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憑依奮闘記 第四話(なのは系オリ主憑依SS)

 2008-03-26
 別段、クライド・エイヤルとしての人生に不満があるというわけではない。 死亡フラグが怖いということを除けば、これほど楽しい人生などないのではないだろうか? 誰もが願っても届かない幻想の世界。 その場所に足を踏み入れ、こうして日々を謳歌できるというのなら、それはそれで背負っているリスクほどの価値があったという証明に他ならない。 ああ、であればこうしてゆったりと僅かな時間でさえ彼女らと行動を共にできるというのは大変贅沢なことなのだろうと思う。

「うわぁ、美味しいですねクライドさん」

「だな。 この甘さがなんとも」

 おっとり口調でケーキを口に運ぶのは、守護騎士ヴォルケンリッター四人組のうちの一人。 湖の騎士シャマルだ。
 金髪ショートに耳元に揺れるイヤリング。 守護騎士の中でも回復や索敵などの援護をこなす後方支援タイプの魔導師である彼女は、その役割と同じく酷く温和である。 シグナムの鋭さ、ヴィータの真っ直ぐさとはまた違うその姿は、ひどく微笑ましいものがある。 嗚呼、憧れの柚子姉ボイスが生で聞けるとは、感無量とはこのことか。 シャマルゥなどと渾名を送りたいところだが、さすがにこの世界でこのジョークが通じるのは俺だけなので自重する。

「でも、良かったんでしょうか? 私だけケーキをご馳走になって……」

「正当な報酬さ。 なにせ、シャマルが一番筆記速度が早いからな。 それに、ヴィータとは遊びに出たし、ザフィーラはずっと外に出てる。 シャマルにはこういう機会でもないと楽しみをやれないしな。 今日は好きなだけ食べてくれ」

 後方支援担当としての活動があったからか、シャマルは他のヴォルケンリッターたちと比べてミッドチルダ語を使うのに慣れていた。 図書館で俺の魔道書に魔法を書いてもらっていたのだが、苦笑を浮かべつつも淀みなく筆を滑らせ、任務を全うしていた。 予定より早くノルマを終わらせたので、俺はケーキバイキングへと彼女を誘ったというわけだ。 勿論、俺に興味があったというのもある。 野郎は何故かそういう場所へと一人では入りづらいものだ。 その点、シャマルと一緒なら問題はなにもない。 現在の身長差とかを考えてみても周りから見れば姉にお供している弟と行ったポジションだろう。 実にやりやすい位置と言える。

「うーん、美味しい」

 様々なケーキを口に運びながら、一つ一つ幸せそうな顔をするシャマル。 それを見ていると、早く彼女たちを自由にさせてやりたいと思ってしまった。 この場合の自由とは、まあ自由に外を歩けるようにという意味だ。 闇の書の軛さえなくなれば、そうすることも可能である。 八神はやてが奇跡的に出来たことを俺ができるかどうかは分からないが、それでも俺なりの結果を残したいと思う。

「やっぱり、女性は甘いものが好きだって通説は本当だな。 シグナムやヴィータもこういうの好きかな?」

「ヴィータちゃんはそうですね。 シグナムは……あんまり食べ物には拘らないタイプですから」

 苦笑しながらそういう。 まあ、確かにシグナムが実はグルメだとかいわれたら、俺も少し驚くものがあるが。

「ザフィーラはどうかな。 あいつはあんまりそういうことをいわないからな……」

 学食で俺と同じようなモノを食べるあいつから、文句を言われたことなど一度もない。 ヴォルケンリッターで食に文句を言いそうなのはヴィータだけだが、そもそも待機モードでいさせている以上ザフィーラ以外に食事が必要というわけがない。 この前外に出したときは、旨そうにハンバーガーを齧っていたが。

「少し、環境を改善することも考えないといけない……か」

 ぼんやりと、考える。 ヴォルケンリッターは闇の書とその主を護衛し、蒐集を担う存在である。 一番に闇の書ではなく主に仕える騎士として生きているので優先度は俺が最上級になるわけで、そこまで気を揉ませる以上なんらかの形で彼女たちに報いらねばならないだろう。

「その、私たちには本来そういうことは必要ないので、あまり考慮してもらわなくてもいいんですが」

「しかし……な。 やっぱりこう、俺が気にする」

「そうですか……だったら、いつかお願いしますね。 私たちも美味しいものが食べられたほうがやっぱり嬉しいですから」  

「ああ、厄介ごとがなくなったら少しずつ変えていこう。 まあ、当面はこうして偶にしか外に出すことはできないけどな」

 少し、申し訳なく思う。 八神はやてのように管理外世界にいて、管理局と接点がなければあるいはそれは可能だったのだ。 すぐにでも彼らを召喚し、好きにさせてやれたのだが……まあ、その場合は俺が確実に闇の書に取り込まれて死ぬわけなんだけど。

「……幸福と苦難は同時に降りかかるのかねぇ」

 ケーキの甘さをコーヒーの苦味で打ち消しながら、俺は気持ちを切り替える。 甘いだけの人生など何もないことと同義。 こうして起伏があるからこそ、人生は面白い。 なんて、言い切れたらもう少し前向きに生きられるんだろうなぁ。 コーヒーの苦味は人生の苦味だ、なんて旨いこと言った人間がいたことを思い出しながら、俺はしばしケーキとの格闘を続けた。
 ああ、しかし少し疑問に思ったことがある。 彼女たちヴォルケンリッターは闇の書の魔法プログラムが実体具現化した存在だ。 なら、食べたケーキのカロリーはどこにいくのだろう? 情報が書き換えられて体重も増えたりするのだろうか? 

「くく、まさかな」

 上機嫌でケーキを食むシャマルが闇の書の中で後日体重計と格闘する姿を想像してしまい、俺は心の中で笑った。





憑依奮闘記
第四話
「クライドの受難」







 陸士訓練学校の短期入学制度から考えれば、それは異例であったのだろう。 そもそもその制度は高ランクを所持するか、それを所持するに値するレベルを持った魔導師に短期で管理局の魔導師として必要なものを詰め込むためのものである。 出力リミッターで自身の魔力量を絞り、学習するなどという人間を考慮に入れてカリキュラムが作られてはいない。 必然、力量が低下したので一般と混ぜて訓練させることで当面のカリキュラムにすることにしていた。

「次、フレスタ・ギュースとリンディ・ハラオウン組」

「「はい」」

 元気良く教師に返事を返しながら、コンビを組んでいる二人が前に出る。 今回は二人でコンビを組み、教師が用意した敵を倒しながら一定コースを進む訓練だ。 一定の状況を伝え、敵を魔法で無力化させながら進みその際の判断や行動によって点数をつけていく。 敵は勿論、反撃もするし防御もする。 大体Cランクレベルの能力を保持しており、そこそこ苦戦するものも多い。 元のランクならば全く問題がないリンディであるが、リミッターをかけた今は以前と違いこうして二人で取り組むことになっていた。
 一日に行うのは別コースを含めて4つ。 人数を消化させるためにはそれぐらいは必要だった。 それぞれ別のシチュエーションを用意しており、状況も違う。 それらを理解し、効果的にクリアしていく能力を養うことがこれらの訓練の目的だ。

「よし、がんばろっかリンディちゃん」

「はいフレスタさん」

 ふんわりと飛翔しながら、リンディが杖を構える。 総合としてのそのあり方から、彼女は出来うる限り飛行する。 一番それが慣れているし、それが彼女のスタイルだ。 彼女のスタイルは空間制圧系。 大量の魔力を用いた弾幕や大規模制圧魔法で敵を沈黙させるのが普通だが、今はどちらかといえば空戦魔導師のように戦っている。 無駄な魔法を使わないように考慮しながら、必要最低限の力で敵を無力化することを主眼に置いているためだ。

