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憑依奮闘記3 エピローグ

 2013-04-08
――通称『魔導王』事件。

 秘匿されるべき事件としてしか処理できない前代未聞の歴史的怪事件であり、公表されれば管理世界が転覆するとまで言われているこの事件は、オブザーバーとして次元世界でも有名になった発掘を生業にする考古学の一族を招いての検証が行われた。


 この某一族により、裏付けるような資料が発見され秘匿されていたことが発覚。 既に自治世界連合に一部その資料が渡っているらしいことまでは確認された。今後間違いなく外交で使われるのではないかと見て関係各者が震え上がっていることは置いておくとして、更に問題になるのは被害者だと言い張っている某浮上世界である。

 連中はグラウンドゼロの慰霊祭の最中、虚数空間を突如としてこじ開けて強行浮上。 次元空間に回帰した。 その際、特別ゲストとして招待されていたアリシア・テスタロッサの鎮魂歌の披露の最中にミサイル花火を数億発もぶち込み、管理局の防衛艦隊を震撼させ、慰霊祭に無理やり頼んでもいない華を添えやがった。

 例年よりも金が掛かったイベントの演出として民間人からは評判だったが、そんなものが計画されたことはない。そもそも、アレだけで予算がとんでもない規模になる。

 犯人たちは間違いなく、頭の螺子が緩んでいるを通り越して○○○○な連中だろう。 何せ某デバイスマイスターが根城にしているらしい世界だ。 もはや手の施しようはなく、その凶行は彼女の歌が終わるまで続いた。

 ミサイル花火とは、文字通りミサイルの弾頭に花火を搭載した超長距離花火であり、しかも次元空間でも問題なく作用した。 それをテロや攻撃だと認識した艦隊も多く、打ち落とそうとした艦隊は全てハッキングされ操舵不能に叩き込まれた。

 この時点で、艦隊のブリッジに『ザマァw』『ファックユー』『戦争の続きやるのかゴラ』『くたばれシュナイゼル!』『俺、惨状!』『伝説に不可能はない!』など、聞くに堪えない罵詈雑言やら自己主張に似た何かなどが多数モニターに流されたような気がしたが、艦に備え付けられている監視映像には確かな記録は”何故か”残っていないため、艦隊レベルでの集団催眠か何かではないかという説がある。 無論、艦のシステムがハッキングされたという証拠は残っておらず、ウィルスも発見できていない。

 個人的見解を言わせて貰えば、証拠こそないが明らかに喧嘩を売ってきていると思うレベルの嫌がらせなのだが、超法規的措置により戒厳令が敷かれているせいで全て無かったことにされた。 まことに遺憾だ。付近では虚数空間が復帰したせいでセンサーの誤認ではないかという訳の分からない説もある。 事故調査委員会なんて勿論、発足されることさえなかった。

――閑話休題。

 とにかくそのわけの分からない勢力は、コンサートが終わった瞬間にオープンチャンネルで歌姫の美声を褒め称え、アンコールを行い、それが叶わないと知るや次元世界に自らをアルハ何某だと表明。 自治世界連合に特別枠で加盟すると宣言。 『次元空間を適当に彷徨うから、勉強したい奴は勝手に来いや。でも管理世界人民はスカウトした奴を除く(意訳)』などとほざいた挙句にどこかへと航行していった。

 勢力と表記しているが、アレはもう鋼鉄で武装した惑星であり、名状しがたい何かだ。 アレが何なのか、混乱を収めるためにも管理世界では調査中だとしているが、自治世界連合は堂々とアルハザードだといって憚らない。 おかげで興味本位の科学者たちが次元世界籍を移そうと躍起になっているせいで各地で混乱が相次いでいるという。

 もはや、この世界は病んでいる。 頭痛を通り越して正気かどうか疑いたくなるほどの混乱に見舞われているといっても過言ではない。 連日TVニュースでも報じられており、自治世界連合に支部を持つ局がこぞってその謎を追求している。 止めてくれ、真実の炎に焼かれて自爆するだけだぞ!

 某教会騎士の預言者は連日青い顔をしながら関係各所と共に信徒たちの暴走に頭を悩ませ、僕たちは日に日に高まる民間からの圧力と資金援助の打ち切りの話しに戦々恐々しながら日々の職務に励んでいる。

 ついでに自作自演が発覚した事件が多数に上り、違う意味でも追い詰められている。 一体なんなんだ。 こんな職場じゃなかったのに!!





「――という報告書を書いている夢を見ました。 どう思います? グレアム提督」

「夢にしても嫌にリアリティがあるね。 実にユニークな夢だ。 はっはっは――」

 黒髪の青年提督が、報告書の山から顔を出しながら上司に言った。 上司は朗らかにいつもどおりに余裕を持って笑うだけだった。

 既に魔導王事件から四ヶ月経っているが、未だに報告書の山はなくならない。 月の端末に残っていたデータはレグザス・レコードと名づけられた探偵の活動記事とその資料だけ。 他のデータは全てデリートされていた。

 専門家がデータの復旧を試みるも、完全に上から別データが上書きされてから再度消されたようだとして復旧は不可能ということだった。 結局、一連の事件の謎は敵勢力の詳細も含めて全て闇の中へと消えたことになる。

 古代の叡智との関係性、自称シュナイゼルと名乗ったゴルド・クラウンとソードダンサーやクライドたちに関係するデータ含めてそれら全てはトップシークレットとされ、封印された。 ただし、コードネーム『魔導王』だけは踏襲され、この事件をさして魔導王事件と呼ばれることになっていた。

「とはいえ、君の夢といくつか似たような出来事はあたったわけだが、局としての真相は闇の中なのは変わらないから困ったものだよ」

「出てこないものはでてきませんからねぇ。 某デバイスマイスター野郎が話したことを鵜呑みにするなら、歴史的スキャンダルじゃ済みませんし、とんでもないことですよ」

 結局の所、連中の証拠隠滅がほとんど完璧だったというわけである。 物的証拠としては超魔力を用いた最後の次元戦略魔法の超エネルギーを収集した数々の施設を、グリモアのハッキング跡から洗い出して総点検された結果、追加で第四魔法のプログラムと超魔力変換装置などが発見されたがその程度。 しかも、その二つも完璧であるわけではなく主要部分に人為的な細工が見つかっていた。

 つまりは証拠隠滅だ。 再現するとしても研究を一からしなければならないレベルである。 とはいえ、管理局としてはJSウィルスで流出したAMF対策にと研究するように予算が組まれる予定であるという。

 果たして、それさえも”魔導王”の企みなのかはディーゼルにもグレアムにも分からない。 だが、これもいつか実用化されることになるだろう。 また、第一人者であるプレシア・テスタロッサをオブザーバーとして迎え、研究する案も出たが本人が断ったために研究が更に遅れるだろうという話しがあった。 彼女からすればもう今更の話しなのだろう。 もしかしたらヴァルハラで研究する腹積もりかもしれないがそれは個人の自由である。 局がどうこうする話しではないためしょうがない話しで終わっていた。 

