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語られざる歴史を捏造して語ってみる04w

 2007-08-20
 宴の終わった静寂と、その名残が朝日に照らされて輝いていた。
饗宴の舞台はその役目を終え、しばしの休息に眠りにつくことになる。

 今はもう、舞台の上の奇術師も観客もいない。
 もはやこの公演を終えた舞台を見に来る観客などいない。
 もうこの舞台の上で公演する奇術師はいない。

 このミッドガルズの街での役目を追えた舞台をもう一度みるとしようとすれば、それは来年の祭りどき意外はありえない。

――そのはずだった。

「うーん、清清しい朝だねぇ」

 声をかけたのは銀髪の女性。 見目麗しい容姿に、胸元のスリット。 男心を刺激する美女。 アキトによって天然の男殺しという称号を送られたミュラーである。

「……どうしてここに?」

 答えるのは黒ずくめの男アキトだ。 大きな広場で、体を動かすために朝早くから誰も居ないこの場所を態々選んだというのに見つかってしまった。 その理由が分からず、思わず問い返したのだ。

「うーん、偶然といえば偶然かな。 たまたま私は早朝の散歩でもしようかと思っていたのだけれど、アキトの気配があったから見に来てみただけだよ」

「……そうか、なら丁度いい。 今暇なのだな?」

「暇といえば暇だね……もしかして、相手をしろとかそういう話かな?」

「その通りだ」

 そういうと、アキトは適当に奇術団の人間から借りた二本の長剣うちの一本を投げた。

 特に派手な装飾があるわけではない、どこにでもありそーなロングソードだ。
 訓練用のためか刃が潰してあるが、そんなモノは特に意味は無いだろう。 訓練用の模擬剣だったとしても、やはり当たれば危険なことには変わり無いのだから。

 ミュラーはそれを受け取りながらも、少し驚いた顔でアキトを見る。

「君が剣を使うとは驚きだねぇ。 あのすごい音がする武器が君の獲物だろう?」

「銃は得意だが、この世界ではじきに無意味なモノになる。 だから、魔物から身を守るために剣を選んだ」

 古城からミッドガルズまで旅をするなかで、アキトはこの世界に住む魔物という存在に初めて遭遇した。 本来はそういう凶暴な生物に遭遇することなどほとんどない世界にいたアキトにとって、それはかなりの衝撃であった。
 猛獣クラスのモンスターが闊歩する危険な世界。 一人で生きていくためには、ある程度の武力は最低限必要だ。 街の外に出ず、一箇所に居を構えたとしてもこの世界の治安がどれほどなのか知らないアキトにとっては早期に戦うための力を得る必要があるだろう。 もっとも、人間相手ならばアキトはそう簡単に負けるとは思っていない。

 だが、対モンスター用に日夜戦い続けている冒険者などのことを考えると達人クラスの人間がかなり多いことになるだろう。 そんな相手に素手は危険すぎる。 そしてモンスターに素手だけで戦闘というのは、考えるまでもなく論外。

 銃があれば負けるとは思わなかったが、弾薬の手持ちは後マガジン一つ分しかない。 木連式柔という手段も考えられたが、アレは人間の限界を超える存在相手には通用しないので却下だ。 熊や獅子のようなタイプの相手を前に、打撃系だけの技で凌ぎきれるとはアキトは思えなかった。

 だから選んだのは剣だった。 少なくとも弾切れの心配はないし、この世界では極普通の武器である。 他にも槍や弓も考えられたが、一番扱いやすそうなのは剣だったし、木連式抜刀術を習ったことがあるアキトにとってはまだ扱いやすいであろうと思い選んだのだった。

「ふむ、一応刃は潰してあるし模擬剣のようだね……」

 一回二回とその剣を振り、ある程度感覚を確かめたミュラーはゆっくりと腰を低くして構える。 アキトはその前に立ちながら、刀を剣と同じようにして構えた。 抜刀の体制のようなその構えに、ミュラーは眉を顰めるがすぐに思考を纏めると口を開く。

「一応聞いておくけど、君は基礎は知っているのかい?」

「刀ならな。 こういうの初めてだが、まあなんとかなるだろう」

 ミュラーはその答えを聞くと、ため息をついて構えを解く。

「どうした、やっぱり止めるのか?」

「まず君は剣に慣れたほうがいいと思う。 打ち合うのはその後からでも遅くはないだろうと思うよ。 よかったら私が基礎から教えてあげるけど?」

「……頼む」

 ミュラーの妙技は知っている。 杖で敵を切裂くような途方も無い技術、そしてその圧倒的な戦闘能力と先の先を取る戦い方。 達人しかできない至高の戦闘技術、一貫の創生者であるミュラーに教われるのならば、アキトにとってかなりのプラスになるに違いない。 頭を下げ、教えを請おうとするその姿に、ミュラーは快くうなずく。

「正式に弟子を取ったことは一度しかないのだけれど、君なら覚えられると思うからビシバシいくよ。 覚悟しておいてね」

「ああ、よろしく頼む。 で、まずはどうすればいい?」

「そうだねぇ……アキトは体力的にはもう問題は無いだろうから、まずは剣に慣れることと剣を知ることから始めようか」

 まず言われたことは、剣の基本的な戦い方からだった。 剣とは基本的に切り裂くための武器である刀とは違い、叩き斬るためのモノである。 そのため、重量も違えば戦い方もやや違う。 刀の癖を一時的に忘れさせるため、ミュラーは徹底して型と足運びを教えることにする。

「ああ、それと私の教える一貫は基本的には大抵の武器と共通していることが多いから覚えておいて損はないと思うよ」

 そういうといくつかの型を見せるミュラー。 その一つ一つが完成され、隙など無い。 アキトは感嘆しながらその様を見続ける。


――奇術という名の舞台は終わった。

 しかし、剣舞という名の舞台は残っていたようだ。 観客はただ一人、その前で踊るように剣を振るう美女を見る。 その技術を自分のモノにすべく、手にした剣を握り締めながら。





語られざる歴史
第4話
              「求めるモノは」



 終わらないものなど、この世にはない。 それは生物でも物でも同じ普遍の真理であり道理である。 大いに賑わいを見せていたミッドガルズの街も、祭りの終わりという終焉の前にはその賑やかさを保つことはできない。 そして、それは奇術団でも同じだった。

「それじゃ、ヴェネツアでね」

「またな」

「今度うちの街でも公演してねーーーー」

 ミッドガルズでの公演を終えた奇術団員たちが帰郷組みと居残り組みとに分かれて挨拶をしていた。 今回の公演でかなりの資金を貯めることが出来た奇術団は、次の公演までかなりの時間をはさむことになっている。 出稼ぎに出てきている者たちにとっては、家族に顔を見せられる大事な時期だ。

