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憑依奮闘記 第二話

 2008-03-15
 面倒ごとなんて本人が意図しないところから勝手に現れる面倒なものなんていらない。 そう俺は思っていたというのに、現実はそうはいかない。 意図しない結果なんてどこにでも転がっていて、その中に極稀に幸運のようなものが隠れていたりする。 ある意味びっくりドッキリの玉手箱だな。

「……主クライド。 本当にこのままで良いのか?」

 鋭い目つきの女性が、冷や汗をかきながらシャープペンシルを握ったまま硬直している。 別に彼女は緊張しているわけではない。 ただ、恐ろしく今の自分に戸惑いを覚えているだけである。

「なに、ヴォルケンリッターのリーダーとしては実に簡単な仕事だろう? 他人の魔力の蒐集なんかよりもよっぽど俺のためになる」

 そういうと、彼女は少し怒ったような視線を投げかけてきたが俺はそれに気づかないフリをしてデバイスの勉強を続けた。 カリカリカリと、ペンが動く音がする。 デバイスの勉強は難しい。 というよりも、難解だ。 一応自作のデバイスを作ってみたが、とても管理局員が使うような強力な機能なんてつけられそうになかった。 素人にできるのは限定的な機能に特化したものぐらいで、それ以上のものを作ろうとするならば絶対に管理局で勉強しなければならない。 もしくは、魔法科学に精通する知識を専門に勉強していなければ難しい。 俺も専門書を読み漁ってはいるものの、中々理解しかねるのが現状だった。 グレアムさんが取り寄せてくれたデバイスマイスター用の教本。 それがなければ、俺はもうとっくの昔に諦めていただろう。 まあ、今では諦めるということ=死亡フラグ成立なわけだが。

 そして、作業に難航しているのは俺だけではない。 隣に座っている闇の書の生み出した守護騎士のリーダーであるシグナムもまた、頭を捻りながら勉強中だった。 それも当然。 俺が彼女に命じたのはミッドチルダ語で彼女たちの使う魔法を闇の書に書き記すということであった。 彼女たちは古代ベルカの騎士であり、そもそもミッドチルダとはあまり縁が無い。 ミッドチルダの言葉で書き記すにはベルカ語をミッドチルダ語に翻訳する必要があり、それをするのが非情に難しかったのだ。 翻訳魔法で通常は意思疎通できるが、文字を書くとなると勝手が違うのである。 ついでにいえば、もし彼女が所持するデバイスがインテリジェントデバイスならば勝手が違ったのであろうが、シグナムが所持しているのはアームドデバイス。 戦闘に特化した武闘派連中が好んで使うデバイスである。 翻訳補助を手伝ってくれたりなんて勿論しない。

 ちなみに、今いるのは休日の図書館だった。 全寮制の学校とはいえ、学校の外へ繰り出すぐらいの自由がある。 そこで闇の書を持ち出し、ページを埋めるためにも彼女を連れ出したというわけだ。 そして、それが俺にとって楽しみともなっていた。 生シグナムをこうしてゆっくりと拝めるなんて、憑依した俺ぐらいしかいないだろう。 しかも、これは図書館デートという奴である。 テンションが上がらないわけがない。 唸りながらあーでもないこうでもないとページに書き込んでいくシグナムは、アニメの画面越しに見る凛々しい顔とは程遠い。 まるでどこにでもいる大学生が勉強で悩んでいるようで、少し微笑ましいものがあった。

  しかし、アレだ。 天下のミッドチルダで闇の書を大っぴらに広げて守護騎士を唸らせているマスターは俺ぐらいしかいないのではないだろうか? あの八神はやてでさえ、セクハラ以外で彼女たちの頭を悩ませたことは無いはずだ。 来週はシャマルかヴィータ当たりを呼び出すことにしよう。 普段は守護騎士システムを待機モードにさせ、ザフィーラ以外は召喚していない。 これは管理局に感づかれないための措置である。 ザフィーラは俺の使い魔――ベルカ風に言えば守護獣――として登録してあるので、別に大っぴらに歩いても問題は無い。 学校の方もペットは駄目だが使い魔はオーケーとのことだったので彼とは仲良くやっている。 今日は別行動をするため、リンディに預けてきたが。

「そうだ、シグナムに一つ言っておきたかったことがあるんだがいいか?」

「なんだ?」

「その本の本当の名前は、ぶっちゃけ呼ぶのをやめようと思う。 変なのに勘ぐられるのも嫌だしな」

「ほう? ではなんと呼ぶのだ」

「俺の魔道書」

「……何?」

「だから、俺の魔道書って呼ぶことにする」

「いや、それはちょっとセンスが無い気がするぞ。 こういうときは烈火の書とかそういうカッコイイ名前をつけるべきではないのか」

「いいじゃん、分かりやすくて。 俺の魔道書。 うむ、”俺”専用っぽくていい感じだ」

「いや、しかしそれは……」

 騎士の矜持か、自らの宿る闇の書を適当っぽい名前で呼ばれることに抵抗を感じるらしい。 だが、シグナムさん。 これはもう決定事項なのだよ。 そう、シグナムはまだ気がついていなかった。 既にブックカバーには修正液で『俺の魔道書』とタイトルを入れられていたことを。

 彼女がそれに気がつくのは、帰りがけに本を閉じたときである。 そのときの彼女の微妙な表情は、今でも俺の心のアルバムに記録されたままである。 とりあえず心の中で大笑いしたというのは俺だけの秘密だ。 知られれば彼女の愛剣が俺を真っ二つに両断するに違いない。 そんなのは御免だ。






