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語られざる歴史を捏造して語ってみる02w

 2007-08-20
――ミッドガルズの東北部に、本土から橋で繋がった島の上に古城があった。

 もはや住まう人間もおらず、すでに城としての意味を失ったはずの古城だ。 しかし、そこは奇妙な閃光が行き着いた先でもあった。


 閃光は夕暮れ時のその古城に落ち、今ではまったく光を失ってしまっている。
消え去った閃光、しかしそこに閃光が落ちた証としてその古城には閃光が飲み込んできたモノがどこもかしこにも存在した。 盛り上がった土、飲み込まれたはずの少女などである。

 ただ、不思議なことに、古城の上に落ちたはずの閃光に飲み込まれたそれらが落ちた場所は、古城の二階の廊下だったり古城の中庭だったり、古城の広間だったりした。
 奇妙なことこのうえない事象ではあるが、そもそも進行上のものを片っ端から飲み込んできた閃光自体が不可思議の塊である。

 それがさらに不可思議な現象を起こしていたとしてもなんら不思議ではない。
と、そんな不可思議を受けた古城の二階の通路で、ゆっくりと起き上がる人影があった。

――妙齢の女性だった。

 彼女は、黒に近い藍色にのマントを羽織り、その下に軽く胸の辺りにスリットの入った藍色の服を着ている。 両腕は包帯のようなもので肩の辺りから指の先端までグルグルと覆っているが、それだけを見ただけでは普通の旅人だと思われるだろう。  しかし彼女は生憎とその普通では収まらない。

 まず、目を引くのはその見目麗しさだった。
バランスの取れたプロポーションと、その幻想的な銀髪は男を魅了して止まないだろう。
 だが、残念なことに彼女はそれを自覚してはいない。
剣聖とまで呼ばれた彼女は、戦闘のことは考えはしてもそういうことを余り意識してこなかったからだ。
 そんな彼女は、目を覚ますやいなや慌てずにまず現状を確認することにした。

「……ここは、どこかの建物のようだね。 それも、かなり放置されて年月がたっている」

 埃の積もり具合や、周囲の荒れ果てようを見ながら落ち着いた声で女性は呟く。
そして、周囲に落としていた彼女の武器――やや長めの杖――を手に取ると周辺の気配を探った。

「4人分、確かに気配があるね。 おっと、妙な気配もするけど……一体なんだろうねこれは?」

 不気味な気配だった。
一つの気配の中に複数の気配がある。
 いや、複数というよりは大群でもいそうなほどに濃厚で濃密な邪気や殺気を放っているのか。

 女性はいつでも戦える用意をしながら、古城を歩くことにする。
とりあえず二つ、古城の中心のあたりに気配がある。
 自分が光の中で見た人間の気配であるならば、色々と詳しい話が聞けるかもしれないし、何よりも自分たちを巻き込んだと思われる男にはきっちりと自分たちを送り返してもらわなければならない。
 妙な気配のこともあるし、彼女は急いでその気配の元へと向かった。




第二話
       「異端者」




「おい、大丈夫か?」

「う、うーん」

 黒ずくめの男が、ウィノナを軽く揺すっていた。
気絶しているらしいウィノナを心配しているのだろう。
 
 古城の中庭からウィノナを運んだその男は、ウィノナが寒くないようにと黒いマントをかけて目覚めるのを待っていたところだ。
 特に危険な様子がないため、周囲にあった木片を暖炉に入れて暖をとっている。

 外には雪が降っており、あのまま中庭に放置していれば風邪でも引いてたはずだ。
 本当なら放置してもいいのだが、現状を理解するためだと自分に理由をつけながら、男は少女を介抱していたのだった。

