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憑依奮闘記 第六話(なのはSS オリ主憑依系)

 2008-04-10
――見学旅行。

 陸士訓練学校の二回生が行う課外授業の一つであり、主に本隊からはぐれた場合や管理外世界に取り残された場合の実習と実際のロストロギア<古代遺失物>発掘の見学を行う旅行のことである。 これは訓練学校の校長がスクライア一族の長と仲が良いために行える一種の見学会のようなもので、毎年様々な場所へ行き、発掘作業の見学と座学で学んだ緊急時のサバイバル技術の実践機会として有用な取り組みであった。
 基本的には移動に管理局のトランスポーターを用いて現地の時空航行船に転送し、そこからバケツリレーの要領で転送し、現地へと降下しスクライア一族の発掘作業を見学する。 そしてその後それぞれ個人単位で適当な場所へと転送され、三日間過ごすのだ。 運が悪ければ砂漠のような極限の環境でのサバイバルを強いられることもあり、中々に気を抜けない訓練となっている。

 だが、そんなものは建前である。 ある意味で二回生でのこの見学旅行は学生の楽しみの一つだった。 個人単位で転送されるといっても、それぞれの位置を確認するための発信機を持たされているしそれぞれの転送距離がそう離れているとうこともないため合流してチームを組むことも在りだとされている。 つまり、それぞれ勝手にチームを組んで三日間キャンプできるわけである。 そのため学生たちは休日のうちに思い思いに準備をしていた。 彼らもまた、その例外ではない。


「こんなのやっぱり駄目だと思うんですけど……」

「ふむふむ……やっぱりこういうのもいいわよねぇぇ。 元がいいから何を着ても似合っちゃう」

 休日のデパート、その女性服売り場で二人の少女が様々な服を手にとっては試着を楽しんでいた。
といっても、一人はほとんど自分が着ることは無く、連れの少女を着せ替え人形にしていた。

「これ、ヒラヒラがちょっと恥ずかしいんですけど……」

 恥ずかしげにしているリンディをよそに、フレスタがその目を輝かせながら凝視していた。 フリルの沢山ついたゴスロリ服。 幼い年齢ならではのファッションであるが、着る人間を選ぶその服はまるであつらえたようにリンディに似合っていた。 年相応に小柄であり、華奢な少女の体型がマッチしている。 本人の趣味を完全に置き去りにしていたが、似合っていたのだから仕方が無い。 フレスタが携帯で写真をとっておく。 もう何枚目になるだろか。 メモリーが悲鳴を上げそうなぐらい撮られた気がする。 完全にリンディは彼女の着せ替え人形状態だった。 そうして完成したのが今のゴスロリンディである。

「やっぱり、白系統が似合うわね。 冒険して黒も行きたいところだけど……うーん……悩みどころだわ」

 唸りながら、次の服を選ぶ。 次は少しシックなモノを選んでいるようで、派手さは少ないものの少し際どい気がした。

「あの甲斐性なし男どもにもう少し根性あれば色々と男の意見も聞けるところだったのに……」

 中々決まらない次の服に、フレスタの愚痴が少しもれる。 女の買い物に最後まで付き合うのが男の甲斐性であろうに、あの二人ときたら早々にダウンしている。 情けないといったら無かった。 見学旅行用の服何などもう買い終えている。 これからが楽しいというのに。

「あ、そういえば……水着とかも見てたほうがいいかな」

 ふと、考える。 知り合いの先輩曰く、川や海が近ければそういうのもあれば有用だと言っていた気がする。 男連中は適当にどうとでもできるが、さすがに女性陣はそうは行かない。 年々受け継がれてきている女子の情報はこういうところでも遺憾なく威力を発揮した。

「そ、そんなのまで必要なんですか?」 

 驚くリンディにフレスタはニンマリを笑みを浮かべる。

「勿論、場合によっては必要になるわよ。 ま、使うかどうかは分からないって所が少しアレなんだけど……先輩に聞いた話だと、それでちゃっかり彼氏を作ったって話よ」

「……サバイバルに必要なんじゃないんですか?」

「あははは、さすがに水着はサバイバルにはいらないわよ。 学生の間じゃ見学旅行は見学一割サバイバルという名のキャンプ九割よ。 勉強になるのは次元航行艦とスクライア一族の発掘作業見学ぐらいでね、ぶっちゃけると学生たちにとっちゃ良い気分転換なのよ」

 けらけらと笑うフレスタにリンディは少し首を傾げる。 遊びというか、そういう考えがいまいちピンとこなかったからだ。 彼女の中にそういう部分は極端に少ない。 一般人とお嬢様の違いといえばいいのか。 彼女は少し不真面目に感じていた。

「ま、なんにしてもこういう息抜きは必要だよね。 でないと、息が詰まっちゃうもの。 リンディちゃんは特に気をつけなさいよ。 いつも一生懸命なのは見てて分かってるけど、少しは楽しまなきゃ人生損よ。 何事も余裕を持ってあたらないとね」

「余裕を持ってですか?」

「そう、パンパンに張り詰めた風船みたいに何かの拍子に割れちゃいそうで、お姉さんちょっと怖いわ」

 「んー、この服もいまいちね」なんていいながら、フレスタが言う。 

「私は無理なんてしてませんけど――」

「――してない? 本当に?」

「……」

 咄嗟に、リンディはハイといえなかった。 少なくとも、自分的には無理をした覚えなどなかった。 やればできる。 その程度の認識で、全てをやりきってきた。 そこに、無理が生じるなんてことなどありえない。 だが、それは内側からの認識だ。 外側からそう見えるというのなら、そうなのかもしれない。 できることをやってきた。 できるからこそやりきってきた。 だが、そこに彼女が先ほど言ったような余裕があっただろうか?

