スポンサーサイト

 --------
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリ :スポンサー広告 トラックバック(-) コメント(-)

憑依奮闘記 第七話(なのはSS オリ主憑依系)

 2008-04-15
 それは、ひっそりと深遠の宇宙を飛翔していた。 不思議なことに、それは管理局の航行艦に見つかることなく真後ろにぴったりとついている。 通常なら、レーダーなどで察知されるはずなのだが、まったく見つかっていない。 それどころか、それはまるで暗黒の宇宙に溶けるようにして存在している。 勿論、それは普通ではない。 目の前にいる時空管理局の艦船に見つからないようにある特殊な技術を用いて迷彩を施していたからだ。 だが、そんなものが普通に存在して良いのだろうか? 管理局が次元世界での管理に用いるべく開発した艦船なのだ。 対迷彩処理が施されている次元航行艦がこうも容易く騙されるというのは、おおよそ常人には信じられない事実であっただろう。
「さて、それじゃあ始めようか」

 ブリッジに立つ白衣の男が、楽しげに呟く。 と、その眼前に地面から伸びるようにクリスタル箱に入れられた鍵穴が延び、丁度男の胸の前にやってくる。 その鍵穴に、白衣の男が手に持っていた鍵を差込み捻る。

 瞬間、チャンバーに貯められていた膨大なエネルギーが解放され、彼の乗る艦船の前方にバレルを形成。 魔導師などには到底生み出せないような莫大な推進力を与えるそのバレルの先にいるのは、そこでようやく彼らに気づいた管理局の航行艦。 局員の転送はもう終わってしまったようだが、今更こちらに気がついたところでもう遅い。 形成されるバレル内を、管理局の切り札たる魔導砲『アルカンシェル』の弾体が通過する。 ただ、それだけで加速されたそれは一条の閃光となって航行艦にぶち当たり、次の瞬間周囲の空間ごと反応消滅させながら消えていく。 膨大な閃光が宇宙の闇を青白い閃光で犯す。 だが、それも一瞬のこと。 次の瞬間にはもう、宇宙はその暗黒の静けさを取り戻していた。 

「はっはっは!! 圧倒的じゃないかアルカンシェルは!? さすがアルハザード時代から最強クラスの兵器と謡われてきた力だけのことはある!!」

 あまりに凄まじいその威力に、白衣の男は興奮を隠しきれない。 現状、管理局の絶大なる力の象徴の一つであるその魔導砲の一撃を止める術など存在しない。 それは、それを持つ管理局内でも周知の事実であり、常識。 ミッドチルダに敵対した数々の次元世界を闇に葬ってきた最強の兵器と呼ばれる所以だった。

「……ドクター、周囲に敵影反応ありません」

「ああ、そうだろうね。 アレを食らって無傷でいられる艦船などありはしないよ。 予定通り、広域AMF発生装置を投下しておくれ。 その後は、ゆっくり見物しようじゃないか。 私の兵器の原型と、君たち『古代の叡智』の誇る実戦部隊リビングデッドの力を!!」

 子供のように無邪気に語るその男は、薄紫の髪をたなびかせながら楽しげに言う。 が、ドクターと呼ばれた男の様子に呆れたように、隣にいた長身の男が口を開く。

「ふん、そんなにさっきの玩具が気に入ったのか?」

「ああ、当然だとも。 アレは管理局の切り札なんだよ? それを、この私自ら起動させることができるなんて、もう最高さ!!」

 そういうと、ドクターは手に持っていた鍵を男に差し出す。

「ありがとう、イーター君。 これはもう、今日は興奮してベッドで眠れそうに無いよ」

「それは良かった。 だが、あんたにはまだ仕事があるんだろう? ベッドにつくにはちぃと早い」

 鍵を懐に戻しながら、イーターと呼ばれた男がニヤリと笑う。 その凄惨な笑顔は、凡そ人間の感情表現からは程遠い。 どこか無機質で、まるで生物としての温かみを感じさせない。 だが、ドクターはその恐ろしい笑顔に、こちらは人間味のある笑顔で答えながら視線を交わす。 中々に狸な二人だった。

「……広域AMF発生装置、投下開始します」

 だが、そんな二人を無視してオペレーターの女性が命令を着々と実行していく。 と、航行艦のブリッジの両側の射出口から円柱のポッドのようなものが四つ打ち出されていった。 やがて、そのポッドはそれぞれ効果コースをとりながら”予定”通りの位置に降下していく。

「ふん、まあ良い。 老人からの任務はあんたのデータ取りとロストロギア回収の手伝いだけだ。  ウチの主がどういうつもりであんたらに付き合えと言ったかなんて知らんが、精々玩具を壊されないようにな」

「心配してくれてありがとう。 だがね、現段階ではまともな戦闘など期待はしていない。 今回はあくまでデータ取りだし、どれだけの効果が認められるのかを判断するためのいわば試験運用だ。 むしろ、壊されるなら壊されたで次に生かすだけさ。  君のところのリビングデッドと同じように彼らは”データ”として生き続けることができるし……ね?」

「――ふん。 だが、できるだけ学生は殺さないようにしておけよ。 何せ、彼らはこれからの”時空管理局”の大事な新人候補たちだからな。 おっと、スクライア一族もそうだな。 あいつらはいつもいつも良い仕事をしてくれる」

「ええ、そのつもりですよ。 もっとも、戦場で彼らが立ち向かってきたら保障できかねますが」

「はっ、どうせなら立ち向かってきて欲しいって面してるぜ?」

 ドクターの笑顔の裏を読みながら、イーターは言う。 イーターには、今回の任務が気に入らなかった。 別段、新しく発見された遺跡とそこにあるだろうロストロギアを回収することに異議は無いが、態々時空管理局がいるときにそれを行えという命令にどこか釈然としないものを感じていたのだ。 それに、目の前の男にしても老人にしても”主”に歯向かおうと企む獅子身中の虫である。 今はまだそういう素振りを見せないものの、何故それを理解していながら彼らの好きにさせておくのかが理解できなかった。

