中はその道のプロである。 故に、素人やら一般人、そしてただのデバイスマイスターよりも戦略、戦術に通じている。 

「そもそも、お前らは大して評価していないがあの連中は魔法戦闘のエキスパートで、ここの攻略と治安維持のために派遣されている部隊だ。 数は少々少なく思えるし、最前線でも目立つ活躍はあまり聞こえない。 だが、トップ10ギルドの中で最前線を最低人数で戦っているのは彼らだ。 この意味は分かるな?」

「一般プレイヤーと違って個々人の技量が高い、ということですか」

「それだけじゃあない。 専門の教育を受けているから魔法戦闘のイロハを熟知している。 ここはゲームの世界だが、その根幹となったシステムには魔導師の戦闘シミュレーションシステムが流用されているのは周知の事実。 なら、それで訓練してる経験も豊富だ。 しかも、最前線攻略用に選抜された特別な連中が攻略部隊に居るわけだ。 戦略、戦術にも詳しいはずだから、俺たちを最も”有効”に使えるだろう。 断言するが、彼ら以上に適格な指導者はいないぞ。 だから、『時空管理局』が最適なんだよ」

「「「「……」」」」

 押し付ける気満々で高説を垂れてみる。 俺もリアルでは管理局のデバイスマイスターではあるものの、プライベートでゲームしてて巻き込まれた被害者なので、今は一般人だ。 命令も受けてないしな。

「なるほど……言いたいことは理解できます。 しかし、彼らはその、プレイヤーに受けが悪いですよ。 目立った実績も聞こえてきませんし……」

 リアルでは特に何も手が打てず、ゲーム内に送り込んできた部隊は治安維持優先のために、特別攻略隊以外は高ランク前後ともっぱらの噂だ。 だが、治安維持をしながらそこまで黙々と任務をこなす事がどれだけ大変なのかは想像に難くない。 それに、他にもプレイヤーのために様々な活動をしていることを忘れてはならない。

 例えば、教導。 これにより、戦うことを放棄していたプレイヤーが戦えるプレイヤーになっている。 地味な効果ではあるものの、一人でもこの世界で生きていけるものたちを増やしているという実績は十分に価値あるものである。 治安維持と戦力増強、そして攻略のために組織した特殊部隊。 地味にやることはやっている。 が、活動が地味すぎて上のプレイヤーは自分たちの方が有用だと勘違いしている。 まぁ、中には悪いことをする奴も居て、そういうところで突付かれまくって評価を落としている残念さもあるが、何よりも彼らには本局と連絡を取り合ってより優秀な戦略家、戦術家、教導官たちとの窓口を持っている。 彼らを有効に活用すれば、プレイヤーは今よりも更に強くなれるはずなのだ。

 戦力が底上げされれば、SS階層を突破するための起爆剤になる可能性もある。 攻略生徒会連中は一般の学生で素人が大半だと思われる。 しかし、レベルだけは十分にあり数も多い。 そして、ギルド名から察するに彼らは学生の集団だ。 頭は柔らかく、何でも吸収することのできる年齢。 技量を高めるための成長率は、十分なものを持っていると推測される。

「実績か。 俺からすれば、よくやってると思うけどな。 まぁ、それは手を打てばよいだけのことだ。 それには、お前たちの協力が必須だが」

「僕たちに、彼らの傘下に入って戦えと?」

「それはまだ早いだろ。 多分、お前らは足を引っ張る。 分かるだろう、専門の訓練をされた者と訓練していない者の差ぐらいは」

「……それは、確かに」

 サバイバルゲームの民間チームが、軍人たちと実銃もってやりあったらそりゃあ勝てるわけがない。 いくら長時間独学で練習していたとしても、勝てるわけがない。 勝てるなら軍人はいらない。 これはそういう話なのだ。 

「実際に見たことはないが、お前たちは一般人プレイヤーとして強い方なんだと思う。 生き残ってくるためにも、色々頭使って戦ったりしてきただろう。 でも、それも限界に来て今伸び悩んでいる、とは思わないか?」

 伸び悩んでいる、という言葉に連中が揃って顔を顰める。 限界だ、なんだと話していたぐらいだ。 その憂いはあったのだろう。 だから、その現状を打破するために餌を放り込む。