「今日もさ、私が誘わなかったら部屋で勉強してたでしょ? それが悪いって言うわけじゃないけど、もう少し年相応さを覚えなさい。 これは忠告よ? クライドみたいに適当に力抜いたって、リンディちゃんは大丈夫なんだから。 でないと、いつか無理が祟りそう。 ま、リンディちゃんならそんなことにはならないかもしれないけど……」

「……そんなに余裕なさそうに見えます?」

「うん。 夕方の訓練始めてからそんな感じだよ。 元気がちょっと無いっていうか、疲れが溜まってきてるんじゃない? 今までとは環境も結構変わってるだろうし、クラスにはリンディちゃんが安心できる同年代の子がいないしね……やっぱり、お姉さんだけじゃ無理かな?」

 何が、とはフレスタは言わない。 足りないのは、安心できる空間だ。 だが、それはリンディが誰かに見出せなければ手に入らないものだ。 或いは、自分ひとりだけで完結できるような人間であれば良い。 だが、そうではないとフレスタはこの一月の間で気づいていた。 どこか、偶に寂しそうに笑うのだ。 そういうところに、彼女はリンディの幼さを垣間見た。 そして、祖父であるヴォルク・ハラオウンと彼女が話していたあの瞬間に見せた安心したような顔は、フレスタやクライドには見せなかった類のものであったことをフレスタは確信していた。 それが分かるだけに、少しだけ悔しい。

「お、これなんかいいじゃない?」

 暗くなりかけた空気をかき消すように、フレスタがリンディに服を渡す。 結局選んだのは、またもやゴスロリ服。 今度は黒と白のコントラストが効いているものだった。
















「……で、俺たちは何をしてるんだかな」

「知らん……だいたい、なんで俺までお前らに巻き込まれなきゃならんのだザース」

「しょうがないだろ? この前の膝枕の件で俺はフレスタに借りがある」

「いや、それで何故俺まで? 俺は無関係なはずだが……」

「安心しろ、お前もしっかり同罪だぜ? 幸せそうにハラオウンの膝で眠りやがって……あのときの気持ち良さげな顔といったら無かったぞクライド」

「なっ!? あのときは気がついたらお前に部屋へ運ばれてたぞ!?」

「その前にはぐっすりと妖精の膝の上を占領してたんだよ」

 デパートの休憩所で、ベンチに座ったまま二人の少年が居心地悪そうにしていた。 休日に家族サービスするお父さんよろしく。 その仏頂面のせいで若いはずなのに微妙に老けて見える。 これで、隣に彼女や仲間がいて、和気藹々としていたらまだ若者らしいのだが、二人ともすでにグロッキー状態だった。

 女性の買い物は長い。 それは、少女だろうが女だろうが変わらない。 こと男には考えられないほどの長さだった。 一つを選ぶのにどれほどの時間をかけるのか。 あまり服に興味を持たないクライド、そして即断するタイプのザースにはその感覚は理解できなかった。

「ま、荷物持ちはあれだけどよ。 偶には街に出て来るのもいいだろ。 お前はまあ、最近休日は街に出てるみたいだけどよ」

「ああ、色々とあって……な」

 闇の書の件でページを稼ぐため、クライドはヴォルケンリッターの力を頻繁に借りる必要がある。 それ以外にも、彼女らに外を歩く機会を取ってやりたかった。 彼女らが唯の機械や物言わぬデバイスであったならクライドはそんなことを気にしないのだろうが、彼女らは生きている。 魔法プログラムが実体化した存在ではあるが、それでもその姿は人間となんら変わらない。 普通に笑い、普通にご飯を食べ、そうして戦えば普通に傷つく。 勿論、大本である闇の書の守護騎士プログラムが消えない限り、彼女たちに本質的な死は訪れない。 だが、それでもやはり生きているのだ。 ならば闇の書内で燻らせ続けるのはもったいないではないか。

「女か?」

「……さあてね。 どちらかといえば、家族サービスが近いぞ」

 何かピンと来るものがあったのか、ザースが邪推してくる。 が、クライドは涼しい顔で肯定とも否定ともつかない答えを返した。

「家族ねぇ……そういえば、お前の家は南部の方だったっけ?」

「ああ、ザースは西部だよな?」

「おう、そこそこ都会だぜ。 クラナガンから結構近いしな」

「ふーん、俺のところは静かなところだよ。 都会っていうよりは田舎のイメージだな。 家の隣には凄腕の魔導師が豪邸で住んでて、色々と世話になってたな。 あの人がいなきゃ、今の俺はいないね」

 ベンチにもたれながら、クライドは世話になった人の良い魔導師の姿を思い出す。 彼は最近とても忙しいらしく、滅多に家に帰ってこない。 第九十七管理外世界惑星『地球』出身の魔導師、ギル・グレアム。 次元航行艦の艦隊の一つを纏める提督の一人で、恐らくは、ヴォルク・ハラオウン提督にも引けを取らないであろう魔導師。 人が良いから部下からの信頼も厚いらしく、よく彼は家に部下を連れてきていた。 今も恐らくは部下から頼りにされていることだろう。

「ああ、お前にもいるのかそういう人? やっぱ、魔導師としては一人は憧れる人がいるよなぁ」

「うーん、魔導師としてのあの人には憧れたことはなかったな。 凄腕の魔導師ってことは聞いてるけど指南を受けたことはなかったし……ただ、あの人柄とかは憧れるかな。 ああいう人間的な魅力は俺には到底ないからな」 

 唯の隣人だったクライド・エイヤルという名の少年。 記憶の混濁が見られるその少年の後見人になり、今まで面倒を見てくれた。 それは、言うほど簡単なことではないはずだ。 リーゼたちほど頻繁に会うことはできなかったけれど、彼への感謝の念は大きくクライドの中に在った。

「ザースはどうだ? その人のどこに憧れた?」

「俺の場合は速さ……だな。 俺はあの人の影響でローラーブーツにハマったんだ。 無茶苦茶早い人でな……空戦魔導師よりも俺の方が数倍早いって豪語してたぜ」

「それはすごいな」

 空戦魔導師よりも早い陸戦魔導師。 普通にはちょっと考えづらくて、クライドはそれを想像して少し笑った。 だが、そういうのもアリかとも思った。 パッと聞いたときには誰もが信じないが、そういう意外性は取り入れるべきものである。 できないことを、できるようにする。 それが、工夫というものだから。