憑依奮闘記

第二話

「変化」







 あの模擬戦から一週間ほどの間、クライドはクラスの皆に一目を置かれていた。 普段やる気があるのか無いのかよく分からない、目立たない生徒であったというのに総合Sランクをノックダウンさせたという事実が、クラスメイトに妙なフィルターを作っていた。 それに、彼が飛べるということもこの前初めて知ったので、まだ何か色々と隠しているのではないかと疑われていた。 実は高ランク持ちだとか、両親が高名な魔導師であるとか、リンディが手加減してわざと負けたとか、適当な噂だけが蔓延していた。
 
 勿論、それらは全て出鱈目で信憑性の無い噂の域を出ない。 所持している魔導師ランクは陸戦ではないものの総合Cランク。 両親は一般市民で、引き取った親こそ強力な魔導師であるが魔法は彼の使い魔から教わっただけだし、リンディは少なくとも模擬戦などで意識的に手を抜くようなタイプではない。  元々クラス内で少し浮いていた彼のことを詳しく知る者などおらず、本人は人付き合いに熱心なタイプではないので真実を知るモノはほとんどいなかった。

 そして、総合Sランクを地に付けた今でも彼の態度はいつもと全く変わらない。 暇を見つければ雑誌を読み、午前の授業には普通に出席し、午後の実習でもこれといって何かすごいことをするわけでもない。 概ね今までと同じ生活を送っていた。 強いて変わったことといえば、隣の席にいる総合Sランク保持者の相手をしていることと、少しつるむようになったぐらいか。 学校の案内をし、質問されれば答え、昼はザースやフレスタといった通称『決戦メンバー』と一緒に昼食を取るぐらいだ。 変わったことといえばそれぐらい。 人間関係が少しだけ広がったとか、そういうレベルだった。

 偶にどうやってリンデイを倒したのかと尋ねる人間がいたが、彼は頑なに喋らなかった。 まあ、切り札を他人にバラすようなことをするつもりが無いクライドにとって、それは当たり前のことだったが。



 演習場に、総合Sランクの馬鹿魔力が次々と撃ち放たれていた。 放たれているのはスティンガーブレイドでは無い。 だが、広域制圧という意味では似たようなものか。 絨毯爆撃よろしく、高高度から次々と演習場を焼き尽くしていくその魔法の名は『ファランクスランサー』。 魔力のスフィアを大量に発生させ、そこから魔力弾を撃ち出していく魔法である。 ただその魔法に欠点があるとすれば、それは単発の威力が低いこと。 しかし、それを弾幕にして過剰なまでに弾丸を放てばそれは恐ろしいほどの制圧力を持った魔法に変わる。 しかも、それを行っているが膨大な魔力を背景にしたリンディだ。 魔力放出と同時に魔力充填を行い発射時間を大幅に引き延ばしている。 そうして、それをたった一人のために行っているのだから彼女の機嫌の悪さと言ったら地獄の閻魔が裸足で逃げ出すほどであった。 狙われるているのは勿論、前の模擬戦で彼女をノックダウンし、今回の模擬戦ではたった一人生き残っている低ランク魔導師クライドである。

「……なんて不真面目な人なのかしら」

 真面目に模擬戦を行い、早々にスティンガーブレイドの餌食になって倒れていったクラスメイトの方がよっぽどリンディにとって好感が持てた。 皆、頑張って自らの力を高めようとしているというのにクライドだけはミラージュハイドの魔法を使って一人演習場内を隠れまわっていた。 二回目の模擬戦。 前回の雪辱を晴らそうと色々とミズノハ先生に演習時の記録データを見せてもらって対策を考えていたというのに、なんだこれは。

 飛ぶこともせずに、必死に地面を走るクライド。 時折高速移動魔法を用いてこちらの射程から逃げ、物陰に隠れたと思えばミラージュハイドでまた雲隠れ。 いい加減、まともに模擬戦をしなさいと大声を張り上げたい気分だった。

「ああ、もうまた消えた!!」

 ミラージュハイド――光学迷彩にステルス機能を備えた迷彩魔法。 遠距離からそれを感知するのはとても難しく、ある程度近づかなければ気がつきにくい恐ろしいまでの隠密性能を持つ厄介な魔法。 逃げを打つ人間とは恐ろしく相性が良い魔法である。 だからこそ、リンディは片っ端から絨毯爆撃を繰り返して燻りだしているのだ。 向こうは何故か飛ばない。 だからこそ、その移動範囲は高が知れている。 圧倒的な面制圧力を誇る魔法によって、既に演習場の三分のニが丸裸となっていた。

『うーむ、あまり言いたくないのだがリンディ・ハラオウン。 これ以上やると演習場が丸裸になってしまう……もう少し上手くやれないか?』

『無理ですミズノハ先生。 彼は私が手を緩めれば必ず障害物のある場所へ逃げ込みます』

『それはそうだろうが……うーん困ったな』

 念話で語りかけてくる教員。 彼女としては、強くいえないのである。 逃げるだけならクライドの方法は間違っていない。 そして、それを燻りだそうとするリンディの行動も間違ってはいない。 ただ、彼らの行動が度を越しているという点を除けばだが。 ちなみに、魔力ダメージでノックダウンした生徒たちは死屍累々の屍となって演習場のいたる所に横たわっているが、クライドのおかげで動けないところを絨毯爆撃に晒されたりと悲惨な目にあっている。 非殺傷設定だろうと、痛いモノは痛いのである。 そして、そういうところをわざと選んでクライドは逃げていた。

