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憑依奮闘記 第八話(なのはSSオリ主憑依系)

 2008-04-21
 武器にもし仮初の意識があるとするならのなら、それは果たして幸せなことなのか? インテリジェントデバイスやユニゾンデバイス。 所謂魔導師の武器であり杖である彼らに意思が与えられていることに、疑問を持つときがある。 良い意味でというよりは、酷く人間的な思考からだった。

 彼らを生きていると定義するのなら、それ相応の立場を与えて俺たちは彼らとともに日々を過ごしていかなければならないと思う。 別に不満があるというわけではないが、むしろ彼らが不満を抱きはしないのかと心配になるのだ。 所持者に忠実。 あるいは、反抗など考えないように意思を操作して生んだわけだから彼らがやがて成熟し、意思をもっと伝えられるようになったときに果たして彼らと俺たち魔導師の関係はどうなっているだろうか?
 力づくで使うのか、それとも友好的に接し続けるのか、それとも悪態をついて言うことを聞かない物体として倦厭するのか。 そんなものは、そのときになって見なければ分からないが、今まで俺は意思を持つデバイスとの邂逅などほとんどなく、どうやって接するべきなのか迷ってしまう。 こんなことではデバイスマイスターを目指す身としては落第ものだが、彼らを人間と同じように考えた場合にどうしてもぶち当たる壁であるから始末に終えない。 あるいは、普通のデバイスマイスターならそんなことは考えもしないのか。 自分以外に目指している同僚などいないから、こうした疑問を覚えたときそういう倫理的思考を共有できないのは辛いところだ。 



「……見たところ、データ的に壊れてるところはなさそうだな」

 調整槽の端末を弄ってステータスが不具合を示していないかをチェックしていたのだが、全て問題無し。 エラー一つ出ていない。 小難しいことは分からないが、ステータスをチェックするぐらいならできるので、この結果には一安心だ。

 デバイスの調整槽の中で眠り続ける烈火の剣精アギト。 まるで小さな人形ほどの身長しか持たないそれは、しかし驚くことにベルカ純正のユニゾンデバイスであり超高級機に分類される。 というよりも、ほとんどロストロギア<古代遺失物>扱いの代物だ。 勿論、通常なら所持することなどできないだろう。 彼女を連れて行くべきなのか、それともここに放置して見なかったことにするべきなのか迷ってしまう。 できれば、どうにかしてやりたいと思うのだが闇の書の問題も考えれば迂闊な選択はすることはできない。 とはいえ、俺の中では八割方ここから連れ出すことが決定しているのだが。 毒を食らわば皿までという言葉もあるし、もはや俺の人生何があっても可笑しくは無いのだから。

「……どうしたものかな?」 

「なにが?」

 隣にいるミーアは、もうさっきからずっと胸元にあるインテリジェントデバイスを弄り続けている。 時折、顔を青くしたり紅くしたり、興奮したりと随分と忙しい様子だったが、それでもどうやらこちらの声が聞こえないほど集中していないわけではないらしい。 ロストロギアにあまり興味が無いと言っていたから、彼女には目の前のユニゾンデバイスにさしたる興味を抱けないのだろう。

「こいつ……烈火の剣精アギトさ。 このまま放置して変な次元犯罪者にでも持っていかれるぐらいなら俺がパクりたいんだが、それをすると色々と怖い人たちに目をつけられて不都合が出てきそうなんだ、どうすればいいと思う?」

「ふーん、そんなに時空管理局が怖いの?」

「次元世界の警察を舐めてたら平穏な日常を謳歌することなんでできやしないさ」

「管理局が恐れる夜天の書の主の癖に?」

「うぐぅ!!」

 しまった、うぐぅはもう古いか?

「そんなに心配なら、私が預かってあげようか? データさえ渡して管理局に所持登録しちゃえば、スクライア一族なら研究用だって言ったら手元に置いておけると思うけど……」

「いいのか!?」

 思わずミーアの目線に合わせてしゃがみこむ。 が、目の前のチビッ子はなにか色々と頭の中で悪巧みをしているらしく、ニヤリと口元を歪めていた。

「うん、その代わりに私にこれを証明するための優秀な人手を貸して欲しいんだけど……どう? 今なら守護騎士数人と夜天の書のことを口外しないっていうので手を打ったげるよ?」

「む、守護騎士についてはちょっと俺の一存では決めかね……いや?」

 いや、冷静に考えればそれほど悪く無い案だ。 どの道こちらには守護騎士を大っぴらに連れまわしてやることなどできないのだ。 折を見て、彼女に任せられればその分彼女たちも日常を謳歌することができるだろう。 ある意味で降って沸いた好機と言わざるを得ない。

「……それって、出向してる守護騎士たちに給料は出るのか?」 

「お給料?」

「ああ、凄腕を寄越すんだ。 ソレ相応の見返りが欲しい」

「むう……それはちょっと欲張りじゃない?」

「だが、古代ベルカ当時の生き証人だぞ。 ”その価値”が理解できないわけじゃあないだろう? それに、彼らはそれぞれが歴戦の勇士だ。 発掘の護衛までしてくれるんだから、安い買い物だと思うけどな」

「うーん、難しいけど……そうね。 なんとかしてあげる。 お婆ちゃん――族長に相談することになるけど構わない?」

「ああ、でもその場合反故にするのは難しいかもな。 何せ、さっきの少女がいきなり襟首掴んで引き寄せてくるかもしれない」

「や、やめてよ。 怖いじゃない」

 思い出したのか、ブルブルと身体を震えさせるミーア。 小動物っぽいその仕草は可愛らしいが、トラウマになりそうなのでこれ以上は言うのを止める。

「まあ、なんにしても一度家の連中にも話を通さないといけないし……この旅行が終わってからにしないか? そっちも色々とあるだろう? まあ、それまで無担保でこいつを預って貰うわけだからこちらとしてはかなり乗り気だと言っとく。 ほら、俺の住所と連絡先だ」

 デバイスからデータを転送しミーアのそれに送る。

「うん、まあ今日のところはそれでいいかな」

「お互い実りある会話ができたところで、そろそろ行こうか。 調整槽……そっちのツールボックスに収納できるか?」

「なんとかいけそう」

 自前のそれに丸ごと収納しながら、ミーアがフェレット姿に変身。 そうして、俺の肩口に乗っかかる。

「さて、これでミーアの用事は一応終わったわけだ。 夜天の遺跡はなかったけれど、代わりになるものは手に入ったし十分だろう。 遺跡まで送るよ」

「ありがとうお兄さん」

 薄暗い洞窟を引き返す。 歩きながら考えるのは勿論、今日会ったあのカリスマの少女のことだった。 どうやら、今後とも俺の人生には波乱が満ち溢れているらしい。 恐怖を感じないでもなかったが、それでも当分は”今まで”と同じように暮らせるのならば少しは余裕を持って考えることもできるだろう。

 それに、俺が闇の書から侵食されないらしいと分かっただけでも儲けものだ。 まあ、今更ページを埋めるのを止めるのもアレだし、どうなるか反応を見たいので完成は目指してみるがはてさて。 もし仮に俺を餌にして何もつれなかった場合、原作通りの死亡などこれではありえないだろう。 それ相応の危険は管理局に勤める上では背負うリスクであるし、それと大差が無いのならなんとかなる……と思う。

「……うむ。 未来に光が差してきたぞ」

 できれば一生、何事も無い平和な人生が続きますように。 そう切に願いながら、俺は今更ながらあの少女のことを何一つ聞いていないことに気がついた。

「雰囲気に飲まれていたとはいえ、なんてことだ。 名前さえ聞けてないじゃないか」

 自分のヘタレさに情けなさを覚えながら、俺はサバイバル訓練を再開するためにミーアを運ぶ。 もっとも、人生という名のサバイバルは現在進行形で継続中であり、あの少女曰く永遠に続くらしいのだがどうしたものだろうか? まあ、それを実感するまではどういう反応をすればいいのか自分でさえよく分からない。 それが正直な感想といったところだ。 ああ、そういえばあの少女には言ってなかったが、俺って良く考えたらもう既に”二回目”じゃないのか? 憑依が含まれるのかどうかは分からないけどな。 






  



憑依奮闘記
第八話
「魔導師になるということ」














「……中央遺跡に向かった魔導兵器群並びにコンバイン・ソルディズンの反応途絶」

「おやおや、予定より少し早いね。 さすがは管理局の執務官殿だ。 それに、後から来た子もかなりできるじゃないか。 とんだイレギュラーがいたものだ」

 面白そうにモニターを眺めながら、ドクターは計測できたデータを解析していく。 それら一つ一つの実戦データは今後の発明に大きく貢献していくことだろう。 次々と流れ込んでくる宝の山たるデータをバックアップしながら、ドクターは考える。 あの魔導師たちを倒すには一体何が必要だろうかと。

 魔導師に魔導師をぶつけるのはナンセンスだ。 管理局ほど優秀な魔導師を手元に置いている組織はいない。 その数も、高ランク保持者も、他の組織の比ではない。 フリーランスの魔導師と契約を結ぶということも考えないでも無いが、彼の究極の目的のためにはもっと堅実で、もっと確実性のある戦力が必要だった。 魔導師などというあやふやな戦力を宛にすることなど到底出来ない。 それに、魔導師に魔導師をぶつけるなどナンセンス以外のなにものでもないのだ。 戦えば強いほうが勝つと決まりきっているし、数を揃えようにも管理局を上回る数など普通は用意できるわけもないのだから。 もしそれをしようとするのなら、人造魔導師でも製造できるようにするしかないだろう。

 何れソレも研究するつもりではあるが、今はどちらかといえば質量兵器に近い兵器の開発が急務。 そのほうが手軽だし、AMFと絡めればこれほど堅実に戦力を揃えられる兵器など他には存在しないのだから。 もっとも、魔導師に対抗する手段をもう一つ思いついてはいたわけだが。

「それにしても、はは。 君たちのリビングデッドもこれで後四人しかいないわけだ? どうだい、その四人で彼らを倒せると思うかい?」 

「できないことは無いな。 だが、戦闘ができるのはせいぜい二人だ。 一人はロストロギアの回収、もう一人はその援護が必要だ。 武装隊員如きとはいえ、数がいればソレ相応のやり方はあるからな」