「う……あ……れ……貴方、誰?」

 ゆっくり目を開けたウィノナは、目の前にいる奇妙な面をしている男に尋ねた。

「ああ、俺はテンカワ=アキト。 この建物の中庭で倒れていた君を、運んできた男だ。 君は?」

「あ、私はウィノナ=ピックフォード」

 上にかけられていたマントを返しながら、ウィノナはアキトの様子を見る。

――怪しい男。

 それが、まず初めにウィノナがアキトに抱いた感想であった。
それもそのはず、アキトの格好はといえば黒のボディーアーマーとボディースーツに黒のマント、おまけに黒のバイザーといった完全な黒ずくめであったからだ。

(だけど、悪い人じゃないみたい)

 黒いバイザー――ウィノナは変な面だと思っている――で表情は見えないが、目の前の男が自分の無事に安堵して笑みを浮かべているように見えたからだ。

「その、ありがとうございました」

「いや、気にすることは無い。 たいしたことはしてなしな。 それより一つ聞きたいんだが、君はここに初めから住んでいたのか? それとも変な光に連れて来られたのか?」

「え?」

 その言葉の意味するところは一つしかない。
目の前の男も、自分と同じように金色の太陽のような閃光に連れられてきたらしい。
ということは、この目の前の男もあの閃光の被害者なのだろう。
 そう考えると、妙に親近感が沸いてくる。

「私も貴方と同じように、変な光に連れられてきたみたい」

「そうか……なら、ここの場所も分からないだろうな」

 何かを考えるように天井を見上げるアキト。
そのアキトにつられて、ウィノナも思わず天井を見上げる。 だが、そこに何かがあるわけではなくただ埃をかぶったシャンデリアがあるだけだった。

 しかし、アキトには何かが見えているのか軽く舌打ちした。

「……上の階に何かがいるな。 人じゃない……これは、なんだ?」

「え、魔物!?」

「分からないな。 ただ、ここから離れたほうが良いかもしれない」

 ただ、うかつに外に出たら出たで不味いかもしれない。
アキトはそう考えると、ふとウィノナが口にした魔物という言葉を聞き返した。

「ウィノナ、魔物とはなんだ?」

「へ? 魔物は魔物だよ。 動物でもなければ人間でもない、凶暴な奴らじゃん」

「……なるほど。 地球外ならありえる話だ」

 まあ、願ったり叶ったりだが。
そう小さな声で呟いたその言葉は、ウィノナには聞こえなかった。

「とりあえず、何があるか分からないから気をつけておいてくれ」

 そういうと、アキトは懐から黒光りする何かを取り出す。
ウィノナには見覚えがなかったが、今はそれを気にしている場合ではない。

自らもボウガンを一つスカートの中から取り出すと、矢をつがえる。

「ボウガンか」

「うん、私奇術団でこれ使ってるからね」

「そうか、じゃあ行こう」

 アキトが先導し、ウィノナがその後を追う。
周囲を警戒しながら外に出るためのルートを探すのだ。

 上から妙な気配がする以上、外に出るのはまずいかもしれない。
だが、このまま居たほうがやばい気がする。 アキトは自らの勘を信じ、ゆっくりと通路を確認しながら、古城の中を進んでいった。

 一つ、二つ、三つめの角を曲がったときだった。
どこからか、馬の嘶きが聞こえてきた。

「あ、もしかして私の馬かも」

「馬か……先に探してみるか?」

「うん、奇術団の荷馬車の馬だから、返さなきゃいけないんだ」

「だが中庭からだったな。 連中が上にいるなら、バレるかもしれないが……なんとかなるか?」

 馬があれば機動力が上がる。
機動力があれば、この建物から逃亡するときもやりやすいだろう。
アキト自身は馬には乗れないが、ウィノナがいる。
 彼女に操ってもらえばどうとでもなるだろう。
黒光りするそれを握り締めたまま、アキトはウィノナをつれて中庭に飛び出した。

――その瞬間、上にいたはずの奇妙な気配が忽然と消えていた。





「気配が……消えた?」

 知覚する範囲内から突如として消えた気配に、杖を持った女性は眉を顰めた。
あれだけの気配、そして殺気を放つ存在が忽然と消え去る理由が分からなかったからだ。
 一人だけならまだしも、全部が一斉に消えたような感じだった。 
そんな真似をする理由とはなんだろうか?

