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語られざる歴史を捏造して語ってみる03w

 2007-08-20
 古城から南に、さらに大陸に渡る橋に差し掛かったところで三人は一度休むことにした。
初めは闇夜の彼方、ミュラーが街だろうと思われる場所があると言った方向へと歩いていたのだが、そのうち星の煌きではない光に彩られた闇空が見えた。

 おそらく、それがミュラーが見たという街の明かりだったのだろう。
人工の光に照らされた闇夜を、その光を頼りに歩き続け、南西に進むさなか今いる場所が大陸からやや離れた小島であることが分かった。


 やがて大陸に近づく場所まで南下し続け、明け方になった現在では夜通し歩いた疲れを癒す必要があった。 ウィノナの見立てでは、馬を飛ばしても数日はかかるのではないかという話だ。 となれば、無駄な体力の消耗は抑える必要がある。

「さー兄ちゃん。 ここが今日の寝床だよーっと」

 アキトに肩を貸してもらい、古城で拾った青年を寝かせつつウィノナが言った。
馬に乗っているウィノナは、長時間の乗馬によって腰がいたくなってきたところもあって快く休憩に賛成し、今では、橋の手前にある岩場に倒れこんで盛大な欠伸をしている。

「ふふ、よっぽど疲れていたんだね」

 ウィノナに微笑みながら、ミュラーとアキトも岩場で各々体を休め始める。
馬に乗っていたウィノナと比べればかなり疲労がたまっていてもおかしくはないのだが、二人とも弱音一つ吐かずに涼しい顔をしている。 もっとも、アキトは顔に出ていないだけでその実かなり疲弊していたのだが。

「……誰でも夜中に強行軍で進めば疲れもする。 貴女はまだまだ余裕があるみたいだがな」

「ふふ、それじゃあまるで私は疲れ知らずの体力馬鹿のように聞こえるじゃないか。 これでも少しは疲れてきているんだよ?」

 おっとりとした笑顔に、小さな否定の意思を浮かべて言うミュラー。

「まあいいさ。 貴女はみたところ相当に強いようだし、そういう方面では心配がないことが分かった」

「おやおや、妙齢の女性に言うセリフではないよそれは」

「あはははは、確かにそうかも。 でも、ミュラーさん若そうに見えるけど、なんで妙齢なんて言い回しをしてんの?」

 無邪気なウィノナは、特に気にせずに年齢の話題に触れた。
確かに、ミュラーは自身が妙齢と言ったわりには若く見える。

 17歳のウィノナが、ミュラーをやや年の離れた姉だと言えば誰もがそれを信じるぐらいに。
パッと見ても25・26歳ぐらいにしか見えないだろう。 しかし、次にミュラーが行った言葉で二人をかなり困惑することになった。

「ふふ、まあこれでも私は60歳を超えているからね」

「「――は?」」

奇しくもアキトとウィノナの声が重なる。

「あ……え……それって冗談だよね?」

「さあ、どうだろうね」

 くすくすと笑いながら、冗談とも本気とも取れるように言葉を濁す。
アキトは冗談ととったが、しかしウィノナは違った。

「あー、そうか。 もしかしてミュラーはエルフ……耳がとんがってないからハーフエルフなんでしょ。 だったら確かにありえるかも。 彼らは長命だって聞いてるし……って、ミュラーはこの星の人間でもないんだったっけ」

 あははと笑い、自分の考えを自分で取り消した。
だが、ミュラーはそのハーフエルフという単語が気になった。

 長命であるということもそうなのだが、耳が尖っているという話に少し興味を引かれたのだ。

「ハーフエルフとはなんだい?」

「あ――私も本で読んだことぐらいしか知らないけどね、ハーフエルフってどこか忘れたけど大きな森に住んでるエルフっていう精霊と、人間との間に生まれた子供のことだよ。 エルフの長命さと、魔術を使う術を受け継いでるんだって」

「へぇ……なるほどね。 じゃあ後学のために聞いておきたいんだけど、その魔術ってなにかな?」

「うーん、私も直接見たことはないんだけど、マナを使って何も無いところから炎をだしたり、雷や風を操ったりできる術なんだって」

「……まるで幻想<ファンタジー>の世界だな」

 黙って話しを聞いていたアキトが、なんとなく口を開く。

「ファンタジー……ね。 確かに今の状況はそう思えてもしかたないかもね。 まあでも世の中は広いってことなのだろうね。 アキトの星ではそういうのが無かったからそう言えるのかもしれないけど、私の星でも多様なモノがあったよ」

 そういうとミュラーは遠い目をする。
彼女の世界には永遠神剣なるモノが存在し、それを扱える者の中には神剣魔法と呼ばれる魔法を扱える者が存在した。

「……そういえば、このお兄ちゃんを含めて三人は違う星から来たんだよね?」

「ミュラーの話が本当ならそうなるだろうな。 まあ、おれ自身もそれを確信してはいるが」

 闇夜の強行軍の最中、暇だったアキトが確認してみたのだ。
一番現状を把握しているミュラーに聞いてみると、ミュラーは驚くべきことにあの閃光の中から外の様子を見ていたという。

