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憑依奮闘記 第十二話

 2008-06-07
 恐らくは執務官にとってその言葉の青天の霹靂だったに違いない。 それまでは何一つ汚点なく上司に仕込まれた通りに”きっちり”とボーイフレンドを演じきっていた。 久しぶりにここへ来たということもあり、自分も少し楽しんでいたというのもある。 ここ数日ずっと仕事場と訓練室を往復していた毎日だっただけに、これほど心休まる時間はなかった。

 某提督のお孫さんが一緒とはいえ、彼女自身に何の含みも持っていないディーゼルは執務官を目指す可愛い後輩と休日を満喫しているという風に考えることで、余裕を取り戻していた。 それにやはり、彼も少年である。 歳の近い異性と遊ぶのはいい意味で刺激となっていた。 上司の使い魔の少女たちとは違って自分で遊ぶようなことはしないし、どことなくほのぼのしている印象を受ける。 ここ最近が殺伐としすぎていた反動もあってか酷く落ち着く空間を共有できていたため、かなりの好印象を持っていた。 それに、一応社会人をしているとはいえ、こういった娯楽はやはり楽しい。 今日一日はそんな平和な一日が続くと思っていた。 だというのに――。
「ガンスリンガーが君にデバイスを預けた?」

「ええ、それで美学がどうとか言ってこれを……」

 そういうと、フレスタ・ギュースと名乗った少女はディーゼルにペンダント型のデバイスを見せる。 訝しげながらディーゼルはそれを受け取り、確認する。 すると、収納されているデバイスの情報を見るだけで眼の色を変えた。 全てが銃型のデバイスで旧式。 かのガンスリンガーの情報と照らし合わせてみれば、確かに怪しいことこの上ない代物であった。 それに、美学を語ったというのも怪しい。 件の彼女はそういうものを大切にしていると言葉と態度で示していたからだ。

「チェーン・ムーブル……彼女のデバイスなのか?」 

 記憶に鮮明に残っている姿を思い出す。 あのとき、2丁拳銃だけで自分の攻撃をことごとく防ぎきったSランク魔導師。 あの手ごわい魔導師が、今ここに来ている? 知らず知らずのうちに、苦いものが湧き上がっていた。 デバイスを握る手に力が篭る。

「他には何か言っていたかい?」

「えと、封鎖結界と強装結界で遮断するとか、ここが戦場になるとか言ってたわ。 それで、私には早く帰るようにとも……。 あと、自分のことを亡霊って言ってた。 どんな意味があるのかは知らないけど……」

「……なるほど、だとしたら当人かもしれない」

「で、でもガンスリンガーって人は処刑されたんですよね? その、管理局に捕まって……」

「ああ。 彼女本人は間違いなく死んでいる。 だが、それでも”僕”は少し前に彼女と戦ったことがある」

「え?」

「リビングデッド……ですか?」

「なんだそれ?」

 ディーゼルの呟きにリンディが呟き、それにザースが首を傾げながら尋ねた。 それを知っているのは管理局員ぐらいである。 彼らが首を傾げるのも無理はない。

「魔導師をコピーし、魔力で実体顕現させた存在の呼び名さ。 とある次元犯罪組織の実行部隊であるとされている。 残念ながら管理局ではそれらの実態をつかめていないが……」

(だとしても、何故ここに? デスティニーランドに何かが隠されているのか? それとも、連中が狙うモノがある?)

 娯楽施設を襲うというのがいまいち理解できない。 だがいるというのなら何か狙いがあるはずだ。 ならば、それが何なのかを知らなければならない。 が、これだけの群衆が集まっている中で彼女を探すというのは至難の業だ。 封鎖結界で隔離するというのなら、それを確認してからの方が把握しやすいかもしれない。 後手になるのはいつものことだが、未然に察知できているという点では今までとは違う。

「リンディさん、誘っておいてなんだけど一つ頼んでもいいかな?」

「はい。 嘱託としてできることなら」

「彼女たちと少し外で待機していてくれないかな? その際、本当にことが起こった場合に結界の外からサポートして欲しい。 管理局への連絡と、結界破壊の補助……それだけしてくれれば十分だから」

「ディーゼルさんはどうするんですか?」

「連中の狙いがなんなのかを中から探ってみる。 大丈夫、これでも僕はSランク持ちだ。 相手が少々手ごわくても”生き延びて”見せるさ」

 安心させるように笑顔でそういうと、ディーゼルは彼らを送って出口まで行くことにした。

「ああ、そうそう。 フレスタさん……だっけ? これは君に返しておくよ。 彼女が君に託したというのなら、それはきっと彼女にとって意味があることだと思うから。 見たところ変な細工も無さそうだしね」

「え、でも、いいんですか?」

「リビングデッドに自由は無い。 彼女はそう言っていた。 そして、それでも命令の範囲内で抵抗していた。 自分の”美学”とやらを守るためにね。 彼女はそういうこだわりを酷く大切にする人物だ。 だから多分それには変な小細工なんてないだろうし、それはきっと君が持っていた方が良い」

 それは、個人的な興味と執務官としての視点のどちらもが合致する判断であった。  理由はそれぞれ違うけれど、それでも今はそれで良いと思う。 リビングデッドの環境など知らないが、それでも犯罪ではなくて個人的な意思を貫く程度の自由ぐらいは認めるぐらいの度量はディーゼルにはあった。

「じゃあ、後は頼むね」

 三人を見送り、ディーゼルは一人中へと戻っていく。 正直、かなりの危険が予想される。 ただ逃げるだけならばなんとかなると思うが、それでもそれはかなり楽観しての話だ。 一度深呼吸し、気持ちを切り替えてから非番の執務官は人込みの中へと消えていった。














憑依奮闘記
第十二話
「会戦の狼煙」














 喧騒の中だった店が、その瞬間に止まったように錯覚した。 それほどに執務官を名乗る人間の言葉は彼らの心を揺さぶったのだ。 どこから洩れたのか、などと聞くことに意味は無いだろう。 長年それの対処をしてきた管理局員ならば、それを把握する術を構築していても可笑しくは無い。 であれば、このようなことも起こりうるだろう。 そう、キールは思っていた。

――だというのに。

「くっ、あははははは」

 だが、クライドは目を瞬かせただけで、その状況で笑って見せた。 その様を見て、キールもミーアも唖然とした。 シグナムとアギトは怪訝な顔をしていたが、それでも特に何かを口にすることは無い。 二人とも状況に対して何かをする権限を持っていないからだ。 とはいえ、何かあったときにすぐ動けるように軽く周囲の状況を把握しながら様子を見ることにする。 一応、シグナムはポテトを齧っていたアギトを自分の肩へと乗せた。 やるというのなら、剣を抜こうというのだろう。 臨戦態勢の構えであった。

「……なにが可笑しいのかしら?」

 その様子を訝しむのは執務官の女性だ。 キツイ眼の上にある眉が、皺を刻んでいる。 どうやらクライドの態度がかなり気に入らないらしい。 だが、それはクライドも同じだった。 ここ最近安売りしている”やる気”の眼をしたまま女性から視線を外し、炭酸飲料のストローに口をつける。 酷くわざとらしいその仕草に、執務官の目が細まる。

「いや、だってさ。 あんたが面白い冗談を言うんだ。 笑うしかないだろ?」

「面白いことなど何一つ言っていないのだけど、それより話をさせてもらっていいかしら? 子供の冗談に付き合う暇は無いのよボウヤ」

「いいんじゃない? 話すようなことがあれば……だけどな」

 まるで、人を小ばかにしたような態度だった。 キールとミーアが戦々恐々するなか、執務官は年長者であるキールに向かって口を開く。

「……貴方が保護者で良いのかしら?」

「え、ああ、そうなりますね。 ただし、この子のですが」

 急に話を振られたキールは、ビクビクしながら答える。 その頭の中ではどうするべきかを必死に考えていた。 闇の書のことであれば確実にアウトである。 今はまだこの少年たちは何もしていないのだが、所持しているというだけで見つかればアウトである。 なにせ、捜索指定ロストロギア持ちなのだ。 どんな言い訳も通じないだろう。

「……なるほど。 では、貴方がキール・スクライアさんですね? そして、そちらの子がミーア・スクライアさん」

 極めて事務的にそういうと、女性はシグナムとクライドに目をやってから最後にアギトに目を向ける。

「ユニゾンデバイス……それも、古代ベルカ純正の融合機。 間違いなくロストロギアですね? 届出が出されていないようですので、こちらで預からせて頂きたいのですが?」

「――え?」

「そんな馬鹿な!! 私たちはちゃんと管理局に届出をしているし許可証も貰ってます。 申請は間違いなく通っているはずです!!」

 予想外の自体に、キールが声を荒げる。 だが、少しホッとしてもいた。 なにせ、最悪の事態ではないのだ。 だが、解せないというのが本音である。 何故今なのだ? つい最近まで毎日のように彼らは時空管理局の本局にいたのだ。 そのときに手続きに不備があったというのならば言ってくれればよかったのに。