 憮然とそういうと、イーターは艦長席に腰を下ろす。 どうやら、元々良くなかった機嫌をさらに損ねるような何かがあるらしかった。

「どうしたんだい? 何か先ほどから機嫌が悪そうだがね?」

「……どこかヤバイ感じの気配がする。 俺の勘がさっさとここから逃げ出せといっているのだ。 ちっ、思考にエラーでも混ざっているのか?」

 自分でも戸惑っているのか、眉を顰めながらイーターは呟く。 それにドクターは少し怪訝なものを感じた。 何か、自分が知らない雲行きが怪しくなる要素でもあるというのだろうか? そも、”彼”が勘などという不確かな感覚を感じるということ事態に違和感を感じるのだ。 ”そんな”ものを感じる感覚など彼には無いだろうに。

「おやおや、君でも緊張したりするのかい?」

「そうじゃない。 だが、何かヤバイ気が猛烈にするだけだ。 俺に直接向けられてるわけじゃないが、随分と昔に感じたものに似ている。 まさか……な」

「ふぅん。 まあ、そういう嫌な予感というのは大抵戦場では良く当たるそうだ。 なら、少し予定を繰り上げよう。 戦闘データやアレの稼動データはもう十分手に入れられた。 後は老人たちへのお土産だけだ」

「では、厄介な二人を外へ釘付けにし、その間に回収を終えるとしよう」

「ああ、そうしようか。 一応私の方の兵器も集まった分だけ順次回収していくよ。 何事も慎重に行動して悪いことはないからね」

 ドクターは頷きながら、再び楽しそうに作業を再開。 既に彼には満足のいくレベルのデータが集まっているということなのだろう。 イーターは自分の中の”違和感”を咀嚼しながら、その感覚がいつ感じたものなのかを考える。 だが、彼の膨大な記憶の中からそれを探し出すには時間が足りなさ過ぎた。 結局自分の手駒に指示を出してからも考えたが、その違和感の正体を探ることはできなかった。 ブリッジに、再び沈黙が訪れていた。
















「アレ? 学生たちがなんか集まってるな……そろそろグループが完成したのか?」

 レーダーを見ながら中央の遺跡へと向かう途中、クライドはふと学生をあらわす光点がいくつかのグループを作っていることに気がついた。 だが、その動きが少しおかしかった。 グループを作るだけなら学生の行う予定通りの行動なのだが、そのグループがさらにそれぞれ別のグループを目指して移動しているように見える。

 クライドは知らないことだが、あの少女の空間は外界から完全に遮断された空間であり何者にも知覚できない聖域であった。 担任のミハエルが力場の外側で学生たちに念話を送った際その念話も聖域にいたクライドには届いていなかったのだ。 それ以降、ミハエルは力場を発生させていると思われる物体を破壊しに再び力場の中にいるし、クライド自身も外に出てから中央遺跡に向かっていく途中で力場の領域内にいつの間にか入っていたために学生からの念話も通じていなかった。 不幸な偶然だが、それによってクライドは一人状況から置き去りにされていた。

「うーん、さっきからなんか変ね。 身体が重いというか……違和感が……」 

 フェレット姿のミーアが何か違和感を感じて体の様子を確かめている。 だが、クライドにはそれが何なのか分からず、ただの体調が悪くなったのかとのんきに考えていた。

「体調でも悪いのか?」

「……何か変なの。 変身魔法が妨害されてるような……そんな感覚がする。 こんなこと、今まで感じたことなかったわ。 魔法が失敗してるのかな?」

 そういうと、毛繕いするように自身の身体を弄る。 だが、特に術式に可笑しいところは無かったらしく首を傾げていた。

「お兄さんはなんとも無いよね?」

「ああ、別になんとも無いぞ?」

 飛行魔法や体調にも影響は無く、身体に妙な感覚を感じるというわけでもない。

「まさかあの女が何か私に嫌がらせしてるのかな?」

「……さあな」

 よほど苦手意識を持ったのだろう。 これから何かあるたびに少女のせいにしそうな雰囲気である。

「アレだったら一度変身を解いた方がいいんじゃないか? 何かあってからじゃ遅いからな」

「うん、そうだね」

 変身魔法を解くミーア。 空中にふんわりと浮かぶ少女は、しかしそれでも何かを訝しんでいる。

「アレ? 今度は空を飛び難いや。 やっぱり、何か変……」

「とはいってもな、俺には何も感じないが……」

 クライド自身は全く違和感を感じないのだ。 デバイスに感応してみても周辺データには既知の情報しか表示されていない。 続いて自分のバイタルを確認してみる。 と、ステータスが一つだけ妙な部分が存在していた。

「リンカーコアの魔力生成量が……減少している?」

 それ以外のステータスは正常である。 一体どういうことなのか? クライドは少し頭を捻る。 だが具体的な原因は分からない。 試しに、ラウンドシールドを展開してみる。 今の飛行魔法には何の影響も無いが、もしかしたら何かが違うのかもしれない。

「……ん? 魔法発動に抵抗があるな……これか?」

 今まで感じたことが無い未知の感覚に、クライドは呻く。 と、そこでようやく一つだけ心当たりが生まれた。 原作を知っている人間なら浮かぶことだったが、それの影響下にいるというのなら確かに今の状況もありえるのかもしれない。 確か、アレは魔力結合を阻害する効果を持つものだったはずだから。

「もしかしてAMF<アンチマギリンクフィールド>か?」

 それは魔力結合を阻害することで魔法を無効化しようとする技術であり、確か管理局法で開発が禁止された技術でもある。 現状、それを実用化されたなんて話は聞いたことがないが、あの男が介入して来たのならば十分に考えられる。 何せ、中央遺跡には黄色いのがあったのである。

「……勘弁してくれ」

 ゲンナリしながら、クライドはこめかみを押さえる。 見学旅行は良い骨休みになるはずだったのだ。 だが、それがどういうわけか妙な少女に会うはアギトを見つけるわでハプニングの連続である。 これ以上一体何が起こるというのか? もはや彼にはこの旅行が無事に終わるかなんてことさえ分からなくなっていた。

「ねぇねぇ、やっぱりおかしいよね?」

「ああ、そうだな」

 やや投げやりにそういうと、クライドはミーアの前に行き背中を差し出した。

「多分、AMFだ。 ”普通”は慣れないと魔法行使が大変だって話だから背中に乗ってけ。 俺なら問題はほとんどないから」

「どーしてお兄さんなら問題ないの?」

「あの少女が言ってただろ? 俺のレアスキルは現状維持だって。 現状維持は持ち主が生成した魔力とかを外界から無視して保存するスキルなんだ。 だから一度俺が生成した魔力や発動した術式に流れる魔力ってのは外界からの影響を無視してスキル保持者が分解しない限りは永久稼動する。 AMFっていうのは魔力結合を阻害するものだから結合した魔力を分解して魔法を無効化するんだが――」

「お兄さんの場合はそのレアスキルの関係でAMFを無視できる?」

「そういうこと。 まあ俺のレアスキルの方がAMFの効果より強かったってことなんだろうけどな。 それに、魔法を使う瞬間には発動をしっかり邪魔されてるし、リンカーコアの魔力生成力が落ちてるから全く無効化しているってわけでもない。 けど、一度魔法を起動したら影響を受けないんだから問題は無いわけだ」

「ふーん、そこそこ便利なスキルなんだね」

「まあ、そのおかげで夜天の書からの魔力侵食が進まないらしいし、今のところこいつのせいで困ったことといえば……あの少女に目をつけられたこと以外には無いな」

 便利でもあるが、同時に面倒ごともやってきた元凶である。 そう考えればプラスマイナスゼロなのかもしれなかった。

 初めてこのスキルを理解したのはリーゼアリアから魔法を教わっていたときだった。 物は試しにとシールド魔法を使ってみたらシールドが消えなかった。 どうやったら消えるのかとクライドが聞いたときのリーゼアリアの驚きといったら無かった。 その後は管理局に登録しないのなら秘密にしておいたほうがいいかもしれないというアドバイスを受け、今まで誰にも話したことは無い。 聞いたところによると管理局内でもそんな不可思議なレアスキルを持っている人間はいないらしく、話せば妙な検査とかをさせられるだろうと言っていたので、面倒ごとが嫌いなクライドは登録もせずにそのままにしていたのだった。

「でも、どうしてAMFなんて展開されてるの? ここにはスクライアの一族と貴方たちしかいないはずだよ?」

「大方ロストロギアに釣られて犯罪者が強奪にきたんじゃないのか?」

「……そうなのかな?」

「しかも、今確認してみたが先生とも念話が繋がらない。 これは十中八九何かあったな」

「皆大丈夫かな?」

「警備は万全のはずだから、すぐにどうにかなるんじゃないか? 天下の管理局に喧嘩を売ってただで済むわけが……」

 そこまで言って、クライドは急に押し黙る。

(いや、本当にそうなのか? もし仮に相手があの科学者なら勝負に出る前には万全の準備でもしていそうなんだが……)

 用意周到な天才とは、そういうものだ。 絶対に勝てると踏まなければ勝負をしに来ない。 それが賢者の考えだし、道理を通すために必要な心構えである。 であれば、最悪の厄介ごとに発展してそうだ。

(……捕らえられたら人造魔導師素体行きかな?)

