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憑依奮闘記 第五話(なのはSS オリ主憑依系)

 2008-03-29
 暗黒の深遠。 深き闇の只中に、彼女はひっそりと存在していた。 何かをするでもなく、何に心を奪われているのかさえ分からない。 ただ、立ったまま虚空を見上げている。 その行為に何か意味があるのか、俺には全く理解できない。 ただ、彼女のことは少しだけ知っていたから”いつも”この場に来たときには少し警戒してしまう。 

「……なぁ、なんで俺はここにいるんだ?」

 声をかけても返答は返ってこない。 理解できないが、どうやら彼女は俺の存在を知覚できないようなのだ。 声をかけたり、こちらから触れたりはできる。 だが、それでも彼女は俺のことなど全く目に見えないがごとく微動だにしない。 何分も、何十分も、何時間でも。

「ちっ、なんだってんだ?」

 理解できないことこの上ない。 或いは、あの八神はやてならば理解できたのだろうか? 正史的に呼ぶとするなら、夜天の王。 あの少女ならば、或いは何かできるような気がした。 それは無力を嘆く自分の逃げであったのか、それとも資格の有無の問題だったのか。 俺の足りない頭で考えてみても、それに答えは出てこない。 だから、いつも最後には彼女を黙って観察することしかできなかった。

 彼女は、まるで人形のように出来すぎている。 街を歩けば人目を引きそうな見事な銀髪に、それを所持した完璧な造型師によって作り出されたその相貌は、どこか人間離れしているように俺には感じられた。 だが、それは不快というわけではない。 思わず息を飲んでしまうぐらい、そのありようが美しかったからだ。 かのヴィーナス像のような、人を惹きつけそうな黄金率のプロポーション。 女神とか天使とかといった華美な形容こそ彼女には相応しいだろう。 ともすれば、魅了されてしまいそうだった。

 だが、彼女こそこの空間の主でありそのもの。 闇の書の統制人格にして主人格だ。 その彼女がここにいるということからこの空間が闇の書の中の情景であるのは容易に理解できたが、こうまで虚無ばかであると少々恐ろしくなって来る。 死亡フラグが少しずつ成立しようとしているのだろうか? だから警告の意味を込めて介入してきたのだとしたら理解できる。 だが、同時にそれを否定する自分がいた。

 詳しい設定は分からない。 だが、闇の書には完成するまで触れることはできても介入したりはできないはずだ。 それをすれば闇の書は主を侵食して転生する。 そういう設定だったと記憶していたからこそ、俺は今まで闇の書に手を出すことはしなかったのだ。

「……はぁ、それとも本来の蒐集行為以外の方法で魔法を蒐集しているから拗ねているのか?」

 少しずつ俺やヴォルケンリッターの手によって埋められていく闇の書のページ。 それがお気に召さない姫君が、こうして癇癪を起こしているだけというのなら可愛いものだ。 だが、こう無視され続ければ少し不安になってくる。

 この空間には何も無い。 広がるのは深遠のみで、辛うじて彼女の周りだけ薄っすらと白く輝いているといった具合だ。 街灯よろしく、暗黒に何故か恐怖を覚える俺は彼女の周りから離れすぎることはできない。 何が起こっているのか分からないという恐怖は、存外俺の精神を圧迫してくる。  暗所恐怖症にでもなってしまいそうだ。

「……」

 物言わぬ彼女は、俺の様子など意に返さない。 そもそも認識できていないようなのでどうしようもないのだが。

 やがて、暗黒のさらに深遠へと意識がシフトしていく。 いつもの終り。 夢からの目覚め。 虚構の世界が闇に沈んでいく。 恐ろしい空虚が、全身を飲み込んでいく。 俺も彼女もそれに抗うことはできない。 まるで予定調和の劇だ。 滑稽なこちらの様子を誰かがあざ笑っているようにさえ感じられる。


――ひどく、気分が悪い。






「主よ、起きるが良い」

 ゆさゆさと、身体をゆすられる感覚と我が部屋に住まう一匹の使い魔の声。 それに意識を戻されながら、俺はゆっくりと目を開く。 少年姿になったザフィーラが、どこか心配そうにこちらを見下ろしている。

「ああ、おはようザフィーラ」

「おはよう主。 ここ最近の徹夜が効いたらしいな。 死んだように眠っていたぞ」

「そうか……」

 身体を起こし、欠伸をしながらベッドから降りる。 と、そこで気がついた。 何故か、嫌に汗をかいている。 気持ち悪く感じた俺はシャワーを浴びる準備を始める。

 ザフィーラは子狼姿に戻り、少し訝しげにこちらを見ていたがバスタオルを咥えてこちらへとやってきた。 本当に気が利く奴だ。

「体長が悪いのなら、授業を休んだらどうだ?」

「いや、風邪とかじゃあないさ。 ただ、少し夢見が悪かったけどな」

 タオルを受け取り、礼を言いながら浴室へと向かいシャワーを頭から被るようにして浴びる。 寝起きに伝うお湯の温もりが酷く心地よい。

「……やっぱ、闇の書が関係してるんだよな」

 見た夢の、あの暗黒の空間での出来事を思い出しながら少しばかり思案する。 

(何か、意味があるはずだ。 でなければ、あんな夢を見る理由が無いだろう。 ましてや、”リインフォース”の姿を今の段階で見られるはずがない)

 何か、自分の知らない何かがあるのだ。 確信にも似た予感を感じながら、俺はシャンプーのボトルに手を伸ばす。 不安を全部洗い流そうとするかのように、グシャグシャと髪にシャンプーを練りこんでいく。 いつもより多く泡立つ泡が、少し鬱陶しかった。







憑依奮闘記
第五話
「隣の芝生」










――魔導師。

 このミッドチルダ周辺次元を管理する時空管理局の有する戦力の要。 過去に存在した質量兵器――主に、誰でも扱うことができる兵器――とは違い、環境に優しく使用できる人間を選ぶ不平等な力。 誰でも扱うことができる質量兵器は、そのあまりの万能さ故に危険を感じた時の人たちによって封印されてきている。 その風潮は、少なくとも時空管理局が管理する次元世界ではほぼ常識にされている。 容易に使える武力を失ったおかげで、大きな戦争はここ最近では起こりづらくなっている。 例え起きたとしても、通常の人間の力を大きく超える力を発揮できる魔導師が介入してくれば、どのような勢力も争いを続けることはできない。

 魔導師の現代の次元世界においては一つの力の象徴だった。 だが、どれだけ争いの力を封印したとしても人類が争いを捨てることはない。 自分以外の他者が存在するという事実が多様性を生み出して様々な人間を生み出していく。 その結果、犯罪者はどれだけ高度な社会に文明が成長しても消えることはない。 だからこそ、確実に次元犯罪が横行し時空管理局はその処理に忙殺されていく。 管理区域や監視区域が増えれば増えるほど、その勢いは増していく。 まるで、終わらないイタチゴッコを見ているようだった。


「ちくしょう、警察の奴らもうかぎつけやがったのか!?」

「やばいぞ、この先は市外だ……奴らも遠慮なんてしてこねぇぞ!! どうすんだよおい!!」

「く、こうなったらこのガキ利用してどうにかするしかねぇ!!」

「それにあの魔導師まだ追ってきやがるぞ。 なんて奴だ!?」


 恐ろしい速度で高速道路を走る車のその真後ろに、ぴったりとつく人影がある。 普通の人間が時速七十キロを超える車の後ろについて走れるわけがない。 であれば、それは彼らが知る中では魔導師しかありえなかった。 ただ、その魔導師は空を飛んでいるわけではない。 道路に両足をつけ、物凄い速度で回転する車輪のついた靴でもって追いかけているだけだ。