『てめぇクライド!! こっちくるんじゃねー!!』

『ぎゃーー!!』

『緑の光弾が、我に降り注ぐーー!!!』

『もうやめてリンディちゃん。 私たちのライフはもう0よ!!』

 泣き叫ぶ訓練生の慟哭が念話を通して嫌に頭に響いてくる。 手を緩めたいところだが、あの男が未だに生き延び続けている以上リンディは手を抜けない。

『悲しいけどこれ、模擬戦なんです。 クライドさんが落ちるまで、全力でやらせてください皆さん』

 その後、容赦の無いリンディの攻撃は障害物を全て破壊しつくし、クライドが落ちるまで続けられた。 模擬戦終了後にクラスメイトたちは皆年下のリンディを怒ることはせず、その怒りの矛先を全てクライドに向けた。 魔力ダメージでノックダウンされて身動きが取れなかったクライドは、クラスメイトたちによってたかってフルボッコにされ、医務室に直行することとなる。 勿論、クライドの弁明を聞く者は、誰もいなかった。



「……どこか納得がいきませんクライドさん」

 午後の模擬戦を終え、帰りのホームルームを終えて速攻、リンディはクライドにそういった。 可愛らしく頬を膨らませて抗議するリンディの様子に、クライドはまだ痛みの引かぬ身体を強引に動かして視線を向ける。

「どうして、今日の模擬戦はあんなに逃げ回るだけで攻撃しなかったんですか?」

「いや、今日は天気がいいから昼寝しようと思ってたんだ。 だから静かなところでぐっすりと眠っていたんだが、爆撃機に強襲されてな。 矮小なこの身を守るためには、全力で逃げる以外に思いつかなかったのさ」

 答えになっていない。 というより、真面目に答える気が無いのだろう。 リンデイの怒りのボルテージが少しずつ上がっていく。 が、その様子を見かねたザースが仲介に入った。

「まあまあそう怒るなよハラオウン。 こいつが気まぐれなのはいつものことなんだ。 いちいち目くじら立ててたら後二ヶ月ちょいの学校生活、不快になるだけだぜ」

「ザースさん、貴方は悔しくないんですか? こちらが真面目にやっているというのに、この人は真面目にやらないんですよ? まるで一生懸命にやっている私が馬鹿みたいじゃないですか」

「いや、俺は真面目に逃げたつもりなんだが」

「それは真面目だといいません」

 クライドの言葉を一刀両断すると、リンディはため息をつく。 なんだってこんな人に落とされたのだろうか? 未だに彼が何をやったのか理解できないし、あのときの彼に負けたときの悔しさは忘れられそうにない。 自分なりに対策を立て、今日の模擬戦を楽しみにしていたというのにこの有様。 馬鹿にされていると思えてしょうがなかった。

「うーん、怒らせるつもりは無いんだけどなぁ。 アレだって、まあ俺的にはいい訓練にはなるし」

「そっちはよくても私の訓練になりません」

 ただ逃げるクライドを強力な魔法で追い詰める。 やったのはそれだけだ。 どうすれば効率的に倒せるのかを考えはしたものの、結局やったことはそれだけだった。 何も、得たものは無かったのだ。

「まあ、そりゃそうだろうよ。 だって俺らとリンディには差がありすぎるからな」

「確かに、スティンガーブレイドの魔法一発で大半がノックダウンだからなぁ……レベルが違いすぎるってのが問題っぽい気はするなぁ」

 ザースが苦笑いを浮かべながらクライドの言葉に頷く。 小手先の技術や技をもろともしない絶対の差が存在する以上、よほど上手く立ち回らなければリンディと戦うことなどできない。 そのことをザースは肌で感じ取っていた。 そして、魔法一発でクラスの連中を叩き潰せるリンディには、クラスの人間から得るものなど少ないだろうということもまた感じていた。 魔法一発で潰せる雑魚から、一体何を学べというのか。 足掻く姿から何かを吸収することに意味があるかもしれないが、それだってその足掻きをクラスの連中にさせなければリンディは学ぶことができない。 そして、その様子見時を狙って本気で殲滅しようとする前に行動を起こしたことでかろうじてクライドは勝ちを拾ったのだ。 いきなり本気の彼女に挑めるほど、クライドは自信過剰ではなかった。

「まあ、このまま行くと俺たちの方も旨味が無くなっていくな。 それはもう確実に。 ミズノハ先生はもう色々と考えているだろうから、次かその次辺りで俺たちとの模擬戦は多分打ち切りになるねきっと」

「それは……」

 レベルが高すぎて戦闘にならないのだから、旨味が無いのは当然だろう。 数回の模擬戦を組んだのは、恐らくはクラスの連中に高ランク魔導師とは一体どういう高みにいる魔導師かを知らしめるため、そしてリンディには低ランク魔導師が一体どれほどの力しかないかを教えるためであろう。 また、その低ランク魔導師だからこそ行う小細工を用いた泥臭い戦い方の一つでも教えられればそれで十分といったところか。 ならば、三ヶ月間ずっとクラスの連中がリンディの模擬戦相手を務める道理は無い。 少しずつレベルをあげていき、恐らくは教員レベルが彼女の相手をするように段取りが組まれていると思われる。

「それに、もうリンディは旨味をゲットしたからな。 実際はもう次の模擬戦相手を用意してるんじゃないかな」

「旨味なんてあったのか? 言っちゃ悪いが弱いもの苛めだったぞ」

「何を言ってるザース? 一回目の模擬戦で俺たちに偶々負けただろう? それこそ、最大の旨味以外の何者でも無い」

「負けた経験が旨味……ですか?」

 クライドの言葉に、リンディもザースも首を傾げる。

「例え自分よりも低ランクの魔導師でも、特定条件が揃えば高ランク魔導師を撃破できるってことをその身で覚えただろう? これで、リンディは低ランク魔導師だろうと敵を脅威として捉え、慎重に戦うようになる。 もしアレが実戦だとしたら、俺は迷わずリンディを殺してる。 ほら、実戦に出る前にもうリンディは魔導師としての心構えを一つ得てる。 これが旨味じゃなくてなんだってんだ?」