「……許可証をお持ちですか?」

「いえ、一族の航行艦の中ですので今は……」

「では、その確認が取れるまでは預からせていただきます。 正式な手続きが確認されましたら、そのときにご返却いたしますので」

 そういって、女性はシグナムの肩に乗っていたアギトに手を伸ばす。 だが、その手が空を切った。 横からクライドがアギトをむんずと鷲づかみにしたのだ。

「おわ!!」

 急に鷲づかみにされたアギトがクライドの手の中でジタバタと暴れる。 だが、クライドは彼女を逃がさないようにしながら、言う。

「アギト、ユニゾン頼む」

「つっ、あんたいきなりなにすんだよ!?」

「いいから、悪いようにはしないさ」

「ちょ、貴方待ちなさい!!」

 執務官の女が何か言うが、それよりも先にアギトがクライドにユニゾンした。 その瞬間、クライドがバリアジャケットに包まれ、背面から炎の翼を顕現させる。 黒髪が白く染まり、まるで別人のようになっていく。

「へぇ……これがユニゾンって奴か」

 自分の中に別の誰かがいる感覚。 まるで普通のデバイスの感応状態とは違うその感覚に、クライドが感嘆の声を上げた。 やはり、色々と興味があったということなのだろう。

「貴方、公務執行妨害で逮捕するわよ?」

「いや、でもさ。 ここに執務官なんていないじゃん」

「は? 何を言って――」

「だって、あんた名乗りはしたけど執務官だって言う証拠を出してないじゃないか。 だからあんたを”執務官”だとして対応する必要はないだろう? 最近流行っているらしいぜ? 管理局員を装った詐欺って奴」

 そういうと、クライドは肩を竦める。 が、その言葉にキールもミーアもアッと驚いて女性を見る。 女性は苦虫を噛み潰したような目でため息をつくと、懐から管理局の紋章が入った手帳を差し出す。

「これで良いかしら?」

「何やってんだ? 中を見せてくれなきゃ、本物かどうか分からないじゃないか?」

「くっ!!」

 いい加減、イライラしているのだろう。 クライドのふざけた態度に執務官の視線がさらに威圧感を増していく。 差し出された手帳には、彼女の名前や写真、局員IDや本局での所属などがしっかりと書かれていた。 

「オーケー、じゃあこれ借りるぜ? 今から”本局”にいる提督に確認してもらうからよ」

「な!?」 

 その言葉に、周囲にいた全員が顔を引きつらせる。 皆、そこまでするのかと呆然としていた。 特に、執務官と名乗った女性は目に見えて狼狽しているように見えた。 元々キツかった眼が、さらに酷くクライドを睨みつけている。

「待ちなさい、そこまでする必要は――」

「あるだろう? なにせ、俺たちにはコレが”本物”だなんて判断することはできないんだぜ? だから一番確実な管理局員に調べて貰おうっていってるんだ。 ついでに許可出ているかどうか確認してもらうってのも有りだな」

「……貴方、本気で捕まりたいようね?」

「おかしなこと言うなよ。 逮捕も何も、これが本物かどうか確かめさせろって言ってるだけじゃないか。 あんたが”本物”の執務官様なら、俺たちは喜んで協力するぜ? さて、提督の叔父さん今日は何してるかな?」

 懐ろから取り出した携帯を開きながら、クライドは言う。 さらに端末を操作し、周囲の人間にも見えるように空間モニターを展開した。 数回のコールの後、時空管理局本局のオペレーターがモニターに現れる。 クライドはそのオペレーターにギル・グレアム提督に私的な用があるので繋いで欲しいと言う。 クライド・エイヤルと言えば本人は無理でも、その使い魔が取り次いでくれるはずだといって。

『しばらくお待ちください』

 事務的なオペレーターとの通信から数十秒後、今度はクライドが見知った姉がモニターに現れた。

『クライド君、どうかしたのかな? お父様は今執務官の人と打ち合わせ中だから私が代わりに聞いてあげるよ』

 現れたのはリーゼアリアだった。 クライドからの思わぬ連絡に、小首を傾げている。

「忙しいところごめんアリア。 実はさ、知り合いがユニゾンデバイスの所持許可を管理局から取っているはずなんだけど、いきなり遊園地にまで執務官の人が来てさ。 不法所持だから預かるとか言ってきたんだ。 その執務官、手帳も礼状も見せずにいきなり言って来たんで、おかしいと思ってさ。 ちょっと調べてくれない? できれば今すぐに」

『……ふーん。 いいよ? その執務官の名前とIDは?』

「これ、一応”本物”っぽいけど俺には見分けなんかつかないから」

『ふむふむ……”エリーシャ・アグバル”……執務官だね? IDもあるなら検索は容易だね』

 カタカタとモニターの向こうで機器を弄り、アリアが調べていく。 その口元に浮かぶ笑みは、全てを理解している笑みに相違ない。 ある種の確信があっての笑みであった。 クライドはその笑みにニヤリと笑顔を貼り付けたまま、結果を待つ。

 ミーアもキールも、そして心なしか執務官もその検索が終わるのを待っている。 執務官殿に動きは無い。 ここまでやれば普通何らかのアクションがあって然るべきのはずだ。 その姿に、クライドは少し眉を顰める。

(ここまでやってボロを出さない? アレ? もしかして本物か?)

 アギトの価値はかなり高いとクライドは思っている。 ベルカという世界の遺産。 その生きた証。 その価値を理解できるものからすれば、喉から手が出るほど欲しいはずだ。 だからこそ、目の前にいる不自然な執務官はクライドからすれば怪しすぎた。 たまたま管理局の広報テレビで『最近の犯罪者の手口』という番組を見て、その手口に似ていなければスルーしていたことだろう。 対策としては本局に問い合わせて確認するのが確実だということを知っていたのでその通りにしているが、はてさてどうなるか。 アリアの答えを待つ間の時間が、酷く長く感じる。 大胆不敵を装ってはいるものの、テーブルの下ではガクガクと膝が震えていた。

 ちなみに、クライドは初めの時点で夜天の書関連ではないと考えていた。 もし”夜天の書”のことを言い出すのであれば、会話をする前に武装隊で取り囲むはずである。 それほど危険なものだと認識されているはずにもかかわらず執務官一人が一般人を巻き込む可能性のあるここで接触してくることなどありえない。 というより、あってはならない。 そう考えれば、それ以外のロストロギアとなるわけだが該当するのはアギト一人だけしかいない。 実に簡単な推理であった。

『うん……アグバル執務官のそのIDは本物だよ。 間違いなくその執務官は実在する――』

「……というわけよボウヤ。 もうこれで十分でしょう?」

 その勝ち誇った笑みに、一瞬クライドの表情が崩れそうになった。 だが、そうは問屋が卸さない。 悪戯好きな猫の少女はさらに続ける。

『――でも、おかしいね。 ”彼女”は今丁度お父様と打ち合わせ中なんだけど? 一体どっちが”本物”なのかな?』
 
「……」

「だ、そうだ。 おかしいな? だとするとどっちが本物なんだろう?」

 ガタッと、キールがミーアを庇うように席から立ち上がり、シグナムもまた立ち上がってデバイスを展開する。 周囲で様子を伺っていた人間もまた、一気にエリーシャ・アグバルを名乗る執務官を見た。

『”本物”のエリーシャ執務官なら知り合いだから”私”の名前は勿論双子の子の本当の名前を知っているよね? 貴方に分かるかな? 偽者さん?』

 モニター越しに挑発するように、アリアが言う。 だが、その問いに答えられる言葉を偽者と呼ばれた女性は持っていない。 何せ、知り合いが出てくるというのは予定外だったからだ。 そこまで詳しい情報を渡されてはいないため、答えようが無い。 あるいは、上司や執務官補佐の名前ぐらいなら記憶しているので答えられただろう。 だが、目の前の”使い魔”の少女など知らず、ましてやその双子の名前など知るはずも無い。 歯切りしながらクライドとアリアを睨みつけることぐらいしかできなかった。

「アリア、ここは東部のデスティニーランドだ。 この場合、俺はどうすれば良いかな? 捕まえるのに協力すれば良い?」

『うーん、そういうのは管理局員の仕事だから、無理しない程度にしてね。 逃がしてもしょうがないと思うから。 でも、すぐに局員は派遣させておくね』

「あい、了解。 ストラグルバインド!!」

 その言葉の後にクライドが指を弾く。 と、その瞬間逃げようとした執務官の足元に魔法陣が浮き上がり三本の魔力の鎖を放出。 偽者を一瞬で束縛していった。

「くっ!?」

 ストラグルバインドは強化魔法や変身魔法を無効化する性質を持つバインドであり、次の瞬間には偽者の変身魔法を解除していく。 徐々に本当の姿を現していく女性。 管理局員の制服が消え、バリアジャケットらしいダークグレーのジャケットが現れる。 それを纏う女性は妙齢の美女といった様子だ。 男ならゴクリと唾を飲み込むような容姿とプロポーション。 その艶やかなエメラルドグリーンの髪の毛を後ろで括り、動きやすいようにしている。 先ほどのきつそうな眼も妖艶なそれに変わっており、まるで別人であった。