「そういえば、あの奇天烈な世界は今どこをさ迷っているんでしょうか?」

「浮上してから自治世界方面へと消えて以来、行方知れずだよ。 局ではいち早くアレをどうにかしなければならないと議会が紛糾しているようだが、うん。 無理だろうね。 ロストロギアを意味もなくバラ巻かれないことを祈る限りだ。 私たちは相手にもされていないがね」

 結局、アルハザードは浮上した。

 慰霊祭当日に浮上し、次元世界の度肝を抜いて見せた。 おかげで管理世界中で謎の高エネルギーが観測された魔導王事件がニュースから三ヶ月で下火になったが、当日に慰霊祭に参加していたディーゼルにはたまったものではなかった。 事前にクライドから忠告されていたが、各世界の要人や著名人が出席したそれを前にして現場は混乱の渦に巻き込まれたことは記憶に新しい。 虚数空間がグラウンドゼロで発生した頃にはあわや次元災害の再来かとまで言われ、生放送のTV番組などの視聴率が凄まじいものになった。

 その時の報告書も当然、ディーゼルの机に詰まれている。 ただでさえロストロギアによる事件も多いのに、これから更に増えるかもしれないと思えば管理局はいつか人手不足で潰れるのではないかと彼には思えてならなかった。

 激務が更に超が付くほどの激務になった。 笑うに笑えない。 それでいて給料が上がるわけでもなく、嫁からはそんなに家に帰るのが嫌なのかと問われる始末である。さすがに、そろそろ洒落にならない。息子とディスティニーランドへ行く約束を守るためにも、ここいらで上司に物申す時が来たのかもしれない。

「提督、そろそろ休みを――」

「そうだ。 更なる報告書を持ってきたことを忘れていた。 ロッテ――」

「はーい!」

 謎の爆死事件の被害者の共通点についての報告書、無限書庫跡地の報告書、慰安旅行の計画書、月面でのAMF発生装置の解析結果報告書、ソードダンサーと闇の書の主の新しい調査報告書、新ブラックリスト名簿、謎の次元侵食未遂事件調査資料、対AMF戦術教習講座日程資料、聖王教会ウェディング企画局員優待資料……Etc。

 無駄に圧殺する勢いで、報告書が置かれた。 それを見て透明な笑みでニコニコと微笑むのは上司と猫型使い魔である。 ディーゼルは当然のように言葉を失った。

「いやぁ、大変だなぁ若者は」

「大変なのは提督のせいですよね!」

「しょうがないさ。 例の局員に成りすましていたリビングデッド連中が軒並み消えたせいで、ただでさえ激務の管理局員たちの仕事量が増えてしまっているのだからね。 参ったなぁ、本当に。 はっはっは」

「しかも下の階級の人たちより上の重要ポストの人とかがごっそり消えたからねぇ。 ニャハハハ」

 グレアム自身も大変なのだろうが、向うはロッテと二人がかり。 対してディーゼルは一人だ。 部下の方にも仕事は振っているのだが、いかんせん本当に手が足りない。

「どこかからかき集められないんですかね、本当に」

「すぐには無理だよ。 一応、昇進ラッシュで対応してはいるのだが、引継ぎさえもままならずに消えたものだからどこも補佐や部下が仕事を回すだけで精一杯だ。 レティ君たちや人事関係の人たちは調整に四苦八苦しているよ」

 今は本局のどこもかしこで悲鳴しか上がっていない。

「そうだ。 それと、これはまだ調査中なのだが『レグザス・レコード』が、何故かネットに流出しているようだね」

「……局の人間ですか?」

「違うだろうね。 私たちが月を完全に占拠した段階でネットに放出されたようだった。 電子書籍化されており、売り上げは全て管理局に寄付されることになっていたが……局の人間があんなものを流出させる意味などないよ。 しかも、登場人物に『シュナイゼル』とやらが現れるなんて、笑えないジョークだ」

 JSウィルスの暴露文といい、レグザス・レコードといい、全ては結局その名前で繋がっていた。 真実を知るものはおらず、今回も馬鹿馬鹿しい都市伝説として笑い飛ばされることだろう。 魔導王事件との関連性は言うに及ばず、結局は謎は謎のままで闇に消えていく。

 それが気に食わないとディーゼルは思うも、真実が出て来たとしてもどうしようもないと、同じぐらいに思っていた。 今時流行らない陰謀説を、どうして認められるというのだろう? 冷静に考えてみても、胡散臭さは拭えず否定論ばかりが脳内を駆け巡る。

「ゴルド・クラウンの遺体は、確かにプロジェクトF体でした。 しかもJSウィルスでの違法技術が広がるよりも前に完璧に作り上げられた人造生命体。 時系列が一致しない上に、彼のデータは巧妙な偽造データで塗り固められていた。 旧暦の技術なのでしょうが、奴自身は自称シュナイゼルを騙ったお粗末な三流犯罪者でしたが……やりきれませんね。 どこかすっきりしないんですよ。 あの一連の事件は――」

 そして、浮上したアルハザード。 伝説の都、知識の墓場など沢山の異名を持つ彼の世界に、シュナイゼルを追い続けていたというソードダンサー。 極めつけは訳知り顔の”あの男”である。 この非常識三連コンボが彼の常識を真っ向から否定するので、嫌に気持ちが悪かった。

「どこかの次元世界に神様でもいないでしょうか。 全ての答えを知るありがたーい神様がいいですね。 すっきりしたいです本当に――」

「君が神頼みとは世も末だな。 気持ちは分からんでもないがね」

「父様の祖国で伝わってる神様でも紹介してあげたらいいんじゃない? 確か、全知全能なんだよね」

「だが、迷える子羊には試練を与えてくださるありがたい神様でもある。 今のディーゼル君になら、間違いなく更なる試練を与えると思うよ」

「これ以上は勘弁してください」

 本当に勘弁して欲しいと、そう願うディーゼルだった。

「さて、それでは失礼するよ。 長話をしていたいが、私も自分の仕事が終わらないのでね」

「じゃーねー」

 二人が去り、しばらく報告書を見ていたディーゼルだったがふと報告書の山の中から便箋を見つけた。 中を確認すると、思わずディーゼルは立ち上がった。

「そうかやられた! 提督……だから僕にこんなにも仕事を!」
 
 封筒の中には、ディーゼル宛に一枚の招待状が入っていた。 腐れ縁の大敵と、本局の提督の結婚披露宴の招待状だ。 これへの出席の時間を捻出させるためにあの上司はいつもよりも大量の仕事を持ってきていたのだ。

「僕が断るという選択肢は最初から除外ですか。 いや、まぁ、参加するのは構わないんですけどね。 ええ、本当に。 でも――」

 魔導王事件のことなど、一瞬でどうでも良くなった。 というか、それ以上に文面を見て困惑し、首を傾げたくなった。

「――何故、よりにもよって僕があの男から”友人代表”でスピーチを頼まれているんだ?」

 これは何か壮大な罠ではないのか? 例えば、仕事を増やすという意味での嫌がらせの可能性から純粋にライバルとして評価されていた可能性、単純に友達がいない可能性までディーゼルは考えた。 しかし、どれだけ推理しても答えは出ない。