「では初め!!」

 教師の言葉に、弾かれるようにしてリンディとフレスタが動く。 リンディは基本的になんでもできる。 今回はコンビということでフレスタの得意分野に合わせて前に出ていた。 その後ろをカバーするのはフレスタ。 砲撃魔導師として後ろからのバックアップが仕事な彼女は後衛に専念することがほとんどである。 地味な仕事だが、それは戦場で重要なポジションだ。 それぞれに分野を理解しているからこそ、呼吸が合いさえすればかなり高い評価を得ることができるだろう。 

「次、ザース・リャクトンとクライド・エイヤル」

「「はい」」  

 リンディたちとは違うコースの入り口に立つ二人。ザースはインラインローラーのデバイスとナックルを構え、クライドは徒手空拳で挑む。 別にデバイスの演算能力以外を使う必要など無い。 ようは一定の効果を出せれば教師側も文句は言わないからだ。 そして、クライドはいつも可もなく不可もなくクリアする。 だから文句はあまり言われない。   

「なんだ、クライドは飛ばないのか? ハラオウンは飛んでいったみたいだが……」

「態々飛ぶ必要なんてないからな。 まあ、タイムアタックを狙うっていうなら別に付き合っても構わないが……」

「お、それいいじゃん。 じゃあ今日はコースレコード作っていこうぜ」

「分かった……なら、側面は任せろ。 ザースはいつも通り――」

「――真正面だな?」

「そういうこと」

 ニヤリと、楽しげな表情を見せるザースに頷きながらクライドが飛ぶ。 最近珍しいことにやる気になることが多い。 何か思うところがあるのだろうか。 コンビ相手の様子に頼もしさを覚えながらザースもまた自らの魔法の準備をする。 

「よし、では初め!!」

 弾かれるように回転するインラインローラー。 所轄ローラーブーツと呼ばれるそれが、ザースの身体を弾丸のように加速させる。 それに続くはクライド。 既に四枚のシールドを発生させ、変形させた状態でザースの後方にしっかりとついていく。 それを見ながら、少し教師はため息をついた。

「……ここ、陸士訓練学校なんだけどな」

 ザースはシューティングアーツという変則の魔導師スタイルであり、一応陸を行く魔導師であるが、リンディとクライドは間違いなく空を選んでいる。 少し、自分の価値観が揺れそうだった教師だが、すぐに気を取り直して次の組を開始させる。 別に、空戦魔導師がここにきてはいけないというわけでもないし、こういう例は極稀にだが存在する。 だが、珍しいことには変わりは無い。

「昔とは時代が違うんだよなぁ」

 空戦魔導師は魔導師の花形だ。 陸戦とは違って適正を認められた人間は悠々と空を行く。 魔導師として学べば飛行することは難しくないが、それでも空への憧れというものが教師にはあった。 その顔には少し羨ましさと苦笑が混じっていた。












 与えられた状況は一つ。 逃走する犯罪者とその支援者を撃破しつつ逃走者の持つロストロギアを確保すること。 ロストロギア<古代遺失物>は本物を使うわけにはいかないので勿論それを模したフェイクである。 予定された敵標的を倒し、フェイクを回収してゴールすれば訓練は終り。 かなりオーソドックスな訓練コースの一つである。

 また、管理局に入った場合の任務を考えてもこの訓練はかなり有用である。 想定されるケースとしては割りとポピュラーなものであるし、何よりも近年の次元犯罪増加傾向を考えればそれも止む得ないだろう。

「いーやっほぅ!!」

 猛スピードでコースを突っ込んでいくザースが、気持ち良さそうに風をきる。 ローラーブーツの加速はともすれば車にも匹敵するほどの速度を出すことが出来る。 勿論、そこまで速度を出せば操縦に苦労することになるが慣れればどうということは無い機動力を魔導師に与える。

「はりきってるなザース」

「勿論だ。 この風の感触は空とは違うけどよ、やっぱ気持ちいいぜ」

 後ろを飛ぶクライドはいつもと違う様子に苦笑する。 いつもはクライドが地面を走るために移動速度に制限ができる。 その束縛から解放されたことで全力で走ることができるのだ。 機嫌がよくならないわけがなかった。

「さて、そろそろ第一チェックポイントだぞ……抜かるなよ」

「おうよ」

 がっちりと両腕のグローブ型デバイスで拳を打って気合を入れる。 好戦的なその様子に、クライドもまた展開していたシールドの数を増やす。 四つから八つへ。 さらに、そのうち生み出した四つのシールドを高速回転させながら矢へと変化させていく。 後は、目標を見つけた瞬間にスターダストフォールの魔法で撃ち出し、射撃魔法へと昇華させるだけである。

「よっしゃ、見えてきた……いくぜぇぇぇぇぇ!!」

 地面を削る勢いで走るローラーブーツが駆動音を高めながら疾駆する。 弾丸そのものとかしたザースはこちらに気がついた仮想敵の集団に飛び込んでいく。 魔力で実体を作られた風船のような概観の仮想敵はこちらの様子に気がついたのか、一斉に振り向いて攻撃を開始する。 次々と放たれる魔力弾が弾幕となって二人の道を遮ってくる。

「数は八……なら――」

 弾幕をシールドで防ぎながら、真っ直ぐにならんだ仮想的の数を数えるクライド。 そのうち左側の四つにシールドアローを向ける。 回転するアローの周りに環状魔法陣が展開され、次の瞬間高速でアローを射出。 地面を走るザースを追い越し、標的をぶち抜いていく。

「らぁぁぁ!!」

 ザースはそのままシールドを前方に張りつつ、自らの拳の射程内へと向かっていく。 振り上げられた拳に、魔力を込め近距離に入った瞬間地面を滑るように標的に襲い掛かる。 人型の標的が、高速で移動するザースに危機感を募らせたのか、一斉に振り向く。 弾幕が、ザースの移動後の軌跡を這うように通り過ぎていく。 やがて、零距離。 ザースを捉え切れなかった一体が、ぶん殴られて消滅。 ザースはそのまま身体を回転させつつ、二つ目の標的へと足を上げる。 移動時の突進力と十分に魔力の乗ったその足は見事な蹴りとなった。 二つ目は後ろにいた三つ目の標的を巻き込んで転倒しながら消滅。 そこへ走る青い円盤。 クライドの放ったシールドカッターだ。 一時的に倒れこんだ三つ目を切り裂き、そのままザースを狙っていた四つ目の標的の砲撃を遮断する盾となる。 円周部は刃、面の部分はシールドというシールドカッターの特性を理解しつくしたクライドならではの援護であるといえる。 その青いシールドの横から、体勢を整えたザースが円を描くようにして飛び出し、接近する。

「――これで、ラスト!!」 

 しゃらくさいとばかりに撃ち抜かれる拳が、四つ目の標的を消滅させる。 この間、数十秒もかかっていない。 クラスでも割と早いタイムであるといえるだろう。

「ヒュウ、相変わらずいいタイミングで介入してくるなクライド」

「しなくても良さそうだったがな」

「ま、慎重なのはいいことさ。 そのほうが、多分現場で長生きできる」

「違いない」

 もっともな言葉に頷きながら、次へと進む二人。 タイムアタックといった以上狙いはコースレコードだった。

 












「ふむ、相変わらずいい動きをする」

 訓練を観戦していたミズノハは中々のコンビネーションを発揮するザースとクライドの様子に満足げに頷いていた。 模擬戦の担当もするが、こういう細かい採点などに彼女が借り出されることは多い。 色々と見るべき点はあるが、こういう場合一番重要なのはどれだけお互いのミスをカバーできるかだ。 自分以外の誰かと肩を並べる機会というのは、管理局に入ればいやというほど経験するだろう。 単独行動ができるのはそれだけのスキルを持った魔導師だけだし、基本的に任務はチームを組む場合が多い。 低ランク魔導師になればなるほどそれは顕著であるし、今のうちにこうして誰かに合わせることを覚えておくのは割りと重要なことだった。

「だが……リンディとフレスタの方は……なんともいえんな」

 空間モニターに映る二人の様子を見る。 いや、確かにお互いの欠点を埋める戦術を取ってきているのだが、あんなのはあの二人以外ありえないだろう。 さすがに、陸士訓練学校であのような真似をする人間は見たことが無かった。