 自問したとき、まず考え付いたのは動物が獲物を発見した場合だった。
狩りをする動物は目標を定めれば気配を消して近づき、奇襲をかける瞬間に全てをかける。
 もし、似たようなことをしているのであれば、彼らが狙う何かがいるということになる。
ならば狙われているのはこの建物の中に入り込んだ異物の4人以外に、いったい誰がいるというのだろうか?

 と、消えたはずの気配が再び発生する。
どうやら二人一緒にいた人間のところに現れたらしい。

 そこから続々と敵の気配が増えていくのを彼女は感じた。
その一部はどうやら自分のところにも向かってきているらしい。

「はぁ、よく分からないことばかり起こって頭がおかしくなりそうだよ。 でもまあ、未知を知るというのはこんなにも心が騒ぐものなのかもしれないね。 正に開拓者な気分だね……さて来るかな?」

 自嘲気味に笑ったそのとき、女性の目の前の窓ガラスが突如として突き破られた。
次々と現れる異形が、盛大な音をさせながら砕けた窓の向こうから次々と進入してくる。

「……狙いは私だったのかな? それとも全員か……まあいいや。 君たちがやる気なら、私も適当にやらせてもらうよ」

 羽の生えた人間、神話に出てくる悪魔のような姿の魔物たちがジリジリと距離をつめてくる。
見たところ10匹はいるだろう。
 それも、まだこれからどんどんと増えていくのかもしれない。
そういう危機的な状況であるにもかかわらず、女性は微笑みを浮かべたまま杖を構えて、悠然と彼らに向かっていった。

――次の瞬間、その場所は地獄と化した。




「ちぃ!!」

 背後から襲ってきた魔物の爪を、地面を転がりながらかわしてアキトは左右に握った黒光りする銃の引き金を引く。
 ダーンと、耳の鼓膜を震わせるほどの激しい音に、思わず驚いたウィノナだがアキトに言われた通り一目散に馬に向かって走っていった。

――まず、馬を手に入れる。

 その後、その馬でアキトと一緒にこの建物から離脱するというのが目的である。
そのために、アキトは囮を買って出た。

 中庭の上に浮かぶ奇妙なレリーフ。
今では両サイドに門のように開かれたそれから、大量の魔物が現れた瞬間にアキトがウィノナに頼んだのだ。 銃撃音が木霊する。

 アキトは襲い掛かってくる翼の生えた魔物を次々と銃で打ち落としていった。

「ちっ……数が多すぎるな」

 弾薬は無限ではない。
リボルバーに六発、デザートイーグルには七発である。
 一撃で仕留めることができればいいが、徐々に増えていくこの調子では弾を補充している暇さえ惜しい。

 アキトは木連式柔という武術が扱えるのであるが、この目の前の異形たちにそれがどれほど通用するのか疑問であった。
 口が耳まで裂け、全身を漆黒の毛で覆い、背中からは一対の翼を生やして宙を舞う魔物たち。
手に握り締めた武器は槍や長剣など様々であったが、それらが一度牙を向けば人間の体がどうなるかなど想像に難くない。

 できるだけ近寄ってくる敵から順番に頭部を撃ちぬきながら、ゆっくりとウィノナが走っていった方角に走っていく。

「GOOOOOOOOO!」

 魔物たちの咆哮が耳朶を打つ。
獲物を逃がすなと、仲間たちを炊きつけながら突き進む異形の軍団。

「ちぃぃぃぃ!!」

 振り下ろされる異形の槍を、紙一重で真横に飛んで避けると、頭部に至近距離から銃弾をぶっ放す。

 弾頭に頭部を貫かれ、緑色の体液と脳漿をぶちまけながら事切れる魔物。
だが、それの生死を判別する前にアキトは既に別の魔物と戦っていた。

 弾が切れたリボルバーを懐に戻し、木連式柔の型の一つを繰りだす。
至近距離からの掌打が魔物の腹に突き刺さるが、しかし魔物の動きは少し怯んだぐらいで、完全に止まりはしない。
 人間相手ならばかなりの威力を誇るそれは、しかし身体能力の差で効果があまりなかったようだ。
ならばと、アキトはデザートイーグルの引き金を引いた。
 