 ただ、自身が起きている間だけだという話だったが、それでもそれは貴重な情報となった。
閃光の中、偶に意識を覚醒した瞬間に少しずつ世界が変わり、いないはずだったアキトが何時の間にか閃光の中に現れ、次にウィノナが飲み込まれる瞬間を見たという。

 そして全ての記憶の中、閃光の一番前にいたのは今は目覚めぬ青年という話だった。
青年はその閃光の中から既に気絶しており、一度も動く様子はなかったという。

――全ては青年が目を覚ましてから。

 もどかしくはあったが、三人はまず事情が知りたいと思った。
好奇心も勿論あったが、それぞれに様々な理由がある。 

 アキトはあの時感じた親近感の正体を知るため。 
 ミュラーは未開の地を目指す理由を知るため。
 そしてウィノナは――。

「……おや? ウィノナは眠ったようだね」

「疲れていたようだったし無理もない。 とりあえず、交代で番をすることにしよう。 時計はあるか?」

「いや、無いけど?」

「なら、コレを渡す。 二時間置きにアラームが鳴るようにセットしておくから、交代に仮眠を取ろう。 すまないが、初めの二時間を任せていいか?」

「構わないよ。 君は顔を隠しているから分かりづらいけど、さすがに疲れていたんだね」

「すまないな。 それじゃあ任せる」

 岩にもたれたまま、瞳を閉じるアキト。
これで、起きている人間はミュラーだけになった。

「ふむ、こうしているとまるで引率の先生のようだねぇ。 セリアもこんな気分だったのかな」

 この星より遥かに遠い彼女がいた世界、『ファンタズマゴリア』と名づけられた世界の知り合いを思い浮かべながら、ミュラーは故郷の世界に思いを馳せる。

 しかし、それは長くは続かなかった。
不思議と彼女は元の星、元の世界という場所への思いが軽いことに気がついた。

「うーん、寂しさはあるんだけどねぇ……年をとりすぎたのかな?」

 もしくは、厳密な意味での故郷を失ったからか。
故郷から異世界に呼ばれ、その第二の故郷も移動し、ファンタズマゴリアという世界が故郷となったわけだが、流れに流れ、本当の故郷を失った彼女の帰るべき場所など、仲間がいた場所ぐらいしかない。

 そここそが帰るべき場所だとは認識はしているのだが、どうもピンとこないのだ。
帰るべき場所ではあっても、そこはもう生まれ変わった新たな故郷であり、厳密な故郷ではない。

 格段に済みやすくなったと思えばそれはそれで納得できるが、それでも心の片隅に残る故郷と呼べる場所にはもう帰る術は存在しないのだ。 長い放浪の旅、そして積み重ねた齢が彼女から望郷の念をほとんど奪い去ったのかもしれない。

「さて、このままただ見張るのもなんだし、少し火でも焚こうかな」

 離れすぎないようにしながら、岩場の周囲にある草木を集めていく。
だからだろうか。 彼女はウィノナの寝言にも似た言葉を聞くことはなかった。

「……なん……だ……よ。 なんで……そんな苦しい……ばっか……。 チクショウ――」




第三話

              「奇術団」



 ミッドガルズの都にたどり着いたときには、どういうわけか一週間ほどの時間が立っていた。
古城から都までかかった時間を差し引いても五日しかたっていないはずだったが、何故か二日の時間を飛び越したことになっている。

 しかも、通常なら別の世界に行くはずの閃光がたったそれだけの誤差だけで済んでいるという事実から、元々の目的地がここだったか、もしくはそれ以上跳ぶための力が尽きたかが考えられた。
 五日間、目を覚ますことなく眠り続けた男のことを考えると後者の説が濃厚だろうというのがアキトの推理だった。

 星を、世界を超えるほどの力など果たしてどれほどの体力、精神力を消耗するのか。
その疲労の大きさを、似たような移動手段を使っていたアキトだけはある程度想像できた。
 奇術団に帰り着いたウィノナのおかげで宿には困らなかったものの、今だにこのあたりの様子が分からなかったアキトは、とりあえず彼が目覚めるまではこの街に滞在するつもりである。

 今は、同じくこのミッドガルズの街を知るためにミュラーと連れ立って歩いているところだった。

「……ヨーロッパ系か。 まあ、どこの世界でも人間という種族の文化は似てくるということか」

 中世のような街並みであったが、これは果たしてそれだけではなかった。
むしろ中世そのものだと言っていいだろう。 原寸大のファンタジー世界に迷い込んだようだと、そんな風にアキトは思った。

 しかし、ミュラーが抱いた感想は違う。

「へぇ……なかなか活気があるね」

 元々彼女がいた世界はアキトの世界ほど科学が発達した世界ではない。
どちらかといえばウィノナのいる世界と似たような感じの世界である。 興味深そうに周りを見ながらも、ミュラーはその街並みに溶け込んでいた。 ミュラーのそれは旅人とでも言えば頷けるほどにしっくりくる服装なのである。