 その靴は管理局が近年取り入れた制式装備のデバイス『ローラーブーツ』。 特殊な戦闘スタイルの陸戦魔導師用に開発されたデバイスである。 高速で移動できるそのデバイスを足に装着し、両腕のグローブ型アームドデバイスで格闘戦を行うそれは、突撃強襲格闘術<シューティングアーツ>と呼ばれ現在では少しずつその使い手を増やしている新しい魔導師の戦闘スタイルであった。 特に、その機動力と突撃力には目を見張るものがあり、飛べない魔導師の足として広まりつつある。 

「はっ逃がすかよ。 地獄の果てまで追いかけてやるぜ」

 高速道路を猛スピードでつっきる車。 その中には、最近自分がローラースケートを教授しているチビッコがいるのだ。 普通の陸戦魔導師にはできないほどの高スピードでその魔導師は風を切る。 少しずつギアをあげて、車への距離を徐々に縮めていく。 後ろから同業者やパトカーのサイレンが煩いBGMとなっているが、そんなことは気にしない。 例え部署が違おうとも、目の前で起こった犯罪を見逃すほど青年は人間ができてはいない。

「それにしても、どこまで逃げる気だ? とっとと観念しやがれっての」

 アスファルトを削るようにしながら、青年は速度を上げる。 その速度、すでに普通のローラーブーツの速度限界ギリギリだ。 少なくとも、ここまでの速度を出せる魔導師は通常いない。 というよりも、存在しないといったほうがいい。 これは、彼だからこそできる荒業だ。 

 陸課特殊犯罪捜査部所属陸戦魔導師ヒューイ・カウンタック。 ローラーブーツの開発実験の被験者となり、ローラーブーツの完成に一役買った人物である。 少なくとも、今現在彼を超える程習熟している魔導師はいない。 そして同時に、彼ほどローラーブーツの速度に拘った人間もいない。 魔導師は普通の人間を大幅に超える耐久力と肉体的強度を魔法によって得ることができる。 そんな存在に、普通の人間の安全基準など適応されるわけがない。 そして、彼のデバイスもまたテストを終えたものの、スピードの限界を探るためにカスタマイズされた最速モデル。 彼に追いつけないものはこの陸では存在しないのだ。 

 空戦魔導師が戦慄しそうなほどの高速で走るヒューイ。 留まることを知らないその速度は、既に車に並ぼうというところまできていた。

「――くそ、もう追いつかれたぞ!?」

「だが、向こうには止める手段なんかあるかよ!! こっちには人質がいるんだぞ!!」

 車の中で喚き立つ犯人二人は、後ろで簀巻きにされている少年だけが頼りだった。 生活苦に陥り、身代金目当てに誘拐をしたまでは良かったのだが、偶然その瞬間を子供の知り合いのヒューイに見つかった。 それが運のつきだ。 デバイスを展開して子供を解放するように迫ってきた男に、二人は戦々恐々した。 

「しっかし、こいつらどうやって止めるか……」

 ヒューイには逃がすつもりは全く無い。 だが、どうやって止めるかが問題だった。 どうやっても力づくになるため、人質の安全が守れそうにない。 ちっ、と舌打ちしながら同業者で念話で確認を取る。 先の道さえ先回りして塞いでしまえば、止まらざるを得ない。 今頃別働隊が道を塞いでいるころだろうから、その確認をするつもりだった。 だが、返ってきた言葉は予想外だった。

「ああ? 人手が足りない? 寝言言ってんしゃねぇぞ!?」

 寝耳に水であった。 後ろからアレだけ追い回してきているくせにどういうことだ? 苛立ちが募っていく。 悪態をつくヒューイに、念話に応じた同業者がおっかなびっくり説明する。

 なんでも、現在別の場所で大物次元犯罪者を狙った大規模な検問をやっているらしく、それにかなりの人員が裂かれているとのことだった。

「こんなときにまぁ、あいつも運がねぇな」
 
 ボヤきながら、しかしならばと方法を模索する。 何もしないで、このままというのはありえない。 遠からず目の前の犯人は事故を起こす。 運転手も彼に散々追い回されて集中力を欠いてきた頃だろう。 今はまだいいが、そうなれば中にいる人質が危険だ。

「屑が死ぬだけなら良いが、善良な市民が巻き込まれるのはムカつくからなぁ……しょうがない、少し怖い目にあわせるが我慢してもらうか」

 ため息をつきながら、さらに速度を上げつつ一つの魔法を詠唱。 その瞬間、彼の足元に発生する紅い三角の魔法陣。 その真ん中に輝くはベルカを象徴する剣十字。

「――鋼の軛!!」

 瞬間、車の下から吹き上がる魔力の杭。 アスファルトを砕きながら現れた無数のそれは車の車内スペースに二つ突き刺さり、車を一瞬で持ち上げ串刺しにする。 回転するタイヤが空しく回るが、ただ空気を切ることしかできない。 カーチェイスの終幕としてはあっけない終りかただった。

「ま、こんなもんかな」

 追い越し、ローラーブーツにブレーキをかけながら回転するように身体の向きを返るとヒューイは車の法へと近づいていく。 その後ろでは、ようやく追いついたパトカーや同業者が急いで車を取り囲んでいった。 ヒューイはその中をズカズカと進むと、串刺しにされた車の運転席に向かう。

「ホールドアップって奴だな。 諦めて出て来い。 それとも、非殺傷設定の魔法でぶっ飛ばされたいか? 今の俺は機嫌悪いからよ、ミッドチルダの双子月あたりまでかっ飛ばしてやるぞ」

 凄みながら、呆然としている誘拐犯に語りかける。 犯人は何が起こっているか分かっていない様子だ。 ちなみに、子供を人質にしようとも丁度都合よく前の座席と後部座席の間に杭が刺さっているため手出しのしようが無い。

「あん? もしかしてお前ら、目を開けたまま気絶してやがるのか?」

 些か呆れながら、ヒューイは馬鹿二人を無視してそのまま後部座席に向かい、窓ガラスをぶち割ってドアのロックを開けると簀巻きにされた少年を抱き上げた。 軽く見たところ特に怪我をしているという様子も無い。 こういうところでは運があるんだなと、少し安堵しながら話しかける。

「まったく、お前も運が悪い奴だな。 俺がいなきゃもうちょっとカーチェイスを楽しんでたところだぜ?」 

 よほど怖かったのか、少年の目は涙でくしゃくしゃに汚れている。 ヒューイはガムテープでグルグル巻きにされている子供のそれを解いてやると、駆け寄ってきた警官とともに事後処理のためについていく。 その間、少年は片時もヒューイの服を離さなかった。 

「おい、大丈夫かザース?」

「……うん」

「そうか、ならいい。 少し待ってろよ、お前の両親のところに超特急で連れてってやる」

 ヒューイはできるだけ速く状況説明をし、詳しいことは後日ということにすると航空管制へと連絡を入れる。 本当に最速で両親の所へと連れて行ってやろうと思ったからだった。

「ああん? 非常事態じゃないから駄目だと? こちとら被害者を急いで保護者のところへ連れてってやらないといけないんだよ。 少しぐらい大目に見やがれ。 ……ああ、問題が出たら俺の所へ直接回してくれてもかまわねぇよ。 人情の無い組織にいつまでもいる気はないからな」