「……四機ともに目標地点に降下中。 大気圏突破後のステータス異常無し。 降下完了後に予定通り起動するようにセットします」

「ああ、どうもお嬢さん。 さて、それじゃあお手並み拝見といきましょうか。 我らの”時空管理局員”の健闘を祈って……ね?」

「ちっ」

 苛々を吐き出すように舌打ちするイーター。 その不快なそうな顔をクツクツと嘲笑いながら、ドクターは呟く。

「古代ベルカの遺産……どれほどのものかな。 老人たちや私が望むようなものがそうそう手に入るとは思えないのだがね」

 どこか期待するように呟かれた言葉。 だが、ドクターの声には何か楽しげなモノがあると確信しているようにイーターには聞こえた。










憑依奮闘記
第七話
「過去からのマレビト」









 気がつけば、クライドは見たこともない場所にいた。 一言で言えば深い森。 青々と生い茂る木々乱立し、樹齢何百年もいっていそうな巨大な木々がその存在を主張している。 まるで、迷いの森にでもやってきてしまったようにクライドは感じる。 木々をざわめかせる風が、薄っすらと肌を撫でて行く。 人工物に囲まれて久しくなかったその自然の息吹に、思わずクライドは深呼吸した。 

「ん……空気が美味しいな。 さすが、人がいない惑星だけのことはある」

「ふふ。 そんなに珍しいかな?」

 肩にちょこっと乗っかかっているフェレット姿のミーアが、周囲を見回して感嘆を挙げるクライドを可笑しそうにくすくすと笑う。

「ああ、ミッドチルダの南部に家があるんだが、そんなもの比べ物にならない程だ。 存外、このサバイバル訓練もいい気分転換になりそうだな」

「あ、不良なんだ? 訓練に来てるっていうのに」

「最近の学生はこんなもんさ。 ……さて、まずは位置を確認しないといけないな」

 ツールボックスから掌サイズのレーダーを取り出すと、クライドはそれを起動する。 既に、この星一帯の地図は入れられており、学生たちがお互いに持たされている発信機の信号が光点となって地図上に映し出されていく。 近距離モードから遠距離モードへと縮尺を変えながら現在の居場所を確認。

「私にも見せて」

「ああ」

 身を乗り出してくるミーアに見えるようにしながら、周辺の様子を頭に叩き込んでいく。 まずは、水場を確保したところだった。 幸い、サバイバル演習区画は砂漠地帯ではなく自然が多い森林地帯。 であれば、どこかに川や湖の一つや二つはあるだろう。

「近くに川とかは……あるな。 うん、中々幸先が良い」

「まずは寝床の確保から?」

「ああ、そこを拠点にのんびり過ごそうかなと思ってる。 ……が、そうだな。 別に荷物は全部ツールボックス内部に収納できてるし、一日目は別にどこに陣取っても問題は無いかな。 先にミーアの言う遺跡って奴を探してみるか?」

「いいの? 結構ここから離れるよ?」

「大丈夫さ、このサバイバル訓練は別に訓練位置が決められてるわけじゃない」

 飛行魔法を展開し、そのままクライドはレーダーを片手に跳躍する。

「うわっとと……」

「おっと悪い」

 体制を崩しかけたミーアを左手で押さえながら、クライドは木々の上へと飛び上がる。

「もう、急に飛び上がったら危ないでしょ」

 ミーアが軽くクライドの頬っぺたをフェレットの腕で小突く。 だが、プニプニな肉球の感触がくすぐったいだけで、大した抗議にはなっていない。

「すまない。 そういえば、ミーアはどれぐらい魔法を使えるんだ? 飛べないってことはないよな?」

「うん。 そうだね、だいたい攻撃系以外は使えるよ。 家の一族は攻撃系は何故か皆苦手なんだよね。 その分防御結界とか支援系は得意なんだけど」

「一番得意なのはフェレットへの変身魔法だっていうけど、本当なのか?」

「そうだよ、相性がいいんだよね。 スクライア一族の体質なのかな」

 そんな体質が存在するのかどうか知らないが、クライドは軽く笑った。 環境が変わったことで、どうやらクライドの意識にも少し変化があるらしい。 本当なら一人でのんびりしようとしていただけに、話し相手ができたことが存外嬉しいのかもしれない。

「さて、どっちに行けばいいんだ?」

「えとね……あー、方角がわかんないや。 コンパスは?」

「勿論、用意してある」

 取り出したそれとレーダーを軽く魔法で浮かせると、見やすいようにミーアの前に送る。 それを見てミーアが頷くと、彼女の支持に従ってクライドは移動を始めた。

「そうそう、どうして私が遺跡を見せられるかもしれないっていったのかを説明してなかったね」

「そうだな、見つかってたら普通スクライアの一族がここを訓練場に勧めてきたりはしないはずだしな」

 大体、今いるのはスクライア一族が学生たちに見学させた場所より真東の位置だ。 ただ、それだけのことなのだが何か彼女の直感に触れるものがあるというのだろうか?

「剣十字の話をしたよね? 四人の領主と聖王の話」

「ああ」

「四という数字は確かにベルカでは好まれている。 でもね、だとしたら一番好まれる数字は別にあるはずなんだ。 完全数って言えばいいかな? 一から十の間にあるけど、分かる?」

「……いや、降参だ」

「簡単な話だよ。 四の領主と聖王。 ほら、こんなの簡単な足し算だよ」

「なるほど、つまり五か? 四方を守る領主と中心にいる聖王。 剣十字の由来から考えれば領主だけでは不完全だ……聖王が中心にいてこそ意味がある四方の守りというわけか」

「そういうこと。 でね、今さっきまで僕たちがお兄さんたちに発掘の様子を見せてた場所がちょうどその剣十字の中心地点。 剣十字の聖王を象徴する中心座標にあったんだ。 そして、現在見つかっている遺跡はその聖王の位置のものと、後は北と南と西だけにあった。 こう考えると、一つ何か足りないよね?」

「何も無い東か……一見四が好まれる数字だとしても、それは不自然な位置にあり完全ではない。 であれば、欠けた部分に何かあるかもしれないわけだ?」

「そういうこと。 勿論ただの偶然だっていうのもありえるよ。 けどね、私の女の感が何かあるって囁いてるの」

「……スクライア一族としての直感とかじゃないのか?」

 元の少女の姿を思い出し、クライドは少し苦笑する。 だが、心外だを言わんばかりにミーアは抗議の声を上げた。

「酷いよ、私だってもう立派なレディだよ?」

「いや、そういうのはまだ早い気がするが……」

 背伸びしたい年頃なのだろうか?