「今日は祭りの最終日らしいし、最後の盛り上がりといったところなのだろうな」

 酒に酔って道端に寝ている酔っ払い、楽師の奏でる音色に屋台の親父の野太い声、さらには人々の喧騒が加わっている状態で、活気が無いなんてのは嘘だ。 それほどに人々は盛り上がっていた。

「おー、姉ちゃんいい胸してるじゃねぇかよ。 どうせなら全部俺に見せてくれよ、げへへへへ」

「酔いがさめたら考えてあげるよ」

 絡まれること数回。 豊満な胸の辺りにあるスリット部分に釣られる酔いどれたち。
 ミュラーは適当にそれらをやり過ごすが、中にはしつこい男やいきなり抱きつこうとする男もいる。 そんなときに唸りをあげるのが彼女の持っているやや長めの杖――ではなく、彼女が身に着けた一貫という戦闘技術だった。

「姉ちゃんよぉーーー、俺といいことし――ぐえ!!」

 背後から抱きつこうとした男が、それを事前に察知していたミュラーによって地面に勢いよく投げられる。 背中にかかる衝撃によって、息を詰まらせ目を回す酔っ払い。 酔いと三半規管を刺激するその一撃は、容赦なく酔っ払いに止めを刺した。

「……見た目と態度の割りには、えげつないな」

 起き上がってくることの無い男たちを見ながら、巻き込まれないように離れたアキトが言う。

「なに、死なないようにきちんと手加減してあげているから大事になることはないよ」

「確かにそうだが……誰も起き上がってこないぞ?」

「これで誰かに迷惑をかけることもないだろうし、しばらく寝ていれば酔いも覚めるよ」

「……まあ、絡まれているのはミュラーだからな」

 隣を歩いているアキトには迷惑はほとんどない。
その黒一色の姿と見慣れない黒のバイザーのおかげで近寄りがたい雰囲気があったからだ。

 もっとも、ミュラーと親しげに話しているアキトには嫉妬の視線がいくつかあったのだが、その独特の雰囲気と遥か西の大陸のユークリッド豪族に仕えるという黒騎士を思わせるような装備が、アキトへ絡むということをさせなかったわけだが。

「でも、どうして私が絡まれるんだろうね? 私よりも綺麗な女性などいくらでもいるだろうにね」

 自覚していないそれは、嫌味にも聞こえるかと思えばそうでもなかった。 本人が心から言っているということもあるし、ミュラー自身がそれを認識して意識していないが故にまったくそういう風に聞こえないのだ。

「それに、隣をアキトが歩いているのに絡まれる理由がわからないんだけどね」

「……俺に言われてもな」

 酔っ払いの思考などアキトには理解できない。
そもそも酒の酔いなど、アキトにはもう理解できないのだから。

 ただアキトに分かったのは、ミュラーがそういう方面で酷く無頓着であるということだけだ。

「そうだ、こうすればもう絡まれないかな?」

「――おい、何故腕を組む?」

「何故って、さっき話してたじゃないか。 これなら絡まれることはないだろう?」

「……」
 それで問題が解決するのか、アキトには疑問だった。
ただ、誰かに腕を組まれるという感覚は久しくて、一瞬忘れたはずの誰かの顔を思い出してしまった。

「――好きにしろ」

 だから、その誰かを追い出すためにアキトは拒絶しない。
彼女のことはもう忘れ去ったはずだから。 触れられない誰かを、忘れ去った誰かを思い出すなんて惨めな真似など許せない。

 資格も無い。

 だから振り返ることもなく、自身はただ亡霊のように世界を彷徨うのみ。
鋼鉄の意志で、自分を引き止める仲間たちを捨てた自分にはそれこそが相応しい。
 バイザーの奥の表情が、苦痛に歪む。 弱さという名の苦しみが、今もまだアキトを攻め立てていた。 だが、それもミュラーの言葉ですぐに霧散した。

「うん、じゃあお言葉に甘えてみようかな」

「――ああ」

 ミュラーが歩きやすいように、昔そうしていたように無意識に歩幅をあわせる。

「驚いた、拒否するかと思ったのに」

「して欲しいのか?」

「そうだね、あまりして欲しくはないかな。 私ももう女の子という年じゃあないけれど、一応は女性だからね」

「あんたなら多分、誰も拒否なんてしないだろうさ」

「そうかな? うーん……あまり意識したことがないから分からないね」

 アキトからすれば他愛も無いことだったが、自分からやっておいて少し恥ずかしそうにしているミュラーに、アキトは少し笑ってしまう。 どうも、目の前の女性の戦う姿を目の前で見ていたからか、こういう初心なところを見てしまうと可笑しく思える。

「おやおや、一体何が可笑しいのかな?」

 様子に気づいたミュラーが、アキトに笑う訳を問う。
だが、アキトはそれには答えず話題を変えた。 まだアキトは命が惜しかった。

「そんなことより、ウィノナのところには戻らないのか? 十分にこのあたりの街並みを把握したはずだが……」

「まだもう少し見てみたい気もするけど、確かにもう十分だね。 ウィノナのところに戻ろうか」

 周囲の街並みは大体覚えた。
中心の城には興味があったが、それはまた今度見ることにすると、ミュラーはアキトの腕を引いて来た道を戻っていく。 組んだ腕は、まだ繋がったままだ。

「――まるで、あいつみたいだな」

――アキトーー、こっちこっち!!