「俺は今回でお別れだな」

 丸太を両腕でへし折れるほどの力を持つ大男が、名残惜しそうに挨拶を交わした。 奇術団は別れと出会いを繰り返す。 様々な縁があり、様々な出会いがあり、様々な偶然によって一座は団という集団を形成しているのだ。
 これも公演が終わった後の良くある風景。
だが、一緒に公演をやり遂げたという仲間意識、そして出来上がった絆はそうそう切れるものではない。 いつの日にか公演先で出会うこともあるだろうし、また奇術団で共にやっていくこともある。 これは奇術団が繰り返している通過儀礼だった。

「じゃあね、ウナちゃん」

「うん、お姉さんたちもね」

 今日で団を離れる踊り子のお姉さんたちに笑顔で礼を言うウィノナ。 男所帯が多いなかで、色々と気を使ってくれた彼女たちはウィノナにとっては本当の姉のようでもあった。 ただ、ウィノナの後ろでたたずんでいるダオスにチラリチラリと視線を飛ばしてから去っていく様には内心モヤモヤした何かを感じていたのだが。

「早くしろー、馬車が出ちまうぞーーー!!」

 愛想笑いで乗合馬車の出発を待ってもらっていた団長が声を上げて急がせる。 だが、個人的にはもっとゆっくりとした別れにさせてあげたかったのだろう。 業者の人間と少し話しをして時間を稼いでくれていた。

「じゃ、もういくね。 家の街でも絶対公演してよ!」

「うん、行くよ。 絶対いくからね!!」

 駆け出していく踊り子たちに手を振りながら、笑顔で彼女らを見送った。

「また会えるよね?」

 入れ違いのように戻ってきた団長に尋ねながら、ウィノナはぼんやりとさっていく馬車を見続ける。

「当たり前だ」

 そういうと団長は優しくウィノナの頭を撫でた。
涙こそ流していなかったが、胸中を察している団長はウィノナの肩を押す。

「さて、一杯ひっかけにいこうか。 この街でのしばしの休暇だぞ? 楽しまなきゃ損だ」

「……うん、よっしゃーーーパーッといこっか!!」

 いつまでも悲しんでなど居られない。 半分になってしまった奇術団のところに戻りながら、ウィノナはいつもの元気なウィノナに戻っていった。





 15の娘がいつまでも酒場で飲んだくれているわけにもいかない。 アキトとミュラーは付き合いということで飲んでいるが、一足先に宿に戻っていったウィノナとダオスは宿へと戻ってきた。

「酒場に残ればよかったのに」

「残念だが、ここの食事は私には合わないらしい。 あまり私が居ても場の雰囲気を壊すだけだろう」

 ボウガンの細工の一つを手に取り、不思議そうに眺めながら答えるダオス。 なるほど、と納得してウィノナは興味深そうにボウガンを眺めるダオスにニンマリと笑顔を向ける。 自分の商売道具に興味を持ってくれたことが嬉しかったのだ。 部屋のベッドから床まで、大小様々なボウガンが二十丁近く並べられている。 嬉々としてコレクションの説明を始めた。

「いい細工でしょ? 昔にいたドワーフっていう精霊の編み出した細工なんだよ?」

「ほう?」

「ドワーフはもういなくなっちゃったんだけどね、その技術を受け継いだ名工がいたの。 岩の精霊って呼ばれたドワーフから技術を受けつぐだけでもすごいけど、今でもその技術を伝えてるところもすごいよねー。 んで、その人が私のためにこの子たちを作ってくれたのよ」

 繊細な細工、複雑な仕組みを用いた道具を作る天才と呼ばれたドワーフ。 その編み出した技術を今に伝える一族は、何故かウィノナを気に入った。 今では懇意にさせてもらっているが、未だに気に入られた理由は分からない。 だが、このような立派な作品たちを作ってくれた彼らにウィノナは感謝を忘れたことはなかった。

「前の巡業でたまたま知り合ってね。 なんかあたし気に入られちゃってさ。 そんで色々作ってくれたのよ」

 全てをウィノナのために作ってくれたのだ。
あのときの嬉しさといったら、ウィノナの人生トップテンに入るほどのものだった。

「なるほど……理解した」

「すごいよねー、精霊の技ってさ。 ――この二つがね、ブルースブラザーズ、ジェイクとエルウッド。 小さくて軽くて連射が効くから、出だしの軽業とかに使ってお客さんをびっくりさせるのね。 こっちの弓のところが曲がってるのが、ディープインパクト。 石ころとか鉄の弾とかを飛ばせるの。 それで、そこの壁に立てかけてあるのがゴッドファーザーで、屋じゃなくて専用のブーメランを飛ばすんだ。 なんかもう、ここまでデカイとボウガンとかクロスボウってより、大砲って感じ。 それからぁ――」

 嬉々として説明するウィノナにダオスはしかし、何かを考えるように顎に手を添えると不思議そうにウィノナを見ていた。 考え込むように沈黙していたが、ようやく合点がいったという風にうなずくとふいに質問を投げかける。

「きみの仲間の一部が都からでてから様子が換わったように見えるが、私の気のせいか?」

「え……どうして?」

 ぎこちない笑みだった。 いつもの朗らかな笑みではなく、作り笑いのような感触がする。 ダオスは心配だったのだ。 態々明るくしようとしている彼女が。

「見誤りなら謝罪する。 ――私には君も彼の者たちと同様に故郷に戻りたいように思えたのだが?」

「――そんなこと……あるかもね」

 考え込むようにソファーに腰を下ろしながら、ウィノナはぼんやりと天井を見上げる。
そのまま一度ため息をつくと、静かに語った。

「……あたしね、捨て子なんだ」

 十数年前、物心つくころからウィノナは親に捨てられた過去を持つ。 両親と共に旅をしているさなか、山間の山道に置き去りにされた。 食料を手に入れてくるといい、待っているように言われたウィノナだったが三日たっても両親は戻ってこなかった。 たまたまそこに通りがかった奇術団の団長がウィノナを拾い、実の娘以上に娘として育ててくれた。

 団長と奇術団のみんなのおかげでウィノナは今日まで生きてきたのだ。 一つの大家族のような奇術団。 家族が分かれて、寂しくないわけが無い。 けれど、寂しさだけではなく羨ましさも感じていたのかもしれない。 故郷、帰るべき場所があるというのは、本当に幸せなことなのだろう。