「あっ……」

「なるほど……そういう見方があるか」

 クライドの言葉に、リンディもザースも合点がいった。 確かに、それは旨味であろう。 実際管理局で働く上で、どんな敵を前にしても気を抜くことなく対処するようになれば、リンディはそれだけで自らの生存率を高めることができる。

「それに、もう一回この前と同じように戦ったって俺は勝てはしない。 あれは正直かなり運が絡んだ勝利だったからな。 そして俺には少なくとも後一つ二つしかリンディを落す方法なんて浮かばない。 それだって色々と条件を満たさなければ勝ちを拾えない厳しい奴だし……なんていうか、めんどくせぇな」

 自力の差を埋める無難な方法はもう見せている。 二度通じないと考えると、後はまた別の反則技を持ってくるしかクライドには勝つ方法が浮かばなかった。

「おいおい、まだハラオウンを落す作戦があるっていうのか?」

 その言葉にザースは頼もしさを覚え――

「……是非今度の模擬戦で知りたいですね」

――リンディはやってみろといわんばかりに挑戦的に微笑んで見せる。

 しかし、クライドはそんなリンディの興味を満たすつもりはなかった。 

「めんどくさいし、まだ誰にも試したことが無いからやらないけどな」

 前に見せた切り札は、ミズノハ先生で実験して確かめたので理論上はハラオウンのシールドやバリアジャケットを切り裂けるとほとんど確信していた。 だが、後の二つはできる可能性こそあるものの信頼性が無かった。 クライドは賭けは嫌いではなかったが、勝ち目があやふやなそれらをある程度形にするまでは使用する気にはなれないのだった。

「……前の切り札とやらは誰かで試したんですか?」

「ああ、ミズノハ先生の個人授業の時にな。 やれるかな、とは思ってたけどまさかあそこまで威力があるとは思わなかったから驚いた」

 なんでもない風に答えると、クライドは鞄を持って立ち上がる。 あまり長くリンディと話していると、思わず色々と教えてしまいそうだったからだった。 生シグナムに感動を覚えるような男である。 幼女リンディにも勿論大変な感動を覚えていた。 原作キャラとは、ユーザーによって派閥こそあるものの良キャラは誰もが頷ける魅力を持っているのである。

「じゃあな、そろそろ帰るわ。 犬の散歩にも行かないといけないしな」

「あ、私も行きます」

「おいおい、一緒に帰ろうって気は無いのかよお前」

 席を立ってっさっさと教室を出て行こうとするクライドを追いかけるようにしながら、ザースとリンディも後を追った。










「結局、ザフィーラって犬なのか狼なのかよく分からないところがあるな」

「……私は守護獣だ。 断じて犬でも狼でもない……ベースは狼素体だが」

 首輪から繋がったリードを握り締めながら、学校内を二人で練り歩く。 別に、本当に散歩をするつもりは無かった。 ただ、こうすることで必然的に一人になれるだろうとは思っていたが。

――テクテク。

 だが、そうは問屋が降ろさなかった。 この前預けていたからか、それともクライド自身に興味を抱いたのか、小さな緑の影が二人の後をつけていた。 後ろに括った緑の髪と訓練学校では現在最年少の在学生となった彼女の姿を見れば、それが誰かは丸分かりである。 なんといか、忍んでいない忍び。 そんな風な印象を受ける。 勿論、クライドもザフィーラも気がついていた。 ザフィーラなど、匂いで判別できるので誰が何をしているのかすぐに理解していたが、何をするでも無いので放っておくことにしている。

 やがて、二人が辿りついたのは演習場であった。 リンディが障害物を全て破壊した場所ではなく、そこは森林に包まれた静かな場所である。 目的地はここだった。 クライドにはリーゼロッテとリーゼアリアという二人の魔法の師がいるが、現在彼女たちと会うことは長期の休みでも無い限り無理である。  一年のときから、戦闘技術を廃れさせないようにクライドは暇があればここを訓練場にしていた。 そして、今までは一人だったが最近クライドは四人の使い魔を手に入れた。 だからこそ、大っぴらに歩けるザフィーラを魔法訓練の相手として選んでいた。

 特に、ザフィーラは盾の守護獣と呼ばれており、ヴォルケンリッターの中でも防御力と耐久力に優れている。 攻撃力にどうしても自信が無いクライドにとって、相手の防御を崩すための訓練にはもってこいの相手であり、大変ありがたい存在であった。

「……主よ、良いのか?」

「いつも通りに頼む。 魔法開発は……組み手終わってから見せていいやつだけな」

「了解した」

 と、子犬の形態を取っていたザフィーラが、人型に変身する。 大体クライドと同じぐらいの身長までくるとそこでとめる。 本来の姿は筋肉隆々の青年だが、魔力量を調節することで色々と姿に幅を持たせることができた。 最も、人型になっても頭にある犬耳と尻尾だけは何故かそのままだったが。

 両手両足の篭手と具足を構え、少年姿のザフィーラが少しクライドと距離をとる。 クライドはいつものように両腕に楕円形のシールドを纏わせ、そのままザフィーラに向かって駆け出した。




 クライド・エイヤルという人間の戦い方について、リンディ・ハラオウンは詳しくは知らない。 ミズノハ先生に聞いてもよく分からないと、回答を保留していた。 ただ、総合Cランクを取得していることから、ある程度の数の魔法をバランスよく習得していると思われる。 しかし、彼が使う魔法のほとんどがシールドを改造した妙な魔法が多かった。 拳に楕円形のシールドを纏って攻撃するシールドナックルに、ノコギリの刃を持たせて誘導操作して相手を削り切るシールドカッター。 そして、シールドを高速回転させて歪曲させ、スターダストフォールで撃ち出して射撃するシールドアロー。 何か拘りでもあるのか、シールドを改造した魔法が多い。

