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憑依奮闘記 第三話(なのは系オリ主憑依系SS)

 2008-03-22
 つまらない日常なんて、どこにでもある。 けれど、その中にこっそりとまぎれる幸福の瞬間のために人間は生きているのではないかと思うときがある。 俺の場合はずばり今がそのときだ。 死んだと思っていたら、アニメの世界に憑依なんて喜劇、幸福以外の何者でもない。 幻想でしか存在しない隣人と、こうして現実に会話し、触れ合うことができるというのは法外な奇跡である。 だからこそ、最近は少し恐ろしく思うときがある。 幸福の瞬間は一瞬。 絶望は永遠。 希望が絶望に成り下がる日がいつかきそうで、それがたまらなく怖い。


「ちっ、これアームの設定弱ぇぇんじゃねーのかクライド!!」

 紅い三つ編みを揺らしながら、こちらを振り返る鉄槌の騎士。 俺は苦笑しながら、次のコインを投入する。 ゲームセンターにどこにでもあるそれは、所謂UFOキャッチャーというゲーム機である。
 コインを投入し、ロボットアームを操作してヌイグルミなどの景品を持ち上げて取り出し口に落せれば、それが手に入るという遊びだ。 そしてそれに興じる鉄槌の騎士ヴィータのお目当ては、その景品の中でもかなり手ごわい位置にあるウサギのヌイグルミだった。 既に数回トライしているがまったく落せない。 ヴォルケンリッターの中でも二番目に戦闘能力の高い彼女でさえ落せぬそのウサギは、落せるものなら落してみろとつぶらな瞳でヴィータを挑戦的に見ていた。

「くそ、あーちょっとズレた!?」

 この戦場では魔導師としていくら力があろうと無意味である。 いや、魔法を使ってズルをすればある程度不正ができそうではあったが、それをすると警備員の人たちに取り押さえられてしょっ引かれることになるだろう。 悔しそうに唇を噛むヴィータの様子に、俺はまたコインを投入。 できれば、早い段階で入手してくれれば懐が痛まなくて済むのだが。

「おし、次こそ……ってまた微妙にずれやがった!? 反応狂ってんじゃねーのかこれ!!」 

 経験不足故に、思い通りの位置でアームを落せず四苦八苦するその様は、非情に微笑ましいものがある。 折角の休日、図書館に篭るだけでは味気ないと思い気分転換に遊びにきたらこの様だ。

「くそ、アタシじゃ落せねーっつーのか!! クライド、とっととこの生意気なウサギを落しやがれ。 でないとアイゼンの錆びにしちまうぞ!!」

「ちょ、ちょっと待てヴィータ。 分かった、分かったからそれは無しだ」

 周りから見れば兄弟がじゃれ付いているようにしか見えないかもしれないが、本気で懐からデバイスを召喚しようとする彼女を見た俺は気が気ではなかった。 止め切れなければ、本当にヴィータの鉄槌の錆びにされそうだったからである。

(あれー、俺確か彼女たちの主なのになんか扱い酷くないか?)

 ベルカの騎士は忠義に熱いはずなのだが、俺は何故か彼女に適当に扱われているらしい。 とりあえず、コインを投入してご機嫌とりを行ってみる。 しかし、俺もまたこういうのは得意ではない。 ウサギのヌイグルミは俺をあざ笑うかのようにアームをやり過ごし、余裕の表情を見せている。

「ちっ、クライドも大したことねーな。 誘ってきたんだから旨いのかと思って期待しちまったじゃねーか」

「悪かったな。 だが、こいつマジで手ごわいな。 ランクSぐらいあるんじゃないか?」

「ふん、アイゼンが使えりゃこんな奴一撃でアタシがぶっ飛ばしてやるのによ」

「そこまでやってぶっ飛ばないウサギがいたら、そいつはきっとロストロギアだ」

 もしそうだとしたら、管理局員が躍起になって回収に乗り出すことになるだろう。 管理局員を千切っては投げ千切っては投げるウサギのヌイグルミの姿を想像して思わず笑った。

「ちっ、今度きたら絶対に落してやる。 覚悟しとけよ」 

 可愛らしく捨て台詞を残しながらヴィータをまた別の場所へと連れて行く。 だが、まだ気になっているのかちらりちらりと後ろのUFOキャッチャーを気にする。 親に玩具を我慢しろと怒られた子供のようで、酷く愛らしい。

「ふむ、じゃああいつは無理だが別のウサギを探すとしよう。 確か表の通りにそれっぽい店があったはずだ」 

「へぇー、ならさっさといこーぜ。 まあ、あいつ見たいなレベルの高い奴がいるかどうかは知らないけどよ」 

 その後、ファンシーショップで目当てのウサギを発掘したヴィータと共に俺は訓練学校へと戻っていった。 後日ヴィータから色々と今日の話しを聞いたらしい烈火の将が、不機嫌そうにお小言を行ってきた。 

『主、手ごわい敵がいたというのなら私にも声をかけて欲しい。 私なら撤退などせずともレヴァンティンの錆びにできたやもしれん』

 もしかして、遠まわしにヴィータのように遊ぶことが無かったからそれを怒っているのだろうか。 それとも、本気であの手ごわいウサギに勝負する気なのだろうか? 詳しくは聞かなかったのだが、シグナムが激しく勘違いしているような気がした。 だが、残念だったなシグナム。 来週はシャマルの登場と決まっているのだ。 再来週まで我慢してくれ。 







憑依奮闘記

第三話

「はた迷惑な来訪者」







 遥か彼方、デバイスの捉えている望遠映像の中に映っている小柄な少女とクライドの戦いを冷静に眺めながら、フレスタ・ギュースは己の役割を果たすべく細心の注意を払っていた。 瞬きなどする暇は無い。 総合Sランク持ちという超エリート魔導師と最善戦で戦っている低ランク魔導師のために、どんなチャンスも逃すわけにはいかないからだ。 空で戦う両者、とりわけクライドの戦いを見ていると喉の渇きを覚えて仕方が無かった。 ただの一撃でも喰らえば叩き落される可能性があるというのに、それを感じさせないクライドの様子に何どかゴクリと唾を飲みこんだ。 

 クラスでも浮いておりやる気があるのかないのか良く分からない男クライド・エイヤル。 ザース・リャクトンというクラスでも人気のある男子と何故か仲がよく、いつもコンビを組む。 女子連中からすれば、ザースがクライドに付き合っているのはクラスの七不思議の一つでもあった。 切っ掛けがなんだったのか気になったフレスタは、ザースに聞いたことがある。

『なんでザースはクライドといっつもつるんでるの? なにか良いきっかけでもあったの?』

 そのときのザースは、フレスタの問いに驚いたものの苦笑しながら素直に答えた。

『一年の最初の実技のとき偶々あいつとコンビを組まされたことがあったんだが、そのときやけに戦いやすかったんだ。 他の奴とはなんか違う。 あいつは、なんていうか変なんだよな。 それが気になって、つるみだして、今に至る……かな』

『ふーん、まあ確かにちょっと皆とは違うタイプよね彼は』 

 変わっている。 その言葉が確かに一番当てはまる。 魔導師としての訓練をする学校で、デバイスマイスターになろうと勉強している人間は滅多にいない。 そもそも魔導師は魔導師としてあるべきなのである。 余分なことをするよりも、魔導師としての力を磨いたほうが後々の進路も良くなってくる。 魔導師とはミッドチルダに住む人間の憧れだ。 資質という壁が大きなネックにこそなっているものの、次元犯罪から人命救助まで、ミッドチルダの生活を支えている大事な人材でなのである。 それ故に高ランク魔導師にでもなれれば生活だって安定するし、色々と生活で便宜を図ってもらえたりする場合が多い。

 華やかなイメージのある現代の主役とまで言われる魔導師と、それを支える地味な裏方デバイスマイスター。 どちらの待遇の方が良いかなんて簡単に分かる。 勿論、デバイスに興味がありそういう自分のための道として目指しているというのなら存分にありだと思う。 だが、態々魔導師としての勉強をしながらその勉強をすることに違和感を覚えていた。 何故、デバイスマイスター一本ではだめなのか。 何故、魔導師とデバイスマイスターの二つを同時に修めようとしているのか。 クライドという人間はフレスタにはよく分からない価値観を持った人間だった。 

 そしてだからこそ違和感が付きまとう。 総合Sランクを所持していると言ったリンディを落すと言ったときの言葉は冗談だったと思っていたのだが、望遠映像に映る彼は真剣そのものであり本気でそれを成そうとしている姿が容易に見て取れた。  本気なのだ、あのクライドという少年は。