「もう、失礼だよお兄さん」

 再びペチペチと頬を叩いて認識の改善を要求してくるミーア。 そんな微笑ましい少女を連れながら、クライドは壮大な自然の上を飛翔し続ける。

 ミッドチルダの街では基本的に飛行魔法を使用できる区画は少ない。 こうやってなんの気兼ねも無く飛べるのはありとあらゆる束縛から解き放たれたみたいで、少し気分が高揚していた。 勿論、未知の遺跡への興味もありいつもより心なしか飛行速度が速い。 現金な自分の様子を自覚しながらも、クライドはしかしそのままにした。 精神年齢が肉体に引きずられていると言えばいいのか。 そういう少年の感性を楽しみたかったのだ。

「そうそう、東の方角といえばデバイスマイスター見習いのお兄さんにとって興味深そうな話があるよ?」

「へぇぇ……どんなだい?」

「何代目かとかは知らないけどね、ベルカの東部を治めていた領主の話なんだけどね、その領主は管理局の中でも結構有名なロストロギアを作ったんだって。 今でもA級の捜索指定ロストロギアで、相当に極悪なデバイスらしいよ」

「……あー、もしかしてアレか?」

 自分の所持しているソレが世間一般では有名である。 認知度で言えばダントツなだけにクライドは頬を引きつらせながら尋ねた。

「そう、その名も闇の書。 でもね、本当の名前は違うんだよ? 東の領主が治める地方の名前を夜天って呼ぶらしいんだけど、そこからとって、『夜天の魔道書』とか『夜天の書』っていうのが本当の名前なんだって。 どこをどうやって闇の書なんて名前で広まったのかは、その魔道書の災いから見てなんだろうけど、余りにも違いすぎると思わない?」

「それだけ、その魔道書が怖かったってことなんじゃないか?」

 暴走した闇の書の防衛プログラムが実体化した姿を想像しながら、クライドは言う。 少なくとも、あの姿を見ればそういう目で当時の人が見てしまっても不思議ではないと思う。 もっとも、管制人格の容姿はアイドルでも通用しそうなほど見目麗しいものなのだが。

「かもしれないね。 でも、それだって歴代の持ち主に改造されたからって話だよ? その夜天の書って元々は魔導師の魔法を研究するためのものだったんだ。 でも、いつの間にか改造されて融合機としての側面まで手に入れて、そこから闇の書って言われるようになっているんだ。 元々はストレージデバイスだったのに、ユニゾンデバイスでもあるなんてそんなの不思議と思わない? でも、実はもっと不思議なこともあるんだけどね」

「もっと不思議なこと?」

「だって、少なくとも夜天の書は”ロストロギア”なんだよ? そんなものをどうやって改造するっていうの? 当時の技術力はアルハザードの影響で凄まじいことになっていたのに、何代も後の持ち主にどうやってそれを改造するだけの技術があったっていうんだろう。 ユニゾンデバイスにしたって、今でも純粋に再現不可能で模倣してなんとかそれっぽいのに出来ているだけだよ。 そういうのを考えると何か、私には引っかかるものがあるんだよね」

 ミーアはそういうと顎に手を添えて唸る。

「それに、他のことでもそう。 ベルカ崩壊の謎といい、アルハザードといい、古代のベルカの歴史には不鮮明な部分が多すぎるんだ。 歴史が所々歯抜けだったり、まるで虫に食われたみたいにぽっかりと空白期がある。 旧暦の462年の次元断層のせいで色々と当時の資料が散逸しているせいもあるって言っても、被害をほとんど受けなかった”当時のミッドチルダ”の歴史研究家の記録からさえ”不自然”なほどに情報が無かったりする……無限書庫の中もそうだし、何か変なの」

 それは、歴史や考古学を研究してきた者としての悔しさから出た言葉だったのかもしれない。 クライドはそれほどベルカ史について詳しいわけではないから、どこがどう不自然なのか理解できなかったが、それでもスクライア一族の長の孫だという彼女がの言葉を覚えておこうと思った。

 何かが変だというのは彼自信も考えていたのだ。 それは自分の今の不自然な境遇であったり、闇の書の主に選ばれていることも含めてだがまるで、今まで知っている世界が仮初のものであると考えるときがある。 だが、それは今を信じ切れない弱さであるとクライドは思ってきた。 しかし、そうではないとしたら? まるで、誰かの掌の上で踊らされているのだとしたら? 飛躍する考えが頭をよぎる。 だが、クライドにはそれを立証する術は無い。 行き当たりばったり、自分のしたいようにやっていくことしかできないのだ。

「ま、謎の解明はミーアに任せるよ。 俺はそういうのさっぱりだし」

「あははは、私が生きているうちに解明できたら良いんだけどね」

「期待してるよ。 未来の族長殿」

 今はただ、できることをするまで。 そう考えながらクライドは少し飛ぶスピードを上げようとした。 そんなときだった、”その声”が聞こえたのは。


――あら、あなたは答えを知りたくてここに来たのではなくて?


「……? ミーア、お前今何か喋ったか?」

「うん? 何も喋ってないけど?」


――そう、貴方は私を知ってここに来たのではないのね。
  いいわ、だったらこちらへ招待してアゲル。


「……まただ、やっぱり誰かの声がする」

 クライドは移動するのを止めると、警戒しながら周囲を探った。 しかし、周囲には森が広がるばかりで誰もいない。 勿論、これだけ深い森だ。 誰かが隠れているというのなら気づかないこともあるだろう。 だが、デバイスのセンサー類を誤魔化すことなどできるだろうか? 先ほどから感度を最大にして探っているものの、まったく知覚できない。 あるいは、ステルス迷彩を施した相手だというのだろうか?

「どうしたのクライドお兄さん?」

「……」

 気のせいであれば良いと思った。 だが、クライドのその願望は次の瞬間に消し飛んでいた。

「――ぐっ!?」

「わっ!?」

 まるで、一瞬にして次元転移させられたような感覚だった気がする。 いきなり、何者かに襟首を掴まれたかと思えば、瞬きをした次の瞬間に周囲の光景が一変していた。 どんな手品であればそれが可能だったのか。 こんな魔法をクライドはまったく知らない。 

「転移魔法? いや、だとしても全く魔力を感じなかったぞ!?」

 いつの間にかクライドは地面の上に立っており、森の中にいた。 まるで、狐や狸に化かされた気分だった。 

「嘘、さっきまで空にいたのに!?」

 肩に乗るミーアもまた、一瞬の転移に驚いている様子だった。 彼女とはぐれたわけではないことに安堵しながら、クライドは周囲を油断無く探る。 見たところ、森の中で少し開けた場所といった様子だ。 近くには緩やかに流れる小川があり、その隣には簡素でありながら優雅なログハウスが一軒立っている。 まるで別荘といった風情だったが、こんな風景はそもそもありえないはずだった。

(何故誰もいないはずのこの地に家などが建っている?)