「ところで、知っているか。 時空管理局が定期的に低ランク階層でプレイヤーを教導しているって話を」

「それぐらいならさすがに。 ……まさか!?」

「そう、そのまさかだよマサ少年。 お前ら、全員彼らの教導を受けて来い。 そして今の上位ギルド最強『リアルメイジ』に並んで見せろ。 そしてその上で、それが時空管理局の教導を受けたおかげだということを吹聴しろ。 それだけで、十分に彼らの実績になる。 後は話が簡単だ。 上位ギルドの前評判を覆せる教導を受けられると知れば、興味があるものは受けていく。 そして、強くなれたと実感するものが増えれば、口コミで更に広がっていくだろう。 ならプレイヤーは彼らの実績を認めざるを得なくなる。 戦力が底上げされれば百世界攻略にも有利に働く。 そのとき、自分たちを強くしてくれた彼らがトップに立っても誰も文句は言わないだろ」

「本当に、本当にそんなことができると?」

「やってみなければわからないが、正規の訓練を受けて弱くなるってのは考えられない。 どうせ限界を感じてたんだろ? なら、一皮向けるためにもやってみればいい。 少しでも強くなりたいのならな。 レベルアップだけが強くなるための道じゃあない。 少なくともこのゲームは体感系だ。 プレイヤー自身の技量とレベルの二つがなければ強者とはいえない。 上位ギルドなんだから、お前らはレベルが高い。 なら、後はしっかりと技量を磨けば十分に化けられるはずだ。 時間はかかるかもしれないが、やってみる価値はあると思うぜ? 何事も基礎を疎かにしてはいかん。 それに、だ」

 一旦言葉を切って、連中を見渡す。 あまり言いたくはなかったが、ここまで吹いたのだから、駄目押しをしてやろう。 

「実は俺、時空管理局本局のデバイスマイスターでな。 魔導師資格も一応は持っている。 陸士訓練学校の出だ」

「なんだと!?」

「嘘っ!?」

 突然の暴露である。 これによって、真実味が増える効果を期待する。 だってなぁ。 デバイスマイスターは裏方なのだ。 その裏方が、ギルドのトップ張ってる奴を倒したのだ。 なら、本職の武装局員はどうなる。 数段上だと連想しないか?

「その俺が言うんだから、多分間違いない」

 ざわめきが広がっていく。 期待と不安が入り混じったような、そんな感じだ。 ふむ。 もう一押し、いるか? 

「確かお前、シュウだったな」

「お、おう」

 突然名前を呼ばれ、レッドツンツンが頷く。 

「荒削りだったが、見込みがある動きだったぞ。 お前なら、精進すれば俺よりも強くなれるかもしれん。 やってみたらどうだ?」

「ほ、本当か!!」

「ああ」

 がんばれば、この世界でなら強くなれる。 まぁ、時間はかかるだろうけど。 さて、次はマサ少年だな。 シュウと彼を落とせば手っ取り早い。

「そこのマサ少年は見たところ頭脳派のようだが、知識の引き出しを増やすという意味でも無駄にはならないと思うぞ。 それに、戦術やら戦略を学べば今よりももっと効率的に戦えるはずだ。 君が『攻略生徒会』の軍師になれ」

「僕が軍師……ですか」

「そうだ。 管理局で足りないと思う部分を鍛えて来い。 損はないはずだ」

 シュウはどうみても考えるよりも先に動くタイプだ。 押さえ役の彼には、大局を見つつ彼をコントロールしてもらわなければ。 それにもう、決めている節もある。 理性的にメリットを解けば、彼はわかる。 頭がいいなら尚更に。

 マサ少年がチラリと、シュウ少年に目配せする。 アイコンタクト。 目だけではなく、念話もしているだろう。 だが、決めたな?

「分かりました。 その提案を受け入れます」

「強くなってやるぜ。 アンタよりもな」

「ああ、期待してるぜ”同志”シュウ」

 いいながら、右手を差し出す。 一瞬、キョトンとしたシュウは、しかし意を察して俺の右手を力強く握り締める。 純粋な少年の信頼の眼差し。 決闘を終え、目的を共有することになった男たちの、お約束という奴だ。 俺自身は今、どういう眼をしているかは分からないが、きっと感化されていることだろう。 しかし、良いもんだな。 分かり合えるというのは。 これが、若さか。 可能性は無限大だな。

「あーあ。 男ってほんと単純だよねぇ。 そんなに都合よくいくなんて思えないんだけどなぁ」

「で、でも仲良くできるならその方がいいよぉ」

 女性陣はそうでもないらしい。 何故だ!!