 そう思った瞬間に、フレスタは無意識に魔法を放っていた。 発射された魔法はフレスタの手持ちの長距離狙撃用魔法の中で、最高の威力と命中率を誇る魔法スナイピングバスターである。 魔力で生成したいくつもの加速装置に圧縮魔力弾を通して射撃する魔法であり、その初速と貫通力は大したものだった。

 発射された桃色の弾丸は狙い済ましたかのようにリンディに着弾し、フィールドを揺るがす。 その一撃に脅威を覚えたのかクライドの攻撃を防御しながら、こちらを警戒しているような素振りを見せる。 望遠映像越しに、リンディの翡翠の瞳が確かに自分を射抜いた。 だが、それだけだった。 いや、恐らく遠すぎて気づいていないだけだ。 人間の視力でどうこうできる距離ではないのだから。

「ふぅぅぅぅ、生きた心地がしないわねこれ……」

 一瞬目があったときなど、背筋が凍るほどの恐怖を感じた。 やろうと思えば、こちらを一撃で殲滅できる魔法を向こうは所持しているのだからその反応は当然だ。 だが、恐怖に負けて狙撃できなくなるなど砲撃魔導師として三流である。 例え高ランクではなかろうと、魔導師としての矜持がフレスタにはある。 デバイスに魔力を注ぎ、再びスナイピングバスターの発射準備に入った。

 結果、通算二発の援護しかできなかったが前線で戦っていたクライドはザースに最高の援護射撃だったという称賛の言葉を言付け、彼女の元へと向かわせていた。 その言葉を聞いたとき、最高に嬉しく思ったことを一生忘れられそうになかった。 総合Sランクを打倒した男からの賛辞は、それほどフレスタの心を揺さぶっていたのだ。 だが、それも長くは続かなかった。 模擬戦は終わりだと思ってザースの背中におぶさってウイングロードの道を気持ちよく走っていたら、いきなりミズノハ先生から模擬戦追加の念話が届いたのだから。 

「うげっマジかよ」

「冗談じゃないわ。 もうミズノハ先生の近くまで来てるって言うのに!?」

 飛翔してくる空戦魔導師が、銃剣を掲げながら迫ってくる。 その顔はどこか恍惚としており、思いっきり生徒をノックダウンさせる気に満ちていた。

「おや、早い帰還だな。 だが、まだ模擬戦は続いている」 

 容赦なく振り上げられる銃剣。 咄嗟にザースの背中から飛び降り、ウイングロードに着地してデバイスを構えるがフレスタにできたのはそこまでだった。 ザースを一刀の元に切り伏せたミズノハが、彼女の杖を弾き飛ばして銃剣を掲げている。

「あ、あはははは。 先生、疲れてるんで手加減してくれると嬉しいんですけど……駄目ですか?」

「大丈夫だフレスタ・ギュース。 非殺傷設定そのものが手加減だ。 気絶するだけで済むからいつも通りだと安心しておけ」

 無慈悲に振り下ろされる銃剣。 身体を襲う衝撃と痛みに悶えながら、フレスタの意識は闇に落ちた。





「あ、痛たたたた」

 痛む後頭部を押さえながら目を覚ましたフレスタは、視界が妙に可笑しいことに気がついた。 天井がやけに遠い。 いつもベッドで寝ていたらもう少し高いはずだ。 寝ぼけ頭でしばしそんなどうでも良いことを考える。 ああ、なんてことはない。 気がついたら大したことはなかった。

「なんだ、またベッドから落ちちゃったのか」  

 道理で変な体勢だと思った。 両足がベッドに乗ったまま、身体だけ頭から天井を見上げる状態。 上布団や枕もまた、自分のせいでベッドから身投げしている状態である。 ここまで寝相が酷いと、笑うことしか出来ない。

「ま、まあ隣で誰か寝る予定もないわけだし……」

 そういって、少し凹む。 友人連中の中には何人かすでにそういう早い奴らがいることを思い出したのだ。 おいおい、君たち何歳だよ。 みたいな親父的思考が一瞬頭をもたげたが、惨めになるだけなのでフレスタはそうそうに起きることにする。

 今日は日曜日。 特にすることも無いが、それでも何か面白いことがあるかもしれない。 欠伸をしながらパジャマを脱ぎ捨て、浴室へと向かう。 魔導師として最低限鍛えている彼女はどちらかといえば細い。 少しふくよかさに欠けている感は否めなかったが、それを補うほどの明るさとトータルバランスが魅力だった。 シャワーから流れる温水で目を覚ましながら、今日は何をしようかとフレスタは思考する。 課題があるわけでなく、新しく覚えたい魔法があるわけでもない。 本当に手持ち無沙汰だ。 友人の中には街に繰り出す子もいたのだが、いきなり声をかけるという気も何故か起きない。

「リンディちゃんの所にでも遊びにいこうかな」

 最近、彼女はリンディに良く構っていた。 年下でありながらクラスメイトを大きく凌駕するその魔導師としてのポテンシャルは、下手をすれば彼女をクラスから浮かせかねない。 もっとも、あの可愛らしさと礼儀正しさである。 心配するだけ無意味だとは思うが、良からぬことを考える人間というのはどこにでもいるものだ。 彼女と接することの多いクラスメイトたちはさほど問題ではないが、別のクラスの人間は要注意である。 稀に彼女がSランク持ちだという噂を聞いてやってくるバトルジャンキーや、妙な陰口を叩く輩がいないとも限らない。 特に、模擬戦でクライドと戦って負けたという話は微妙な噂を校内に広めていた。 ハラオウンの名は時空管理局の中でも実はかなりの意味を持つ。 管理局が発行している魔導師年鑑には、高ランク魔導師として幾たびかその名が載ることがあり、リンディも幼いながら既に期待の嘱託魔導師として紹介されてもいた。 ある意味、業界の有名人であった。 魔導師に詳しい友人が、リンディにサインを強請っていたこともあり、少し心配でもあった。

「私なんか相手になんないぐらい強いのにまだ九歳なんだよねぇ……」 

 極稀に見せる子供っぽさからは想像ができないがそれは事実だった。 既に管理局員でも低ランク持ちなら半分以上ぶっとばせるのでは無かろうか。 羨ましく無いといえば嘘になる。 その才能が、その環境が。 でも、そんなものは無いもの強請り。 そんなことが理解できないほど、フレスタ・ギュースは幼くは無い。 

 シャワーの暖かな熱が、羨望も嫉妬も洗い流していく。 今日もまた、楽しい日常が待っているだろう。 だから、この稀有な出会いをもっともっと価値ある日常にするためにフレスタは今日の予定を決めた。 艶やかなセミロングの茶髪を振り乱し、目に伝おうとする水を拭いながらフレスタは浴室を出て行く。 もう眠気はなくなっていた。












「ちっ、やっぱまだまだ収束率が低いな。 魔力の使用効率も甘いし、術式強度もまだ上げられるはずだが……」

 自身のデバイスが表示するデータを見ながら、クライドは自室で唸っていた。 切り札もそうだが、他の魔法もまだまだ改良の余地がありそうだった。 魔法行使効率を上げることは、魔力に乏しい魔導師にとって当然のことであり、当然の工夫だ。 一つの魔法を修練していけばだいたい身体にあったように自信で勝手に最適化されていくが、クライドはそれだけで許すつもりは無かった。 最高効率で最適化し、限界以上の力を生み出させる。 無駄に魔力を使わずに戦う方法を常に模索する。 そのあり方が、魔導師というよりも研究者といった具合だった。

「アーカイバも……この前のリンディとの模擬戦で結構酷使したからなぁ……メンテナンスきっちりやっておかないとな」

 彼のデバイスはグローブ型の自作ストレージデバイス『アーカイバ』だ。 市販しているデバイスパーツの中でも最強の演算能力を持つのクアッドコアによる高度な多重演算能力と大容量魔力チャンバーを備えたそれは、訓練学校が支給している標準デバイスの杖とは違い、バランスなどはまったく考慮されていない。 普段は左手の腕時計に偽装してあり、待機状態のままでも演算だけは行えるという特性を生かして本体のグローブは使わない。 リンディを倒すために使ったときのように、勝負に出る直前まで使用しないそれは彼の切り札である。 その役目は今のところ彼しか知らない。

 このデバイスは別にどんな魔導師にも切り札込みで使えるが、意図された効果を発揮させるには彼が使っている必要がある。 そういう意味では彼専用のデバイスであるともいえるだろう。 高度な魔法演算能力は魔法の効率や多重起動をサポートし、戦闘を優位に進めるために武器となる。 そして、大容量魔力チャンバーは普通なら低魔力しか持たないクライドには無用の長物であるが、AAAランクの魔力量までは貯められるために非情に重宝していた。 贅沢を言えばそれ以上のものが欲しかったが、それは管理局にでも入らない限り手に入ることは無いため諦めていた。