 だが、一番恐ろしいのはそれが変身魔法だと感知できなかったことだとクライドは思う。 シグナムやアギト、ミーアやキールもまた気づけていなかった。 クライドなどは特殊なマスクでも被っているのかと思っていただけに、魔法でそこまで隠蔽していたという技量には内心で驚愕していた。 ストラグルバインドを使ったのは一応念のためだったのだが、良い誤算であったらしい。

「アグスタの怪盗『ドッグ・アイ』……ミリア・キャリッシュ!?」

 キールが呻くように彼女の名を口にする。 彼は一度見学旅行の折にその姿を見ていた。 ロストロギアと研究資料を盗み出していた彼女が、断頭台と呼ばれる男の手引きで逃げ出すときにその姿を晒していたからだ。

「……久しぶりねキール。 もっとも、貴方だけなら騙せる自信があったんだけど、イレギュラーなボウヤのおかげでこの様よ」

「どうやって僕たちのスケジュールを!? それにリビングデッドが何故アギトを狙う!!」

「リビングデッドだって!?」

 その言葉に、クライドがようやく席を立ち上がる。 見学旅行で戦った相手が一瞬頭をよぎるが、彼も復活しているのだろうか? AMFの無い今彼と相対するのはかなり厳しいだけに、クライドの背中に冷たいものが流れた。 最悪を想定して思考を展開し始める。

「ふふ、残念だわ。 できるだけ穏便に済ませて上げる予定だったのに、これで台無しだわ。 今回は誰も手加減なんてできない……コンバイン!!」

「貴様!!」

 シグナムが弾かれるように飛び出していくが、剣を振るう前にミリアがクライドのバインドをブレイクして距離を取り、突如床に発生した黄土色の魔法陣に飛び乗る。 その瞬間、まるで予定していたかのようにミリアの姿が消えていった。 どうやら転送の魔法陣で一時的に離脱したらしい。 その様に、様子を見ていた店内の客たちがざわめきの声を上げる。 が、それもすぐに止んだ。 店内の客たちがまるで空気に溶けるように消えていったのだ。

「これ、封鎖結界? ううん、それだけじゃない!!」

「強装結界もある。 どうやら、向こうはよほどアギトが欲しいらしいね」

 ミーアの言葉にキールが追加をしながら、現状を確認する。 外界から隔離された店内は昼間だというのに薄暗く、まるで夕闇の中に世界が閉じ込められたようだった。 封鎖結界で魔導師では無い人間を隔離し、邪魔が入らないようにしてから本格的に動こうというのだろう。 ミリアという女性が戦闘用の人材ではないとしたら、これからやってくるのは本当の戦闘用の魔導師であるということは明白だ。 向こうがどこまでの戦力を持っているのか分からないが、管理局員がやってくるまでに仕事を終えようとするだろう。 また、状況を外部に伝えようにも携帯の電波まで遮断しているらしく、つけっぱなしであったモニターにはザーザーとノイズが走っていた。

「キールさん、戦闘は?」

 携帯を回収し、バリアジャケットを纏いながらクライドはキールに尋ねる。

「できないことはないよ。 ただ、攻撃は苦手だね」

「じゃあ、これ使ってください。 ミーアの護衛と援護頼みます」

 そういうと、クライドはシールドカッターの魔法プログラムをキールとミーアに送る。 少なくとも、これならスクライア一族には相性が良いはずだ。 元がシールド系であるし、防御や補助が得意な彼らにならクライド以上に使いこなせるかもしれない。

「あ、これお兄さんのギザギザシールドの魔法プログラムだね?」

「これは……なるほど、僕たち向きだね」

 魔法の概要を理解したキールが素直に感心する。 それに頷きながら、クライドは頼りになる女性に尋ねる。 やはり、クライド自身よりも歴戦の勇士であるシグナムの方が良い案を出してくれるだろうと期待してのことである。

「シグナム、どうすれば良いと思う?」

「……そうだな。 まずはヴィータたちと合流するのが良いだろう。 キール氏やミーアも、そして貴方も本格的な戦闘は慣れてはいないだろう。 ヴィータと私で突破口を開き、シャマルとザフィーラで索敵防御しながら進む。 援護と支援は貴方たち三人に任せて結界まで近づき、破壊して離脱するのが無難と言ったところだろう」

「なるほど……シグナムたちならあの結界ぶち破れるか?」

「可能だろう。 これほど大規模な結界だから少し梃子摺るかもしれんが、壊せないという程ではない。 これが恐らくは一番無難だと私は思う」

「……他の案は?」

「奴らの狙いがアギトだけだと仮定するならば、私かヴィータ辺りにアギトをユニゾンさせ、速攻で結界外へと離脱する。 そうすれば少なくとも貴方たちから奴らを引き離すことができるかもしれない。 勿論、これは連中の狙いがアギトだけだった場合で、敵がもし食いつかなければ貴方たちの身がかなり危ない。 後は、こちらから打って出るか貴方の知り合いが派遣した局員が到達するまで時間を稼ぐしかないだろう。 まあ、少し楽観しすぎかもしれんがな。 敵の魔導師の力量は知らないが、少なくとも戦力が把握できていない今これをするのは余りにも無謀だろう。 何せ、仕掛けてきたのは向こうで、入念に準備してきているのかもしれん」

 冷静にそう進言するシグナム。 それに頷きながら、今度はキールに尋ねる。

「キールさん、この前のときは敵にはどういう魔導師がいました?」

「聞いた話だと質量兵器の人形を使う召喚師『人形遣い』に、大剣を持った魔導師『断頭台』と銃を使う元フリーランス魔導師『ガンスリンガー』。 そして、さっきのミリアと”君たち”が倒したというバインドの魔導師……この五人だ。 ただ、全員が魔力資質AAAランクオーバーで、過去管理局によって処刑された罪人ばかりだったという。 正直、全員に狙われていると思うとゾッとしないね……」

「うげぇ、また高ランク魔導師かよ。 ここまでくると高ランク魔導師のバーゲンセールだな」

 心底辟易したという具合に、クライドが呟く。 いい加減、やめてくれといった具合である。 もっとAランクとかAAとか低ランクないし中ランクが現れれば全部ヴォルケンリッターに任せて楽ができるというのに、現実は酷く面倒くさいことばかりだ。

「……お兄さん、色々と苦労してるんだね?」

「ああ、色々と……な」

 同情の視線で見上げてくる少女を撫でながら、少年は涙ぐむ。

「ああ、それとこれは気休めだろうけど、召喚師とさっきのミリアはそれほど強くは無いはずだよ。 召喚師は圧倒的な物量が脅威だが、本人はそれほど強く無かったと執務官がぼやいていたのを聞いた。 ミリアの方は元々がアグスタの怪盗と呼ばれた人物だから、戦闘向きではないはず。 ただ、変身魔法や幻影魔法とかが恐ろしいレベルだと思う。 さっきの変身魔法だって、我々の誰一人気がついていなかったしね。 攻めるにしても防御に徹するにしても、判断し難い。 僕たちは君たちの判断に従おう。 荒事は得意じゃないしね」

「了解……しかし、最低でも五人……微妙な数だなぁ。 攻めたとしてヴィータとシグナムで一人ずつ。 残りを分けたとして……微妙だな。 博打になりそうだし、やっぱ結界を突破する方を選ぶべきかな」

 執務官殿やリンディたちが紛れ込んでいるだろうが、そもそも狙われているのはアギトである。 巻き込むのはよろしくない。 それに第一、シグナムたちの素性を問われたらクライドとしてはアウトなのである。 進んで組みたくは無い。 であれば――。

「よし、じゃあヴィータたちと合流して突破することにしよう」

「わかった。 それでいこう」

「うん」

「……主クライド、一応念話で通信しておいた。 数分もしない間にヴィータたちと合流できるだろう。 無論、邪魔が入らなければだが……それまでは雑魚の掃除だな」

 そういうと、シグナムが外に視線を送る。 すると、外側からこちらを包囲するかのように奇妙な人形が列を成してやってきていた。 コンバイン・ソルディズンお得意の質量兵器、マリオネットの大群である。