――結局、若くしてエリートコースを邁進する彼でさえもこの深遠なる謎は生涯解明できなかった。











憑依奮闘記
第三部『黒の成年と翠幻の花嫁』
エピローグ















「あー、やっぱり余裕が無いってのは嫌よねっ。 もう!」

 気づけば毛布を片手に、床で寝転がっていた。 相変わらずの寝相の悪さを恨む暇さえなかった。 シャワーを浴びてメイクをし、悩みに悩んだ服に袖を通す。 ご飯を食べる暇はない。

 時間がやばい。 走る。 走る。 走る。 売店で適当に食べ物を買い全力で外へ向かって走りいく。 まるで学生のような自分を、今日ばかりは反省する暇もない。

「はぁ、はぁ、はぁ、なんとか間に合った……」

「時間ギリギリって感じですねフレスタ」

「おはよ。 メリー、ごめんなさいね」

「構いませんよ。 それじゃ、いきましょうか」

 投げられたヘルメットを装着し、自前のバリアジャケットを羽織るとサイドカーへと乗り込む。 同時に、吹かされたエンジンが出番を待って咆哮。 疾駆する瞬間を待ちわびる。

「準備いいな?」

「ええ。 それじゃ、リンディちゃんたちの結婚式に出発!」

「あいよっ!」

 メリーがニヤリと哂い、ギアを繋ぐ。 緩やかに駆動エネルギーを伝えられた車輪がバイクを走らせていく。 青空の下、公道をんで陸士訓練学校から二人が出発した。



 









「……遅いですわね。 三十分の遅刻ですわよ」

「例の事件からこっち、ザース君も忙しいみたいだからね」

 艶やかなスーツを着こなしながら、エーリッヒ・ビフレストが笑う。 隣で憤慨する妹を宥めながら、招待状に目を落とすと今更のように言う。

「それにしても、この私も呼んでくれるとはね。 まったく、ありがたいことだゼ」

「一応、お礼のつもりらしいですわよ」

「お礼? とくに彼に何かした覚えがないんだけどねぇ」

 むしろデバイスの件やグラムサイトのことで相談に乗ってもらった覚えしか彼にはなかった。

「ディーゼル提督と戦うのに、情報を貰ったからって。 そのおかげで今があるからって言ってましたわ」

「ああ、”だから”なのかい。 随分と懐かしい話だね」

 遠い昔の話を思い出し、苦笑する。

「さしずめ、私は今の二人を繋げた一人になるということかな。 光栄だね。 キューピットとして彼は私を認識してくれているということだよ」

「当時、お兄様はどうでも良さそうでしたけどね」

「そうだね。 でも、私の取り越し苦労だったようだ。 ならそれで良いじゃないかレイン」

「わりぃ、ちょっと手間取ってた!」

「もう! 遅いですわよあなた!」

 仕事で都心を離れていたザースは、謝罪しながら二人が乗り込むのを待つ。 だがエーリッヒが運転席にやってきて言った。

「君は仕事で疲れているだろう? 運転は私に任せて後ろで着替えるといい」

「そうか? ならお願いするぜアニキ<義兄貴>」

「うん。 任せるといいゼ」 

「ほら、ちゃんと服を準備してますからね」

「助かるよ。 最悪、また俺だけ遅れるところだった」

 リャクトン夫妻が後部座席に乗り込み、エーリッヒが運転席に乗り込む。 ミラーと座席を素早く調整したエーリッヒは車を発進させた。 目指すは転移ターミナル。 そして、管理世界を飛び出したあの男が表向きには亡命したことになっている世界だった。 













「俺が呼ばれるなんてなぁ。 クライドの坊主も、もうそんな歳か。 お前が連れてきたときのことが懐かしいぜ。 とはいえ、あの二人がなぁ……」

 アーク・サタケは思い出す。 後輩にして弟弟子のあの黒の男のことを。 この前も次元犯罪者の癖にミッドチルダに不法侵入し、ラーメンを食べに来ていた。 師匠同伴で二人してとんこつラーメンを平らげ、娘からデバイスを強請られている姿を見ていると自分も丸くなったものだとアークは思わずにはいられない。

「そうだな。 しかし、色々と問題のある二人だよ。 特にクライドの奴がな」

「まだ犯罪者扱いなんだっけか」

「どういうわけか減刑はされてるらしいが、刑期はまだあると聞いたな」

 ミズノハ・サタケが憤慨しながら言う。 とにかく管理世界領内で見つけたら捕まえるのが筋なのだが、すぐに逃げる上に捕まっても消える。 ソードダンサーが出張ってくる場合もあるし、プログラムを停止させて文字通り消えるのだ。 彼女がラーメン屋で発見したときはいつもそうやって逃げられていた。 