 ゼロ距離から一撃に、頭部を貫かれた魔物は銃撃の一撃によってのけぞり、仰向けに倒れ伏す。
すでに十体の魔物を屠ったアキトであったが、かなり疲労していた。
 そもそも一撃でも食らえば死ぬであろう攻撃を、全て避けることでやり過ごしていたのだから疲労が貯まってくるのは当然であった。

 一歩でも間合いを間違えば、容易くあの世行きだろう。
全身の神経を研ぎ澄ませ、無駄な動きと無駄弾を一切使うことなくアキトは戦う。

 後退しながらデザートイーグルのマガジンを取り外し、予備のマガジンを差し込み流れるような動作で銃を構え――発砲する。 リボルバーよりも弾薬の補充速度が速いことがありがたい。
 仲間が次々と倒されたことで銃の威力に怯んだのか、魔物たちの動きが遅くなる。

「アキト!!」

 そこへ、馬に乗ったウィノナがやってきた。
背後には、二匹の魔物を従えている。 どうやら、逃げ道はふさがれていたらしい。

「中に行くぞ、このままでは埒が明かない!!」

 馬に飛び乗りながら、やってきた道を引き返させる。

 背後から追ってくる敵に銃弾を浴びせて牽制しながら、アキトはウィノナの気丈な様子に感心していた。

 年の頃なら16、7ぐらいだろう。
少女ということを考えれば、その心の強さが今はありがたい。

「後ろの二匹、私が撃ち落したはずなのにまだ追ってきてる。 ただのボウガンじゃ駄目みたい」

「俺が銃で頭部を吹き飛ばした奴らは起き上がってこない。 狙うなら頭部だ、だが――」

「だが、なんなの?」

「俺の武器は威力はあるが、弾数が限られている。 長期戦は不利だ」

「え!? どうすんの、逃げ場なんてこの先ないよ!?」

 馬を走らせながら、古城の通路を突っ走るウィノナが焦りの声を上げる。

「――いや、そうでもないよ」

 と、いつの間にいたのかウィノナとアキトが乗る馬の横を追走する人影が反論した。
杖を背中に預けたまま走るそれは、妙齢の美女であった。

「え!?」

「な!?」

 気配を探ることに長けていないウィノナはともかく、アキトもまた本気で驚いていた。
だが、二人の驚きを無視した彼女はにっこりを笑みを浮かべながら遥か前方の扉を指差した。

「なぜかその扉の向こう側から先には奴らは来ないようだよ。 もう一人誰かいるみたいだから、その人と合流するといい。 多分、何とかなるだろうから。 後ろの彼らは私がなんとかしてあげるけどね」

「信用していいんだな?」

「そうしてくれると嬉しいかな? これから一緒に旅をする仲になるだろうからね」

「それはいったいどういう――」

 言葉を最後まで聞くことも無く、その女性はアキトたちが向かうほうとは反対の方向に走り去っていった。 だが、その方向には魔物しかいない。

 これでは自殺するようなものだ。
しかし、その心配は杞憂だったようだ。

 ズダァァンという何かが何かを叩き潰す音がしたかと思うと、杖を振り上げいた女性がやってきた魔物を叩き斬っていた。
 握っているそれは杖のはずだったのだが、彼女が扱えば長剣のようにバッサリと魔物が切裂かれていく。