「ふむ、そういうデバイスを作ろうとしたデバイスマイスターとかに興味があるな」

「ああ、そういえばお前はそっちの方が興味あるか。 ホント、お前は普通の魔導師からズレてる奴だよな」

「否定はしないが、魔導師としての自分を疑われてるみたいでなんか癪だな」

 面と向かってこういうことを言えるのは、ザースの美点だった。

「しっかし、何でこんなに時間がかかるんだろうな。 見学旅行って言ったって見学以外の自由滞在期間は問答無用のサバイバル訓練だぜ? 私服OKだとしても基本的には動きやすい服以外は禁止だろうに……」

「それでも気を使うのが男と女の違いじゃないか?」

「それをいっちゃおしまいだ。 結局男の俺たちには一生分からない話になっちまうぜ」

 二人の周囲を囲むように置かれている袋の山。 配達を頼むとしても、そこまで持っていくのにはかなり骨が折れそうだった。 そのほとんどがフレスタとリンディの服やら私物やらであり、クライドたちの荷物は一つ二つしかない。

「これに加えて、まだ買ってるんだぜあの二人。 このままデパートが閉店するまで居座るつもりじゃないだろうな?」

「かもな。 どうもリンディがフレスタに色々と着せ替え人形にされてたからなぁ。 このままじゃデパート中の服を試着し尽くすまで帰れないかもしれないぜ」

「はぁ……」

 ため息しか出なかった。 まあ、つれてこられた以上逃げるわけにも行かない。 クライドはベンチに背を向けたまま目を閉じる。 ボーっとするだけでは時間が勿体無いからだった。 一応、彼も見学旅行に必要な物資を買いに来たので、何か買い忘れが無いかと思案する。 とはいえ、基本的なサバイバル道具は現地支給であるし、必要なものといったら着替えや非常食の類だ。 多めに用意しておけばいざというときに役に立つだろうが、さすがに持ちすぎても邪魔になる。 匙加減が難しかった。

(いっそのこと、開き直ってバーベキューセットでも持ち込もうか? いい思い出るなるだろうし)

 馬鹿な考えだったが、思い出作りにはなるかとクライドは考える。 さすがに、そこまであからさまに実行すると教師に怒られるだろか?

「そういえば、去年の二回生は見学旅行どこだった?」

「確か去年は管理外世界の砂漠地帯じゃなかったか? 先輩が水が無くなって死に掛けたとか言ってた気がするぞ。 運がよかった奴らはオアシスとかで優雅にしてたらしいけどよ」

「水……か。 そうだな……サバイバル用の魔法も用意しておく必要があるな」

 普段は戦闘に必要な者はサポート用の魔法ばかりを考えていたから、クライドはその発想はなかったとばかりに考え込む。

「魔導師の場合、そういう系統の魔法さえ習得してれば大抵はどうとでもなるからいいよな」

「気象操作系を使えば雨降らせられるし、火系統の魔法を使えば火をつけるのもそう難しいことじゃないからな。 まあ、そんな使い方したらデバイスが泣くだろうけどよ」

「ふむ……サバイバルに特化したデバイスか……聞いたことが無いな。 管理局に入ったら提案してみても面白いな」

 辺境地で味方とはぐれた場合や取り残された場合に生活するためのツールとして存在すれば、局員の遭難時の生存率を高められるだろう。 問題は、どういうデバイスにするかだが。 本来のデバイスの用途からかけ離れたそのアイデアにクライドは腕を組み考え始める。

「……お前の場合、本当に提案しかねないから怖いぜ」

 懐から取り出したメモ帳にメモをするクライドを眺めながら、ザースが引きつった笑みを浮かべる。 この男なら、やりかねない。 妙な確信を抱きながら女性陣が帰ってくるまでベンチの上で大人しく待つことにした。

 その後、一時間後に女性陣と合流した彼らは荷物の配達を頼むとカラオケにゲーセンの学生お決まりコースへと突入することになる。 リンディは初め戸惑っていたもののすぐに慣れ、四人はつかの間の休日を楽しんだ。 ちなみに、帰りにクライドの提案でとあるラーメン屋へ行き、そこに飾られていた写真を見た三人がかなり驚くことになったのは余談である。












憑依奮闘記

第六話

「見学旅行」










 見学旅行は、今の代の校長が管理局の魔導師育成のために取り入れた一つの行事だった。 学生の息抜きにも丁度良いし、なによりも早いうちから現場の雰囲気を感じ取れるのが良い。 まずミッドチルダから次元空間に存在する本局へトランスポート<転送>し、そこから近くに存在する次元航行艦をいくつか経由して現地へと降りる。 通常、トランスポートを利用するようなことはないので大抵の訓練生にとってこの体験は良い意味で刺激になる。 スクライア一族の発掘作業見学はロストロギア<古代遺失物>というものをその目でみることになるので、管理局の仕事に対する理解に繋がるし良いこと尽くめである。

 ただ、気をつけなければならないとすればそれは安全面である。 スクライア一族の発掘したロストロギアを狙った次元犯罪者が現れたりすることがあれば、勉強中の学生たちの身の危険に繋がるため、見学旅行の際には現地に必ず次元航行艦の護衛が監視につく。 常駐待機する正規の武装隊の存在によって、今まで見学旅行が襲われたことは無いが、それでも万が一ということはありえるだろう。 だから、細心の注意が必要だった。 とはいえ、学生にとってはそんなことは関係がない。 まだ守られるべき彼らは、純粋にこの旅行を楽しみにしているだけだった。

「いい気なものだな、学生たちは」

 楽しげに現地へ降り立っていく学生たちの様子を空間モニターで眺めながら、黒髪の執務官が呟く。 見た目は彼ら学生と同じぐらいの年齢だったが、彼は既に執務官の役職を得ているエリートである。 とある事件の捜査が行き詰まり、監査部の情報収集待ちだったために今回の学生たちの御守に担ぎ出されていた。 とはいえ、この場所にただそれだけの理由でやってくるほど彼は暇があるわけではない。 彼が追っている次元犯罪組織の傾向から判断すれば、こういう場所にこそやってくる可能性も無いわけではないと思っていたので、もしかしたらと考えて今回の任務を受けていた。 