「軍用でも手に入ったらもう少し使い勝手が上がるんだけどなぁ」 

 ぼやきながら、手入れを進めていく。 自作デバイス故に、耐久力にいまいち信頼性がもてない。 唯一不満を上げるといえば、そこぐらいか。 出来うることは施した。 それ以上を求めるならば、彼自身がデバイスマイスターとして管理局に入らなければどうにもならない。 後半年先に、そこまで行けるのか少しも不安が無いといえば嘘になる。

 そして、不安といえば闇の書のこともある。 今のところクライド自身になんの身体的不調は感じられない。 アニメでは長らく蒐集をしなければ、主を侵食して蒐集を促していたはずだが、定期的にマニュアルで入力しているためか、それとも魔導師としての素質の差によってか知らないが悪影響はなかった。

「そういえばザフィーラ、シグナムたちってデバイス自分で管理しているんだよな? 色々とそういうのにも詳しかったりするのか?」

「ああ、簡単な整備なら自分たちで行っている。 それに、破損した場合は守護騎士システムが復元させるから特に問題は無い」

 床に寝転んで伏せていたまま答える子狼。 その姿に本来の青年姿との激しいギャップを感じながら、クライドはさらに問う。

「じゃあさ、デバイスだけ召喚とかできるか? ちょっと分解したり構造解析したりしてみたいんだが……」

「恐らくは可能だろうな。 頼んでみれば良いのではないか? 今現在戦う予定はない。 であれば、そのぐらいは許してくれるだろう」

「ヴィータ辺りが騎士が自分の武器を他人に預けられるかって噛み付いてきそうなんだが……」

「いや、それは無いだろう。 ヴィータはああいう性格だが、主の頼みを無碍にするような人間ではないからな」

「そうか? じゃあちょっと念話で頼んでみよう」

 しばらく念話で待機状態の三人に頼み込み、なんとか了解を取り付ける。 と、闇の書の周りに三つのデバイスが転送されてきた。 片刃の長剣に得の部分が長いハンマーに青と緑の宝石がついた指輪。 それぞれがシグナムたちの持つデバイスである。 剣とハンマーはアームドデバイスと呼ばれるデバイスであり、それ単体で武器として使うこともできる。 さらに、一番興味を引くのはそのデバイスに組み込まれた特異なシステム。 いわゆるカートリッジシステムと呼ばれるシステムだ。 弾丸を模した圧縮魔力カートリッジに封入された魔力を戦闘時に開放することで使用者の魔力を底上げし、威力を増幅させたりする強力なシステムである。 その威力は、少なくとも使用後と使用前とで雲泥の差をもたらす。 クライドが喉から手が出るほどに欲しい最高のパーツであった。

「くぁぁぁ、なんてすごい完成度なんだ。 自作デバイスなんて目じゃねぇなこのスペック!!」

 恍惚した笑みを浮かべながら、クライドは食い入るようにデバイスを弄る。 モニターに表示されているデバイスの能力だけでも、信じられないほど高い。 そして、その性能を完全に引き出すことのできるシグナムたちの魔導師としての力量には頭が下がる思いだった。 

「ベルカでは個人の能力を重視するからな。 個人の力を最大限発揮するために採算度外視で一人一人にオーダーメイドのデバイスを作る。 一騎当千の質ではなく数を選んだミッドチルダの汎用デバイスや簡易デバイスとは比べ物にならんさ」

 どこか誇らしげに語るザフィーラの言葉に感心しながら、クライドはさらにのめりこんでいく。

「いいなぁ……ちょっと使ってみたいぜ。 こう、カートリッジ中毒かといわんばかりにリロードしまくってみたい」

 冥王が行った壁抜きのシーンで鳥肌を覚えたクライドらしい感想である。

「カートリッジ使用するのって慣れないと難しいっていうけど、そこんとこどうなんだ?」

「私のデバイスにはついていない機能なのでなんとも言えんな。 だが、やはり難しいと感じるのは当たり前だろう。 普段の魔力制御量を大幅に超える魔力を制御するのだ。 魔法制御能力が低いものにとっては、暴発の危険もあるだろう」

「管理局に入ったら絶対自分のデバイスに組み込みたい。 ドラムマガジン式とか作ってみたいんだよなぁ」

「ふむ……主はそんなにデバイスが好きなのか?」

「ああ、魔導師として魔法を使うのも好きだけどデバイス考えるのも好きだな。 なんていうか、血が騒ぐ感覚がある。 それに、俺は戦いが怖い臆病者だからな。 前線へ送られるよりもデバイスの開発部隊とかに入りたいと思ってる」

「そうか……そのときは是非とも私にもカートリッジ式のデバイスを作ってくれないか? 私も実はカートリッジシステムには興味があったのだ」

「ああ、いいぜ。 楽しみにしてろよ」

 楽しげに語る一人と一匹。 少なくともクライドはザフィーラを気に入っていた。 冷静で落ち着いた感のある彼とは、どうにも上手くやっていた。 初めの方こそ何故ヴォルケンリッターの中で彼一人だけ男なのかと違和感を覚えていたのだったが、今ではもうその違和感はなくなっている。 寧ろ、彼のようなタイプが必要だったのだと理解した。 触れれば切れそうな空気を持っているシグナム。 どこか無邪気なところを持つが芯が硬いヴィータ。 温和で優しげなシャマルに、冷静に客観的に思考するザフィーラ。 なるほど、一人一人個性こそ違うもののどうにも噛みあっている感がある。

「そうだ、後でちょっとカートリッジ借りて演習場で使わせてもらわないか? 今後のためにもいい研究になりそうだし」

「ふむ……今日はまだ鍛錬をしていないし、付き合おう」

 ニヤリとお互いに笑みを浮かべつつ、クライドは闇の書を取り出して三つのデバイスを収納させる。 もうそろそろ昼時である。 少し早いが腹を膨らせてから腹ごなしといこう。 鞄に闇の書を入れて立ち上がると、ザフィーラを伴って食堂へと向かった。











 リンディの部屋へと遊びに来ていたフレスタは、ふとカレンダーに今日の日付のところに何やらメモがあるのを発見した。 興味を引かれて見てみるとそこには『お爺様来訪』と小さく書かれている。 

「へぇぇぇ、今日はお爺さんが来るんだ?」

「はい。 昨日の夜には本局の方へ帰ることができたそうなので、昼過ぎぐらいに来るそうです」

「そういえばウチって保護者の来訪とか比較的オープンだったっけ」

「保護者から子供を取り上げるのだから、できるだけ自由にしているそうですよ。 校長先生が言ってました」

「そうなの? まー正式に管理局の魔導師になったら忙しくて中々実家に帰れないって噂はよくきくもんね」
 
 広大な次元世界を管理するには、圧倒的に人手不足なのである。 特に、感知世界が増えれば増えるほどそのための人員確保の動きは活発化している。 管理局で魔導師とは、それほどに必要とされる人材なのであった。

「特に執務官や次元航行艦で勤務する場合は大変らしいですよ。 一回の航海の日数は任務によって違いますけど、現地との距離とかを考えると一月二月単位で時間がとられるなんてこともあるそうですから」

「うわっ、ちょっと考え直そうかな進路。 アタシ次元航行艦任務とかに興味あったんだけど……うーん、一月二月は長いなぁ」

「ふふ、でもそれだけやりがいのある仕事だってことですよ。 私は執務官になりたいんでそういうことは覚悟してますけど、次元航行艦の任務って現地の文化とかに色々と触れられて面白ろそうですよ」

「まー、色々と良いところとかはあるんでしょうけど……どうなのかな?」

 そういうとリンディの部屋の中を見回しながらフレスタは冷や汗をかく。 なにしろ、彼女の部屋の中は混沌と化していたからだ。 それらは全て両親やお爺様からのお土産らしいが、どこの世界のモノかもよく分からないものが所々に並んでいた。 

(な、なんなんだろあのお面。 管理外世界にある般若とかいう奴らしいけど……可愛く無い……よね? それにあの木彫りの人形に……植物の置物? いまいちよくわかんないものばっかり)

 用途不明の意図不明品の数々にフレスタは悩む。 熊に乗る子供の置物など、一体どうするのだろう? 普通のヌイグルミとかの方が可愛いと思うのだけれど。 首をかしげながらジッと見る。 ちょっと呪われそうで怖い。 文化の違いは理解しがたい溝を生み出しそうだった。