 突けば槍、切れば剣、叩けば棒と、まるで三種類の攻撃を一本の獲物でこなすその女性は、さながら戦場の戦女神だった。
 空を飛べるとはいえ、屋内に入ったことで高度を取れない異形の魔物たちはその杖の餌食となっていった。

「な、なんなのよあの人!!」

「さあな……それより、扉だぞ」

「うわっととと」

 急いで馬を制御し、減速させる。
なんとかぶつかる前に静止できたことに安堵したウィノナ。
アキトはリボルバーとデザートイーグルに弾を補充すると、扉の向こう側の気配を探る。

 確かに、この先には嫌な気配はない。
あるとすれば、人の気配が一つだけ。 それも、殺気や邪気などではない。
 まるでただそこにいるだけだといわんばかりの微弱な気配。

「いくぞ」

 危険は無いと判断し、アキトはウィノナを後ろにしたままその扉を開いて中へと入っていった。




 杖が一閃されるたび、魔物の断末魔の悲鳴が轟いていく。

 どんな手品を使ったのか、どのような技術があれば可能なのかは知らないが、杖を剣と同じように扱いながら彼女は状況を分析する。
 一貫と名づけた戦闘技術を作り上げた彼女は、おおよその剣に近い形状の武器ならば獲物を選ばずに戦うことができる。 彼女が剣聖と呼ばれた所以である。

 さらに、彼女が威圧するだけで雰囲気に呑まれた魔物たちの動きが鈍くなる。
それだけでは終わらず、周囲の動きをすぐさま把握し先の先を取る動きで、行動される前に斬り飛ばし、突き倒し、薙ぎ倒す。
 縦横無尽に戦場をかけ、ある一定ライン以上に敵を寄せ付けない。
その戦術は後ろにいる三人のことを考えれば当然の処置であった。

「一貫・護剣、虎破の太刀!!」

 基本的な一貫の剣の型であったが、完成された技術に綻びなどありえない。
高速の二連撃を叩き込むと、また次の獲物へと忍び寄る。
 魔物が気づいて迎撃しようと動いた瞬間には、いつの間にか特殊な歩法で距離を詰めた女性が魔物を切り飛ばしている。 魔物たちは徐々に焦り始めた。

 目の前にいるのはただの人間、脆弱な人間のはずである。
天界の者でもなければ、自分たちの同属でもない。
 だというのに、何故ここまで我らが倒されていくのか。
知恵の少ない下級の者ばかりだったが、この完全に制圧された場を見れば自分たちの置かれている状況がどのような状況なのか理解し始める。

――自分たちは、敵にしてはならない者を敵にしている。

 そう自覚した彼らの一部は、仲間を残して後退していった。
その様子を見て笑みを浮かべる女性の様子に気づかぬまま、仲間の断末魔の叫びを聞きながら去っていった。 別に、彼女は途方も無いことをしているという自覚はなかった。
 彼女が戦ったことのある魔物と比べると、この世界の魔物が弱かっただけ。
そして、彼女があまりにも強すぎただけ。

――ただ、それだけのこと。

 しかし、彼女がいかに人間にしては強いとはいえ、それは完全に無敵であるというわけではない。
完成体と呼ばれはしたが彼女も人間であるし、その限界を普通に超えるのは難しいと自覚している。

 そして何より、永遠に戦い続けられる人間など存在しない。

 彼女だとて攻め続ければ体力は低下するし、集中力も落ちる。
ただ一人で集団と戦うという数のリスクと、体力の限界というリスクが彼女にはあるのだから。
 完成された戦闘技術があったとしても、限界はあるのだ。
だが、今回の戦いは彼女の完勝である。
自ら数の有効性を自覚せぬまま、闇雲に戦うだけの存在に彼女が負ける要素はなかった。