「スクライア一族が新たに発見した古代ベルカ文明の遺跡……か。 連中からすれば美味しい獲物だと思うけど、さすがにこの警備体制じゃあ奴らも手出しを控えるか?」

 次元航行艦一隻に武装局員二個中隊。 そして極めつけは若いとはいえ総合Sランクを所持する執務官である彼。 もし、この警備体制で襲う人間がいるとすればそれはよほどの馬鹿か、それをできるだけの力量を持った大規模な組織ぐらいだろう。 だが、態々管理局に表立って喧嘩を売るような組織など普通は居ない。

「……この分じゃ、僕の出番は無いかな」

 今のうちに書類の整理でもしておこうと、若き執務官は自分の執務机に山と積んであるそれに立ち向かっていった。 自分の出番など、無いほうが良いに決まっている。 何事も無ければそれで良いのだが……。 どこか、嫌な予感を覚えながら執務官は仕事を進めていった。















 いくつかのトランスポートを経由して、学生たちが次々と現地へと降下する。 その中にクライドはいた。 一瞬身体に感じる重力から解き放たれ、次の瞬間には別の場所へと転送されているその感覚は日常生活の中で感じることが無いだけに、中々に楽しい。 完全な宇宙空間でもなければ体験できない重力を感じない浮遊感だった。

「さて、全員揃ったな? それじゃあ事前に分けてあった班に分かれて発掘の見学だ。 邪魔にならないようにするんだぞ? スクライア一族といったら、次元世界でも有名な一族だからな。 こういう機会は滅多に無いぞ。 では、よろしくお願いしますキールさん」

「ええ、後はお任せくださいミハエル先生」

 担任のミハエルが事前に打ち合わせていたらしいスクライア一族の青年が頷きながら整列した学生たちの前に出る。 二十台前だろうか? 責任者にしては少し若く見えるが、スクライア一族は幼い頃から様々な世界を渡る発掘のプロフェッショナル集団である。 例え子供であろうとも、こと発掘や考古学という分野では現役の管理局員でさえ凌駕する知識を持っていると言われている。 そのため、若い青年が責任者であっても可笑しくはない。

「皆さんこんにちわ。 私はキール・スクライア、今回発見された古代ベルカの遺跡発掘の責任者です。 皆さんにはこれから班に分かれてそれぞれの現場と発掘されたいくつかのロストロギアを見学してもらいますので、どうか勉強していってください。 特に、ここは近年稀に見るぐらいの規模の遺跡ですのでこれから管理局に入ろうと思っている皆さんにとっては良い経験になると思いますよ」

 そういうと、キールはそれぞれの班に一人案内役をつけると挨拶もそこそこにして去っていった。 責任者としては、色々と忙しい立場にいるのだろう。 やがて、それぞれ分かれて見学を開始していく。 クライドはまず、遺跡の方を巡る班に分けられていた。 いつもの面子は、見事にクライドの班とは分かれており彼は一人だった。 もっとも、そんなことをクライドは特に気にもしなかった。 いつも通り、面倒くさいと感じるぐらいでそれ以上の感情は持たなかった。 ただ、少しつまらなそうな顔をしていたようにクライドを見知っている人間なら感じただろう。

「ふーん、遺跡って言っても土に埋まってるんじゃないんだな」

 寧ろ、それは堂々とその存在をアピールしていた。 風化し、色あせてはいるものの間違いなく人工の建造物である。 古代ベルカ文明は、特に魔法科学に優れていたと言われている。 ミッドチルダよりも先に魔法を取り入れ、数々のロストロギアを生み出していた。 今でもその文明にはいくつもの謎があり、衰退した理由が分からないほどに高度な文明を誇っていたという。 質量兵器が乱用されてそのせいで滅んだとか、ロストロギアの暴走によって消滅したとか、数々の推察こそあるもののかつてはミッドチルダと勢力を二分するほどに強大だったとされるその文明が突如として歴史から姿を消してしまった理由は未だに謎とされている。 ベルカからの難民たちがミッドチルダに流れてきてはいるものの、彼らの中にその理由を知る者は誰も居ない。 かのスクライア一族でさえも把握できていないその文明は、未だに考古学会の関心の的であった。

 また、伝説の都であるというアルハザードもそうだ。 旧暦の時代、アルハザード時代とか古代ベルカ時代とか呼ばれる遥か昔に存在したとされる幻の都。 誰もがたどり着けないとされていながら、存在を次元世界の各地に残しているそれら未知の文明は今でも再現できない数々のオーバーテクノロジーを世に残している。 この次元世界最大級の謎だった。

 例えば、クライドが所持している闇の書もそうだ。 古代ベルカで作られた大規模魔力ストレージと言われるそれは、現代のミッドチルダの最新デバイスを遥かに凌駕する性能を持っている。 しかも、さらにそこには無限の転生機能と融合<ユニゾン>機能まで改造されて持ってるのだ。 そんな法外なものを作り上げられた当時の技術力は、明らかに不自然である。 ミッドチルダではユニゾンデバイス――ベルカ風に言うなら融合機――を一から作る技術力など無く、製作できるのは現存するベルカの融合機のレプリカ<模造品>でしかない。 一からそれを作り上げたという当時のベルカの技術力には、クライドはデバイスマスターを目指す人間として畏敬の念を感じずにはいられなかった。

「……今度ヴォルケンリッターにでも聞いてみるか」

 当時の時代のことなら、彼女たちが一番詳しいだろう。 色々とスクライア一族でさえ知らない歴史の真実とやらを知っているかもしれない。 一番知りたいのは、アルハザードの存在とベルカ崩壊の謎である。 設定で簡単に知っているクライドであったが、憑依している今等身大でこの世界に生きるものとして大変興味があった。

 と、考え事をしていたときだった。 近くで作業をしていたスクライアの子供らしき藍色の髪の少女がクライドに声をかけてきた。 五、六歳だろうか? 見た目はリンディよりは幼いように見えるが、スクライア一族として作業に参加していることを考えると、ただの子供では無いことが理解できる。