 嫌な想像をしながら、クライドはミーアを背中に乗せて飛翔する。 だが、途中で遺跡の方角から翡翠の魔力光が移動しているのが見えた。 レーダーを確認。 どうやら学生らしく、その学生は中央遺跡から別の方向へと移動している。 クライドはそこで少し迷う。 中央遺跡の方から逃げているのか、それとも敵の方へと向かっているのかが判断できなかったからだ。 翡翠の魔力光と言えばリンディである。 であれば、先に彼女と合流し事情を聞いてから判断するというのも悪くは無いだろう。

「……一度やっぱり話を聞いたほうが安心できるか」

 状況が分からない以上どうするべきなのかの判断ができない。 状況に無知なのが一番恐ろしいと判断し、クライドは合流することに決めるとミーアに断ってから少し進路を変え、移動するリンディを追っていった。
















 


「――月も出ぬ、こんな真昼にリビングデッド<屍人>が陽の光の下を歩くなんて、なんともまぁしまらない話だ。 そうは思わないかい執務官殿?」

「さてね、アンデット退治は教会のエクソシストの仕事だと僕は思うんだけど、それが犯罪者だっていうなら相手をするのも吝かじゃあない」

 ディーゼルの前に転移してきたその女は、現れるなり煙草に火をつけながらそういった。 その気軽さに若干の違和感を感じながら、しかしディーゼルは気を抜かない。 何者かは知らない。 だが、リビングデッドの名を出すということは、彼女自身がそのリビングデッドかその仲間と思って間違いないだろう。 全身の魔力を励起させながらデバイスを構える。

「なるほど、そちらが君の領分かい? だとすれば羨ましい限りだよ。 だけどね、執務官殿。 あんたが良くても私は良くないのさ。 生前に暗殺を依頼されているならともかく、こうも陳腐な悪役をやらされるのは私の美学に反するのでね」

「美学……ね? 武装隊員たちの命を奪っていないのもその美学とやらのおかげなのかい? だとしたら彼らは君の美学というのに救われているのかな?」

 女は気絶している武装隊員をバインドで引き連れてやってきていた。 そちらに一瞬目を向けながら、ディーゼルは問う。

「私は元々フリーの暗殺者だったのだがね、殺人嗜好者ではないよ。 あくまで殺しを生業とするビジネスマンさ。 それが絡まない今、私には殺すことに異議を見出せないのだよ。 第一、生きてもいない私にとってはもはやこの世界のことなどどうでも良いことだ」

「生前に遣り残したこともないと?」

「ああ、無いね」

 煙草を吸いながら、女は言う。 満足げなその顔は、何かをやり遂げた人間だけが持てる表情が浮かんでいる。

「もっとも悲しいことに、この身はただ上の命令を聞くだけの悲しき屍人<グール>に成り下がってはいるがね。 だが、命令の範疇内ならばこうした非殺傷設定を行使することができる。 安心してくれたまえ、私は君を殺さない。 もっとも、こういうことを考えるのは私ぐらいのものなのだから他のリビングデッドもそうであると誤解はしないでおくれよ? 大抵は時空管理局に色々と恨みを持つに人間ばかりだから、君のような人間には基本的に容赦が無い」

「そうだね、君のようにこうして長々と会話できる人がリビングデッドの中にいるなんて聞いたこともない。 できれば『古代の叡智』や君たちリビングデッドのことも教えて欲しいものだけど、多分無理なんだろうね?」

「それが許可されているのなら私は君に話すことに何の躊躇も無い。 だが、それは禁則事項としてこの身に刻まれている。 すまない、どうもやりがいの無い仕事相手で終わりそうだよ」

 そういうと、煙草を銜えたまま女がデバイスを展開する。 両腕に収まるそれは、拳銃型のデバイスだ。 変則型に分類されるタイプのであり、質量兵器に似ていることからあまり管理局内では人気が無いタイプである。

「非殺傷設定以外の手加減はできない。 すまないが、君も彼らと同じようにしばらくの間眠っていてもらうよ執務官殿」

「是非も無い。 亡霊にはお帰り願おう。 真昼は僕たち生者の歩く場所だ」

 敵は親切にも武装隊を地面に降ろすと、邪魔にならないようにしたところで銃口をディーゼルに向ける。

「さて、では付き合ってくれたまえ」

 引き金を引かれた銃口から、漆黒の魔力弾が飛び出してくる。 その速度はまるで、本物の質量兵器の弾丸と同じ程に速く、咄嗟にディーゼルは回避することができなかった。 衝撃はフィールドを揺るがし、ディーゼルの身体が一瞬のけぞる。 だが、それだけでは執務官は倒せない。 のけぞった姿勢からすぐに立ち直ると、ブラストバレットの魔法を繰り出す。 空中に刻まれる青の軌跡。 爆裂弾がディーゼルの意思を組んで一斉に飛翔する。

「落ちろ!!」

 次々と女に迫る爆裂弾。 しかし、女は涼しい顔をしたままに2丁拳銃の引き金を引く。 通常の砲撃魔法とは初速が圧倒的に違うその砲撃は、次々と爆裂弾を撃ち落す。 着弾後に爆発するはずだったブラストバレットが着弾と同時に炸裂し、盛大な爆音を轟かせながら青い花火となって消えていく。

「……誘導操作型じゃないのか?」

 全ての弾丸が直線軌道を描き、まるで狙い済ましたかのように迎撃していった様を見てディーゼルは呻くように呟く。 誘導操作型魔法を直接射撃系魔法で迎撃できないということは無いが、それでもかなり高度な技量がなければ難しいだろう。 余裕綽々の表情で彼の魔法を迎撃しきった手腕には、戦慄を禁じえない。 しかも相手は十分な狙いさえしていない。 ほとんど勘で射撃をしたといっても過言ではないのだ。 魔導師というよりは、まるでガンマンのような女である。

 次々と飛来する弾丸にディーゼルはシールドを張ると、高速移動魔法を使いながら接近を試みる。 自らのシールドの強固さを信じたディーゼルの突撃に、女はしかし慌てない。 まるでクロスレンジでも問題無いと言わんばかりに銃撃を放つ。

 高速移動時に生じる残像が、次々と射撃されている。 まるでディーゼルの高速移動速度を見極めようとしているかのように、その弾道は少しずつディーゼルに迫っていく。 やがて、シールドに数発食らうようになった頃、ディーゼルがようやく間合いに入る。

 振り上げた杖にはコンバインを串刺しにしたあのジャベリンの魔法が展開されている。 神速の突きでバリアごと抜こうというのだろう。 だが、その突きが獲物を捕らえることは無い。 女が軽く回転するように身体を捌き、青の槍を紙一重で避けたのだ。

「くっ!?」

 射撃系ならばそうそう体術は強く無いだろうと思っていたディーゼルはその流れるような動作に少し驚く。 次の瞬間、クライドの顔に突きつけられる女の右腕。 その手が握っているのは十分に魔力が充電されている銃型デバイス。 女の細い指が、引き金を引く。 瞬間、轟音とともに吐き出される漆黒の弾丸。 咄嗟に首を捻り、直撃こそ避けたもののフィールドを掠っていったその弾丸の確かな威力にディーゼルは冷や汗を流す。

「私に苦手な距離は無いよ執務官殿?」

 クロスレンジでの銃撃戦。 そんなものは映画でしかありえないと思っていただけに、ディーゼルは敵の戦闘技術が想定よりも遥かに高いものだと認識を改める。 首を捻った反動を利用しながら、右足を振り上げ女が振り上げた左手の銃を蹴り飛ばす。 左手から飛ぶ拳銃。 獲物の一つを失った女は、しかしそんなことでは意味が無いとばかりに次の攻撃へと入っていく。

 右腕に残っている拳銃がディーゼルを追っている。 一撃での昏倒を諦めたのか、狙っているのは必中の胴だ。 蹴りを放ったためにすぐにはディーゼルは動けない。 そこに迫る神速の抜き打ち。
 引き金が引かれた回数は三発。 フィールドの防御を突き抜けたそれによって、突き刺さるような痛みと衝撃が執務官を襲う。 だが、ノックダウンはしない。 うめき声を出したが、それでも意識を失うほどではない。 地上へと落ちるようにして近距離から逃れると、地面すれすれで体勢を立て直し、頭上を見上げる。

(かなり強い、それに戦闘慣れしている)

 追い討ちをかけるような真似はせず、女は銜えていた煙草を美味そうに味わっている。 そこにあるのは自分の力量に対する絶対の自信だろうか。 まるで自分などいつでも倒せるといわんばかりの様子にディーゼルは苛立ちを感じた。

 だが、それはディーゼルの勘違いだ。 女にしてみれば別段ディーゼルを倒さなくても良いのだから躍起になって攻める必要は無い。 今現在彼女に下された命令は時間稼ぎ。 であれば、別段倒しても倒さなくても良いのだ。 こうして間を取って仕切りなおしを行うだけでも十分なのである。 それに、彼女自身ディーゼルの強さに少し驚いていた。 見た目少年の割には良く動く。 それが彼女がディーゼルに持った感想である。 悪くは無いセンスだと、楽しげに思っていた。

「いやぁ、実にいい動きをするね執務官殿。 普通の魔導師なら今ので”落ちている”と思うのだがね」

「生憎と、これでもSランク持ちなのでね。 そうそうやられるような真似はしない」

「ほう? それはすごい。 私はそんなランクなんて測ったことはないから、いまいち自分の強さを知らないんだ。 良ければ採点をしてくれないかい?」   

「……そんなもの管理局に捕まったときに測定されているでしょうに」

「いやはや、その当時はもう現世に興味など失っていたのさ。 だから、別段どういう評価を世間から受けようが興味がなかったよ。 ああ、私の名前を言えば知っているかもしれないね。 こう見えてもそこそこ有名なフリーの暗殺者だったのだから」

「暗殺者?」

「懐かしい話さ。 『ガンスリンガー』――世間ではそう呼ばれていたこともあったかな」

「『ガンスリンガー』……チェーン・ムーブル!? 要人暗殺のプロフェッショナルで、八年前に管理局の高官を次々と暗殺していったあの!?」

「おや、知っていたのかい?」

 呻くように言うディーゼルは、自分がどれほどの相手を敵にしているのかを知って戦慄していた。 推定では空戦Sランクにカテゴリーされた凄腕の魔導師である。 あの断頭台と同ランクであり、その戦い方こそ全く正反対だが驚異的な強さを持っているというのは疑いようが無い。 特に、暗殺を行っていた当時は最後の暗殺事件を終えるまでただの一度も敗北していない。 野に存在していた当時のフリーランス”トップクラス”の魔導師である。 

 まだ、恐らくは本気を出してはいまい。 資料でしか知らないが、確かあらゆる銃型デバイスを使用する戦闘スタイルであったはずである。 彼女は2丁拳銃しか扱っておらず、それ以外を使う気配さえ見せない。 それだけで十分だと判断されているということなのか。

 厄介な力場を発生させている物体を破壊し、その後他の遺跡へと向かった武装隊のためにも最速で足を伸ばさなければならないというのになんということなのか。 執務官はこのまま戦りあうことのリスクを計算しながら考える。