「――だからね私、自分がどこで生まれて、どこに住んでたのか知らないんだ。 帰りたくても、どこが故郷なのか知らないんだよね。 帰りたいけど、帰れなくて……そんな感じ」

「すまない、古傷を……」

「ああ、いーのいーの。 今は団の連中がみんな家族で、皆が行くところが私の故郷みたいなもんだからさ。 ははっ。 なーんか暗くなっちゃったね。 ヤメヤメ、そういうのガラじゃないもん」

 陰鬱な空気を払いのけて笑い、ウィノナは立ち上がる。 窓を押し開けて冬の風を部屋に招き、小さく深呼吸する。

 そんな彼女の姿をみながら、

「帰れない、か。 ……アキトも私も、ウィノナもミュラーも同じなのだな」

ダオスは囁くように呟いた。




 人数が減ったせいで盛り上がりに欠けたのか、それとも華であった女性が帰ろうとしたからか。 団員たちは日暮れ前に酒場から宿へと戻ってきていた。 男たちの大部屋に集まり、何をするでもなく、ぼんやりと時を過ごす。

 ウィノナもなんとなくその場に訪れ、窓辺から街並みを眺めていた。 ガラスに映りこんでいるダオスの姿をチラチラと盗み見ては、憂鬱げなため息を繰り返している。 アキトとダオス壁際に背を預け、ミュラーはそんなウィノナの隣で頬杖をついていた。 静かな、そして穏やかな雰囲気だった。

「おーい、ユークリッドへの船が決まったぞ」

 そんな静寂を破って、役場が発行する航海表を手に団長が現れた。

「じゃあ、一ヶ月ぐらいはここでのんびりできそうだな」

 楽師の青年が竪琴の調律をしながら言う。

「いや、ミッドガルズからの直行便が出ないらしくてな、フレイランド経由の長旅になる。 来週の終わりあたりには腰をあげにゃならん」

「なんじゃそりゃーーー!!」

 休暇は長ければ長いほど退屈だが、短すぎてもだめらしい。 不満が団長にぶつけられるが、団長はそれを宥める。

「俺に言うなよ。 お上が決めたことだから、文句なんて言えんだろう?」

 団長自身この話は予定外の話だった。 ユークリッドへいく場合、ここミッドガルズからの直行便を使えば一月もかからない。 海を一つまたげば、次の目的地、北部ユークリッド大陸にある都ヴェネツィアだ。
 
 しかし、南の大陸フレイランドを経由するとなると、陸路と回路で倍以上の時間がかかるのだ。 このミッドガルズ大陸を南下し、フレイランド大陸を縦断してから船に乗り込み、湯見る、南部ユークリッドを回路で迂回してようやくたどり着く。 長いたびが始まると知り、団員たちはいっせいにうなだれた。

「お前さんたちはどうする?」

 壁に背を預けていたダオスにアキト、そしてミュラーに投げかけられた問いだった。

「団員が減っちまってね。 予定が無いなら、新しいのが集まってくるまで付き合ってくれると助かるんだがな?」

 唐突な提案だった。 ウィノナは驚いて振り返り、アキトたちも目を瞬かせていた。

「……私を? ……なぜだ?」

 どうしようかと考えていたアキトとウィノナだったが、ダオスは違った。
まず彼が持ったのは疑問だったのだ。 彼は特に何か芸ができるというわけでもない。
アキトとウィノナは旅の護衛としての腕を買われているのだろうが、ダオスには皆目自分の有用性が思いつかなかった。

 それに――身元が怪しい自分を連れ歩くようなことをしていいのだろうか?

「客引きにはもってこいなんだよ。 おまえさんがたってるだけで、女たちが寄ってくる」

「……しかし、私は身元が不明で怪しい男だ。 そんな男を――」

「かまわんさ」

 何も詮索せず、団長はダオスに言った。

「それがうちのやり方なんだよ」

 団長の言葉に副団長が言葉を繋ぐ。

 一所に止まれない流れ者。 それがこの奇術団の団員たちなのだ。 みな、わけありで各地を渡り歩き、行く先には不安しかない旅芸人をしている。 そんな集まりでもあるから、何も聞かず受け入れるというやり方が彼ら奇術団のもっとーだった。

「話したきゃ話せばいい。 話したくなきゃ話さなくていい。 誰もそれを強要しないし、無理強いもしない。 誰にも話せないことの一つや二つはあるからな」

 ダオスの肩をたたき、団長は笑った。 団員たちが頷き、ウィノナは俯いて唇をかんだ。

「――だがな!!」

 突然声を張り上げ、指をダオスに突きつける団長。

「娘はやらん!!」

「…………は?」

「始まったよ”いつもの”が」

 副団長は笑いながら、しかし楽しそうにそれを眺める。 団員たちも笑った。

「ウィノナは俺が手塩にかけて、丁寧に、丁寧に育てたお宝だ!! アレが欲しけりゃ国と城と船と財宝と千人の従者と一万の馬を手に入れて、伝説になるような異形を成し遂げろ!! いいな!? それまでは絶対に触るな!! 一メートル以内に近づくな!! 見るのは10秒だけ許す!!」

 ほぼ不可能に近い条件をたたきつけて釘を刺す団長。 ダオスは呆気にとられ、呆然とするしかない。 団長は「勝った」などと呟きながらダオスに背を向けたところで――。

「この、馬鹿親父ぃぃぃぃぃ!!」

――ウィノナの持っていたボウガンが矢を飛ばす。

 どこから取り出したのか、両手に持っているのはブルースブラザーズ。 連射と小回りが利くとダオスに説明した一品だ。 それを次々と団長に向かって打ち込むウィノナは、顔を真っ赤にさせながらここぞとばかりに矢を連射。

「ちょ、やめろウィノナ!!」

「問答無用!!」

 次々と跳んでくるボウガンの矢に、団長は床を転がりながら避ける。 腐っても奇術団の団長、ウィノナの育ての親である。 紙一重で全てを避けていく。 しかし、またもお気に入りのシルクハットまでは守れなかった。 蜂の巣にされたシルクハットが、哀愁を漂わせながら床に落ちる。

「あーーー、この前新調したばかりなのに!?」

 嘆く団長だったが、矢を全て打ちつくしリロードしているウィノナの姿を見ると命の危険が迫っていることを理解する。 矢のストックが切れたことを知ったウィノナは、団長が嘆いている間の一瞬で既に獲物を持ち替えていたのだ。