「母上は見つけたら捕まえるんだよね」

「当然だろう。 それが局員としての仕事だ」

 考える時間はそこにはなかった。 憮然とした顔で言い切る母親に苦笑しながら、両親の間に挟まれた金髪の少女が肩を竦める。

「ぶぅ。 どうせなら私の忍者刀型デバイスを作って貰ってからにしてよね」

「こら、お前はまたそんな高価なものを。 この前はクナイ型とやらを強請ってたじゃないか!」

「色仕掛けの術が成功したんだよ母上。 もうちょっと大きくなったら、忍者用のデバイスを一式全部作ってくれるって!」

「……アーク。 お前とは少し、娘の教育方針について話し合わなければならないようだな」

「馬鹿言え、俺は大和撫子を目指して教育してたんだぞ」

「では、これはなんだ?」

「”セクシーな魔法くのいち”を目指すマセた娘だ」

「こんなことならサムライを目指させるべきだった!」

 頭を抱えながらミズノハは家の看板娘を見下ろす。 管理外世界の”着物”とかいう衣装に身を包んだ娘は、何故か望まぬ方向へと着実に成長していた。

「知らん。 何かがこの子のツボに入ったんだろ」

「しかしだな……」

「なら、いっそのこと姐さんのところに放り込むか? なんか結構暇してるらしいぞ」

「本当、父上! やったぁ、約束だよ!」

「姐さんがいいって言ったらな。 ただし、長期の休みの時だけだぞ」

「うん。 私ね、絶対にAMBをマスターしてから訓練校に行きたいって思ってたの!」

「ちょっと待てアーク。 お前、私には剣を捨てるからって教えなかっただろ! まさか、この娘には教えて――」

「なわけあるか。 俺じゃねぇよ。 姐さんが来たら勝手にこいつが習ってるだけだ」

「そ、そうか。 ならしょうがないな」

 納得した妻をそのままに、アークは少しばかり目じりを緩めて娘を見る。 

「ちなみに、一刀流か二刀流のどっちをやってんだ?」

「勿論一刀流! じゃないと開いた手で手裏剣投げられないもんね!」

「……」

「ふっ。 アーク、今ちょっとだけ二刀流じゃないのかって思ったな?」

「ああ。 お前もそうだろ」

「まぁな」

 二人ともが二刀流だ。 ちょっとだけ残念に思ったのは当然だったのかもしれない。

「ふーん。 父上も母上も二刀流がいいーんだ」

「とはいえ、難しいぞ」

「難度が上がるからな。 訓練校に行くまでに習得したいんだとしたら一本にしとけって」

「うーん、でも二刀流って卑怯だよ。 クライドさんが相手してくれるときにやってるときがあるけどさ」

「ほう、あいつが二刀流を?」

 目の色を変えたミズノハが尋ねる。

「先手必勝剣! とか叫びながらスタートの合図を切る前に魔力斬撃を放って来るんだもん。 兄弟子の父上も、もしかしてあんなだったの?」

「なんだその邪道な戦い方は。 姐さんの教え全然かんけーねぇぞ」

「くっ、ははは。 それはあの男らしいな」

 アークはどんな戦い方をするのかはよく知らないが、ミズノハは違う。 子供相手にらしい戦いをするあの男のことを思い出し、笑みを浮かべる。

「ちょうどいい、なら魔法剣とくのいちらしい邪道な戦い方を習って来い。 成果は私が確認してやるからな」

「おい、娘相手に本気になるなよ」

 バトルジャンキーが目を輝かせている。 近い未来、娘相手に猛威を振るいそうだった。 アークは途端に娘が心配になった。

(局員さんの一家なのかな?)

 タクシーの運転手は家族の団欒には口を挟まない。 寡黙に運転を続けるだけだった。 その横を、一台のバイクが通過していった。 













「本当に、本当にこの記事は関係ないのね?」

「う、うん。 ほら、証拠にザフィーラも居るよね」

 血相を変えて迫るプレシアを宥めながら、アリシアが引きつった顔で言う。 視線の先には、週刊誌『サーズデイ』の特集記事があった。

 記事の内容はこうだ。 ストラウス邸宅内部でバイトをしているデバイスマイスターの男と変装した歌姫が公園でペットの犬と散歩デートをしていたというのだ。 腕を組みながら仲良くアイスを食べていたとも、ホットドックを齧っていたとも。 軽く散歩した二人は、最後に二人は仲良くストラウス邸に戻っていった姿が記事の写真として使われている。

 クライドは目元に黒い線が入れられており、元管理局員で犯罪暦のある亡命者で更には妻子の居る男だと書かれている。 つまりは、不倫デートの現場として書かれていた。

「ですからプレシア。 それはデマですよ」

 リニスも呆れてやんわりと否定するも、プレシアは疑っていた。

「私だってそう信じたいのだけどね。 そもそも、妻子持ちってなんなのよ。 彼、今日が結婚式なのでしょう?」

「うん。 だから、母さん。 サプライズ要因として一曲披露してくれないかって相談されてたときのだよそれ」

「……」

 娘を見る母親の目は、娘を信じたい気持ちと疑心とで揺れていた。 

「百歩譲って、その時の記事だったとして、何故妻子持ちなのよ。 しかも、亡命はともかく犯罪暦在りって……」

「さ、さぁ? 私もそれは分からないかなぁ」

「リニス。 社長は何も手を打たなかったの?」

「はい。 デマが多すぎて邪魔だから”潰す”口実に使いたいそうで……」

「……そ、そう」

 少しだけ、相手の会社に同情しながらも彼女は考える。 彼という存在は確かに奇妙ではあるが、さりとてテスタロッサファミリーに何かしたことがあったというわけでもない。 寧ろ、アリシアの命の恩人であった。

(とはいえ、アリシアに近い男と言えば彼だけだし……)

 ザフィーラを未だにクライドの使い魔だと認識しているプレシアにとって、ザフィーラが居たからと言われても安心はできないのだ。 思考の海に沈みこみ、研究者よろしく没頭するプレシアの前で二人がこそこそと話す。

「ねぇ、リニス。 母さん、今日に限ってはすっごく食いついてくるよね」

「さすがに不倫をさせるわけにはいかないと思ったのでは? せめて、彼がフリーであればまだ考えたかもしれませんが」

「そっか。 今日結婚しちゃうんだもんね。 でもさ、別に私とクライドお兄さんが仲良くしてても問題は無いと思うんだけどなぁ」

「いけません。 男と女というのは何があるか分からないものなのです」

「そうなんだ?」

 首を傾げる彼女を前にして、ようやく復帰したプレシアが戻ってくる。

「アリシア」

「な、何かな?」

「もし、もしもよ。 クライド君が結婚してくれって言ってきたら貴女はどうするのかしら」

「そんな事態にはならないと思うけど、断ると思うよ」

「そ、そう! そうよね、ちょっと歳が上だものね」

「あっ、でもザフィーラが言ってきたら考えちゃうかも――」

「「……」」

「――なーんて、冗談だよ冗談。 ザフィーラはお父さんって感じだもんね」

「リニス、式が終わったら彼と少し話しをしておきましょう」

「はい。 私も少し、お話したいですから」

「え、え?」

 無意味に待機モードにしてあるデバイスを弄る二人。 目が笑っていないので、アリシアも少しだけ困った。 と、そこへ件の男がやってきた。

「あ、今日は狼さんじゃないんだね」

「彼の晴れ舞台だからな」 

「あっ、ちょっと待って」

 ネクタイを緩めようとしていたザフィーラの前に向かい、ネクタイを直してあげるアリシア。 それを見て、保護者二人の目から光が消えた。

「アリシア、何故だ。 リニスとプレシアから凄まじい殺気を感じるのだが……」

「んー、気のせいだと思うよ。 多分」

 てへへっとはにかむと、彼女はザフィーラの腕を取る。

「ふふふ。 貴方とは、一度話しあう必要がありそうねザフィーラ君」

「まったくです。 ノーマークでしたからね。 やはり、どんな城も内側から攻めこまれれば落城するものですか」

「な、なんだか分からんが、そろそろ時間だぞ」

 そこへストラウスとヴォルケンリッター、スクライアの者たちがストラウス邸の玄関へとやってきた。

「はいはーい。 それじゃマイクロバスを用意しておいたから、行きましょうか」

 ストラウスがパンパンと手を叩き注目を集め、一同は移動を開始した。












「あー、さすがに緊張するな」

 ホテルの会場を借りて行われる披露宴を前にして、新郎がぼやく。 一生に一度の晴れ舞台。 仏頂面を無理やり笑顔にしようとするも、やはり硬い。 何度も深呼吸を繰り返し、落ちつこうと努力する。 しばらくそうしていると急にノックの音が響いて驚いた。