「もう、かなりめんどくさくなってきたね。 さて、死にたくなければついてこないことだね」

 対面していた一匹を斬り飛ばすと、後退する。
その際、周囲のマナを集めながら彼女は杖にマントを巻きつけて前方に投げ捨てた。

「さて、これで終わらせてもらうよ――」

 彼女が両腕の包帯を解き放つ。
瞬間、彼女の両腕から真紅の刃がいくつも現れ、螺旋を描いて中空を疾った。

 その螺旋の渦は、さらに空中でいくつもの帯状の刃となって視界を染める。
さしずめ、それは刃でできた薄布であった。 一瞬にして帯を伸ばし、通路一杯を真紅で染め上げるかのように刃が踊る。

 馬が走れる広さがあるとはいえ、限定されたこの空間において逃げ場さえ与えぬほどに広がった刃は、その獰猛な刃を突き立てるために次々と虚空を駆けていった。
――次の瞬間、通路の奥から向かってきていた敵が、逃れようの無い無数の斬撃を受けて滅多切りにされていく。 
 全ては一瞬の出来事で、切裂かれた彼ら魔物でさえ何に自分が斬り貫かれたかなど理解できてはいないだろう。

 そのようなモノを武器に戦うものなど、少なくともこの世界にはいないのだから。
至る所が切裂かれ、もはや生物として生存できない魔物たちは皆その攻撃によって肉塊と化している。

「ん、こんなものかな。 さて、最後の三人目は一体どんなヒトなんだろうね」

 黒ずくめの妙な武器を扱う男に、ボウガンを武器にしていた少女を思い浮かべながら、女性はゆっくりと少しだけ血で滲んだ包帯を両腕に巻きつける。

「ああ、そういえば途中から入ってきたあの二人でないなら残っているのはあの金髪の彼か」

 不思議なことに、彼女が先ほどまで展開していた薄身の刃は忽然とその場所から消えていた。
まるで、初めからそんなものは無かったと思わせるほどに。

 その後、杖とマントを回収するとゆっくりと彼女は歩き始めた。

「ん、逃げた……かな? まあいいや、あの変なレリーフが何であれ今は関係ないしね」

――いつの間にか妙な鐘の音とともに、不気味に魔物を吐き出し続けていたレリーフの気配も消え去っていた。





「動くな!!」

 味方かどうか分からぬ男が目の前にいた。
アキトは警戒しながらも、それが人間であるならばと思い声をかけた。

 先ほどの規格外の女性の言葉を信じるなら、この男の周りは安全だということになるが、果たしてそれが真実なのかどうか分からない。 ウィノナもボウガンを構えたまま、その男を見た。

 ゆっくりと、扉に向かって歩いてくる。
金色の長髪、完全な造形美によって作られた人形めいた端正な顔。 そして、その長身。
 全てが人間を超えているような錯覚を受ける。
ただ、その男はただ黙ってゆっくりとこちらに向かって歩んでくるのみ。
 蝋燭などの照明一つないこの広間において、しかしそれでもこちらの様子に気づかない道理はない。 ならば、なぜ目の前の男はこちらに向かって進んでくるのだろうか?

 アキトの持つ銃の知識がなかろうが、少なくともこの世界の人間ならばウィノナの持つボウガンに警戒するはずなのだ。 ならば、とアキトは思う。
 考えうる可能性は三つ。

(一つ、ここは薄暗い室内だ、もし向こうの目が俺と同じように悪いのならばこちらの様子を理解していないのかもしれない)

 ありえない話ではない。
目の前の男は見たところ調子が悪そうだ。 今にも倒れてしまいそうにも見える。

(二つ、これは演技でこちらの油断を誘っている)

 これもありえない話ではない。
この目の前の男がさっきの魔物などを操っていたというなら、それもありえるだろう。 だが、それならばこの場所にさっきの魔物が護衛にやってこない理由が分からない。

(三つ、この男単独で俺と彼女を倒すほどの力があるか、もしくは伏兵がいるかだ)

 しかし、本当にそうだろうか。
敵意も無く、伏兵の気配もしない。 そもそも、目の前の男の様子は明らかに普通ではない。
完全に弱りきり、それでも何かを探して彷徨っているようにも見える。