 それは、最強のボウガンだった。 もはやそれはボウガンを域を超えた大砲ともいえるものである。 その名を――。

「ゴッドファー――」

 しかし、それの引き金が引かれることはなかった。

「ウィノナはいるかい?」

 部屋の戸をノックして、返事もまたずに乱入してきた者がいたからだ。 そのおかげで団長は命を取り留めたわけだが、入ってきたのが男だと知ると剣呑な表情を見せる。 いや、むしろ睨み付けていた。  入ってきたのは学者風の男、エドワードであった。




 団長のガードは固かった。 しかし、ウィノナが了承したことでしぶしぶであったが許可を出した。 今はウィノナはミッドガルズの城にあるエドワード部屋にやってきている。 滞在中の今、エドワードにあてがわれている部屋であった。 書物がところ狭しと並び、カーテンに遮られた陽光がこの部屋の学者臭さを否が応でも高めている。 清潔とかそういうモノを二の次に、研究一点張りだというような部屋であった。 いかにもエドワードらしい部屋だとウィノナは思った。 どうせ、研究に没頭して部屋の掃除などには目もくれていないに違いない。

「一週間もどこにいってたんだい? 森へ出かけたまま戻らないって言うから、役人に頼んで探してもらおうかと思ってたところだ。心配したよ」

(よく言うよ)

 気遣うエドワードをウィノナは胸のうちで冷笑する。 果たして、どこまで彼が自分のことを心配してくれていたのか。 冷めた目で見つめる先にいる男は、マイペースに他人を容赦なく巻き込む科学者である。 基本的に人が良くても、研究者としての顔がでれば信用できなかった。

「……あれ? あのときの資料はどこだったかな?」

 書類をひっくり返し始めるエドワードを見、しばし話が進みそうに無いことを悟るウィノナ。 このまま戻れないだろうか、と考えて部屋を見回した後、思い出したように質問した。

「ねぇ、橋であったときに一緒に居た魔術師――」

「ああ、ジェストーナか?」
「――うん、その人は今はいないの?」

「ああ、おとといあたりから見てないな」

「どこに行ったの?」

「さあな、前からときどき、フラット姿を消してしまうんだよ。 どこにいるのか見当もつかないな……そのうちに戻ってくるだろ。 どうかしたのか?」

「ん? いや、別に」

「なんでもない」

 と、ウィノナは肩をすくめる。 しかし好奇心は出ていたようだ。 そこに中年魔術師は何かをかぎつけたのだろうか。ウィノナの様子にいぶかしげな表所を浮かべるエドワードは不意に真剣な面持ちになった。

「まさか、彼を”見た”のか!?」

 身を乗り出して聞いてくるエドワードから、逃げるようにウィノナは身を引く。 鼓動が早まるが、それを無視して平静を装った。

「ないよ。 このところ何も見てない」

 ウィノナにこたえにエドワードは落胆し、どかっと椅子に腰を下ろす。 残念そうにうなだれる。 そんな彼の姿が、ウィノナは堪らなく嫌いだった。 と、部屋の外に足音が響いた。
近づいてくる足音は部屋の前で止まり、代わりに戸を叩く音がした。

「どうぞ?」

 エドワードが促すと、部屋に城の兵士が上がりこんできた。

「モリスン殿、お連れの方に旅芸人が面会を希望しているのですが」

「え?」

「何か急用でも入ったのかもしれんな」

「なんでも、一座の一人が倒れたとかで……」

 その答えを聴いた瞬間、ウィノナは弾かれたように立ち上がった。 予感がするし、それは確信めいた直感だった。

「きて!!」

 エドワードの腕を無理やり引っ張って部屋から飛び出す。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。 私の専門は歴史学だぞ!! ――それに研究は!!」

「後で!! 学者ならいろんなこと、知ってるでしょ!!」

 話を続けたかったエドワードを無視し、ウィノナは外で待っていた団員との合流を急いだ。
その姿は、エドワードが今まで見たことがないほど必死だった。






 やはり、倒れたのはダオスであった。 ウィノナが出て行ってから少しして倒れたらしい。 外傷はなく、寝込んでいたときのように顔に生気がなくなっていた。 顔色は白く、今にも消えてしまいそうな儚さがある。 
 エドワードの前に医者が診察を行ったらしいが、匙を投げてしまったそうだ。
本来の専攻は考古学、学者としては旅も多く経験しているエドワードであったがその症状が一体何なのか見当もつかない。 しかし、分からなくてもやってみる価値があるものがあった。
 旅先で手に入れた万病に聞くという薬の存在だ。 通常の病などなら、もしかすれば治ることもあるかもしれない。 鱗のようなモノを鞄から取り出し、煎じ始める。

「それは?」

 心配する団員やウィノナたちが見守るなか、アキトが尋ねる。 黒ずくめの怪しげな男であったが、エドワードはここが奇術団であるということを知っている。 そういう”変わり者”も奇術の見世物に使っているのだろうと思い質問もせずに答えた。

「南のフレイランドに住む、バジリスクと呼ばれる魔物の鱗だ。 傷や万病に効くと伝えられている代物だ、これならもしかしたら――」

 治せるかもしれない。 本当はそんな言葉を繋げたかったが確実とも知れない方法であるから、それを口に出すことはできなかった。 高価なモノであったが、エドワードも人の命が掛かっているのならば出し惜しみはしない。
 何か目を引くものがあれば別だが、そうでない場合の彼はややお人よしなのだ。
やがて、鱗を煎じ終えるとエドワードは粉末になったそれをダオスに飲ませようとする。 しかし、それをダオスは遮った。

「……薬で治るものではない」

「でもさ、飲んどけば少しは――」

 ウィノナは気休めでもそれでダオスが良くなることを望んだ。 そんな優しい少女に、ダオスは辛そうながらも笑みを浮かべる。

「ありがとう……だが、これは病ではないのだ。 生命力が尽きかけているだけなのだから」

「生命力?」

「そうだ、このあたりの土地は私にとっての生命力である『マナ』がしごく希薄だ。 自然の活性元素であるマナが希薄なために、私はその影響を受けている」

 ダオスの説明で一同が頭を捻る。 ほとんどの者がその意味を理解できなかったのだ。 だが、全員ではなかった。 少なくとも意味を理解した人間が二人いる。

 ミュラーとエドワードだ。

 一人は学者としての見識から、そしてもう一人はそれとの関わりが深かったが故。

 自然を活性化させる力を持つエネルギー『マナ』。 それは自然界に無くてはならないエネルギーとされ、草木が実り、木々を豊かにする力を持っている。 日の光と栄養意外にも重要な要素なのであった。
 だが、それは自然界に限ったことだ。 通常、人間にそれが影響を与えるなどということをマナについてある程度知っていたエドワードでも知らない。 また、マナに影響を受ける存在を知っているミュラーもダオスがそれの影響を受けているということに驚きを感じるとともに、ダオスの状態に納得をしていた。 彼女の相棒も目の前のダオスが言ったとおりにこの街のマナの希薄を感じていたから。