「……シールドに特化した魔導師?」

 戦闘の随所で用いられる嫌味なまでに、実戦思考のそれらの魔法はクライドの意思一つで変化する。 基本がラウンドシールドであり、その術式に変化を加えて変性させているといった様子だった。 恐らくは、彼はそれをリアルタイムで行い、途中で術式を改変することができるほどに魔法制御能力が極めて高いのだろう。 果たして、そこに意味があるのかどうかは分からないが、彼がある目的を持ってそれを行っているらしいということだけは理解した。 彼は、極力無駄を嫌う。 遠めにその戦い方を見れば、よく分かった。 ラウンドシールドで防御したときなど、普通は一端シールドを消して別の魔法を使うのに、彼の場合はそのシールドを攻撃に転用してくる。 まるで、使用した魔力全て無駄なく使い切ってやるといった具合に。

「少ない魔力量でどれだけ相手を削るか、常に考えているということなのかしら」

 だとしたら、普段彼が空を飛ばないのも極端に言えば無駄に魔力を使うことを病的なまでに嫌っているからだろうか? と、そこまで考えてその考えをリンディは否定する。 アレは本当にめんどうくさがっているだけだ。 ただ単に疲れることが嫌いな、怠けものなのだ。 絶対、そうである。 でなければ今日の模擬戦であんな戦うことを拒んで逃げ回る必要などない。

(いや、でもそれだったらそのまま一撃喰らってノックダウンするほうが疲れないんじゃない?)

 最低限の労力で最大限の効果を。 そうクライドが考えているとすれば、あの逃げるだけの行動にも意味があるのかもしれないとリンディは思った。 彼自身、二度と前回のような方法で勝てるとは思っていないと言っていた。 であれば、別の戦法で勝ち方を狙う必要があるわけだが、方法が無いわけではないが、効果があるかどうか試していないからやらないといっていた。 だから、この場合打つ手など無い。 できることと言えば、模擬戦終了時間まで逃げ回ることだけだ。

(ああ、だからなのね)

 クライドは無駄が嫌い。 そして、ある程度効果があるという確信が無ければ自分からは動かない。 少なくとも命のやり取りをする必要が無い訓練中は。 そういう風にして自分に旨味がある行動だけをするようにしているのだ。 そして嫌味なことに、対戦相手にはできるだけ経験値を上げないように気を配ってもいる。

「――まったく、強かな人」

 しかも、めんどくさいと言いながらこうやって自分を高める努力を影でしている。 彼の言うめんどうくさいとは、所謂メリットがないことを嫌悪する言葉と同義なのだ。 ああ、だから彼は自分と模擬戦をしたくないのだ。 一回目はミズノハ教員で実証したアレが、リンディにも通じるのかという実験の意味があり、その限定的ながら総合Sランクに対抗できる武器の性能を確認したかったがために、使ったのだ。 しかも、トリックが広まることを酷く恐れている。 低ランクしかない彼が扱えるというのなら、リンディたち高ランク魔導師が知ればおのずと使い始めるだろう。 そうなれば、折角の切り札が露と消える。 そこまで先を考えて彼は戦っていたのか。

 自らの使い魔と模擬戦を行うクライドを観察しながら、リンディは思った。 その強かさを学ばせてもらおうと。 小細工などと彼は評したが、それは立派な武器である。 少ない労力で、少ない戦力で相手を確実に打倒するための戦闘方法。 今の自分のように魔力を湯水のように使って戦うような贅沢な戦い方ではない、別の戦い方を学ぼう。 それこそ、今の自分に足りないモノなのではないか。

「こうなったら、お爺様に頼むしかありませんね」

 この三ヶ月で学ぶべきものを理解した彼女は、模擬戦を行っているクライドたちに背を向けて学生寮へと戻っていった。 その目には、年不相応な強かさに満ちていた。 











「鋼の軛!!」

 地面から競り白い魔力杭が、次々とクライドに向かって牙を剥く。  彼の魔法はミッドチルダ式ではなく、古代ベルカ式と呼ばれる古いタイプの魔法であり、一言で言えば珍しい。 本当ならリンディにも見せるべきではいのだが、極稀にミッドチルダにも使い手がいるのでこれぐらいなら見せてもよかった。
 もっとも、いつの間にかクライドの観察をやめて寮に戻ったらしいので今では遠慮なく使っているのだが。 

 地面から無数に狙ってくる杭を、クライドは高速移動魔法を繰り返すことでやり過ごす。 動きを止めれば串刺しにされることは間違いない。 非殺傷設定が効いているとはいえ、全身を貫かれれば痛いことに間違いない。 そして、あの魔法は本来は拘束系である。 串刺しにすることで相手の動きを封じるタイプのバインドであるため、食らえば動きが止められる。 地面の下からの攻撃は避け辛くもあり、初見で避けることは難しい。 何度か喰らってその恐ろしさを体験しているだけに、クライドはその有効性には舌を巻いていた。 最も、空に上がるならそう避けることは難しくないとも結論付けてはいたが。 空でも使える魔法であるが、その場合は杭として使うのではなく一本の鞭のような使い方をザフィーラは選ぶので、比較的回避が難しいわけではないからだ。

「せい!!」

 避けながら、ラウンドシールドを四枚生成。 切り裂く術式を加え、高速回転させて射出する。 線で切り裂くその魔法の名はシールドカッター。 ラウンドシールドを攻撃に転用できないかと考えて試行錯誤しているうちに思いついた攻撃魔法である。 シールド系の魔法は思いのほか魔力消費が少ない。 防御力は込められた魔力量と術式の強固さに比例するため、魔力が少なくとも術式の強固さを極めれば少ない魔力で比較的強力な魔法となるのだ。 しかも、敵のシールドを削る効果を考えればかなり使い勝手が良い魔法であるといえる。 過負荷を与えながら確実に削る。 その実用性の高さがクライドは気に入っていた。 