「クライド君、失礼するよ」

「あ、ええ。 どうぞ」

 グレアムだった。 その後ろにはリーゼ姉妹とクライド・エイヤル少年も居る。

「緊張してるようだね」

「ええ、まぁ」

「じゃあ、アタシが解してあげようか? いつものようにこうムチューっと」

「止めときなさいって。 キスマークが残ると洒落になんないでしょ」

 ジュルリっとご舌なめずりをするロッテを、アリアが止める。 その後ろではエイヤル少年が様子を見るかのような目でクライドを見ていた。

「やっ、元気かエイヤル君」

「は、はい。 えーと、ハーヴェイさんも元気そう……だね」

「おう」

「にしても、こっちで式を挙げるなんてねー。 このこのー、リンディ提督を待たせないためっていってもやりすぎでしょ」

 タキシードで武装したクライドをロッテがつつく。 

「待たせたというか、まぁ、いろいろあったからなぁ。 お互い、さっさとくっついときたかったってことで」

「愛だね、クライド君」

「……直球で言われると超恥ずかしいんだがな。 アリアこそ、どうなんだよ」

「どうって言われてもね。 私は父様の使い魔だし、ミッドじゃ使い魔と人間は結婚できないって法律で決まってるよ」

「ミッドではな。 つまり、愛さえあれば別の国籍でもとって、合法的に結婚すればいいわけだ。 まぁ、世間様の認知がいらないってんなら、俺たちみたいに事実婚でもいいんだろうけどよ」

「それで良いって思える君たちに脱帽だよ、ホントにね」

 しみじみいうアリアだったが、それでも優しく笑っていた。 認めないというスタンスではなくて、好きにすればいいと思ってくれているのだ。 ロッテもグレアムもそうだった。 止める理由は彼らには無かった。

「あ、そうだ。 これ、頼まれ物です」

 用意しておいたデバイスでデータを転送。 グレアムに渡す。

「驚いたな。 ”アレ”が在ったのかね」

「いえ、無理を言って作ってもらいました。 そのせいでちょっと難解だと思いますが、まぁ、おじさんならできると思いますよ」

「そうか。 では、がんばってみようかな。 良かったな、クライド君」

 頷き、小さい方のクライドに言う彼はは優しげに笑う。 笑みの意味が分からない少年だったが、その隣でアリアが額に手を当てているのがクライドには印象的だった。

「えと、どうかしたの叔父さん」

「ハーヴェイ君がね、君のために使い魔を譲渡する魔法を用意してくれたんだよ」

「え!?」

 ミッド式には存在しないという結論が出ている魔法だ。 アルハザードに行くしかないと思っていた少年の目が、驚きで満たされていく。

「憑依代金って言えば汚く感じるかもしれないけど、まぁ、贖罪というか謝罪というか、そんなもんだよ。 エイヤル君レベルならイケるはずだ。 有意義に使ってくれよ?」

「はい! ありがとうございます!」

 アリアが凄く呆れた目でクライドとマスターを見る。 すると、二人はそろって明後日の方向へと視線を向けた。 業とらしいところだけ無駄に似ていた。

「よぉーし、僕がんばるよ! 式には絶対にハーヴェイさんも呼んで上げるね!」

「おっ、そりゃあ楽しみだな。 約束だぜ少年」

 グっと親指を立て、二人して頷く。 グレアムは良かった良かったとハンカチを目に当て、ロッテも無駄に拍手をしている。 アリアはもう、ため息を吐くしかない。 

「まったくもう、この一家は私を除いて愉快犯しかいないんだから。 ほら、そろそろ会場に戻ろう。 クライド・ハーヴェイ君。 今度うちに来たら、盛大に可愛がってあげるから楽しみにしておいてね。 久しぶりに泣き叫ぶほどにバインドしてあげるよ」

「……ふ、二人のアバンチュールを邪魔するなんて、俺にはできない!」

「はいはい。 リンディ提督には言っておくからね。 まったく……」

 エイヤル少年の手を引き、アリアが部屋を出ていく。 ロッテとグレアムもそれに続き、部屋にはクライドだけが残される。

(やべぇ、マジでヤる気の目だった。 と、当分は顔を出すのはやめとこうっと。 それにしても、頑張れよクライド君。 君の敵は手ごわいゼ)

 他人の恋話は楽しい。 片方が純粋であればあるほど無駄に応援したくなる。 弄りすぎるととんでもないことになるが、まぁ、後は二人に任せようとクライドは思う。

「さて、そろそろ俺もあいつの顔を見に行くか」 









「入るぞ」

「あ、はいどうぞ」

 リンディが居る控え室に乗り込むと、すでに彼女も用意を終えていた。 純白のウェディングドレスが妙に輝いて見えるのは、特別な衣装だけが持つ特権だろうか。 数秒、彼女の姿を見たままクライドが止まってしまう。

「クライドさん?」

「あー、いや。 うん、やっぱりいつもと違うなーってな」

「ふふふっ、どんな風にですか」

「そりゃあ当然、いつもより綺麗になってるさ」

 美しい翡翠の髪も、綺麗な瞳も、ドレスの白が引き立てる肌の色も、発する声さえもどういうわけかワンランク上に変化したような気がしてくる。 そんな彼女が今、ドレスに包まって笑っているのだ。 このままどこまでも攫って行ってしまいたくなってくる。

「駄目ですよ」

「む?」

 ヴェールに手を伸ばすも、リンディがそれをさえぎった。 途端にクライドの顔が残念そうになるのを彼女を見て、苦笑した。

「いいじゃないか」

「もうすぐです。 だから、それまでは駄目ですよ」

「ちぇっ――」

 隣の椅子に座り、衝動を抑える。

「そういえば、風の噂で聞いたんだがこっちで式挙げるって決めたせいで聖王教会のとある騎士がすっげー悔しそうにしたらしいぞ」

「とある? ああ、グラシアさんですね」

「んで、報復のためにとんでもないカードをシスターに持たせたとか持たせなかったとか」

「まさか、アレ……ですか」

「ああ、多分アレだ」

 二人して虚空を見つめ、微妙な顔をする。 アレといったら決まっていた。 クライドが偽リンディと独房でやったアレである。 

「俺、これから絶対に教会に肩入れしないでおくわ」

 この結婚式が偽リンディとのものだったらまぁ、笑い話で済ませるしかないが、そうでないのだから出されても困る。 特に、知らない間のことであるリンディ本人にとってはあまり笑える代物ではない。

「余興としては盛り上がるかもしれませんけどね。 インパイクトはあるでしょうし」

「まぁ、確かにインパクトはな」

「私としては、週刊誌の方が気になりますけどね」

「いや、だからそれは勘違いだって!」

「妻子持ちの件は?」

「グリモア君の可愛い悪戯だと思うしかない」

「分かりました。 信じちゃいますからね?」

「おう」

「……」

「……」

 ふと、会話が途切れた。 間が持たないというわけではなく、ただ二人して自然と寄り添い静寂をかみ締めた。 出番を思えば、少しずつ緊張感が戻ってくる。 リンディの手も、微かに震えていた。 クライドは自然とその手を握る。 それで、震えが完全に止まるわけではなかった。 二人の手が震えているのだから、止まるはずもない。 けれど、それでも互いの温もりが二人を支えた。