 脳裏をよぎる彼女の天真爛漫な呼び声。
自分を引っ張っていくことを楽しんでいた彼女の姿が、またもミュラーと重なる。
 重ねる気は無いのだが、重なってしまう。 だから、そんな自分に苛立ちながら、弱い自分をバイザーの奥にしまい込んでミュラーを認識する。

「ん、どうかしたかい?」

 銀髪が揺らしながら、振り返ったミュラーが下から覗き込むようにアキトを見上げた。
どうやら、彼女は自身のことには無頓着だが他人のことには敏感らしい。 達人が感じる気配の感覚から、なんとなく分かってしまっているのかもしれない。
 
 だがそれは決して不快ではなかった。 付かず離れずさっぱりとした距離感でありながら、立ち位置が窮屈ではなく、自然体でいられるこの心地よさはなんなのだろう。 アキトはただ漠然とそれに”救われた”ような気がした。

 瞬間、彼女の声が消えた。
 幻視を現実が侵食した。

 自身の全てを飲み込み込む感覚ではなく、包み込む感覚といえばいいだろうか。 母性とも呼ぶべき何かだったのかもしれないそれは、果たしてミュラーの持つ魅力なのか。 アキトは急に恥ずかしさを覚えた。  これではまるで、母親の腕の中で守られている子供そのものだ。 いい大人になった自分が、一体どうしてそんな思いをしなければならない?

 咳払いを一つして、アキトはミュラーに一言だけ言った。

「……あんたは、天然の男殺しなんだな」

「――え、てちょっと」

 困惑するミュラーが聞き返すのには答えずに、アキトは前へと歩き出す。 急に前へと歩かれたことでバランスを崩しかけたミュラーだったが、そこは持ち前の身体能力でやり過ごし、アキトに抗議する。

「急に歩かれたら危ないじゃないか。 それに男殺しとはまたすごい言い回しだよ。 どうしてそんなことを言うのかな?」

「天然をつけ忘れるな。 それより、プリンス・オブ・ダークネスのエスコートでよければ、奇術団まで送るがどうする?」

「闇の王子様ねぇ……驚いたよ、まさか君がそういうことを言うとはね。 堅物かと思ったけど、冗談も言えるんだね」

「いきなり腕を組んできたミュラーがそれを言うのか?」

「ふふ、それもそうだね。 じゃあお願いするよ闇の王子様」

「ああ――了解したよお姫様」








 ミュラーとアキトが二人で街に出ていた頃、ウィノナは奇術団の一室のムスッとした顔で悩んでいた。

「はぁ……これからどうすればいいかな」

 奇術団に帰ってきてから、ウィノナの悩みといえばこの目の前の青年についてだった。
アキトとミュラーは別にいい。 彼らがいたからこそ生きているのだと思えるし、自分一人だけだったなら魔物にやられていたかもしれない。

 そう考えると、彼らはちょっとした恩人とも言える。
それを団長に言ったとき、団長は嬉々としてアキトとミュラーの奇術団での滞在を認めた。
 ウィノナのことを自身の宝だと言って憚らない団長は、娘の恩人である二人には寛大であった。 だが、この目の前の青年に関しては特に何もない。

 むしろ、少し怒ったような様子であった。 もっとも、この青年をほっぽっていたら、やっぱり団長は怒ったことだろうが。 奇術団は人の縁を大事にするし、人の過去を詮索しない。 様々な理由がある者たちが集っているのが、今の奇術団だからだ。
 
 ウィノナだって、幼いとき団長に拾われていなければとっくの昔に死んでいたかもしれない。
そういうことを考えると、団長はきっと行き倒れた誰かを助けることを躊躇するような娘に育てたはずはないと言うだろう。 しかし、この眠ったままの青年はどうすることもできないのは事実だった。

 今だに昏睡状態に陥っている青年に視線を移し、改めてその様子を見る。 
 まず目がいったのは、やはり青年の顔だった。 じつに丁寧なつくりをしており、中性的な顔立ちをしてる。 長い金髪のこともあってか、もしかしたら女性と見間違えられることもあるのではないだろうか? 