 と、そこまで考えて胸倉を再び掴まれたクライドは、問答無用で視界を下へと向けさせられた。

「へぇ……身長差を利用してこの”私”を無視するなんて……貴方、いい度胸ね?」

 幾分か機嫌を損ねた様子の少女がいきなり目の前に現れて、クライドは目を瞬かせる。 だが、そんなクライドの様子など関係ないとばかりにその少女はクライドの耳元に首を寄せると、小さな唇を寄せて囁く。

「――二度目は無いと知りなさい、この下郎」

 ゾッとするような声色で、少女はそういう。 と、少女の左手の指先ががクライドの首元をを撫でるようにして動いた。 次の瞬間、クライドは自分の首に微かな痛みを覚え、思わず首を押さえる。 その手に感じるヌルッとした感触。 それは、紛れも無く薄皮一枚切られた首筋から流れたクライドの血であった。 思わず、クライドは首をこくこくと動かし、少女に頷く。 反射的な行為であったが、それでどうやら少女は機嫌を取り戻したらしい。

「ふふ、物分りの良い子ね。 分かればいいのよ」 

 左手に付着したクライドの血を艶やかに舐め上げると、少女はようやくクライドの胸倉を開放した。 

「貴女何者!?」

 ミーアがクライドの肩から飛び降り、変身魔法を解きながら尋ねる。 だが、そんな彼女を完璧に無視して少女はクライドを見ていた。 口元に浮かぶ笑みが、クライドには酷く恐ろしく感じられる。 まるで、蛇に睨まれた蛙だ。 しかも、少女から感じられる魔力量が尋常ではない。 明らかにフルスペック時のリンディと同等かそれ以上のように感じられた。 全身を襲う悪寒が消えない。 冷や汗が背中を伝って落ちていく感覚まで感じ、クライドはもはや抵抗など無意味であると悟る。
 戦力差など、考えるだけ無駄であろう。 殺気など少女は出していない。 ただ、そこにあるだけで敗北したように相手に感じさせるその威圧感は、全身から放たれている圧倒的なカリスマ故か。 思わず頭を垂れてしまいそうな貫禄に、クライドは指一つ動かすことができない。

「ふふふ、やっぱり貴方は物分りが良いわね。 もう、どうにもならないことを理解している。 そこの小動物とは大違い。 いいわ、少しだけ好感が持ててきたわ。 口を開くことを許可しましょう」

 と、その瞬間クライドの身体が金縛りから解かれたように脱力する。 全身の力が抜けていた。 ついでに言えば、呼吸まで身体は忘れてしまっていたらしい。 荒げるように空気を吸い込みながら、クライドは思わず膝をついた。

「クライドお兄さん!?」

 膝をついたクライドに駆け寄ったミーアが、クライドの身体を支えようと肩を押さえた。

「――大丈夫だ、それより……」

 クライドは顔を上げて少女を見る。 アンティークドールのような美しい黒のドレスを身に纏った小柄な少女だった。 リンディと同じぐらいの年齢に見えるが、そんなものは”見かけ”だけだ。 まさか、本当に見た目に相違ない年齢であるというわけではあるまい。 まるで、人間を超越した何かのようだ。 足元まで延びる艶ややかな黒髪に、絹のように透き通った白い肌。 その相貌に宿る紅眼は、見るもの全てを従える絶対者の風格を持っている。 どこか、あの統制人格の少女に似た容姿を持つ少女だった。

「……あんたが、俺たちをここへ運んだんだな。 ここは……どこだ?」

「貴方たちが目指していた場所よ。 ここは剣十字の東方、夜天の地。 私はそこに住むたった一人の住人よ。 もっとも、ここに来られるのは私か条件を満たしている人間だけ。 勿論、資格を持っていたのは貴方だけよ。 そこの小動物には本来ここに入ってくる資格さえ無いわ。 けど、今日の私は機嫌が良いの。 だから、一緒にここへ招待してあげたわ」

「ここへ来るための資格っていうのは?」

「あら、本当はもう判っているのではなくて?」

 それ以上は言わず、薄く笑う少女。 クライドの口からそれを言わせようというのか、それ以上はクライドを見つめるだけで話そうとはしない。 一瞬の沈黙であったが、それ以上は埒が明かないとばかりにクライドは言葉にすることにした。 隣にいるミーアが気になったが、それでもこの場でだんまりを決め込んで相手の心象を損ねた場合のほうが恐ろしい。 意を決して言葉にした。

「……俺が現在の夜天の書の主だからか?」

「え!? お兄さん、それどういうこと!?」

 クライドの発した言葉に、ミーアが驚愕の声を上げる。 だが、それには答えずにクライドはジッと少女を見た。

「ふふ、そうね。 勿論”それ”もあるわ。 けれど、それと同時に貴方には稀有な能力があるでしょう? 私はその両方を兼ね備えた人間が現れるのをずっと待っていたのよ」

 嬉しそうに笑みを浮かべる少女は、軽く唇を舌で舐めて湿らせながら続ける。

「レアスキル”現状維持”を持っている人間はほとんどいないんだもの。 かなりの次元世界を探してきたけれど、私が知っているのはアルハザードにいるジルを除けば貴方だけよ。 でも、まさか私が貴方を探し出すよりも先に夜天の書が貴方を見つけていたなんて、なんて偶然。 しかも態々私の住んでいるここにやってくるなんて、これは一体なんという奇跡なのかしら? どちらも同時に押さえるのは酷く面倒だから助かったわ」

「アルハザードのジルっていうのは?」

「ああ、この計画の発案者よ。 もっとも、それは苦肉の策でしかなかったのだけれど……」

「ちょっと待って、やっぱりアルハザードは存在するのね!? 貴女は一体何を知っているの!?」

「アルハザードがあるなんて当たり前じゃないの。 どれだけ”あの男”が事実を隠蔽してきたかなんて、知っている人間が見たら一目瞭然じゃない」

 何を今更、という風に少女は嘲笑する。

「ああ、でも貴方たちは隠蔽された後の世界しか知らないのよね。 だったら、知らなくても無理はないか」

「……あの男っていうのは?」

「ベルカを生贄にしたミッドチルダのペテン師よ。 ”オリジナル”は始末できたのは確認できているんだけど、コピーが何度も発見されていてね。 まったく厄介な話よ。 現れる度に殺してあげてるんだけど……”いい加減”終りにして欲しいわ。 もっとも、まだどこに中枢が存在するのかが把握できていないからこちらもそれ以上手出しをできないんだけど。 もしこのまま後三千年ぐらいの間に見つかってくれないとミッドチルダが管理世界ごとアルハザードの過激派に消されてしまうわ。 大変な話よね? また、”あの時”みたいに無関係なものたちが消えていくの。 次元世界も、人間も、星も、宇宙も。 例外なく無慈悲に殺されるわよ。 あの男がいるかも知れないという理由だけでね」

 クライドとミーアはその言葉を聞いて唖然としていた。 伝説の都であるアルハザードの存在を当たり前のように認識しているその少女は、アルハザードがミッドチルダに攻め込んでくると言っているのだ。 これで、驚かないわけが無い。 いや、そもそもその言葉に現実感というものがなかった。 何を持ってそう確信しているのかは分からない。 だが、そんなことが本当にありえるのだろうか?