「なぁ、リンディ」

「はい」

「どんな形だろうと、どんな生活だろうとさ」

 呟きは願いのようであり、願いはまだ見ぬ生活への希望だった。

「絶対に、幸せになろうぜ」

「はい。 二人一緒に――」

 これまでに様々なことがあった。 嫌なことも楽しいことも辛いことも嬉しいことも全部ひっくるめてそれでも、幸福だったと思える家族になりたい。 ただ、それだけの人生を期待する。 これから先もきっと、奮闘する日々は続くだろうけれど、二人で笑って乗り越えられるように、今日これから始まるのだ。

――黒と翡翠の、二人で綴っていく奮闘記が。















 時間潰しをかねて、限界突破者の二人が懐かしい話を語っていた。 推察と過去の集積を利用した答え合わせ。 繋ぎ合わせれば見えてくる全ての始まり。 そして、その執念を生み出した動機もまた白日の下に晒された。

「結局、偽者の彼女は自爆したのね」

「そうなるな。 ゴルド・クラウンに後を託して消えていればそうなることも無かったがな」

「ふふっ、”負け惜しみ”?」

「そうともいえる。 最後は余の流儀で通したが、事実としては彼女の”本物”は完全に余を出し抜いたことになる。 ”偽者”はそのまま勝ち逃げすればよいものを、欲に負けたから勝てたがな。 レグザスが望んだ世界をこの次元世界に確かに残しておきたい。 それも完全な形で。 或いはそれが叶わないならば、彼を殺したこの世界に復讐したい。 欲張りなことだよ。 たった一人であそこまで自分たちの色に世界を染め上げた。 本物には完敗だ。 素直に余は敬意を払おう。 愛に殉教した”ライター<シナリオの書き手>”に。 その鮮烈な命の輝きに」

「まぁ、でも偽者はアレでしょうがなかったんじゃない? ゴルド・クラウンでは役者が足りない。 いないはずのシュナイゼルを演じきるには自分しかいない。 だから、舞台に上がり続けるしかなかった。 損な役回りね。 おまけに八つ当たりのような無間地獄に落とされての敗北。 それでもまだ挽回する方法はあったけど、貴方がそれをさせなかった。 デウス・エクス・マキナ<舞台を台無しにする超展開>はお手の物? まったくたいした熱演じゃない。 ねぇ”アレイスター”」

「情報憑依などというレアスキルが生まれるとは余も思っても見なかったおかげで、完全に騙されていた。 クライド・ハーヴェイが時の庭園で奴と遭遇しなければ、シリウスの前に無限書庫で現れることがなければ、或いは最後まで別の可能性を思案していたかもしれん。 あのとき、クライドとシリウスしか見ていなかったからな。 だが、奴自身が隠れていればよかったのに好奇心に負けて舞台にしゃしゃり”出てきた”。 それがなければ、奴にも負けていたかもしれぬな」

「手抜きするからよ。 気をつけないと、外からの侵入者に好き勝手されるわよ」

「今度からもう少し控えよう」

 止めるとは言わない。 それが彼の在り方であり、特権であり、見護る代価。

「でも、楽しみにしてた茶番劇は終わったわけだけど……しばらくはどうするの?」

「なに、どこにでも楽しみはある。 悲劇と喜劇で世界は回っているのだ。 そう、例えば最近面倒を見ている”彼”でも良いだろう。 研究がそろそろひと段落着く頃でね、幼児辺りからやり直して社会復帰を希望している。 そっちで面倒を見てやってくれ。 なに、彼はよく働くだろう。 ”研究意欲”は人一倍あるからな」

「あ、そうよね。 特許申請の準備をしなくちゃね。 保護者の用意はしたんだけど、そっちは忘れてたわ」

「ミスとは、貴公にしては珍しいな。 ――おっと、そろそろ”始まるかな”」

「あらあらあら、クライド君ってばすっごく緊張してるわね」

「晴れ舞台だからね」

 黒の青年と翡翠の魔女の結婚披露宴が始まる。 アルハザード組みでは招待されたのはストラウスにペルデュラボー、そしてグリモアにカグヤだ。 そのうち後の二人は欠席しているので実際は二人だけ。 キャンセルすればいいものを、気持ちだけは参加してくれるらしいからという理由でそのままにしていた。 おかげで、二人は仲良く危険な会話を交えて食事ができた。

 隣の席にはヴォルケンリッターやスクライアの二人に、ミニモアがおめかしして出席していた。 クライドに修理のついでに魔改造強化されたレイハさんも、ミーアの胸元で輝いている。
 
 更に、かつての旧友たちや次元世界の歌姫一家も居たし、グレアムファミリーも参加していた。 今日は賑やかな披露宴になる。 そう予感しながら、二人は新郎新婦を拍手で迎えた。










「今頃、始まっている頃かしらね」

 定休日に成っていたデバイス工房『バトルデバイサー』のテーブル席の上で、用意した酒や料理をつまみながらカグヤが言った。

「でしょうね」

 対面に座る機人は、いつにも増して無表情だった。 その姿に苦笑しながら、ワインのグラスを傾ける。 祝福する気は、勿論あった。 ただ、わざわざ自分が出席する必要性は感じなかったからこそ、腐っていそうな『家主』の相手をすることにした。 一人侘しく拗ねさせるよりはお友達らしくて健全だろう。

「それで、朝方役所に行って何をしていたの?」

「養子縁組で少々手続きをしに」

「養子なんて取るの? なんのためによ」

「”ジェイス・ハーヴェイ”。 何の因果か保護者として名前を貸すことになりまして。 まぁ、最後の嫌がらせとしては面白いかなと思って受けました。 ストラウスの頼みでもありますしね」

「ふぅん。 そういえば、結局クライドはまだ気づいてないの?」

「偽魔女が暴露したはずですが、月に戦いに行ったおかげで忘れてるみたいですね。 事実婚みたいな形ですし、魔女の仕事を思えば大っぴらにできるわけでもありませんから当分は忘れたままかもしれません」

 管理世界での広域次元犯罪者としての肩書きは健在である。 今でもミッドチルダに行こうものなら追い回される。 しょうがないといえばしょうがないのかもしれない。 素直に更正プログラムを受ければいいのに、時間がもったいないとあの男は言い切った。 それを認める嫁も嫁だが、あの二人らしいと彼女は思った。 型に嵌らない生き方をしたいというならそれは本人たちの勝手だ。 外野が指摘する問題ではない。

「で、その彼ですが当分は、貴女と一緒で”こっち”で演算することになりそうです。 面倒な話ですが、もう諦めました。 魔女の悪行と比べれば可愛いものですからね。 ええ、我慢してやりますとも涙を堪えて」