 だが、そんなプラス面だけではなく、少しばかり気味が悪いと感じることもある。

――丁寧すぎるのだ。

 まるで、黄金率によって計算尽くされた美術品のようでもあるのだ。
ミュラーに対して長命という観点からエルフかと問うたことがあったが、この青年のほうがよくよくみればよっぽどエルフに見える。

「……耳は丸いんだよね。 尖ってないし、ハーフエルフかな? でも……なんとなく私たちの側にいるとも思えないかも。 まさか精霊ってオチじゃないだろうけど――」

 そもそも、この青年もこの世界の定義には当てはまらない。 だとすれば、こちらの言葉で当てはめられない存在なのかもしれない。

「ま、どんな奴だとしても悪い人間じゃなければいいんだけど……」

 同じく異邦人であるというアキトとミュラーは付き合いは浅いが、お人よしのような匂いがする。 ミュラーはおっとりとした笑みを絶やさず、年長者のように面倒見がいい。
 アキトに関しては、黒一色というセンスと顔に当てているバイザーなるモノに引きそうになるが、そのクールな外見のわりには人を気遣う優しさを持ち合わせている。 三人中二人に好感が持てるなら、この青年ももしかしたら人がいいタイプなのかもしれない。

(そうしたら、なお更悲しいんだけどなぁ)

 アキトも知らず、ミュラーも知らない何かをたった一つだけ彼女は偶然に知らされていた。
今はまだ誰にも言ってないし、誰かに言うつもりもない。 けれどそれは、考えれば考えるほど苦しくなる類のモノだ。 だがらこそこの青年を見続けるとイライラとしてくるのだが、ウィノナにはこの青年に対する恨みなどはない。 だから、目覚めたら普通に振舞おうと思う。
ルール違反のような言葉を、この青年にかけるなんてのはとても不条理だと思ったから。

「そういえば、ミュラーとアキトは何時ごろ戻ってくるんだろ」

 街の様子を把握したいから出てくるといって、二人して散策に出かけている異邦人二人組み。 アキトなど、やはりあの黒服で街中を闊歩しているのである。 団員の一人が服を貸してやろうかと聞いてきたのだが、大事なものだからと丁寧に断っていた。

「なーにがあるんだろうね。 あの黒服とか変なバイザーってやつにはさ」

 眠ったまま答えない青年に話しかけながら、ウィノナは呟く。
と、そのとき部屋にノックの音もなく突然に青年に興味を持っていた団員たちがドタバタと入ってきた。

「ウィノナ、いい男を捕まえたんだって!! 見せて見せて」

「うえ!?」

 いきなりの乱入に戸惑ったウィノナだったが、踊り子たちの嬉々とした表情を見てついつい頷いてしまう。 眠っている青年は見た目はかなりの色男なのである。 細身の長身だし、軟弱という感じの男とは違い肉体もかなり鍛えられているように見える。  踊り子たちはそろって青年の寝顔に目を奪われ、うっとりとため息をついた。

「はな垂れのガキだと思っていたが、ついに男を連れ込むようになったか。 団長がそいつのことで泣いてたぞ?」

「誰がはな垂れのガキよ。 もう私だってしっかりした乙女なんだから」

 副団長を兼任する楽師の男に抗議する。

「同じ部屋に男を連れ込んでるって団長がスネてるんだぞ? 後でご機嫌とっとけよ」

 笑いながら竪琴を鳴らし、詠うように楽師が言う。

「要するに、心配かけたんだから謝れってことでしょ? それはもう帰ってきてから一杯したから大丈夫なの」

「ならいいさ。 だけど団長が驚いてるのと同じで、俺たちも驚いてるのはほんとさ。 ほんと、大きくなったよウィノナはさ。 けど、団長はお前の”親父”だからな。 涙腺が緩むこともあらーな」

 一番古株の楽師は、そういうと踊り子たちに囲まれている青年に目を向ける。
まるで品定めでもしているかのように目が鋭かったが、すぐにいつもの営業スマイルに戻るとウィノナに言った。

「あいつがお前さんが連れ込んだ男……ね。 これは楽師としての勘だが、ああいうのはモテるだろうからしっかりと捕まえとけよ?」

「うるさいよ。 それに私とそいつはまだ話したこともないんだからそんなことあるわけないじゃん」

「あ、そうなの? 残念だな……眠れる王子様と奇術団のトップスター、今度詩にでもしようかと思ったのに」

「するなーーー!!」

 顔を真っ赤にしてウィノナは楽師に怒鳴った。 今にも副団長に掴みかからない勢いである。

「はっはっは、じゃそろそろ団長今夜の打ち合わせしてくるわ。 それに、これ以上ウィノナをからかってゴッドファーザーでもぶっ放されたくないしな」

 笑いながら去っていく副団長の背中に、本当にゴッドファーザーの巨大ブーメランをぶちかまそうと思ったウィノナだった。 もっとも、あの楽師なら笑ってかわしそうだったが。

「さて、なかなかいい男ってのはわかったけどさ、実際どうすんのこれから?」

「え――これからって?」

「決まってるじゃない、これからこの青年をどうするかってことよ。 犬や猫じゃないんだからほっぽり出すわけにはいかないっしょ?」

「あ――やっぱり駄目?」

「当たり前でしょう」

「じゃあウィノナは一抜けでいいね? 皆ぁーーウィノナがほっぱりだしたこの人を誰が看病するか勝負よーーー」

 年長の踊り子がそういうと、踊り子たちは皆黄色い声援をあげながらその踊り子を褒め称える。

「ふ、これで私たちにも春が来るってもんよ」

 そういうと、どういう勝負にするつもりなのか踊り子たちは一斉に部屋を飛び出していく。
広い場所で決着をつけるということなのだろうか? ウィノナは引きつった笑みを浮かべながら、その様子を見ているしかなかった。