「ジルがなんとか押さえ込んでいるけれど、過激派の我慢に限界が来るのはいつ頃かしら? ふふ、でもアルハザードの人間は結構我慢強いから、もしかしたら一万年ぐらいはもつかもしれないわね」

「あんたも、そのアルハザードのジルって奴もそれを止めようとしているのか?」

「ええ、一応はね。 だってそうじゃない? ”あんな男”のために流す血なんてどの世界にも一滴たりともありはしないわ。 私はね、外界から守られているこの次元世界が大好きなのよ。 昔は酷くつまらなく感じていたのだけれど、”一度”殺されてからは見るものが全部尊く見えて仕方がないわ。 それに、あの男がやろうとしていることは全て叩き潰して、存在の痕跡から目論見に至るまでの全てを粉砕しなければ気がすまないの」

 ”あの男”とやらは、どれだけ少女の怒りを買うような真似をしたのだろうか? 時々混ざる純粋な殺意に、クライドとミーアは顔を青くして耐えるしかなかった。

「あら、ごめんなさい。 少し怖がらせてしまったかしら?」

「そう……だな。 あんたの殺気は心臓に悪すぎる。 今度から自重してくれると助かる」

 まるで、心臓を鷲づかみにされたような気分だった。 気の弱い人間ならそれだけできっと天国へ逝けるだろう。

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。 私が貴方に望むことはたった一つよ。 勿論、これは等価交換。 タダでとは言わないわ。 そんなことをしたら私の器が知られてしまうものね」

「なら、参考までに聞いておく。 見返りは?」

「私の時間……未来永劫の時間を貴方にあげるわ」

 答えは間髪いれずに返ってきた。 何の躊躇も無いその言葉に、クライドは唖然とするしかない。 何を言い出すのかと、その目が問うていた。

「冗談……じゃあ、なさそうだな?」

「ええ、勿論意味を理解して言っているわ。 それぐらいでなければ釣り合わないのよ」

「は? 何を言って――」

「貴方から有限を私たちは取り上げた。 なら、永遠を対価に差し出すのは酷く当然のことでしょう? 刹那の永劫と永遠の牢獄。 比べればどちらが苦しいかなんて簡単に理解できるわ。 そして、貴方は最終的に全ての時間から解き放たれる。 それはきっと、とても辛いことだわ。 私たちは終りを望めば終われるけれど、貴方はもうどんなに望んでも永遠に”終われない”のよ。 貴方が手に入れた夜天の書にはもう、貴方という存在が刻まれてしまっているのだから。 今更だけど謝っておくわ、御免なさい」

 そういうと、そこで初めて少女は頭を下げた。 クライドはそれにどれほどの意味が込められているのかは理解できなかったが、何か物凄いことをされてしまっているのだということだけは理解できた。 と同時に、目の前の少女に対する警戒心というのを完全に捨て去る。 別段、少女にはこちらを害する気など元からないのだ。 首の一件は多分、偶然とか事故だとかそういう類のものであると強引に考えるクライド。 嫌なことはさっさと忘れたいというヘタレな思考からの考えだった。

「正直、その……よく分からないことばかりなんだが……説明してくれれば助かる」

「そうね、今の段階で教えて上げられることだけは教えてあげるわ。 そうそう、貴方に頼むことを言っていなかったわね。 事後承諾になるけどいいかしら?」

「良いも悪いも無い気がするんだが……それで、俺はこれから一体何をすれば良いんだ?」

「――まずは蒐集を全く行わずに、”一回”生きなさい。 最終的な目的は”あの男の完全殲滅”だけれど、そのための情報を得るのにこれから貴方を利用させてもらうわ。 二回目は一度目の情報収集でどれだけ集まっているかが問題ね。 あいつは単純だから何か気に入らないことがあればすぐに尻尾を出すとは思うから、それまでは生餌に徹して頂戴」

「……つまり、俺はそいつを吊り上げる餌ってわけか」

「そういうこと。 貴方を夜天の書は侵食することができない。 それは、貴方が持つレアスキルが貴方を守るからよ。 そして、一向に侵食も蒐集もされなければ向こうが勝手に動き出すわ」

「それは……つまりあんたらの殲滅対象が夜天の書の関係者だってことなのか? ミッドチルダの男なのに?」

「ええそうよ」

「ちょ、待ちなさい!! 普通のミッドチルダの人間はどうやったって夜天の書と繋がりなんてあるわけないじゃないの!?」

「……煩いわよ小動物。 貴方の常識と違っていたとしても、真実は動かないのよ?」

「小動物言うな!! 私にはミーア・スクライアって言う名前があるんだから!!」

「あら、貴方スクライアの子だったの? だったら、貴方は抱きこんでおかないと邪魔になるかしら?」

 気がつかなかったとばかりに少女呟き、そっとその右手をミーアの方に向ける。 次の瞬間、ミーアは少女に顎に手を添えられた状態で少女の目の前に立っていた。

「じゃ、邪魔ってな――!?」

「馬鹿な!?」

 一瞬の出来事だった。 モーションはただ手を向けただけ。 だというのに、一瞬で隣にいたミーアがいなくなっている。 魔法ではない力、レアスキルなのだろうか? それが何かクライドには理解できなかったが、それが恐ろしい力であるということだけは理解した。 もし、本当に手を向けただけで相手を引き寄せることができるというのなら、彼女からはどんな存在も逃げられないことになる。 加えて、ただそこにいるだけで感じる膨大な魔力。 これだけの魔力を有しているのだ、魔導師でないということはないだろう。 あれだけの魔力量を引き寄せた瞬間に叩きつけられれば、掴まれた相手は回避など不可能だ。

「ふふふ、貴方たちは確か随分と好奇心が旺盛な墓荒しの一族だったわよね?」

「わ、私たちは発掘を生業とした考古学者の一族よ!!」

「どっちだって同じでしょう? 考古学のためなら墓を荒らす一族なんだから」

 クライドにしたように、彼女は左手でミーアの首筋をなぞる。 と、ミーアが微かな痛みに首筋を押さえるのと同時に薄っすらと血が流れ出る。 それを、ペロリと舐める少女。 その様はまるで、吸血鬼か何かのようで酷く艶やかだった。