「あれが召喚師の使う質量兵器だ。 無機物操作の魔法で大量に遠隔操作しているんだ。 本人を倒せば動かなくなるらしいが……」

「さっきのミリアって人と組んでたら、見つけるのも一苦労かもしれないね」

 見るだけで五十は下らないその数に、一同は揃ってため息をつく。

「……アギト、しばらく俺と組んでもらうけど構わないか?」

『別にかまわねぇけど、どうしてだ? シグナムの方が強いんだろう? そのほうが効率が良いんじゃないかよぉ』

「だからだよ。 数叩き潰すんならこっちも攻める数は多い方が良い。 パッと見たところ、歩兵クラスの武装ばっかりだから一体一体はそれほど強そうじゃないしな。 シグナムと俺で前に出る。 ミーア、キールさん援護よろしく」

「ああ」

「任せて。 レイジングハート、お願い」

 その瞬間、ミーアが白いバリアジャケットに包まれていく。 注目すべきは白のジャケットの真ん中、胸元に揺れる特徴的な赤いリボンだろうか。 アクセントが効いていて中々に可愛らしい。

「――は?」

 だが、そんなものに眼を奪われるクライドではなかった。 展開された杖型インテリジェントデバイスに全ての思考が飛んでいたからだ。 これこそが最強の神器。 その原型。 かの砲撃魔導師を冥王に仕立て上げた伝説の一品である。

「れ、レイジングハート!? れ、レイハさんを何故お前が持ってるんだミーア!!」

「ふぇ? これ、あの襟首女から貰った奴だよ? れ、レイハさん?」

「なぁ!? か、カグヤか!! なんてこった……あの時アギトに夢中でそれを気にもしなかったとは我ながら迂闊すぎる。 これほど美味しいネタ……もとい興味深い研究対象がこんな近くにいたとは……。 これは是が非でもここを突破して解体解析させてもらわねばなるまい!! デバイスマイスターを目指すものとしてそれはもう切実に!! く、こうなったら一分一秒でも早くここを突破せねば!!」

 違う意味で闘志を剥き出しにしながらクライドが言う。 そのあからさまなやる気の出し方に、周囲の人間は一歩引いた。 心なしか、レイジングハートが怯えるようにコアを明滅させているように見える。

「お兄さん、もしかしてマニア?」

「それもかなりのデバイスマニアだね」

 スクライア一族の白い目を無視しながら、ブレイドを構えるクライド。 シグナムの隣に立つようにしながら、燃える瞳で敵集団を睨みつける。 目の前にニンジンをぶら下げられた馬のようだ。 その酷く分かりやすい様子に苦笑しながら、シグナムもまたレヴァンティンを構える。

「いくぞ、主クライド」

「おう。 ヴィータたちが合流する前に終わらせるぞ!!」

 大群に向かって飛び出しながら、二人は揃って敵陣に切り込んでいった。

















 道具は、ただの目的を達成するために機能すればただそれで良い。 それ以上でもそれ以下でも駄目だ。 きちんとそれを成すことを前提として作られている以上、それができないというのであればそんなものは不良品に他ならない。 そして、それは道具の存在意義を殺す最悪の悪徳であろう。

 道具としての矜持。 それが、彼の苛立ちを増徴させる。 最高の道具であるという自負を、しかし自らの使役する道具は容易く裏切る。 何故だ? 彼にはそれが理解できない。 明確な意思を持つ道具である彼らと彼の違いは、恐らくは自らを道具として認識して許容しているかしていないかだ。 そこに明確な見解の相違が有る以上、彼らは一生彼に心から従うことはないし、道具にはなれない。 例え単なるプログラム存在であったとしても、それだけは変わらない。 存在を貶めて改悪し、ただの道具にすることはできる。 だが、それをしてしまえば道具の性能が著しく落ちる。 だからこそ、それはできない。 このジレンマはいつだって最高の道具であるという彼の自負を傷つけていた。 それがイーターはたまらなく嫌いだった。

「……ちっ」

 吐き捨てるように舌打ちする。 確かな反逆を行った『ガンスリンガー』の行為に、苛立ちを隠しきれない。 全てがいつもいつも予定から少しずつ狂っていく。 彼には決して理解できない何かが邪魔をして、不確定要素を作り出していくのだ。 どれだけ綿密な情報収集を行い、イレギュラーを極力排除できる計画を立案したとしても、己の道具がそれを無視する。 それではそもそも作戦が成り立たなくなる可能性が出てくるだろうに。 これは欠陥だ。 認めたくはないが、それでも認めなければならない。 これだけは、この反逆だけは自らににいつだって付きまとうリスク<欠陥>であると。 そして、そのリスクはいつだって別のリスクを呼び込む。 今回のイレギュラーはその最たるものだ。 直接的な因果は無いだろうが、それでもそう思わなければやっていられなかった。

「……三大蒐集機の三番機、その縁の者がいるだと? 笑わせる、どういう茶番だこれは」

 ありえないと断ずることは簡単だ。 だが、確かに結界を展開した内部に見知った人間が四人いる。 決して顔をあわせることが無いはずだった邂逅。 一番機である彼自身と二番機である彼女の縁者が出会うのは問題ない。 だが、三番機との邂逅は恐ろしいほどのリスクを孕んでいる。 今までこんな偶然は無かっただけに、イーターは呻くように呟く。 あれほど無機質な男が、少しばかり狼狽していた。

「……そんなに状況は不味いのかね?」

「……」

 展望タワーの最上階で『ガンスリンガー』の裏切りを”敢えて”報告してきた『断頭台』に、イーターは沈黙を返す。 答える理由が無いというのもあるが、計画を続行するべきかのその判断をするために、目まぐるしいほどの速度で情報を整理していたのだ。 現在のミッドチルダの通常デバイス、あるいはオーダーメイド品さえも遥かに凌駕するスペックを持つ彼でさえ、この問題をどうするかの判断は少しばかり難しかった。

(私は道具。 主の命令を達成するためだけの道具に過ぎん。 そして私は”最高”の道具だ。 ならば、目的はなんとしても完遂せねばなるまい。 リスクは当然あるが……アレと接触するだけで良いのだ。 何を戸惑うことがある?)

 迷いは思考すれば思考するほどに膨らんでいった。 最悪、自分は殺される。 そういう展開もまたありえる。 それを考えれば、無理をすることに旨味は少ない。 だが、それは自らの保身という低俗な感情だ。 そんなものは”道具”には必要ない。 ならば、結論は決まっていた。 作戦は続行だ。 確かめねばならない。 それが不確定要素なのか、それともただ偶然生き残れただけなのかを。

「……お前の娘には執務官を対処するように伝令しておけ。 消す前にこれだけはやってもらう。 お前は、この女を止めろ」

 空間モニターを展開し、酷く冷淡にイーターが言う。 そこには炎の魔剣を用いてマリオネットを次々とゴミ屑に変えていくポニーテールの女性が表示されている。 『断頭台』はそれを見て、眉を顰めた。 だが、それが命令であるというのならば是非は無い。 だが、”これだけは”聞かねばならない。

「チェーンが……ではないな。 何をそんなに恐れているのかね? その女剣士か? それとも君が回収したがっているあのユニゾンデバイスかな?  あれはそんなに危険なものなのかね? 君……いや、”君たち”にとってアレはなんの意味があるのだ?」

「”貴様”がそれを知る必要はない」

「そうかね? ふむ、君が”それで良い”というのならそれで構わんよ。 君たちの秘密主義は今に始まったことではないからな」

「さっさと行け。 そして、奴を……”烈火の剣精”を俺の前に連れて来い」

 それだけ言うと、イーターは断頭台に背を向けて再び複数の空間モニターを展開。 戦場の情報を収集していく。 もう、他のイレギュラーなど許さないとその背が語っている。 そこに、断頭台は確かな確信を持った。 であれば、彼もまた”選ぶ”ことにする。 今まで決して口や態度には出さなかったそれをその”意思”を確かにその胸に抱いたまま。 道具であることを選び続けるイーターには決して理解できないその感情を秘めたままで。

「では逝ってくる」

 今まで大人しく従っていた断頭台はようやく、明確な反逆を選び取ることを決断した。 その言葉に込められた明確な意思を知らぬまま、イーターは次々とリビングデッドたちに命令を下す。

 まずは引き剥がさねばなるまい。 最悪、ユニゾンしたままで良いから自分の下へ来るように誘導しなければならない。 エースカードが二枚消えた今、残っているのは足と幻惑、そして数のカードだ。 それを利用して分断するしかあるまい。 引きはがすために各個撃破されるリスクを選ばなければならないが、持久戦を選べばどうとでもできるはずだ。 道具の使い方は理解しているからこそ、彼は現段階で最高の位置へと駒を分ける。 だが、それが本当に最高の采配なのかどうかはやってみなければ分からない。 イレギュラーはイレギュラーを呼ぶ。 ならば、その采配にもイレギュラーが混ざらないという保障など無いのだから。