「貴女がそれでいいというのならいいのだけれどね」

「別にいいですよ。 ボクの闘いはこれからも続きますが、時間切れはないですからね」

「そこまで言い切られると、呆れるよりも先に応援したくなってくるから不思議ね」

「よく言われます」

 そこで肯定するのはどうなのかと思わないでもなかったが、カグヤは苦笑しつつ胸ポケットをつっついた。

「ふわぁぁ。 ――って、なんだなんだ? 今日は何にも仕事なんてないはずじゃなかったのかよぉ”姐さん”」

「どうせ暇でしょ。 貴女も参加しなさいな」

「いいのか!? いやぁ、どうにも最近忘れられてるような気がしたんだけど、そんなことはなかったんだな!!」

「――」

「何故、目を逸らすんですか」

 ジト目でカグヤに目をやるも、彼女はミニチュアのような小さなコップにワインを注ぐことで視線を躱す。 どうにも、スルーの仕方が誰かさんに似てきたような気がして、グリモアとしては気が抜けない。

「ぷはぁっ!」

「はしたないわよサード」

「いいんだって。 今日はめでたい日なんだろ? だったら、細かいことはいーじゃんかよぉ」

「めでたい? その認識は間違っていますよ。 今日は厄日です。 だもんで、人格データのチェックを推奨します。 なんなら、そこで点検しましょうか? 貴女は今、壊れかけている疑いがあります」

「だ、大丈夫だって! アムステルの旦那がやってくれてるからよ!」

「”ジルの仕事だったから”、ですか。 グランパも甘いですからね」

 そのまま質量兵器に改造される危険性こそあったが、その仕事には文句のつけようがない。 だから、サードとしては問題なかった。 ロードがいつも攻撃されることを除けば。

「アムステルといえば、結局管理世界を攻撃しなかったわね」 

「変わりにシュナイゼルのクローンは殲滅したみたいですけどね。 おかげで、管理世界で人がいきなり爆死する怪奇現象が観測されたそうですよ。 周囲の人にトラウマを量産していなければいいのですが……」

 らしいといえばらしいが、きっちりと手を出していたようだ。

「まぁまぁ、今はそんなことよりも乾杯しようぜ。 か・ん・ぱ・い!」

「何によ」

「クライドの旦那の結婚を祝し――むぐっ」

 瞬間、グリモアに頭を鷲掴みにされた。 徐々に指の強さが強くなっていく。 このままでは、首のフレームが確実にイケナイ方向に曲がってしまう。

「空耳でしょうか」

「冗談、冗談だって!!」

「笑えない冗談はよして下さい。 思わず解体したくなりますからね。 デバイス屋の店長を舐めるなです。 今のボクならきっと光の速度でスクラップにできますよ」

 言葉に出せないまま、サードが呆れる。

「あー、じゃぁ、これからの店長の勝利を願って! これならいいだろ」

「マーベラス。 また一人ボクの後援者ができました。 未来はきっと明るいですね。 この調子で周囲を完全に取り込んで行けば、室長に逃げ場なし! ボクの戦いはこれからです!」

 グラスを突き出し、カグヤに酌を要求。 カグヤとしても、反対する理由はなかったので準備をし、三人でグラスを合わせた。













憑依奮闘記 ~ 終 ~


























<???>

「彼の喪失は間違いなく大きすぎる損害だが、どうするかね諸君。 混乱もどうにか収まって来た。 そろそろ決断しなければならぬときがきたようだ」

「確かに由々しき事態ではあるな。 魔導王シュナイゼル……管理局が発足した時点で既に役目を終えていたとはいえ、彼の者が秘匿していた技術、そして力は余りにも惜しい。 我々に開示されていたデータなど、ほんの一握りだっただろう」

「それらのデータはもはや失われてしまった。 巻き添えを食らわせぬためにも証拠隠滅が必要だったとはいえ、潔い程に消し去った。 これは無限書庫、そして月と同じだな」

「せめて、もう少し我々を信じていてくれればよかったものを」

「左様。 望む夢は同じだった。 少なくとも、そのはずだった」

「次元世界と地上の平和。 そのための魔導師。 そのための先進的な魔法科学。 彼は理想的な支配者だった。 必要な作業を厭わず、平和のためにはありとあらゆる犠牲を許容してくれていた優れた調整者だった」

「我らの求めるのは優れた指導者によって統べられた完全なる世界。 これまでは彼が選び、導いてきた。 我らとて、それに賭けた。 脳髄だけを残してこうして生き恥を晒しているのも平和を願ってこそだった。 ならば、彼の偉業は我らで引き継がねばならん。 もはや立ち止まることなどできんのだ。 これからは我らが選び、導く番か」

「世界は優れた人物によって導かねばならん。 そのための生命操作技術ではあるが、順調かな?」

「ジェイルやその他の機関が血眼になって動いているさ。 もっとも、JSウィルスをばら撒いて消えた男や、あの当時の混乱に乗じて逃げ出した個体がいくつかあるが……それでも一番若く、野心的な男は抑えてある。 問題はあるまい」

「それだけは不幸中の幸いだな」

「そして最後の揺り篭もこちらで抑えてある。 これは今となっては我らしか知らないことだ。 ならば、我らが彼に代わって新しいシナリオを構築するのが彼に対しての供養というものだろう。 懸念事項はいくつかあるがな」

「その最たるものがアルハザード。 そしてソードダンサーか。 この二つは間違いなく繋がっていた。 だが、元凶である”彼”を始末したことで溜飲を下げてくれたようだ。 浮上時にこちらを攻撃しなかったのがその証拠だろう」

「うむ。 彼らは最大の不確定要素ではあるが、所詮は子孫でしかない我々など眼中にはないだろう。 その点は分別があってありがたい。 彼の企み通りの展開だな」

「しかし、三提督が妙な動きを見せているぞ」

「彼らとて平和を愛している。 許容範囲内ならば目を瞑ってやれ」

「グレアムともども探っている段階のようだが、何も見つけてはいない。 良かったな。 いざというときのために生身の人間を表に用意しておいて」

「あれも彼の仕込みだよ。 それを思えば本当に残念だ」

「彼のDNAデータは残っていないのかね」

「無いな。 そもそも、我らとて監視されていた。 ”彼”に対しては何かができるはずもなかった。 そういう意味では、優秀すぎるほどに優秀だった。 情報制御能力や秘匿能力、そして未来に対する布石まで完璧だ。アレだけの事態を引き起こしておきながら、こうして管理世界を在続させた手腕は評価に値することだ。 恐らくは、他の誰にもできなかった。 我らでも無理だよ」

「それ故に惜しい。 第四魔法……再現できればいいのだがな」

「アンチマギリンクフィールド……対魔導師兵器や戦術の普及が著しい。 ここで踏みとどまらなければ、一部の質量兵器の解禁も視野にいれなければならん。 結局はいたちごっこかもしれんが、それでも現行の体制、魔導師戦力への希望は残った」

「最悪、魔法が使用不可能な時代が到来し、時代が逆行する可能性もある。 それだけは防がねばならん」

「そうだ。 どんな犠牲を払ってでもな」

「コントロールできないのは兵器ではなく人そのもの。 人の持つ良心など、なんら制御装置の役割を果たさん。 必ず暴走するものが出てくる。 ならば、その数は多くない方がいい」

