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憑依奮闘記 第十一話

 2008-06-01
「あれ? こんな朝早くから外へ出るの? 珍しいわねリンディちゃん」

 いつもなら日曜日は部屋で勉強しているはずなのだが、今日はどうやら出かけるようだ。 訓練学校生以外の友達との約束でもあるのだろうか? 怪訝に思ったフレスタがリンディに問いかけた。 どことなくそわそわしているようにも見える。 何か良いことでもあるのだろうか?

「あ、いえ。 今日は遊園地に行くんですよ」

「ふーん、家族の人とか友達と?」

 内心、彼女が自ら年相応に遊びにいくということに良い変化を感じていたフレスタであったが、次の言葉に耳を疑った。

「あ、いえ。 その……クライド…………さんと」

 ぼそぼそと、少し恥ずかしげに言う。 最後まできちんとフレスタには聞こえなかったが、それでもリンディが”クライド”といったことだけはフレスタは理解して、思わず目を瞬かせた。 だが、ゆっくりとその意味を理解したところで、驚愕の叫びを上げた。

「あ、あのロクデナシ野郎と遊園地でデートですってぇぇぇぇぇぇ!?」

 玄関口に響き渡るフレスタの叫び声。 付近にいた学生が何事かと二人を見たが、フレスタはそんなどうでも良いことは無視する。

「ろ、ロクデナシですか?」

 不思議に思ったリンディが尋ねようとしたのだが、それを遮るようにフレスタが問いかける。

「な、何時ごろから? どこの遊園地で?」

「えと、十時ごろに東部のデスティニーランドでですけど?」

「十時……今からだと……少し余裕があるぐらいね。 でも、あいつさっき眠たそうに食堂に向かってた……もしかして、寝ぼけて忘れてる? ……ありえるわね。 あいつなら」

 あのだらしない男のことである。 そういうことも平気でやりそうだ。 一時間ほどリンディを待たせながら、平気で『悪い、電車が込んでて』などと言い訳を平気でいうのだ。 だが、リンディは純粋にその理由を信じて……それから……それから……。

「あの男、やはり一度完全に締める上げるべきか。 なんという迂闊。 こういう気の迷いとかそういうのはありえた事態だというのに!! やはり外部を警戒しすぎて最も危険な内部犯を放置していたのが間違いだったのね……ふふ……ふふふ」

 キッと目を見開くと、フレスタが幽鬼のようにリンディに背を向ける。 彼女は背中で語っていた。 バックアップはお姉さんに全て任せなさい……と。

「あの……フレスタさん?」

「ああ、任せといてリンディちゃん。 あの馬鹿が一秒でも遅れないように今から教育してきておいてあげるから」

「は、はぁ……」

 自体を飲み込めないリンディが殺気を微塵も隠そうとしないフレスタの様子に冷や汗をかく。 何か、壮絶な勘違いをしていそうで怖かった。

「じゃ、デート楽しんできなさいね」

「あ、はい」

 ノシノシと大股で去っていくフレスタ。 周囲の学生たちが彼女が振りまく殺気にガタガタと震えていた。 だが、それはまだ抑えていたほうである。 リンディからは見えないように通路の角を曲がったところで彼女は最近覚えた高速移動魔法を行使し、目も霞むような速度で食堂へと飛び込んでいった。

 いつの間にかその手に握られたデバイスは、バチバチと魔力を過剰放出しており、いつでも最大級の魔法をぶっ放せるほどに励起されている。 

「お? どうした? 何か忘れ物でもあるのかフレスタ?」

 ゆっくりと眠そうに朝食のサンドイッチを頬張っているクライドが、戻ってきたフレスタに訝しむ。 もし、彼がいつものようにグラムサイトのせいで寝起きが悪くなければ彼女の機嫌の悪さを察して声をかけなかっただろう。 だが、クライドは不幸にも声をかけてしまった。 まあ、かけずとも結果は変わらなかっただろうが。

「……何かを忘れているのは私じゃなくて貴方じゃないクライド?」

「ん? いや、忘れたものはないと思うぞ。 ああ、そうそう。 今日は俺出かける用事があるから自主訓練には付き合えないぞ」

「ええ、知ってるわ。 東部のデスティニーランドに行くんでしょう?」

「ん? 俺今日の予定をフレスタに話したっけ?」

「ふふ、そんなことはどうでも良いわ。 でも、今からそんなのんびりしてて約束の十時に間に合うのかしら?」

「はぁ? 俺があいつと約束しているのは十一時ごろだ。 まだまだ十分間に合うぞ?」

「……こいつ、なんて典型的なボケを!!」

 頭を抱えるようにしながら、フレスタは呻くとデバイスを食事中のクライドに向けて口を開く。

「クライド、今からあんたは一時間予定を繰り上げて行動するのよ。 そしてリンディちゃんに会いなさい。 いいわね!!」

「はぁ? なんだってそんな……ちょ、お前!?」

 側頭部に押し付けられたデバイスの硬い感触に、クライドの寝ぼけた頭が急速に起床する。 今更だが、感じた。 そのデバイスに込められた殺気と魔力を。 そして同時にカチリと、ファイアリングロックが外れる音もクライドは確か聞いた。

「……私が言うことが聞こえなかったのかしら? ねぇ、クライド?」

「き、聞こえたからデバイスを降ろせ!! そんな至近距離でスナイピングバスターなんて撃たれたらノックダウンして動けなくなるぞ!!」

「あら? 何を言っているの? そのときは”気絶したままで移動すれば”いいじゃない。 勿論、十時に間に合わなければもっとすごい目にあせるわ。 ――夜道を歩くときは気をつけることね」

「そ、それは暗に狙撃すると仰っているのでせうか?」

「さて、これ以上問答をしている暇はあるのかしら? ねぇ、クライド・エイヤル君? 一分一秒でも遅れたらブッチKILLわよ♪」
 
「あ、アイマム!! これよりクライド・エイヤルは一時間行動を早めて行動します!!」

「よろしい。 では明日の朝日を拝むために、精々がんばりなさい。 行動開始!!」

 身の危険を感じたクライドがサンドイッチをコーヒーで流し込むようにして食事を終え、気の毒な程のスピードで部屋へと戻っていくのを眺めながらフレスタは次の行動へ移る。

「……先回りするには足が必要よねやっぱり」

 そのとき、フレスタの視線の先には、クライドとすれ違うようにして食事にやってきたザースがいた。











憑依奮闘記
第十一話
「それは危険なデートの日」















 ミッドチルダで東部のレジャーランドといえばデスティニーランドが有名だ。 首都クラナガンからもそこそこ近いし、外周部のモノレールも最寄まで伸びているために割りとオーソドックスな娯楽施設として賑わっている。