 最大のイレギュラーは二つ。 執務官と三番機の縁者の存在。 これ以上のイレギュラーなど起こりうるわけはないと思うが、それでも……憂慮せずにはいられなかった。 この上、更なるイレギュラーが起こりうるだろうか? と。

 だが、結局イーターは最後まで気がつかなかった。 予想外の三つ目のイレギュラーは既にもう起こっているということに。 ”道具”にならない存在の意思を知らぬが故に。 その、明確な生まれの違いが起こす茶番を。

――知らないところで、計画は確実に崩壊しようとしていた。














 高速で飛翔する物体を撃ち落すのは通常では難しい。 特に、それが面積の小さいものであったならば尚更だ。 だが、ならば弾幕を張れば良い。 圧倒的な数を背景に、進行先の空間を制圧するほどの弾幕を張れば何れは命中するだろう。

 クライドたちと合流するために飛翔していたヴィータたちはその下方からのマリオネットの対空弾幕にあって少しばかり合流速度を落していた。 飛来してくるミサイルと銃弾の雨に回避行動を取らなければならない。 突っ切ってもいいが、それではこの物量に飲み込まれる可能性がある。 それほどの飽和弾幕にさしもの彼らも足を鈍らせざるを得なかった。 やってやれないことは無いと思うが、確実に無駄な魔力を消費する。

「くそ、雑魚ばっかり群がって来やがって!! 鬱陶しいったらねー」

「このまま主たちの元までついて来させるわけにもいかんしな。 鋼の軛!!」

 いつもは地面から杭のようにして束縛するそれを、ザフィーラが鞭のように一閃させた。 広範囲をなぎ払う形で使用したそれによって、範囲内にいたマリオネットが纏めて数十体吹き飛んでいく。 滅多にこういう使い方をすることは無いが、応用次第でこういうことが可能な鋼の軛は比較的様々な用途で使うことが出来る。 ザフィーラが愛用する所以であった。

「ついでにこいつも喰らっとけ!! シュワルベフリーゲン!!」

 眼前に魔力で作り出した八つの鉄球。 それをグラーフアイゼンで打ち出していくヴィータ。 高速で打ち出されたそれが、マリオネットを一直線に貫通していく。 誘導操作型魔法のそれは、ヴィータの意思を受けて次々とマリオネットを駆逐していった。 恐ろしきはその貫通力だ。 鋼鉄で武装されているマリオネットを複数貫いても威力を落さないそれの威力に、一瞬マリオネットたちの弾幕が止まった。

「シャマル、主たちとは後どれぐらいで合流できる?」

「あと、もうちょっと!! でも、向こうもこの妙な人形たちに襲われているみたい。 それほど強くはないけど、数だけは一杯だから周辺を完全に囲まれてる」

「シグナムも主も複数を相手にする魔法はあまり得意では無いからな。 ……早めに合流するのが良いだろう。 ……ヴィータ、もうその位で良いだろう、そろそろ行こう」

「ああ……っと、どうかしたのかシャマル?」

「……凄く速い人がこっちに来る。 なに、この速度? 普通の魔導師の三倍は速いかも!!」

 悲鳴を上げるようにそういうと、シャマルはそれがやってくる方向に眼を向ける。 その視線を追うように、ザフィーラとヴィータがそれを追った。 と、その方角から白金色の何かが閃光となって飛び込んできているのが見えた。

「な、なんだありゃ!?」

「推定ランク……AAA!? かなり強いわ!!」

「……なんだあれは? ウィングロードの亜種……か?」

 白金色の道<レール>の上をありえない速度で走るその魔導師は、前方に奇妙なシールドを展開しながら真っ直ぐに距離を詰めてくる。 その姿に、ザースの面影を見たザフィーラが呆れたように呟く。 だが、ウィングロードを走る姿は似ても似つかない。 何故なら、似ているだけで違うのだ。
 ローラーブーツのようなモノを履いているが、まずローラーが無い。 ウィングロードに接地せずに少しばかり浮遊している。 そしてそれだけではなくウィングロードもまた形が違った。 ブーツの周囲を囲むようにU字型になっているそれが二本、レール<線路>のように延びている。

「……シャマル、ザフィーラ先に行け。 あいつの相手はアタシがしてやるよ」

「ヴィータ? しかし今は合流を急ぐべきだ」

「そうよヴィータちゃん、それに下には奇妙な人形までいるのよ? 三人で対処したほうが……」

 だが、ヴィータはそれに首を振るとアイゼンを構える。

「一番ヤバイのはあのよわっちい主<クライド>がやられることだろ? 二人はさっさと合流してやれよ。 アタシ一人であいつは抑えてやる。 ついでに、ここにいる下の奴らもな」

 不敵にそういうと、ヴィータはアイゼンを握る右肩をぐるりと一回転させた。 久しぶりの大物との戦いに、獰猛な笑みを浮かべている。 守護騎士としての役目を果たそうというのだろう。 優しいシャマルが気遣うように何かを言おうとしたが、ザフィーラはその意を汲むことにした。

「……分かった。 だが、急げよ。 結界破壊にはお前の力が必要になるだろう。 それに、何があるか分からんからな」

「ん……お前らも、クライドをしっかり守ってやれよ? 守るだけなら二人の力の方が必要だからな。 アタシは敵をぶっ飛ばす方が気が楽だ」

 ヴィータはディフェンスよりもオフェンス向きだ。 決戦特化のシグナムよりも汎用性が高いし、やはり敵を倒すことの方が向いている。 前に出るタイプである以上、その方がやりやすかった。 それに、魔導師との一対一であるというのなら、そう簡単に彼女は負けないと自負していた。 ベルカの騎士は基本的には対人用戦力であるし、対魔導師戦闘の経験は烈火の将とさえ変わらぬほどのものをヴィータは持っている。

 鉄槌の騎士ヴィータ。 夜天の王に仕えるその小さな騎士は、並の高ランク魔導師などよりも遥かに強い。 

「……ヴィータちゃん、無理はしないでね?」

「たく、心配性だなシャマルは。 大丈夫さ、あんな奴楽勝だぞ」

「行くぞ、シャマル。 ここはヴィータを信じよう。 私たちよりも彼女は遥かに強いのだ。 それは我々が良く知っているだろう?」

「……ええ」

「じゃあな、とっとと下らない戦いを終わらしちまおうぜ。 楽しい娯楽に水を差したあいつらに目に物を見せてやる!!」

 そういうと、ヴィータは再び魔力で作り出した鉄球を八つ取り出す。 シュワルベフリーゲンで、邪魔なマリオネット共を黙らせるためだ。 振るわれるアイゼン<鉄槌>。 その進行方向に射出された鉄球が再び猛威を振るっていく。

「よし、行け!!」

 それに頷きながら、湖の騎士と盾の守護獣が飛び去っていく。 マリオネットが弾幕を張ろうとするが、それを食い破る鉄球が次々と彼らを襲っていった。 そうした頃には、すぐそこまで高ランク魔導師が迫ってきている。

「こっから先は通行止めだ。 先に行きたきゃアタシを倒してからにすんだな」

 紅いのバリアジャケットをはためかせながら、ヴィータは白金色の魔導師に立ち向うてべく飛翔する。 それに気がついた敵魔導師が、しかしそのままヴィータに向かって突っ込んでいく。 回避行動は無い。 まるで、真正面から弾き飛ばすとでも言うような態度だ。 目にも留まらぬ恐ろしい速さだったが、それでもヴィータはそれに立ちふさがるように啖呵をきった。 

「このアタシと真正面から? はっ上等だテメェ!!」 

 構えるはグラーフアイゼン。 鉄の伯爵が主の叫びに呼応して圧縮魔力カートリッジを飲み込む。 ハンマー部分のやや下の部分に装填された三連装式カートリッジシステムが、装填されていた一本の魔力を開放。 同時に、ハンマーの姿を変化させる。 ハンマーの片方から鋭角な黄色い杭のようなものが現れ、反対側にはこれまた黄色のロケットブースターが現れる。 そのまま魔力を燃焼させるようにしてブースターを点火。 その勢いのままにヴィータが遠心力を利用しながら回転し、勢いをつけていく。

 その魔法の名はラケーテンハンマー。 グラーフアイゼンのラケーテンフォルムから繰り出される防御貫通に特化した魔法だ。 テートリヒシュラークのように衝撃特化ではなく、貫通特化を重視されているそれは、回転の遠心力とブースターの噴射力を得て凶悪な破壊力を持っており並の魔導師のシールド程度なら受け止めることさえ適わない必殺の魔法である。

「ラケーテンハンマー!!」

「イヤハァァァァァ!!!!」

 相対する魔導師は、しかしそんなことを知らずにさらに加速する。 障害など知らぬとばかりに、暴走した列車のように突貫した。 鉄槌と列車が真正面からぶつかっていった。

――衝突。

 瞬間、紅色と白金色の魔力の輝きが周辺を染めた。

「おぉぉぉぁらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 気合一閃。 ヴィータのアイゼンが敵のシールドを食い破らんとギチギチと唸る。 だが、驚くべきことにその必殺の一撃で敵のシールドを抜けない。 辛うじて拮抗しているという具合だった。 その事実にヴィータが驚愕した。

(こいつ、ふざけた髪型してる癖に強ぇぇ!?)