 お役所の固さに辟易しつつ、強引に話をつけるとヒューイはザースの前に座って背中を見せる。

「ほら、乗れよ。 両親のとこ連れてってやる。 さっきの怖さなんか吹き飛ぶ最高の道を通ってな」

 ザースをその背に背負うと、ヒューイはウイングロードの魔法を展開する。 一条に伸びていく紅い道。 その上を、ローラーブーツを装着したヒューイが走る。

「すごいや……さすがヒューイ叔父さん!!」
 
「お兄さんだ」 

 訂正しながら、ミッドチルダの空を駆けるヒューイ。 このときの風を、光景を少年は心に焼き付けた。 先ほどまでの恐怖など、とうになくなっていた。 そして、自分を助けてくれた知り合いに得も知れない憧れを抱いたのだった。 もし、自分も魔導師になれるのなら、同じ道を走りたい。 同じようなローラーブーツで、一緒にまたこの空を走ってみたい。 少年の一つの夢が生まれた瞬間であった。









 空は広い。 ウィングロードで走る空はどこまでも続きそうで、それでいて雄大。 全身を撫でていく風は早朝ということもあってか嫌に清清しく思える。 だが、それとは裏腹にザース・リャクトンの胸のうちは暗かった。 何か、よく分からないものに後ろから迫られてきているようなそんな不快な感触があるのだ。  それは、例えるなら背面にべったりと張り付いていた後続のランナーに戦々恐々する走者の姿だった。 

「くそ、なんだってんだ?」

 苛立ちを吐き捨てながら、模擬戦場の上空にシュプールを描く。 ウィングロードの茶色い軌跡が、空に縦横無尽に線を引いた。 陸戦魔導師としてはやや変則気味なその魔法は、ミッドチルダが生み出した新しいスタイルの力を最大限引き出すためのものであるが、その速度は低ランクの空戦魔導師に匹敵するほどに早い。 慣れた人間なら高ランク魔導師の移動速度にも匹敵するスピードが出せるため、今のところかなりの可能性を秘めた新しいスタイルとして陸戦魔導師からは注目を浴びている。

 とはいえ、あまりに変則的なために少し敷居が高い。 特に、ローラーブーツの使用にはある程度の習熟が必要であり、途中からそれを覚えるのには少しばかり難があった。 だが、元々ローラースケート経験者のような靴の下にある車輪に対する慣れがあった人間にとっては、さほど難しいというものではないので、そういったモノに興味があった人間や愛好者たちからは広く愛用され始めている。

 自作デバイスのパーツも出揃っており、民間にも出回ってある程度認知された今それは手に入れること事態はさほど難しいものでもない。 ザースが履いているブーツは最近のパーツで作られた自作デバイスではなかったが、子供の頃から愛用してきた愛着のあるものだった。 大切にしてきたからこそ特に目立った故障などせずに今まで仲良くやってきている。 尊敬する叔父からのプレゼントだったこともあり、ザースにとっては宝物兼相棒であった。

「――どこまでも、どんな場所でも速く走れるようになりたかった……か」

 叔父が苦笑しながら話していた言葉。 その言葉が叔父の目指した魔導師としての在り方である。 圧倒的な速度を追及しそれを使用する場所を選ばない。 俊足で相手に詰め寄り、速攻で無力化を測るのにそれはうってつけの力だった。 そして、それを無理を言って習ってきたザースはそのおかげでクラスでも上位に数えられるほどの優秀な魔導師として見られている。 事実、彼はクラスの連中と自分を比べたとき、叶わないと思った人間は少ない。 自他共にクラスでは実力者としてあったのだ。 だが、最近その考えにはヒビが入ってきていた。 自分自身誇れるものであった自信を、少し失いかけてきていたのだ。 

「ハラオウン……そして、クライド……か」

 才能の塊のような年下の少女。 そして、決して弱くは無いがそれほど強いと思わせるほどでもなかった面倒くさがりやの友人が見せた奇跡。 それが、ザースの自信を揺るがしていた。

 自分が思うほど、自分は大したことはないのではないか? 今まで考えもしなかったその考えは、訓練を積めば積むほど自分の心をかき乱してくる。 何かに焦るように早朝の訓練を始めたものの、果たしてそれにどれほどの効果があるのか? 答えは出そうに無かった。

 真面目に訓練し、全力で走ってきたつもりだった。 だというのに、どこか届かないと思ってしまうのは自分が本当は弱かったからなのか。 
 
 ローラーブーツが、主の不安をかき消そうと轟音を上げながら唸りを挙げる。 だが、いつもは頼もしいそのサウンドが、少しばかり頼りない。 今のザースにはその轟きは空しいものにしか思えない。

 だが、それでもブーツは加速する。 凹んだ主の命令を忠実に聞きながら己の機能を全て吐き出し続けていく。 訓練生の誰もが出せないようなその圧倒的な加速力は、すでに訓練生レベルを大きく逸脱していた。 自作の簡易デバイスが、今までそれに応え続けてきたのは一重に彼の実力に応えてきたからだったが、今はまだ彼はそのことに気がついていなかった。

「もっとだ、もっと速くだ!! もっと強く走れるはずだ!!」

 自信を喪失したランナーが、簡易デバイスを限界ギリギリまで酷使していく。 その様は、まるで前を走る誰かの背中を必死で追いかけ続ける後続者のようだった。 








「ん……こんなもんだな」

「直ったかクライド!?」

「ああ、単純に配線がいくつか切れてただけだ。 それ以外は問題なさそうだぞ」

 分解していたローラーブーツを組み立て終えたクライドがザースに言う。 と、少し落ち着いたらしくザースは大きく息を吐いて安堵のため息をついた。 よほど、そのデバイスに愛着があるのだろう。

「そこまで心配されたら、このデバイスも冥利に尽きるだろうよ」

「はは、助かったぜ。 こいつとは長い付き合いだからな。 簡単な手入れぐらいならできるんだが、それ以上となると俺には分からないから困ってたんだ」

「まぁなぁ……自作組のデバイスは支給品組と違って故障したら直してもらえないから不便だよな」

「ああ、フレスタなんかが羨ましいぜ。 頼んだらすぐに修理してもらえるし、代えの奴を用意してもらえるからな」

 基本的に訓練学校では訓練用の簡易デバイスを用意してくれるのだが、それはあくまで訓練用なためにオーソドックスなタイプの杖型デバイスしかない。 管理局員の関係者や、元々手に入れていない限り杖以外となると自作するしか無いのである。

「俺からすればリンディが羨ましい。 あいつのデバイス、本物のオーダーメイドだからな。 管理局員のその道のプロが仕上げてるんだぜ? 素材から何から特注品で訓練学校の授業ぐらいじゃあ何やっても故障なんてしないだろ」

「はは、違いない」

「まあその分何かあったときに嘱託として呼ばれるんだろうけどよ」

 九歳で既に嘱託魔導師。 ハラオウン家の英才教育には頭が下がるような気がした。

「しっかし、どうしてまた急に壊れたんだ? 無理に酷使するような訓練なんかは最近なかったと思うんだが……この前のタイムアタックか?」

「いや、最近ちょっと思うところがあってな。 早朝訓練を始めたんだが、多分それが原因じゃないかと思う」

「へぇぇ……早朝訓練ねぇ……」

 クライドは深く聞こうとはしなかった。 興味が無いわけではないが、あまり踏み込むのはめんどくさいと感じたからだ。 だが、クライドが別の話を持ち出す前にザースが口を開く。