「これでよし、貴方も私の距離に刻んでおいてあげるわ。 もっとも、何か余計なことをしたときに処分するためというのは言わずとも分かるでしょう?」

「――ひゃっ!?」

 紅眼が鋭い視線でミーアを射抜く。 至近距離でそれを見たミーアは全身を気の毒なほど震わせる。 無理も無い。 あれでは、トラウマになっても仕方ないだろう。 自分の命を得体の知れない存在に握られているという恐怖。 それがどれだけの恐怖なのかは想像に難くない。

「そこまでにしてやってくれないか? あんたが今用があるのは俺だろう?」

「そうね……でも、どうしようかしら? このまま何もさせないという選択肢が私にはどうしても浮かばないのよね」

 面白いことを思いついた、とばかりに良い笑顔でそういうと、カリスマの少女はミーアを抱き寄せる。 そうして、いつの間にか持っていた紅いビー球にも似た宝石のペンダントをミーアの首にかけてやった。

「ふふふ、貴方たちは存外に使い道がありそうだし宿題を上げるだけで許してあげる。 あの男に隠蔽されていない歴史がそのデバイスにはデータとして入力されているわ。 貴方は、スクライア一族のプライドにかけて闇に埋もれた歴史を”証明”してみなさい。 それができれば、私は貴方には何もしないでお友達になってあげる」

「な、何で私が――」

「あら、興味は無いの? 次元世界の歴史の空白<ミッシングリンク>、貴方たちが逆立ちしたって思いつかないようなデータがそこにあるのに?」

「――!?」

「それとも、やっぱり貴方はただの盗掘者なのかしら? 真実を世に広められずに踊らされているだけの滑稽な小動物。 それでいいならそのインテリジェントデバイスを返しなさいな」

「――わかったわよ!! そこまで言うなら貴方の言う空白の歴史って奴を検証して、真っ赤な偽者だって証明してあげるわ。 ついでに貴方を稀代の大嘘吐きとしてミッドチルダの考古学会で笑いものにしてあげる!!」

「ふふ、良い子ね。 そうなるのを気長に待っているわ」

 睨みつけてくるミーアの視線を涼しげに受け止めながら、楽しげに言う。

「さて、そろそろ貴方たちにはお帰り願おうかしら。 私の餌にかかったお馬鹿さんたちが人の庭で色々と煩いのよね……」

 そういうと、クライドとミーアが再び少女に襟首を掴まれた状態になる。 もう二度も体験した超常の技術に、さすがの二人は声をあげて驚くような真似はしない。

「ここへ来れない人間用の餌があるけれど、無意味に泳がせる必要も無くなったから貴方たちにあげるわ。 次に貴方たちが現れた場所の近くに洞窟があるから、そこに寄ってから後は好きにしなさい。 私は私が必要だと考えたときに貴方たちの前に姿を現してあげる。 ただ、くれぐれも注意しておきなさい。 特にミーアはね。 夜天の書は別にいいわ。 でも、その他の”蒐集機”には気をつけなさい。 蒐集詩篇に杖喰い……ただの”魔導師”ごときが相手にできるロストロギアではないから。 もっとも、釣れたら釣れたで私としては好都合なのだけど」

 それだけ言うと、少女は二人を転移させる。 本当に一瞬の出来事だった。 瞬きをした次の瞬間、二人は別の場所に立っていた。 深い森は相変わらずで、悠然とした自然はその威容のままそこにある。 だが、二人の目の前には少女の言ったとおりに洞窟があった。

「夢じゃない……みたいねお兄さん?」

「ああ、そうだな」

 胸元に揺れるインテリジェントデバイスを玩びながら、ミーアはため息をつく。 クライドもまた、混乱から立ち直るには少し時間が掛かりそうだった。 だが、ずっとそうしているわけにもいかず、言われたままに洞窟に入っていく。 薄暗い洞窟内を十分ほど前に進んだだろうか? 用意しておいた明かりの魔法がついにそれを眩く照らし出す。

「おいおい、本当にどうなってるんだ? 得たいの知れない少女の次は、ベルカ純正のユニゾンデバイスの登場かよ。 本当にここは俺が知っている世界なのか?」

 デバイスの調整槽にぼんやりと漂うそれは、クライドが知っているものだった。 紅い髪を両側で縛り、まるで小悪魔のような格好で眠るそのデバイス。 台座の上に鎮座するそれの下のラベルにはベルカ語でこう書かれていた。


――『烈火の剣精、ここに眠る』……と。














 数十分前まで学生たちがいたドーム型の遺跡は今、かつて無いほどの喧騒に満ちていた。 魔導機械の一段がぐるりと周囲を取り囲み散発的に攻撃を繰り返してくる。 砲弾が飛び交い、スクライアのキャンプや遺跡を蹂躙していくその様は、質量兵器を封印した管理局員にとっては悪夢のようなものだった。

 特に、一番厄介なのは交戦する戦域に掛かる妙な力場だ。 少し前に四ほど空の上から何かが落ちてきたと思えば、その力場が発生し魔法が使い辛くなった。 そのせいか念話も遠くまで届かず、訓練学校生に向かって何度か交信を試みたものの全く通じないのだ。 他の遺跡に派遣した小隊の様子も分からず、航行艦とも音信不通。 ディーゼルは最悪の場合を考えつつ最善の行動を模索しながら戦闘を行うより他にできることがなかった。

「ブラストバレット・フルバースト!!」

 高高度より、ディーゼルが制圧用爆裂魔法を唱える。 彼の頭上に青い魔力弾がいくつも現れ、次々と遺跡周辺に群がる兵器軍へと突撃していく。 それはリンディの使うスティンガーブレイドと使い方が似ているが、その性質は全く違う。

 スティンガーブレイドは貫くことを主眼に術式が形成されているが、彼のブラストバレットは着弾と同時に周囲を巻き込みながら破裂する炸裂弾だ。 スティンガーブレイドより発射数は少ないものの、単発の威力と効果範囲には雲泥の差がある。

 青い魔力弾が発射と同時にストレージデバイスが計算した最適殲滅ポイントへと次々と降り注ぎ、周辺の全ての敵を青い閃光で飲み込んでいく。 激しい閃光を伴った爆音が次々と鳴り響き敵兵器を蹂躙していくその様は、旧暦の時代の爆撃機の空爆にでも晒されているかのような恐怖を敵に与えることだろう。 一騎当千の魔導師らしいそれは華々しいものだった。