 シールドの向こう側、浅黒い肌のその男が相当なボリュームの茶髪アフロを晒しながら同じく呆気に取られていた。 どうやら、向こう側も止められたことには驚愕しているらしい。

「おいおい、その小柄な身体でこいつを止められるのかよ。 こいつは随分とクレイジーなお子様だZE!!」

「うっせぇ、子供扱いすんな!!」

 二十代前半らしいその青年の感嘆の声に、ヴィータが噛み付く。 だが、それでもこの拮抗を押し返すには力が足りない。 舌打ちをしながら、それでも力で押し切ろうとしたところで、焦れた男が急激に後ろに下がった。 ヴィータが一回転しながら体制を整えた頃には、大気を切り裂くようにいくつもラインを変えながら直線にシュプールを刻んでいた。  どうやら、アレはほとんど真っ直ぐにしか進めないらしい。 方向転換する際には跳躍し慣性をカウンターフォールで殺しながら、身体の向きを進行方向に変えてから新しく直線のレールを敷いて進むようだ。 だが、その直線の加速度がふざけている。 ゼロからいきなりトップスピードへと移行するその加速力は、まるで銃から打ち出された弾丸そのものだ。

 ラインを切り替える瞬間見える三角形の魔法陣からして、ベルカ式のようだがあんな魔法をヴィータは知らない。 一点突破型の戦術しかアレでは使えないだろうが、そもそも突進力を破壊力に変えるタイプであるというのなら、これほど理に適った戦術はないだろう。 推進力は足のデバイス。 武器は攻防一体のシールド。 どうやら、両腕のサポートデバイスを用いてシールド強化も行っているらしい。 自らを弾丸として相手を吹き飛ばすことでダメージを与えることを基本に他者を制圧するその様は、まるで暴走した列車そのものだった。

 彼の名はトレイン・マラドックス。 陸戦AAAクラスの資質を持つ近代ベルカ式の使い手である。 特徴的なのはその足のデバイス『リニアブーツ』だ。 裏の違法デバイスマイスターに作らせたそれは、あまりにも制御が難しく、また使用するには魔力変換資質『電気』を持っている人間にしか運用できない完全なオーダーメイド品である。 ローラーブーツと違ってほぼ直線の移動しかできない分小回りが効かないが、その加速力はローラーブーツの比ではない。 『ミッド最速』の男でさえ単純な直線オンリーの加速力だけ見た場合、恐らくは追いつけないだろう。

 足元に敷いた魔法『レールウェイ』と『リニアブーツ』。 電磁浮遊式のリニアモーターカーを模したそれは、空戦高ランク魔導師と同等かそれ以上の加速力を持っていた。 残像を残しながら移動するその速度は脅威の一言であろう。

「クレイジーガールにはこっちもクレイジーに相手をしなきゃな。 HAHAHA。 限界ギリギリまでこっちもギア上げてかっ飛ばしてやるZE!!」

「ちっ、シュワルベフリーゲン!!」

 通常のハンマー形態にアイゼンを戻し、鉄球を空中にセットして打ち飛ばす。 弾き飛ばされた鉄球が方向転換をするために跳躍を繰り返すトレインを襲う。 だが、それが届く前にレールを組み上げて加速するトレインは、高速で飛来する鉄球を遥かに凌駕する速度でそれらを嘲笑う。 誘導操作で追いかけさせるが、追いつけない。 ヴィータはそれでの迎撃を諦めると、その鉄球を邪魔をしようと動き始めていたマリオネットに向け、それらをことごとく黙らせる。

「馬鹿げた速度を利用しての一点突破特化型かよ。 シグナムが好きそうスタイルだな」

 だが、とヴィータはニヤリと笑み浮かべる。 どれだけ速かろうが、それしかしないというのであればやりようなどいくらでもある。 一撃離脱を繰り返されるのは確かに厄介だし、その速さを利用してザフィーラたちを追われても困る。 だが、”その”戦術は致命的な欠点があった。 勿論、相手はそれを理解してるだろうが、それでもそれを行うことしかできまい。 それが特化型の宿命である。

 ハンマー型に戻したアイゼン。 使用したカートリッジを吐き出させると、次のカートリッジをセットする。 そして、トレインを無視して地上に降りていった。 そのまま、邪魔になるマリオネットたちへと踊りかかっていく。 一騎当千の力を持つヴィータの突然の方針転換に、トレインを援護するべく構えていたマリオネットたちが散らばるように距離を取りつつ迎撃体制をとる。

「おいおい、つれないZE。 もっと俺と遊んでくれよベイビー」

 それを見てトレインが後を追うように高度を下げていく。 さらに足元で過剰放電させ、イオンクラフトを利用して高度調整。 ゆっくりと地面に降りたったところでレールを形成し、自らをリニアモーターカーに仕立て上げながら加速する。

「鬼さんこちらぁぁってか?」

 その様を視界から逃さないようにしながら、マタドールよろしくヴィータはヒラリと避けた。 紅いそのバリアジャケットが、まるでマントのようにははためいては闘牛<トレイン>を挑発する。 来ると分かっていれさえいれば、ヴィータにとっては避けるのは難しくないらしい。 ただ、それにはある程度の勘の良さが必要だ。 目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく弾丸を前に、培ってきた膨大な戦闘経験を武器に避けていく。 トレインはそのまま一直線に突き進み、進行ルート上にいたマリオネットを次々と吹き飛ばしていった。

「オラオラ、しっかり狙えよこのタコ!!」

 欠点その一。 その速度故にそうそう簡単には止められないしウィングロードのような自由度が無いせいで酷く単調だ。 トレイン自身の方向転換技術は決して低くは無いが、それでもヴィータのような経験豊富な魔導師には軌道を容易く読まれるだろう。 クライドならばもしかしたら轢かれていたかもしれない。 生前トラックに轢かれた彼がトレインと相対しなかったのは幸運である。

 トレインを視界に原則捉えたまま、次のマリオネットに突っ込むヴィータ。 面倒くさい連中もまとめて片付けさせようというのだろう。 アイゼンのテートリヒシュラークによって、マリオネットが次々と吹き飛んでいく。 そして、それに混ざる白金色の弾丸列車。 味方であるマリオネットを全く意に返さないトレインのせいで、周囲のマリオネットはタジタジだ。 さらに、彼が縦横無尽に動きすぎることで、マリオネットが射線に彼を巻き込まないようにすることが酷く難しい。 マリオネット自身は彼を巻き込まないようにするのに、苦労しているのだろう。 そこを、ヴィータは容赦なくついていく。 

「おいおい、俺は闘牛じゃないんだZE!!」

「おら、間抜け!! 次はこっちだぞ!!」

 かなりの全長を誇るフリーフォールの遊具。 その真下に位置する位置のマリオネットを吹き飛ばしたヴィータが、さらに挑発する。 何を狙っているかなど一目瞭然だったが、トレインはそのままその誘いに乗ってやった。 その程度の小細工に意味は無い。 彼の攻防一体の攻撃の前には鉄骨だろうがコンクリートの壁だろうが無意味だからだ。

 闘牛が突っ込み、少女のマント<紅のバリアジャケット>目掛けて突っ込んでいく。 周辺を巻き込むようにさらにシールドの展開領域を広げ、ヴィータを弾き飛ばそうと小細工をしていたが、ヴィータはそれさえも紙一重で避ける。 と、轟音を立ててフリーフォールの遊具に突っ込むトレイン。 頑丈な鉄骨や機材で作られたその鋼鉄の壁をそのまま無傷で突き抜ける。

「……あの野郎、何の抵抗もなく突っ込みやがった。 随分と潔いーなぁオイ」

 生前趣味に行っていた廃棄区画のビル崩し。 それを娯楽としていた彼にとって、その程度の壁など全く無意味である。 お子様の可愛い発想を笑い飛ばしながら、方向転換。 そして加速。 急激なGを特殊な術式のバリアジャケットで遮断しながら、再び弾丸となる。 その後ろで、高く伸び立っていたフリーフォールの遊具が、根元をぶち抜かれたせいで倒れていった。

 地面を揺るがす衝撃が、地響きを奏でながらデスティニーランドを襲う。 その轟音を心地よいBGMにしながら、さらに駆けるトレイン。 活きの良い獲物を狙うその目には、もうヴィータの姿しか映っていない。 楽しい楽しい追いかけっこはまだまだ継続中なのである。