「もしかしたら、少し焦ってるのかもしれねぇ……情けない話だけどよ」  

「焦っている?」

「ああ、そうだ。 俺は焦ってるんだ……いきなり現れたリンディや今まで意識もしなかったお前の強さを知ったときからな」
 
 自分自身の心のうちを反芻しながら、ザースはクライドが修理したローラーブーツを待機状態に戻す。 どこか精彩を欠いたその顔は、いつものザースらしくなかった。

「随分唐突だな……それに俺のことを意識されてもな……リンディならまあ分からんでもないけど」

 あの才能は、無いものにとっては憧憬の的だ。 同じ魔導師なら大抵憧れを抱くだろう。 そして、クライド自身は自分のことをそこまで買っていないために、過大評価のようなその言葉に戸惑いを覚えるしかなかった。

「自分で言うのもアレだけどよ、俺は今まで自分の力はクラスの中でも結構上のほうだと思ってたんだ。Bランクを取ってる奴はまだ少ないしな」

「いや、お前はクラスでもダントツで強いんだが」

「――だが、そんな俺でもリンディとお前には勝てる気がしない」

 少し、難しい話になってきた。 そもそもクライドの強さはベクトルが少しズレている。 純粋な魔導師としての自分の力量はクライドはザースとそう大差ないと思っている。 ただ、クライドはまともには絶対に戦わない。 そして、彼は自分を高めるよりも自分を生かす方法を考えて常にいる。 だからこそ自分に合う魔法やデバイス、それを含めた戦術を考えるほうが好きなのである。 ザースのように高みを目指しながら修錬する普通の魔導師とは微妙に方向性が違う。 それは、目指すものの差から来る相違であった。

「なぁ、ザース。 その……なんていえば良いのか分からないんだがお前少し考え違いをしてないか?」

「ああん?」

「もしかして、俺が”魔導師”として強いって勘違いしてないか?」

「……俺より強いだろ?」

 何を今更、そういう目でザースはクライドを見る。

「戦ったら勝つかどうかはこのさい置いておくぞ? というより、意味がない」

「どういうことだ?」

「俺はぶっちゃければ魔導師としてそれほど強いわけじゃないんだ。 お前が焦るほど強くない。 それに、リンディの強さと俺の強さはベクトルが違う。 そこを間違えてるぞ多分」

 リンディの強さは純粋な才能に準拠した強さだ。 今の段階では、それが真理だった。 ではクライドの強さは? 魔力量そのものは対してザースと差が大きく離れているわけでは無いし強力な魔法を使えるわけでもない。 確かにリーゼロッテやリーゼアリアといった師匠たちに幼少時から戦い方を仕込まれているがそれだってザースを大きく上回るほど際立っているというわけではないのだ。

 例えばザースのシューティングアーツだ。 それはまだ普通の魔導師に広く認知されているスタイルではない。 にもかかわらず、ザースはそれを当たり前のように扱えるだけ訓練してきている。 それはザースにもクライドのように立派な師匠がついていたということであり、そこに求められた強さがしっかりと身についている証明でもある。 

「そうだな……例えばフレスタはどうだ? あいつをお前は強いと思うか?」

「……いい腕だとは思うが戦って負けるとは思わないぞ」

「ふむ、それはどうしてだ? あいつはクラスの中でも腕の立つスナイパーだぞ?」

「そうか? シールド張りながら一気に近づいて接近戦に持ち込めば負けるとは思えないんだが……」

「それはお前が高速突撃のスタイルだからいえることだ。 普通の陸戦魔導師なら距離をとられたときにはあいつの狙撃力に苦労するんだ。 断言してもいい。 フレスタは強い。 じゃあ、リンディはどう思う?」

「言わずとも分かるだろ? 今は出力リミッターつけられて弱くなってはいるが、それでもあの魔力量だ。 俺らよりずっと強力な魔法で攻めてくるじゃないか」

「リンディが強いのは当たり前だ。 元々の素養もあるし、俺たちが覚えてないような高度な魔法を沢山持ってるからな。 今でこそ俺みたいなのに打倒されるぐらいだが、そのうち太刀打ちできないぐらい強い魔導師になる。 まあ、これは言わなくても分かりきったことだな。 じゃあ、俺のどこが強い? 俺の魔力量はお前と大差ないぐらいしかないぞ? 攻撃範囲だってフレスタより狭いしリンディみたいな強力な魔法を覚えてるってわけじゃない」

「……」

 咄嗟に、ザースは言葉に詰まった。 秀でたものは確かにある。 空だってクライドは飛べる。 だが、それは決定的なクライドの強さだっただろうか? 長くコンビを組んだりしてきた模擬戦やともに回った訓練コースでのクライドの戦い方や魔法を思い出してみる。 その一つ一つは、それほど突出しているという風には思えなかった。 では、クライドはどこが強い?

「どうだ、どこが強い?」

 咄嗟に言葉にできなかったザースに、クライドは重ねて問う。 だが、ザースはそのまま答えようとして答えることができなかった。 咄嗟に言葉にできるものがなかったからだ。 

「多分、それがお前の勘違いの答えだよ。 俺は別にお前が焦るほど強いというわけじゃない。 強いて言えば、戦い方が嫌らしいだけだ。 ただ、それだけだよ」

「……じゃあ、どうしてリンディを倒せたんだ? 言っちゃあなんだが、強くないんならお前がリンディを倒せたこと自体が可笑しいことだろ。 というより、それが一番の強さの証明じゃあないか?」

「それは俺が色々と工夫しているからだよザース。 お前があのときリンディを叩き落すためにスターダストフォールで自分を加速させたのと同じさ。 普通にやるだけじゃあ駄目だから、工夫したものをたたきつけた。 それは、純粋な強さじゃあないだろう。 あんなのは小細工だ。 才能が無い奴の悪あがきだよ」

「――才能の無い人間の悪あがき?」

「別に、強い奴が必ずしも勝つというわけじゃない。 リンディだって俺たち三人に倒されたんだ。 相手を打倒する方法を持っていれば誰だって強さに関係なく勝てる。 まあ、問題はその手段を作っておく必要があるってことだが、俺はそういう小細工を考えるのが好きだからな。 だから、そういう手段を持ってる俺にお前は勘違いをしているのさ」

「むう……なんか納得いかないぞ? 結局、お前が強いのか弱いのはよく分からないじゃねぇかそれだとよ」

「と、言われてもな……」

 憮然とした表情のザースに苦笑しながらクライドは続ける。

「結論からいえば、俺の強さ事態はお前と早々変わらないってことだ。 ただ違うのは、俺は格上のリンディを倒す方法をいくつか持っている。 ただ、それだけのこと。 もし、お前がリンディを倒す方法を編み出したら、お前の今の考えなんて消えるだろうよ。 さて、そろそろいつもの時間だぞ。 どうせ今日もザフィーラと戦うんだろ?」

「ん、ああ――」

 そこまで言って、クライドは立ち上がるとザースを促して自室から出た。 今日もまた、翡翠の妖精の相手をしなければならない。 面倒くさくはあるが、約束したからには付き合うしかクライドには選択肢が無い。 ついでに、少ない友人のために一肌脱ぐことにしよう。 人付き合いが良いとはいえないクライドからすれば、それは珍しい考えだった。 











 どこにでも、変な奴はいる。 それはどちらかといえば年齢が上がっていけば上がっていくほど多くなり、ある程度までいけば落ち着いて後は軒並み消え去っていく。 それが若さによる一時的な人間の多様性が招いた悲劇といえばそれまでなのだが、とかくいるのだ。 そういう奴が世の中には。