「――あ、そうそうウィノナ」

「うわっ、な、なんなのさ副団長!!」

「とりあえず、避妊だけはしとけよ」

「――な!? こ、このエロ楽師がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ウィンクしてそのまま去っていこうとする楽師に向かって、ウィノナは躊躇無くゴッドファーザーを構え、引き金を引き絞る。 瞬間、宿が震えるほどの轟音が木霊した。 発射された特殊ブーメランが、砲弾の威力をそのまま宿屋の壁にその獰猛な威力を開放する。
 
 壁を突き破り、地面に落ちるブーメラン。 それはボウガンの域を超えている一撃だった。
ペタンと通路に腰を落とした楽師の真上に、大きな穴が一つある。

 勿論、副団長はかろうじて生きてはいたが、すぐに大二撃目、ディープインパクトをコメカミに当てられ、これ以上からかったら引き金を引くというウィノナの凄みに、自らの死を確信した。

「さて副団長、ゴッドファーザーのブーメランを回収して、ついでにそこの穴修復しといてよね。 自業自得なんだから……ね?」

「――わ、わかった」

 急いで工具を取りに言った副団長の姿を見ることなく、ドアの閉める。
と、一瞬眠ったはずの青年の声が聞こえた気がした。

「…………」

 確かに、声が小さかったが何かを言った。 耳を青年の口に近づけて聞いてみる。

「――カーラーンって…………なにさ?」

 辛うじて聞き取れた言葉。 しかし、ウィノナにはその言葉の意味が分からなかった。

 その後、しばらくしてアキトとミュラーが帰ってきたのだが、ウィノナの部屋の前にある壁の穴を見て訝しがった。

「ウィノナ、これはどうしたんだい?」

「あー、大きなネズミが出たからつい私がボウガンで撃っちゃったのよね。 ね、副団長?」

「あ、ああ。 そりゃもうでかいネズミでな。 思わず奇術団で雇おうかと思ったぐらいでかかったぞ」

「……さすがファンタジー。 ネズミでも侮れないのか」

 感心したように呟くアキトだったが、ウィノナと副団長はただ乾いた笑みを浮かべるのみだった。





「コレにて今宵は閉幕でございます。 皆様方、また来年お会いしましょう!!」

 奇術団のミッドガルズでの最後の公演は、観客の溢れんばかりの拍手によって幕を閉じた。 拍手喝采、声援の雨が響き渡り、奇術団の見世物を評価していた。 確かに見世物としては楽しめるものばかりで、この祭り時期の街の住人からすればいい刺激になったことだろう。

「大したものだな」

「うん、いい見世物だったよ」

 ゆっくりと、公演場から去りながらアキトとミュラーは感嘆していた。
人を感動させる技というのは、ただすごいだけでは駄目なのだ。 人を引き付ける魅せ方、タイミング等の要素が必要になってくるはず。

 それが全てに妥協などなく、一芸一芸に篭った熱意のようなモノがひしひしと伝わってきた。
五感が聞かなくなって以来、そういう人間の雰囲気というものを感じることに長けたアキトは、何ともいえぬ高揚感に酔っていた。 背後から聞こえる拍手の音が心地いい。

 何ものにも心を煩わせることもなく、純粋に何かを楽しむなんてこと久しぶりなのだ。
昂ぶらないなんて嘘だ。 隣を歩くミュラーも、一言喋って以来言葉を続けなかった。
恐らくは余韻を楽しんでいるのだろう。 二人とも無言だが、今はそれでいいと思っていた。

 しかし、沈黙は何時だって破られる。 静寂は永遠ではないのだ。 奇術団の宿へと向かうさなか、見知った声が聞こえてきた。

「ちょっとアンタ!!」
 
 水路を繋ぐ小さな橋の上を歩く男を、ウィノナが呼び止めていたのだ。 月明かりに照らされるその二人は、時間的に逢引ととられても仕方が無いだろう。 しかし、それはまだありえないということを二人は知っていた。

「ウィノナに……彼のようだね。 目が覚めたんだね彼」

 眠ったまま目を覚まさなかった金髪の青年。 アキト、ミュラー、そしてウィノナを閃光に飲み込んだらしき張本人だ。 その青年は振り返ってウィノナの方を見るが、いぶかしげな視線を向けただけでまた先に歩き出そうとした。

「シカト!? ムカーーっ!!」

 先回りして男の胸倉を掴みあげると、ウィノナが怒った顔で怒鳴る。 旅の疲れと、”嫌な夢”を見たことで出たイライラのおかげで、鬼気迫る勢いで公演をして客を怖がらせてしまったため、先に宿屋へと帰されていたことへの八つ当たりもあったのだろう。
 一応あの危険の残る古城からここまで連れてきたということと、巻き込まれたということの怒りもあった。