 そこのマスコットキャラは割と不遇な運命にある眼の紅いウサギなのだが、何故か子供たちからよりもある程度少年より上の大人たちから人気があった。 色々とフリーダムなキャラが自由に闊歩する中で、そのキャラの不遇度が凄まじいからである。 何故か痛快娯楽系キャラのはずが、涙腺崩壊系キャラになっていた。 一応映画化の話もあるようで、これから脇役の人気キャラに主役の座を取られるか取られないかというレベルで聴衆を戦々恐々させている。 脇役に食われるかもしれない主役というのを確立した新しいタイプの主人公であった。

『ようこそ、デスティニーランドへ♪』

 マスコットキャラのウサギが、紅い眼でウインクしながら風船を配っている。 中々に丁寧な接客ぶりだ。 思わず、ファンの人間が頑張ってくださいとエールを送っていた。 

「あのウサギ……絶対子供向けのキャラじゃないわよね?」

「そうか? 俺は結構ああいう愚直なタイプは好きだぜ。 分かりやすいからな」

「お? リンディちゃんが風船貰ってる」

 興味深げにそのウサギをジッと見ていたので、どうやら欲しいのかと勘違いされたようだ。 本人ははにかみながらペコリとお辞儀を返している。 中々微笑ましい様子である。

「さて、十時まで後二十分……あの馬鹿、間に合うんでしょうね?」

 リンディにばれないようにサングラスと帽子で武装しているフレスタが、時計を気にしながら言う。 ザースはその言葉にため息をつきながら、クライドが時間通りにたどり着くことを祈った。 遅れて来ようものなら、活火山フレスタ山が噴火することになる。 勿論、仲裁に入るのは自分の役目であるから、ザースとしてはさすがにそれは困る。 非常に困る。

「ま、まあなんとかギリギリぐらいじゃないか?」

 とりあえず、少しでも怒りを静めるぐらいのことしか彼にはできなかった。 

(頼むぜクライド……間に合わなきゃお前、今日が命日になるぞ?)

「ふっふっふ。 女にとって男を待たせるのは当然のこと!! しかし、女が待たされるのは絶対に許されない悪行なのよ。 ザース、覚えておきなさい。 これは、女のプライドに掛かってくることなんだから!!」

「な、なんだそのすげぇ男に不利な理論は?」

「勿論、乙女理論よ。 まあ、普通は男が知らないのも無理はないわね」

 真顔でそう言い切るフレスタに、ザースは絶句した。 どうやら男のザースが知らない世界があるらしい。 まるで知らなくて良い理論であったが、暴君がそういっているのであるから、そうなのだろう。 いやはや、世界の半分は女だという言葉があるが、既に世界中の男は彼女らの尻に敷かれているのではないかと錯覚してしまう。

(世界中にその理論が広まっているとしたら……男の肩身は狭いな)

 せめて、自分は対等に付き合ってくれる女性と付き合おうと決心しながら、ザースはそこで気がついた。 黒髪の少年がリンディに声をかけていたのだ。

「ちょ、おいフレスタ!! ハラオウンの奴ナンパされてるぞ!?」

「うそ!?」

 慌ててフレスタが視線を戻す。 どこの世界に九歳児をナンパする男がいるのかと、鬼の形相で睨みつけていた。 神速で展開されたデバイスが、一瞬で魔力を吸い込んでいく。 ここ最近の特訓の成果という奴である。

「ロリコン、許すまじ!!」

「ま、待て早まるな!! 見ろ、親しげな感じだぞ!! 知り合いじゃないのか!? ついでに俺たちと同じぐらいの歳だからギリギリセーフだろ!!」

「むむ?」

 今にもスナイピングバスターをぶっ放そうとしていたフレスタが、その言葉で止まった。 ジッと黒髪の少年を睥睨する。 パッと見、真面目そうなタイプだった。 誰かさんと同じ黒髪に、やや童顔っぽい顔立ち。 目つきは優しげであり、中々にポイントは高そうだ。 と、その少年がリンディの隣に立ってふいに左腕を折り曲げるような仕草をとった。

「……ちょ、何あのキザ野郎!!」

 どうやら、エスコートするつもりらしい。 リンディはそれを見て苦笑しながら、その腕に右手を任せた。 どうやら、この少年は何者かにかなり”仕込まれて”いるらしい。

「エスコートねぇ……ハラオウンの場合は意味知っててやってるんだろうし、知り合いっぽいなやっぱり」

「り、リンディちゃん、ナンパされてついていっちゃった!?」

 二人して笑いながらアトラクションへと向かっていく。 淀みないその様子に、ザースは首を傾げる。 フレスタの説明ではクライドとデートだという話だったが、これは一体どういうことなのだろうか? リンディの性格から考えると、少なくとも約束を破るタイプではないからついていくような真似はしないだろう。 であれば……。

「なあ、本当にクライドが今日の――」

「い、今頃来たわねあの唐変木!!」

 辺りをキョロキョロと見回し、クライドがリンディを探しながらやってきていた。 と、見つけたらしく空気を読まずに近づいていく。

「ちょ、あいつ!!」

 そのままクライドはリンディたちに声をかけ、談笑を始めた。 何やら”いつも”と比べて恐ろしい程”爽やかな”笑みを浮かべている。 その様子を見たザースは、明日はアームドデバイスが降るかもしれないと思った。 ”あんな”不自然に明るいクライドなど見たことが無い。 まるで、”ろくでもない”ことを考えていそうな雰囲気である。 そうとは知らない黒髪の少年は、軽く握手をしてから紳士らしくシェイクハンドを交わしていた。 そうして、さらに二言三言会話したのちクライドは二人と別れ、そのまま歩き去っていこうとする。 が、そんなことはフレスタが許さない。