「どこのシューティングゲームだアレは? 東方辺りか?」

 フレスタの持ち味はその砲撃魔法による援護射撃と狙撃である。 だが、それでは機動力は発揮しずらい。 リンディは空を飛んでいるし二人の速度は噛みあわない。 第一チェックポイントではリンディが一人で敵を全滅させた。 そのこと事態は問題ではないが、その速度が速すぎる。 フレスタが何かをする前に終わってしまうのだから訓練の意味が無い。 そこで少し考えたのか、二人が取った方法は酷く馬鹿馬鹿しいものだった。

 空を飛ぶリンディの背に乗る形でフレスタが乗り、その上で砲撃を開始するようにしたのだ。 機動力の大幅な向上。 そしてもともとあったフレスタの高い射撃能力と制圧魔法を得意とするリンディが揃った今、二人は一機の戦闘機と化していた。 弾幕を張って標的を打ち抜くリンディ。 そして一撃必殺で敵を屠っていくフレスタ。 標的を発見した次の瞬間には、標的が撃ち抜かれているのだ。 仮想的の攻撃レンジを大幅に超える射程を持つ二人ならではの戦闘風景といえる。

「うーむ、航空隊にでも二人セットで送ってやれば面白いことになりそうだが……」

 ありえない想像に噴出しながら、ミズノハはデータ処理を進める。 他にも見るべき生徒は大勢いるのだ。 後でまとめて見ようと思い直し、データ解析を進めていく。 今日も忙しくなりそうだった。










「弾幕は力ですよフレスタさん」

「一撃必殺も捨てたもんじゃないよリンディちゃん」

 高速で空を行く二人は、圧倒的速度で訓練場を飛翔する。 出力リミッターのおかげで速度はかなり減少していたが、それでも並の空戦魔導師より早い。 そこがリンディ・ハラオウンの恐ろしいところである。 そして、その上に載ったまま杖を構えるフレスタの射撃は、もはや神業めいていた。 クラスでも上位クラスのフレスタの射撃技術は、リンディの上という不安定な位置からでも目標を逃さない。 直接射撃系ではなく誘導操作系を用いていたというのも関係しているが、それでも一発一発丁寧に撃ち込んでいくその姿は中々に堂に入っていた。

 次々とスティンガーブレイドを周囲に展開し、見敵必殺とばかりに降り注ぐ翡翠色の弾幕。 その中を走る桃色の光弾。 高速で飛来する目標を撃ち落すのは難しい。 それが、簡易的な能力しか持たない仮想敵ならなおさらだ。 迎撃の魔法も縦横無尽に空を走る二人を止められはしない。 数十秒とさえかかっていない。 数秒で消し飛ばされた仮想敵はその役目を果たしきることなく一瞬で無へと帰っていく。

「さて、次のチェックポイントで最後かな?」

「もうですか? 少し少なくないですか?」

「普通はみんな走ってくからね。 戦闘より走っていくことの方が実は大変だったりするのよね」

「……大変ですね」

「うん、だからこうしてリンディちゃんのおかげで楽ができてお姉さん大助かり。 ま、それにこのコースはあまり条件に縛りが無いからね。 敵を全滅させるだけなんて一番簡単なのだし。 コースによっては周囲に被害を与えてはいけないとか色々あるから」 

 風圧によって揺れる前髪を押さえながらフレスタは言う。 それに神妙そうに頷くリンディ。 ちなみに本人たちは知らないだろうが、実はこのペアは恐ろしいほどの速度でコースレコードを塗り替えていっているのだった。 その速度はクライドたちの出す速度よりも圧倒的に速く、ザースとクライドがコースレコードを確認したときに肩を落すことになるのだがそれは余談である。








 朝は座学、昼は応用実習、夕食前に自己鍛錬し、夜は闇の書のページ埋めとデバイスや出された課題の勉強。 それがクライドの一日の流れである。 昼以降の行動は基本的に彼は一人――ザフィーラは除く――なのだが、この前のヴォルク提督の一件以来、そのパターンに変化が生じてきていた。 

「はっ!!」

「せい!!」

 目の前で戦っている二人の少年。 いわずと知れたクラスの人気者であるザースと、クライドの使い魔ザフィーラである。 そして、それを観戦しながら応援する二人の少女がその場にはいた。

「いけーザース。 犬に負けるんじゃないわよ」

「ザフィーラさんがんばって」

 もはや、クライドの夕食前に鍛錬を黙々と行える聖地は無くなっていた。 その事実にややげんなりとしながら、ボォーっと二人の格闘戦を眺める。 押しているのは無論ザフィーラだ。 歴戦の勇士の戦闘経験は訓練学校生徒程度に負けるほど柔ではない。 ある程度手加減をし、ザースのためになるように指導という形を取っていた。 初めて戦いを挑まれたとき、ザフィーラはあまり口数が多いタイプではないし、あまり喋る気は無いらしく戦いが終わればすぐに子狼形態へと変身していたが、その澄ました態度が気に入らなかったらしく、ザースはいつかギャフンと言わせてやると息巻いて一日に最低一回は戦いを挑むようになっていた。 勿論、全敗だったが。

「何故、こんなことになったのか理解できないんだが……」

 自分の居場所に異物が入り込んだ感覚とでもいうのか。 お気に入りの場所に紛れ込んできた闖入者たちにここ最近クライドは頭を痛めていた。

「まあ、諦めなさいよクライド。 それにほら、こうやって皆でわいわいやってるほうが楽しいでしょ?」

「楽しいのと一人の時間を取られるのは違う気がするんだが……」

「いいじゃないですか。 それに、ザフィーラさんが戦っている間は私たちが相手をしてあげますよ?」

 ずいっと自らのデバイスを突き出しながら、リンディが言う。 その魂胆は見え見えだった。 少しでもクライドの強さを盗もうとしている。 可愛らしく思う反面、その貪欲さにはクライドはため息を着きたくなる。 元々強い癖に、本来なら覚えるはずの無い弱者特有の小細工を覚えてしまったらどれだけ強くなってしまうのか。 正直、考えたくなかった。

「ほらほら、そんなムスっとした顔しないの。 可愛いリンディちゃんがこんなにお願いしてるんだから、少しは相手してあげてもいいんじゃない?」

 そして、さらに厄介なのがフレスタである。 リンディのことを相当気に入っているらしく、彼女のために世話を焼いてくる。 しかも強引に。 元々そういう気質があったのだが、最近はさらにその傾向を高めている。 女子供に強く出られないクライドにとって、こういう押しの強いタイプは最高に相性が悪い。 何故か自分が悪いことをしているような罪悪感がふつふつと沸いてきてしまうから不思議だった。少なくとも、クライドは悪くない。 ……悪くないはずだ。

「お願いですクライドさん。 私に稽古をつけてください」

 さらに、翡翠の瞳がウルウルと滲みながら自身を見上げてくる。

(ああ、もう限界。 無理。 こういうのマジで苦手なんですが……)

 思わず抱きしめて振り回してやりたい衝動にクライドは襲われる。 子供好きであるが故の、それは発作のようなものだった。 本当にやったらアレなので実行はしないが、それでもその誘惑に耐えるのは酷く辛いのである。