「然り、だからこそ人類は分を弁えなければならんのだ」

「戦闘機人計画は落ち目だが、人造魔導師計画ともどもデータが集まるまでは必要か」

「JSウィルスのせいでプロジェクトFが裏で広がりを見せている。 そちらを美味くコントロールすれば基礎である生命操作技術も比較的進歩するだろう。 戦闘機人についてはコストの割りにリターンが少ない。 こちらの方が制御しやすいらしいが致命的に大衆に受けない。ジレンマだな」

「後は、聖王教会に残されているという”アレ”の回収か」

「その辺りはジェイルが何か策を練っているらしい。 時間はまだある。 急ぎ過ぎて仕損じるわけにもいかん」

「旧暦の時代より、我が身を捨ててまで世界に尽くしてきたが限界はある」

「だが、逆に言えばそれまでになんとかできればいいのだ」

「世界を導く御子の誕生、そして平和を維持するための純然たる力の研磨。 やるべきことは多いな」

「管理局はまだまだ幼い。 彼や我らのような者たちが見守らねばならん。 各々方、つまらないことで足を引っ張られないよう、くれぐれも留意して欲しい」

「当面は彼やリビングデッドの抜けた穴の補填。 そして、緩んだ手綱の締めなおしといったところか。 ジェイルに対してもちょうど良い首輪があるといいのだがな」

「協力者も必要だ」

「それについては考えてある。 魔導王事件での海の失態を痛感したあの男なら、隠れ蓑には最適だろう」

「奴の提唱する防衛構想も効果を随分と発揮したようだしな」

「あの程度の戦力で、よくアレだけ保てる。 頭は固いが手腕は認めてもいいだろう。 それに高ランク魔導師やレアスキル保持者へのコンプレックスもある。 常に比べられてきた男としては、誘いに乗って踊るしかあるまい」

「平和への執念を誘導すれば問題はない……か」

「当然、この程度はしっかりとこなして見せねばならんな」

「ふふふ。 我らの指導者としての器が試される、ということか」

 薄暗く、広大な設備の中で黄色い液体の入ったポッドが三つ浮かんでいる。 その中には、三つの脳味噌が浮かんでいた。 最高評議会。管理局に必要であれば助言し、それまではただ見守るだけの存在。

 JSウィルスをばら撒かれたことで存在が露見し掛けたが、表に身代わりを用意しておいたおかげでやり過ごした旧暦から生きる老人たち。 脳髄だけのなることで飛躍的延命が可能になったとはいえ、永遠の命など持って居ない。 生きている間に、管理世界を託せる次代の指導者が必要だった。 

「それと、一応確認しておきたいのだがあのよく分からん”男”はどうする」

「あの、デバイスマイスターにしては前に出てくるよく分からん男か」

「彼でさえも持て余し気味のイレギュラーだったと聞くぞ。 それに、ソードダンサーやアルハザードとも繋がっているのだろう? 極めてイレギュラーな存在だ」

「報告では闇の書の魔法プログラム体と同じということになっている。 間違いなく向こう側の存在だろう。 ならば無視しておけばいい」

「だが、レジアスが接触を持とうとしているようだぞ」

「……なに? 何のためにだ」

「対高ランク魔導師用のデバイスが欲しいらしい。 あの調子だと、いずれ交渉人を派遣するかもしれんぞ。 色々と調査しているようだ」

「ふーむ。 マジックガンと言ったか。 確かに、アレは量産できればAMF犯罪にも有効そうだがな。 現状維持とかいうレアスキルを使っているのだから、発射された弾丸はAMFも無視するだろうし、威力も破格だ。低ランク魔導師に持たせれば単純に切り札になる。 問題は誰でも安易に使えるという点か」

「もしかすれば、エクリプスウィルス患者にも効果を発揮するかもしれんぞ。 研究させておくべきかもしれん。 擬似的にでも再現できれば、第四魔法も必要ないだろう」

「対応できる新型デバイスや、第四魔法の研究費と一緒に予算を組ませるか?」

「それでいいだろう。 敵対する必要は無いが、手を組んではいけないということもない。 レジアスが使う程度ならば問題はあるまい」

「ならばこちらのことを気取られん程度に接触する、という程度でよいな? レジアスと先に接触し、ついでに交渉して手に入れればいいしな」

「うむ。 ついでに一応は魔導王事件の管理局協力者ということで減刑しておけばどうだ。 もともと、奴の起こした事件など彼の行動が原因だろう。 闇の書の秘匿に関しては局員としては認められんが、それでも正しい理解があれば破棄などできようもないからな」

 破棄しようとすれば、書が主を飲み込む。 管理局に差し出して封印させようとしても同じだ。 ならば、秘匿するしかない。 死にたくなければそうするだろう。

「どうやって知ったかは分からんがな。 やはり、ソードダンサーか」

「最強の剣を意のままに振るえるのだ。 古代ベルカの騎士道精神とやらには疎いが、そういうことだろう。 オリジナルともども揉めないようにしておけばいい。 しゃしゃり出てきたらできる範囲で迎撃だ。もっとも、そうなった時点で月の二の舞かもしれんがな」

「それが無難か」

「ああ、それで問題ない」

「後は――」

 と、三人――もとい三脳が会議を切り上げようとしたそのとき、一人の女性が現れた。 長い髪に青の制服。 海の人員のようだった。

「――失礼します。 皆様、ホストメンテナンスのお時間ですが」

「ああ、お前か」

「会議はもうすぐ終わりだが、あと少しある。 手早く済ませてくれ」

「かしこまりました」

 ポッドのコンソールを操作し異常を確認していく。 その間にも三脳たちは”次元世界の平和のため”に会議を続ける。 いつも通りの姿だった。 外部スピーカーから漏れ出る音は、なかなか止む気配がない。

「今日も紛糾していらっしゃいますね」

「なに、世界のためだ」

「お前が気にすることでもない」

「はい」

「――ああ、そういえば警備体制の強化したせいで煩わしいチェックが増えただろうが、仕事に差し支えはないか?」

「今のところありませんが……」

「一応、お前も気をつけておけ。 ここがかぎつけられるとも思えんが、何があるか分からんからな」

「ありがとうございます。 気を使っていただいて」

「ふん。 これも上に立つものの勤めだ」

「これからも迷惑をかけるが、よろしく頼む」

「はい。 私も、好きでこの立場に居るのですから協力は惜しみません」

 しばらく作業が続いたが、会議が終わるよりも先にメンテナンスの方が終わってしまった。 終了したことを報告し、女性職員が去っていく。 外部センサーを使って目としている彼ら三人には、センサーの位置を熟知している彼女の顔が見えなかっただろう。 その顔は哂っていた。 唇が釣りあげて愉快気に。

――次の戦いの準備は、既に当たり前のように始まっていた。

コメント
再開されたと知らず
なんとなく1話から再読してたら気づくと見たことがないストーリーに入ってびっくりしました

いまさらですが完結お疲れ様です
【2013/09/15 10:30】 | 名無しさん #mQop/nM. | [edit]
名無しさん こめアリです^^

どうも、そちらこそ読破お疲れ様です!
【2013/11/22 20:12】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]












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