「ザース!! 馬鹿に洗礼を浴びせにいくわよ!!」

「あー、とりあえず被告人に弁解は聞いてやれよ?」 

「ええ、納得いく答えを聞かせてもらうまで撃ちつづけるわ」

 バチバチと放電するデバイス。 それを片手に物陰から飛び出していくフレスタ。 それを追いながらザースはクライドの冥福を祈った。 

「クライド!!」

「ん? よう、フレスタにザースもか。 一応一時間速くに行動はしているぞ? リンディにもあったしな」

「そんなことはもうどうでも良いわ。 さっきの男、アレ一体誰? リンディちゃんの知り合い? でなきゃあんたぶっ飛ばすわよ?」

「……ザース、やっぱり思うんだがフレスタは勘違いしていないか?」

「ああ、多分そうだと思うぜ」

 肩を竦める男たちに、フレスタのボルテージがグングンと上がる。

「で、どうなの? 答えによっては私のデバイスが火を噴くわよ」

 ファイアリングロックを外しながら、フレスタは言う。 目の前に突きつけられたそのデバイスに、戦々恐々しながらクライドはおっかなびっくり答えた。

「あの人はクライド・ディーゼル執務官だ。 リンディの知り合い」

「クライド……ディーゼル?」

 フレスタが呆然と呟き、ザースはなるほどと頷く。

「多分だが、”クライド”違いって奴なんだろう?」

「そういうことだな。 ディーゼル執務官はリンディの爺さんとも知り合いだからそう目くじらを立てなくても大丈夫だぞフレスタ? そんなことをしたら、爺さんにぶっ殺されるってことは骨身に染みているはずだからな」

 ため息をつきながら、クライドが言う。 骨身に染みるというか、全身全霊で味わっているはずだ。 彼がよほどリンディに本気でもなければ、自ら進んでその苦行を受けようとはしないだろう。 逆に、そこまで分かっていて突き進むというのなら、同じ男として称賛を送ろうとクライドは思っている。 真正面からあの爺さんの暴虐<魔法言語>に挑む勇気などクライドは持ち合わせていないからだ。

「わ、私の勘違いってこと?」

「そういうことだ。 このうっかりフレスタめ」

「あたっ、何するのよ!!」

 頭を抱えているフレスタにそういうと、クライドは軽くデコピンをお見舞いした。 一時間も速くに行動させられたことはそれで帳消しにするつもりであった。 それに、この”予想外”の出会いはクライドにとってプラスになりこそすれマイナスにはならない。 中々旨味のある邂逅であったのでそれ以上追求する気はなかった。

「俺たちと大して変わらないぐらいなのに執務官なのか……強いのか?」

「べらぼうに強いぞ。 リミッターの無いリンディと同等かそれ以上」

「ぐあ、マジかよ!?」

「総合Sランクの現役執務官殿だ。 リンディと違って本当の意味でのオールラウンダー。 近距離から中遠距離、はては広域系まで使えるびっくり人間だ。 またの名を人間兵器<高ランク魔導師>とも呼ぶ」

「かぁー、いるところにはいるんだなそういう奴」

「な、なんてお買い得な……」

「まあ、だからこそ”面白い”んだけどな」

 そういうと、クライドは邪笑する。 ザースはその笑みに何かを感じたが、突っ込むのをやめた。 色々と聞くのが怖いからである。 凄みを帯びた鋭い眼が、愉悦の相貌を刻んでいる。 ザースはなんとなくであるが、彼らの間に因縁のようなものを感じた。

「もしかして……好敵手<ライバル>か?」

「いいや、敵<エネミー>だ」

 きっぱりとそう言い切るクライドに、フレスタとザースは唖然とした。 どうやら、二人の知らない間に色々と妙な動きがあったらしい。 二人ともさすがにその言葉には息を呑んだ。 

「さて、俺はもう行くぜ? 待ち合わせまでゆっくりさせて貰おうかと思ってるからな」

「ちょ、ちょっと。 あんたもここで待ち合わせなの?」

「ああ、十一時からな。 先方がどうせなら遊びたいって言ってたからここを指定した。 連れのウサギ好きも結構はしゃいでたし、まあ良い休暇になりそうだ」

 じゃあなと、二人にヒラヒラと手を振ってからクライドが人ごみの中へと消えていく。

「あーもう!! こうなったら、遊びまくるわよザース!! 折角のフリーパスなんだし、いいわね!!」

「了解。 でも、頼むからその前に飯にしよう」

 朝食を食べる前に扱き使われたせいで、いい加減ザースは空腹である。 そのことにさすがに罪悪感を覚えたのか、珍しくフレスタが驕ると言い出したが、ザースはやんわりとそれを断った。 どうやら、ザースの男としての矜持が許さないらしい。 本当、損な性分の男である。














「見ろ見ろシャマル!! ウサギ風船貰ったぜ!!」

「うふふ、ヴィータちゃん楽しそうですね」

「うむ。 こういう娯楽施設の経験は我々は少ないからな。 心躍るのも無理は無かろう」

 オープンカフェのテーブルに駆け寄ってくるヴィータの無邪気な様子に、シャマルとザフィーラが笑みを浮かべる。 守護騎士たち総出での今日、何やら色々と紹介したい人物がいるらしい。 ある程度事情は聞いているし、出向予定の三人に否は無い。 そもそもクライド<主>の頼みを断るという選択肢を彼らが持っていないと認識しているからである。 忠義と紙一重のその感情は、クライドが彼らから無くしてもらいたい壁であるが、まだまだその壁を取っ払うのは難しいらしい。 

「……だが、少々人が多いな」

「休日の娯楽施設だ。 仕方なかろう」

 シグナムが人通りの多さに眉を顰めているが、ザフィーラがやんわりと言う。 どうやら、彼女にはやはり暴れられる訓練施設の方が良いらしい。 烈火の将らしいと言えばらしい態度に、彼は苦笑を禁じえない。