「ヘイ、ハンマーガール!! どこまで俺から逃げられる? いつまで俺から逃げられる? 楽しいねぇ、楽しいねぇ。 イヤハァァァァァ!!」

「決まってんだろ、アタシにアンタがぶっ飛ばされるまでさ!!」

 次のマリオネットを吹き飛ばしていたヴィータが、アイゼンでマリオネットをトレインに向かって吹き飛ばす。 だが、そんなことに意味は無い。 全く軌道を変えずに突っ込むトレインによって、マリオネットが爆砕する。 勿論、ヴィータはそんなものが効くとは思っていない。 フリーフォールの分厚い壁を真正面からぶち抜くような奴が、二メートル少々の鋼鉄の人形如きに負けるはずが無い。 こんなはただの挑発だ。 本命を決めるまでのタイミングを計っているだけに過ぎない。 感覚と距離感。 まずはこれを掴まなければ話にならない。 ジャストミートで決めてやる。 そうヴィータは考えていた。

 そのまま数度それを繰り返し、ついでに邪魔になりそうなマリオネットたちを叩き潰していく。 どうやらマリオネットを送り込んでくる召喚師も、ヴィータとトレインの二人に壊されていく現状に、次のマリオネットを送り込むことを諦めてきているようだ。 召喚してもすぐに破壊されるのだから、その判断は正しいだろう。 十分に彼だけでも足を止められると判断していた。 別の方面への援護もしなければならない。 このまま膠着に陥るというのなら、手を出す必要も無い。

「ようやく見晴らしがよくなったな。 さぁて、じゃあそろそろ決めるとすっか」

 マリオネットの残骸とフリーフォールの残骸。 それらが飛び散った戦場で呟くと、性懲りも無く飛び込んでくる闘牛をやり過ごし、空中へと舞い上がる。

「アイゼン、ギガントフォルム!!」

 ヴィータの言葉に従って、アイゼンが再びカートリッジを飲み込む。 今度は同時に三発。 装弾しているカートリッジ全てを使用する。 と、爆発的に魔力を底上げしたままグラーフアイゼンのハンマー部分が変形する。 今度は通常のハンマーフォルムよりもさらに威力を誇る形態だ。 ハンマー部分がヴィータの身の丈ほどもありそうな重厚なそれに変わる。 正に一撃必殺を見た目からしてアピールしていた。

 それを見て、トレインは笑う。 元々彼の武器は一点突破だ。 この勝負はどちらが相手の攻撃を抜くかで勝負が決まる。 正に正真正銘のパワーゲームに他ならない。 勝つのはより”強力”な魔法を所持する人間であるという話なのだ。 これほどシンプルで分かりやすい話は無い。 今までよりも大幅に距離を取ると、バッターボックスで構えるバッター<ヴィータ>に向かって飛び込んでいく。 気分は投手が投げるボールのそれであった。 だが、それだけで済ます気は無い。 向こうの切り札をぶち抜く魔球で、それを成して見せる。 次元航行艦の外壁でさえ貫通させられるほどの威力を持ったそれを用いて、彼は突貫を開始した。 レールウェイを走るリニアブーツの電磁力制御機構が、最大出力にまで到る。 その速度は今までの比ではない。 だが、それだけではすまさない。 そこから更に”スターダストフォール”の魔法を起動し常識を超えた速度で空間を奔った。 さらにご機嫌な咆哮を上げながら突貫していく。

「イヤァァァァァハァァァァァァァ!!!!」

「上等だ!! 轟天爆砕!!」 

 ヴィータが振るうアイゼンが、二段加速の魔球に挑む。 鉄槌の騎士ヴィータの誇る最強のその魔法は、小回りが利かない上に隙も大きくなるが、その分破壊力は凄まじい。 今デスティニーランドを覆っている結界さえぶち抜けるほどの威力を持つ切り札であり彼女の持つ最強のカードである。

「ギガントシュラァァァク!!!!」

「ぬぅぉぉぉりゃぁぁぁ!!!!」

 二人の気合が戦場に伝播する。 一瞬にして距離を詰めた圧倒的な速度を誇るトレインの突貫魔法と、ヴィータの誇る『巨人族の一撃』の名を冠する打撃がその瞬間に想像を絶する衝突となって両者の身体に反動を返す。 ジャストミート。 ヴィータのスイングは真芯でトレインを捉えていた。

「ぶちぬけぇぇぇぇぇ!!」

「打ちぬけぇぇぇぇ!!」

――だが、どれほど強力な衝突であったとしても両者共に後退は無い。

 一歩でも後ろに引いた瞬間に、全ての反動が自分自身に返ってくることを理解しているからだ。 この競り合いで負けたほうが敗北する。 それがこの戦いでのルールである。

 弱点その二。 彼はどうやっても真正面から攻撃することしかない。 それは致命的な欠陥であるとヴィータは思う。 驚異的なのは圧倒的な加速力とそのシールドの堅さだが、もし仮にそれを真正面からぶち抜ける相手と相対した場合には、彼は絶対に勝てない。 つまりは彼がそれしかできないというのであれば、同じく真正面からの一点突破が得意な”ヴィータ”との相性は最悪である。

 破壊力特化のギガントシュラークはそんじょそこらのシールドで防ぎきることなどできはしない。 ましてや、カートリッジを三発用いて魔力を底上げしたヴィータに、サポートデバイスを用いてシールドを強化しているとはいえ、”その程度”の強化魔法では太刀打ちできない。 元々の破壊力が違いすぎるのである。 仮に打ち勝つとするならば、その速度を利用してグラーフアイゼンを押しのけるほどの加速力が無ければならない。 だが、彼はこうして競り合ってしまっている。 それでは、競り合い続けて加速力を失った後にパワーが絶望的に足りない。

「このまま月まで吹き飛べアフロ野郎!! 月のウサギが歓迎してくれるぜ!!」

「し、信じられないZE!? この俺の速さが……負ける!?」

 徐々に、アイゼンが彼を押しのけていく。 明らかなパワー負けが、ここにきてその天秤を一気に鉄槌の騎士に傾けた。

「うらぁぁぁぁぁ!!」

 全身の魔力という魔力をアイゼンに込め、ヴィータが最後の一押しとばかりに咆哮を上げた。 その瞬間、シールドを破壊されたトレインに向かってアイゼンの鉄槌が唸りを上げる。 バリアジャケットなどでは到底防げないその馬鹿げた威力に、トレインの身体が一瞬で破壊されて魔力に還元されていく。 白金色の魔力の霧となって、消えていくトレイン。 その目に最後に映っていたのは、クレイジーな少女の勝ち誇った笑みであった。

「へっ、アタシとアイゼンに真正面から挑んできたことは褒めてやるけどな。 まだまだアタシを出し抜くだけの速さが足りなかったみてーだぜ。 あと十年は修行してから出直してきな」

 名前も知らない最速の魔導師。 不自然に魔力の霧となって消えていくその残滓に向かって言うと、ヴィータはアイゼンの形態を元に戻し、カートリッジを取り替える。

 彼女にとって、別に彼らが魔力体であったとしてもそんなことは別に気にするようなことではなかった。 何故なら、”彼女たち”のような魔法プログラム体であったという程度では別に驚くような理由にはならないからだ。 自分たちのことを”良く理解している”彼女にとっては、リビングデッドであったとしても自分と同じような魔法プログラムが実体顕現していたものであるという程度の認識で十分なのである。 そんなロストロギアが夜天の魔道書以外にも別にあることを彼女は”識っている”のだから。

「さて、少し遅くなっちまったけど……あいつ大丈夫かな?」

 シャマルたちの飛んでいった方角へと飛翔しながら、少女は思う。 特に一番心配なのは自分たちの主である少年だ。 ザフィーラやシャマル、そしてシグナムの心配などするだけ無駄である。 シャマルとザフィーラは二人揃って行動しているし、シグナムはそもそも負ける姿というのが簡単には想像できない。

「大丈夫かなクライド。 あいつよえーからなぁ……」

 あのセンスの無い主のことを思い出しながら、鉄槌の騎士は合流を急ぐ。 普段は割と主<クライド>にキツイ感じの彼女であったが、それでも騎士としても個人的にもあの少年が心配である。 その心には嘘は無い。 一筋の紅い光が空中にその色を刻んでいく。 そのまま鉄槌の少女は最速でデスティニーランドの空を駆けていった。
コメント
なんかディーゼルとリンディの仲がどんな形にしろ進んでいるようですね。
自分としては、エイヤルとリンディが恋愛関係になってほしいので、今の展開はやばいですね。

夜天の書ではなくアギト目的でしたか。
でも今回の事で、シグナム達の事も知られてしまうと思うので、エイヤルはどうするんでしょう。

次回も楽しみにしています。
【2008/06/07 22:06】 | ZO #mQop/nM. | [edit]
やっぱり、偽執務官でしたか。
しかし、トレインの語尾には笑えました。
ちなみに最初、「イヤハァァァァァ!!!!」という叫びを見たとき、某暗黒神話の風の神召喚かと思ってビビりました。