 現状、ディーゼルとリンディ、そしてミハエルしか単独で動ける駒は無い。 そのうちの一人をこの段階で押さえられるのは、不味い。 何より、武装隊の面々が気絶したままでいるのだ。 彼女に害するつもりはなくとも、他の魔導機械たちやリビングデッドからすれば武装隊など排除指定然るべき勢力のはずだ。 故に、彼らを助けるまでディーゼルはここを動けず、またそのためには目の前の高ランク魔導師を嫌でも撃破しなければならない。 できれば遺跡でいてくれた方がありがたかったが、一つだけ救いがあった。 それは彼自身が彼女と対峙できたということだ。 リンディやミハエルでは一対一では厳しいだろう。 他にもしSランクがいないのならば、彼女を倒すのは自分の仕事であるのだから。

「……やるしかないな」

 呟きながら、ディーゼルは魔法を展開していく。 最悪の暗殺者を打倒せねばならない。 思考を疾走させ戦術を考えていく。 そこには執務官としての矜持が確かにあった。

 

















 変則デバイスと呼ばれるものがミッドチルダにはいくつか存在する。 大抵が特殊な戦闘スタイルに合わせて考案されたものであり、正道ではない。 ミッド式の魔導師にとっての正道とはやはり、杖型のデバイスである。 インテリジェントデバイスがその花形であろう。 個人の資質に合わせた形態に変化することで汎用性を持たせ戦闘を有利にさせていく。 バランスに優れたミッド式ならではのアプローチである。 だが、そんなアプローチも近年では変化が生じてきていた。

 専門分野の魔法に特化した魔導師が好まれる風潮が蔓延してきているからである。 一芸に秀でるというのは、それだけで強力な武器となるのだ。 戦闘におけるアドバンテージの確保のためには、高度な汎用性よりも一極集中型の方が良い場合がある。 特に、才能が余り無い人間にとっては一つを極めることでさらなる高みを目指す方が都合が良い。

 さらに時空管理局の存在によって魔導師の区分が生まれた頃から、何の技術を修めた人間で、どんな作戦に力を発揮するのか留意して効果的に人材を使っていくというやり方が一般的になっていった現在では、汎用性を求める魔導師は少しずつ減少の傾向にある。 そしてそれは、変則や特化型の魔導師を生みやすい土壌になっていた。


「あら? アタシの相手はこんな可愛らしい女の子でいいのかしらん?」

 舌なめずりをしながら、蛇のような目つきの優男がリンディを見るなりオカマ口調でそういった。 その口元に隠されてもいない愉悦は新しい玩具を見つけた子供のように無邪気だったが、ゾクリと背筋を凍らせるような恐怖を醸し出している。 何かが、決定的に常人とはズレている。 そんな印象をリンディが抱くのも無理は無かった。

「……貴方もリビングデッドですか?」

 かなり強い。 そう判断しながら、リンディは慎重に魔力を練り上げていく。 出力リミッターのおかげで力を制限されている今強者とはなるべくまともに戦闘をするべきではない。 それは分かっていたものの、自分に託された任務を全うするためには容易に引くことなどできなかった。 ディーゼルからは無理をせずに柔軟に対応して欲しいとは言われていたが、引くことをまだ知らない彼女にとって、一度も戦わずに後退するという選択肢はなかったのだ。

「あら? 誰かが喋ったのかしら? まあ、どうでも良いことよね」

 つまらなそうにいいながら、しかし目だけはさらに楽しげだった。 その視線はリンディの全てを値踏みしている。 爪先から髪の毛に至るまで、じっくりと舐めるように観察されているようで酷く不快だ。 真っ当な女性なら嫌悪する類のそれであった。

「いいわね、貴方合格よ。 久しぶりにこんな可愛い子と遊べるなんて今日はなんてツイてるのかしら? さっきまでのブサイクな男たちと違って貴方見所があるわ」

「それは光栄ですね。 それで、その人たちはどうしましたか?」

「ああ、あの男たちならもういないわよ。 アタシの攻めに耐えられないような軟弱な男たちだったもの、この世からいなくなったとしても不思議じゃあないでしょう?」

 暗に殺したと言っていた。 ゴミでも始末したかのようなその言葉に、リンディの目が細まる。 不快さを通り越して、怒りが先に出ていた。 少女の感性では理解できない未知のそれを持つ男はその様子に満足したのか、手に持った鞭型のデバイスを振るう。
 ヒュンっと空気を切り裂く音が響く。 準備運動のつもりなのだろうか? タダ振り回しているだけだったが、いつでも掛かって来いといわんばかりのその態度が、酷く気に食わない。

「投降してください……といっても聞いてはくれませんよね?」

「勿論よ。 だって、アタシが貴方たちの法に従う理由なんてこれっぽっちもないんですもの。 アタシはもう死人<リビングデッド>なのよ? どうして生者の法に縛られないといけないのかしら?」

 男の持っている鞭型のデバイスがしなり、徐々に速度をあげていく。 速く遊びたくてウズウズしているのだろう。 問答など速く終わらせたいと身体で主張していた。

「じゃあ、そろそろ遊びましょうか。 大丈夫、アタシの手にかかれば子供も大人も関係なく気持ちよくイッちゃうわ。 簡単には逝かないでよ? そうなったら、この身体の火照りを押さえるのに大変なんですもの」

 それ以上喋らすのは不愉快に過ぎる。 問答など、もはや必要ではなかった。

「……時空管理局嘱託魔導師リンディ・ハラオウン。 管理局法に基づき、貴方を確保します!!」

「リージス・ザックベインよ。 知り合いはリーザって気軽に読んでくれたけど、貴方もそう呼んでくれると嬉しいわねリンディちゃん」

 だが、その気軽な言葉に答えずにリンディは杖を振るった。 瞬間、虚空に現れる魔力剣。 翡翠の刃が犯罪者を断罪せんと次々とその威容を晒してゆく。 空に広がる翡翠の輝きに、リージスは思わず目を見開く。 だが、感嘆以外の感情は無い。 相も変わらず不気味に舌なめずりをするだけだ。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 次々と飛来する弾幕の嵐に、普通の魔導師は防御か範囲外への回避、もしくは強力な魔法で相殺するかの選択を取るだろう。 だが、リージスはそれら以外の第四の選択肢を取った。

「止まりなさい!!」

 リージスの持つデバイスが再び振るわれる。 その瞬間、次々と放たれたはずのスティンガーブレイドが一斉に動きを止めていった。 それは、なんという神業だったのか。 そもそんなことをしようと考えた人間は少ないだろう。 高速で飛来する攻撃魔法を”バインド魔法”で拘束しようなんて馬鹿なことを考える魔導師など。 それは通常の魔導師の常識からかけ離れ過ぎている。 まるで、時間が止まったかのように虚空で静止する翡翠の剣に、放ったリンディは呆然とすることしかできない。

「――マルチプルバインド!? でも、攻撃魔法を束縛するなんてそんな馬鹿げたこと……」
 
「ありえない、なんて詰まらないことは言わないでよ? 現にこうしてありえているんだから。 もっとも、アタシぐらいテクニシャンじゃないとちょっと真似できないけど……ね?」

 薄く笑みを浮かべながら、リージスはゆっくりと飛翔する。 まるで、お化けに怯える子供を追いかけるようだ。 未知の技巧者を前に、リンディは再びスティンガーブレイドを射出してみる。 だが、効果は無い。 全ての魔力剣が射出した側から次々に拘束されていくのだ。 通常の魔導師の常識を遥かに無視したその変則的なバインドの使い方は、どれほどの技術を有していなければできないのだろう?

 それは、クライドのような一見者制圧用の奇策では無く、誰しもにも通じる技術として完成されていた。 リージスはそういう意味で、完成された技術を持つ魔導師であった。 潜在能力でいえば莫大な可能性を秘めているリンディであったが、彼女は未だ未完成の魔導師だ。 完成された魔導師とはその戦闘技能においては大きな差が存在する。

「ふふふ、もう終りかしら? ならこちらから行くわよ?」

 瞬間、リージスが真正面から突っ込んでくる。 その手に握ったデバイスが、高速で振るわれた。 空気を引き裂きながら疾駆するその鞭は、通常の杖や剣型デバイスとは違って酷く変則的である。 リンディは思わずシールドを展開。 翡翠の盾を鞭が殴打した瞬間、先端部分が砲弾の如き打撃力を持って痛打してきた。 インパクトの瞬間的に相当量の魔力を流し込んできているのだろう。 そこそこの威力を誇っており、受け止めるシールドが軋みをあげていた。

「そらそら、どんどんいくわよ。 しっかり受け止めなさいよ」

 一撃、二撃と鞭がシールドに休み無く振るわれる。 通常のデバイスとは違う鞭という形状は、切り返しの速さもさることながら瞬間的な攻撃速度に置いては剣を遥かに超える速度を持っており、熟練者が扱った場合は酷く相対し辛い。 剣を超えるリーチと、その攻撃速度。 そして、普通では無く変則型という要素は初見者にとっては鬼門だろう。 フィールドに魔力を集中し、一撃を無視して
突撃するべきか? 普通なら判断に迷うところだったが、リンディは即断した。 あのバインドを崩す方法が理解できない。 ならば、近接攻撃しかないだろう。 だが、効果が無いと分かっていても射撃魔法を使わないということはない。 用は使わせなければ良いのだ。 あの未知のバインドを。

 前へ出る。 そう決めた瞬間、高速移動魔法を展開。 翡翠の閃光となって背後へと回り込みデバイスを振り上げて魔力刃を発生させる。 薙刀状の刃がデバイスから伸び、同時にリンディはデバイスのマルチタスク<多重処理>を利用して追撃のスティンガーブレイドを形成する。 一撃で仕留められると思うほど自惚れてはいない。 次に繋げるための布石と情報収集のためには必要だと判断しての行動だった。

「はっ!!」

 鋭い呼気とともに振るわれる刃が、リージスを襲う。 小柄な体躯から振るわれるその刃は、しかし見た目に反してそこそこの威力を誇る。 彼のミズノハとさえ打ち合えるだけの強度を持ったそれを、リージスは振り返って鞭の両端を押さえた状態で受け止める。 鍔迫り合った一瞬の膠着、そこに追撃のスティンガーブレイドが迫る。 だが――

「止まりなさい!!」

――それはまたしてもリージスのバインドで止められる。 突き刺さる寸前で止まった翡翠の剣。 だが、止められようとそれはもう大した問題ではない。 唸りを上げるは薙刀の刃が先ほどのお返しとばかりに振るわれる。 翡翠の軌跡が次々と空中で乱舞していく。 フェイントの類など一切ない。 真っ直ぐで素直な斬撃だった。