「よう、待たせたな」

「ああ、主クライド。 予定より一時間早いそうだが、どうなのだ?」

「悪いな、向こうの予定はそのままだ。 ちょっと速く来ちまったわけだな」

「なぁなぁ、じゃあアタシたちはそれまではアトラクションで遊んできていいか?」

「構わないぞ。 一応一人代表が向こうと会えたらOKだ。 俺と残った一人で話をつけるから、悪いが一人俺に付き合ってくれ」

「ふむ、ではヴィータとシャマル、後ザフィーラも遊んで来るか? 私が交渉に出よう」

「いいのか?」

「一応私がヴォルケンリッターのリーダーだからな。 それに、私はその……なんだ。 こういう所は苦手だ」

「よっしゃ!! じゃ、任せたぞシグナム。 シャマル、ザフィーラ、今日中に全部アトラクション回るぜ!!」

「あ、あははは。 それじゃあシグナム、後で変わりましょうね」

「うむ。 お前も”こういう”雰囲気に慣れた方が良い。 今後こういうこともあるかもしれんからな」

「ふふ……わかった。 楽しみにしておこう」

「ザフィーラ、とりあえずある程度の金渡しとく。 あんまり無駄遣いしない程度に頼むぞ。 その、なんだ。 色々とキツイからな。 無難に楽しめるぐらいだけは使ってくれて良い。 ヴィータの舵取りは任せたぞ」

「ふっ、承知した」

 去っていく三人を見送ると、クライドはどっかりとシグナムの対面の席に腰を落す。 そうして、外交で手に入れた予算で入手したツールボックスから魔道書を取り出すと、辞典とともにシグナムに差し出した。 勿論、筆記用具付きである。 その瞬間、シグナムの表情が確かに凍った。

「……主クライド、”コレ”はなんだ?」

「本と筆記用具と辞書だ」

「……私にどうしろと?」

「後はシグナムだけだからな。 先方が来るまでに書き上げちゃってくれ。 ああ、勿論俺もここにいるから安心してくれていいぞ。 俺も勉強する」

 取り出したるはアルハ式勉強用に新調したルーズリーフ。 『絶対見るな俺以外』と表題に書かれているなんともまあ、人が興味を引く物体である。

「……主クライド、周囲の人間が引いているのだが?」

「気にするな。 シグナムのような美人をつれている俺をやっかんでいる連中の視線だ」

 パッとクライドが見た限り、野郎の視線ばかりである。 僅かな優越感に浸りながら、クライドはシグナムの言葉を一刀両断した。 勿論、そんな視線以外にもこんなところで勉強するんじゃねーよといった視線もあったが、クライドはやはり気にしない。 というより、気にしてやらない。 どこで何をしようと、自分の勝手であると認識しているからである。 

「く、なんという屈辱!!」

「なら速く書き上げたまえシグナム君。 そうすればその視線から逃れられるぞよ?」

「……時に、主クライド。 一つ尋ねたい」

「ん?」

「ここに訓練施設はあるのか?」

「あったと思うが?」

「そうか。 なら話は早い。 ――書き上げたら地獄に落ちろ主<マスター>」

「ちょ、お前キャラ違う!!」

「気のせいでしょう」

 ニヤリと、笑みを浮かべてシグナムが伝家の宝刀を振り下ろす。 その魔剣の一撃に、クライドは呻いた。 なんという誤算。 憂さ晴らしのサンドバックにされることが決定してしまった。

「く……この俺の遊び心にカウンターを返してくるとは!? さすが烈火の将!!」

「さすがに、私もいつまでもやられっ放しでは面子がたたないからな」

 だが、どれだけ考えても後の祭りであった。 レヴァンティンの錆びにされるのは決定事項である。 冷や汗をかきながら、二人して勉強を開始した。 無論、シグナムはミッドチルダ語への翻訳の難しさに頭を抱え、クライドは後の仕打ちを想像して震え上がっていたのはご愛嬌である。 しばし、場所を弁えないカップルがカフェのテーブルを占領した。















 腑に落ちないことと言えばかなりある。 少なくともチェーンもグライアスもそう思っていた。 『古代の叡智』の異様なまでの情報網然り、装備然り、そして自らの存在然りである。 航行艦自体を手に入れることは金さえあればさほど難しくはないが、アルカンシェル付きだとなれば話は別であるし、管理局の航行艦を遥かに上回るスペックを持っていることの説明にはならない。 あるいは、それもドクターのせいなのかとも思ったが、ドクターはその問いに首を横に振っていた。 本当、どういう組織なのか首を傾げざるを得ない。

「高々ユニゾンデバイス一つで、危険を冒してまでミッドチルダへとやってくる理由っていうのが分からないね。 そんなに躍起になるほどのものなのかな?」

「さあな。 連中の考えていることはよく分からん。 が、このまま好きなようにやらせるのは面白く無いな」

 チェーンの疑問に、グライアスは不満を露にしながら言う。 もとより、自由など無い身である。 使われることに抵抗を覚えないわけがない。 何か、奴らに一矢報いる手段は無いものかとグライアスは考えていた。 寧ろ、それだけが彼の今の望みである。 チェーンのようにさっさとデリートされたいと望む気持ちもあったが、それよりもあの得たいの知れない連中に反逆してやりたいという気持ちの方が強い。 だからこそ、彼は従順な振りをして任務をこなしてきた。 だが、分かったことは少ない。 時空管理局と何やら強力なコネがあるということぐらいでほとんどが闇のベールに包まれている。 

「前にユニゾンデバイスを確保したときでもイーターが直接出ることはなかった。 何か連中にとって重大なモノであるのかもしれんな」

「ふーん。 興味が沸かないわけじゃないけれど、余り楽しそうではないね。 やることは強盗……この場合は誘拐になるわけでしょ?」

「まあな」

 チェーンの端的な物言いにグライアスは苦笑する。

「けどまあ、グラ爺とデートできるとは思わなかったよ。 どうかな? やはりそれぐらいの年齢設定だと周りから恋人同士に間違われているかもしれないよ?」

「ははは、それは光栄だな。 どれ、腕でも組んで歩くか?」

 周りのカップルたちを見て、冗談を交えながら二人は歩く。 今現在、二人は自由に周囲を散策していた。 ある程度の地形を頭に叩き込んでいたが、やはり実際に見て回らないことには分からない面も出てくるからだ。 時間になればすぐに動けるようにしているし、引っかからなかった場合に備えての後詰め要員として動かなければならない。 だが、それまではまだある。 仕掛け人が上手くやれば彼女たちの出番は無い。 それが一番お手軽で良いのだが、はてさてどうなることやら。