「ああもう、分かった。 分かったよ。 そこまで言うなら相手でもなんでもしてやるよ」

「ありがとうございますクライドさん」

 嬉しげににっこりと笑うその顔は、普段の大人びた顔とは程遠い。 年相応の無邪気さを秘めている。

「ふーん、やっぱりクライドみたいなのって子供に弱いのねぇ」

「そこ、勝手に人を危ない人みたいに言うな!!」

「私がいくら言っても折れなかった癖に、リンディちゃんがちょっとお願いしたらいちころなんだもん。 そう思われてもしかたないでしょうが」

「黙れお節介女」

 湧き上がってきた怒りの向けどころを考えながら、クライドが言う。

「――な!」

 反撃されるとは思わなかったのかフレスタが絶句する。 いつものクライドとは違ったその子供っぽい様子に、少しフレスタは違和感を覚えたがそれでも引くことはしない。

「はいはい、分かりましたよーだ。 黙っててあげるからさっさとリンディちゃんの相手でもしてあげなさいよ。 時間は有限なのよ」

「人の時間を奪っていく奴が何をいってるのやら」

 やれやれを肩を竦めながら、クライドはしかし覚悟を決めた。 現状、リンディはAランクの魔力しか保持していない。 であれば、これ以上手の内を晒す必要も無い。 そう思い至ったからの決断だった。
 もっとも、戦い方を知ることで強くなるからあまり意味は無いだろうとも思ったが。

「で、俺は何をすれば良いんだ? 今なら思いつくだけのリンディの欠点についての指摘から模擬戦の相手まで勤めてやるよ」

 開き直って出た言葉だった。 だが、彼はすぐにその言葉を後悔する羽目になる。

「では、全部お願いします。 大丈夫、まだまだ私の時間は二ヶ月ちょっとありますからその間に絶対ものにしてみせますよ」

 その貪欲すぎた言葉に、クライドは絶句することしかできない。

「……それ、ちょっと長すぎやしないか?」

「いえ、これでも足りないぐらいだと思いますよ」

 そうにこやかに微笑むリンディに、クライドはがっくりと肩を落す。 そこへ、ザースを打ちのめしたザフィーラが子狼形態でやってくる。 主が何故凹んでいるのか知らなかったが、それでも彼はなんとなく事態を悟ったのかクライドの足に前足でちょんと触れる。 どうやら慰めているつもりのようだ。

「ザフィーラ、もうお前だけだよ俺の味方は」 

 できることなら力になろう。 見上げてくる使い魔の瞳は、健気にもそういっていた。 ただ、それだけが救いだった。
 その場に腰を下ろし、腹をくくるとクライドはザフィーラを膝の上に乗せてふてくされてみせる。 クライドに憑依してから彼が滅多に見せない珍しい態度だったが、それを知らないリンディたちからすれば少し機嫌が悪い程度にしか見えない。 自分たちも適当に座り込んでクライドに話を聞くことにする。

「じゃあ、まずさっき言ってた私の欠点を教えてください」

「あ、ついでに私もお願い」

「ちょっと待て、なんでフレスタのまで指摘せにゃならん」

「いいじゃん。 一人も二人も変わらないでしょう。 ねーっリンディちゃん」

「あ、あはははははは」

 その強引さにさすがのリンディも苦笑した。

「ちっ、まあいい。 こうなったら徹底的に毒を吐くことにする。 それと、言っておくがこれは俺が勝手にそう思ってるだけで本職の教師からすれば間違ってるって判断することもあるからな。 全部が全部俺の言う言葉を信じるんじゃないぞ」

「はい」

「ま、確かにあんたよりミズノハ先生の方が適切なアドバイスくれるような気がするもんね」

「一言多いんだよフレスタ」

 舌打ちをしつつ、クライドは少し考えてから口を開く。 色々とリンディと自分の差を考えれば自ずと出てくる当たり前のことを言うことにした。

「まずは、そうだな。 リンディは今までその豊富な魔力で強引に魔法を使ってきたような感じだな。 術式も一見丁寧っぽい気がするけど、実際は荒い感じだ」

「荒い……ですか?」

「俺とかフレスタのと比べるとそうだな。 多分、全く同じ量の魔力で魔法を使ったとき勝つのは俺たちのほうの魔法だ。 一回目の模擬戦でリンディのシールドをバリアブレイクで解除したとき、術式の抵抗が妙に弱く感じたから多分、かなり改良の余地があるな」

 そういうと、適当にクライドは地面に転がる石を拾うと適当に文字を書き始める。

「実際の話、フルスペックの状態でリンディが魔法を使えば俺たちは普通は手も足も出ない。 これは魔力量の差がそんな術式の強度なんかよりも遥かに凌駕するぐらいつぎ込まれているからだ」

 地面にクライド、そしてリンディと文字を書き、それぞれの名前の下に数字を書く。

「俺が使ってるシールドにつぎ込まれた魔力が6として術式強度が5。 合計で11の力があるとするぞ? リンディの場合は魔力が16、術式強度が4で合計20の力かな。 だいたい、多分他の魔法も同じぐらいだと思う」

「……うわ、リンディちゃん圧倒的じゃん」

「これは低く見積もってるからもっと強いぐらいだぞ。 大体俺の二倍、本気になれば三倍はいくのかもしれん」

 神妙そうにそういうと、クライドはさらに続ける。

「魔導師としての才能はリンディの方が遥かにあるけど、だからこそ陥りやすい罠の一つだなこれは。 リンディの爺さんと戦ったときはもう少しマシだったがやっぱり、似たような感じがしたな。 多分、才能がある奴ほどこの差が顕著になるんだろうな。 術式の不安定さなんかも膨大な魔力量で強引に無視して魔法行使ができるんじゃあないかと俺は感じた。 魔力が有り余ってるリンディたちと俺ら一般ピープルの差だな」

「……クライドさんにはそう見えるんですね?」

「そういうこと。 今まで教師とかにそういうことを指摘されたことはあるか?」

「いいえ、両親にも言われたことはありません」

「魔法をただ使うだけなら問題は無いからな。 別段指摘する所でもないんだろう。 だが、拘っていくなら寧ろこれからは術式に拘ってみろ。 ただそれだけでリンディの魔法はさらに強くなる。 まあ、注ぎ込んだ魔力量に匹敵する術式強度を得ることができたなら……だが」

「ということは、今16の魔力を使ってるから術式強度もそれぐらいまで上げようと思えば上げられるってこと?」

「理論値では限りなく魔力量に比例する術式強度を持たせることができるはずだって、俺の師匠たちは言ってたな……どっかの世界の魔法行使最適理論とかいうマイナーな本に書いてるんだと」

 自分を鍛えてくれた猫の使い魔二人を思い出しながら、クライドは言った。

「勿論、魔力量が増えれば術式に強度を持たせていくのも難しくなっていくから、こればっかりは訓練して少しずつ身体に教え込んでいくしかない。 大抵は魔法を行使している段階である程度最適化されていくんだが、リンディの場合はまだまだ使用回数が少ないんじゃないかな。 あと、使えれば魔力を多く注ぎ込んで強くすればオーケーだからそれで良いと割り切ればそれでいいことなんだけど、これは一つの欠点だから指摘しておく」

「はい、ありがとうございます」

 頷くリンディは、どこから取り出したのかメモ帳を広げひたすらにメモしている。

「ちなみにさあ、私の場合はどれぐらいだと思う? 魔力量と術式強度」

「フレスタの場合は……そうだな、魔力が5で術式のほうが3ぐらいだと思うぞ」

「合計で8……低いわね」

「ただし、フレスタの場合は魔力量をもう少し増やせば比例して術式強度が上がるだろうからこれは魔力の差って考えればいい。 言い方悪いがパッと見た感じだとクラスではもっと低い奴とかもいるしな……ちなみにミズノハ先生は魔力8で術式のほうが8.5って感じか。 あの人の魔導師としての在り方はすごいの一言だぞ。 俺なんかに話し聞くよりもあの人のほうが全然ためになる」

 理論値を超える強度も持つミズノハの術式。 まともなバリアブレイクなど、かなりの時間を要することになるだろう。 バリアブレイクは術式に干渉する類の魔法なので、術式強度の強さが純粋にブレイクまでに要する時間に比例する。 バリアを抜いてから攻撃するスタイルのクライドにとってやり辛いことこの上ない相手である。

「さすがミズノハ先生といえばいいのかしら?」

「まあ、あのスパルタ教師ならそれぐらいあっても不思議じゃないわね」

「それだけすごいってことだ。 力ずくでリンディの爺さんのバリアジャケット抜いたときなんて、俺はさすがに驚愕したぞ。 普通に考えたらありえないアプローチからの攻撃だからな」