 ザフィーラは自分に向かって迫り来るそれを、真下から鋼の軛で貫く。 回転する刃は厄介だが、シールドの中心部分は密度の関係で比較的攻略が容易である。 ただ、誘導操作が可能であるためクライドの意思でもって不規則に動くので迎撃がやり辛い。 訓練学校の生徒であるとはいえ、ここまで実戦的な魔法を主が覚えていることにザフィーラは心中で驚いていた。

(良い師に恵まれていたようだな)

 実戦を重視するそのあり方は、ザフィーラにとって好ましい。 彼のようなベルカの騎士は少なくとも一対一の近接戦闘に置いては負けないのとの自負がある。 こと決闘などといった分野では相手を倒すことに特化しているきらいがあるため、個々の戦闘力が総じて高いのである。 ミッドチルダの魔法は基本的にバランスに優れている。 防御、補助、近接攻撃に遠距離攻撃。 その幅広い魔法の種類は使いこなせれば脅威であるが、扱い切らなければ宝の持ち腐れにしかならない。 が、目の前のクライドは違う。 どのような理由があるのか聞かされていなかったが、シールド魔法を攻撃に転用し確実に少ない労力で最大限の効果を狙ってくる。 そうして、敵の防御と魔力を確実に削りながら一瞬の隙をついて敵を倒す堅実な戦い方をクライドは行う。 その攻撃のタイミングと魔法の使い方が恐ろしく旨い。 ザフィーラは歴戦の勇士ともいえるほど戦闘経験が豊富だったがあの魔力量でここまで戦えるクライドには驚きの念を感じずにはいられなかった。

「相変わらず、いい動きをする。 今度、シグナムかヴィータと戦ってみてはどうだ?」

 シグナムもヴィータもザフィーラを遥かに上回る攻撃力を持っている。 剣の騎士シグナムに、鉄槌の騎士ヴィータ。 ヴォルケンリッターの四人の中で直接戦闘に特化している分、主にとって良い訓練相手になるだろうと、ザフィーラは思う。

「それはまだまだ無理だ。 あの二人は強すぎる。 経験も半端じゃないし、なにより俺とは相性が悪すぎるから訓練じゃなくて苛めにしかならない」

 今の段階では、クライドにとってリンディよりも二人は手ごわい相手だった。 特に、リンディの近距離戦闘能力は高い魔力に依存しただけで、お世辞にもうまいとはいえない。 だが、シグナムとヴィータは近距離戦闘が恐ろしく強い。 高威力の近距離魔法をいくつか所持しており、それを直接向けられればクライドには防ぎようが無い。 アレは防御ごとブチ抜く類の魔法である。 削るのではなく、その破壊力で押し切ってくるので性質が悪かった。 一撃必殺とは恐らく、ああいう類の魔法を指して言う言葉なのだろう。 クライドにはまだ彼女たちとまともに戦える自信が無かった。 

 彼の師であるリーゼロッテとリーゼアリアなら話は別だろうが、あの二人にいつもいつもボロボロにされて玩ばれているようでは、先はまだまだ長かった。

(せめてあと1ランク上でいいから魔力が欲しい)

 そうすれば、もう少しマシに戦えるだろうに。 少なくとも小細工など使わなくても力押しだけで勝てるのが理想なのである。 リンディのような膨大な魔力量とまではいかなくても、AAA程あれば十分クライドは戦えると思っていた。 無いもの強請りの考えであったが、クライドは切実にそう思っている。

 とはいえ、それは高望みしすぎである。 管理局内部でも5%もいないAAAランク魔導師。 ほとんど反則のような強さを持つそのレベルに近づくということは、同時に危険な任務にもつかされやすいということであり、死亡フラグを加速させる要因になりかねない。 Aランクぐらいが、もしかしたら丁度いいぐらいだったのかもしれない。 その分、彼にはあるレアスキルが存在するのだから。

「それに、あの二人にカートリッジシステムなんて使われたら絶対に勝てない」 

 自分の魔力を底上げする能力を持つあのシステムが、クライドは喉から手が出るほど欲しかった。 問題はアレは採算度外視であるため通常のデバイスよりも遥かに値段が高いということか。 管理局員になって魔導師として高給を得る機会があれば是非とも自分のデバイスにその機能を加えるつもりだった。 扱いきれるかは別としても。

「ふむ、まだまだ精進が必要ということか主?」

「そういうこと」

 高速移動魔法で近づき、シールドカッターの迎撃に気を向けていたザフィーラに格闘戦を仕掛けながらクライドは次々と防御を崩す方法を考え、実行していく。 この場合は崩さなければならないのはシールドやバリアジャケットだけではない。 近距離での格闘戦を修めているザフィーラの体術さえ超える何かが必要なのだ。 シールド破壊なら、なんとかなる。 だが、その先が続かない。 歴戦の勇士の戦闘経験とはこれほどに厄介なのかとクライドはため息をつきたくなった。 油断と初見。 この二つに切り札を併用すれば勝てないことは無いと思う。 だが、それは意味が無い。 それで倒せない敵を倒すための何かを今、クライドは模索していた。

 拳自体に込められた魔力も相当なものだ。 何度も受ければクライドの防御を抜くことなど容易いだろう。 そして、ザフィーラにはまだまだ余裕がある。 豊富な経験に体術と防御力、そして自身を上回る魔力。 これだけの要素が絡んでいれば、クライドにはそれだけで打つ手が無くなる。 それが現実であった。