「――さぁ、遠慮することはないそんな低ランク保持者と一緒に訓練するよりも僕と訓練しないかい?」

「いえ、私はクライドさんたちと訓練すると決めてますので……」

「クライド? ああ、あの君を打倒せしめたとか嘯いている輩ですか? ふふ、そんな嘘に僕はだまされませんよ。 あんなの噂でしょう? なにせ貴方はあの名門ハラオウンのお嬢様だ。 そんな奴に負けるはずがあろうか……いやない(反語)」

 どこか人を小馬鹿にしたような、そんな男だった。 リンディは心の中で辟易しながら、自分に構ってこようとするその男をやんわりと拒絶するが、それでも男は引き下がらない。 かれこれ十分は延々と彼女を誘っているだろうか。 その粘り強さには些か感心させられるものがあったものの、しかし彼の言葉に従うほど彼はリンディの興味を引くことはできなかった。

「僕は三回生だけどね、もう実は陸戦Aランクを所持しているのだよ。 勿論、空も飛べるさ。 君をエスコートするぐらいわけも無いよ。 そのクライドとやらにはできないだろう? さあ、僕と一緒に魔法を極めてみないかい?」

 無意味にウィンクまで飛ばしてくるその男。 既にやる気満々なのか、妙にカラフルなバリアジャケットに身を包んでいる。 あえて形容すれば虹色だろうか? 様々な色のライン模様のジャケットが、虹色の縦縞を演出。 シャツは横縞でズボンはやはり縦縞で両方ともやはり虹色。 派手で派手で仕方ないそのセンスは、常人の斜め後ろをかっ飛んでいる。 顔はそこそこ整っており、長身であるといえるだろう。 少なくともクライドやザースより少し高い。 普通にしていればモテそうな感じであったが、如何せん中身が濃すぎた。 無論、リンディの守備範囲の男では断じてない。

「いえ、やっぱり遠慮しておきます」

「ホゥワーイ? 何故だい? この僕がここまでお願いしているというのに、奥ゆかしい人だね君は。 ますます気に入ったゼ」

 何が”ゼ”なのだろうか? リンディにはその男が自分と本気で会話しているようには見えない。 というより、いい加減諦めて欲しいと思っていた。 いつもなら彼のような人間はフレスタが追い払ってくれるのだが、今はデバイスのメンテナンスがあるとかで席を外していた。 そういうときに限って変な奴や興味本位で接してくる人間が多いことは、リンディにとって頭が痛い問題である。 別に、自分に興味を持つのは構わないが、どうしてこう変わった人間かハラオウンの名目当ての人間ばかりなのだろうか? それ以外の大人しくて真面目そうな人間が寄ってこないのは何故なのか? 現実逃避しながらリンディはそう考える。 だが、考えても答えが出ないままクライドたちが来るまで粘られてしまった。

「……なにやってんだハラオウン?」

「ナンパされてるみたいだな。 俺たち邪魔なら席を外そうか?」

 呆れたように声を出したザース。 だがクライドは笑いながら距離をとろうとした。 そろそろ一月は経つものの、未だにこういう輩がいた。 自分のクラスの人間はそんなことはもうないのだが、それ以外のクラスからは極稀にこういう人間がいる。

「あ、クライドさんザースさん遅いですよ」

 少し、ホッとした様子だった。 だが、ジト目でクライドに抗議することは忘れない。 冗談ではないとその表情が語っている。

「悪いな、ちょっとデバイスの調子が悪くて様子みて貰ってたんだ。 もう大丈夫だから扱き使ってやってく――「なんだね君たちは? この僕と彼女のアバンチュールを邪魔するというのかい? 下級生の癖に生意気な!!」」

 ザースが最後まで言う前に、虹男が会話に割って入る。 些か気分を害したようで、眉がピクピクと動かす。 なんていうか、酷く分かりやすい反応である。

「こりゃまた随分な奴に求婚されてるなハラオウン?」

「ええ、先ほどからずっと。 どうにかしてくれませんか?」

「いや、こりゃ無理だろ。 こういうのは力づくで追い払わないとしつこいぞ?」

 クライドが心底同情するとばかりに言う。

「シャラップだ!! 彼女とはこの僕が訓練をしよう。 君たちより遥かに優秀なこの僕こそ、彼女の相手に相応しい!! さあ、いきましょうリンディさん。 この僕が手取り足取り優しく教えてあげますよ」

 ズズィっとリンディに詰め寄り、その腕を取ろうとする虹男。 だが、リンディは近くにいたザースの後ろに逃げるように動いた。 必然、ザースはその男の矢面に立つことになる。

「む、なんだね君は? はっ!? まさか君が件のクライドとかいう男か!?」

「いや、俺は――「そうだ、そいつが”クライド・エイヤル”だ。 そこのリンディを落した男だよ」って、おいてめぇ!?」

 人違いだと否定しようとするザースだったが、何のつもりかクライドがそれを遮る。 ニヤリと笑うクライドからは、何かを企んでいる様子がひしひしと感じられる。 ザースは必然的に嫌な予感がした。

「ふん、やはりな。 であれば、いいだろう!! そのような噂、この僕が嘘だったと証明してやろうではないか。 僕と勝負しろクライド・エイヤル!! 僕が勝てばその噂を嘘であったと公表し、今後一切リンディさんに近づくのをやめてもらおうか!! 彼女は僕にこそ相応しい妖精なのだ!!」

(……いつから私はあの人の妖精になったんでしょうか?)

(さぁな)

(それより、あんなこと言ってるがどうすんだ? まさか、戦うのかアレと?)

(まあ、力づくで追い払うのがこういうときは一番だろ)


 念話で語りながら、とりあえずの方針を固めるとクライドが口を開く。

「よし分かった。 ならリンディを賭けての勝負を受けよう。 ただし、こちらが勝ったらそちらは二度とリンディには近づくなよ」

「ふむ、このAランク所持者の僕が負けるなどありえない。 良いだろう、その条件を飲もう。 ついでにハンデを上げよう。 後輩諸君、君たち二人で掛かってきたまえ」

「それはありがたいね。 とはいえ、それだとアレだから一人ずつでいいさ。 勿論、初めに戦うのはこの”クライド・エイヤル”だ」

 クライドはそういうと、ザースを指差して前に突き出す。 何か言いたそうなザースだったが、諦めて前に出ることにする。 どちらにしても、この目の前のわけの分からない男の好きにさせる気はなかったからだ。
 Aランク所持者だと自称はしているものの、本当にそうなのか疑わしい。 何より、そんなに強そうには見えないのだ。

 グローブ型のデバイスと先ほど修理してもらったローラーブーツを装着する。 デバイスに感応し、特に問題がないことを確認すると胡散臭い男の方へ向かっていった。

「ふふ、やる気十分といったところだね。 だが、その思い上がりを修正してやろう!!」

 虹男がデバイスを展開する。 オーソドックスなそれはこの学校の大半の生徒が使用している杖型の簡易デバイスだ。 どんな派手なものを持ち出してくるかと少し期待したクライドは、それを見て少しがっかりした。 

「……デバイスだけは普通だな」

「ええ、デバイスだけは普通ですね」

 距離をとるようにしながら、巻き込まれないような位置まで下がると木を背にしてクライドはぼんやりと観察することにする。 ランクA所持者というのが本当かどうかは知らないが、普通は訓練生如きなら大した差は無い。 それに、ザースは陸戦B所持者である。 低ランク同士なら大したランク差ではないし、その程度なら容易に倒すことはできるだろう。 三回生ということで経験は多そうだが、ザースだとてシューティングアーツを身に着けるほど訓練しているはずだし、油断しない限りは早々と負けることはないだろう。 それに、例えザースが負けたとしてもその”敗因”を踏まえてクライドは倒せるように戦う。 別段気にするほどのものではないのだった。