 その後、適当に彼らとフレンド登録をした俺は、デバイス屋の中で剥れているライアのご機嫌取りをしていた。

「悪かったよ、だから機嫌を直してくれライア」

 フェレット姿で俺の左肩に乗り、ペチペチと無言で肉球パンチを繰り出してくるライア。 ひたすらに無言のその攻めに、俺は平謝りするばかりだ。

「勝手に色々決めたのは悪かったけど、しょうがないだろ。 な?」

「少し前に相談するって約束してた」

「それは、そうなんだが……」

 話の中で置いてきぼりにされていたのでご立腹だ。 いやまぁ、ギルド長を無視して交渉しあまつさえ協力関係を結んだ。 越権行為も甚だしい事態である。

「約束してたもん」

 ツーン、である。 

「約束破ってごめんな」

 神妙に謝って誠意を見せる。 同時に、宥めるように手を伸ばして背中を撫でる。 カグヤがやっているのを見て俺も覚えたのだが、どうにもフェレット状態になると撫でられるのに弱くなるらしい。 怒り心頭だったのに、ヘニャーっとなる。 だが、撫でるのを止めるとハッと正気を取り戻しキリッとした視線がご復活なされる。 どうやら、まだ足りないようだ。 ということで連続攻撃である。 ヘニャ、キリッ、ヘニャ、キリッ、ヘニャ、ヘニャ。 はっ、勝機!!

「どうだろう、そろそろ許してくれまいかギルド長」

「……反省した?」

「ああ。 反省してるぞ」

「じゃ、今日はゆーっくりとお兄さんに相手しもらうからね!!」

「ははぁ、仰せのままに」

 どうやら、クエスト探索は打ち切りのようだ。 まぁ、確かに朝が異様に騒がしかったしもうそんな気は起きまい。 肩から飛び降りて膝の上に降りると、ライアは尻尾を丸めて丸くなる。 その背中を撫でながら、俺も今日はボケーっとすることにした。  

(はてさて、これから少し外部が騒がしくなるかもしれないが……なんとかなるかな)

 攻略生徒会の連中は今日はギルド基地に帰り、色々と準備をしてから明日には管理局の教導を受けに行くそうだ。 大手ギルドで、プレイヤー数もそこそこ居るあの連中がごっそりと教導を受けに入ったらギルド『時空管理局』の教導員はどうなるだろうか? うん、まず間違いなく困るだろうな。 だが、知らん。 どっちにしろ管理局も攻略するには高レベルプレイヤー<戦力>が足りないということは分かっているはずで、レベルの成長が百でストップする現状を知っていればおのずと高い質と量を保持するために投資するだろう。 できれば、一時的に特別攻略部隊を教導に回すという手を打って欲しい。 本局やらとも掛け合って、話を大きくしてくれれば最高だ。
 
 攻略の熱を加速させる一手としては、現状ではこれ以上の策が俺にはない。 基本的に一人ではクリアできない。 一ギルドでも厳しい。 だったら、もてるだけの全部をつぎ込むしか道はない。 後は周りをどれだけ乗せられるか、だ。 まぁ、大分まだ先のことになりそうではあるけれど。

「お兄さん」

「ん?」

「アンリミテッドには、絶対に私も行くからね。 置いていっちゃやだよ」

「……ああ」

 そのときが来るまでどうするかはわからないけれど、ただ、俺は胡散臭い笑みを浮かべて答えるのだった。 それを、彼女がどう思ったかは分からない。 気づいてはいるかもしれない。 だが、それ以上追求することなくライアは静かに眼を閉じた。

 そのまましばらく撫で続けていると、入り口の戸が開く音がした。 条件反射的で『いらっしゃいませー』などと声を出しながら視線を向ける。 すると、何故か小悪魔がそこにいた。

「おじゃましまーす」

「何のようだ」

 きっと俺はそのとき露骨に顔を顰めていただろう。 何故ならば、どうにもまた嫌な予感がしてきたからだ。

「ご挨拶だねぇハーヴェイさん。 私と貴方の仲じゃない」

「どんな仲だ」

「この店の中で押し倒されるぐらいの親密な仲だよぉ」

 驚くべきことに、事実が改ざんされている。 情報の操作はお手の物ということなのだろうか? 俺は呆れてモノが言えない。 だが、待てい。 お前のせいで膝の上にいる彼女が、脚で爪研ぎを始めたんだが。 

「誰だろうな、君の記憶を検閲した大邪神様は。 結局何もしなかっただろ」

「バインドで私を縛ってくれたけどね。 この好きものさんめぇ♪」

 爪研ぎガリガリである。 

「まぁ、終わったことだからどうでもいいけどね。 それで、用件なんだけどね」

 切り替え早っ!! 少しは悪びれろ!!