「……つまり、どうすればよくなるんだ?」

 アキトはマナについての概念を知らない。 故に生まれた疑問だった。

「アキトには分からないかもしれないけど、簡単に言うと私たちが食事をして栄養を摂取するのと同じようにダオスの食事がそのマナというわけだね。 今は食べられる量が少なすぎて、ダオスの体に栄養が足りていない状態なんだと思うよ」

「その通りだ」

 ようやく合点が言ったと、アキトは頷く。

「結論としては、ダオスを助けるためにはマナが豊富な場所に彼を連れて行く必要があるということなのだけれど……エドワード殿には見当はつかないかい?」

 ミュラーはエドワードに視線を向け、マナが豊富であると思われる場所を聞こうとする。 この中で一番博識なのはエドワードなのだ。 しかし、エドワードはそのミュラーの言葉に答えなかった。
 いや、性格には彼女の言葉が彼の耳に届いていないのだ。 何事かをブツブツと呟き、何かを色々と考えているようだった。 初めはマナの豊富な場所を考えているのかと思ったが、違う。 それをいち早く察知したのは付き合いの長いウィノナだ。 彼女は学者としての彼の本能が、大いに刺激を受けた状態であることに気づく。 だから、無神経に人に踏み込んでいく彼を止めたかったのだが、ウィノナが声をかける前にエドワードの暴走が始まった。

「君は一体何者なのだ? マナの影響の有無を受けるということは、精霊なのか? もしかして太古に絶滅したと言われる精霊の生き残りなのか? 他に仲間は? 司る力は? 大地か? 水か? 火か? それとも――」

 マシンガンのように次々と質問する彼に、周囲の者は呆れ、あるものは呆然とする。 目の前の体調が悪い男を前に、今まで助けようと知恵を振り絞っていた者の姿とは思えないほどの豹変振りだったのだ。 アキトはその目が一番大嫌いな”奴ら”と同類の目であったことに嫌悪し、ウィノナに至ってはキレる始末。

「くだらない好奇心で人の心に踏み入るな!!」

 ウィノナの怒声が響きわたり、ようやく自分がしていることに気がついたエドワードは睨み付けてくるウィノナの様子に息を呑んだ。 少なくとも、この無神経な男を奇術団も好きにはなれそうになかった。 
 奇術団のモットーを容易く粉砕するこの男は、奇術団としては受け入れられるような者ではないからだ。 そんな侮蔑の視線に晒されながらも、エドワードの興味はダオスにあった。
 だから、彼らが自分を見る目にも気がつかない。 彼は好奇心によって突き動かされる学者なのだから。

「……長い、とてつもなく長い旅をしていた。 どれほどの道のりであったのかすら記憶に無いほど遠い……目的を果たすまで終えることが出来ない旅だった」

「いいよ、話さなくても!! 今はそんなことより体を治すことを考えなきゃ!!」

 エドワードを威嚇しながら、ウィノナが言ったがダオスはためらいを捨てるために語った。

「私は、あるものを探している。 そのせいでアキトとミュラー、そしてウィノナ……君に迷惑をかけたそのことには謝罪することしかできない……」

「ダオス、気にしなくていいさ。 俺はそのことを恨んじゃいないし、むしろ感謝している」

「私も……まあどんな事情があるのかは知らないけれど、君を恨むほど困ってもいないよ」

 二人はそんなことよりも、ダオスの様子が心配だった。 アキトとミュラーは帰すことはできないと言われたときに、この世界で生きることを選択している。 帰れたらいいけれど、無理して帰る気などなかったから。

「私も迷惑なんか思ってないから……ね? 今は体を治すことを考えよう?」

「ありがとう……貴公らの優しさに感謝する。 だが、話させて欲しい……それが巻き込んだ私の責任だから」

 弱弱しく、ウィノナの手を握る。 その力の弱弱しさに、ウィノナは今にもダオスが死にそうで怖かった。 力の無いただ触れるだけの手が、無償に暖く感じる。

「探しているもの……それは、故郷の破滅を救うものだ。 故郷を救うために旅を続け、遥か遠い星たちの間を行き来し、私は今ここまでたどり着いた。 もし、ここに私が探すものがなければ、私の旅はここで終わるだろう。 私自身かなり疲弊しているし、限界に近い。 もっとも、この星にも私が探しているものの存在を感じることができないから、絶望的ではあるのだがな」

 自嘲するようにダオスは言った。 悲しみしか浮かばないのだろう。 ウィノナの手を握った手に、少しだけ力が入った。

「コレより先、私には旅をするほどの力は無い。 アキトとミュラーを元の星に返せないのは残念に思うが……もう私の旅は終わっているのだろうな」

 疲れたのだろう。 目を閉じ、ゆっくりと眠るようにダオスの手から力が抜けていく。 生気が無い今の彼は、ただそれだけで消えてしまいそうだ。

「ダオス!?」

「少し、眠らせてもらう……マナの消費をできるだけ、抑えるために」

「うん、分かった……絶対楽にしてあげるから……ね?」

 優しげに、ダオスの手を両手で握り締めるウィノナだったが、その後ろで一人動いた男がいた。 目を輝かせて好奇心に突き動かされた男だ。

「待ってくれ、君が探しているものとはなんなんだ?」

「エドワード!!」

 ウィノナの怒声が響く。 しかし、答えなくてもいい問いにダオスは答えた。

「大いなる実り……だ」 

 それが贖罪だとでもいうかのように目的を言い、そうしてダオスは今度こそ眠りについた。 場に残ったのはなんとも言えない雰囲気と、エドワードに対する非難の感情だけだった。








 模擬刀が踊る。 斬撃が空気を切裂き、その先にある仮想的を両断する。  そこまで想像しながら、アキトは黙々と剣を振るう。 ミュラーから教わっている戦闘技術は、かなり応用性の高い技術ばかりだった。 突けば槍、切れば剣、叩けば棒、さらには無手の戦闘まで。 本当にありとあらゆる武器を想定しているとしか思えない総合戦闘技術であった。

 その中でも、アキトが習っているのは剣の技術。 一貫という戦闘技術の中で、剣を扱うたに作られた護剣という剣術だ。 しかし、一度木連式抜刀術で身につけた動きと違うため、どうしてもアキトの体にはその動きが馴染まない。 ブゥン、ブゥンと素振りの音が静かに響く。
幾度も型に沿って剣を振り、眼に焼きついているミュラーの動きをなぞろうとする。 しかし、一向に刀の癖は抜けない。 苛立ちが募る。 全身に浮かぶ汗、それを不快に思いながらも我武者羅に振り続けた。