「さて、始めようか”クライド・エイヤル”!! 僕の勝利に君の敗北という花を咲かせてあげよう」

「……どうでもいいけど、さっさと始めようぜ。 この後は犬っころと勝負が控えているんでね」

 クライドと一緒に避難しているザフィーラに視線を向けながら、ザースはウォーミングアップもかねて体を解すことにする。 別段今更自分より上のランク持ちに臆する気はザースには無い。 リンディという格上過ぎる相手が身近にいるのだ。 一ランク上程度に今更尻込みすることはなかった。 

「では、いくぞ!!」

 魔法を展開する虹男。 その攻撃魔法を合図に、ザースはローラーブーツの車輪を回転させながら虹男に向かって突っ込んでいく。 

「食らいたまえ、レインボー・シューター!!」

 七色に光る魔力弾が七つ、ザースに向かって放たれる。 ザースは、しかしそれを見ても大したアクションは取らない。 特に気にすることなく左手を掲げシールドを展開しながら一直線に虹男を目指す。  次の瞬間、シールドに着弾した魔力弾。 だが、その程度ではザースのシールドを破れなかった。

「む、小癪な!?」

 シューティングアーツとは、簡単に言えばローラーブーツを使い高速で相手との距離をつめ、強力な打撃でもって相手を倒すことを念願に置いている戦闘スタイルである。 その過程で、どうしても動きが直線的になりやすいため、使い手がまず鍛えるのがシールド系の魔法である。 まず、近づく。 そして、近づいたときに一気に決めるのが最善だとされている。 それは基本であり、ザースが習った戦闘方法も基本的にはそれを主眼に置いている。 そのため、同格かそれに近い場合は訓練学校レベルでは相手の攻撃はそう大したことがなかった。 特に、ある程度魔力を溜めてから攻撃するのならともかく抜き打ち気味に放たれた程度の攻撃など気にする必要などない。

「らぁっ!!」

「ぬぅわんとぉ!?」

 弾幕を突っ切って距離を詰めたザースが、右腕をたたきつける。 咄嗟にシールドを展開した虹男だったが、しかしその重厚な一撃は彼の身体を大きく後方まで吹き飛ばす。 ローラーブーツの加速力とザース自身の腕力、そして魔力を込められたその一撃はかなりの威力を誇っており、虹男の予想を大きく上回っていた。 受け止めることが出来ずに地面を転がる虹男。 その姿に、ザースは少し拍子抜けした気分だった。 

「……本当にAランク持ちなのか?」

 いまいちな手応えに、首を傾げる。 だが、これではっきりした。 今のシールドの感触からして、大した防御力を持っていない。

「なんという馬鹿力だ。 この私をここまで吹き飛ばすとは。 く、我が妖精の前でこのような醜態をさらしてしまうことになるとは……こうなれば本気で行かせて貰おう!!」

 起き上がりつつそういうと、虹男が飛行魔法を使用する。 そうして、空中に上がるとザースに次々と砲撃魔法を繰り出し始めた。  今度は、先ほどとは違い強力な魔法を次々と降らせてくる。 ザースはそれを確認するやいなや回避行動を取った。 空と地上。 普通に考えれば空を取った人間が圧倒的に有利である。 だが、そんなセオリーは普通の戦闘スタイルの陸戦魔導師にしか通用しない。

 ローラーブーツの機動力で魔法を避けながらザースはウイングロードを展開する。 ザースの茶色い魔力光が虚空に道を作り上げ、その道をザースがかっ飛ばしていく。 その先にいるのは、空中からザースを狙い打つ虹男である。

「くそ!? ウイングロードだとぉぉ!?」 

 虹男は飛べないと思っていたザースが空へと上がってきたことに驚いたのか、さらに焦ったように魔法を放つ。 誘導弾から直接射撃系まで幾度と無く放たれる。 だが、ザースは高速で移動しながら誘導弾は両腕で弾き飛ばし、直接射撃魔法はその速度で全て回避してしまう。 高速で移動するものとの戦闘経験が足りないのか、その姿はとてもワンランク上のランク保持者の行動とは思えなかった。 

「これで、終わりだ!!」

 ザースの眼前のウイングロードに、環状魔法陣が展開される。 それはいつぞやリンディを地上に叩き落とすために使用したスターダストフォールの魔法だ。 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで加速したザースはシールドを張って防御することさえ出来なかった虹男のバリアジャケットを容易くぶち抜き、魔力ダメージで昏倒させた。

 さすがにバリアジャケットを失ったまま墜落させては大怪我をするので、ウイングロードを虹男の下へと生み出し落下を防ぐとつまらなそうに言った。

「次からは飛ぶ勉強をするよりもシューティングアーツって奴の勉強もしておくんだな、自称Aランクの先輩」

 その皮肉な嫌味は、しかし気絶している虹男が耳にすることはなかった。 









 適当に虹男をその辺りの地面に放置して、ザースはリンディたちの下へと戻ってきた。 目を覚ましたときに近くにいれば鬱陶しいことになりそうだったからそうしたのであるが、その判断に二人が異を唱えることは無かった。

「で、あの自称Aランクの先輩はどうしてまたハラオウンに声かけてたんだ? まさか、本当にハラオウンを口説こうとしてたわけじゃないだろう?」

「リンディの家のコネでも欲しかったんじゃないか? まあ、そういうのを狙うんなら今のリンディはうってつけだろうからなぁ」

 ハラオウン――特にその祖父はかなり古くから管理局に勤めているしかなりの権力を有している。 伝説の三提督とのパイプもあるし、何よりも強力な魔導師の家柄である。 管理局を目指す人間にとってそういう人間との繋がりを得られるということは大きな強みとなることは間違いなかった。

「ちょっと困るんですけどね……」

 そういうのには辟易しているのだろう。 リンディは苦笑いを浮かべることしかできない。

「ま、あの爺さんや両親がそれほど優秀だからってことで納得しておけば良いんじゃないか? そういうのは無くても良いが、あっても困るもんでもない」

「それは変な虫がよってこない場合の話です」 

「はは、違いない」

 憤慨するリンディが可愛く抗議するが、クライドはさして気にしない。 ザースも、別にそういうのに魅力を感じなかったが、ああいうのに付きまとわれることに同情の視線を送った。

「だが、本当にアレでAランク保持者なのか? やっぱ嘘だよな?」

「そうだな……Aランク試験までは確かコンビでの試験だっただろう? だから組んだ相手が優秀だったとかじゃないか? 或いは、完全な嘘か。 興味は無いけど、ちょっと力量不足な感は否めないな」

 嘘が本当か微妙なラインであった。

「さて、これで”クライド・エイヤル”がそこそこ強いってことが証明されたわけだが……どうする”クライド”? 本当に強いのか試してみるか?」

「あん? 何を言って――」

「”クライド・エイヤル”、リンディ・ハラオウンとの今日の訓練をかけてこの”ザース・リャクトン”と勝負しろ」

 ニヤリ、と唇を吊り上げながらクライドはザースにそういうと距離を取るべく下がっていく。

「おいおい、どういうつもりだ?」

 あんな微妙な奴が相手では、ザースは自分がどれほど強いのか図りかねるだろう。 そして、このまま悶々考え込むのは彼にとってのマイナスにしかならない。 クライドはそう判断したので、悪ふざけのように模擬戦を申し込んだのだった。 