「いいわね、いいわね、乗ってきたじゃないリンディちゃん!!」

 自らを刻まんと迫る翡翠の剣戟を、リージスは楽しげにやり過ごす。 受け止め、避け、あるいはシールドで受け止めて変幻自在にリンディの間合いで踊り狂う。 その動きは何かの武術を嗜んだ者の動きではなく、恐らくは我流で覚えたものだろう。 防御スキルとしては酷く相当出鱈目な動きだったが、本人はその不恰好ささえ気に入っている様子だ。

 さらに、薙刀の間隙に射撃魔法をリンディが打ち込むが、それらは例外なくバインドされる。 止まれの一言で全てが彼の思うがままだ。 誘導操作系も直接射撃系の区別などはなかった。 バインドを使わせまいと間断なく攻めているというのに、バインドを止められない。 それどころかバインドの感知さえできない。

 それは恐ろしく魔法の展開が速いせいなのか。 だとすれば彼のデバイスはインテリジェントデバイスの反応速度ではありえないだろう。 であれば、リージスのデバイスはストレージデバイスか。 インテリジェントデバイスはAIのサポートによって戦闘支援を受けられるが、その分AIの演算に処理を取られる分反応速度が落ちる。 だが、ストレージデバイスは簡易的なインターフェースこそ持っているが、複雑なAIを搭載していない分だけ処理速度も反応速度もかなり速い。 もっとも、その分AIのサポート処理は無く魔法は自らが任意で使用しなければならないのだが。

「くっ!?」

 一向に攻撃が当たらず、リンディの心に焦りが生まれていく。 まるで遊ばれているのだ。 そう思うのも無理はなかった。

「ふふ、そろそろ温まってきたわね。 じゃあ、次は貴方の可愛い悲鳴でも聞きたいかしら。 元気いいのは分かったしね」

 防御と回避に専念していたリージスの動きが変わる。 宣言通りにリンディを嬲るつもりなのか。 鞭の攻撃に加えて、感知できるバインドが放たれ始める。 クロスレンジでのバインドなど、避けるのは至難の業だ。

 小柄な身体が空中で高速で揺れる。 連続しての高速移動魔法に、リンディの残像が軌跡となって虚空を埋めていく。 だが、相手は逃すつもりなど無いのだろう。 少しずつ、詰め将棋の要領でリンディの逃げ場所を奪っていく。 目に見えるバインド、そして設置型のトラップバインド。 バインドが檻のように周囲を埋め尽くしていくその光景は、凡そ常人には見えないだろう。 デバイスのセンサーが捕らえる感応力をフル活用し、リンディは逃げる。

 バインドの厄介なところは、その拘束性である。 空間中に固定されたその瞬間は確実に無防備となってしまう。 フィールドやシールドを展開することなどはできるし、魔法を使用することもできないでもない。 だが、基本的にバインドは一撃必殺を狙う前に使用する必殺の布石である。 つまりバインドに捕まるということは相手に最高のシチュエーションを与えるとうことに他ならない。 どんな魔導師であれ、切り札はそれぞれ持っている。 ならば、それは相手を打倒するための必殺の魔法であるはずだ。 切り札の応酬など、するべきではない。 相手に切り札を使わせずに勝つのが最善の戦い方なのだから。

「――!?」

「ふふ、捕まえた♪」

 辛うじて避けていたが、右足が捕まった。 そこから、次々とバインドが四肢を束縛していく。 多種多様のバインドが、まるで蛇のように身体中を締め付ける。 バインドブレイクの術式を用意するが、バインドの種類が多すぎた。 パッと見ても三つは違うバインドで束縛されている。 一つ一つ解除しているのでは遅すぎるだろう。

「さ、ショータイムといきましょうか」

「きゃっ」

 シャっ、と空気を引き裂く鞭の音。 次の瞬間、リンディを打ち据えたそれはフィールドの上から削るように振るわれた。 フィールドで殺しきれない衝撃が、次々と妖精を襲う。 フィールド越しのその痛みは、バインドブレイクに集中しようとするリンディの集中を容赦なく阻害していく。

「ほら、ほら、もっと良い声で鳴いて頂戴!!」

「く、あう、ひゃっ――――」

 フィールドを越えた一撃がバリアジャケットを削る。 辛うじてジャケットを抜かれることはなかったが、それはリージスが態とそうやって遊んでいるに過ぎない。 サディスティックな愉悦を自らの相貌に刻むその顔からは言い知れぬ高揚が確かにあった。

 ――リージス・ザックベイン。 五年前に人身売買の闇ブローカーとして管理局のとある双子猫の使い魔が潜入捜査を行って捕らえた犯罪者である。 その嗜好は主に未成熟な少年少女に向かわれていた。 リンディなど、彼にとっては獲物に過ぎないのだろう。 鞭を振るう度に上がる悲鳴を最高のBGMとしながら、リージスは死して直自らの欲求に突き動かされたかのように振舞う。 こういう場面でしか、リビングデッドとして以外の自分を見出すことができないがゆえに。 死人には、自由など無いのだ。 今まで溜まっていた快楽への欲求がここで噴出していた。

「さあ、さあ、もっと……もっとよ!! もっとアタシを楽しませて頂戴!!」

 エスカレートしていく欲求は、少しずつ彼を暴力的にさせていく。 振るう鞭にはいつの間にか本人も知らない間に熱が篭っていた。 周りなど見えないぐらいに、彼は今この瞬間を謳歌していたのだ。 だからこそ、気がつかなかった。 自らの背後から迫る黒い閃光<クライド・エイヤル>に。

 それは、電光石火の一撃だった。 今までいつもならシールドナックルを纏って殴る癖に、このときばかりはそういう戦術的な行為さえ彼は忘れていた。 いつも冷静に判断する彼らしくないあり方だ。

「うらぁぁぁぁ!!!!!」

「ぐぎゃっ――」

 ザフィーラ仕込みの鉄拳が、リージスの顔面を強襲する。 こめかみを打ち抜かんとするその一撃に、リージスは成す統べなく吹き飛んだ。

「な、なんなのよあんた!? よくもアタシの楽しみの邪魔して――」

「下種が、お前はもう黙ってろ!!」 

 展開されたシールドカッターが四つ、問答無用で放たれる。 だが、体勢を立て直したリージスが一言発するだけでそれら全ての動きを止める。 リンディには原理さえ理解できなかった未知のバインドだ。 回転したまま移動を止めるシールドカッター。 回転音が発するその音は、怒りの咆哮となって自らを束縛するそれを食い破らんと足掻き続ける。 バインドとシールドカッター。 普通なら対決するはずのない異色の対決。 であれば、この場合の勝者はどちらになるのだろうか? リンディのスティンガーブレイドさえ止めたバインドの方が優勢なのだろうか?

――いいや、違う。

「な、アタシのバインドが!?」

 勝ったのはクライドのシールドカッターだった。 それこそが、リージスのバインドの弱点。 そもそも彼の射撃魔法を封じるその魔法はその現象を定義するならば広義にはバインドに含まれるだろう。 だが、本当はそれは”バインド魔法”でさえなく、ただ空間に射撃魔法を固定するという一点だけでその範囲に入っているバインドである。 クライドはそういう魔法を師匠たちから聞いていたからこそ、それの弱点に瞬時に気がついていた。

 飛び込んできたシールドカッターをリージスが受け止めながら、ヒステリックな声を上げる。

「くぅぅっなんだってこんなヘンテコな魔法に!?」

「バインドだって? はっ、笑わせるなよ。 なんの変哲も無いカウンターフォールの魔法の亜種じゃないか。 そんなまがい物をバインドなんて呼べるわけがないだろうが」

 カウンターフォールとは、スターダストフォールのように物体を射出する魔法とは正反対の魔法であり、通常物体にかけられた運動量を零にする魔法である。 だから、通常のバインドとは違ってバインド魔法として探知できないしバインドで止められないはずの射撃魔法を止められるのである。 マルチプルバインドの多重起動術式と混ぜ合わせ大量の射撃魔法を止められるように改良こそされているもののそれだけでしかない。 シールドを削るように切り裂くシールドカッターの術式切断力に負けるのがその証拠だ。 バインドに似せられているため酷くわかり辛いが、束縛時に魔法と接触しなければならないため移動量は殺せても回転し続けるシールドカッターに負けるのだ。

 元々カウンターフォールの魔法は最近では使い手が少なく、使い勝手もそれほど良いとはいえない。 術式の難しさもさることながら、同ランクの人間や格上の人間とかち合った場合には魔法の停止にそこそこ時間がかかり、それほど秀でている防御手段であるとはいえないからだ。 デバイスとリージス自身がそれに特化した魔導師であるため通常よりも脅威に見えているが、あんなのは弱いもの苛めのための戦術に他ならない。

 それに、いくら大量の魔法を止められるといっても限度はあるのだ。 例えば、リンディがフルスペックでスティンガーブレイドを詠唱していたのなら、彼には止められなかったはずだ。 彼がリンディを圧倒できていたのは一重に出力リミッターが掛かっていたからというのが大きい。 そもそも魔力量が本来の量があるのならリンディには無理に接近戦を挑む道理も無い。 何せ彼女は単純な力押しが一番強いのだから。

 因みに、クライドのシールドカッターのように束縛されてもその束縛を打ち破る魔法であることや格上の魔法の処理レベル限界といった弱点以外を使用した攻略法も存在する。 射出された物体の運動量を零にするという特性は確かに脅威であるが、それが存在しない魔法を使用すれば良いだけだ。 例えば温度変化形の魔法。 極めて強力な凍結魔法の類いがそれだ。 射出される物体がそもそも無いのだから止めようが無い。

「……あ……クライドさん……どうしてここに?」

 いつの間にか、目の前に背中を向けて立っているクライドにリンディは驚く。 だが、どこかホッとしているようにクライドには見えた。

「ちょっと待ってろリンディ。 なんだか良く知らないけど、今すげームカついててな。 あいつの相手は俺がしといてやるから休憩しとけ。 ミーア、リンディは任せるぞ」

「はいはい、分かったよお兄さん。 でも、勝てるの?」

「ここはAMF圏内だぜ? それに、俺はバインド使いと戦うのは慣れてるんでな」

 クライドにAMFはほとんど意味を成さない。 にもかかわらず相手は弱体化しているのだ。 戦力の差が小さくなっているというのなら、クライドにはとってやりようはいくらでもあった。