「……ありえないアプローチ?」

「真正面からの一点突破なんて、普通に考えればかなり無理がある。 魔力差を考えたらちょっと思いつかないアプローチだよ。 魔力量はそれだけで絶対的な差だ。 攻撃にも防御にも比例する重要な要素だけど、あの人のあの魔法は8と8.5の計16.5の威力じゃない。 収束魔法だってこともあるけど”最低”でも26はあった」

「26!?」

「威力の計算が可笑しい気がしますけど……」

「それだけの工夫をしているってことだ。 それに、あんなことやるにはかなりの修錬が必要だ。 少なくとも俺に今使えって言われて術式をデバイスに組みこまれても無理だな」

 ミズノハの魔法『黄金の雷』は魔力圧縮率が半端ではない。 魔力量ではなく密度で一点突破させるなんて神業はどれだけの技量があればできるのだろうか。 クライドの切り札も方法的には似ているがそれに必要な技術や、魔法としての完成度には雲泥の差がある。 少し、修錬してみようかと内心で思うほどの魅力がそれにはあった。

「ま、これが一つ。 次はそうだな……戦闘の慣れ具合か? 基本的に今までのリンディは魔力量が最大の武器だった。 魔力の差はそれだけで絶対的なアドバンテージになるから、その弊害ともいえるかな。 一撃で相手を潰せる凶悪な魔法一発で決めてきたって感じがする。 だから、長期戦というか……この場合は接近戦か? そういう間合いでの戦い方が下手。 魔力量が膨大だったころはそれこそ力ずくでどうとでもできたが、今はその魔力が無いからな。 多分今なら俺やザースに近づかれたら苦戦するだろうよ」

「……耳が痛いですね」

「まあ、普通はそんなもんだろ。 魔法学校では普通はそういうのを教えないし、極論でいえばこういうのは慣れが必要な分野だ。 近接戦闘時の咄嗟の判断とかは、相手にノックダウンされながら覚えるもんだ。 だから、ミズノハ先生のあのノックダウン授業はかなり効果的だな」

「……クライドさんもそうやって覚えたんですか?」

「ああ、魔法を教えてくれた師匠がスパルタでな。 特訓する度にボコボコにされてたよ。 だから、悔しくてどうにかして戦えないかと色々工夫したものだ。 未だに一回も勝ったことは無い」

 可愛い顔をして、凶悪な力を持つ二人の使い魔の顔を思いだしながらクライドはため息をつく。 彼女たちの元々のポテンシャルもさることながら、管理局の魔導師としての実戦経験を豊富に持っている。 実戦で磨きあげてきたその技術は、高ランク魔導師数人を相手にできるほどである。 特に、二人揃ったときのコンビネーションは半端ではない。 彼女たちに狙われたら、クライドなど獲物のネズミでしかないのだ。

「少しクライドさんの師匠さんに興味がでてきました。 どんな人なんです?」

「師匠たちか? 一言で言えば双子の猫の使い魔だな。 高ランク魔導師でもあの二人と戦ってタダで済むことは絶対ないな。 断言してもいい」

「そこまですごいの?」

「それぞれきっちりと前衛後衛の役割分担して、その分野で相手をねじ伏せられるほどの技量を持ってる。 それぞれの技術はぴか一。 二人まとめて戦ったら、一人じゃ絶対に勝てない。 特に、後衛のすごさが半端じゃないな」

「ふーん」

 実際に二人を知らないフレスタは少し訝しんでいたが、それでもクライドが真面目に言い切るものだから話半分、とまではいかないまでも七割ぐらいは信じようと思った。 リンディなどはそれを完全に信じ込んでいるようで、目を輝かせている。 自分も使い魔を作ろうかなんて、呟いていることからも興味を刺激されていることは間違いなかった。

「ま、この際あの二人のことはいい。 問題はリンディだ。 手っ取り早くその判断力をつけたいんなら、ザースとかミズノハ先生みたいな近接戦闘主体の人に相手をしてもらえばいい。 お勧めはミズノハ先生だ。 気持ちよくノックダウンさせてくれるから、M属性がある人間なら変な趣味に目覚めさせられること間違いなしだ」

「それはちょっと勘弁して欲しいかしら」 

「あんたが相手してやらないの?」

「めんどくさいし何より、主義に反する」

「主義?」

「女子供に殴りかかるのはあんまり好かん。 授業のときとか敵なら別だが……」

「呆れた、あんたフェミニストだったの?」

「あのな、野郎ならぶちのめしても良心の呵責なんてこれっぽっちも浮かばないが、さすがに年下殴ってノックダウンさせるのは後味悪いぞ? 前にノックダウンさせたときは一応気を使って電撃魔法使ったし……」

「はっ、魔法で気絶させるのも殴って気絶させるのも一緒じゃない」

 何を今更といわんばかりにフレスタはクライドの主義を一刀両断する。

「なら、お前が相手をしてやればいいじゃないか。 丁度、お前も近距離苦手だろう? お互い苦手を克服するために訓練できていいじゃないか」

「それだと効率が悪いでしょ?」

「ぐっ」

 出来る限り逃げを打ちたいクライドをフレスタは逃がさない。 じわりじわりと包囲網を敷き、追い込んでいく。 魔法戦闘になれば負ける気はしないクライドだったが、こういう分野では手も足も出そうになかった。

 その後、さらにいくつか欠点を指摘した後にクライドは完全に開き直ってリンディの指導に入った。 やる気は無いといっておきながら、その指導には微妙に熱が入っていたような気がする。 本人は気づいていないのだろうが、やるからにはリンディの力になってやろうという感じだった。 その様は本心を隠していたクライドの反動と言えば良いのだろうか。 フレスタやリンディは普段のぶっきらぼうさからは読み取れない彼の熱心な様子に、少し心象を改めた。













「――で、豪勢な食事を奢るという話が何故電気街の散策に変更されているのだクライド?」

 土曜日、前回のヴォルク・ハラオウン提督との模擬戦時の約束を守ろうとしたミズノハはクライドの予定外の行動に少し眉を顰めていた。 教師ということもあり、あまり特定の生徒と一緒に行動してあらぬ誤解を受けたくもない。 そういう心情からの言葉だった。 もっとも、彼女を知る人間からすればそのような下世話な詮索などしないだろう。 訓練学校が誇るスパルタ教師である彼女が生徒とそういう関係になるなど想像さえできないからだ。

 服装を見ても、特に着飾った様子もないしジーパンにジージャンといつでも何かあればすぐさま戦闘可能な格好をしていることからも逢引などありえない。

「ええ、ちょっと先生に意見を聞きたいことがあるんで。 ちょっと時間貰いたいんですけど、構いませんよね?」

「それは構わんが……どこにいくのだ?」

「自作デバイスのパーツ屋ですよ。 ちょっとリンディ用に探すものがあるんです」

「ふむ? リンディに簡易デバイスでも作ってやるつもりなのか? しかし、あいつのデバイスはそもそも強力なデバイスだぞ? 素人が自作する簡易デバイスなど、必要ではあるまい」

「ええ、普通なら必要はないでしょうけどちょっと近距離用に仕込んでやろうかなと思いましてね」

「そういうことか」

 ここ最近、リンディ・ハラオウンがクライドたちとよく行動していることは目に付いていた。 クライドの戦い方に興味を持っていた彼女なら当然の行動だろうが、よもやクライドが進んで何かを教えようとしているとは思わず、彼女は少し驚いた。