「えと、つまりはどういうことですか?」

 いまいち状況を判断できなかったリンディは、いつにないクライドの様子に首を傾げる。 ザースも少し困惑していた様子だった。

「簡単にいえばリンディは賞品。 俺はザースで挑戦者。 どうだ、分かりやすいだろう?」

「あー、つまり俺に勝者だから挑戦を受けろと?」

「そういうことだ。 今回は強さを測るんだから俺は小細工は使わない。 純粋な力を見せてやるよ」

 何がそういうことかさっぱり分からなかったが、ザースはその案に乗ることにした。 そういえば、彼と戦うのは初めてだった。 いつもいつも、やる気の無い男がこうして挑戦してきている。 先ほどの戦闘の不完全燃焼さもあってか、それは少なからずザースの心を刺激していた。 相手がクライドなら、模擬戦相手に不服はない。 それどころか、胸に燻っている蟠りを晴らすチャンスでもあるのだ。

「よっしゃ、じゃあやろうぜ”ザース”。 この”クライド”が相手だ」

「そうこなくっちゃな。 安心していいぜ、少なくとも退屈はさせないさ」

 シールドナックルを両腕に纏わせながらクライドが戦闘態勢に入り、ザースもまたそれに応じるように構えを取った。

「……駄目ですね。 さっぱり状況が分かりません。 ザフィーラは分かりますか?」

 その場に流れから完全に置き去りにされているリンディは、腕に抱き上げていた子狼に尋ねる。 だが返ってきた答えはやはりリンディには理解できないものだった。

「男同士のコミュニケーションという奴だ。 ふ、これが若さか」

 事情を察しているらしいザフィーラのその言葉に、リンディはさらに困惑した。


 








 小細工は使わない。 それは、真正面から戦うということ。 まともに戦うということを選択したがらないクライドからすれば、普通ならありえない選択肢である。 だが、こういうのも偶には良い。 奇策でしか戦えないのでは魔導師としての自分は、成長していないことになる。

 両腕で回転するシールドナックル。 いつも慣れ親しんだ魔法。 それが本当にどれほどの力を持っているのか純粋に試したのはいつ以来か。 あの双子の使い魔と戦っていくうちにクライドは自分の力の限界に気づいていた。 だから、勝てるような方法を模索してきたのだ。 それがいくつか編み出した小細工であり、格上を打倒するための方法。 だが、それは魔導師としての強さとは少し違う。 戦闘者としての狡猾さである。 そんなものはまともな力であるわけがない。 少なくとも、クライドはそう思っていた。

「はぁぁぁ!!」

 先手を取るのはクライドだった。 柄にも無く、高速移動魔法で真正面からザースに向かって突っ込んでいく。 振り上げる右腕、それに衝突するはザースの左腕。 格闘を純粋に鍛えてきたザースのその拳が、クライドの腕を大きく外側に弾く。 少し体勢を崩したクライドに、ザースの豪腕が唸りをあげて疾駆する。 だが、クライドはそれに動じない。 極小で眼前に展開したシールドでそれを受け止め、すっと後方に距離を取った。

「らぁ!!」

 そこへ、力づくでシールドをぶち破ったザースがローラーブーツを加速させながら近づいていく。 セオリー通りの戦術。 いつもいつも真正面から相手を打倒する方法を選択してきたザースらしい。 クライドという存在にどこまで自分の力が届くのか、自身の最も高めてきたもので挑んでくる。

 逆転する攻守。 クライドからすれば、それはトラックにも等しい威圧感があった。 高速で突っ込んでくる大質量。 突進力の十分に乗ったその一撃は生半可な防御など打ち抜くだろう。 ならばと、クライドはそれを前にラウンドシールドを構える。 だが、それは一枚ではない。 二枚同時に展開し、少しでも時間を稼ごうと足掻く。 瞬間、衝突する拳と盾。 クライドの青色の魔力光とザースの茶色の魔力光が周囲を照らす。

「ちぃぃ!!」

 シールドが割れる。 それを見た瞬間、クライドはすぐに横に飛ぶ。 受け止められるかと思ったがやはりそれには少しばかり強度が足りない。 それは、ザース・リャクトンという魔導師の持つ確かな力だった。 シューティングアーツの醍醐味であるともいえるだろう。 次を準備するまでに、こうして接近戦を強いられ続けられれば強力な魔法は使い辛い。 格闘戦を重視して修めているか、それ相応のデバイスで武装していなければ真正面からぶつかるなど愚作でしかないのだ。

 地面を転がるようにしながら、クライドはシールドを四枚展開。 全てを水平にし高速で回転させながら術式を加え、一瞬で別の魔法へと変質させる。 クライドの十八番、シールドカッターだ。 それを、自分の周囲を回転するように展開しながら、次の手を考える。 ギャリギャリと高速で回転する刃。 いかにザースといえどもそれにまともに飛び込むことはすまい。

「さあ、どうするザース。 これで飛び込めないだろ?」

「しゃらくさいぜクライド!!」

 だが、ザースはそれに臆することはない。 そんなものは脅威でさえないと、再びブーツで加速してくる。 砂塵舞う軌跡が、砂煙を上げる。 そのまま加速し、回転するシールドを飛び越えるように跳躍しながら前方宙返り。 そのまま断頭台のギロチンを思わせる踵落しを繰り出した。

「おいおい!?」

 遠距離攻撃に切り替えてくるかと思いきや、思い切りの良過ぎるその行動にクライドは一瞬驚く。 だが、辛うじて両腕をあげてシールドナックルで防御することに成功する。

「――ぐっ!?」

 受け止めた両腕に痺れが走る。 高速で回転するローラーブーツが、シールドナックル越しに唸りを挙げながら威嚇していた。 だが、こうまで押されたままにさせておくほどクライドは甘くは無い。 反動で後方に飛んだザースめがけて、シールドカッターを放つ。   

 空を切り裂く円盤の刃が、次々と猛威を振るおうと飛翔する。 高速で飛来するそれに、ザースは横に移動するようにしながら回避する。 だが、シールドカッターは追尾誘導型の魔法であり、クライドが操作することで意のままに動く。 二つが後ろにつき、それを追い込むように残り二つが先回りをしていく。

「まどろっこしいな!!」

 ザースは舌打ちしながら、追ってくるシールドカッターを睨む。 シールドカッターは回転しながらそお円周部の刃で攻撃対象を削るようにして、切り裂くために存在している魔法である。 元々がシールドであるため、その強度はそこそこある。 もっとも、改造された分刃を形成する部分にどうしても威力を与えるような術式攻勢になっているため面の部分の防御力は少し分散されやすい。 破壊するならば面の部分から攻撃するべきであるが、水平に追ってこられると些か迎撃がやり辛い。

 ならばと、ザースはまず前方に迫ってきた二枚に対してスライディング。 そのまま地面を滑るようにしながらシールドカッターが通り過ぎようとした瞬間に、砲撃魔法を放つ。 それぞれのカッターに一発ずつ下から放たれたそれは、水平に移動していたシールドカッターを破壊することは叶わなかったが浮かすことはできた。 その瞬間、後ろからやってきていたシールドカッターが前方のシールドカッターに衝突。 互いに刃を交えながら削りあう。 

 だが、その程度では消えない。 すぐにクライドが操作し、起き上がって移動を開始するザースの後を再び追いまわしていく。

「そいつはしつこいぜ」

「違いない!!」

 蛇のようにしつこく追ってくるそれに辟易しながら、ザースはウイングロードを展開。 平面場では埒が明かないと考え、立体的に攻める足場を作る。 上空にまで上がっていくウイングロード。 まるで空の果てまで届きそうな光景に、しかしクライドは手を緩めない。 茶色の足場を走りながら駆け上がっていくザースを追うように自分も空を飛翔する。