「おや? 少し不味いかもしれないね。 執務官殿がいる」

「ほう? どこかで見たことがあるな。 確か提督殿と戦う前に落とし損ねた魔導師だな」

 黒髪の少年と翡翠の少女が仲良く絶叫系のアトラクションの前で談笑していた。 それを遠めに見ながら、二人はなんでもない風を装って通り過ぎる。 これだけの群衆だ。 向こうも注意をせねば気づきはしないだろう。

「一人は釘付けにされるね。 まあ、グラ爺と私が二人係りで掛かれば成す術はないだろうけど……少女の方はそこそこといったところかな?」

「どちらにしても、二人ともまだ若い。 若すぎるな。 できれば戦いたくない」

「今回は手加減できそうにないからねぇ」

 ため息をつきながらチェーンは言う。 殺す気でやれと命令されている以上、非殺傷設定をかますことができない。 しかも、このままでは全てのデバイスを用いて全力で彼を殺すことになるだろう。 まったく面白くない話に、少し彼女の顔が曇る。

「まだ時間までかなりある。 その間に運命の人でも探すんだな」

「またまた、難しいことを言うねえグラ爺も」

 苦笑しながら、彼らは次の場所へと向かう。 と、通りで道化師の格好をした男が人形劇をしていた。 どうやらここのマスコットキャラを用いた人形劇らしく、子供たちが興味深そうに見守っている。

「人形劇か……子供の頃サーカスとかで見たっきりだったかな?」

「ああ、ヴァルハラの奴だな?」

「うん、結構面白かったよ。 ベルカ最後の日って奴……誰だったかな主役の騎士の名前は」

「レイヴァンじゃなかったか?」

「ああ、そうそう。 悲劇の騎士レイヴァンだ。 最後の最後で殺されてしまうんだったね。 でも、意思を酌んだ剣聖が仇を取る旅に出たところで終わってたな。 続きは公演されたのかな?」

「いや、アレはあれで完結だったのではなかったかな? 結構昔からヴァルハラに残っている昔話がモチーフらしいからな」

 懐かしい話であった。 騎士の苦悩と絶望を余すことなく表現されたその作品は、ヴァルハラではかなりアンダーグラウンドな人気を誇っていた。 舞台にもしようという動きがあったらしいが、二人にはどうなったかを知る術は無い。

「うーん、少し気になるね」

 懐かしい記憶を探りながら、二人してストーリーを語り合う。 童心に返って僅かな娯楽を二人は享受していた。 やはり、押し付けられる命令がそれほどつまらないのだろう。 それから一時間ぐらいした頃だろうか。 入り口付近のアトラクションを回ってエントランスの広場までやってきていた。

 と、そのときだった。 段差になっている階段の上から降りてこようとしていたセミロングの少女が階段を踏み外してチェーンの方へと倒れこんできた。

「わわっ――」

「おっと、大丈夫かな?」

 咄嗟にチェーンはその少女を受け止めてやる。 だが、少女は受け止められたが少女が持っていたアイスまでは止められない。 宙を舞ったそれがチェーンの肩口にダイブして地面に落ちた。

「あ、す……すいません!! これ、使ってください」

「ああ、気にしなくて良いよ。 それより、無事で何よりだね」

 あたふたと慌てている少女が、急いでハンカチを差し出してくる。 だが、彼女は苦笑してそれを受け取るのを断ると羽織っていたジャケットを脱いで投げた。 と、そのジャケットがすぐに魔力へと還元され消えていった。

「あ、バリアジャケット……ですか?」

「そういうこと。 商売柄これを着ていないと落ち着かなくてね」

 そういうと、新しく魔力で生成したジャケットを羽織りなおす。 これで、アイスも問題は無い。 魔導師だけが使える裏技であった。

「うう、アイスが全滅しちゃった」

 がっくりと肩を落す少女。 邪魔にならないようにアイスを拾うと、近くのゴミ箱へと捨てに行く。 それを見やりながら、チェーンは少しばかり考えていた。

「どうした?」

 少し考え込んでいるチェーンに訝しんでグライアスが声をかける。 と、次の瞬間チェーンは笑みを浮かべてそれに答えた。

「運命……かな?」

「ほう?」

「何気ない偶然で、一人の少女を助けた私にアイスが落ちてきた。 しかも、少女は私の目の前で階段を踏み外すなんてドジをして……だ。 見たところ魔導師っぽいし……うん、良いね。 彼女にしよう」

 そういうと、ゴミを捨てに行った少女に向かってチェーンが歩いていく。 

「ちょっと良いかな?」

「はい?」

「ああ、そう身構えなくても良いよ。 別に君をどうこうしようというわけじゃないからね。 ただ、少しばかり頼みがあってね」

「頼み……ですか?」

「うん。 君も魔導師だろう?」

「はい、訓練学校生ですけど……それが何か?」

「私はフリーの砲撃魔導師なんだがね、最近新しいデバイスを手に入れたんだ。 それで、前に使っていたのを処分しようと思っていたんだけれど、中々捨てられなくて困っていたんだ。 良かったら、君が貰ってくれないかな?」

 そういうと、彼女は懐から待機状態にしてあったペンダント型のデバイスを取り出して少女に差し出した。

「あ、え?」

「なに、君が使ってくれなくても良いよ。 知り合いにあげるなり、捨ててくれても良いし管理局へ届け出てくれても良いんだ。 どうしても、自分では捨てられそうにないから誰かにどうにかしてもらいたかったのさ」

「はぁ……でも、その、デバイスって高価ですけれどいいんですか?」

「ああ、もう私にはそれは必要無いものだからね。 ただ、使うならお願いしたいことがある。 絶対にそれで仕事や身を守る以外の用途で人を殺さないで欲しいんだ。 それが私の美学でね」

「美学……ですか?」

 訝しげに見上げてくる少女に頷きながら、チェーンは言う。

「そう、美学さ。 職業に貴賎は無い。 仕事としてや身を守るためならどんな善悪も享受するが、それ以外でそれをすればそれは悪だ。 そんなのは美しくないと私は思うんだよ。 まあ、解りづらければポリシーと考えてくれたらいいかな」

「ああ、それなら分かります」

「それは良かった。 何事も拘りというのは大事だからね。 勝手なお願いだが、きいてくれるかなお嬢さん?」

「分かりました。 でも、その前に名前を伺ってもいいですか?」

「ああこれはすまない。 そういえば名乗っていなかったね。 私は元ヴァルハラのフリーランス魔導師チェーン・ムーブルだよ。 知っている人間は『ガンスリンガー』といえば分かると思う」