「――ねぇ、お兄さんは行かなくていいの?」

 遺跡の壁に目を向けてボーっとしていたクライドを訝しんだらしく、見上げる視線は少し戸惑いがあった。

「あ、ああ。 ありがとう。 ちょっとベルカの遺跡に興味があって、つい考え込んでしまった」

 フードつきの外套を羽織っているその少女の目線に合わすようにしゃがみこみながら、クライドは言い訳染みたことを言う。 苦笑いを浮かべながら先導していたスクライアの人や、班員の姿は探してみるが、周囲にはその姿は見えない。 どうやら、知らない間に置いていかれたようだった。

「ふふ、他のお兄さんたちは向こうに行ったよ。 ついて来て」

「すまないな、作業の邪魔をして……」

「ううん、いいよ。 そこまで興味を持ってくれる人がいることが嬉しいもの」

 少女はそういうと、クライドの手をとって案内を始めた。 年下の少女に先導されるというのは、少し恥ずかしかったが、クライドは好意に甘えることにする。 しかし、周囲のスクライア一族の視線に混ざる苦笑にだけは耐えかねた。

「それにしても、珍しいね。 他の学生の人たちなんてただ珍しがってるだけなのに」

「まあ、な。 個人的な興味に抵触する事柄なんでね」

「それは、魔導師としての興味なの?」

「それも無いわけじゃないけど、一番はやっぱりデバイスマイスターを目指すものとしての興味の方が強いかな。 カートリッジシステム然り、融合機然り、ベルカの魔法へのアプローチはミッドチルダのそれとは大きく違うし、そういうのを考えた昔の人は一体どんなだったかなと考えると、少しわくわくして来るからな」

「なるほど、私たちと一緒なのね。 私たちは純粋に考古学に関してだけど、お兄さんも相当自分の趣味に関連する事柄には興味を抑えられないタイプみたい」

「否定はできないな」

「じゃあさ、そのデバイスマイスター見習いのお兄さんから見て、この遺跡はどう思う?」

「どう……といわれてもな。 俺はこういうのは初めてだし、特に思うことなんて無いが……」

 そういうと、クライドは軽く周囲に視線を向ける。 建造物の一角が、まるでドームのように形成されているこの遺跡は、クライドが考えていた土の中から掘り出すような古代の遺跡というイメージからは程遠い。

「強いて言えば、普通の遺跡らしいイメージがないって感じがするな。 土に埋まってたってわけでもなさそうだし、寧ろ土の上に建物が不自然に置かれているって感じだ」

「へぇぇぇ、鋭いねお兄さん。 案外魔導師より私たちよりなのかも」

「で、正解は?」

「これはね、多分ベルカの次元移民航行艦の移民区画の一部を切り離してできた即席の遺跡なんだよ。 だから土の上にあるし、普通の遺跡のイメージとは程遠いんだ」

「ほほう? とするとこいつはもしかしてベルカ本星からの難民の船だったってことか?」

「その通り。 推定年代はちょうどベルカが滅んだ辺りだっていう話だよ。 どう、そう考えてみるとこの遺跡の不可解さも分かるでしょ?」

「……どうして態々ここに降下したベルカ人が生き残れなかったかを言っているのか?」

 移民船で逃げてきた、あるいは移住する場合は大抵その移住先で生きられる確信があって行うはずだ。 だというのに、ここは遺跡。 態々移民船の一部を切り離して降下させている以上他の星をまた探すなんて面倒なことをするぐらいなら、移民船で他の地域を探したほうが効率が良いだろう。

 大気組成に問題があるというわけでもないし、別段危険な生物がいるというわけでもなさそうに見える。 にもかかわらず、誰も生き残ることができなかったのだろうか? これは移民のありようを否定する事柄だ。 そこに、クライドは不可解さを感じる。 勿論、移民船が事故やトラブルにあって病む終えず不時着したというのなら理解できる。 だが、その場合は移民船の残骸なども一緒に周囲に無ければ可笑しい。 加えて、墓のようなものがあるという話も聞いていない。 であれば、まるで初めから人がいなかったような印象を受けてしまうのも仕方なかった。

「どこに行ったんだろうね、ここにいたベルカの人たちは。 この星にはここ以外にもいくつか怪しいモノが落ちてるんだ。 今のところ把握してるだけでもここを含めて四つはあるんだけど、正直に言って今までの遺跡とはちょっと毛並みが違いすぎる気がするよ」

 クライドの反応を楽しみながら、少女は進む。 話の一つ一つに、神妙そうに頷くクライドが気に入ったのか、それとも元々説明好きだったのかは分からないがそのガイドはクライドにとって中々に有意義だった。

「そういえば、ロストロギアも見つかったんだよな? どんなのだ?」

「エネルギー結晶タイプがいくつかあったよ、それ以外にはまだ見つかってないかな」

「エネルギー結晶タイプねぇ……」

 クライドが咄嗟に思い浮かんだのは、青いのと黄色いのだった。 どちらもロストロギア扱いであり、原作に出てきた奴なのですぐに浮かんだイメージである。 まあ、青いのをここで発見することは無いだろう。 少なくともアレを最初に発見する人物はまだ生まれてもいないはずなのだから。

「多分、動力系統のためのだと思う。 高エネルギーが詰まったものらしいけど、私はまだ詳しくは知らないの。 それに私の専門はベルカ史だから遺跡に興味はあっても、ロストロギアはあんまり興味ないから」

「そうか……お? 班の連中がいたな」

 先に同じ制服を着た連中の姿が見える。 なんの説明をされているのかは分からないが、壁に刻まれた剣十字について講義をしているようだった。

「ベルカを象徴する図形……所謂剣十字はね、それ自体が四人の領主と聖王の偉大なる統治を象徴しているんだよ」

「へぇぇ……そうなのか?」

「うん。 それぞれ四つの方角に対して直角に伸ばされた刃が領主であらゆる災厄から中央にいる聖王を守り、聖王は四つの刃を持って国を治める。 剣十字ってのはベルカの国のあり方そのものを示しているんだよ。 だから、ベルカでは四という数字が好まれるんだって。 領主もそれぞれ四つの軍を持っていたという伝承が残ってるよ。 そういう形式とかを大事にしてた文明だったってことだね」

(ということは、守護騎士が四人なのもその名残なのか?)