「なんなんだよその態度!! それが一応の恩人にする態度なわけ!?」

 青年は困惑するような目でウィノナを見る。
言葉を捜しているのか、それともウィノナが言っている意味を理解できていないのかは分からない。 だが、ウィノナはその怪訝そうな表情を馬鹿にしていると取ったらしい。

「ぎーーー、すげームカつく!! その馬鹿にしたような目!! ケンカ売ってんの!?」

 ウィノナの怒りのボルテージは止まることを知らないのか、言葉遣いが徐々に汚くなっていく。

「……君は誰だ?」

 胸倉を掴まれたままの青年は、ようやく言うべき言葉が見つかったのか一言そう言った。

「あー、確かに彼はウィノナのことを知らないだろうねぇ……」

「当たり前だろう。 彼はずっと寝ていたのだからな」

 青年が理解できないのも無理は無い。 恐らく、先に帰ったウィノナと宿ですれ違いでもしたのだろう。 奇術団の面子は公演のために全員でていたし、誰もいないなら誰かに何かを尋ねることもできまい。 周辺の様子を知るために外に出て、いきなりウィノナに絡まれていると。

「なにぃ!? 恩人に向かってその態度! ゆるせーん!!」

「恩人? 私の? …………初対面ではなかったか?」

「な!?」

 よくよく考えればのその通りなのだ。 ようやくそのことに思い至ったウィノナは、青年の胸倉を掴んでいた腕を放す。

「えーと、……そういえば、そうだっけ。 あんたはずっと寝てたんだった」

「……ここはどこだ? 何故、私はここにいる?」

「あう……えーと、ああもう!! どこから言えばいいかな……」

 説明しようとして頭を抱えるウィノナ。 そこに偶然様子を見ていた二人が助け舟をだした。

「ここは君が流れ着いた星で、ミッドガルズという街だよ。 そして目の前の少女はウィノナ・ピックフォード。 私たちと一緒に君を安全な場所に運んだ人間だね」

「ミュラーにアキト!!」

 声をかけてきた第三者。 青年はようやく事態を把握したのか、合点がいったというように頷く。

「そうか、理解した。 それで彼女――ウィノナは恩人という言葉を使ったのだな」

「ああ、えと、……うん」

「見ず知らずの私を運び、介抱してくれたことを感謝する。 私はこれを永遠に忘れず、心に留めておこう」

 青年はウィノナの前にひざまずくと、どこかの貴族や王族のような仕草で頭を垂れた。
その様が端正な顔立ちの青年にあまりにも似合っていたから、ウィノナは思わず顔を真っ赤にする。

「ちょ、ちょっとそこまでしなくてもっ! そこまでしてもらいたかったわけじゃないから! ごめん!」

 ウィノナはどこぞのお姫様でもなんでもない。 ここまで畏まった言い方には免疫がなく慌てふためいた。

「貴公と貴女にも感謝を」

「いや、大したことをしたわけじゃないし別にそこまでの感謝はいらないよ。 ね、アキト」

「ああ、それより聞きたいことがあるのだが……体はもういいのか?」

 ずっと寝ていたのだ。 体の心配をするのは当然の配慮だった。

「もう大丈夫だ。 まだまだマナが足りないが、気絶するほどではない」

「マナが?」

 ミュラーはその言葉に眉を顰めたが、それを尋ねる前に先にアキトが声をかけていた。

「まずは自己紹介と行こうか。 俺の名はテンカワ・アキト。 お前の時間航行に巻き込まれたと思われる人間の一人だ」

「私の名はダオスだ。 そうか……時空転移の巻き込んでしまったのか、すまない」

「俺だけじゃなく、隣にいるミュラーも、そしてウィノナも巻き込まれている。 ウィノナは幸い時間だけで星が違うわけじゃないが、俺とミュラーは完全に別の星の人間だ。 お前に俺たちを故郷に返す力は残っているか?」

「……言いにくいが、かなり難しいとしか言えない。 私は今かなり疲弊している。 君たち二人を送り返すだけの余力は現段階では無い」

「……そうか」

 不思議と、その言葉には悲しみも怒りも無い。 ダオスと名乗った青年は、アキトのその反応に驚いた。

「……貴公は故郷に帰りたく無いのか?」

 ダオスには信じられなかった。 怒り、その拳を向けられることすら覚悟していたというのに、目の前の黒ずくめの男はその様子すらみせずどこかすっきりとした様子で天を仰いでいたのだ。 そして、おもむろに顔を覆っているバイザーを取り払った。

「!?」

「アキト!?」

「君は!?」

 アキトはバイザーを外した。 その様子を見た三人は驚き意外を発することはできなかった。
 目は焦点が合っていないのか濁っているように見える。 見えているのか見えていないのか、それすらも分からないほどだ。 だが、そんなことで三人が驚いたのではなかった。 もっと、圧倒的に常人とは違う何かがあった。

「君は……その光は……」

「なんなのアキト……それ――」

 顔に走る白い光。幾何学的な紋様にも見えるし、意味不明で抽象的な図形を描いた光る刺青のようにも見える。 だが、それは決して”そういうもの”ではない。
 そういうモノであったなら、誰かに見せるような意図であったならばアキトは恐らく顔を隠したりはしないだろう。