「あとですね、最近ハマッているのがこれですね」

 そういうと、変わったコップ――湯のみというらしい――に薄い緑色の液体を入れてフレスタに薦める。 その隣には砂糖の入った小瓶があることから、どうやら飲み物らしい。

「これ何?」

 独特の香りのするそれを見て、フレスタは首を傾げる。 自分の分も入れたリンディはそれに苦笑いしながらも自分の分のコップに小瓶から砂糖を十杯ほどいれた。

「これは管理外世界のお茶ですよ」

「お茶なの? でも、そんなにお砂糖いれていいの?」

「ちょっと口当たりが苦い感じがするんで私はこれぐらい入れます。 現地の人はそのまま飲むらしいですけど……」

「へぇぇぇ……」

 とりあえず、リンディにならって口をつける。 砂糖は入れない。 なんとなく、そのまま飲めそうな気がしたからだ。 口に広がる香りと、少しの苦味。 だが、別段砂糖が欲しいと感じず、フレスタはそのままそれを飲み干した。

「ふーん、結構イケるわね。 甘いものと合いそうだわ」

「わぁ、すごいですね。 苦くないんですかフレスタさん?」

「私にはこれぐらいで丁度いい感じ」

 尊敬の眼差しで見上げてくるリンディに苦笑しながらしかしフレスタは思った。 単に、リンディが異常なまでに甘党なのではないだろうかと。

「虫歯には気をつけなさいね」 

「はい? 歯磨きはちゃんとしてますよ?」

 思わず心配したフレスタに不思議そうに答えるリンディ。 学校の中での彼女と、今のようなプライベートでの彼女とのギャップに、少しフレスタは微笑ましさを感じた。 学校では少し年不相応な落ち着きを持ち、一所懸命に勉学に励んでいる。 今日だって、執務官試験の勉強とやらを真剣に取り組んでいた。 なにやら生き急いでいるような気がしないでもない。 あるいは、それが高ランク魔導師として、管理局の魔導師の娘として生まれた生粋の魔導師のあるべき姿なのだろうか?

 管理局の就業年齢はかなり低い。 魔法を学ぶものはその危険性を知り、それを扱う上で必要な倫理観を徹底的に教えられて育てられる。 その過程で精神年齢が大幅に引き上げられるので、今のように背伸びしているように感じてしまうのだろうか? 才能がありすぎるというのも、大変なのだなぁと漠然と考えてしまう。

「さて、ねぇリンディそろそろお昼ご飯食べに行かない? お姉さんお腹ぺこぺこだわ」

「あ、そうですね。 ちょっと話しすぎましたお爺様が来る前に食べちゃわないと……」

「そういえば、お爺さんは今日はなにしにくるの? 何かリンディのことで心配事とか?」

「いえ、私がお爺様にあるお願いをしたんです。 そうしたら、今日来てくれるって話になってそれで……。 あ、そういえばクライドさんに会いたいって言ってたの忘れてました!?」

「クライドに? なんで?」

 何故リンディの祖父がクライドに興味を持ったのか、フレスタは訝しむ。 だが、少しだけ分かるような気がした。

「可愛い孫娘がやられちゃったから、一喝しに来たとか?」

「いえ、そういうわけではないと思います。 私の模擬戦の映像を頂いて、それを見ていたら興味を持ったって言ってました。 多分、クライドさんに管理局の魔導師として興味を持っただけだと思います」

「クライドに興味ねぇ……」

 フレスタもまた、興味を持っていることは確かだった。 今まで口をつぐんできた、リンディを倒した方法も、あるいはそのお爺さんとやらに会えば喋る気になるかもしれない。

(何やら面白くなってきたわね)

 退屈な休日になるだけだったはずだが、楽しくなってきた。

「ねぇ、私もリンディのお爺さんがクライドに合うとき同席しても良い?」

「それは別に構いませんけど……クライドさん昼から寮にいるでしょうか?」

「多分いるんじゃない? 昨日は街に出かけてたみたいだったけど、夜の食事時には帰ってきてたし。 一応部屋へ寄ってそれから食堂へ行ってみましょう」

「はい」

 こっくりと頷くリンディを引き連れて、フレスタはクライドの部屋へと向かっていった。 しかし、部屋にはクライドはおらず食事を終えて帰ってきたらしいザースを捕まえて尋ねてみると、模擬戦場へ訓練に行くらしいという話を聞いた。 であれば大丈夫だろうと、先に食事を取ってからクライドを探すことにする。 その足は少し急いでいた。









 模擬戦場といっても複数ある。 山岳地帯を模したフィールドや森林ベースのフィールド、市街地を模したものなど様々だ。 魔導師の仕事は、特に管理局員として様々な世界を渡り歩くかもしれないことを想定すれば様々な環境の中で訓練しておくことは必要なことである。 そうして、地形を利用した戦術や戦い方を早いうちから考え、自らの戦闘技法に組み込んでおくことは生き残る上で必要な行為であるのだから。

 訓練場の中で一際深い森があるフィールドが存在する。 リンディ・ハラオウンによって障害物を軒並み破壊されたフィールドの隣にあるフィールドで、寮から一番近いそこはクライドにとってもはや庭のようなものだった。 中心部辺りにたどり着けば、或いは自分の部屋のように落ち着く感がある。 静かな風と森の息吹。 自然溢れるその場所は、集中して訓練するには最適の環境だ。 深い場所まで来れば、ほかの訓練生は滅多にやってこないというのもポイントは高い。

 だが、その森林が今まで見たことの無いほどに荒れていた。 いや、実際は違う。 今現在模擬戦を行っている二人の魔導師によって着々とその面積を減らしいくのだ。 その様を見たとき、クライドは愕然とした。 お気に入りの訓練場が荒らされているということもある。 それに少し怒りを感じないわけではない。 だが、それ以上に驚愕させられたことはタダ一つ。 模擬戦を行っているのが見知った人物であり、かなり強いということが分かっている人間だったというのにその人物が一方的にやられているという事実にこそ驚かされた。

 大空に魔力光のシュプールを刻むのは、ミズノハの黄色と見知らぬ初老の男の深緑。 凡そ訓練生では発揮し得ないような高速で飛翔したかと思えば、考えるのも嫌になるほどの高威力の魔法を次々と互いに繰り出していく。 ミズノハは基本的に近中距離戦闘が得意であり、そのレンジならどの教員よりも戦闘が卓越して上手い。 だが、初老の男はそのミズノハの得意な近中距離に加えて遠距離でさえ圧倒していた。

「なんだあの爺さん……半端じゃねぇぞ」

「ふむ……恐ろしい魔力だ。 まともに戦ってはどのような魔導師でも勝ち目は低いな」

 クライドの心中を他所にザフィーラが冷静に事実を告げる。 

「リンディと同じかそれ以上の馬鹿魔力に加えて、戦闘慣れしているな……こりゃまともに戦ったらどうやっても勝てねぇな」 

「……付け入る隙は少なさそうだな。 倒すとしたら、同等の魔力量を誇る魔導師か数で押し切るしいかあるまい」

 戦闘技能がリンディとは違いすぎる。 特に、リンディはまだ近接戦闘が苦手な感があるがあの老人にはそれがない。 全ての距離に対して圧倒的にうまい戦い方をしている。 アレでは力押しなど愚の骨頂でしかないだろう。 数を投入するにしても、訓練生程度では意味が無い。 少なく見積もってもミズノハクラスを数人かシグナムやヴィータレベルの高ランク魔導師を投入しなければ押さえることなどできそうになかった。

「にしても、ミズノハ先生のあんな姿見たことはなかったなぁ」
 
 こと、あのスパルタ教師がここまで押される姿というのがまず想像ができなかった。 奇襲で一度ノックダウンさせたことはあるものの、あんなのは特定条件を満すことができた稀有な例だ。 二度目の無い完全な一見者制圧戦術。 しかし、あそこまでの熟練者を相手に決めることができるだろうか? 相対した場合の戦術を模索してみるも、そもそも通常戦闘の段階で追いつけそうにない。 あらゆる面で差がありすぎる。 一撃を喰らえば致命傷。 そんなものを効率よく無駄なく使用してくる相手を負かすことができるような戦術はまともに考えれば浮かびようがなかった。 時間稼ぎなら少しはできるかもしれないが。

「こりゃ、巻き込まれないうちに帰るか」

「その方がいいだろう。 厄介ごとに首を突っ込む必要などないからな。 カートリッジシステムを堪能する機会ならまだいくらでもある」

 そういって、二人して踵を返そうとしたその瞬間。 盛大な爆発音を響かせながらミズノハがクライドの目の前に落ちてきた。 なんとか飛行魔法で体勢を立て直し、滑るように地面を削りながら、追撃の攻撃に備えて構えている。 劣勢であるというのに、その口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