「しかしどういうつもりだ? いつもなら、めんどくさいの一言で動きそうにない男が、あんな年下の少女のために人肌脱ぐとは……惚れたのか?」

「……嫌う理由は無いですけどね、そこまでの感情はまだ無いですよ」

「ほう、”まだ”か?」

「良く知らない相手に、そうそううつつを抜かすことなんて出来ませんよ。 俺は、臆病者なんでね」

 憤然と否定しつつ、可能性だけは残すクライド。 だが、そんなことを考えたことが無いといえば嘘だった。 クライドは知っている。 彼女が恐らくは近い将来にすごく魅力的な人になるだろうということを。 だが、それはカンニングと意図的にそう見せられた果ての心象でしかない。 画面越しの姿などに、意味は無い。 幻想が現実に成り下がってしまった今では、彼女に憧れのような感情こそ抱いても恋愛感情を持ち出せる自信が無かった。 元々の彼の性格が、そういう感情を押さえ込んでいた。

「ふむ、まあそういうことにしておこう」

 苦笑しながら、ものぐさな教え子の言葉を聞き流す。 さりとて、そういう個人的なことに首を突っ込みすぎないドライさがミズノハの美点である。 戦場では対峙する人間が驚愕するほどの踏み込みを見せる癖に、こういう踏み込み速度はあまりにも緩慢だった。 そこに、クライドはミズノハの大人を見たきがした。

「で、私はどうすればいい? 少なくともデバイスに関しての知識はそれほど豊富ではないぞ。 お前がここに私をつれてきたということは何か意見を求めているのだろうと思うのだが」

「ええ、実際問題リンディに近距離の武器をやって苦手な距離での戦闘の練習でもさせてやろうと思ったんですけどね、彼女にどんな武器があいそうかいまいちイメージが掴めないんですよ。 そこで、色々な魔導師を見てきた先生の意見を参考にできればな……と」

「なるほど……そういうことか」

「リンディは魔導師として天才的な才能がある。 ついでに言えば、物覚えも恐ろしい程に良い。 なんでもできそうなんで、いまいち決められないんですよねぇ」

「確かに、そういうイメージはあるな」

 少し考え込むようにしながら、ミズノハが相槌を打つ。 その脳裏では、ミズノハなりにリンディに適正のありそうな武器を模索している。 だが、短期間でそれなりに仕込むのなら扱いが容易で使いやすいものの方が良い。 であれば、普段使っている杖に似ているものが良いのではないかと考える。

「あ、ここだ」

 隣を歩くクライドが、地図を片手に店の前で止まる。 大きな店とは言い辛い小さな店だったが、それでも雰囲気はよく出ていた。 カウンターに座るデバイスマイスターらしき男は、店に入ってくる二人を少し見て、しかし声をかけることはせず無愛想に新聞に目を落す。 道楽で仕事をしているのだろうか。客の心象など考えていないその傲岸不遜な態度に、クライドは苦笑する。 だが、そのまま気にせずに奥の方へと進みミズノハと共に目当てのパーツ類の場所へと進む。

「近距離戦闘でまず俺が考えたのが、魔力刃を発生させることです。 それなら、魔力量を元に戻したときにリンディの攻撃はどんな魔導師相手でも相当な脅威になる」

「ふむ、その意見には賛成だな。 あの膨大な魔力で編まれた刃なら、ただ展開させるだけで相手が近づくことを躊躇するだろう」

「そして、遠距離に離れたらリンディお得意の空間制圧魔法でおしまい。 セオリーで考えたらそれが一番無難な戦術でしょう」

「あいつほどになれば、我々のような小細工など必要ないからな。 力押しが一番強い。 その判断には同意するが……付け加えて意見するなら使いやすいのにしてやれといったところか。 そのほうが馴染みやすいだろうからな」

「となると……杖に似てる形状にするべきですかね。 槍……はちょっと違うかな?」

「イメージとしてはそれが近いな。 槍ほどのリーチと、剣の刃を併せ持った獲物が理想的なイメージだな。 それなら、少し接近戦が苦手でもリーチを生かした攻撃で誤魔化しが可能だ」

「うーん……」

 適当にパーツ類を見ながら考えてみる。 ついでに欲を言えば、実戦向けを想定してそこそこの強度は欲しいところだった。 だが、簡易デバイスにそもそもそういう強度を求めるのは難しい。 懐ぐあいも考えると、あまり高価なものに手を出すこともできない。

 散々唸って、ようやく考え付いたのが現在リンディが持つデバイスに魔力刃形成機構をとりつけることであった。 それであれば、強度の問題もあらかたどうとでもなるし調達するパーツも少なくて済む。 そのことをミズノハに言うと、それも悪くないだろうという意見が返ってきた。

「じゃあ、これとこれ……後は魔力刃形成機構は……ああ、薙刀タイプでいいか」

 少し、完成したものを振り回すリンディの姿を想像する。 イメージに合わないことも無いし、いっそのことバリアジャケットの設定を振袖に変更してやろうかとも思った。 勿論、実際にそんなことをするつもりはなかったが。

 籠に適当にパーツを詰め込んで、さらにクライドは自分の分のデバイスも新しく作ってみようかと思案する。 この前の模擬戦で痛感したことだが、クライド自身同格の相手を相手にするなら今までのままでも問題は無いが、ミズノハやヴォルクといった格上の相手の攻撃を一度でも受け止められる力を持った武器が欲しいと切実に思っていた。 拳ではリーチが短すぎるし、何よりもまともに防御するのに少し限界を感じ始めていたのだ。

「どうした、まだ探すのか?」

「ええ、ちょっと自分用のも探してみようかと……」

 簡易デバイスでも、やりようはあるのだ。 限定的な機能しか発揮することはできないが特性を理解すればそれを武器にすることはできるだろう。 少し、自分の戦い方を変えてみようかとクライドは思った。

「となると、二刀流か一刀流どっちを選択するべきか……」 

 ちらりと、隣にいる教師を盗み見るクライド。 ミズノハという魔導師の戦い方は、クライドと方向性こそ違うが格上を打倒できる可能性を持つ戦闘スタイルという意味では理想的な形の一つであると考えられる。 であれば、二刀流にして彼女のあの銃剣捌きを教授してもらうという選択肢が出てくるわけだが、しかしその場合の懐へのダメージは単純計算でも二倍である。 長考しても仕方が無かった。

「ふむ、現状のあり方に不満でもあるのか?」

 考え込むクライドを見かねて、ミズノハが問う。

「ええ、少しですけどね。 できれば、先生と打ち合えるだけの武器が欲しいと思っていたんですよ。 剣道三倍段でしたっけ? 素手のままだと武器持ちの相手に色々と不利だなぁって最近思いだしたんで」

「確かに弾いたり逸らすレベルならばともかく、まともな打ち合うことに関して言えば貴様のシールドナックルでは少し厳しい……か。 リーチも短いしな」

「バリアブレイク戦術を考えると片手が空いたほうがいいんですけどね、武器持ちの相手だと二刀流の方がいいかな……と。 先生からみたらどっちが厄介ですか?」

「……お前の場合なんとも言えんな。 どちらを選んでも小細工を仕掛けてくるのだろう? だが、そうだな……お前には私と同じような前に出る戦い方は難しいかもしれんし、二刀流は少し修錬がいる。 初めのうちは一本にすればいいだろう。 それなら、お前の得意な戦術との相性もそう悪くはあるまい。 ただ、問題なのは実体剣型にするのか魔力刃タイプにするかだ。 どちらも一長一短の特性がある」

「というと?」

「実体剣型は、比較的頑丈で威力を与えやすい。 だが、その分重く使い難いし破壊された場合は致命的な戦力低下を促す恐れがある」

「……なるほど」

「そして、魔力刃タイプは威力が魔力量と術式強度に依存する。 が、実体が無い分軽くて扱いやすい。 それに刃を破壊されても、魔力刃形成機構が破壊されていなければ再び魔力放出を行うことで問題なく使える。 もっとも、こちらは魔力消費が激しいのが大きなネックになってくるだろうがな」

「なんか、余計迷ってきたんですけど?」

「新しいことに手を出そうとすれば悩むのは当然だ。 ただ、ゆっくりと考える時間も必要だと思うぞ。 自分を生かす戦術や小細工を考えてからのほうが良いのではないか?」

「それは、そうなんですけどね……」

 ミズノハの最もな意見にクライドはさらに悩む。 別段、まだそれほど問題があるわけではないので今のままでも問題はない。 彼の師匠など、デバイス無しで格闘戦を行っていたし修錬を積めばそのまま大成することも不可能ではないのだ。 じっくりと考える時間はあった。