 考えたことも無かった話に、クライドは純粋に関心する。 
 
「じゃあ、ミッドチルダにもそんな象徴みたいなものがあるのか?」

「うーん、確かミッドチルダには無かったと思うよ。 ベルカは結構自国の文化とかを大事にする文明なんだけど、ミッドチルダはいろんな次元世界の良いところを合理的に吸収していったある意味貪欲な世界だからそういうのに意味を見出さなかったんじゃないかな? まあ、ミッドチルダの歴史に詳しい人に聞いたら何か知ってるかもしれないけど……聞いてきてあげようか?」

「いや、そこまでは良いよ。 だけど……ミッドチルダが合理的で貪欲……か。 なかなか的を射ている評価だな。 それはスクライア一族の考えなのかい? それとも君の?」

「私個人の考えだよ。 歴史とか考古学とかを勉強してたら自然とそんなイメージがついちゃったんだ。 ほら、ベルカ式の魔法とミッドチルダ式の魔法の違いみたいなイメージだよ。 ベルカ式は基本的には遠距離を無視して一対一での決戦力を重視してるでしょ? あれってベルカの騎士の思想とかの影響をモロに受けてる考えじゃない。 質量兵器全盛の頃にそんな古い考えを押し通してたんだから、ベルカは自国の文化を物凄く重視して拘りを持つタイプだって思えるのね。 でも、ミッドチルダ式はどうかな?」

「近距離から遠距離までオールレンジに対応できるな。 それも、攻撃、防御、補助、全部が全部合理的に体系化されていて無節操だ。 ああ、つまりそれぞれにいい所があるんだからどうせなら特化させずに全部組み込んでしまえ、みたいな?」

「そうそう、そんなイメージ。 だから、その時々の時勢でいい所が変わったりするのよね。 昔は質量兵器万歳だったのが、今では魔法科学万歳じゃない? 象徴できるものが移り変わっていきやすいから象徴できるものが無いのかも」

「なるほどな……」

 魔法を例えにした話は、存外クライドには分かりやすかった。 思想の違いはデバイスにも大きく反映されているし、そういう世界的な特徴というのは中々に面白い。 そして、それは今の管理局の体制にも言えるだろうとクライドは考える。 

 合理的に貪欲。 例えば、ロストロギア<古代遺失物>に対するアプローチに対してもそうだ。 管理局はロストロギアを危険視し、回収封印する傍らその力を解析し自らの力へと取り込み続けている。 スクライア一族のように自らロストロギアを発掘し、研究しようとする一族など普通に考えれば彼らからの査察員が常に同行して着服などを妨害するだろうが、彼らの場合は研究成果をダイレクトに管理局に提出したりするので、いい意味で利用している。 管理局に従うなら、例え犯罪者でも更正プログラムを受けて社会復帰がある程度可能な緩さも持っているし、なかなか強かである。 まあ、その強かさが次元世界の平和維持のためになっているのだから、文句を言う人間はあまりいないだろうが。

「ふむ、じゃあそのうち魔法に何かしらの欠陥がでてきたらまた別のものに取って代わられるってわけかな?」

「その可能性は無いとは言わないけど……もうここまで来たらかなり難しいんじゃないかな? 新暦になってから結構経つけど、管理世界はもう魔法に支配されてるからね」

「クリーンで便利な魔法の力……か。 資質が無いと使えないっていう不便さも、それを利用して犯罪者の抑止に使ってるし……中々に出来たシステムだってことかな」

「そういうこと。 でもね、多分こんなのは最終手段に等しいと私は思うな。 だって、結局魔導師の中からも犯罪者って出てくるもの。 かなりの抑止力になっているといっても、犯罪者が無くなったわけじゃない。 これは、ただ戦う力を奪い去って抵抗できないようにしたからとも考えることができるでしょ。 本当に必要なのは、やっぱり質量兵器を持っていようと魔法を習得していようとそれを理性を持って制御できるようになることじゃないかな? それができたら、多分戦争なんて起きないよ。 まあ、これは理想論だけどね」

 少し恥ずかしげに少女はそういった。 

「まあ、な。 魔法も質量兵器も使うのは結局人間だからな。 最後の責任は人間にこそある」

「うん……そうだね」 

 兵器には罪は無い。 罪があるとすれば、それをそのように使った人間や作った人間にこそあるはずだ。 でなければ、クライドはあの四人を否定しなければならなくなる。 ある程度事情を知っているからこそ言える日和見の考えなのかもしれない。 被害者の嘆きを無視した考えでもあるだろう。 だが、クライドはそう思っていた。 そして、今彼らと災厄を制御しているのは間違いなく自分なのだということを思い出す。 

(やはり、できるのなら是が非でも闇の書を救わなければ成らないな)

 所持者としての責任を果たすべく、クライドは決意を新たにした。 そうして、こっそりと班の連中に合流しようとする。 が、その前に思い出したようにその場にしゃがみこむと、収納用のツールボックスからチョコレート味のカロリーブロックの袋を取り出す。  

「案内してくれてありがとうな。 普通の甘いお菓子とかあればいいんだけど、生憎持ち合わせが無くてな……変わりにこんなので悪いがやるよ」

 甘くないのなら持ち合わせていたものの、小さな女の子にはさすがにまだこっちの方がマシだろうとクライドはそれを差し出した。

「ううん、これ結構好きなんだ。 ありがとうお兄さん。 ……そうだ、お兄さん昼から東部の方でサバイバル訓練なんでしょ?」

「うん? ああそうだけど……それがどうかしたのか?」

「良かったら私も連れて行ってくれない? もし連れて行ってくれるんなら、まだ誰も見てない遺跡を見せてあげられるかもしれないよ?」

「……いや、そういう勝手なことはできないんだ。 それにそっちは発掘作業があるんだろう?」

 正直、遺跡には興味を惹かれるが何かあったときに責任など取れないのでクライドはやんわりと断る。 だが、少女は引き下がらなかった。 丁度近くを通りかかったキール・スクライアを捕まえるとなにやら話し始める。 どうやら交渉しているようだ。 普通で考えたら子供の我侭で終わるだろう。 だが、話すうちに見る見るキール・スクライアの顔が引きつり、赤くなったり青くなったりしていった。 そうして、二分ほどすると二人揃ってやってくる。

「……すまない、彼女の言う通りにしてやってくれないかい? その……ミハエル先生の方には僕の方から頼み込んでおくから」

「は、はぁ……」

「君の名前は?」

「クライド・エイヤルですけど……」

「クライド君……か。 うん、それじゃあお願いするよ。 危険なことはしないように彼女には厳命しておいたから大丈夫だとは思うけど、何かあったらすぐに帰ってきて欲しい。 彼女はその……族長の孫なんだ。 何かあったら大変だからね」

「わ、わかりました」
 
 族長の孫というところでクライドは嫌な予感を覚えたが、キール・スクライアからの見えない圧力に負けた。 というか、断ったら殺すとその目に書いてあった。 一体、少女から何を言われたのだろうか?