 戦場を蹂躙する爆撃に、さしもの質量兵器軍もその威容の前では成すすべも無い。 自然と、彼への脅威を認識し攻撃は激しさを増していく。 だが、それをさせまいと武装隊の面々が次々と砲撃魔法を繰り出して援護していく。 主砲はディーゼルで、その他全ては副砲。 まるで難攻不落の要塞のような有様だった。 また、守られるべき遺跡はスクライア一族によって防御結界が敷かれ、鉄壁の防御を築きあげている。 内部では次々と撤退準備が進められており、それさえ済めば色々とやりようがあるだろう。

 しかし難攻不落の要塞だったが、主砲も副砲も弾切れがある。 長期戦を行い続けるのは厳しい。 それが分かっているから、ディーゼルは無駄な攻撃は一切しない。 常に、敵を多数巻き込む効果的なポイントへと爆撃し、その数を減らしていく。 敵の防御が余り強固ではないので武装隊の弾幕で十分に進撃を遅らせられるためにかなりの戦果をあげていたが、それでも疲労の色を隠すのは厳しかった。

「はぁ、きりが無いな……」

 次々とやってくる敵戦闘魔導機械は大きく分けて三つある。 一つは空を飛ぶ飛行兵器。 戦闘機のようなそれはレーザーとミサイルを装備しており、制空権を奪おうと休み無く襲ってくる。 数が少ないが、それでも偶に体当たりを敢行してくるので鬱陶しい。 二つ目は一メートルほどの円柱系の形をした浮遊機械。 こちらはレーザーとシールドだけだが、それでもそこそこの速度で陸から攻めてくる。 一番数が多く、倒しても倒してもまるでキリが無い。 そして問題は三つ目だ。 それをディーゼルは知っていた。 彼が探していた次元犯罪組織の誇るリビングデッド、交戦したことのあるうちの一人『人形遣い』コンバイン・ソルディズンの用いる機械人形だ。 無機物操作魔法を用いたそれは、まるで人形のようにコンバインの手足となって動いてくる。 コンバインの二つ名の所以だった。

 元々召喚師であり人形師であった彼ならではの戦闘方法であり、人形は機関銃やミサイルランチャー、レーザー兵器から近接用のブレードなどの様々なバリエーションの質量兵器で武装し次々に襲い掛かってくる。 人形をいくら倒そうとも、召喚師であるコンバインはダメージを追わないのでこういうときには非常に厄介である。 それに、召喚師である彼が次々と敵魔導兵器を召喚していることから、彼を倒さなければ少なくともディーゼルたちは身動きが取れない。 サーチャーを飛ばして位置を探しているものの、中々狡猾らしく姿を見せない。 現状では防御に徹するしかなく酷く歯がゆい思いだった。

 守るべきものが後ろにいるというのは酷くやり辛いのだ。 次々とブラストバレットを放ちながら、ディーゼルは思う。 だが、それが仕事なのだ。 守るべき者をないがしろにすることなど、生真面目な彼にはできない選択である。 だからこそ、次々と爆撃し続けるしかなかった。

 総合Sランクとしての力量を遺憾なく発揮するディーゼル。 高ランク持ちの獅子奮迅の活躍に、武装隊員たちも奮起していく。 ディーゼルがいる限り、彼らには敗北など無い。 ストライカー級に数えられる若い魔導師の力は航行艦内の模擬戦で良く知っていたから。 

「撃て、撃ちまくれぇぇぇ!! 執務官殿だけにいいところを持っていかせるなよ!!」

「「「おう!!」」」

 武装隊のリーダーの男が、声を張り上げて怒鳴る。 その怒号を受けて仲間たちの砲撃が苛烈さをましていく。 航行艦との連絡が途切れたときから、嫌な予感がしていた。 だが、まだ敗北したわけではないのだ。

 鉄火場と化した戦場。 その只中にあって、彼らはなおも士気を落さない。 しっかりと訓練された兵士よろしく、彼らは自らにできることをやり続ける。 それこそが、この戦場のチームワークであると理解していたからだ。

 高高度にいるディーゼルよりも低空から次々と砲撃を放つ彼らは間違いなく歴戦の勇士である。 ディーゼルは彼らの奮起に助けられていることを改めて理解しながら、唯ひたすらに堪える。 状況を動かす要素は四つ。 敵の兵器が底をつくか、その前にこちらが敵の親玉を見つけるか、それとも撤退準備が完了するのが早いか、援軍が来るかだ。 それによって状況が変化するだろう。

「僕としてはとっとと親玉を見つけられるほうがありがたいんだけど、そうも言ってられないか」 

 コンバイン・ソルディズン自身の戦闘能力は高ランクに数えられながらそう高いものではない。 人形を大量に扱って数で攻めてくるのが彼のスタイルだからだ。 人形の最大制御数こそ脅威であるが、並の魔導師ではない彼にとってはそんなものは大した脅威ではない。 ただ、こうした防衛戦などでは酷く恐ろしい敵になる。 純粋な数の暴力というのはそれだけで威力を発揮するものなのだから。

『あー、もしもし執務官殿? 聞こえるか? 陸士訓練学校のミハエルだ』

『はい、こちらクライド・ディーゼル執務官です』

 少しノイズが入ったが、届いてきた念話にディーゼルはほっと胸を撫で下ろす。 どうやら、少なくとも良い方向へ状況が動くことになりそうだ。

『助っ人を一人送ったよ。 ただ、出力リミッターをかけられているから限りなくAAに近いAランク魔導師だ。 まあ、それでも今の状況を打開するには十分な戦力だと思うがね』

『ご協力感謝します』

『なに、構いませんよ。 絶対に彼女を生きて返してくださればね』

『ええ、でなければ僕がハラオウン提督に殺されてしまいますから』

『はは、違いないですな。 では、私はこれから南東の物を壊してきますよ。 生徒たちは今一塊にさせているところなんで、どうにかなるでしょうよ』

『……ご無事で』

『執務官殿もお気をつけて。 なにやら、連中”普通の次元犯罪者”とは毛並みが違うようですからな』

 そういって途切れる念話、だがそれは頼もしい援軍の到来を予感させるものだった。 ふと、ディーゼルは頭上を見やる。 すると、蒼天の空の上から転移魔法でやってくる翡翠の軌跡が目に入ってきた。

「あれがハラオウンの息女か!?」

 呟いたディーゼルの上、さらなる超高度に現れたその少女は、背中から生えている透明の羽を羽ばたかせながら膨大な量のスティンガーブレイドを展開していく。 髪の色とお揃いのその魔力光が、天を覆わんばかりの魔力剣を生み出すその様は、いっそ爽快な眺めだった。
 魔力剣の数は既に二百を超えており、尋常ではないほどの数を有している。 あれで出力リミッターをかけられているというのだから、恐ろしい話だ。 ディーゼルは自分より年下の少女の出鱈目さに、一瞬呆気に取られてしまった。