「故郷に帰りたくないのか……か。 帰りたくないわけじゃないさ。 ただ、俺は元々故郷に帰れない人間、帰ってはいけない人間だ。 だから、俺は今お前に感謝しているぐらいだ。 これからはもう帰れるなんて幻想を抱かずに済むんだからな」

 凍るような笑みを浮かべながら、アキトは言った。 淡く光る光の本流。 顔だけでは無く体全身がその光を放っているが、それを知っているのはアキトだけだ。 黒のマントに覆われた体をうかがい知ることなどできはしない。 ただ、目から光る液体だけが歓喜か絶望なのかをより不鮮明にしたことだけは確かだった。

 ダオスには判断ができない。 会って間もない人間の思考など、分かるはずがない。 少しの間だけ時間を共にしたミュラーとウィノナも、その涙の意味を知ることはできなかった。 ただ、ダオスには一つだけだが分かることはあった。

「……貴公も私と同じようだな。 私も故あって故郷に帰ることはできない。 目的を達するその日までだが、帰りたくても帰られないという苦しみは分かる気がする。 だから、もう一度謝罪させてもらいたい……すまない」

 ただその一点だけ、自らも感じる悲しみをダオスは理解した。

「故郷を思う未練など、帰るべき場所などもう俺には必要ない。 ある意味ここは俺にとっていい安息の場所になるだろう。 だが、可笑しいんだ。 俺は、感情が昂ぶるとこうして体が光る。 頭の中を実験でかきまわされて、光るように奴らにされた。 復讐が終わって、残りの敵を全て倒して……後はただ消えるだけだったというのにどうして……嬉しいはずなのに、何故こんなにも俺の体は発光しているんだ? 手間が省けて楽なのに、どうしてこんなにも俺の目からは涙が出る? 誰か……教えてくれ――――」

 ダオスは何も言えなかった。 事情を知るわけでもなければ、その悲しみの全てを知っているわけでもない。 だからただ、深く深く謝罪するために頭を下げる他は無かった。 それしか、今はできることが無かったのだ。

「昂ぶった感情の発露、それが君の心を表しているんじゃないかい?」

「――かもしれない。 でもミュラー、俺は思ってしまったんだ。 この世界で、誰も俺を知る者がいない世界でなら俺はようやく安息を取り戻せると――」

 胸を締め付ける望郷の念。 ミュラーが不思議と感じなかったそれを、アキトは胸が痛くなるほどに感じていた。

「――だが、どうなんだろうな。 俺は一体どうしたいんだ? 頭では理解しているつもりだ。 ここにいればそれなりに静かに暮らせるだろうと思う。 こんな体だが、生きていけないほどじゃない。 五感がほとんど死んでいた昔より少しはマシになっているし、バイザーとこのスーツがあれば、当面は問題ない。 でも……分からない、分からないんだ!!」

「――まあ、大事なことだけれどその答えは自分で見つけるしかないだろうね。 ダオス、君はさっき言ったね、今はと。 君の力が回復すれば、彼や私を帰すことはできるのかな?」

「……それもまた難しいと言わざるを得ない。 私は故郷の時間を覚えてはいるが、テンカワ・アキトの故郷の星の時間を知らなければ場所も分からない。 それにこの星で私の力を回復できるかどうかもまだ分からないのだ」

「……そうかい」

 帰るのは絶望的ということか、とミュラーは呟く。

(アキトもそれで覚悟が決まればいいのだけれど……)

 不思議と望郷の念がそこまでない自分には、これ以上何かを言う資格など無いだろう。
結局は自分がどうするか、どうしたいかである。 帰りたいのならば、ダオスと共に彼の力を回復させる方法を探すだすなり、他の方法を探せばいい。 そうではなく、この場所で朽ちるという選択をするというのも有りだ。 時間はまだある。 最悪の場合は、彼が故郷に行き着くまでの時間を自分が”作って上げれば”いい。 ミュラーは手助けすることも念頭に置きながら、今はただアキトが落ち着くのを待とうと思った。





 しばらくして、発光していた顔が元に戻ったことを確認すると、アキトはバイザーを被る。

「すまない、見苦しいところを見せたな」

 いつもの雰囲気だった。 ウィノナはその様子に安堵し、ミュラーは自然な態度で接することにする。

「さて、いつまでも外に出ているわけにもいかない。 宿に戻ろうか」

「そうだね」

 頷くウィノナを先頭にして、アキトとミュラーが後を追う。 ダオスもまた、その後を追った。 
 彼にはまだ目的がある。 一所に止まるわけにもいかなかったが、恩人と巻き込んだ人間というこの三人の前からすぐに姿を消すことなどできはしない。 ゆっくりと、これ以上体に負担をかけないように後を歩く。
 途中、ウィノナが引越しというよりは夜逃げに近い一家の少女リアとぶつかったが、それ以外では特に変わったことはなかった。

 このときはまだ――。


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