「……そうですね、目ぼしいパーツが無ければ今回は諦めときます」

「それが無難だな」

 魔力刃発生パーツ周辺を流し見て、いまいちイメージが固まらないクライドは今回は諦めることにした。 確かに、少し急ぎすぎた感がしないでもなかった。 デバイスパーツに囲まれて有頂天になっていたといってもいい。 そして、実体剣型のパーツを見てもそれほど彼の食指を震わせるパーツが無かったこともそれに拍車をかけていた。

 後は、適当に最新のパーツを眺めて今後の自作デバイスへの想像を働かせようとクライドが思ったそのとき、クライドは店の最奥で少し古いパーツを置いてある一角を発見した。 型遅れのものから、今ではもう使っている人間などいないようなものが置いてある。 見るからに、売れそうにないものばかりである。 だが、そこに無造作に置かれてあったそのパーツを見たときクライド思わず目を見開いた。

「――嘘だろ? なんでこんなもんがここに……しかも、こんな馬鹿に安い値段で……」

 それは、そんなところで埃を被っていて良いパーツではなかった。 確かに、型遅れで恐ろしく古いパーツだろう。 だが、そのパーツの価値はそうそう変わるものではない。 恐る恐る手を伸ばし、それのパッケージを見る。 パッとその文字を理解することはできない。 なぜならそれはミッドチルダ語では書かれてはいないからだ。 書かれている文字はベルカ語。 かつてミッドチルダと世界を二分したといわれる今は滅びた世界の文字であった。 翻訳魔法で辛うじて読める程度の、それの機能説明を見た瞬間確信を得たクライドは即断した。

「ん、随分と古そうなパーツだな」

 動きを止めたクライドを訝しんだミズノハが、珍しそうにそれを見る。

「――先生、やっぱ自作デバイス新しく作ります」

 それを見つけたときから、すでにクライドの頭の中にイメージが湯水のように沸きあがってきていた。 アーカイバに匹敵するするほどの満足度を誇るデバイスができる。 そういう確信がクライドにはあった。 籠の中にそのパーツを入れると、すぐに魔力刃形成機構パーツのところまで戻る。 さらに、完成に必要な様々なパーツを籠の中に放りこんでいく。 全く迷いが無いその様子に、ミズノハは少し驚いた。 衝動買いも甚だしいと思ったが、クライドは無駄なことはしない。 それが必要であると心底思っているのだ。 だからこそ、あそこまで目の色を変えている。 あのパーツがそこまですごいのか理解できなかったミズノハだったが、少し次の模擬戦が楽しみになってくる。 どういうデバイスに仕上げてくるのか? それを用いた有効な戦術とはなんだ? 湧き上がってくる高揚を感じる。 ミズノハの戦士としての勘が、それは期待しても良いものであると告げていた。

 それから少しして、会計を済ませたクライドたちは店を出た。 クライドはよほど良い買い物をしたのか、滅多に見せないほど顔が綻んでいる。

「すいません、結構時間かけました」

「かまわんよ。 さて、じゃあ少し遅れたが食事にしようか」

 クライドの子供染みた様子に苦笑しながらミズノハが先導するように歩く。 ここより少し離れたところに、行き着けの店があるのだ。 クライドが気に入るのか知らないが、そこはミッドチルダに住む魔導師にとって、少なくともミズノハたちの世代には人気がある穴場的な店だった。 店長が元管理局の魔導師であり、魔導師から脱サラして店を構えたという変り種で、その関係で今でも管理局員の知り合いが多く尋ねてくる。 そこはミズノハにとっての古い友人が経営している店でもあった。

 それほど大きいというわけではない。 カウンターテーブルのみがある小さな店という感想をクライドは持った。 もっとも、少しその内装には懐かしいものを感じたが。

「らっしゃい」

 声をかけてきた威勢の良い男の声。 三十台半ばらしいその男は作業中の手を止めて厳つい顔を上げる。 と、そこでその顔が少し驚き、すぐに破顔した表情を浮かべた。

「アーク邪魔をするぞ」

「おう、久しぶりだなミズノハ」

「あれ、知り合いなんですか?」

 ミズノハの事情を知らないクライドが疑問符を浮かべる。 さすがに料理屋の店長らしき人物とミズノハに接点があるなどと思わなかったのだ。

「ああ、私の古い友……いや、今の私を生み出した元凶だよこいつは」

「おいおい、なに人を悪者みたいに紹介しやがるんだてめーは。 それに、随分若い連れだな? お前の彼氏か?」

 ニヤニヤと愉快げに笑うその男は、ミズノハの隣に立って微妙な顔をするクライドに視線を移す。 その不躾な視線は、絶句しているクライドをしばし観察しすぐにミズノハに戻った。 

「何を馬鹿なことを言っている。 こいつは私の教え子だ」

「ほう? じゃあ陸士訓練学校の後輩か。 ミズノハの教え子なら、サービスしてやらないといかんな」

 クライドたちが座ったカウンターにお冷とお絞りを差し出しながら、アークは言う。

「俺の名前はアーク・チェザイルだ坊主。 お前はなんて名前だ?」

「クライド・エイヤル、陸士訓練学校の二回生です」

「そうか、まあゆっくりしていってくれや」

「はい……アレ? ここってもしかしてラーメン屋なんですか?」

「おうよ。 なんだ、知ってるのかラーメン。 管理外世界の料理だから、一見者は大抵おっかなびっくり注文するんだがな」

 その言葉に道理で懐かしい感じがしたと、クライドは納得する。 メニューを見れば炒飯やら餃子といった定番ものと何種類かのラーメンの名前があった。

「アークは管理外世界出身の元魔導師でな、今でこそこんな小さな店の店長をやってるが、昔は私とともに前線で戦った元凄腕の魔導師だ」

「はっ、俺のどこが凄腕だよ。 俺はしがない元低ランクの陸戦魔導師だぜ」

「だが、お前と組んだからこそ私はあのヴォルク提督との模擬戦で勝てたのだ。 あのとき、あの場所にいた誰しもが無理だと諦めたあの御仁に、土をつけることができたのは紛れも無くお前の力だった。 凄腕でなくてなんだというのだ?」

「うぇ!? あの人を倒したんですか!?」

 驚き、目を見開くクライド。

「懐かしい話だな。 だが、あんなの当然の結果だ。 あんな魔力量だけの奴、俺からすればいい鴨だ」

 不敵にそういうアークの顔には、痛快な笑みが浮かんでいた。 よほどそのときのことが楽しかったのだろう。

「あとな、そこにいるミズノハを今みたいな戦闘狂にしたのも俺だな。 陸戦魔導師を舐めてやがったからなぁ、気持ちよくノックダウンさせてやったぜ。 ほら、アレがそのときのこいつの間抜け面だ」

 壁にかけられていたコルクボードに張ってある一つの写真を指差して、アークは笑う。 その先には、確かに今より若い姿のミズノハが倒れている姿が映っている。 そのさらに上には、最近知り合った少女の祖父が倒れている写真があった。

「アークの昔の趣味でな、高ランク魔導師を倒してはその証拠として倒した魔導師の写真を記録しているんだ。 悪趣味だが、当時彼に負けた私はそれを取り戻そうと躍起になっていたが、ついぞそれは叶わなかった」

「それで、今もこの店に飾られている……と?」

「そういうことだ。 懐かしい話だよ……彼に負けて、そしてヴォルク提督に出会い、それを打倒するために彼の力を借りた。 今の私がいるのは、彼のおかげといっても過言ではない。 そこの男は私を遥かに凌駕するスパルタ教師だ」