「とはいえ鞭使いと戦ったことは無いからな。 ……使うか」

 呟きながら、クライドはポケットから刀の柄のようなキーホルダーを起動する。 それは待機状態にしてあったデバイスであり、クライドが作った二つ目の自作デバイス『ブレイド』である。 なんともシンプルなネーミングであったが、分かりやすいのでそれで決定していた。 ネーミングセンスのかけらも無いクライドらしいといえばらしい。

「来いよ、似非バインド野郎。 児ポ法に存在自体が反するってことを教えてやるよ」

「きぃぃぃ!? 何よ貴方、いきなり現れてその子のナイトでも気取るつもり!? そういうの虫唾が走るのよ!!」

「煩い、このオカマ野郎が!!」

 カートリッジを用いながら柄から青い魔力刃を生み出して、クライドは高速移動魔法を展開。 バインドの魔導師に切りかかっていった。












 管理局の魔導師であるということは、それ相応の危険性と隣り合わせになるということである。 普通の一般市民がかち合わないような次元災害や次元犯罪者と対峙しなければならず、当然任務で負傷したり死亡する可能性も出てくる。 どれだけ治安が良くても、悪いところなどいくらでもありそれが世の中の常である。
 魔導師の力というのは通常の歩兵の携行火器を越える威力を持つものが多い。 一応非殺傷設定という非殺方法があろうと、追い詰められた犯罪者がそんなものを使うわけもない。 質量兵器に変わる兵器が魔導師であるから、気を抜けば一瞬で命を失うことは当然のリスクになっている。

 リスクは常に存在し、魔導師の背中に乗りかかっている。 戦場とはそういうところであり、そこでは己の命をチップとして相手の掛け金を奪う凄絶なチップレースが展開されているのだ。 そんなリスクが存在すること事態に、クライドは恐怖を感じる。 それは、平和な国で過ごしていたクライドならではの考えだ。 だからこそ、彼はリンディが劣勢になる前は手を出さなかった。 いや、出せなかったというべきか。 非殺傷設定の無い魔法とは、容易く自らの命を奪うことができると知っているから。

 クライド・エイヤルにあってリンディ・ハラオウンに無いものは確かにある。 それは小細工であったり低ランク魔導師という目線も含めれば色々存在するだろう。 だが、リンディ・ハラオウンにあってクライド・エイヤルには無いものも確かにあった。 才能や魔力量といった要素ではなく、端的に言えばそれは実戦経験の有無である。 嘱託として何度か管理局員とともに戦場に出たことがあるリンディとは違い、彼はいつも非殺傷設定下の中でしか戦ったことが無い。 魔導師とはいえ未だに学生。 非殺傷設定という前提があり、死なないという事実があったからこそ魔法に対する恐怖を麻痺できていたといってもいいだろう。 そんな暗黙のルールが無い戦場をいきなり目の当たりにしたら、今までに感じたことの無い生の殺し合いの空気に、得も知れぬ恐怖を抱いても仕方が無かったのかもしれない。

 生の戦場に初めて立ったクライドは、その中で初めて確固たる死の恐怖に慄いていた。 であれば、このまま何もせずに逃げるという選択肢も確かに存在したのだ。 彼はまだ学生で、嘱託魔導師でも管理局の魔導師でもない。 まだ庇護されるべき存在であるという事実があるのだ。 どうして、態々あんな危険極まりない場所へ行かなければならない? 自己保存欲が思考を埋め尽くさんとしていった。 だが、それでもクライドの足は後ろへ下がることはなかった。 ミーアとともにミラージュハイドで隠れたまま、戦場の情報を収集し続けていたのは何故だ? 自分より年下の少女が、未知の魔導師と懸命に戦っている姿を見続けたのはどうしてだ?

(くそ、ああもう……なんだってこんな――)

 胸の中にある恐怖が心臓の鼓動を加速させる。 だが、それ以外の感情が少しずつクライドの中に芽生えていた。 理解できない感情が、彼の心を刺激する。 その煩わしさといったらもう、恐怖などどうでも良くなるほどであった。 緊張に固まっていた体が、妙に熱い。 頭は冷静に動いている。 危険などそもそも負うべきではないと訴え続けている。 だが、身体は前に出ようとする。 そして、それはリンディがバインドで身動きが取れなくなり鞭に打たれた瞬間に爆発していた。 ミーアを無言でそっと降ろすと、飛行魔法で一気に駆け抜けていたのだ。

(ああ、多分俺は気に食わないんだ。 最悪の場合はそのまま見捨てることさえ考えてた、自分自身の人間味の無さが……ビビって逃げ出そうとするかっこ悪い自分が!! それになにより知り合いがやられそうになってるのが一番気に食わねぇ!!)

 多分やられていたのがリンディではなくザースやフレスタだったとしても、クライドは飛び出していただろう。 少なくとも、彼にとって留意するべき人間にカテゴリーされている限り同じことをしているはずだ。 彼は人付き合いは悪いが、その分自分に構おうとしてくれる人間にがいることがどれだけありがたいのかを知っていたから。

「きぃぃぃ!? 何よ貴方、いきなり現れてその子のナイトでも気取るつもり!? そういうの虫唾が走るのよ!!」

 衝動に駆られて殴り飛ばしたオカマが何かを囀っている。 だが、今のクライドにはそんなものは煩わしいだけの物体に過ぎない。 であれば、やることは決まっている。 格好悪いさっきまでの自分諸共、叩きのめすだけだ。

「煩い、このオカマ野郎が!!」

 漠然とした思考が、怒りの矛先への純粋たる敵意を剥き出しにする。 ブレイドに己の魔力を込め、ブレイドの刃を伸ばす。 通常の刀の長さではない。 その三倍四倍を超えるかというほどの長さの魔力刃を生み出していた。 さらに、それだけでは打ち合うのに強度が足りない。 ならば、足りるようにすればよい。

「カートリッジロード!!」

 単発で仕込まれていた魔力カートリッジが、クライドの魔力を底上げし瞬間的にブースト。 それを胸の前に構えながらクライドは次のカートリッジを仕込むと、高速移動魔法を用いて間合いを詰めミドルレンジでの戦闘に持っていった。

「はっ!!」

 鋭い呼気とともに振るわれる青の魔力刃が、縦横無尽に空気を切り裂く。 通常の実体剣ではなくある程度の変則に扱える魔力刃だからこその戦い方だろう。 鞭の射程を超える射程を実現しながら、剣を振るう。 モーションは剣の騎士から貰った特別性。 正真正銘古代ベルカの騎士の太刀筋だ。 まだぎこちなさはあったが、それでも元々近距離での戦いをある程度ものにしていたので素直に薙刀を振るっていたリンディとの近接戦闘技能の差は大きい。 

「く、あんた鬱陶しいわねぇ!!」

 鞭の射程を凌駕するという非常識な刀を前に、リージスが苛立ちの声を上げる。 リーチの差はそれだけで厄介である。 いつもは自分が相手を翻弄する立場であったからこそ、その苛立ちは大きい。 それに、反則だと思ったのはあの切り返しの速さだ。 実体の無い魔力刃には重みなど存在しない。 柄だけの重量しか無い分相当に軽いのだ。 それが剣戟の速さを生み出し、やり辛さを助長させていた。

 クライドは休み無く刀を振るう。 袈裟、逆袈裟、なぎ払い、払い、切り上げと次々と攻める。 まるでそうすることで何かを振り払えると考えているかのように取り付かれたように刀を振るう。 

 リージスは体捌きや鞭だけで凌ぐのでは埒が明かないと、バインドを使い始める。 が、それをクライドは神速の剣戟で切り裂いた。

「嘘でしょ!?」

「あんたのバインドなんか、生ぬるいんだよ!! アリアの非常識レベルのバインドに比べたらなぁぁ!!」

 思い出すのは、あの冷静な猫の使い魔だ。 涼しい顔であらゆるバインドを操り、こちらを罠に嵌めていくあの嫌らしさといったら、目の前のオカマなどと比べるべくもなかった。 バインドに嵌るということは、必殺のチャンスを相手に売り渡すことだということを肌で叩き込まれたクライドにとって、バインドとは絶対にハマってはいけない罠そのものだ。

 故に、クライドは当時バインドをかなり執拗に研究していた。 そこから得たデータを下に、クライドはバインドを破る手段が三つあると知っていた。 一つはバインドブレイク。 二つ目は圧倒的な魔力を利用した力づくでの縄抜け。 そして三つ目がバインドそれ自体の術式をなんらかの方法で破壊すること。 そしてそれが可能であるからこそ、通常のバインドは射撃魔法を絶対に束縛できない。 敵のシールドを貫通させることを前提に置いている魔法を束縛すれば、その貫通の術式でバインドそれ自体が破壊されるからである。

 ちなみに、三つ目を行う上で絶対にやってはいけないのは破壊する手段に素手を用いてはいけないということだ。 素手では、いくら破壊の術式を叩き込んでもその前に捕まえられる。 今まではシールドカッターで設置分や投擲分は対処するという方法しか取れなかったクライドだったが、今は違う。 ブレイドという新しい武器を手に入れたクライドはそれによってバインドを封じるという荒業を行えるのだ。 無論、武器があるからといっても高速で飛来するバインドをそう容易く切り裂けるというわけではない。 バインドというものを訓練時に常に身近な脅威として捕らえさせられたせいで、彼はバインドに対する感知力が人よりも遥かに高いのだ。 そこは、リンディでさえも凌駕するクライドの修錬の賜物だった。

「くっそんなまぐれがいつまでも――!?」

「しゃらくさい!!」

 剣戟に混ぜて、シールドカッターを左右に散らし囲むように投擲する。 射撃封じのバインドがそれを束縛するが、やはり回転そのものは止められないので結果、束縛した部分を切り裂かれて無駄な魔力消費へと相成っていく。 そのままシールドカッターが幾度と無くバインドを決められるが、それら全てをシールドカッターは受けきっていく。 とはいえ、完全に無傷というわけにはいかない。 魔力同士のぶつかり合いの際にカッター自身も魔力を削られるからである。 終わらないイタチゴッコというわけではないが、魔力消費効率の観点から言えば最悪の消費を相手に促していった。

 リージスにとって不運だったのはここがAMF圏内であったことと、クライドの師匠がかつて『バインドマスター』と呼ばれた彼をバインドで捕獲した存在であったことだろうか。 きっちりと骨の髄まで教育されている彼には、さしもの彼も手を焼いた。