「はぁぁぁぁ!!」

「げっシールドナックルが!?」

 幾度もの拳の衝突で、クライドの両腕のシールドが悲鳴をあげている。 後数発も喰らえば、破壊されて力を失うだろう。 咄嗟に後ろに跳躍し、魔力を注いでヒビの入ったシールドを修復しようとするがそれをザフィーラは許さない。 すぐに距離を詰めてクライドに追いつくと、クライドの身体に蹴りを放つ。 咄嗟に両腕のシールドを盾にして防御するクライドだったが、ついにシールドが破壊され、蹴りを受け止めきれずに吹き飛ばされて地面を無様に転がった。 

「鋼の軛!!」

 ザフィーラに容赦は無い。 訓練相手を頼んできたのがクライド自身であったし、それをしてもクライドのためにならない。 地面の下から次々と現れる魔力の杭が、クライドの身体を貫いてその身体の自由を束縛した。 言い訳の仕様が無い見事な敗北である。

「くそ、また負けた……」

 痛みによって涙目になりながら、がっくりと肩を落すクライド。 切り札を使わずに本当に格上の魔導師を倒すことができるようになれるのか。 その答えはまだ、出そうになかった。 その後、格上を倒すための小細工をいくつかザフィーラに相談しながら煮詰めていく。 切り札は多ければ多いほど良い。 リンディとの模擬戦が後何回できるか分からないが、もう一回ぐらいは付き合ってやろうかとクライドは考えていた。 実はクライドは年下趣味でもロリコンでも無いが、大層な子供好きなのである。 どこか彼女に構いたく思っている自分に、クライドは自分自身で苦笑いを浮かべた。

(なんていうか、素直じゃないなー俺)











「ふむ、見事なものだな」

 目を細めて、初老の男がモニターに映し出されている模擬戦の記録映像を見ていた。 思わず漏れた感嘆は、総合Sランクを九歳という若さで取得した孫娘ではなく、それを打倒せしめた少年に向けられていた。 詳しくは分からないが、あの黒髪の少年は孫娘の強固な防御壁を一撃で切り裂き、その下のバリアジャケットまで無効化してみせ、孫娘を戦闘不能に追い込んだ。 一介の訓練生にそう簡単にできることではない。 総合Cランクを取得しているというが、果たして本当のランクはどれほどなのか。 期待できる若手の存在に、老人は楽しげに顎鬚を撫でる。

 陸士訓練学校に孫娘を短期編入をさせたのは、そこにいるとある空戦教員に孫を育て上げてもらいたかったからだったが、なかなかどうして期待以上ではないか。 訓練学校の校長を務める友人には孫の様子を心配している爺馬鹿にも取られかねない行為だったが、それでも頼み込んだ価値があったと老人は満足していた。 特に、彼自身も優秀な魔導師だったのでこの少年が行った行為に非情に興味を持った。 データ的には彼の魔力量はAランクギリギリ程度しかない。 それは模擬戦闘中ずっと同じであり、多少の変動はあっても概ね一定で驚くに値することはなかった。 しかし、孫娘の防御を切り裂いた魔法行使時の魔力量もまた同じ。 つまり、孫娘の強力な防御を切り裂く魔法を魔力量A相当で突破したことになる。 それも、二回。 常識的に考えればありえない。 上位クラスの砲撃魔法を撃ったわけでもなく、ただ腕を振るうだけでシールドが抵抗も出来ずに切り裂かれるというのは信じられないことだった。 そんな魔法を彼は見たことが無かった。 そして、あのデバイスもそうだ。 それを装着したときの彼の所持魔力量が保有魔力を大幅に超える数値をたたき出している。 ランクでいえばAAAに相当するだろう。

「瞬間的に魔導師の魔力量を底上げするデバイスはあるにはあるが……アレにはカートリッジシステムを搭載するだけのスペースが無いだろう。 では、彼は一体どうやって魔力を用意したのだろうか? まさか、ユニゾンデバイスというわけでもあるまいし……な」

 老人にもそんな高級なモノを、一介の学生が持ち込めるとは到底思えない。 だが、現に何かが作用して彼の所持魔力量は増幅されたのだ。

「才能を打倒する工夫……か」

 資質に左右されがちな魔導師の世界にあって、この少年の存在は実に面白いと老人は考える。 と、何か閃きのようなものを感じたそのとき、執務室に電子音が鳴った。 開かれる空間モニター。 その向こうには良く知った通信士の姿が見える。

「ハラオウン提督、外線でお電話です」

「ほう、私にかね? 今日の所はアポは無かったと思うのだが」

「いえ、それが提督のお孫さんです。 忙しくないようなら回して欲しいって言ってます……繋ぎますか?」

「ああ、お願いするよ。 丁度いい、今は休憩中だったのだよ」

「了解しました。 ではお繋ぎしますのでそのままお待ちください」

 再び響く電子音。 モニターが切り替わり、孫娘の姿が映し出された。

「やぁリンディ。 航行中に連絡とは珍しい……なにかあったかね」

「お久しぶりですお爺様」

 ペコリと、頭を下げるリンディの様子に笑みを浮かべながらハラオウン提督は穏やかに応じる。 実際、こうして孫と話すのは彼にとって楽しみだった。 笑みを浮かべないわけがなかった。

「その、今日はお爺様にお願いがあって連絡したんです」 

「ああ、可愛い孫の頼みなら何でもしよう。 それで、何を私にして欲しいんだい?」

 少し、口に出すのは戸惑ったのか口元が揺れる。 だが、意を決して彼女は言った。

「――私に魔力量を制限する出力リミッターの魔法をかけてくれませんか?」 

 その言葉は、老人の思考の埒外の言葉だった。 バースデーはまだまだ先だし、何かを強請られることなど無い聞き分けの良い子だったので、欲しいものでもあるのならと思っていたがこの言葉は予想の斜め上を通り越していた。