「……ね、ねぇこの人もしかして」

「ああ、無害そうだな」

 前に前に、限界の体で歩くだけの男。
よく分からないが、アキトには目の前の男が悪い奴ではないと本能的に感じていた。
 目指すのは扉の先か、それとも別の何かか。

 ウィノナとアキトの間にやってきても、二人を特に意識した反応もせぬままに前のめりに倒れこむ男。 アキトは、この男と話してみたくなった。

「……助けられるなら助けたいがな」

「そうだね、でも魔物がいるけど……大丈夫かな?」

 ウィノナの不安はもっともだ。
アキトだとて、アレらと相対したくはない。

 弾薬も補充できそうにないし、これ以上戦闘をするのは危険すぎる。
だが、この目の前の男を放っていくという選択肢をどうしても考えたくなかった。
 直感的に思ってしまったのだ。

――こいつは俺に似ている、と。

 理不尽か、それとも運命か。
何かの業を、苦難を背負い、それでも進み続けようとしているこの男が一体何を求めているのか、何のために何をするために生きてきたのかをアキトは漠然と知りたいと思った。
 それは、探し続けた者に触れたくても触れられなくなった男の抱いた羨望だったのかもしれない。

 求め続けることに、終着点はない。

 それは決してゴールの無いレースだということではないのだが、ゴールを歩き終えた自分のように、その後の身の振り方で悩むことはないだろう。

 走り続ける者は、いつだって走者であり続けるのだ。
闇に堕ちずにただ一途に求め続けたのならば、彼はアキトができなかったことを成し遂げられなかったことができる男であるということになる。

 ただ、純粋な思いだけを紡ぎ続けるということの難しさと、理不尽のおかげで闇に堕ちていくしかなかった男の抱いた、それは羨望にも似た感情だった。

 だから思ったのだろう。
全てが台無しになるなんて理不尽、この宇宙で生きている限り何人にも訪れることを知っているが故に。 

――この男を死なせるべきではない――と。

 そう、こんな形でこの男が死ぬことを許容するのは、夢を失った自分と、大切な者を奪われた自分のような人間を作り出す理不尽に自身も加担することになる。
その現実は、決してアキトに許せるモノではなかった。

「さっきの女性の手を借りることができれば、なんとかなるかもしれない。 まだこの建物の中にいると良いのだが……」

 杖で敵を切裂くなどといった達人クラスの戦闘技術を持つあの女性、アキトは彼女がきっと無事であると考えていた。

 正直、かなり強いと思う。
銃を至近距離で撃てれば勝てないことはないだろうが、あの白兵戦闘能力は一線を駕している。
 奇襲と、アキトの世界の近代兵器を使わなければ勝てないのではないかと考えていた。
と、そんな中建物全体に響くように重厚な鐘の音が聞こえてきた。

 チャペルの鐘よりは音が低く、危険を促すような警鐘よりも威圧感はない。
ただ、体の底から無意識に不快感や怖気を感じさせる類の音だった。
 しかしその音が鳴り止まった瞬間、忽然とある気配が消えていた。 妙な気配、あの一箇所に何人も詰め込んだような違和感のある気配の元がだ。

 今ではそれが、あの魔物を大量に召喚する門のようなレリーフのようなモノの気配だと理解してはいるが、いきなりそれが消えたことが不審に思えた。 

 いや、そういえばと思い返す。

(アレは真実門なのだろうな。 さしずめ、場所を選ばず任意の場所に開く地獄への門といったところか)

 自らの世界に、似たような門のようなもの、次元跳躍門――チューリップ――と呼ばれる存在はあったが、あのようないきなり現れてくるような不可思議なモノではなく、それはオーバーテクノロジーという名の科学で作られた、移動場所が固定された門であった。