「はあ……はあ…………」

 一度も休みをいれずにはや二時間。 素直に続けるところが、テンカワ・アキトのテンカワ・アキトたる所以だった。 飲み込み早く、センスもある。
 しかし、それでも一度死に物狂いで身に着けた技は消えてくれない。 むしろ、消そうと思って振れば振るほど剣が拒否してくるようにアキトは感じた。

「いや、そうじゃないな。 死に物狂いで手に入れた技術を捨てたくないんだ」

 それはプライドだったのかもしれない。 無意味で価値の無いモノではあったが、アキトにとってそれは捨ててはならぬものだった。

 たった一人を救うために手に入れた力。
 邪魔者を全て消すための力。

 暴力の化身とも言うべきその技術、生かす道具が無いというだけで捨てるのはプライドが許さないのか。 それとも、力を振るえぬことを嘆く技術の嘆きか。
 刀という武器は切裂くためにあり、剣というものは叩き斬るためにある。 共に剣というカテゴリーに入るが、似ても似つかないこの二つ。

「ここまでか」

 額に溜まった汗を拭い、近くに置いてあったタオルで鬱陶しげに体を拭いた。 朝の日差しから逃げるように木陰に座り、火照った体の熱を冷ます。

「……いい朝だ」

 ぼんやりとしながら、空を眺める。 白い雲がいくつも流れ、青空が世界を祝福している。  純粋にいい世界だと思った。 自分の世界より文明が発達していないおかげか、妙な組織などないように思える。 人々はのどかに暮らし、日々を謳歌している。 時間に追われているでなく、何かをしなければならないという圧迫されるような危機感もない。 

 ”何のしがらみも無い”この世界は、アキトにとっては理想郷のように見えたのだ。

「誰も俺を知る者がおらず、俺の罪を攻める者もいない。 俺の心を煩わす仲間もいないし、ただ何も考えずに昔のように生きられる」

 テンカワ・アキトはテロリストである。 それも、彼のいた星では知らぬ者がいないほどの有名なテロリストであった。 ブラックサレナという漆黒の機動兵器と白亜の戦艦を駆り、敵対するものを全て叩きつぶしていった最強最悪の破壊者。 敵を倒すためならばコロニーを落とし、無関係な人間も殺した。 何を犠牲にしてでも、助けたい人がいた。 だから彼は戦い続け、暗黒の宇宙の中を生き抜くに至る。 両親を企業の利益のために殺され、新婚旅行では妻を奪われ、人体実験によって五感をほとんど失い、コックになるという夢を失い、史上最強のテロリストになった。

 思い返せば、禄でもない人生だろう。 だが、不思議と死にたいと思ったことは無かった。 絶望に屈することはなかった。

――だからだろうか?

 たった一つの希望を背負って、遠くの星にまで旅をすることを選んだというあの男を恨めないのは。 全ては自身が住む星を救うため。 星に住む者を救うため。 その献身、その自己犠牲をアキトは眩しいものを見るかのように感じたのだ。

「……旅をするなら手伝ってやりたい。 だが、今の俺は無力すぎるな」

 銃は使えず、頼みの綱の格闘術は人間を大きく逸脱する魔物には威力が無さ過ぎる。
まったく相手ができないというわけではないが、それを行って戦闘をする場合の危険度を考えるとどうしても力不足だ。

 力がいる。
 屈しないための力が要る。
 ミュラー・セフィスのような人外さえも倒せる力が。

 人はどうしようもなく脆弱で、非力である。 だからこそ頭を使い、武器をつくり、知略を駆使して生物の頂点へと至った。 ならばこそ、そこへ至る要因となった武器を扱えなければならない。そうでなければ、人間は脆弱なままの人間で、生態系の頂点へなど立てるはずもないのだから。

「時間はまだある。 ユークリッドへいくまで後5日しかないが、必ずこの剣をモノにしてやる」

 思い描くのは銀髪の美女。 背筋が凍るほどの戦闘力と美しさを内包した剣姫。 そこまでにはなれずとも、せめて彼女やあの青年と共に旅をできるだけの強さを。

 汗が完全に引く前に木陰から立ち上がると、アキトはまた広場で黙々と剣を振る。 その剣は、彼女に習った頃よりも格段に進歩していた――。
 





 黙々と剣を振るう怪しげな黒ずくめの弟子を見下ろしながら、ミュラーはニンマリを笑みを浮かべる。 飲み込みのいい弟子だった。 幾人もの人間、スピリットと呼ばれる存在に教えを説いてきたミュラー。 その彼女をもってもしても、昨日今日で格段の進歩を見せたアキトの才能には驚いていた。

「彼はきっとなんでも出来るタイプなのだろうねぇ」

 資質、才能は申し分ない。ただ、惜しむらくは少し素直すぎるところか。 彼が始めに覚えている技術が、例え刀を扱う術だったとしてもそれを全て捨てる必要など無い。 彼女が教えた型は、彼女が編み出した戦闘技法に則って作られているのだが、そんな理論など実のところどうでもいいのだ。

 弟子が師匠の技の全てを模倣できるなんてことはありえない。 どこかで自分にあわせてその技を身に着けねばいけないのだ。 初めに下地あるのなら、それと武器と動きを吟味して自分なりの動きに昇華してくれればいい。 それができて初めて、アキトはミュラーの動きを理解して身に着けたことになる。 ありとあらゆる武器を想定し、作り上げた一貫という技術はその応用性の高さを考えれば”剣も刀も杖でさえ同様に”扱うことができる。  そしてそれは護剣と名づけた技術にも通じている。 刀でできることが、剣で必ずしもできないということではないのだから。 勿論、居合いのような特殊な動作は別だがそれ以外ならば応用は可能。
一貫とはそういう技術なのだから。

「さて、彼の星の戦闘技術と私の一貫の融合戦闘技術……完成すれば面白いことになることは間違いないね」

 それは不可能でもなんでもないことだった。 彼が気づけば、それはすぐに完成するだろう。 問題は彼がそれを思いつくかどうかということ、そして彼女の教えた技術をどこまで体に教え込めるかだ。 それにはまだかなりの時間がいるだろう。 しかし、逆に言えば時間はかかっても彼ならば必ずその答えにたどり着くということだった。

 「正式な弟子は君で二人目……か。 ロートフェルトより独り立ちは速そうだけど、それまではがんばるんだよアキト」

 弟子の様子に満足した彼女は、ゆっくりと窓に背を向ける。 そしてベッドで眠っている二人に視線を向けた。 一人はベッドの上で栄養不足で倒れている男。 もう一人は倒れた男を心配して夜通し看病していた優しい少女だ。 今はもう少女――ウィノナは疲れからかダオスの手を握り締めたまま眠っていた。

「まったく、ダオスも罪作りな青年だよ。 巻き込んだ少女の心を、こんなにも早くも掴んでしまったのだからね」

 規則正しく寝息を立てている少女の金色の髪を撫でながら、ミュラーは思う。 こんな形でダオスは死んではよくないと。 自身に託された願い、希望という名の重圧は彼をどこまで苦しめていたのだろうか。 ただ一人星を巡り時間を巡る。 そんな孤独に耐え続けたこの青年は、本当に救われる時が来るのだろうか?