「ガンスリンガー? あれ? その人って確か昔に死んだんじゃないんですか?」

「ああ、確かに死んだよ? 私は亡霊みたいなものさ」

「はい?」

「それと、君に老婆心ながら忠告しておいて上げるね。 後数時間もしないうちにここは戦場になるかもしれない。 だから、その前に君はここから帰った方が良い。 封鎖結界と強装結界の二重の結界で外界から遮断される予定だ。 一般人は封鎖結界で隔離されるけれど、魔導師である君は確実に巻き込まれるだろう。 そうなったら、私は君を逃がしてやることはほぼできなくなるかもしれない。 いいかい? すぐに帰るんだよ?」

 しっかりと念を押して言うと、ポカンとしている少女をそのままにチェーンはグライアスの元へと戻っていく。

「……いいのか?」

「ああ、多分これが最後だろうね。 イーターなら私の行動も全部把握しているんだろう? まあ、後は彼女に任せるよ。 私は私が感じた直感を信じたい。 彼女なら私の美学を守ってくれるさ」

 そうして、二人して歩を進め雑踏の中へと消えていく。 その場に残った少女が、自分の頬を抓って現実かどうか確かめていたが、痛みを覚えて中断した頃には二人の姿は完全に少女の視界から消えていた。

「おい、フレスタ? どうしたんだこんなところでボケッとして。 アイス買ってきたんじゃないのか?」

「ねぇ、ザース。 貴方、亡霊って信じる?」

「はぁ?」

「私、今亡霊と会話してデバイス貰っちゃったんだけど……」

「デバイス貰ったんなら、生きてるんじゃないのか?」

「そうなのかな? 随分とカッコイイお姉様だったわ。 ガンスリンガーって名乗ってたけど……本人かな?」

「ガンスリンガーってお前……確か処刑されたフリーの魔導師だろう? そんなのが昼間に亡霊になって現れてデバイスくれるわけないって」

「……後ね、ここ数時間もしないうちに戦場になるとか言ってたわ」

「ここが戦場に? ……おっかない話だな」

 胡散臭げにザースはそういうと、フレスタが掌に握っていたデバイスに視線を向ける。 本当か嘘かはわからないが、少なくとも目の前にあるデバイスだけは確かな証拠として残っている。 それが何か嫌な予感を増長させていた。

「……どうしよう、本当だったら不味いよね?」

「本当なら……な」

 だが、だからといって管理局へ通報するわけにもいかない。 まだ起こってもいないことを通報しても向こうは動いてくれないだろうし、もし何も無かったら迷惑でしかないだろう。 だが、このまま遊ぶという気は既に無くなってしまっていた。

「……他に何か言ってたか?」

「封鎖結界と強装結界で遮断するとかいってた……」

「……おい、それって完璧に黒じゃねーか?」

「……かな?」

 ザースはフレスタが嘘を言っているようには見えず、少なからず悩んだ。 犯行前に警告してきたというのと、自らのデバイスを預けてきたというのも怪しい。 もしかしたら、何かそれに細工がされているのかもしれない。

「フレスタ、ちょっとそのデバイス起動してみろ」

「う、うん。 って、アレ? これ複数収納型だわ」

 かなり高給な部類に入るデバイスであり、通常一つ二つしか収納しないデバイスを数多く収納するタイプであった。 中に何が入っているのかを展開する前にフレスタがモニターを開いて確認していく。 と、その顔がサァーっと青くなっていった。

「2丁拳銃型にデリンジャー型、スナイパーライフル型にマシンガン型にショットガン型にアサルトライフル型……銃型ばっかりが複数個ずつ。 これ、しかも全部年代もののデバイスじゃない!!」

 銃型のデバイスばかりかなりの数が収納されていた。 しかも、それら全てが現在製作されていない旧式であり、質量兵器である通常の銃の機構を取り入れて作られた限定モデルである。 恐らくはクライドに見せれば狂喜乱舞したことだろう。 それらは物凄く珍しいタイプであった。 だが、旧式とはいえ恐ろしいほどにカスタマイズされているように見える。 おそらくは、今でも十分に活用できるのではないかというぐらいに、である。

「……ガンスリンガーはありとあらゆる銃型のデバイスを使いこなす魔導師だったはずだ。 これはもしかしないでも本物……か?」

 隣で様子を見ていたザースが、冷や汗をかきながら言う。 どうするか、腹は括った。 管理局に通報するしかない。 だが、現状では何をどう言えば良いのか分からない。 暫し迷った彼は、そこでふと今この場所に執務官が一人いることを思い出した。

「そうだ、ハラオウンが今デートしてる相手……執務官なんだろ? そいつに話を聞いてみたらいいんじゃないか?」

「そ、そうね。 執務官の人ならどうにかしてくれるかも」

 どうにもテンパっているフレスタを落ち着かせながらザースは、念話をリンディに送る。 邪魔をするみたいで少し心苦しかったが、もし何かあった場合は取り返しがつかないことになるかもしれない。 

『――はい。 どうかしましたかザースさん?』

『あ、ハラオウンか? ちょっと聞きたいことがあってな――』 




















 ミーアたち一行と合流したクライドたちは、早めの昼食をマスクドバーガーでとりながら守護騎士の出向計画を煮詰めていた。 簡単な雇用待遇の確認と出向期間についてぐらいであるからそれほどお堅い話をしているというわけではない。

 結局すぐに話し合いを終えた現在では、簡単な世間話などをしながら交流していた。 ミーアはクライドの知り合いだし、キールもまたミーアのお目付け役であるから、クライドという人間がどういう人物なのかを知る意味でも観察するように話していた。 やはり、”前情報”からするとかなり注意をしなければならないということを理解しているということなのだろう。

 シグナムは楽しげなミーアと一歩引いて見ているキールの温度差を横目にしながら、黙々と小悪魔と共にポテトを齧っていた。 その前にいるアギトは、ポテト一本を食べるのに四苦八苦しながらも、そのシグナムの様子をチラチラと見ながら声をかけようかどうしようかと悩んでいる風に見える。 シグナムとしては、何故自分がそこまで彼女に注目されているのか少しばかり首を傾げるしかないのだが、さすがにそのままにしておくのは居心地が悪いので声をかけることにした。