「――ふむ、今後のためにそれが必要なのかね?」

 ようやく搾り出した声は、少し驚きが混じっていた。 態々自分の魔力量を制限する必要など無い。 管理局に正式に所属する魔導師ならば、部隊保有制限の関係で必要になることもあるだろうが、まだ管理局に勤めてさえいないリンディに必要であるとは思えなかった。

「はい。 そして、今後あの学校で学ぶために必要な処置だと思います」

 きっぱりと言い切ったリンデイの瞳は、決心した者のそれであった。 暇があればリンディに会いに行っていた彼は、その目を見てしばし迷った。 だが、孫娘の無言の嘆願に折れてしまいそうだった。

「理由を聞いてもいいかね?」

「お爺様は私にあの学校で学ぶように仰いました。 ですが、それをするためには今の私の魔力量が邪魔です。 私があそこで学ばなければならないことは、魔力に乏しい魔導師の戦い方。 格上と戦ってそれを打倒するための方法。 そして、それへの対処法です。 そのために、私は魔力に乏しい魔導師のことをこの身で知らなければ駄目だと思いました。 だから――」

「そのための出力リミッターというわけか」

「はい、三ランクほど落して欲しいんです」

「三ランク……丁度Aランク相当まで落すというのか。 確かに、あの学校ではそれだけあれば十分だろうが……」

 ハラオウン提督は迷った。 別に出力リミッターをかけるぐらい何でも無い。 だが、そこまでする必要があるのかがどうしても疑問だったのだ。 確かに、彼女にはそういう戦い方を学んでもらいたいと思っていたが、ここまで思い切った決断をするとは露とも思っていなかった。 リンディは聡い。 だが、まだ九歳の少女でしかない。 そこまでランクを落すことは少しばかり心配だった。

「せめて二ランクにしておかないかね? 何かあったときに困ることになるかもしれん」

「いえ、三ランクまでは最低でも必要ですお爺様」

「うーむ……」

 Aランク……そこまで落す切っ掛けとは、やはりクライドの件が絡んでいるのだろう。 先ほど見たあの少年とほぼ同じ量で正々堂々と戦いたいのかもしれなかった。

「切っ掛けはクライド・エイヤルかね?」 

「……はい。 知っておられたのですかお爺様?」

「ああ、ついさっき君たちの模擬戦のデータを頂いて鑑賞しておったところだ。 実に興味深い少年ではあるが、お前がそこまで気にする必要は無いと思うがのう」

「ですが、アレが実戦なら私はもう一回死んでいます」

「それは――」

「それに彼は言いました。 少なくとも後一つ二つなら、私を落せるかもしれない方法を思いついていると」

「ほう!?」

 今度こそ、彼は驚嘆した。

(アレが奥の手だと思っていたが、アレ以外もあるというのか?)

 大きなランク差を覆すのは非情に難しい。 それを理解しているハラオウン提督はその以外な言葉に興味を示す。 鑑賞した模擬戦のデータを見るに、アレが限界ギリギリであっただろうと思っていただけに、まだあるというのか。 久しく前線に立つことがなくなった魔導師としての己に、少しだけ昔の熱が蘇ってきた。

「あの、駄目でしょうかお爺様?」

「いや、駄目というわけではないが……そうだな。 少し待ちなさい」

 自らのスケジュールを確認し、休日を探す。 提督ともなれば色々と忙しいが、孫娘のためとあらば休日を捻出するのも苦ではない。

「ふーむ、なんとか週末が空きそうだな。 リンディ、君の都合は大丈夫かね?」

「はい、勿論です」

「では今週の週末にしようか。 私がそちらへ行こう。 そのとき、例の彼を確保しておいてくれ。 少しばかり興味がある」

「クライドさんにですか?」

「ああ、彼がリンデイのためになる男かどうか確かめたい」

「それは――」

「なに、訓練学校を吹き飛ばすような真似はせんよ。 そこまでやる必要もないだろうからな。 ただ、彼の力が知りたいだけだよ」

(まあ、リンディにとって悪影響がある男であったなら訓練場ごと吹き飛ばすがね)

 内心で物騒なことを考えながら、彼は涼しい顔でモニターの向こうの孫娘に微笑み、新しい学校でのことを色々と尋ねた。 苛められていないかとか、友達はできたかとか。 陸士訓練学校の昔馴染みを信じてはいたが、やはし少し色々と心配だったのだ。 過保護な祖父の一面を押し出しながら、彼は久しぶりの孫との逢瀬を休憩時間一杯楽しんだ。

コメント
闇の書の意思改め俺の書の意思『ひっひどい!私を弄ぶだけじゃなく名前まで勝手に変えるなんて!』

クライド「フッフッフ、いくら騒いでも無駄だ。さあ、お前の名前をこの白くてしばらくするとカピカピに固まる液体で直接体に刻み付けてやる」

闇の書の意思改め俺(ry『ら、らめえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
【2008/06/14 16:21】 | あるべると #- | [edit]
俺の惑う書…アレ?変換ミスったw

まぁ、私であれば『俺の日記』かな。守護騎士や守護獣は、『俺』が書いたプライベートを、個人情報を護る為n(ry
【2008/09/02 22:13】 | さんでぃえご #Cv2s2L.A | [edit]
あははは、日記もありですねー確かに^^
【2008/09/07 08:57】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
ファランクスランサー・・・フォトンランサーファランクスシフトの類似品・・・?
【2008/10/13 16:05】 | みょん #mQop/nM. | [edit]












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