「ふむ、相変わらず反則じみた強さを持つ御仁だ。 今ではもうほとんど前線に出ることはないという話だったが、今だにこれほどの腕とはな」

 楽しげに笑うミズノハのその姿は、どこか艶やかで危ない魅力に満ちている。 戦場でしか輝くことのない花の、それは研磨された美しさであった。

「ミズノハ先生、楽しむのは良いと思うんですけどね。 森、半壊ですよ」

 一瞬彼女にお熱な学生の気持ちを理解しかけたクライドが、ため息をつきながら言う。 どうにもこうにも、逃げる前から危険がやってきたという感じで嫌な予感がする。

「ああ、いたのか。 すまないな、あの御仁との戦いでは周りを気にする余裕など無いのだ。 許せ」 

「いや、許せとか俺に言われてもどうしようもないですよ。 後で校長先生とかから大目玉食らうのは先生たちでしょう?」

「ふむ、その辺りは大丈夫だ。 校長先生には許可は貰っているし、その程度のことはどうとでも処理できる」

「うわっ、処理とかなんか怖い言葉ですね。 もしかして、記憶消されたりします?」

「そんなことするぐらいなら、魔法で消し飛ばしたほうが楽だと思うがな。 あの御仁なら跡形も無く消滅させてくれるぞ」

 クライドの軽口に苦笑で答えながら、ミズノハは銃剣で初老の男を指す。

「でしょうね。 演習場を一つ丸裸にしたリンディより確実そうだ」

 会話している二人の邪魔をする気はないのか、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる初老の男に目を向けながらクライドは意識を切り替えていく。

「で、先生。 態々俺の前に落ちてきたということは、なんか意味があるんですか?」

「なんだ、気づいていたのか?」

「随分と綺麗に落ちてきましたからね、カマかけただけです。 でも、マジで俺を巻き込むつもりなんですか? 言っちゃなんですけどあの人と戦って勝てなんて普通なら無理ですよ?」

「援護するだけで良い。 それ以上は望まん」

「……はぁ」

 こめかみを押さえながら、クライドはここしばらく高ランク魔導師と妙に縁がある自分の人生について思いを馳せた。 だが、覚悟は決めた。 どうせ”そのうち”そういう事態に巻き込まれる可能性があるのだ。 今のうちに格上との戦闘に慣れておくことに意味が無いわけではない。

「しょうがないですね、一瞬で負けてリタイアしても文句は言わないでくださいよ」

「ああ、文句など言わんよ。 それに、別に態々負けなくても、なんなら倒してくれてもいいんだぞ。 空戦SSランクの御仁だ。 もし倒せたのなら、偶然でも良い経験になるだろうよ」

「……は? 空戦SS……あの爺さんが?」

「時空管理局のヴォルク・ハラオウン提督だ。 いいところを見せておけば、そのうち何かいいことがあるかもしれんぞ。 学生のうちに本局の提督とのコネを作れれば将来も安心だろう?」

「……やっぱ、さっきの話は無かったことにしてもらってもいいですか?」

 想定よりも高いランクを聞いてクライドは一瞬本気で逃げ出そうと思った。 だが、それよりも先にミズノハが動く。

「そういうことですのでヴォルク提督……ここからは二対一でお相手しましょう。 奇しくもあのときと同じようなシチュエーションですが、存分に楽しみましょう」

「確かに、懐かしいことだなミズノハ君。 その少年の位置は昔の君そのものだ。 あのとき君と彼に負けたことは私の人生で大きな励みとなっている。 今回もまた、あの時のような奇跡を私に見せてくれるかね」

 いつの間にか、声の届くところまで初老の男は近づいていた。 ミズノハが親しげに話すので、どうやら二人は色々と旧知の間柄らしいことをクライドは見て取ったが、次のヴォルクの言葉に逃げ場を失っていた。

「おお、それに君はクライド君か……丁度良い。 君には興味を持っていたのだ。 二人同時で悪いがお相手しよう。 リンディの教育のためにも、君が信頼に値する人物かどうか私は知りたい。 主に魔法言語で」

「ちょっ、なんて個人的かつ八つ当たり風味な戦闘理由!?」

「孫娘の栄光に泥をつけられたのだ。 少しは祖父として腕を振るわなければなるまい?」

「いや、腕を振るう場所が間違ってるから。 それにどうして俺のことを知ってるんですか?」

「ここの学園長とは知り合いでね、そのつてでリンディの模擬戦のデータを頂いたのだよ」

 殺す笑みで自分に視線を向けるその様子に、退路が無いことをクライドは自覚する。

(どう足掻いても俺を巻き込むつもりか二人とも……しかも、リンディの爺さんかよ……これは、マジでやばそうだな)

 背中に流れる冷や汗を感じながら、クライドはザフィーラに鞄を預けるとゆっくりとバリアジャケットを展開する。 黒いズボンに白いのシャツ、そしてその上に羽織る黒のジャケット。 私服から一瞬にして戦闘態勢を整えると、ミズノハに並ぶようにしてシールドナックルを構える。

『で、どうやって戦うんです? やるからには落すつもりなんでしょう?』

『私の収束砲撃魔法で落す。 ただ時間が掛かるのでな、収束中はお前がヴォルク提督を足止めしろ』

『いや、普通に考えて無理なんですが……』

『バインドを効果的に使え。 一種類なら数秒でブレイクされるが、数種類絡めて同時に束縛すればなんとかなるだろう。 それに、初めは私が前に出る。 だが、できるだけ魔力を温存したいからお前はいつものように小細工を効かせながら援護しろ。 折を見て前後をスイッチし、決める。 ただ、注意しろ。 どうやっても通常の方法ではあの御仁とまともに戦うことはできない。 攻撃はなるべく避けるか、受け流せ。 間違っても受け止めようなんて考えるな、そのままジャケットごと抜かれるぞ』

『了解……しかし、俺なんかどうがんばっても役に立てそうに無いですよ』

『仮にも油断していた私をノックダウンさせたのだ。 それぐらいはやってみせろ』

『いや、油断してたから勝てたんですけどね。 まあいいです。 終わったら何かおごってくださいよ』

『考慮しておこう』

 簡単に念話で会話して作戦を決めると、二人同時に動き出す。 戦闘開始の合図など無い。 そんなものを鳴らさずとも、戦うと決めたときから目の前の老人はいつでも動けるように構えている。 先を行くミズノハの後ろにつきながら、クライドは魔法を詠唱した。







 ミズノハのデバイスは2丁の銃剣である。 その形状は通常のライフル銃とは違い、酷く変則的な形をしている。 あえて形容するならば刃の長めのカタールだろうか。 刃の先端に当たる部分に砲門があり、そこから砲撃用の魔力を放出する形となっている。 勿論、カタールの刃部分は健在であり、接近戦もきちんとこなせる。 近距離から中距離までカバーするそれは管理局の制式装備である杖型のストレージデバイスとは違い、完全なるオーダーメイド品。 訓練学校の教員になる前に空戦AAランク魔導師として前線で戦ってきたミズノハの頼れる相棒だ。 

「――切り裂けベルセルク!!」

 鋭い呼気と共に、魔力を乗せた銃剣の刃が振るわれる。 それに乗る魔力光の色は黄色。 彼女の金髪に似ているその輝きは、見る者に彼女の色を否が応でも焼き付ける。 ――衝突。 それを阻む深緑のシールド。 ヴォルク・ハラオウンの左手の先から展開したラウンドシールドである。 ミズノハは無理をしない。 振り下ろした二本の銃剣がシールドを滑った頃には、そのまま右側に回転するように立ち位置を変えながら回り込む。 間一髪、先ほどまでいた場所をヴォルクの握る杖型のデバイスが過ぎ去っていく。 それを横目で見ながら、果敢に切りかかっていく。 身体に染み付いた剣舞が、次々とヴォルクのフィールドを削る。 しかし、訓練生如きは圧倒できてもヴォルクのフィールドには軽く傷をつける程度しかダメージを与えることはできない。 

「シールドカッター!!」

 そこへ、クライドが逆方向に回りながら二枚のシールドを投げ放つ。 青い魔力光であまれた削ることに特化した刃が、空気を切り裂きながら飛来する。 ヴォルクはそれを確認すると、跳躍するようにして空へと向かう。 地面などという場所は空戦SSの魔導師にとって在るべきステージではないのだ。