「なんだよ。 協力関係ではあるが、そもそもお前らは明日のために準備してるんじゃないのかよ」

「うん、皆はそうしてるよ。 でも、私はハーヴェイさんのギルドに入るって約束してたじゃん。 だから、ギルドに入りに来ましたぁ♪」

「帰れ」

「えぇー、私は皆からの連絡役も兼ねてるんだけどなぁ」

「いらないだろ。 フレンド登録してるから、念話で十分のはずだ」

 取り付く島も与えない。 厄介さはもう骨身に染みているのだ。 加えて、膝の上での爪研ぎが役々激しくなってきた。 ジャケットのフィールドがあるとはいえ、プレッシャーをビンビン感じる。

「駄目だよ。 そういう勝負だったはずだよハーヴェイさん。 女に恥をかかせないでよ。 なんなら、この前の続きもしてあげちゃうよ? こう、むちゅーっと」

「てやっ」

「ひゃっ!」

 それは、膝上から跳躍したフェレット娘の必殺肉球パンチによる奇襲だった。 コンテの頬がわずかに凹む程の痛烈(?)な打撃である。 さすがに、俺もびっくりだ。 けれど、俺の驚きなど彼女には関係ない。 アグレッシブに定評があるそのフェレットの攻撃はとまらない。 一撃で怯んだコンテに容赦なく追撃の一撃をお見舞い――しようとして、コンテに両手で捕まえられた。  

「な、なにこの可愛いの。 え、このゲームってペットなんて飼えたっけ!?」

「フシャーッ!!」

 フェレットというよりは猫っぽい叫び声をあげながら、ライアがジタバタと暴れる。 

「わわっとなんかすんごく元気だよこの子」

「まぁ、確かに元気さには定評があるな」

 主に保護者をしていた人から。

「この、放しなさいよぉ!!」

「うわ、喋った!?」

 さすがに小悪魔も人語を解するとは思わなかったらしく、驚愕で手を放す。 虚空へと開放されたフェレットはというと、魔法で器用に飛翔して俺の肩へと着地。 まるで縄張りを示す犬のように吠えてコンテを威嚇する。 

「駄目だよお兄さん。 襟首女も最悪だけど、この娘は”もっと性質が悪い”よ!! 私の女の勘がそう言ってるの!! だからさっさと追い返して。 今日はもうギルド長命令で店仕舞い!! はい、復唱!!」

「アイマム。 ギルド長命令で店仕舞いであります!!」

「ちょ、え? ギルド長って、その子が?」

「コンテ、悲しいけど我がギルド『マジカルフェレット団』においてはギルド長命令は絶対なのだ。 さようなら、また会う日まで」

 もって、ギルド長の命令を無視した挙句に黙らせることができた天敵はもういない。 だから、彼女の覇道を止められるものなどいないのだ。 そうだ。 別にこの勢いでギルド入りを有耶無耶にしてしまおうなどとは思っていない。 俺はギルド長の命令を忠実に守ろうとしているだけなのだ。 我が忠誠心は永久なれば!! それ、店員スキルをポチッとな。

「ちょ、え? 本気!?」

「本気だ」

 操作は一瞬。 コンテの姿が店の中から強引に外へ転移させられ消えてしまう。 

「よっし、ナイスお兄さん!! さて、お邪魔虫もいなくなったところで温泉にでも……」

「冗談じゃないよぅ!!」

「おおっ、閉店させる前に入ってきやがった。 さすがに学習能力半端ないな」

「そういう問題じゃない!! ちょっと待ってよ、ハーヴェイさんってギルドの代表じゃないの!?」

「全然違う。 俺、下っ端。 昔はブラッドソードが副長だったけど、居なくなったから今は俺が副長だ。 まぁ、でも二人しかいないから超下っ端だな。 下っ端と書いて下僕と読む、みたいな仲だ」

「待って、じゃあそれなのに私たちのギルドと交渉してたの!?」

「ああ。 でも大した問題じゃあない。 勝手に決めたことは怒られはしたが、反故にするようには言われてないからな。 協力関係を結んだままで構わないそうだぞ」

「……決めた」

「決めたって、何をだ」

「私絶対にここ入る!! 私もその子を可愛がりたいもん!!」

 コンテが魔法を展開し、残像を残すような速度で駆けて来る。 言わずと知れた高速移動魔法<クイックムーブ>だ。 その速度を利用し、一瞬で距離を詰めると肩の上に居るライアを捕獲しようと手を伸ばす。 だが――、