 陸戦魔導師でありながら空を縦横無尽に駆けるザース。 大空の広大さに酔いそうになる自分を勇めながら、ローラーブーツを加速させていく。 ギアは全開。 最速で道を突っ切っていく。 ウイングロードの軌跡が空中でシュプールを刻む。 やがて、空へと駆け上がるウイングロードはそのまま宙返りの要領でラインを代えながら反転。 空に上がってきたクライドへと真っ直ぐに伸びていく。

「いいやっほぅぅぅうう!!」

 空へ上がってきたクライドへ、真っ直ぐに踊りかかるザース。 その速度は地上にいるときよりも数段速くクライドには感じられる。 舗装された道ならばともかく、それ以外の地面を走っていたときと違いウイングロードは純粋に走るための道である。 その速度差は目を見張るものがあった。 その後ろを追うシールドカッターが追いつけていない。

「おいおい、速すぎるだろ……」

 若干呆れ気味に呟くクライド。 だが、そういうものかとすぐに割り切って考えると迎撃の姿勢を取る。 まともに戦うと言った。 ならば、どれだけの力があるのかを自覚させるには真っ向勝負が一番分かりやすい。

 真っ直ぐ相対する両者。 ザースは決めにいくためにスターダストフォールを展開。 環状魔法陣に自ら突っ込み銃から発射された銃弾の如きスピードでクライドに迫っていく。


――次の瞬間、二人の魔導師は互いに真正面からぶつかり合った。











「……あ、気がついたザース?」 

「いつつ、あん、一体こりゃどういうわけだ?」

 目が覚めると、目の前に自分を見下ろすフレスタの顔があった。 寝ぼけ眼でそれを確認したザースは眉を顰める。 後頭部のある暖かな感触から、どうやら自分が膝枕されているらしいということは理解できたが、それ以上のことはすぐに理解することはできなかった。

「私に聞かれてもよく分からないわよ。 デバイスのメンテ終わらせて来てみたらこうなってたんだもの。 リンディちゃんが言うには、あんたらがいきなり模擬戦始めてそうなったとしか聞かされてないわ。 まあ、リンディちゃんもどうしてそうなったかが分からないって首をかしげてるけどね。 ほら、隣を見てみなさいよ」 

 フレスタがそうやって指を指すので、その方向に視線を向ける。 と、そこには自分と同じようにリンディに膝枕されているクライドの姿があった。 ただ、気絶しているらしくまだ目を覚ましていない。 さらに困惑しながらザースは起き上がろうとしたが、全身を襲う激痛に断念した。

「つぅ、痛ぇぇな」

「ほら、あんまり無理しないの。 もうしばらくジッとしてなさいな」

「……悪いな」

「構わないわ。 でも、そうね……私の膝は高いわよ?」

「今度なんか驕るからそれで勘弁してくれ」

「ふふ、忘れないでよ。 丁度今度の見学旅行のための買出しに行こうかと思ってたのよね」

「それの荷物持ちも手伝えって? まあ、いいけどよ」 

 苦笑しながら、ザースは目を瞑った。 全身の痛みが何故か心地よい。 少し前までの暗鬱な気分が嘘のようだ。 どこか、爽快な気分だった。

「それにしても、本当にどうしたわけ? クライドとリンディちゃんとの今日の訓練を賭けて模擬戦して、二人揃ってノックアウトなんて面白すぎるわよあんたら。 最後は豪快なクロスカウンターだったって話よ?」

「あー、そういえばあいつと模擬戦してたんだよな」

 少しずつ蘇ってくる記憶。 最後の一撃の瞬間にやられたかと思ったが、存外そうでもなかったらしい。 だが、両方ともノックアウトとは。 あれだけ強いと思い込んでいた男にしては、情けない結果じゃあないか。

「はは、なるほど。 これがお前が言いたかったことかクライド」

 記憶を思い出してみれば、クライドの戦い方は普段のあいつと比べればらしくなかった。 だが、それがまともに戦ったときのクライドの強さなのだ。 真正面からぶつかっていった自分に、クライドもまた真正面から戦ってきた。 なるほど、条件が対等でやることが同じなら確かに自分と彼の力に大きな差はないらしい。 その証拠が今のダブルノックダウンというわけだ。

「何いってんの? 何か思い出したわけ?」

「ああ、ちょっと自分の勘違いって奴を思い知ったところさ」

「勘違い?」

「そう、勘違いだ。 隣の芝生は青く見えるって奴らしい」

「あんた一人で納得されてもさっぱり分けわかんないわよ」

 憮然とした顔でそういうフレスタ。 だが、ザースはそれに答えずに可笑しそうに笑っていた。 確かに、そう能力は変わらない。 なら、後はもっと自分を生かす方法か、今以上の強さを単純に身に着けるためにより厳しい修練を積むしかないだろう。 自分が今までも積んできた訓練は、後者である。 だが、そろそろ前者も考える段階なのかもしれない。 その前者こそ、自分にはないクライドの強さに繋がるのだから。

「小細工か……俺もちょっと考えてみるかな」

 いつか、その小細工をいくつも持ったクライドを倒してやろう。 翡翠の妖精の膝の上で気持ち良さそうに眠る友人を見ながら、ザースは決意を新たにする。 二人で戦ったあの瞬間、空を無限に感じることができた。 どこまでも高く走れそうな気がしたのだ。 その熱い感覚は、あのヒューイ・カウンタックと駆けたミッドチルダの空と同じで、自分の記憶に焼きついていた。 それを、またいつか味わいたい。

――そう、ザースは思った。

コメント
クライド「結局お前はなにを見てたんだ?」

俺の書の意思『目にゴミが入ったからそれが眼球の上で動くのを目で追って観察してたの』

クライド「不思議ちゃんかお前は」
【2008/06/14 17:33】 | あるべると #- | [edit]
どうもあるべるとさんコメありです。
しかし、こういう小劇場のようなコメントは始めて頂きましたw
こういうコメの仕方もあるんですねぇ。
【2008/06/15 10:15】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
虹色の魔力光って聖王の証であるカイゼルファルベってやつじゃあ・・・
もしや自称Aランク先輩って聖王の血族?(笑)
まぁStSの情報が出揃う前に書かれたものなので齟齬が出たのだと思いますが・・・

それはともかく毎回楽しく読ませてもらってます。
【2008/06/17 17:29】 | ビート #aiMm5YXE | [edit]
ビートさんどうもコメありがとうございます。
虹男のはアレとは別ものですよ。 聖王の血族だったら……楽しいことになりそうですけどね。 ……一考するべきかw
【2008/06/18 20:39】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
クライドの言う強さの定義がいまいちわからない俺ガイル。
個人的に、そういう小細工を含めて本人の強さだと思う今日この頃。
小細工を弄せるということはそれだけ器用に動き回れるということ、それだけうまく戦えるということ。
それだって十分に本人の強さだと思うんだけどなぁ。
まぁ、そういう小細工ってステータス化したら数値としては現れないものだけど。
いわゆる数値に現れない、本人の強みってやつかな?
【2016/02/21 13:38】 | 名無しさん #- | [edit]
> クライドの言う強さの定義がいまいちわからない俺ガイル。


クライド個人の総合的な強さという意味ではなく、ここでは単純に純粋な魔導師としての強さで言ってるだけ……だったと思われます(汗)
つまり重きをどこにおくかの差、みたいな感じですかね。大分前の話なんでもうあんまり覚えてないですが多分そんなニュアンスだったかと……
【2016/12/31 10:39】 | トラス・シュタイン #- | [edit]












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