「いや、救われる時がなければいけないんだね。 そうじゃないと君があまりにも報われなさ過ぎるし、そんな君を心配しているウィノナも、納得できはしないだろう」

 どのような形の結末だろうと、最後は皆が納得できる結末を。 偶然がいくつ積み重なろうが、最後の幸せのために苦難が幾度降りかかったとしても皆が頷ける物語になればいい。

――そんな風にミュラーは思った。

「さて、本当は誰もいなくなってからやろうと思ったのだけれどしょうがないかな。 ウィノナはダオスから離れるはずがないしね」

 そういうとミュラーはウィノナが握っている方とは反対のダオスの手を取る。 そうして眼を瞑ると、自身の内なる存在へと語りかけた。

「『完全』よ……この青年に君のマナを――」

 その瞬間、藍色のオーラの輝きがうっすらとミュラーの手で煌いた。 暗闇でならばはっきりと見えただろうが、明るい今では眼を凝らさなければ見れないだろう。 それほどに弱弱しい輝きであった。

「遅くなってすまないね。 マナをあげすぎると、『完全』がこのあたりのマナを吸い上げてしまいそうだったからね。 離れた場所でマナを集めてくるのに、時間が掛かってしまったよ」

 応急処置だったが、今できることはこれぐらいしかなかった。 ミュラーがこうして定期的にマナをダオスに与えなければ、ダオスの消耗はもっと激しいものだっただろう。 倒れたときと同じく、寝ても回復しないはずのマナの希薄化から少しでも助けようとする、ミュラーにできる唯一のことであり、これはミュラーにしか出来ないことだった。 そのために離れた場所まで飛んで、マナを輸送しているのだから。

「さて、今日はこれくらいかな」

 意識の集中を解くと、それに従ってミュラーから放たれていた藍色のオーラも消える。

「ふう……行きは飛べばいいだけだけど、帰りがさすがにきついね。 今日もぐっすりと眠らせてもらおうかな……お休み二人とも。 いい夢を――」

 二人を起こさないように静かに扉を開けて出て行く。 後にはぐっすりと眠るダオスとウィノナだけが残った。






 ダオスの体調は不思議とそれ以上悪化していなかった。 だが良くなることは決してなかった。 マナの消費を抑えるということで、昼間もほとんど寝たきりである。 ウィノナはそんなダオスの相手を一生懸命にしていた。
 いつも自分を気にかけてくれる少女にダオスは感謝し、少女はなんでもないといいながらもそれを続けた。 別にダオスの看病は苦ではない。
 それよりも、自分が何もできないという現実の方がウィノナにとっては苦だった。 奇術団で身に着けた軽業もボウガンの腕も、役には立たない。 だから、ウィノナに出来たことはダオスの看病ともう一つだけ。
 ダオスを少しでも救うためにできることを知ることであった。 勿論、ウィノナにはそんな知識はまったくない。 だからこそ、可能性があるのならという思いで嫌な相手のところにも通った。 
 通ったのはエドワードのところだった。 学者の彼は、少なくともウィノナよりは博識である。
様々な知識があるし、このミッドガルズで唯一頼れる学者の知り合いなのだ。 ウィノナが彼のところに向かうのは当然だっただろう。

「……ずいぶんとご執心みたいだねぇ……」

 仕事をしながら、素っ気無く対応するエドワード。 どうやら、この前研究が何も進まなかったことに機嫌を悪くしているようだ。 この男の温度差はいつものことだったが、ウィノナには耐えることしかできない。

「別に……ただ、故郷に返してあげたいだけよ」

 エドワードの様子を見ながら、ウィノナは不貞腐れるように言った。 研究のこととなると興味を示してくる癖に、それ以外になるとコレだ。 こういうエドワードの態度がウィノナは大嫌いだった。 だが、利用したいのはウィノナも同様だ。 しかし、彼は見向きもしなかった。

 仕事が忙しいということに追い出され、次の日には門前払いをされた。 それでもしつこく出てくるところを声をかけたりと、ウィノナは自分に出来ることをした。 だが、結局奇術団が出発する前日が来てしまった。

「ねぇ、何とかならないかな? 何か方法ないかな?」

「悪いが、明日アルヴァニスタへ向かわなければならないんだ。 準備で忙しいからその話はまた今度だ」

 どうやら今日奇術団と同様にエドワードもミッドガルズを出るらしい。 城の中の部屋へと戻ろうとするエドワードは、旅の物資を抱えていた。 背に腹は変えられぬ。 ウィノナは最も使いたくない手段をとることにする。
 その手段とは、エドワードが絶対に関心を引く事柄であり、同時にウィノナが一番嫌っていることであった。

「アルヴァニスタならフレイランド経由の旅でしょ? 途中まで私たちと同じ道だし……その間だったら研究に協力してあげてもいいよ」

「本当か!?」

 途端にエドワードは食いついてくる。 本当に分かりやすい男だと、ウィノナは内心で苦々しく思った。

「フレイランドまでだよ! フレイランドまでだからねっ」

「そうかそうか、よし。 それならば準備をしなければ!!」

「ダオスのこと忘れないでよ。 そっちのことちゃんとしてくれないと、研究の話はなしだからね!!」

「わかってるわかってる」

 ご満悦だった。 もしかしたら狙っていたのかと思えるほどだ。 嬉々としてウィノナを兵舎へと連れて行き、自分の部屋へと招く。 自分から言い出した話だが、あまり気持ちのいいことではない。 だからこそウィノナはエドワードに仕事はいいのかと尋ねたが、

「ふむ……世界が変わるような研究だとか言ってるがね、どうもうさんくさいんだよ。 そのことで研究員の何人かが行方をくらませたこともあってね」

 いかな仕事かと、内容は機密であるらしく話さなかったがエドワードが関わっている仕事とやらは国家レベルのものであるらしい。 だが、そんなことよりもエドワードはウィノナの話を聞いて行う研究のほうがよっぽど有意義だと言う。