「追え!!」

 誘導操作故に柔軟に追撃する二枚の刃。 その後ろを追うようにして黄色い閃光が後を追う。 クライドもまた跳躍。 いつもは飛ぶことはしないが、援護するためには仕方が無い。 二人と比べればかなり遅いが、それでもそこそこの速度で追っていく。 どんな隙も見逃してはならない。 援護を任された以上、できることはするつもりだった。 今回の主役は自分ではない。 今の自分は引き立て役。 何やら色々とありそうなミズノハに、できれば花を持たせる気であった。 無論、どこまでできるかは分からない。 そも、この戦闘はそれだけの戦力差があるのだから。 けれど、相手が強いから何も出来ないではお話にならない。 何れそういう場面に遭遇する確率は、魔導師になると決めたときから着いて回っているのだ。 最低限の役目ぐらいはこなしてみせようと思っていた。 故にいつものように小細工を弄する。

「――ふむ、陸士訓練学校に態々飛べる魔導師が来るとはのう。 勿体無い話じゃ」

「では何故リンディ・ハラオウンを入学させた? この学校だからこそ学ぶべきことがあると考えたからだろう。 それも私が模擬戦をしているクラスにピンポイントで送り込んでくるとは」

 クライドの放ったシールドカッターを無造作に魔力を纏ったデバイスで叩き落し、霧散させなが呟くヴォルクにミズノハが言う。 その言葉に苦笑しながら、しかしヴォルクはそれ以上は言わない。 いつか、もしかしたらそういう敵と相対するときがある。 そのときのために、孫娘のためになるだろうと思っていたからだ。 他でもない、目の前の女性がいる学校ならばと。

「まあ、予定外のことはあったようだが」

「それを言われるとちと、耳が痛いのう。 じゃが、それもまたいい経験じゃろう。 であれば、私は見届けなければならない」

「まったく、過保護なことだ」

「お互い様じゃよ」

 銃剣が吼え、迎撃の杖が踊る。 銃剣ベルセルクから放たれる砲撃が、次々とヴォルクの杖に弾き飛ばされていく。 ただ単純に強力な魔力で覆っているだけの力技だが、そのシンプルさゆえに強力だった。
 膨大な魔力量を注ぎ込まれたその杖は、相対する敵を数多くしとめてきた強力な一品である。 インテリジェントデバイスでこそ無いものの、専門のデバイスマイスターに作らせたこれも立派なオーダーメイド品である。 優秀な魔導師には、それを支えるデバイスの存在がある。 特に、高ランク持ちの魔導師のデバイスは低ランクとはスペックが違いすぎた。 タダでさえ破格の魔力量を誇るハラオウンの血脈。 その魔法行使に耐えられるだけのスペックを持たせるとなると、どれほどのスペックが必要なのか想像に難くない。 最高の才能と最高の武器。 これだけの条件を得て強くないわけがない。

 真正面から戦うということを、ミズノハはほとんどしない。 クライドに忠告した通り、攻撃も防御も負荷をかけることだけに専念する。 そうやって、地道にいくしかないのだ。 ワンサイドゲームを防ぐためには。 撃ち終わり弾かれた隙に飛び出していく。 だが、それよりも早くヴォルクが動く。

「ふん!!」

 杖を握るヴォルクの後方。 一息で紡がれるはスティンガーブレイドの魔法。 広域制圧用に次々と面で形成されていく魔力剣。 その数、リンディの全力とほぼ同じ。 恐ろしいほどの魔力量だった。

『ちっ、避けろクライド!!』

『大丈夫ですミズノハ先生、そのまま撃たせて下さい』

 咄嗟の言葉に、しかしクライドは従わない。 若干の苛立ちを感じたミズノハだったが、問題ないと言い切る少年が”どういう”人間なのかということを思い出し、そのままにさせていた。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 千本ほどはあるだろう魔力剣が、ヴォルクの言葉に従い一斉にクライドに牙を向く。 千本ともなればかなりの広範囲を射程圏に修めることができるため、回避はかなり難しい。 加えて、シールドを展開しようともそれをあれほどの面制圧射撃である。 人間一人分だろうと、数本単位で確実にフィールドに突き刺さり貫通することは目に見えている。

 剣弾の嵐は、意のままに効果範囲内を制圧していく。 晒されたクライドは、しかしなんと驚くべきことにシールドさえ掲げずにその剣群に突っ込んだ。 瞬間、魔力剣が非殺傷設定のはずなのにクライドの身体を木っ端微塵に吹き飛ばした。

「――ほう、幻影<フェイク>かね?」

 その光景にヴォルクは少し驚いたが、納得がいったとばかりに後方に向かって腕を振るう。 と、そこには先ほど吹き飛んだはずのクライドがおり、シールドナックルを振り上げて踊りかかってきていた。 どうやら、幻影を仕掛け自らはミラージュハイドで隠れて移動していたらしい。

「らぁぁ!!」

 掌前方に紡がれた深緑のシールドがそれを防ぐ。 だが、高速で回転するシールドナックルによって少しずつ過負荷をかけてくる。 続いて伸ばされるクライドの左腕。 用意されている術式はバリアブレイク。 二段構えのシールド破壊系コンボである。

「バリア――」

 触れた左腕がシールドの術式に干渉し、術式を犯していく。 その速度、訓練生にしては異常な程に速い。 自分の部下でさえここまで早い人間がいるだろうか? 恐ろしい速さで干渉してくるクライドの魔法にヴォルクは目を見張った。

「――だが、まだ遅い」

 シールドが後一息で消される寸前、ヴォルクは右腕の杖を振るうと同時に、右腕のシールドを自分で消す。

「うぉっと!?」

 いきなりシールドが消えたことでバランスを崩したクライドに、ヴォルクの杖が迫る。 普通ならばそのまま喰らって落されただろうが、今この戦場にはもう一人いる。 クライドを叩き落そうとしたその横合いから迫る黄色い砲弾。 銃剣から次々と砲撃するミズノハの援護射撃だ。 クライドへの攻撃タイミングを外されたその瞬間、クライドはすぐに距離を取る。 そこへ高速で飛来し、クロスレンジへと持っていくミズノハ。

「――ぬ」

「私を忘れてもらっては困るな」

 ニヤリと、唇を吊り上げながら果敢に突撃していく彼女の銃剣が、無防備な身体を狙う。
振り下ろされるは戦闘狂の名を冠する二連撃。 迎撃用に構えた杖に銃剣が衝突する。 激しい衝突音と互いの魔力は周辺に衝撃波を撒き散らしながら両者の間合いを大きく開く。

『助かりましたよ先生』

『軽率だぞクライド』

『すいません、でも一度はぶつかっておかないと勝手が分からないんですよ』

『そこまでいうからには、やれるのだろうな?』

『いえ、相性は最悪です。 まともにいったらやっぱり瞬殺ですね』

『だが、貴様は本気で行くときはいつもまともには戦わんだろう?』

『小細工は好きなんですよ、でも、あんまり長時間戦って本気になられたら困んで、次で決めてしまいましょう。 で、確認なんですがあの人はどこまで俺のことを知ってるんです?』

『私には分からん。が、あの人はリンディ・ハラオウンの祖父だ。 であれば、孫娘の関わった模擬戦データぐらいだろう』

『そうですか……』

 だからこそ、クライドの先ほどの幻影にも気がつかなかったのだろう。 使えるということを知らなかったため、可能性を考慮に入れていなかったのだ。 そこに、少しクライドは高ランク魔導師としての驕りを見た気がした。 そして、つくとしたらそこしかないだろう、とも思った。 魔力量は圧倒的で、しかも実戦経験豊富な現役管理局員。 マイナス要素といえば年齢から推測するにもうあまり最前線に立ってはいないだろうということぐらいか。 

『じゃあ、いきますか!!』

『しくじるなよ』

 念話でタイミングを計りながら、二人は圧倒的な強さを誇る魔導師に挑みかかった。

 













「……何これ?」

「演習場が滅茶苦茶ですねフレスタさん」

「リンディちゃん、貴方ここで魔法ぶっ放した?」

「いえ、さすがにもうあんなことはしてませんよ」

 ジト目で見てくるフレスタに冷や汗を感じながら、しかしリンディは首を振った。 目の前に広がるのは環境破壊も甚だしい光景だ。 森林フィールドの森林が所々に大穴を明けられ、木々が戦艦の砲撃でも喰らったのかなぎ倒されている様は酷く痛々しい。 こんなことができるのはかなり力のある魔導師だけだろう。 だからこそ、フレスタはそれが可能な力を持つリンディを疑ったのだが。