「スティンガーブレイド・ホーミングシフト!!」 

 戦場に響くソプラノボイスが、反撃の狼煙となってなって木霊する。 次の瞬間、少女がデバイスの杖を振り降ろすと同時に、圧倒的な物量の魔力剣が敵に向かって降り注いでいった。

「馬鹿な、スティンガーブレイドを全て誘導するだって!?」

 放たれたその全てが、まるで意思を持ったかのように戦場に乱舞する。 頭上からの攻撃を察知した敵兵器が、咄嗟に回避行動を取っているが回避しきれずに次々と被弾していく。 戦慄するほどに美しい空間制圧魔法であった。

『時空管理局嘱託魔導師リンディ・ハラオウンです。 これより皆さんを援護します!!』

 たったの一正射で戦場の流れを変えたその少女が、戦場で名乗りを上げる。 その言葉に我に返ったディーゼルは、知らず知らずに笑みを浮かべながら念話を返す。 もはや、疲れなど吹き飛んでいた。

『こちら、執務官のクライド・ディーゼル。 貴女の援護に感謝します。 引き続き援護射撃をお願いできますか?』

『クライド……さん? ……あ、はい。 このまま制圧魔法で良いですか?』

 一瞬何か驚いたような声を少女が出したが、ディーゼルはそれには気づかずに答える。

『はい、僕の変わりにその位置で敵を粉砕してください。 次の正射後に僕が親玉を倒してきます。 それまで遺跡を防衛してください』

『分かりました』

 思いのほか、可愛らしい声だった。 遠めにしか見えないがヴォルク・ハラオウン提督の写真に映っていた少女の姿を思い出しながら、こちらも負けられないとばかりにディーゼルは詠唱を再開する。

「ブラストバレット・フルバースト!!」

 降り注ぐ青い光弾。 リンディの魔法によってかなり数を失っていた魔導兵器群を追い討ちとばかりに容赦なくディーゼルは破壊していく。 リンディのスティンガーブレイドほどスマートではなかったが、それでも威力という点では大きく上回っている。 『人形遣い』の操る機械人形が、一瞬その威容に恐れをなしたかのように動きを止めた。 いや、本当に恐れているのはそれではなかった。 ディーゼルの放っていたサーチャーがようやく戦場からそう離れ邸内位置に隠れていた魔導師の姿を見つけ出していたのだ。 居場所がばれたことこそがコンバインにとって何よりも恐れることなのだ。

「――見つけたぞ、コンバイン!!」
 
 恐怖に怯える道化師の格好をした魔導師の姿を知覚した瞬間、ディーゼルは飛翔する。 その後ろから、援護のために翡翠の弾幕が次々と放たれていき、ディーゼルの邪魔をしようとする魔導機械を次々と破壊していく。 その正確な援護射撃に感謝しながら、ディーゼルは杖を振り上げる。 デバイスの先端に魔力が収束し、長大な長さを誇る青き槍を形成してく。 それは、近接攻撃魔法ジャベリンだ。

「コンバイン・ソルディズン!! 管理局法に乗っ取り、貴方を逮捕する!! 大人しく捕まるなら手荒なことはしない」

「く、マリオネットよ!!」

 ディーゼルの恫喝に、しかしコンバインは応じない。 召喚した機械人形を盾に、逃走を図ろうとするコンバイン。 だが、それを許すほどディーゼルは甘くはない。

「……抵抗の意思ありと判断します」

 青い槍を掲げて、ディーゼルが踊りかかる。 それを阻まんと機械人形が踊る。 だが、青い閃光と化した彼は一瞬でコンバインに肉薄すると振り上げた槍を突き出す。 コンバインが咄嗟にマリオネット数体を盾にして凌ごうとするが、執務官の槍を止めることはできない。 それどころかコンバインのフィールドごとその槍は貫通しコンバインを串刺しにする。 次の瞬間、コンバインは非殺傷設定魔法を受けてまるで霧のように消滅した。 その後には、コンバインの存在を証明するようなものは何一つ残っていない。 まるで、初めから居なかったかのように、空気に溶けるように消えてしまったのだ。 その瞬間、奴の操っていた機械人形が次々と動きを止める。 操者を失った人形には、自力で動くようなことはできないのだ。

「ちっ、リビングデット<屍人>め――」

 吐き捨てるように呟くと、ディーゼルは残りの魔導機械の掃討を行っていく。 リビングデット<屍人>のコードネームを持つコピー魔導師。 その一人であるコンバインがいたということは、今回の事件の裏には『古代の叡智』の介入があるということだ。 であれば、残りの遺跡に向かった武装隊員たちの安否が気に掛かる。

「断頭台<ギロチン>……貴様も来ているのか?」 

 ディーゼルは呟きながら戦場へと舞い戻っていった。 その後、それ以上の増援が現れることもなく比較的早く遺跡周辺での戦闘は終わることになる。 リンディとディーゼル。 二人の制圧魔法による広域制圧力はそれほどに凄まじいものだった。 武装隊やスクライア一族は、若い二人の魔導師の力に称賛で出迎える。 だが、その称賛がディーゼルの心に届くことはなかった。 まだ、事件は終わっておらず、すぐに残りの遺跡にも向かわなければならないのだ。 これ以上厄介な敵が現れないことを祈りながら、執務官は次々と指示を出していった。

コメント
誤字報告です。

本文から、
「ええ、一応はね。 だってそうじゃない? ”あんな男”のために流す血なんてどの世界にも一滴たりともありはしないわ。 私はね、外界から守られているこの次元世界が大好きなのよ。 昔は酷くつまらなく感じていたのだけれど、”一度”殺されてからは見るものが全部尊く見えて仕方がないわ。 それに、あの男がやろうとしていることは全て叩き潰して、存在の痕跡から目論見に『至るまでのの』全てを粉砕しなければ気がすまないの」

至るまでの、だと思います。細かい報告すまそ(‘´△`’)
【2008/09/23 00:02】 | kazu #.AUkuh/Q | [edit]












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://kuukyowomitase.blog120.fc2.com/tb.php/75-49efdf51
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

プロフィール

トラス・シュタイン

Author:トラス・シュタイン
不定期更新ブログの主。
趣味はアニメ・ゲーム・漫画
好きな言葉は因果応報

カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
月別アーカイブ
ブログ内検索

ゲーム

マンガ

PCゲーム

断章or三部キャラ人気投票
断章と三部部の投票用です。 一日一回投票できます。

他のキャラでも是非とも投票したいと言う場合は空白部分に名前を書き込んで投票してください。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。