 元々、彼の戦闘スタイルはまずバインドに決めることが前提になっている。 鞭型の変則デバイスにバインド特化の特別性なのは本人の資質もそうだが、まともに戦うことが本来は得意ではないからだ。 基本的に彼は弱者を嬲るのを好み、そのための力としてバインドを選んだ。 元々AAAランクに相当する魔力資質を持つ魔導師だったが、その性癖故にバインド特化型になり弱者に対しては酷く強いが、それが効果を発しない格上や同格には酷く弱い一面を持っている。 AAAランク相当の魔導師が管理局内部には5%もいないので大抵は彼のバインドに成す術などなかったこともあり彼のバインド傾倒は止まらなかった。 だから、彼はバインド以外の魔法を鞭での攻撃魔法以外にほとんど習得してはいない。

 そして、ここはAMF圏内という特別環境であり、さらにクライドはその中で魔法を弱体化させない特性を持ている稀有なレアスキル持ちだ。 訓練学校生といえども、特定条件下という条件付きだが格上を打倒するべき戦術まで有しておりさらに得意のバインドに対しても強いというのだから彼にとっては最悪の相手であった。 

「なんで、アタシかこんな餓鬼に圧倒されなきゃならないのよ!!」

 癇癪を起こしながら鞭を振るうが、その先端が相手を痛打するよりも先に距離をとられ避けられ、次の瞬間には再び距離を詰めた青の魔力刃の歓迎を受ける。 血が上ってはいたものの、未知の武器に対する警戒を失うことはなかったのか、クライドは酷く合理的にことを運ぶ。

 元々彼はやるときはやるし、やらないと決めたらとことんやらないという気まぐれな部分があったが、今回は些かにやる気が強い。 考えうる限りの最高制圧方法をその頭の中でシミュレートしていた。 ただの訓練生とは違うそのあり方は、既に魔導師のそれであるといえよう。 弱者を嬲ることしか知らないリージスにとってその存在は酷く不気味に映った。 だが、その状態を続けていくうちにリージスは若干ではあるがクライドの決め手の無さに余裕を取り戻していく。 確かにあの刀は厄介だと思うが、まだ彼自身の防御を抜かれたわけではないのだ。 しかし、それが楽観に過ぎないと知ったのは彼が立ち直る直前であった。

 再びクライドが放ったシールドカッターを彼がバインドで止めた瞬間、シールドカッターがいきなり爆発し、周囲に粉塵を巻き起こす。 単純な目くらましだったが、それでも何かしようとしているのは容易に見て取れた。

 しばらくしてすぐに粉塵を突き破ってくる影が三つ。

「小ざかしいフェイクね!!」

 全てが皆、シールドカッターを周囲に三つ展開したクライドだった。 彼お得意のフェイクを交えたかく乱戦術である。 リージスは鞭を振るい、それらに対してマルチプルバインドを行使する。 フェイクは確実にバインドに捕まるはずだったが、シールドカッターがバインドを切り裂いてそれをさせない。

 嘘の中に本物を織り交ぜる。 そうして、敵の意識を釘付けにしたところで本命を叩き込むのだ。
それがクライドの基本戦術であるが故に。

 シールドカッターがそれぞれ放たれ同時に、三人のクライドが周囲を取り囲むように接近する。 鞭で打つと、それらは閃光と爆音を上げて破裂。 リージスの目と耳を殺す。 距離があったせいで昏倒はしないが、感覚が世界から切り離されたその瞬間をクライドは見逃さない。 ミラージュハイドを用いて隙を伺っていたクライドが動く。

 カシャンっとノッキング音を木霊させながら、ブレイドがカートリッジを飲み込む。 次の瞬間、閃光に隠れるようにして背後に忍び寄ったクライドが問答無用で襲い掛かる。 今度は魔力刃の長さは先ほどまでと違い、通常の刀の長さである。 だが、その分威力を増幅したそれはカートリッジシステムの恩恵を受けて瞬間的にさらなる威力強化が成されている。 さらに、そこに加えるのは鉄槌の騎士の術式だ。 闇の書のページを埋める過程で、ヴィータがミッドチルダ語に翻訳したその魔法をクライドはミッド式にアレンジして組み込んでいたのだ。

「吹き飛ばせ! テートリヒ・シュラーク!!」

 痛烈な一撃の名を冠したその魔法は、咄嗟にフィールドを展開したリージスを背中から強襲し大地へと吹き飛ばしていく。 それを追うクライドは予定通りとばかりにその後を追う。 リージス・ザックベインという魔導師は少なくともクライドにとってはその防御力においては格上となんら代わりが無い。 であれば、それを一番容易く打倒するにはアレが一番だ。 バリアを切り裂いた上での魔法行使。 クライドの最大の殲滅コンボである。

 地面に叩きつけられる瞬間になんとか体制を立て直し、ギリギリのところで地面の上に立つリージス。 その目に映るのは子憎たらしい黒髪の少年だ。 怒りによって思わず沸騰した思考が、戦場で常に冷静であらねばならないという魔導師の不文律を犯す。 その結果、彼は致命的なモノを見逃した。

「く、糞餓鬼がぁぁ。 こうなったらあの子もろともズタズタにしてや――バインド!? この私にバインドですって!?」

 クライドは容赦はしない。 躊躇無くアーカイバを起動すると両腕にグローブ型のデバイスを纏って接近する。 ただ、前と違うのはリンディに行ったときの無手ではなく、その手には魔力刃の無いブレイドを握っていることだろうか。

 しっかりと地面を足で踏みしめ、神速の踏み込みで四肢を拘束されたリージスに居合い抜きの体勢で切りかかる。 傍目に見れば滑稽に見えるだろうが、何かをしようとしているのはリージスには理解できた。 咄嗟にリージスにできることと言えば、フィールドを強化して攻撃に耐えることだけだ。 バインドブレイクを使用するにしても、それをすれば無防備なまま攻撃を受けることになる。 それでは、駄目だと生存本能が彼に強力なフィールドを纏わせる。 だが、それさえもクライドの制圧戦術の想定の範囲内であった。

「これで、終りだ!!」

 振るわれるブレイドが、刃を持たぬまま空を切る。 だが、その軌跡にそって目に見えない刀身が確かにリージスのフィールドが切り裂いた。 さらに驚くべきことにバリアジャケットや彼自身の身体を上下に分断してみせた。 非殺傷設定が効いているはずなのだが、その様にはトドメの追撃を放とうとしていたクライド自身、驚きを隠せない。

「あ、アタシが……こんな……嘘……バインドで……」 

 消滅していく自らの身体を見ながら、リージスが呆然と呟く。 バインドを用いた戦術でもって倒される。 それは『バインドマスター』と自負する彼にとってもっとも屈辱的な敗北である。 攻撃手段そのものがどれだけ未知であろうとも彼はどうでも良いとさえ思っていたが、それでもその一点だけは許容できなかった。

――それは奇しくも彼が双子猫に負けたときと同じ負け方であり、彼が管理局に捕まったときの敗北したときの戦術に酷似していた。 

「……なんだ、こいつ?」

 消滅していったリージスに呆気に取られていたクライドだったが、どう考えても理解できなかった。 非殺傷設定で切り裂かれた挙句に消滅する存在など、一体どういう存在なのか?

「魔力で対消滅した? いや、でも……そんな魔力で実体を作るような不可思議な存在を作ることがそう簡単にできるのか?」

 考えるが、いまいち理解できない。 近い存在といえば魔法プログラムによって実体顕現させられた守護騎士たちだが、彼らは魔力ダメージを受けて消滅するようなことはない。 では、それ以外の魔力存在などこの世界に存在するというのか?

「ロストロギア……それも未知の? 駄目だ、さっぱり分からない」

 首を傾げて唸るクライド。 だが、どれも推察の域を出るような具体的なものが浮かばない。 考えるのも億劫になった彼は、デバイスを待機状態にすると離れた位置にいる二人の下へと向かった。 なんにしても、状況が理解できていないというのがまずい。 当初の目的を思い出した彼はゆっくりと空へと上がっていく。

「ふう、終わったぜリンディ、ミーア」

「お疲れ様ですクライドさん。 ……私があんなに梃子摺っていたのに、倒すなんてさすがですね」

「すごいねクライドお兄さん。 結構強かったんだね」

「強いっていうか相性の問題だな。 どうにもバインド以外秀でたところなさそうだったからな」

 そういうと、クライドは肩を竦める。 切り札を切るほどに強い相手だったのだが、二人から見れば自分が圧倒したように見えたのだろう。 純粋に込められた尊敬の眼差しに水を差すことができず、頬をかいてその賛辞をやり過ごす。

「あー、そうだ。 それとリンディ、悪かったな。 本当はもうちょっと速く乱入できたんだが……」
 
 臆病風に吹かれさえしなければ、リンディと今頃は共闘していたかもしれない。 それを思うと、クライドは少し後味の悪さを覚えた。 その気まずさを押し隠すように、リンディの頭をグリグリと撫でながらバツが悪さをごまかしていく。 いつに無いクライドのフランクな様子に、リンディはちょっと驚いたが、少し目を細めて成すがままにされる。 こうして誰かに頭を撫でられるというのが久しぶりだったので、ちょっと嬉しかったりしたのだ。

「いえ、でも助けてくれましたよねクライドさん。 おかげで助かりました」

「いや、大したことじゃないさ。 それにもののついでだったしな。 今ここで何が起こってるのか俺は知らないんだ。 教えてくれると助かる」

「あ、はい実はですね……」

 事情を知らないクライドにリンディは自分が話せることを話す。 リビングデッドのことは勿論、今現在『古代の叡智』という次元犯罪組織によって攻撃を受けていたことや、学生の様子などを聞いてクライドとミーアは多いに驚くことになった。 が、まずはそのAMF装置とやらを破壊しなければならないというのでリンディに同行することにする。 単独でいて強力な魔導師や魔導機械に襲われるよりも、数人で固まった方が安全だろうと考えたからだ。 勿論、そのほうがリンディとしても心強かったので否はなかった。

 だが、彼らがAMF発生装置に辿りついた頃には、AMFは解除されていた。 それどころか、装置らしき物体がまるで爆破されでもしたかのように吹き飛んでいたのだ。 恐らくは目的を達成したために、こちらに有用なデータを渡さないように自爆させたのだろう。 それで、この事件はひとまず一段落つくことになった。