「あ、奥の空で誰か模擬戦してますよ?」

「本当だ……誰だろ? うーん、遠くてよく見えないわね」

「魔力光から判断すると、黄色と青と、深緑でしょうか?」

「パッと思いつくのは黄色はミズノハ先生、青は……クライド? 深緑は……誰かいたっけ?」

「邪魔するのもなんなのでエリアサーチでも飛ばしておきますね」

「そうね、さすがにあんなのに巻き込まれるのは洒落にならないわ。 私もちょっとデバイスで確認してみようかしら」

 エリアサーチの魔法を放ち、情報収集を開始するリンディ。 その横で待機状態であったデバイスを起動するフレスタ。 オーソドックスな杖状態のデバイスに感応し、望遠映像を見る。 と、そこでフレスタは顔を引きつらせた。

「うわっ、なにあのお爺ちゃん。 ミズノハ先生とクライド相手に余裕綽々で戦ってるじゃないの!!」

「お爺ちゃん?」

「うん、すっごい強いわ。 ミズノハ先生とクライドの二人がかりで挑んでるのに圧倒してる感じ」

「……深緑の魔力光、まさかお爺様が?」

 待ち合わせの時間よりもかなり早い。 一瞬可能性を考え、首を傾げる。 だとしても、何故二人と戦っているのか? リンディにはその理由が分からなかった。











 高ランク魔導師に対する小細工など、慢心と油断を利用したもの以外は存在しない。 と、これは通常の魔導師として戦った場合だ。 それ以外で戦闘技能者として戦うならさらに選択しは広がっていく。 魔導師であるといっても相手は人間。 人間には人間なりの弱点が存在する。 そこをつけば、ある程度出し抜く方法が存在しないはずがない。 少なくとも、それを考慮にいれた戦術をクライドはいくつか考えている。 そして実用可能なもので効果が最もありそうなものは非殺傷設定が効かないがために、使うことは出来ない。 故に、今回使うのは古来より使い古された小細工である。 強固なフィールドとシールドを持つ魔導師にその発想はあまりないだろう。 知っていてはいても、自らそれを利用したことなどないはず。 だからこそ、そこを狙う。 


「らっ、はっ!!」

 前衛であるミズノハの銃剣の煌きが、最高潮にまで達していく。 並の魔導師では受けきれないその連撃を、しかしヴォルクは冷めた目で対処する。 どれだけその剣戟が煌こうと、その威力は悲しいかなフィールドに傷をつける程度でしかないのだ。 であるならば、何を恐れることがある。 傲岸不遜とも取れる認識で、膨大な魔力を利用した力押し。 単純明快で実にシンプルなその戦い方は、弱者にとって実に恐ろしい戦術だ。 自力が離れているということは、それだけで脅威なのだ。 それだけの差を埋める奇策は、果たしてどこまでいけるのか。 ミズノハはこのとき、自分を限定的ながら打倒して見せたクライドを完全に信じていた。

「――ふむ、埒が明かぬな。 しかし、このままでもいけるか」

 二度と大規模な魔法を撃たせぬとばかりに執拗に接近戦を強いてくるミズノハ、そしてミズノハを打倒しようと集中する絶妙なタイミングで仕掛けてくるクライド。 事態は既に持久戦へと移行しているようにヴォルクは考える。 だが、それならそれで良いとも考えていた。 魔力量の差は確かな差である。 長期戦をやりぬくための魔力がこちらにはあるのだ。 強いて不利な要素をあげるとすればそれは、自らの老いによる体力の減少だろうか。 集中力の減少に伴う隙こそ、彼らが狙っていると考える。 それで一度致命的なミスをし、敗北してしまった苦い記憶が脳裏を掠める。 だが、今回の状況は少し違う。 このままいけば、先に潰れるのはミズノハだ。 断言してもよかった。 これだけ執拗に接近戦を強いていれば、その消耗も激しかろう。 事実、少しずつ彼女の技の切れが落ちてきた気がする。

「さて、それはどうかな」

 不敵に笑いながらミズノハはさらに加速する。 疲れなど知らぬとばかりに果敢に切り込んでくる様は、まさしく疲れを知らぬ戦闘狂そのものであった。

「猛々しいな。 だが、本当に私を倒せると思っているのかね? 見たところあの少年と君とでは大したコンビネーションに見えるが、即席のものにしかみえん。 彼と君とのコンビネーションとは比べるべくもなく稚拙だ。 もっとも、タイミングだけは恐ろしく狡猾だがね」

「そこがあいつの恐ろしいところだよ」

「前途有望な若者だな、だがリンディを任せるにはまだ早い」

 悠然と杖を振りながら、憤然と答えるヴォルク。

「ならば、色々と味わってみるのだな。 あやつの鬱陶しさというのを」

「――はっ、それは面白い」

 そういって、両者が再び自らの武器を繰り出しあう。 と、今まで銃剣で切りつけることに専念していたミズノハの動きが急激に変化した。 右の銃剣で切りつけその反動で距離を開けると、左手の銃剣で砲撃魔法を放ってくる。 威力が込められたものではなく、爆発を目くらましにするつもりか。 防御したさいに広がった爆煙に一瞬視界が遮られるそのとき、一瞬にして虚空より生まれた黒の閃光が三つ、ここぞとばかりに動いた。

「ほう、また幻影かね」

 爆煙に混じって突っ込んできたのはクライドだ。 しかし、その姿は三人。 皆両腕にシールドナックルを構え、踊りかかってくる。 だが、そこでふとヴォルクは眉を顰める。 通常、幻影魔法の類は衝撃に弱い。 このように殴りかかってくれば、その衝撃で自ら自壊するではないか。 であれば、いっせいに殴りかかってくるクライド三人のうち、どれかに本物が混じっており自らが生き残るために幻影を使用したのか。 少し使い方に違和感を感じるものの、ヴォルクは本物のクライドを探す。

 だが、どれが本物であるのか咄嗟には理解することは難しかった。 しっかりと小細工の効いた幻影はデバイスのセンサーをも騙し、その一つ一つが人間と相違ないようにしかヴォルクには見えない。

「であれば、全部壊すまでだが……なに!?」

 別段、攻撃など必要なかった。 攻撃モーションを取ってくるのだから防御するだけで十分相手に衝撃を与えることができる。 しかし、驚くべきことに幻影は確かにヴォルクに攻撃し衝撃を受けたにも関わらず攻撃後も同じく三人のままだった。 消えない幻影魔法。 果たしてどんなトリックなのか。 一瞬ヴォルクはそのありえなさに驚愕する。

「馬鹿な、ありえん……」

 呆然と呟く今そのときも、三人のクライドがシールドナックルでフィールドを削ってくる。 答えがでぬまま、しかしそのまま好き勝手にさせるつもりもないヴォルクは杖を振るう。 一撃でシールドごと吹き飛ばす魔杖の一撃は、咄嗟に回避しようとしたクライドを痛打し、その瞬間目を覆うような凄まじい爆音と閃光を放って自壊する。

 とてもつもない轟音と目の網膜を焼きつかせるほどの強烈な閃光を至近距離でまともに喰らったヴォルクは、その瞬間意識を完全に失った。 そこに響く、クライドの声。

「これで一丁上がりっと。 ミズノハ先生、後は任せますよ!!」

 三本の青い輪がヴォルクを円のうちに捉え、締め付けるようにして束縛する。 だが、それだけでは足りぬとばかりにクライドは四肢を束縛する通常のバインド、さらには相手の強化魔法を無効化し束縛する魔法の鎖で作られたストラグルバインドによって三重のバインドで拘束する。 ここまでやれば、少なくとも一分は動けないだろう。 そして今、強い閃光と爆音で忘我状態に陥ったヴォルクにとって、いかに空戦SSランクといえど容易くバインドから逃れられる道理はない。

「ふむ、シールドナックルを被せた幻影のデコイにスタングレネードの効果を混ぜるとはな……本当に嫌な手を考える奴だ。 しかも、本人はミラージュハイドで雲隠れしたままだと?」

 その魔法の効果は、過去質量兵器が氾濫していた時代に使い古されたテロリスト鎮圧のために有用な兵器の機能とそっくりであった。 スタングレネードとは大音響と閃光によって対象者をショック状態にし、数秒間意識を失わせるものである。そして対象者が棒立ちになっている隙をついて相手を制圧するために用いられてきた過去の遺物である。 魔法が生まれた今こうした質量兵器の類は使われることはない。 だからこそ、失われた今だからこそ使える一つの制圧戦術であった。 誰もが忘れた戦術。 いや、映画などではまだまだその存在は残っているものの、魔導師としてそれを行おうとした人間をミズノハはほとんど見たことが無い。 ましてや、それを至近距離で破壊させることを前提に幻影魔法と組み合わせるという発想の嫌らしさといったらもう、狡猾の一言であった。