「だいたい、仕事の内容は世界が変貌するほどの技術革新だといってはいるがな、私のような外来から来た学者には全貌が明かされていないんだ。 まったく、それで疑うなというほうが不思議だ」

 さらに言えば、全ての仕事はミッドガルズの指示通りに研究を行うことであり、それ以外は許されない。 そんな窮屈な仕事など、エドワードはあまり好きではなかった。

「最終的な研究目的が何かは知らないが、厄介なことにならなければいいんだがな」

 何かあった場合、片棒を担がされたなんてことになれば、一番切り捨てられるのは自分たち外来からの者である。 エドワードの懸念は当然だった。

「おっと、話が反れたな」

 仕切りなおしに資料をいくつか紐解きながら、ダオスについての考察を話すエドワード。

「彼はこの当たりのマナが希薄で、それが自分に影響を与えていると言った。 ならばマナが豊富な場所へと行けばいいと私は思う。 特に、君たちが向かうのがユークリッドであるというなら賢明な判断だな」

 ユークリッド大陸には精霊が住むという大樹『ユグドラシル』がある。 精霊はマナが豊富な場所にしか住まないというし、ダオスが精霊と似たような存在であるというのならば何かしらといい影響を受けるはずである。
 大樹ユグドラシルの他には、森の精霊エルフが住むというユミルの森も条件にあてはまるのだが、アルヴァニスタの遥か南にあるため、奇術団の通り道であるかを考えると却下される。 となればやはり、ダオスを一緒に連れて行くならばユークリッドまで連れて行くという結論になる。

「そっか……うん、わかったよありがと」

「研究に付き合うこと、忘れないでくれよ?」

 エドワードは水を差す。 そして今日も懲りずに態々日に油を注ぐ真似をした。

「ところで、あの青年はいったい何者なんだ? 君は何も聞いていないのか?」

「……ダオスのこと?」

「ああ、もし本当にマナで体が回復するというのなら、彼は人間ではないということになる。 一体何者なのだろうか? 存在が確認されていない精霊なのではないか? 何を司りどんな力を持っているのだろう?」

「……知らないよ。 それに、そんなことはどうでもいいもん」

「なあ、一度彼に話を聞いてみたい。 頼んでみてくれな――」

 言葉の途中で、エドワードはいきなり胸倉を掴まれた。 ウィノナの眼が、この間と同じように憎悪に燃える眼でエドワードを射る。

「――もしも、もしもダオスを私みたいな実験動物にするつもりなら、あんたの家族にそれをバラしてやる!! あんたの息子たちに、あんたらの親父は人の傷を穿り返して喜んでいるイカレ学者だって、全部ぶちまけてあんたから家族を奪い取ってやる!!」

 怨嗟にも聞こえる叫びだった。 それほどまでに、ウィノナはこの軽はずみな男が許せなかったし、彼が研究したいという”モノ”が嫌いだった。

「わ、私はそんなことは……」

「いいな!! ダオスには絶対に触るなよ!! 触ったときは、あんたを破滅に追い込んでやるからな!! 死にたくなるほどに後悔させてやる!!」

 少女のか細い腕が男を突き飛ばす。 床にしゃがみこんだエドワードを見下ろし、罰が悪そうにすると背を向けた。

「約束どおり……研究には協力するよ」

 一言呟くようにそういうと、エドワードの部屋を飛び出した。 途中、ジェストーナとすれ違った。どうやら今のやりとりを聞かれていたらしい。 舌打ちしながらもウィノナは何も言わず、廊下を走り去った。



 半鐘が鳴り響く音と、兵士が雄叫びを上げる声がする。エドワードの部屋から急いで宿へと帰ろうとしたウィノナの耳にも当然それは入った。 ある場所で魔物があつまっているらしい。
 被害が出る前にそれを倒すために、今から出陣するらしかった。

「戦が始まるのか?」

 騒音で眼が覚めたのだろう。 帰ってきたウィノナにダオスが尋ねた。

「怪物がどこか知らないけど一箇所に集まってるらしいよ。 危険になる前にやっつけにいくみたい」

「……何故だ?」

「ほったらかしにしてたら、そのうち人が襲われるからでしょ?」

「……君たちは今現在襲われていないというのに、可能性の有無だけで加害者になってもいない者を裁くのか? 可能性の問題だけで、ただそこに集まっているというだけで罪無き者たちを排除するのか?」

「人間ってさ、縄張りが広いんじゃない?」

 人間は脆弱で弱い。 獲物を引き裂く爪もなければ、食いちぎるための牙もない。 生身ならば下から数えたほうが速いのが人間だ。 だからこそ、身の危険には敏感であり不穏分子を排除する。 領域に入り込んだ異物を認めない。 それは最弱ゆえの習性なのかもしれない。

 だが、だからこそ同時に最強になり最悪になった。 もう、脆弱なだけの生物ではなくなっているのだ。 武器を作り、知恵を使い、他の生物を圧倒してきたのが人間である。 そうして培った力は、世界中をテリトリーに広げるに至っていた。 結果として、海を、山を、川を、大地を手に入れてきたのである。 広がるテリトリー、豊かになる生活。 領土の拡大が利益に繋がることを知った人間は、手に入れたそれらが自らの手から離れていくのを認めないし、許せない。  だからこそ、今の地位を脅かすものに敏感であり、それらを排除しようと躍起になるのだ。 そこには怯えがあり、恐怖があった。 もしかしたらそれが人間の根幹の感情であり、行動理念なのかもしれない。

 もっとも、それは自然の調和を無視した理論だ。 循環する世界の流れを破壊する、最悪の害虫であるとも言えるだろう。

「人間はこの世界に生まれた病原菌みたいなものなんだろうね。 動物みたいにさ、本能だけで生きてないってことは、そういう自然と一緒に住めないってことなのかもね……って、変な話になっちゃったかな」

 ごめんごめんと笑いながらウィノナは言う。

「……君は人間が嫌いなのか?」

 酷評をしたウィノナ。 ダオスは思わずそんな質問をせずにはいられなかった。 そして、ウィノナはその問いにすぐに答えられる言葉をもっていない。 だからこそその問いにはこたえず、話を変えた。

「……ねえ、あんたさあ……これから私たちとずっと一緒に旅をしていかない?」

 ベッドの傍らに屈みこみ、ウィノナは満面の笑みでそういった。

「ね? きっと楽しいと思うよ」

 それは、嘘偽りの無いウィノナの本心から出た言葉だった。


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