「アギト、何か私に聞きたいことでもあるのか?」

「……あんたさ、昔アタシとあったことあるか?」

 返答は予想外の言葉だった。 アギト自身もその言葉に少しばかり驚いているようだったが、それでも意を決して続ける。

「よく分からないんだけどよぉ、あんたを見てたら何かこうどこか懐かしい感じがするんだ」

「懐かしい?」

「おう。 初期化されてるから本当ならこんなこと思うはずはないんだけど、メモリーのどっかに焼きついてるアタシの最高の主<ロード>の姿にあんたがダブって見えるんだ。 ……気のせいなのかなこれ?」

「ふむ……それは、私からはなんとも言えないな。 だが……確かに、私はお前を知っているのかもしれん。 私は覚えていないが、お前にはどこか暖かいものを感じるのだ。 そして、それを不快には思っていない。 ならば、遠い昔に会ったこともあるのかもしれんな」

 守護騎士として永遠の生を得たシグナムにとって、記憶とは薄れゆくモノである。 過去の主のこと、過去の戦い、そして生まれてきてからの自分自身を形作る記憶の連鎖。 そういった確かな記憶が酷く曖昧であり、遠い昔のものであればあるほど曖昧になっていく。

 守護騎士に必要ではない情報だからこそシステムによって消去<デリート>されているのか、それともそんなものは妄想で、魔法プログラムに過ぎない自分が作り上げたバグであったのかもしれない。
 いくらでも改変されうる可能性を持っているという自覚があるため、少なくとも確実にそうだと言い切れないのだ。 故に、シグナムは確固たる自己を持ち続けていられないことに恐怖を覚えていた。 だが、結局そんな感情は無意味であろうとも思っている。 自らは剣である。 主の敵を斬るためにいる存在だ。 そんな不純物など、必要ではない。 有っても無くても、やることは変わらないのだから。 そういう部分で、彼女は酷くシンプルな物の考え方をする。

「……まあ、いいや。 あんたがアタシの主<ロード>候補筆頭だっていうのなら、アタシはアタシの炎であんたを見極めてやる。 ぐちゃぐちゃ話すなんてのは、騎士のやるこっちゃねーしな」

「同感だ。 言葉を交えずとも、我々は剣を交えれば事足りる」

「そういうこと。 でもさ、あんた強いのか?」

「む?」

「いや、戦ってる姿見たこと無いからどうか分からないんだよなぁ。 なんとなく強そうだとは思うんだけどよ」

「……これでもベルカの騎士だ。 少なくとも、一対一の戦いにおいては早々不覚を取ることは無いと自負している」

「そうか? へへっ、ちょっと楽しみだなぁ」

 それは、自分を最大限に活用できるかということと、自分が最大限力を引き出してやれるかという二つへの興味から出た言葉であった。 アギトは基本的に誰でもある程度までは力になってやることはできるとは思っているが、それでも”炎と剣”に特化しているためにその性能をフルスペックで発揮することが出来る人間はあまりいない。 それに第一、今は滅んだベルカという世界の騎士の性能を最高に高めるために生まれたのだ。 失われた世界の騎士と巡りあえる可能性は極端に少ないということを聞いていたので、その分シグナムに向けられた期待は大きい。

「ふっ。 期待に答えられるかどうかは分からないが、少なくとも退屈はさせないつもりだ」

 己の剣への自信と自負を言葉にして、シグナムは言う。 今回の出向の話自体には彼女はあまり良い顔はしていないが、少なくともベルカ生まれの剣精には興味を覚えていた。 それに、最近はクライドによって滅多に外へ出ることもできておらず、実戦の勘を取り戻すにはこの出向自体は悪くないと思っていたのだ。 相手が犯罪者や防衛兵器ばかりになりそうだが、待機状態のままでいるよりもよほど良い。 何よりも、思いっきり剣を振り回せるというところが良い。 フリーランスとしての体裁を整えるためにヴァルハラへ資格取得に行かなければならないことは手間だが、その程度は苦ではない。

「おお? そっちも会話が弾んでいるな? どうだ、上手くやっていけそうかシグナム?」

「別段、彼女と敵対関係というわけでもない。 問題は無いよ主クライド」

「そっか、なら良いや」

 クライド自身、上手くやってくれるだろうと思っていたが割りとはやくから馴染めそうな様子に満足していた。 やはり、”この二人”の相性は相当良いのだろう。 魔力光の色も適合するらしいし、純粋なベルカの騎士であり、炎の魔剣を操るシグナムが烈火の剣精と相性が悪いなどとはありえないだろう。 逆に、ここで喧嘩でもやり始めたらこいつらはツンデレかもしれないと疑わなければならなくなっていただろう。 無論、それはそれでクライドは見てみたい気もしたが、余りにもイメージに合わなすぎて断念する。

「……それにしても、お兄さんすごいね。 ”主クライド”だって。 本当に従えてるんだね?」 

「従えてるって感覚はないけどなー。 どっちかっていうと、押し売りの護衛っぽいイメージの方が強いぞ。 シグナムたちとか俺の魔道書がいきなり部屋に現れたときなんか、何かの冗談かと思ったぞ俺は」

「……待て、それはどういう意味だ?」

「いやだってさ、いきなり部屋の中に現れて跪かれてみろよ。 ドッキリかと思うだろ普通」

「その割には、貴方は随分と余裕があったように思えたが? それも”私たち”が知らないことまで平然と口にしていた……。 私にとっては貴方の存在そのものが興味深い」

 シグナムはそういうと、クライドを流し見る。 どこにでもいる普通の少年のように見える。 だが、彼はどこか得体が知れない。 歴代の主たちとは何かが違う。 ”知り過ぎている”ことをさも当然だと思わせるような何かと、存在のズレを感じるのだ。 初めて会ったとき、彼は自己紹介をする以前から彼女らの名前を言い当てた。 そして、”彼女たちでさえ忘れていた”魔道書の本当の名前を言った。 彼が考古学に精通しており、ロストロギアに詳しいのであればそれはまだ納得がいく話だが、彼はただの学生でしかない。 そのことが、どこかちぐはぐな印象を与えてくる。