「じゃあ、よろしくお願いするよ」

 そういうと、キール・スクライアは早足で去っていく。 元々忙しそうだったのに、余計な仕事を増やされて参っているのだろう。 その背中からは、少し哀愁が漂っていた。

「なあ、一体どうやってあの人に返事を出させたんだ? あの人、見た感じ真面目で堅物そうな人っぽいし、こういうこと簡単に許可出しそうには見えないんだが……」

「え? その真面目で堅物君だからだよ。 だってキール今回の発掘に一族以外の女の人を連れてきてるんだもの。 それもお婆ちゃんに内緒で。 デートのつもりなのか良いところを見せたいからか知らないけど、帰ったらお婆ちゃんに言いつけるって言ったら、それだけで許可をだしてくれたよ。 あ、そうそう肩借りるねお兄さん」

 にっこりと無邪気な笑顔でそういうと、少女は変身魔法でフェレットの姿になってクライドの肩へとよじ登る。 

 フェレットになった少女にクライドは驚いたが、ああそういえばスクライア一族はそういう一族だったと納得するとそのまま好きなようにさせることにした。 肩だろうが頭の上だろうが、もうどうでも良かった。

「私の名前はミーア・スクライア。 よろしくねクライドお兄さん」

「ああ、よろしく」

 将来結婚相手を尻に敷きそうな強かさを持つ少女に答えながら、クライドは苦笑しつつ班へ合流していった。 その後、遺跡巡りの次に発掘されたロストロギアを見たクライドは三つの石がくっついたような緑のエネルギー結晶体――トリアスというらしい――を見て一瞬安堵したが、その後すぐにスクライアの人間が持ってきた物体を見て呆然とした。 それは色で言えば黄色で、なにやらシリアルナンバーが記載されている結晶体。 それは、どこぞの科学者が手に入れたそうにしているものにあまりににも似すぎていた。
















――稀に存在している不可解存在に関する報告書No67。

 公的に死刑判決が下され、死亡が確認されている犯罪者のうち死亡したはずの人間に恐ろしいほど酷似した魔導師が次元犯罪組織『古代の叡智』とともに出現し、犯罪行為に加担している事件が各地で起こっている。 幾度か死人に酷似した魔導師を捕獲するも、そのすべてが魔法攻撃でノックダウンさせると霧のように霧散し、捕縛できずに終わっている。 そして、そうして消えた魔導師と同じ魔導師が、再び別の案件で現れたこともあり、なんらかのロストロギアによって魔導師のコピー体が作られているのではないかと無限書庫内でその情報の捜索が開始されているが、そういった機能を持ったロストロギアの記述はまったく見つかっていない。 『古代の叡智』と名乗る次元犯罪組織の構成員の中で捕縛できた人間がいないために、捜査はかなり難航しているのが現状である。 執務官諸子には、くれぐれも彼らを見つけたら対応に注意してことに当たってもらいたい。


「……古代の叡智。 そんな分かりやすい名前で堂々と未知のロストロギアを使用してる癖に、まったく管理局の網に引っかからない謎の次元犯罪組織。 酷似した魔導師は便宜上リビングデッド<屍人>のコードネームで呼ばれている。 だが、一番理解できないのは、どこで、どうやって彼らをコピーしたのかということだ。 それさえ分かれば、網を張ることもできるんだが……」

 犯罪者たちには皆接点など無かった。 単独犯もいれば、犯罪組織に所属していたものもいたが、組織同士の繋がりやそういう組織と繋がりがあるとされる組織などほとんど管理局が潰してきたのだ。 だが、接収した証拠品から『古代の叡智』に繋がるような証拠は何一つ無く、存在しているかさえ怪しいという声もある。 だが、現にいるのだ。 彼らは存在し、裏でロストロギアを集めたりしている。 執務官となって初めての仕事で、とあるロストロギアを巡って彼らと戦った彼はその存在を執拗に追い続けていた。 別に回される仕事もこなしながらであったが、集めた情報のほとんどが参考にならないものばかりで、有益な情報は何一つ無い。 普通の執務官ならば匙を投げているところだろうが、彼はそれがどれほどの脅威なのかを考えると捜査の手を緩めることはできないと判断している。

「ニ十年前の次元犯罪組織の首領、空戦Sランク魔導師『断頭台』のグライアス・デュリック。 そして、四十年前の黎明期時代に暴れまわっていた総合AAAランク魔導師『人形遣い』のコンバイン・ソルディズン……あの時はグレアム提督がいたからどうにかなったけど、また現れたら並の魔導師じゃ歯が立たない……どうにかして、未知のロストロギアを封印しなければ、時空管理局にとって大きな脅威となる」

 思い出しただけでもゾッとする。 一年前のあの瞬間、あの場に上司であったグレアムが来てくれなければ彼は今頃死んでいるだろう。 若い執務官は当時のことを振り返りながらため息をつく。 人形遣いはどうにかなる相手だったが、断頭台の二つ名を持つ魔導師は強すぎた。 一撃で自分のデバイスを破壊され、成すすべも無く地面に叩き落された時の恐怖が未だに彼の脳裏に焼きついている。

 当時はAAAランク魔導師で駆け出しの執務官だったが、同ランクとなった今でもかなり厳しい戦いになるだろうことは容易に想像がつく。 デバイスも反応処理が一番速く頑丈さを追求したストレージデバイスに変更してはいるものの、果たしてどれだけやれるだろうか?