 苦笑いしながら水を口に含む。 その顔がどこか紅いのは、本人としても本当に不本意で恥ずかしい写真なのだろう。

「ま、懐かしい昔話は後にしようか。 アーク、私はとんこつラーメンを」

「いつもの奴だな?」

「ああ、それで頼む」

「坊主はどうする?」

「じゃあ、俺はチャーシューメン大盛りで」

「わかった、ちょっと待ってろよ」

 厨房の奥へ材料を取りに向かうアーク。 その姿には、凄腕の魔導師としての面影はない。 どこにでもいるラーメン屋の店長といった様子だった。 

「すごい人なんですね」

「ああ、お前に近い雰囲気がある。 どこか普通の魔導師とは違う毛並みの奴だ」

「でもどうやって倒したんです? ちょっと気になるんですけど?」

「あいつはお前に近いが、お前のように小細工を多様するタイプではない。 馬鹿げたことだが、空戦SSランク魔導師相手にあいつがとった戦術は持久戦だ」

「あ、え? 持久戦……ですか?」

 それを聞いたとき、クライドは空いた口が塞がらない思いだった。 幻聴かと思ったほどだ。 どんなすごい奇策を使ったのかと思ったら、出てきたのはたった三文字の戦術。 そんな戦術で倒せるほどヴォルクは甘く無いはずだ。 というより、ありえないアンサーである。 クライドがもしその方法を選択したら間違いなく敗北の二文字しか浮かばない。 どれだけの小細工を弄しても、先に力尽きることは目に見えている。 言った本人も憮然としていた。 だが、それは事実らしい。

「私にはとても真似できないことだが、それでも彼はそれをやってのけた。 それができるのだ、あの男は」 

「えと、魔力量は俺と変わらないぐらいですよね?」

「そうだな。 使ったデバイスは二振りのアームドデバイス。 そして己の身体だけ。 それだけであの男はヴォルク提督を打倒した。 勿論、私も援護したがそれだってあの男には必要であったかどうか怪しいな」

「えと、まさか本当に真正面から勝負しにいったんですか?」 

「ああ、背中を見せるという言葉をあの男は知らんからな」

 絶句するクライドを他所に、ミズノハは淡々と語る。

「アークは確かに最大魔力量はお前ぐらいしかないが、魔力回復力がずば抜けて高いんだ。 ヴォルク提督やリンディ・ハラオウンさえ足元に及ばないほどにな」

「本当ですか!?」

「その魔力量の低さに皆騙されるんだ。 最大魔力量こそ低くても、長期間戦える下地が彼にはあり、それを本人も理解していたから彼は専ら魔法の研鑽ではなく体力作りばかりを行っていた。 魔導師というよりは、彼を形容するなら剣士といった感じだな。 使う魔法はそれほど多くはない。 けれど、その代わりに二振りの剣を縦横無尽に操る。 その剣捌きは当時は神業と評されたほどだ」

「へぇ……」

「それと、彼の使うアームドデバイスの形状は刀と呼ばれる類の武器でな。 主に技で切ることを主眼に置いている武器だ。 質量の無い魔法を切ることは、彼にとって容易いことらしくてな。 生半可な魔法は彼の剣に切られて消される。 さすがにヴォルク提督の膨大な魔力で作られたシールドやバリアジャケットを真っ二つにすることは無理だったが、開始早々近距離に張り付いてヴォルク提督に消耗戦を強いていた。 そうして、持久戦を続けかなりバリアジャケットが弱ったところで私が狙撃して倒したよ」

「なんか……普通の魔導師の戦い方じゃないですね」

「ああ、しかも彼はお前と同じように空を飛べる。 陸戦魔導師と侮った瞬間にはもう、彼の術中に嵌っているのだ。 そうして、強大な力を持つ魔導師をも地に這わせてきた彼についた二つ名が『ミッドチルダの侍』だ。 言い得て妙だろう?」

「……確かに」

「その時私は彼の剣技に心底惚れこんでいてな、砲撃魔導師から鞍替えして彼に剣を習った。 その名残が今の戦闘スタイルだよ。 さすがに彼と同じような腕前にはなれなかったけれど、格上を打倒するために試行錯誤したあの日々は本当に充実していた」

 彼女の戦闘狂と呼ばれる原点が、そこにはあった。 

「それから、何度かヴォルク提督とも交流するようになったな。 アークに雪辱を晴らそうと何度かあの御仁が同じ条件で挑戦してきたが、コンビを組んだ私たちで返り討ちにしてしまった。 結局、アークが管理局を止めるまでそのままだ。 その間私は何度も彼に挑んだが彼には結局勝てなかったよ」

 少し悔しげにそういうと、ミズノハは残っていたお冷を飲み干す。 少し、喋りすぎたなと彼女は言うがクライドはその話を貴重な経験談として捉えた。 小細工を労してしか格上を打倒できないクライドと小細工など使わずに真正面から格上を打倒することができるアーク。 対照的なそのありようはクライドが考えていた格上を倒す上で知らず知らずのうちに考えていた真正面からの打倒は不可能だという思い込みを完全に粉砕した。 いい意味で、そういう例もあるのだと理解することができたように思える。 ただ、自分には真似できそうに無いことが少し残念に思えた。

「俺も、真っ当な手段を考えてみようかな」

「そうだな、奇策ばかりに頼るのは危険だ。 少なくとも、一度見せた戦術は何がしかの対策を取られることが多い。 対策の取られ難い正攻法の戦術も用意しておいたほうがいいだろう。 少なくとも、この前お前がヴォルク提督を昏倒して見せた魔法と、私をノックダウンさせたときに見せた魔法はもう私には通じない。 他にも何か方法があるか?」

「非殺傷設定が効かない完全な殺人前提の方法ならまだいくつか。 でも、全部奇策ですし使えば俺犯罪者ですからね」

「随分と物騒な奴だな。 しかしそれなら今日の買い物は丁度良かったのかもしれんな。 今日お前が作ると決めたデバイスがどんなものになるかは分からんが、それを上手く利用する戦術を考えてみれば良い。 必要なら助言もしよう」

「ええ、そのときはお願いしますミズノハ先生」

 と、そこへ出来立てのラーメンを持ってきたアークが顔を出す。 その美味しそうな香りにつられて、二人はアークの方へ視線を向ける。 

「お待ちどうさん。 随分話が弾んでるみたいじゃないかミズノハ?」

「まあな。 お前の武勇伝はさすがにこいつも吃驚していたぞ」

「武勇伝ねぇ……まあ、さすがにいま昔と同じことをやれって言われても無理だけどな」

「それが出来たらラーメン屋などに私がさせておかんよ」

「はは、違いない」

 それぞれの前に置かれたラーメン。 湯気とともに立ち上がる匂いが、空腹に染みてくる。 二人はそれぞれ割り箸を割るとラーメンを食べ始めた。 その味はクライドにとって満足のいくものであり、今度またこようと思ったほどだった。

 その後、ミズノハとともに学校へと帰ってきたクライドは急いで寮の部屋へと戻った。 インスピレーションが消えないうちに、できるだけ速くデバイスを作り上げたかったのだ。 その日、クライドの部屋の明かりは朝方まで消えることはなかった。
コメント
俺の書の意思『ず~る~い~!私もケーキ食べたい~~!ハンバーガーも~!』

クライド「諦めろ。未だ人間形態になれないんだからしょうがないだろ。てゆうかお前そんなに食べ物が好きだったのか?」

俺(ry『うん、ハンバーガー4個分くらい好きだよ?』

クライド「そのネタは古いと言うべきか、新しいと言うべきか……」
【2008/06/14 17:17】 | あるべると #- | [edit]
誤字報告です。

本文から
その魔力量の低さに皆騙されるんだ。 最大魔力量こそ低くても、長期間戦える下地が彼にはあり、それを本人も理解していたから彼は専ら魔法の研鑽ではなく体力作りばかりを行っていた。 魔導師というよりは、彼を形容するなら剣士といった感じだな。 使う魔法はそれほど多く『ない無い』。

おそらく「それほど多くは無い」だと思います。
【2008/09/22 23:40】 | kazu #.AUkuh/Q | [edit]












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