次回も楽しみに待っています
【2008/06/07 23:14】 | ddd #jtw.gl9w | [edit]
 意外と楽しんでいたディーゼル君にあんまりな仕打ちだな
 そしてヴィータに弱い弱い言われまくるわれらがエイヤル
 ”クライド”の名は疫病神に愛されてるようだ (=w=
(全員じゃなくヴィータだけだったは弱いっていってるの…
【2008/06/07 23:26】 | tomo #SFo5/nok | [edit]
初感想です、以後お見知り置きを。
面白です、更新速度も高いまま…すごいです^^

あぁ…駄目だ、トレインの容姿・行動・発言がすべて自動的にストレイト・クーガーに変換されてしまう…ッ!?
速さは質量に勝てないのか?いやいやそんなことはない速さを一点に集中させて突破すればどんな分厚い塊であろうと 砕け散る!
今回出てきたトレインはまさに『速さが足りない!』でしたねw

次回も楽しみにしてます。
【2008/06/08 00:20】 | もぶ #mQop/nM. | [edit]
リリなのでは、魔導師暦半年のなのはと実戦経験がなのはだけのフェイトの2人と互角で、ロストロギア指定なのに以外と強くなかったヴォルケンリッターの方々が、めちゃんこ強いですな。

なのは、フェイトとは当時魔力値は互角だったとしても実戦経験に雲泥の差があったはずなのに、彼女らのデバイスがカートリッジ搭載して武器が互角になったとたん劣勢になった方々とは思えん。自分は騎士達が強い方が好きですが。

逆に言えば、それだけ白い魔王と金色の魔王は強かったとも思えるわけで…オソロシッ

なにはともあれ、強いヴォルケンリッター、へたれクライドの対比は歓迎なので、次回更新楽しみにしてます。
【2008/06/08 00:55】 | たたたん #JalddpaA | [edit]
やはり狙いはアギトでしたかー。
まぁ結局夜天の魔導書が稼動しているのはバレましたが。
そりゃ相手が相手だから映像が行った時点でそうなるのは分かってましたけど。

んー、もしやクライド君が弄ってしまった為に後のカートリッジジャンキーが生まれてしまったのかしらん。
  Please load cartridge, please! please!! pleeeeease!!!
   ↓
  これがわたしの(ry
ああ、どう見てもマスターにも責任がありますねわかります。
抜き打ちでチャージしたディエチに勝つとかそりゃ人間か疑わしいよってか冥王でしたね。

しかし、ディーゼル君が普通にいい人な為に受け付けない自分は捻てるのか……?
これでクライド・ハーヴェイとか出てきたら流石に笑うw まぁそんな人物は多分都築氏の頭の中にも居ないだろうけれど
【2008/06/08 02:43】 | 無何有 #pYrWfDco | [edit]
口の悪いヴィータのたまに見せる気遣いにやられそうですw
相変わらず違和感ないですねぇ、オリキャラさん達。ってかキャラが面白すぎる。アフロとかもうツボですw

今回もすごく楽しませていただきました。
ワクワクしながら次回を待つとします。
【2008/06/08 05:52】 | NIKKA #TY.N/4k. | [edit]
とてつもなく面白い展開になってきましたねw

いろんな所でバトルが発生してるようですし、デスティニーランドってかなりの大きさなんでしょうね。
守護騎士たちも活躍して、楽しかったです。

次回も期待大です!

にしても、詐欺とか何処でも流行ってるんですね・・・w
【2008/06/08 13:21】 | リアン #- | [edit]
お前に足りない物、それは! 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりもー! ――――速さが足りない!!

というよりも、アフロなんて風の抵抗モロに受けそうな髪型している時点でトレインさんもうダメポ(・ω・)
【2008/06/08 19:40】 | ・人・ #mQop/nM. | [edit]
ふと思ったのですがリンディが20歳のときにクロノを生んだとするとこの時期って無印の25~6年前ですよね・・・
そうならばプレシアさんの登場を期待してみる。そしてアリシアと絡んでペドの称号を手に入れるクライド!!
【2008/06/09 08:25】 | ロビナ #JalddpaA | [edit]
初めまして向日葵と申します。
憑依奮闘記一気に読ませて頂きました。
イヤー是非ともクライド君には頑張ってディーゼル執務官を破って頂きリンディとくっ付いてほしいと妄想致します。
暑い季節に成りますが体調等お気を付け下さい、それでは失礼します
【2008/06/09 16:29】 | 向日葵 #WGv/JGO2 | [edit]
二人のクライドの対比が面白いです。
ヴォルケンリッターもいい味出ていますね。

この時代だと、ゼストさんとかメガーヌさんもいるのかな?(ちびっこ?)
楽しみにしていますが、無理はなさらないでくださいね。季節の変わり目ですしね
【2008/06/09 17:58】 | 仙人掌 #mQop/nM. | [edit]
「し、信じられないZE!? この俺の速さが......負ける!?」
このアフロ最高にGJですwww
やっぱりヴィータは強いっすね。というか、私はそのヴィータのギガントシュラークに突っ込んで行ったトレインを誉めたいww
次回は自分のデバイスを渡したチェーンと、グライアスがどんな戦いをするのかメッチャ気になります。


アフロって自毛なのかな……?
【2008/06/09 20:37】 | 牛猫 #PooosTlY | [edit]
ZOさん dddさん tomoさん もぶさん たたたんさん 無何有さん
NIKKAさん リアンさん ・人・さん ロビナさん 向日葵さん 仙人掌さん
牛猫さん どうもコメントありがとうございます^^

ちなみに、書いていませんが勿論トレインのアフロは自毛です。 剛毛なので物凄い風圧でもビクともしませんよ。
体調に気をつけて地味に書いていきたいと思います。 皆さんもどうか体調にはお気をつけください。 私少し前に風邪気味になってたんでw
【2008/06/10 17:14】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]
どーも、全部一気に読ませていただきました。いや、マジで面白かったです。徹夜です。ガチで。

オリキャラ出張り過ぎ? 何を馬鹿な。オリキャラが出張らなくっちゃこの話は面白くないですよ!
つーか、一応は過去話になる訳だからオリキャラいなくちゃ成り立ちません。
そもそも、このSSは非常にオリキャラの完成度が高いです。そのキャラクター性もさることながら、各々がキチンと成長していくさまが書かれています。文句なしです。
つーか、ロリンディ可愛すぎ。この子が将来の嫁さんかと思いつつ別のクライドが出てきたときの驚愕っぷりは半端なかったですけど。
最悪、展開と言うか初期条件はクライドが思っていたのとは違い、完全に同一だったのかもしれませんね。
ディーゼル君がリンディの婿だとすると、ある程度説明で来ちゃいますからwww
つーことは将来、グレアムさんは“息子”と“右腕”を“闇の書のせいで”失うわけで。
それがあの、“正しく”はあるけど、この上なく非道な手段を取らせてしまうキッカケになると。
あー、酷い話だ。自分としては主人公×リンディです。

つーか、家名とか名前はやっぱ車関係ですか?
あんまり自信ないけど、ディーゼルはまんまだし、ジャンクッションはジャンクションだろうし、他にも捩ってあるだけっぽいのが適当に。
まあ、原作もテスタロッサとかチンクとかそれ系なんでそうしてるのかなと。
【2008/06/14 05:20】 | マイマイ #aReeLJcY | [edit]
一気に読ませてもらいました
とても面白いです
自分としてはリンディには主人公とくっついて欲しいです
【2008/06/14 19:33】 | 白いクロ #- | [edit]
お初です。
某サイトからこのサイトを知り、一気に読んでしまいました。
もうっ、こういうノリ大好きです!!

これからも頑張ってください。
【2008/06/14 22:02】 | r931 #- | [edit]
某所で紹介されていたのを知り、拝見しました
や、面白かったです
ヘタレクライド君、周囲の戦闘がどんどん派手になる中
そろそろ強化しないとリーゼ達が言う通り本当に死んでしまいそうです・・・
おそらく本来はディーゼル君がリンディと結ばれ、史実通りの歴史を辿る
予定だったんでしょうね・・・そこで分岐点たるヘタレ君登場、と
続きがとても気になります、これからも拝見させて頂きます
【2008/06/14 23:56】 | rids #- | [edit]
マイマイさん 白いクロさん r931さん  ridsさん
コメントありがとうございます^^

好き勝手やっているので受け付けない人もいると思いますが、楽しんでいただけたのならこちらとしても嬉しいです。


>>家名とか名前はやっぱ車関係ですか?
そうですね、なんかそれっぽいのを何人かは混ぜたりしてます。 ほとんど名前は思いつきが多いのが現状ですけどねw
 
【2008/06/15 10:23】 | トラス・シュタイン #da/Koam6 | [edit]












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