「ザフィーラもシャマルもヴィータも、もうあまり気にしてはいないがそろそろ話して欲しいものだな。 少なくとも、我々の間ではもう”十分”に信頼関係は構築できたと思うが……いや、詮無きことだなこれは。 すまない、聞き流してくれ。 ”個人的”な興味だった」

「ん? まだお兄さんには秘密があるの?」 

 興味深そうにミーアがクライドを見るが、クライドはそれに苦笑したまま答えない。 いや、答えようかどうか迷っているというような感じだった。 が、何かを思いついたようで意地悪く笑みを浮かべて口を開く。

「今度二人っきりでデートするようなことがあれば話しても良いぞシグナム」

「……デートなら、この前図書館でしたと思うが?」

「いやいや、アレはまだ険悪な頃のシグナムだからな。 もっとこうーデレデレな姿を俺は”個人的”に見てみたい。 何しろシグナムは見たところクーデレタイプだからな。 デレたらスゴそうだ」

「え、あれ? 二人はそういう関係なの?」

「だ、断じて違う。 さっきの発言は軽いジョークだ!!」 

 ミーアが小首を傾げるが、それを一刀両断するとシグナムはため息をつく。 どうにも、煙に巻かれている感が強かった。 やはり、この主は色々な意味で普通ではない。 クライドとしてはそれが拝めるのであれば、答えても良いかなと思っていたので内心では残念に思っていたりするが、彼女がそれに気が付くことはなかった。 さすがに、剣一筋の彼女に彼の特異な感性を理解しろというのは酷な話である。

「き、騎士と主がそういう関係になるのは良くないと思うぞシグナム!! あいつだって結局手を出さなかったんだぞ!!」

「そこ、ジョークを真に受けるな。 それと、あいつとは誰だ?」

 驚愕を全身一杯で表す剣精に頭痛を感じながら、シグナムは脱力する。 その中々に楽しいやりとりに、様子を見ていたキールは色々な食い違いがあることを感じて思いを馳せていた。 彼が無限書庫で調べていた守護騎士の前情報と、今目の前にある実物とでは全然話が違うのである。 やはり、無限書庫の情報には信用性の置けない部分があるのだなと、一人納得していた。

(ふむ。 魔法プログラムが実体顕現した稀有な存在で、人間味などというものは無いという風に記述されていたが……全然そんなことはないじゃないか。 普通に照れて赤くなったり、色々と人間臭い部分もしっかりとある)

 少々堅い印象は受けるが、それでもそんな人間はごまんといる。 彼女が街中を歩いていたところで、何も問題はないだろう。 まるで”人間”そのものなその様子に、キールは内心で安堵していた。 もし、本当にロボットのような無機質な騎士であったなら、色々な部分で問題が出てくるかもしれないと思っていただけに、これは美味しい誤算である。 これならば、それほど警戒をする必要もないだろう。

 また、主の少年もそうだ。 随分飄々としているが、それほど悪い人間であるという風には見えない。 眼つきが微妙に悪い気がしないでも無いが、眼の下のクマを見ればなるほど仕方が無いと彼は思った。 むしろ、その歳で何故そこまでクマを作っているのか心配になる。 それほど時空管理局の訓練学校というのは厳しい所なのだろうか? 一族の中で管理局に勤める人間もいるが、彼らはそんな苦労したという話はしていなかったはずなのだが。

 そう思いながら、キールは飲み物に手を伸ばす。 アイスコーヒーの若干の苦味が口に広がったところで、ふと彼はこんなところには場違いな服装の女性を見かけた。 ここが娯楽施設ということを考えれば、非常時以外にはその制服を見ることなどないはずだ。 何せ、それは管理局本局の人間の制服である。 態々休日の娯楽施設でお目にかかれるようなものではない。 若干訝しんで遠めに様子を見る。 と、誰かを探しているようでキョロキョロと辺りを見回していた。

(次元犯罪者でもここに来ているのか?)

 次元犯罪者が娯楽施設に来てはいけないという法は無い。 その可能性は無いわけではないので、面倒ごとならば勘弁して欲しいなと思う。 何しろ、今目の前には危険な存在がいるのである。 まさか彼の書がかぎつけられたということは無いだろうが、それでも少しばかり警戒してしまうのはキールの用心深さ故である。 今のところ目の前の少年が蒐集をしているという話は聞いていないし、そういう噂も出ていない。 であれば、さすがに関連付けるのは早計というものだろう。 それに第一、もしそうだというのなら私服なりなんなりで尾行するはずである。 あんな”あからさま”な出で立ちを取る理由が無い。 あれではまるで時空管理局員であるということを自己主張しているようなものではないか。 周囲の人間もやや注目しだしているし、まるで意味が無い。

 ならば、そういう類のではないのかもしれない。 それなら特に気にすることも無いだろうと思い視線を外そうとしたそのときだ。 不意に、その女性と眼が合った。 その目に込められていたものはまるで獲物を見つけたことを歓喜したような眼であり、キールは少しばかり冷や汗をかく。 いつか、どこかでその視線を見たことがあるような気がしたのだ。

 視界にその女性を捕らえたまま、眼をあわさないように自然体を取りつつポテトに手を伸ばす。 一応偶々眼が合っただけという風に見せかけてみる。 だが、気のせいでは無いらしい。 その女性はそのまま真っ直ぐにキールたちの方へとやってきていた。 ”まるで”元々彼らに用があるという風な印象を受ける。 酷く嫌な予感がそのとき彼の脳裏をよぎっていた。 しかも、それは予感だけで終わってはくれない。 きっちりと彼らのテーブルまでやってくると女性は律儀にも名乗りを上げる。

「――時空管理局本局執務官エリーシャ・アグバルです。 ロストロギアの不法所持についてお話をしたいのですが、よろしいですか?」

 どこかキツい眼をしたその女性は、周囲にも聞こえるように事務的にそう言った。 

コメント
狙ったように執務官がきましたね。
これも伏線なのかな…これからの展開予想を心に秘めて、次回楽しみにしてます。
【2008/06/01 17:50】 | たたたん #JalddpaA | [edit]
ついにばれてしまったようですね。
これからどうなってしまうんでしょう。
次回もお待ちしています。
【2008/06/01 18:56】 | ZO #mQop/nM. | [edit]
たたたんさんZOさんどうもコメありです^^
予想を上回れるかは分かりませんが、次も頑張らせていただきますねw
【2008/06/02 22:24】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]












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