 今までにない事件に巻き込まれる形ではあったが、見学旅行は滞りなく続けられた。 とはいえ、一日程短縮されたのはしょうがなかっただろう。 既にあらかたのロストロギアは盗掘されてしまい、遺跡にはもう歴史的価値しか存在しない。 であれば、もう狙われる理由は無いから安全だろうというのが現場の意見であった。 新しくやってきた護衛艦も事後処理などに追われているし、学生に構っている余裕は無いので半ば放置するためにそうしたのではないかとクライドは思っていた。

「あーあ、収穫があったり厄介ごとが増えたり面倒に巻きこまれたりで散々な旅行だよ」

「あら、そうなの? 随分と優雅に過ごしているような気がするのだけれど?」

 優雅に紅茶を含みながら、少女が笑う。 クライドはテーブルの上で頬杖をついたまま、しかしその言葉に憮然と抵抗した。

「そっちは用があれば現れるなんていってたが、俺がこっちに来たらいけないなんていってなかったし、言えば招いてくれたじゃないか。 サバイバル訓練も良いが、あんたに話を聞くことの方が俺の未来にとっては重要だと思うからこうしてる。 が、あんたはまったく話してはくれない。 なら、こうして優雅に茶を飲むあんたを鑑賞するぐらいしか俺にはやることがない」

 野宿の準備をしているとはいえ、できれば暖かい布団の方が良いという打算もある。 それに、発信機は既に外してあの洞窟の中に置いている。 誰かが来た場合は少女に教えてもらえば良いだけだしこのまま訓練日程を終えてしまうのも有りだとうとクライドは考えていた。

「ま、いいわ。 貴方の好きなようにすれば」

 そういうと、少女は一冊の本をクライドに投げる。 そこには、奇妙な文字でなにやら色々と書かれていた。

「これは?」

「プラグインよ。 後でその本を夜天の書に触れさせなさい。 そうすれば、そのうち貴方が知りたいことが見えてくるわ。 もっとも、まだそのときではないから意味はないでしょうけれど」

「ふーん」

「感謝しなさいよ。 貴方が来る少し前に態々アルハザードまで取りに行って来たんだから」

「ぶふっ!?」

 ありえない単語を聞いて、クライドが紅茶を喉に詰まらせる。 その行為に眉を顰める少女は、しかしそれ以上は言わずにゆっくりと紅茶を楽しむことにする。 自らのペースを崩さないそのあり方は酷くマイペースであり、唯我独尊であるともいえるだろう。

「ちょ、冗談じゃないよな!?」

「あら、嘘を言ってどうなるというの?」

「だって、虚数空間は!? あれの向こう側に飲み込まれてるんだろう?」

「……そうだけれど、”それ”がどうかしたの?」

 現状、ミッドチルダの人間がアルハザードに行くことはできないとされている。 というよりもほとんどどこにあるのかさえ分かっていないのが現状だ。 クライドは原作でプレシアが虚数空間の向こう側にその存在があると確信していたような印象を受けたので、そこにあるのだろうと推測していたがあまりに簡単に肯定されるものだから驚愕を露にしていた。

「そんな、気軽に行き来できるようなものなのか」

「アルハザードの人間からすれば、そう難しいことではないわね。 まあ、私は特別なんだけど……ね」

 その後もクライドは懲りずにこの少女に色々と尋ねていく。 だが、結局分かったことは少なく理解できたことといえば、少女の名前ぐらいだ。 もっとも、それだって本名かどうかは怪しいのだが。

「さて、じゃあねクライド・エイヤル。 貴方のお友達が貴方を探しにきているわ。 これでお茶会はおしまいよ。 勿論、暖かなベッドも無しね」 

 いつの間にかクライドは襟首を捕まれ、次の瞬間にはもう洞窟に転移させられていた。

「くそ、カグヤ!! 今度あったら絶対に話してもらうからな!!」

 恐らくはなんらかの手段でこちらを観察しているだろう少女に向かって悪態をつきながら、クライドは憮然とした表情で発信機を拾うと、こちらを目指してきている友人を出迎えに向かう。 心なしか、背後でカリスマの少女の笑い声が聞こえた気がした。

「よう、こんなとこに居やがったのかお前?」

「なんだ、ザースか。 どうしたんだ?」

「何だとはご挨拶だな。 うちらの我侭なお姫様の提案でな、これから俺たちは強制的に水遊びの刑だとよ」

「……ちなみに、聞くまでも無いと思うが我侭なお姫様は小さい方か? それともお節介焼きな方か?」

「勿論、お節介焼きのほうさ。 断ったら後で、ハラオウンの魔法で夕食のおかずにされるらしい。 良かったな、こんがり焼けるぞ」

「いや、そもそも原型が残るかどうかさえ怪しいだろ」 

 相変わらずのフレスタの暴君っぷりに呆れながら、クライドはザースについていく。 初日からハプニングだらけの見学旅行だったが、それでもこれから少しは楽しめそうである。 いつもの穏やかな日常が近くに帰ってきた気がして、クライドは思わず笑みを浮かべた。

 だが、それも長くは続かなかった。 水着姿の女性陣二人に着の身着のまま滝つぼへ叩き落され、危うく溺れるところだった。 女と自然にはどれだけ魔法を覚えても勝てそうに無い。 クライドの受難は管理外世界でも健在だった。






 







――事件報告書。

 古代の叡智のリビングデッドと同時に現れた魔導機械とAMF発生装置の出所について目下捜索中であるが、具体的な進展は無きに等しく、古代の叡智という組織に対して大規模な捜査が必要であると思われる。 また、今回現れたリビングデッドの中にはSランク魔導師が二人、AAAランクが二人存在しており、高ランク魔導師も相当数有していることが明らかになっている。 彼らに対する危険度を大幅に認識しなおす必要があるだろう。

 そして、一番解せないのは時空航行艦一隻を沈めた敵の存在である。 援軍要請時の最後の通信記録によれば、いきなり現れた航行艦によってアルカンシェルを食らったらしいとの報告が寄せられており、なんらかの形でミッドチルダもしくは管理局から技術が奪われた可能性がある。 さらなる暗躍を阻害し、一連の事件を解決するためにも――。

「……ふう、今回は大変だったな」

 空間モニターに纏めている報告書の内容を吟味しながら、ディーゼルはため息をついた。 学生とスクライア一族に被害こそでなかったものの、管理局の次元航行艦一隻と武装隊員の二個小隊という戦力が失われていた。 彼らのことを考えれば、ディーゼルには古代の叡智を捕らえる以外に彼らに報いる方法が無い。 そして、それを成さなければならないというのに、相変わらず重い腰を上げようとしない上に対しての憤りを押さえられずにはいられなかった。 それに、結局あのガンスリンガーに足止めされてしまったというのも、堪えていた。 全力で潰しにかかったというのに、相手は結局手加減したまま時間一杯やり過ごしたのだ。 自らのSランクの称号への自信が奪われていた。

「それにしても、キール・スクライア氏は散々だったな」

 一言で言えば、悲惨だった。 彼が連れてきていた部外者の女というのが、どうやらリビングデッドの一人であり、その昔有名な女怪盗として名を馳せたドッグ・アイと呼ばれる存在だったのだ。 ディーゼルとリンディが別の魔導師を相手に戦っている間に、怪盗を逃がすためにやってきた断頭台の援護もあり、その女怪盗によって中央遺跡で発掘したロストロギアとその資料が全て盗まれるという事態に発展していた。 そのことから敵にスケジュールや管理局員の艦隊構成など色々な情報を与えたとして、一族でキールに対する厳重な処置が下ったという話だ。

「考古学一辺倒だった真面目な男に来た春が、実は毒花だったなんて同じ男として同情するしかないな。 僕もそうならないように人を見る目を養わないといけないかな」

 苦笑しながら、ディーゼルは仕事を続けていく。 だが、頭に上がるのは自分が派遣されていた航行艦での日々だった。 次元航行艦が撃破させられるなんてことは、彼が執務官になってから初めてのことだっただけに、さすがに堪えていたのだ。 それほど艦のスタッフと仲が良かったわけではないが、それでも何か寂しさのようなものを感じてしまう。 それは、彼が生真面目で義理堅い性格だったからだろうか? 思い入れなどは特に無いというのに、どこか考えてしまう。

「どうにかして、上の重い腰を上げさせないといけないよな。 僕にできるのはそんなことぐらいだし……上級キャリア試験、受けてみるか?」

 上が動かないというのなら、動かせるようになるしかない。 漠然とした考えだったが、ディーゼルは何か思うところがあるのか、上司がその気があるなら受けてみれば良いといって彼に送った教本に手を伸ばす。 やってやれないことはない。 執務官試験を乗り越えた彼にとって、時間は少しかかるもののそれは不可能ではないだろう。 ならば、目指してみるのも一興か。 手に取った教本のページを捲りながら、ディーゼルは新しい目標に向かって動き出す。

 が、それからしばらくして思い出したかのように呟く。

「そういえば、手伝ってくれた彼女に何かお礼をしなきゃならないな。 嘱託とはいえ、学生の身分の彼女に危険な任務を手伝わせてしまったし……」

 可愛らしく微笑みを浮かべた翡翠の少女の顔をぼんやりと思い出しながら、ディーゼルは腕を組んで考える。 だが、生真面目な彼には女の子が喜びそうなお礼など察することができなかった。

「年下の女の子に花……は、さすがに違うかな。 あーもう、これはキール氏を笑えないかもしれないな」

 女性に喜ばれるプレゼントが何かなど執務官試験には出てこない。 結局何も思いつかずギブアップしたディーゼルは、後で上官の使い魔にでも尋ねることにした。 もっとも、そのことで色々とからかわれたり、妙な噂を流されてヴォルク・ハラオウン提督に詰め寄られたりと散々な目に会うことになるのだが、それは余談である。 どうやらクライド・ディーゼルも存外、女難の気があるのかもしれない。 それがどういう結末を生むのかはまだ、誰も知らない。
コメント
小説面白かったです。続きが楽しみです。
【2008/04/29 01:49】 | 名無しさん #- | [edit]
コメありです^^
こういうのは結構やる気UPに繋がるのでありがたいですw
【2008/05/05 14:33】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
ドッグアイwww
やっぱレオタードなんでしょうかw
【2008/06/22 16:29】 | たけ #- | [edit]












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