「一番恐ろしいのは、一度倒してもしばらくしたらまた再び蘇ってくることだ。 どういうカラクリなのか知らないけど、このまま凶悪な力を持った魔導師をいくつもコピーされたら人手不足の管理局じゃあいつか手が回らなくなる、そうなる前になんとかしなければ……」

 上に何度もそのように意見してきたが、大規模は捜査隊が結成されることはなかった。 そもそも存在するかも分からない未知のロストロギアに人員を割くよりも、例えば確実な脅威であると認識されている闇の書や解決急務の案件に力を入れるべきだというのが、上の見解だった。 だが、それでは遅いのだ。 連中が生み出すコピー魔導師、リビングデッドは犯罪者ばかりだがもし仮に管理局のエース・オブ・エースやストライカー級魔導師をコピーすることができるのなら、管理局の戦術的な優位がすべて向こうに持っていかれることになる。 そうなってから対処するとなれば、彼にはアルカンシェルなどで区画ごと消滅させるしか方法はないと考える。 明らかなオーバーキルだが、それほどに、高ランク魔導師は脅威なのだ。 AAAランクオーバーなら街一つ壊滅させることも不可能ではないのだから。

 幸い、彼の上司であるギル・グレアム提督は手を回して調査チームを編成してくれているものの成果はあまり無い。 そこに、見えない敵の狡猾さを感じてならなかった。

 読んでいた報告書をファイルしながら、彼は空間モニターを呼び出して現地の様子を軽く視察する。 どうやら、サバイバル訓練に移行するらしくスクライア一族の人間の協力で学生たちを次々と各地へと転移させていた。 と、その中で彼は知っている一人の少女の姿を偶然見つけた。 あの魔導師の名門ハラオウン家の息女、幼き嘱託魔導師リンディ・ハラオウンである。 どうやら、彼女とその隣にいるフェレットを肩に乗せた学生が最後の転送になるようだ。

「……そういえば、彼女今は陸士訓練学校にいたんだったか」 

 別段、知り合いというわけではない。 ただ、管理局から回される報告書や、仕事で一緒になったヴォルク・ハラオウン提督が自慢げに写真を取り出しながら孫の素晴らしさを延々と語ってきたときに覚え、一方的に知っているだけだった。

「これは、ことが起こってもなんとかなりそうだな」 

 少なくともSランクが二人。 これなら、何か起こってもどうとでもできそうだ。 転送されていく翡翠の少女を眺めながら彼は漠然と呟いて、次の書類へと手を伸ばそうとしたところで、彼は艦内に響いく緊急辞退を示すレッドアラームを聞いて舌打ちした。

『ディーゼル執務官、至急現地へ飛んでください!! 未確認の魔導師複数と奇妙な魔導機械が多数次元転送されてきました!!』

 空間モニターに表示されている女性通信士の焦った声に、状況の不味さを感じずにはいられない。

「くそっ。 学生の転送直後なんて、最悪のタイミングじゃないか!?」

 彼は急いで机から立ち上がると、トランスポーターまで走り出す。

『現在、未確認魔導師と魔導機械がスクライア一族の発掘している遺跡周辺と残りの発掘予定の遺跡に向かっています!!』

「武装隊の状況は!?」

『武装隊一個中隊をスクライア一族の護衛に、もう一隊を小隊に分けて残りの遺跡に向かわせています。 ディーゼル執務官にはスクライア一族の護衛が終わり次第、残り遺跡に回ってもらう予定です。 そのさい、護衛の武装隊を学生の回収に振り分けます』

「学生たちの方へは敵は現れていないのか?」

『今のところはまったく。 発見されている四つの遺跡にそれぞれ戦力を向けている状況です』

「……都合が良いのかどうか分からないな。 できれば、学生たちの保護を最優先にするべきだと思うが……」

 敵が学生たちを人質に取らない可能性も無いわけではない。 執務官は最悪の事態を想定しながら、眉間に皺を寄せる。

「艦長の考えはどうでしょうか?」

『ディーゼル執務官や武装隊員の腕を信用している。 最速で敵を撃破して欲しい。 こちらは一応増援要請を近くの艦に出しているところだ。 幸い、学生たちの転送経路はまだ生きている。 そこから人員を確保できれば、学生たちの方にも手を回せるだろう』

「……それがベストですね。 了解しました」

『気をつけてくれ。 我々がいることを理解した上での犯行に見えて仕方が無い。 増援要請後に学生たちは離れた場所に固まって移動するように連絡する……あまり彼らに不安を与えたくはないからな。 問題なく対処できるようならそのままにするが、何があるか分からんからな』

 トランスポーターに飛び込む執務官に、次元航行艦の艦長が言う。 それに頷きながら執務官は出撃準備を整えていく。 黒のバリアジャケットを着込み、愛用の杖型デバイス『S1U』を起動する。 それと同時にトランスポーターに電源が入り、執務官の身体を淡い光が覆っていく。

「クライド・ディーゼル執務官、出ます!!」

 次の瞬間、執務官は光の粒子となって戦場へ転送された。 だから、彼は知る由もなかった。 彼の転送を最後に、次元航行艦が何者かによって破壊されてしまったことを。 それに気がつけたのは、先に下りていた武装隊員と合流し迎撃体制を整えようとしたときだった。 孤立無援。 若い執務官の苦難はこうして幕を開けた。

コメント
携帯からなのでサイトの方針はいまいち分かりませんが、楽しみにさせて頂いておりますm(_ _)m
【2008/04/14 22:47】 | ソフィア #HTc4V8B6 | [edit]
 ソフィアさん、どうもコメントありがとうございます^^
楽しんでいただければ幸いです。 でも、そうですね。 方針ですか……ぶっちゃけそんなのないですねw
 暇つぶしというか空虚を満たすためにやってるだけなんで、無軌道に自堕落にやってる自己満足サイトみたいな感じになってますよ。
【2008/04/15 02:14】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
クライド…。グレアム提督と知己ということは、原作のクライドはもしや、と思ってしまう自分。
【2008/05/13 02:57】 | たたたん #JalddpaA | [edit]
たたたんさんコメどうもです。
今は、全てはまだ謎と言っておきますねw
【2008/05/13 20:42】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]












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