「はずした!?」

「甘い!! スーパーフェレットキィィック!!」 

 跳躍してコンテの魔手を避けると同時に、飛行魔法で斜め下に急降下。 コンテの額へと壮絶<?>な蹴りを食らわしてまた俺の頭の上に着地する。 

「ううっ、どうして逃げるのぉ。 ただ撫でたいだけなのにぃ」

「私の毛並みを触って良いのは、お兄さんだけだからだよ!!」

 両手を組み、ふんぞり返りながらそんなことをライアはのたまう。 いつそんなルールができたのかは俺にはわからないが、神聖不可侵なるギルド長が言うならそうなのだろう。 まぁ、確かに知らない人に触られたくはないという気持ちは分かる。 いい気持ちはしないだろうし。

「えぇー、そんなこと言わずにさぁ。 ちょっとぐらい良いじゃない。 ね?」

「いーっだ!!」

「あ、待ってよ!! せめて名前を教えてよぉ」

 ライアはそういうとゆっくりと手を伸ばしてくるコンテの頭上を飛び越えて、店の外へと走り去る。 その後をコンテが追っていくのを眺めながら、俺は両手を上げつつため息を吐いた。 

「なんだろうな。 このモヤっとした空気」

 お腹が空くか暗くなる前には戻ってくるだろうから心配はしないが、俺はなんとも言えない微妙な空気を一人味わう。 なんだろう、この胸の中に去来するえもしれぬ感覚は。 予感、だろうか。

「まさかとは思うが、ギルドメンバー増えないよな”カグヤ”」

 未来など分からない。 ただ、どうにもこの先面倒くさくなるような、そんな気がして、俺はなとなく居なくなったあいつに尋ねてみる。 無論、返事など返ってくるわけがないけれど、何故か『好きにすればいいんじゃない?』などという声が聞こえたような気がした。

「さて、どうするかな。 とりあえず、仕事でもしてるか」

 誰が来るかも知れないデバイス屋で頬杖をつきながら、そうして俺はただ口元を歪めた。 明日から、無駄に忙しくなりそうだと苦笑して。








あとがき
書いてみたけど色々と無理やりな感じ
まぁ、所詮息抜きかなw
コメント
安定の最前線鍛冶屋(エギル)ポジ
かとおもったら女王様脱落してるじゃないですかやだー
あのルールで嫌な予感はしてたけどカナシス
【2011/11/12 00:16】 | |・ω・) #LkZag.iM | [edit]
昨日の感想の後続き読んだんですけどまず冒頭で絶望しました
確かにこの設定においてあまりにチートの様なスキルだったとはいえ
まさかあんなにも早く退場してしまうなんて……
しかも途中の描写とか全部ないじゃないですか!
なんという俺得SSとか思ってたのに速攻で気持ちが折れました
とはいえ話自体はおもしろいのでこちらも続きの方待ってますね!
【2011/11/14 14:14】 | ハルト #B7q/.fmY | [edit]
リアルチートさんは管理人に排除されてしまったのか……
アルシェさん謹製のプロテクトで再侵入はばまれてるのか、現実側でシュナイゼルやらスカさんやら相手に忙しいのか、まあいいかとスルーなのか先が楽しみです
【2011/11/17 04:48】 | sg #3/2tU3w2 | [edit]
くぅ!カグヤさん退場していたとは!

てか、カグヤ退場はきっとランダムだったからじゃなくてもうすぐクリアしそうだったからスカさんが手を打ったんじゃないかと予想。

しかし、男の友情(かどうかはわからないけど)は女には理解されないものなんだなぁ。

いや、シュウが熱血なだけなのかな?
【2011/12/16 18:04】 | 東方の使者 #X.Av9vec | [edit]
|・ω・)さん、ハルトさん、 sgさん、東方の使者さん コメントありです!

おわぁ、よく見たら全員カグヤ関連のコメントが内包されていますね。
あいつ、人気あるんだなぁw

【2012/08/17 16:43】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
カグヤは排除されて再侵入不可にされてるとしか……
死ぬところが思いつかん。ともかくショック死はせんだろあいつ……
【2012/12/28 04:01】 | コピ #uIMG1zoI | [edit]
コピさん こめありです。

死ぬところが思いつかん

いや、死ぬときは死にますよ。 そうなっても後で再起動するだけですがw
【2013/01/05 14:41】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]












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