 一応移動することはできたが、それ単体が瞬時に別の場所に現れることはできなかった。
魔物を瞬時に別の場所に呼び出すことができる門。
 アキトはその門の危険性を考え、しかしすぐに考えることを放棄した。
それ以上考えても今は意味が無いからである。

 現状を考え、魔物の気配が消えた今では、少しでも早くこの場所から離脱することを優先することにした。

「……ウィノナ、その男を馬の後ろに。 さっきの女性がいるうちに、脱出しよう」

「うん、いい加減ここにいるのも危険だもんね」

 こっくりと頷いたウィノナとともに、男を馬の後ろに担ぎ上げるとウィノナを馬に乗せたままアキトは入ってきた扉を警戒しながら開いた。

 が、目の前の気配の無い存在を視認した瞬間、銃口を彼女に向ける。

「――おや、やっぱり大丈夫だったようだね」

「!?」

 咄嗟に銃の引き金を引きそうになったアキトだったが、目の前にいるのがまったく敵意の無いさっきの女性だと分かって安堵した。

「ふむ、やっぱり金髪の青年だったか。 で、これから君たちはどうするのかな?」

 銃を降ろしつつアキトは、やや警戒を落として交渉を開始した。

「これからここを出て、どこか近くの街に行くつもりだ。 よかったら貴方もこないか? 俺たちだけでは少し心もとない」

「ん、それは構わないよ。 私としても同じ境遇の君たちと離れるつもりはなかったし、何よりも君たちはその青年を連れている。 なら、私は君たちと離れるわけにはいかない」

さも当然というように、女性は言う。 

「えと、貴方この人のこと知ってるの?」

 冷静に自体を把握している様子の女性に驚きながらも、ウィノナは恐る恐る問いかけた。
目の前の女性の規格外の戦闘力の一旦を見たのだ。 少し腰が引けるのは当然であった。

しかし、女性はそんな怯えの入った彼女の様子に苦笑しつつも、あっさりと答えた。

「いや、残念ながらまったく知らないんだよ。 私も、彼が目覚めたら話しを聞きたいと思っているよ。 光に巻き込まれた犠牲者としてね」

「……とりあえず、ここを出てからにしないか? お互いの状況は知りたいがこんな場所で長々と話したいとは思わない」

 異形が惨殺されている通路。
それを見渡しながらアキトは言った。
 ただ、その惨劇を作り出した女が、どうやって杖でここまで魔物を切り刻んだのか訝しんでいたが。
ウィノナもようやくその周りの様子に気がついたのか、目を丸くさせながら激しくうなずいた。

「あー、確かにそうだね。 じゃあ、とりあえず行こうか。 私の記憶が正しければ、ここから南西に行ったところに街があったと思うよ」

「そうか、ならばそこに向かおう。 ウィノナもいいか?」

「うん、もうなんでもいいから出発しよ」

 魔物の死体を踏まないように、慎重に馬を進ませながらウィノナは涙目で賛成する。
魔物に襲われていたときの気丈な様子とは違い、相応の年齢の少女の反応にアキトは口元を緩ませた。

「そうだ、大事なことを忘れていたよ。 私の名はミュラー=セフィス、二人のことはなんと呼べばいいかな?」

「俺はテンカワ=アキト。 アキトでもテンカワでもどちらで呼んでもらっても構わない」

「私はウィノナ=ピックフォード。 ウィノナでいいよ」

「了解だよ。 じゃ、いこうかアキトにウィノナ。 ――どことも知れぬ世界の、旅の道連れ君たち」

 そういうと、ミュラーは先頭を歩き始める。
どうやら先頭を勤めてくれるらしい。

 アキトとウィノナはミュラーの最後の言葉が気になったが、今は気にしないことにしてミュラーの後ろを追っていった。

 黄昏時の夕暮れは消え、空にはもう星が顔を出そうとしている。
暗黒の闇が迫り来るなか、しかし三人の足取りはそれには負けずしっかりとしていた。
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