「いいだろう、なら私のとっておきも見せてやる」

 離れた位置に退避し、魔力を収束させていたミズノハが普段は利用しないベルセルクの別形態を披露する。 2丁の銃剣を重ね合わさった瞬間、一本の長大なライフルと化したそのデバイスは高ランク魔導師のシールドごとバリアジャケットを撃ち抜く為に考案された恐ろしい破壊力を生み出すための形態である。

 銃口先端部に収束される黄色の魔力光が、青空の中黄金色に輝いていく。 空戦AAランクを持つミズノハの通常魔力量を大幅に上回るそれは、通常の砲撃魔法で使用されるレベルの圧縮魔力弾頭など比較にならないほどの高密度に圧縮がかけられている。 それは、魔力量ではなく密度で打ち抜くための弾丸なのだ。 弾頭面積を恐ろしく減らし、愚直なまでの一点突破を成すためだけに作られたミズノハのオリジナルスペル。 高ランク魔導師に対するミズノハの切り札であった。 発射に時間が掛かるものの、一人ではない今ならば十分にそれを行使することが出来る。

「見ておけクライド、お前が私を倒して見せた格上を倒すための切り札とは別の回答がここにある」

 ミズノハは既に、クライドの行った馬鹿げた攻撃のカラクリを理解していた。 確かに、理論上は可能であるだろう。 それと原理や発想こそ違うものの、その狙いだけはそれと等しく同じである。 如何にして格上の魔導師を打倒するか。 そのために突き詰められた魔法を研究していた者であるからこそ、この場で生徒に見せることに戸惑いは無かった。

「――黄金の雷、放て!! ベルセルク!!」

 引き金を引いた瞬間、銃口から放たれる一条の閃光。 まるでレーザービームのようなそれは、バインドで拘束され身動きが取れないヴォルクのバリアジャケットを紙のように撃ち抜き、意識が戻ってきていたヴォルクを問答無用で撃墜させた。 

「うわっ、すげぇ……そういう力技っぽいのもありかよ……さすがミズノハ先生」

「ふん、普段貴様たちがどういう目で私を見ているかよく分かるな。 だが、クライドよくやった。 よもや、あの御仁をお前が昏倒させるとは思わなかったぞ」

「まあ、同じ人間である以上はバリアジャケットに予め細工してないと防げませんからねアレは」

「ふふ、違いない」

 考慮されていなければ、防げない魔法。 それは確かに初見で相手を制圧する強大な力となるだろう。

「さて、じゃこれで模擬戦は終了ですね。 今度何か奢ってくださいよ」

「ああ、今度食事でも奢ろう」

「学食は無しですよ」

「なに?」

「どうせなら街でお願いします。 豪勢なのがいいですね」

「ふむ……まあ、考えておこう」


 空中にバインドで貼り付けにされたままのヴォルクのところに向かいながら、いつの間にか隣にいたクライドに頷いた。 その顔には、滅多に生徒には見せない優しげな微笑があった。
 








 

「大丈夫ですか、お爺様?」

 しばらくして、ミズノハに支えられるようにしながら歩いてくる祖父の姿にリンディは思わず駆け寄っていた。 途中からではあったが、エリアサーチで見ていたために大体のことをリンディは理解していた。 もっとも、何故模擬戦を行っていたかという理由はわからなかったのだが。
 ちなみにクライドはそのままザフィーラと合流しヴォルケンリッターのデバイスでカートリッジシステムの真髄を味わっていた。

「やあリンディ。 一応は大丈夫だよ。 まあ、さすがに久しぶりの魔法戦闘は少し疲れたがね」

 にっこりと優しげな笑みを浮かべるヴォルク。

「で、ミズノハ先生。 結局どうして模擬戦してたんですか? クライドも含めて」

「いやなに、私とヴォルク・ハラオウン提督は旧知の間柄でね。 ここに来る前に少し親交があったのだ。 久しぶりに彼が訪ねてきたので、腕鳴らしに模擬戦に誘ってみたというわけだ。 クライドが参戦していたのは、偶々模擬戦中にここに来たからだ……もっともヴォルク提督には別の用件もあったようだが……」

 フレスタの問いに答えるミズノハは、そういいながら支えるヴォルクに意味ありげな視線を送る。

「いや、なに。 少し興味があっただけだ。 恥ずかしいことにまんまとしてやられたがね。 ところで、君の名前を教えてくれるかねお嬢さん。 私は時空管理局提督ヴォルク・ハラオウン。 そこにいるリンディの祖父じゃよ」

「あ、私はフレスタ・ギュースです。 リンディちゃんのクラスメイトです」

「ほう……そうなのかね。 では、これからもリンディと仲良くしてやっておくれ。 同年代の子は少ないだろうし、君のようなお姉さんがついていてくれれば私も安心だ」

「もう、お爺様!!」

 少し恥ずかしげな様子を見せるリンディ。 その頭を優しく撫でながらヴォルクは言う。

「なに、恥ずかしがることは無い。 この機会にできるだけ友達を作っておきなさい。 若いうちにできる友達は人生の宝となるからのう。 それに、私もここで生涯の友と出会ったものだ」

 どこか遠い目でそういうヴォルクの目には、どこか懐かしさがある。

「……さて、ああミズノハ君ありがとう。 もうそろそろ一人でも大丈夫だ」

「はい、さすがに手加減したとはいえその年でノックダウンはきつかったでしょう?」

「まったくだ。 若いうちは教導隊の先達によく気絶させられたもんじゃが、この年になってまた体験するとは思わなかったよ」

「ふふ、貴方相手に手加減などできませんからね」

「……じゃろうな。 じゃからこそ、あそこまで戦える貴方にリンディを会わせたかった。 もっとも、予想外の少年もいるようで少し面白いとは思うがのう」

「クライドさんのことですか? お爺様、どうしてクライドさんのことをそんなに気にしてらっしゃったのですか?」

「何、何れリンディが管理局の人間となればそれも分かってくるじゃろう。 ああいう人間から学び取れるだけ狡猾さを学びなさい。 それがお前のためになる。 望みどおり出力リミッターをつけよう……解除するには私に会うまで不可能になるが、それでも構わないかね?」

「はい、お願いしますお爺様」

 リンディの身長にあわせてかがみこみ、胸の前で手をとめ魔法を施すヴォルク。 フレスタとミズノハは出力リミッターという言葉に驚いていたものの、今は問うことをしなかった。

「よし、これでもういいじゃろう。 これでリンディの魔力がAランクまで落される。 ミズノハ君にフレスタ君。 これからリンディは今までと違って色々と勝手が変わってくるだろうが、どうかよくしてやておくれ」

「承知した。 だが、これは少し問題だぞヴォルク提督。 短期入学のカリキュラムを急いで変更しなければならない」

「そこら辺は任せる。 君なら短期間でもみっちりリンディを鍛えてくれるじゃろう」

「スパルタになるがな」

「はは、望むところじゃよ。 苦労するほうが見返りも大きいからのう」

 苦笑しながらそういうとヴォルクはミズノハと共に去っていく。 どうやらまだまだ積もる話でもあるらしい。 さらに校長も交えて旧交を温めるそうだ。

「私たちはどうしよっか?」

「そうですね……クライドさんのところにいきましょう。 どうやってお爺様を動けなくしたのか興味があります」

「素直にあいつが喋るかしら?」

「であれば、お爺様に聞くだけですよ。 それに、私は今Aランク魔導師程の力しか出せません。 どれだけ違うのか確かめてみたいですしね」

「いいね、二人でクライドをボコボコにしちゃおっか?」

「はい」

 その後、ヴォルケンリッターのデバイスで遊んでいたクライドはリンディとフレスタに見つかり、デバイスのことを詳しく聞かれることになるが、模擬戦の相手をするということと、ヴォルク提督の足止めをした魔法のことを洗いざらい吐かされることと引き換えに詮索を免れることになる。 その日、対リンディ戦にとっておくつもりだった策の一つが暴かれ、クライドは少し凹んだ。



コメント
俺の書の意思『ふん、私を差し置いてヴィータとデートなんていいご身分ね。リンディのことといいあなたホントにペドフィリアなんじゃないの?』

クライド「なんとでも言え。ん?もしかして今話では構ってもらえなかったから拗ねてるのか?(ニヤニヤ)」

俺の(ry『べ、別に寂しかったとか守護騎士達は外に出れていいな~とか思ってないんだから!あんたなんか私が本気で侵攻すれば一発なんだからね!』

クライド「(ニヤニヤニヤ)」
【2008/06/14 16:48】 | あるべると #- | [edit]












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